キ84 第四話「かたい、はやい、ものすご~い」中編


~ロマーニャ、501JFW基地ハンガー内部~

俺「搭載量勝負?」

シャーリー「そうさ、どれだけ装備を持って飛べるのか、ってね」

そう言って、M1918A3ブラウニー・オートマチック・ライフル用予備弾倉帯を身につけたシャーリーがP-51を始動させた。

宮藤「そんなにいっぱい持って、飛べるんですかー?」

シャーリー「あたしのP-51は万能ユニットだからな。

      いざとなればどんな状況にだって対応できるんだ」

俺「ま、それでもストライカーじゃ航空機には敵わないでしょうけどね」

武器搭載量は通常航空機のストライカーユニットに対する唯一の絶対的なアドバンテージ。
せいぜい機関砲一基が限界のユニットに対して、俺の疾風ならホ5 20mm機関砲を四門と弾薬で約900kg近い標準搭載装備を運用できる。

ゲルト「待たせたな」

その時後ろから声が聞こえて、宮藤達と振り返って唖然とした。

俺「な、なんだありゃ・・・」

両手にレヌスメタルMk108機関砲を二門ずつ、さらに背中には対戦車砲かと見紛うほど大口径で長大な砲身をもったBK 5機関砲を背負っていた。
実際KwK39戦車砲から改造されたBK 5は本体だけで540kgもの重量がある。
4門のMk108と予備弾薬と合わせれば殆ど俺の四式戦と同等の重量をストライカーユニットで受け止めていることになる。

俺「冗談だろ・・・」


◇ ◇ ◇


ギュゥゥゥゥゥ!

俺「なんてパワーだ・・・」

Me262があれだけの重装備を抱えてもゆっくりと高度を獲得していく。
ハンガーの外に出てシャーリーとバルクホルンが上昇していくのを観察していると、声を掛けられた。

ミーナ「あら、俺さん。今度は参加しないの?」

俺「ええ、まあ。

  ストライカーと航空機じゃ搭載量基準が違いますからね」

ミーナ「それもそうね。

    ・・・ねぇ俺さん、あのジェットストライカーはどうかしら?」

俺「どう、といいますと?」

ミーナ「俺さんなら技術的な事もわかるでしょ。

    その俺さんから見てあのジェットはどう見えるのかしら?」

俺「そうですね・・・」

上空でバルクホルンが緩やかな弧を描いて、模擬標的の阻塞気球に距離を詰める。
Mk108の砲声が遥か上空から俺達の耳に届く頃には、気球の水素引火がはっきりと確認できた。

俺「なにしろ細かいスペックが分かる訳でもありませんし、自分で使ったわけじゃありませんが・・・

  見たところアレは完全一撃離脱向けの機体ですね。

  低速域が弱い」

ミーナ「そうね、元々高高度の大型ネウロイ迎撃のために設計されたそうよ」

俺「なるほど。

  先ほどからバルクホルン大尉の機動を見ていると、かなり曲げにくいように見えます。

  もしも『同じ速度を出せるネウロイ』に食いつかれたら―――振り切るのは難しいでしょう」

ミーナ「そうかしら、ね・・・」

俺「武装も大口径ではありますが、初速が遅いのか低伸性が低くて弾道が『落ち』ますね。

  全体的に考えて、相当扱いが難しい機体だと思います」

ミーナ「それだけかしら?」

俺「それだけ・・・ですが」

ミーナ「そう、ならいいのだけど・・・」

ミーナは何故か不安そうにMe262がロマーニャの空に描く軌跡を見上げた。

俺「・・・?」

◇ ◇ ◇


~数時間後、ハンガー~

芳佳「夕食は肉じゃがですよぉー」

ハンガーのテーブルを食卓代わりに、宮藤とリーネがフィールドキッチンで作った肉じゃがを振舞う。
皆が集まって食事をしている中、俺とバルクホルンの席だけが空いている。

宮藤「あれ、俺さん食べないんですか?」

俺「自分は整備を終わらせてから後で食べます」

宮藤「いいですけど冷めちゃいますよ?」

俺「大丈夫ですよ。それよりもコイツを掃除しないと」

そう言って俺は外してあるエンジンカウルの下のフレームに潜り込んだ。

宮藤「あの、バルクホルンさんもお疲れじゃないですか?」

ゲルト「ああ・・・そこに・・・置いといてくれ。

    今は、少し休みたいんだ・・・」

バルクホルンが疲れきった顔で宮藤に返答した。

宮藤「・・・」


◇ ◇ ◇


~数十分後~

ガチャン

吸排気系を中心に軽く点検と清掃を終えた俺が元通りにエンジンカウルを嵌め直した。
最後に不完全燃焼のバックファイヤで生じた排気管とその周りのボディの煤を腰の手拭いで拭きとって、満足気に息を付いた。

俺「・・・よし、と」

ハンガー隅の簡易流し場で水道替わりのドラム缶の蛇口をひねって手についたオイルやグリス、煤を洗い流した。
首に掛けたタオルで手を拭きつつさっきまで皆が食卓にしていたテーブルの方を見やると、まだ人影が残っていた。
近づいてみるとバルクホルンがストライカーユニット発進システムに腰掛けて船を漕いでいるところだった。

机の上には手の付けられてない夕食が二膳。
それを手にとって俺もバルクホルンの横に座り込む。

俺「大尉?」

ゲルト「ん・・・あぁ、俺中尉か。・・・どうした?」

俺「夕食、そろそろ食べませんか?」

そう言って俺はバルクホルンの分の肉じゃがが入った椀を差し出した。

ゲルト「いや・・・今は・・・・」

俺「少しでも食べたほうがいいですよ、大尉」

俺は半ば強引に肉じゃがをバルクホルンに押し付けた。

ゲルト「・・・そうか」

受け取ったバルクホルンが少しずつ口に運び始めたのを見届けると、俺も肉じゃがを食べ始めた。
やや大ぶりなじゃがいもにフォークを突き刺し、齧りつく。
冷めてしまっているが、ともすればパサパサする芋の中までしっかりと醤油と鰹節ベースの出汁が染み込んでいて柔らかい。

二人とも無言で肉じゃがを食べる。
食器とフォークが触れ合うカチャカチャという音だけがハンガーに響く。

俺「―――バルクホルン大尉」

しばらくして俺が沈黙を破った。

ゲルト「何だ?」

俺「あのジェットストライカー、どう思います?」

ゲルト「あれは素晴らしい。

    速度、武装、高高度性能、全てに於いてこれからの空中戦を塗り替える。

    この戦争の戦局すら変えてしまうだろう」

俺「そこまでの性能がある、と?」

ゲルト「間違いない、これこそ次世代のストライカーだ!」

そう言ってバルクホルンが顔を上げて俺と視線を合わせた。

疲労からか目の下に深く刻まれた隈。
だがその目はぎらりと怪しげな光が揺らめいている。
俺はこの目を知っていた。

『憑かれた』人間の目だ。
南洋島の新京で見かけた借金塗れの博打打ち。
大陸の浦塩にいた戦闘中毒の若い少尉。
福生の航空審査部で未だ飛ぶことに執念を燃やしていた元ウィッチ。
皆何かに魅了されて歯止めが利かなくなる寸前の人間の目。
そしてそのうち皆―――。

俺「・・・そうは見えませんでしたけどね」

ゲルト「何?」

俺「大した性能には見えませんでしたよ、ジェットはね」

ゲルト「貴様、正気か?」

俺「ジェットだって万能じゃない。

  あれなら俺にだって落とせますよ」

ゲルト「ただの航空機でジェットストライカーに勝てるだと?

    ふざけるのもいいかげんに―――」

俺「何なら試してみますか?」

ゲルト「はっ、そんなもの話にならない」

俺「おや?

  まさか怖気付きましたか、大尉。

  もしかしたら負けるかもしれないと?」

ゲルト「そんな訳が無いだろう!

    ふん、私も舐められたものだな。

    いいだろう、明日模擬戦でジェットの性能を証明してやろうじゃないか」

俺「出来るのなら見せてもらいましょう、大尉」

ゲルト「ふん、楽しみにしていることだな」

捨て台詞を投げつけて、バルクホルンはハンガーを後にした。
だがその足取りが覚束無いのは俺の目にも明白だった。

俺(うまく引っ掛った・・・か。

  幾ら冷静さを欠いているとはいえ相手はあのバルクホルン大尉・・・勝てるか?

  いや、勝てなくてもいい。

  現状を認識させられれば・・・それでいい)


◇ ◇ ◇


~翌日、基地上空~

バルクホルンと俺が離れた位置で旋回して飛んでいる。

俺《ルールは同位反向戦、高度3000から開始でいいですか、大尉?》

ゲルト《同位戦だと?

    本来ならそっちが優位で始めるべきだろう。

    やはり私を舐めているのか、中尉》

俺《まさか。

  武装の差を考慮しただけです。

  訓練用のMG42だけじゃ随分火力が減ってしまうでしょう?》

本来の専用武装である30mm機関砲と50mmカノン砲には模擬弾薬が用意されていないので、バルクホルンが手にするのはいつものMG42が二挺だ。
俺の四式戦闘機も胴体砲を普段のホ5二十粍機関砲から、訓練用模擬弾の使用できる一式十二・七粍固定機関砲に換装していた。

ゲルト《フン、随分と吹くじゃないか、俺中尉。

    いいだろう、同位戦だ》

俺《判定をお願いします、坂本少佐》

坂本《分かった。

   では、始めっ!》

他のメンバーが見守る中、坂本の合図と同時に両者がヘッドオンで距離を詰める。

ゲルト《行くぞ、俺中尉!》

俺《ジェットの実力、見せてもらいましょう、大尉!》

ゴゥッ!

互いに相手を視界の右端に捉え、すれ違った。

俺(・・・やれるか?

  いや、俺がやるしかねぇ、か)

肩越しに振り返ってバルクホルンが上昇に入ったのを確認。
インメルマンターンで180度反転して追随する。
スロットルを押しこんでWEPに入れる。
即座に反応したエンジンが戦闘態勢に入った。

コォォォォォォ

二段目に設定した過給器の吸気音が高まり、機体が駆け上がる。
出力特性的に加速性の悪いMe262が少しずつ近づいてきた。
通常型より拡大された疾風の四翅プロペラが空気を掻き、機体を加速させていく。

俺(Me262はあのデカブツエンジンのせいで重い。

  旋回戦に持ち込めばハチヨンの敵じゃねぇ・・・

  問題は・・・バルクホルン大尉が乗って来るか、だ)

常識的に考えればわざわざ自分が不利になる状況に飛び込んでくるはずがない。
なんとか旋回戦に持ち込ませる必要がある。

カチッ、ガガガガガガ!

右手で胴体砲発射柄を押しこみ、照準内の機影に12.7mm弾を送り込む。
が、一瞬先にバルクホルンが体を捻り右へ離脱。

俺「外したか、弾が伸びるな」

ラダーペダルを踏んで機首を右へ。
同時に機体をロールさせて照準を修正。

ガガッガガッガガッ!

普段との弾道のズレを修正しつつ短連射を加える。

ゲルト《どうした、俺中尉!

    その程度じゃ当たらないぞ!》

幾ら巴戦の苦手なジェットとはいえそこはストライカーユニット。
そうやすやすと当たるはずもなく、華麗なロールで右へ左へ火線を逃れていく。

俺《まだまだ小手調べです、大尉》

ゴァッ!

バルクホルンが姿勢を起し、さらに上昇する。
通り過ぎた俺はインメルマンターンを途中で止めて120度ほどの上昇角で背面上昇。

俺「ちっ、離された。

  一旦速度が乗れば、さすがはジェットの上昇力って所か」

赤い機影が機銃の射程外に逃れた。
そのまま上昇しても差は広がるばかりだ。

グッ

ロールして上昇コースから離脱、水平飛行に移って相手の動きを見る。

ゲルト《もう諦めたか、俺中尉?!》

上昇姿勢から反転、俺に狙いを定めてバルクホルンが降下してくる。

ダラララララ!!

右上方からバルクホルンが二挺のMG42で俺に弾丸を放つ。

ギュッ

操縦桿を脚で挟みこみ、左へ90度ロール。
重い四式戦のエルロンを力任せに振り回す。
そのまま思いっきり操縦桿を引きこんで左に離脱。

俺「っぶねぇ!」

ギュォォォ!!

ニ基のジェットエンジンが大気中のエーテルを貪る音を響かせ、俺の横を駆け抜けた。


◇  ◇  ◇


宮藤「バルクホルンさん速い!」

エーリカ「でも俺も上手くかわしてるね」

シャーリー「ひぇー、相変わらずアクロバチックな飛び方だなー」

坂本「全く、危なっかしい飛び方だ。

   あれじゃ何時か当たるぞ」

エイラ「ナァ少佐、そもそもなんであの二人が模擬戦なんかヤッテルンダ?」

坂本「実は私にも良く分からん。

   今朝急にバルクホルンが来て模擬戦の許可をな・・・

   なんでも俺中尉の方から挑戦してきたらしい」

シャーリー「俺の方からねぇ・・・ふぅん・・・」

坂本「どうした、シャーリー?」

シャーリー「いや・・・なんでもないよ、少佐」

坂本「・・・?」

シャーリー(あの二人・・・)


◇  ◇  ◇


俺に連射を浴びせて通り過ぎたバルクホルンは、やや高度を下げた状態から再び上昇に転じる。

俺「一撃離脱・・・

  そう簡単には遊んでくれねーか」

目の前距離約2000をゆっくりと上昇していくバルクホルン。

俺「じゃあこっちから追いかけさせてもらうぜ。

  行くぜ、ブーストだ」

カチッ

赤い噴射ボタンを押す。

グッ!

急激な加速で体が薄い鉄板のシートに押し付けられる。
高高度ほどでは無いが、それでも大きな出力増加が感じ取れる。
グングンと加速し、少しずつ上昇中のバルクホルンが近づく。
機銃の射程まで後200弱―――

ゲルト《思ったより速度は出るみたいだな。

    付いてこれるか、俺中尉?》

言うが早いが緩やかなシザーズ機動に移るバルクホルン。
さらにバレルロールも加えた三次元的な機動で俺を振り切ろうとする。
しかも速度はそのままで。

俺「・・・くっ!

  速いっ!!」

カチカチカチ

GM-2ブースターの噴射量を100g/secから120g/secに増やす。

俺「だけど追いつけない訳じゃない!」

操縦桿を倒して緩降下。
降下状態で速度を稼ぐ。

ゲルト(ローGヨーヨーで追いつく気か。

    だがそうはさせん!)

バルクホルンが機首を起こして急上昇。

俺「くそっ、読まれたか!」

そのまま宙返りから俺の頭上に急降下。
MG42が再び火を吹く。
弾の航跡が翼を掠める。

俺「またかっ!!」

即座に左ロールで反転、疾風をダイブさせる。

ゲルト《逃がさんっ!》

バルクホルンが今度は通り過ぎずに俺の後ろに食いついた。

俺(よし、掛かった!)

機体を引き起こして水平に。
フラップを下げて機体を揺する。

グァン

一気に空気抵抗を増した疾風が速度を失い、バルクホルンのオーバーシュートを誘う。

俺「来たっ!」

ガガガッ!

バルクホルンの後ろ姿を照準器に捉えた一瞬に機銃を放つ。
だが火線は宙を穿った。
バルクホルンが即座に加速して再び上昇に入ったのだ。
流石は人類第二位のグレートエース。
不慣れな機体にもかかわらず素早い判断だ。

俺「逃げられたか・・・」

ゲルト《もう・・・一度だっ・・・》

三度、バルクホルンが降下してくる。

ゲルト《ハァハァ・・・もらった!》

ダラララララ!

MG42の銃火が尾翼に迫る。

俺「乗るか・・・?」

機首を引き上げ、左に旋回。
ハイGヨーヨーで一気に速度を落としつつ旋回戦に持ち込む算段だ。

俺「来い来い・・・」

背中越しに振り返ってバルクホルンが旋回に入るのを待つ。
だが、その手には乗らず加速して離脱していってしまった。
失敗だ。

俺「畜生、そう上手くはいかねぇか」

しかし、幾ら俺が機動に自身があるとはいえ所詮はただの航空兵。
この時点で未だに落とされていないということは―――

俺「やはりあのジェットには問題アリ、って事か」

ゲルト「ハァ・・・ハァ・・・」

バルクホルンの息が上がっている。

機体の特性上元々格闘戦が不得意とはいえ、明らかに必要以上にGの掛かる機動を避けている。
つまり―――

Me262V1は必要以上に使用者に負担を強いるのだ。
長時間の戦闘に於いては著しく使用者の体力及び魔力を消費させる。
俺にも正確には分からなかったが、何かおかしい事は感じ取れていた。
昨日のバルクホルンが脳裏に過る。
あの目付き、憑かれた人の目。もう繰り返したくはない。

俺「幾ら世界第二位のウィッチだろうが、ここで俺が落としてみせる。

  あのジェットに嵌り過ぎるもんじゃねぇって、眼を覚まさせてやる。

  世界第二位のエースだろうが、もう女が危ない目に会ってるのなんか見たくはねぇんだ!」

バルクホルンが急上昇に入る。
追随して俺も疾風の機首を持ち上げる。

俺「逃がすかっ!」

ギュォォォォ

Me262が双発のジェットで駆け上がる。

俺「行け、疾風!

  食いつけ!!」

四式戦が空気を掴み、昇る。
小径プロペラで加速に優れる四式戦がMe262と並ぶ。
二機の翼端が曳く白雲が蒼空に絡み合い螺旋を描く。

俺「昇れ!昇れ!」

雲を下に見るほど高く登った二機の内、先に上昇限界に達したのは四式だった。
ふわり、と一瞬空中に静止した後落下を始めた。

俺「くっ、後ろに付かれる!」

失速した俺の後ろにバルクホルンが降下して来る。
ここで撃たれれば避けられない。
だが―――

俺「ん?」

バルクホルンは撃たなかった。
それどころか銃を構えようとすらしない。

俺「なんだ?」

そのまま急降下するバルクホルン。
俺も合わせてダイブ。
二機が恐ろしい速度で海面を目指して矢のように下る。

俺「急降下勝負か!」

ギュィィィィィィ――――

ジェットの怪鳥が雄叫びを上げ降下する。
俺の疾風も重力に曳かれて地を目指す。
先にブレイクした方が後ろを取られるチキンレース。
必要なのは度胸だ。

俺「は、速い!」

スロットルで速度を調整しつつぴったりとバルクホルンに付ける俺。
機体の限界速度に近づき、防弾窓がビリビリと震える。
翼が歪んで軋み、骨組みが悲鳴を上げる。

ボウっ

雲の海を突き抜け、本物の海が見え始める。
青い海面がぐんぐんと近づいてくる。
心臓が早鐘の様に鼓動し、アドレナリンを血中に乗せて脳に送る。
機体が揺れて翼が暴れる。

俺「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

高度計がとんでもない早さで回る。
しかしバルクホルンは尚も減速しない。
ジワリ、と手から滲んだ汗が手袋に滲み込む。
風防の角から白い雲が伸びる。

俺「まだだ、もう少し・・・!」

速度計、高度計、そして眼前の海面を交互に見やる。
舌が乾いて口蓋に貼りつく。
最早ジェットストライカーもウィッチも関係無くなっていた。
ただ勝ちたい。
この勝負を楽しみたい。
俺はコンバット・ハイに陥っていた。

俺「まだ・・・行ける・・・」

ギリギリまで粘る。
―――が、

俺「くそっ!」

限界を感じた俺が操縦桿を引いた。
機体が水平を向いて一気に減速する。
海面まで100mも無い。俺の負けだ。

俺(・・・やられるっ!)

即座に後ろに振り返って、身を起こしたバルクホルンが俺を狙い撃つのを探した。
が、それは見当たらなかった。

俺「・・・え?」

ドォ―――ン!!

代わりに、轟音が響き水柱が上がった。

俺(まさかっ?!)

目の前の光景を信じられず、俺は無線機を送信した。

俺《大尉!バルクホルン大尉?!》

坂本《どうした、俺中尉!

   バルクホルンに何が起きた!

   その水柱は何だ!

   俺中尉!応答しろ!》

無線機から飛び込んでくる坂本からの通信が遠く聞こえた。

俺「―――なんてこった・・・」

唖然としてつぶやく他無かった。


―――第四話後編に続く
最終更新:2013年01月28日 13:07