チリ車の俺 第一話「Hard Landing」
俺「―――暑い・・・」
ここアフリカは例え一年の半分を過ぎた今でも強烈な日差しが照りつける。
数ヶ月の航海の末ようやく船から降りたばかりの俺にはなおさらキツかった。
アレキサンドリア―――現在のアフリカにおける最前線たるカイロまで最も近く且つ大きな港湾都市。
扶桑からはるばるリベリオン経由で地球を半周以上してようやくたどり着いた。
俺「ネウロイさえいなきゃインド洋周りで来れるんだけどなぁ・・・
それにしても何だってこんな地の果てに・・・
さて、そろそろ行かないとな」
丁度荷揚げされたばかりの九四式六輪自動貨車、扶桑皇国陸軍制式採用の輸送トラックに乗り込む。
俺「どっこいしょっと。
んーと、カイロは・・・どっちだ?」
困ったことに道が分からない。とりあえず聞いてみることにしよう。
俺「あー、すいませーん!」
とりあえず手近に居たブリタニア兵に声をかける。
ブリ兵「なんですかー!?」
こちらに気がついてブリタニア軍の皿型ヘルメットを直しつつ近づいてきた。
俺「あ、どうも。ちょっとカイロの方まで行きたいんですけど道を教えてもらえませんかね?」
ブリ兵「カイロですか、ここからしばらく南下していくんですが・・・
あのー・・・もし良かったら乗せてもらえません?道案内はしますよ」
俺「ええ、いいですよ」
ブリ兵「助かったぁー。いや、どうもここまで上官を送ってきたら車を乗り逃げされちゃいましてね。
いやー、参った参った。
あ、そうだ。僕ガードナーっていいます。ブリタニア陸軍、上等兵であります!」
そう言ってトラックの助手席に乗り込みながらガードナーはいたずらっぽく敬礼してみせた。
まだ年端も行かぬ青年だ。俺と大して年齢も変わらないだろう。
俺「俺中尉です、扶桑皇国陸軍ですね」
ガードナー「はー、中尉さんでいらっしゃいましたか。
これはとんだ失礼を」
俺「気にしないでくださいよ。道を聞いたのは俺ですから」
ガードナー「えーと、カイロはここを真っ直ぐ言った道を暫く南ですね。
それにしても扶桑からよくこんな所まで・・・大変ですねぇ」
俺「いえ、任務ですからねー」
俺はトラックを発進させてカイロの大通りに出た。流石最前線手前の補給拠点だけあって大量の軍用車が往来している。
埃っぽい空気が開け放った窓から入ってきて俺の喉が刺激された。
たまらず首にまいたスカーフを引っ張り上げて口元を覆い隠した。
ガードナー「そう言えばカイロには何の御用で?」
俺「ゴホッ、実はあそこの―――第31統合戦闘飛行隊、でしたっけ?―――そこの陸戦部隊に配属になっちゃいましてねぇ。
正直どうしたものか・・・」
ガードナー「はぁー、凄いじゃないですか。JFS配属なんて相当なエリートさんなんですねぇ・・・」
俺「いやいや、自分なんて・・・」
気がつけばいつの間にか市街地を抜けて荒野の中を走る一本道に出ていた。
本当に何も無い荒野が目の前に広がる。唯一眼に入るのは申し訳程度の潅木と散らばる戦車や野砲の残骸位だろうか。
数カ月前までここも最前線だったのだ。それを押し返したのはやはりウィッチ達のお陰だろう。
ぼんやりとそんな事を思いつつ、ガードナーの話をBGMに俺は砂漠をひた走った。
―――同時刻、カイロ郊外第31統合戦闘飛行隊仮設基地
加東「扶桑から補充兵ぃ?」
いきなりの報せに驚いて圭子はそのままそっくりオウム返しに聞き返してしまった。
氷野「はい。なんでもまた陸戦ウィッチだそうです」
加東「ああもう・・・足りないのは航空歩兵だっていうのに・・・はぁ・・・」
現状を顧みずに厄介者ばかり押し付けて来る司令部には全く嫌気がさす。
また悩みの種が増えるのかと思うと今から頭痛がするようだ。
加東「で、どんなのが来るのかしら?」
氷野「自分もよくわからないのですが、なんでも第4陸軍技術研究所からだそうで。
陸上ユニットの開発研究所ですな」
加東「なんか変なの送ってくるんじゃないでしょうねー・・・
まったく・・・
で、いつ来るの?」
氷野「今日ですな」
加東「―――それを先に言いなさい!!」
そう叫ぶとスカーフと愛用のライカIIをつかんで怒涛の如く天幕を飛び出していった。
氷野「あ、加東大尉!もう一つ・・・
―――行っちまったか」
ふぅ、と溜息を付いて氷野は略帽をかぶり直した。
まぁ大丈夫かね、と思いつつ早速補充兵の受け入れ態勢を整える為に整備詰所に戻ることにした。
一方圭子は脱兎の如く天幕間を走っていた。
新しいウィッチが来るとなったらまた一悶着あるだろう、到着までに片付けなきゃならないことは山ほどある。
加東「ああもう、この忙しい時にっ!!」
目当ての天幕を正面に捉えると一気にそこまで走った。
出入口の両脇に立つカールスラントとブリタニアの歩哨二人が敬礼した。
圭子も軽い敬礼で返礼した。
出入口で一旦足を止め、そして声をかけた。
加東「失礼します。第32統合戦闘飛行隊隊長加東大尉です」
答えを聞くが早いが圭子はテント内に押し入った。
そこには三人の男たちが座っていた。
砂漠のネズミ、バーナード・ロー・モントゴメリー。
闘将、ジョージ・スミス・パットン。
砂漠の狐、エルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメル。
アフリカ戦線を支える人類連合軍屈指の名将三人だ。
モンティ「なんだね、加東大尉?」
加東「はい、実は本日扶桑から補充ウィッチがひとり赴任することになりました。
陸戦ウィッチだそうです」
パットン「ほお、また『儂の』エンジェルちゃん達が増えるのかね?」
モンティ「何を言っているパットン、ここは機甲戦術の発祥の地であるブリタニアの私が・・・」
ロンメル「いいや、ここアフリカで最も戦果を挙げている我輩が相応しいだろう」
パットン「何だと、どう考えてもてめぇらにウィッチなんぞ預けられるわけが―――」
モンティ「ふん、君よりは随分マシだな」
パットン「言うなモンティ!
こうなったら指揮権を掛けて決っ―――」
パン!パン!
加東「はいはい、そこまでにしてくださいね閣下達。
この間北野軍曹に怒られたばっかりでしょう?
今度の魔女も統合陸戦部隊としてお三方協力して指揮してもらいますからね!」
モンティ「う、うむ・・・」
パットン「分かった・・・」
ロンメル「仕方があるまい・・・」
しぶしぶ自分の席に戻る将軍たち。
全くこのオッサン達は・・・と呆れながらも続ける圭子。
加東「はい、それで新しい魔女が来るにあたって新しい武装やら弾薬が必要になるかもしれません。
その時は閣下達に一仕事してもらいます」
パットン「任せろ!儂がリベリオンから取っておきの武装を調達してやる!」
モンティ「フン、リベリオンのガラクタなぞ使い物にならん。
ここはブリタニアの傑作兵器をだな―――」
ロンメル「何を言う。兵器といえばカールスラントを於いて他に無いだろう」
加東(コイツらさっき言われたことがわかってないのかしら・・・?)
圭子がしびれを切らしかけていたその時、
ヴゥ――――――――――――――――――!!
『警報!警報!セクター32に大型陸戦ネウロイ出現!全航空機動歩兵はスクランブル!陸上装甲歩兵も集結せよ!』
こんな時に・・・!
加東「とにかく頼みましたよ、将軍閣下!」
そのセリフだけ今にも取っ組み合いを始めそうな三将軍に投げつけると滑走路に向かって再び走りだした。
たまに戦線内部でもはぐれネウロイが出るから油断ならない。
もっとも一機程度なら陸上ウィッチを出すまでも無いだろう。
真美のボヨールド40mm機関砲でカタがつくはず。
とにかく自分は指揮官として出撃なければならないので急いでユニット格納テントに向かった。
―――アレクサンドリア~カイロ間街道上、セクター32
地平線から砂煙を上げて一台のトラックがひた走ってくる。
先程の九四式六輪自動貨車だ。
俺「ウワァァァ!!!!」
ガードナー「ギャァァァ!!!!」
なぜ俺達が今悲鳴を上げているのかといえば―――やはり背後にネウロイが追っかけてくるからだろう。
ガードナーと他愛もない話をしつつカイロを目指していたら、偶然大型ネウロイが現れてしまった。
俺「どうすんだよー!!!これー!!!」
ガードナー「とにかく逃げましょう!!」
俺「くっそぉぉぉぉ!!!」
ガァァァァァァァ!!!!
とにかくアクセルを全開にしてなんとか振り切ろうとする。
キシャァァァァッァ!!!!
その間にもネウロイが迫ってきた。
キュゥゥウ、ドン!!
俺「うわー!当たる当たる!!」
ガードナー「避けてくれー!!」
キキィィィ!!!
なんとか避けようと左右に蛇行するが今度はトラックが横転しそうで危ない。
俺「このままじゃやられちまう―――!!!」
ガードナー《こちらセクター32、通行中の輸送車輌!
我ネウロイと遭遇せり!誰か助けてくれー!!》
ガードナーが無線機に怒鳴りこむ。
《・・・ガ・・・ガガ・・・・》
ガードナー「ああ、応答なしだ!!くそっ」
ガツン!
俺「俺たちもうダメだー!!!」
《・・・・・ザザッ・・・諦めるのはまだ早いわよ》
俺・ガードナー「・・・っえ?」
ヒュンッ、ドォン!
頭上を砲弾が通過して追ってきたネウロイの鼻っ柱にブチ当った。
キシャァァァァ!!
ネウロイが怯んで足が止まる。
ガードナーがふと前方を見ると小さな黒点が空に浮かんでいるのを確認できた。
ガードナー「あ、あれは・・・ウィッチだ!
ウィッチが来てくれたぞ!!」
ヴォォォォォ―――!!!
頼もしき航空機動歩兵達が轟音を立てて頭上を通過して行った。
加東「真美、やっちゃって!」
稲垣「了解です!」
加東《ここは私達で抑えるわ!
とりあえずあそこに見えるワジ(涸れ谷)に逃げこんで!》
俺《了解しました!》
ドウッドウッドウッドウッ!
真美の操るボヨールド40mm機関砲がAP弾をネウロイの胴部に叩き込む。
ギャァァァァァァ!!!
確実に当たってはいるのだが装甲が厚くて削る速度が追いつかない。
加東「くっ・・・固いわね・・・
陸戦部隊はまだなの?!」
マイルズ《こちらマイルズ隊。
今向かっているわ。
でももうしばらくは掛かるかも・・・》
加東「マズイわ・・・このままだと・・・」
ちらりとさっきのトラックの方を見やる。
なんとかワジに逃げ込めたようだ。
ヴァァァァァァァァダラララララララララララララ!!!
マルセイユとライーサも先程から急降下で一撃離脱を繰り返すが、MG34の7.92mm弾では殆ど効果がない。
マルセイユ「ケイ!このままじゃジリ貧だ!マイルズ達はまだなのか?」
加東「まだ掛かるわ・・・なんとか持たせないとカイロに被害が及ぶわ」
マルセイユ「それはマズイな・・・ついこの間も市街地まで攻められたばかりだ。
なんとか―――」
一方、トラックのそばではなんとか避難した俺とガードナーが息を整えていた。
俺「はぁはぁはぁ・・・ 助かったぁー」
ガードナー「いやぁ、どうなるかと思いましたねぇ」
ヴアアアアアアアアドウドウドウドウドウバララララララララララ!!!
激しい銃撃と機動音が聞こえる。
俺「だめだ・・・航空ウィッチじゃ火力が足りない・・・
ガードナーさん、ちょっと手伝ってください!」
ガードナー「ええっ?
僕達に出来ることなんか――――」
俺「いいからっ!
そっちをお願いします」
そう言って九四式貨車の荷台カバーを外した。
ガードナー「こ、これは――――!」
ガードナー「ストライカーユニット・・・!」
輸送用クレイドルにパッキングされいたのは紛れもなく一対の歩行脚だった。
俺「ええ、五式中歩行脚。通称チリ車。
扶桑が命運を掛けて開発した対ネウロイ用決戦陸戦型ストライカー」
ガードナー「しかしストライカーだけあっても―――」
俺「―――言ってませんでしたね。
俺、ウィッチ適性があるんですよ」
ガードナー「き、君がかい!?」
俺「まぁ見ててくださいよ」
トラックの荷台に素早く飛び乗ると靴を脱ぎ捨てストライカーに飛び込んだ。
ヒュゥゥゥン
そのまま歩いて荷台から飛び降りた。
俺「魔道エンジン始動!」
ドルンッ!
ガードナー「君は―――本当にウィッチなのか・・・」
俺「はい、これでもね。
いよっと」
そう言うと俺は荷台からバカデカい砲を持ち上げた。
ガードナー「まさかそれを持っていくのかい?」
俺はその砲を肩に担いで答えた。
俺「あいにくこれしか無いんですよね、武装が。
と、言うわけでちょっくら行ってきますからガードナーさんはここで待っててください」
ガードナー「そ、そうは言っても・・・」
俺「大丈夫ですよ、それじゃ」
そう言って愛用の戦車眼鏡を略帽の上から下ろして装着した。
俺「チリ車、発進する!」
ガチャン、キュラキュラキュラキュラキュラキュラ
足首部分が折れて履帯が接地すると同時に動き出した。
俺「さぁ、仕事の時間だ」
ライーサ「ダメよ、ティナ!
硬すぎて全然ダメージを与えられない!」
マルセイユ「脚の関節を狙え!
マイルズ達が到着するまで少しでも時間を稼ぐんだ!!」
稲垣「こっちももう残弾僅少です!」
加東「くっ・・・キツイわね・・・」
俺《・・・ッザザ・・・大丈夫ですか!?》
インカムから若い男の声が飛び込んできた。
さっきのトラックの運転手か。
加東《ええ、問題ないわ。
それより貴方達も巻き込まれないように――――》
俺《俺も加勢します!》
加東《そんな無茶な!》
何を言っているんだ、と振り返ってケイは自分の目を疑った。
持ち前の固有魔法である超視力を発現した目に飛び込んできた姿に驚愕した。
(あ、アレは・・・ウィッチ?)
そう、そこに佇んでいるのはひとりの陸戦ウィッチだった。
扶桑陸軍の土地色・草色・枯草色の三色迷彩で塗装された陸戦ユニットを履いて、長大な砲を担いでいる。
問題は―――その装着者だった。
加東《お、男のウィッチぃ?!》
俺《ええ、そうです。
そんな事より、今はネウロイを!》
加東《え、ええ。そうね。
私達があのデカブツに集中攻撃を仕掛けるわその間に―――》
俺《コイツをブチ込んでやりますよ!》
ガコン
そう言って俺は88mmを装填した。
加東《頼んだわよ!
―――聞いた、みんな?》
マルセイユ《ああ、しっかりな。
それじゃぁ―――行くぞ、ライーサ!》
ライーサ《了解!》
ヴァァァァァァァァ
マルセイユ・ライーサ小隊の二機がロールを加えて背面降下に入った。
ギュァァァァァァァァダラララララララララララララ!!
急降下からブレイクした二機が軌道を交差させMG34で交互に銃撃を加える。
加東「マミ、今よ!」
稲垣「はいっ!」
ブアアアアアアアアアアア
真美がダイブして低空軌道でネウロイ真正面に回りこんだ。
だがマルセイユ達に気を取られたネウロイは気がついてない。
稲垣「食らえっ!」
ドウドウドウドウドウ!正面から一気に残り弾薬を全て叩き込み―――
キシャァァアァァァ!!! ネウロイが怯んで動きが止まった。
俺「よしっ、目標停止!
目標は15mサイズで・・・10シュトリヒ、距離1500か」
チキチキチキチキ
照準器を回して距離表示を合わせる。
俺「目標、敵ネウロイど真ん中。
弾種徹甲っ!
撃てぇ――――!!!」
ドォォォォン!!
バカン!
俺「命中!装甲貫徹、目標撃破!」
狙い違わず命中した88mm徹甲弾はアレだけ硬かったネウロイをあっさりと粉砕した。
加東「うひゃー、すごいわねぇ・・・88mmは。
あんなに硬いネウロイが一発よ・・・」
半ば呆れたようにケイが撃破を確認した。
俺《皆さん大丈夫ですか?》
加東《え、ええ・・・お陰さまで。
それで、あなたは・・・》
俺《申し遅れました、本日から第31統合戦闘飛行隊に配属になりました俺中尉であります!》
そう言うと彼は88mm砲を肩に担いで敬礼してみせた。
加東《え、ええ――――!!!
あなたが扶桑から来た補充兵なの!!》
俺《そうなりますね》
加東《そ、そうなの・・・
あ、私は加東圭子大尉。
第31統合戦闘飛行隊の隊長よ》
俺《はっ、よろしくお願い致します!》
加東《・・・基地の方向は分かるわね?
先に帰還しているからゆっくり来てちょうだい》
俺《はっ、了解しました!》
加東《それじゃみんな、帰るわよ》
全《了解!》
ヴァァァァァァァァ――――
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最終更新:2013年03月31日 01:05