61 :
427な俺:2012/11/13(火) 22:41:41 ID:3CTkjSnI
「コーヒーがこぼれているぞ、少尉」
「んあ?」
いつの間にか談話室のソファで眠りこけていたのだろうか、バルクホルン大尉からそんな声をかけられて目を覚ます。
慌てて視線を横にやると、だらけた手に握られたマグカップからこぼれたコーヒーが床にぶちまけられていた。
「うわ、やっちった…」
「まったく、コーヒーを飲みながら居眠りするとは、器用な奴だな」
「とほほだぜ。雑巾、雑巾…」
外は雨。昨日から続く大雨のせいで芳佳ちゃんとリネットちゃんは洗濯物を談話室に万国旗の如く干していたが、今日はそれが幸運だった。
まだ生乾きの雑巾を取ってコーヒーをふき取る。とりあえずコーヒーをもう一回淹れ直すかな、と。
「何処に行く?」
「コーヒーを淹れ直すだけだよ」
「私がやろう。洗濯してあるとはいえ、雑巾を触った手でコーヒーを淹れるな」
バルクホルン大尉は呆れ顔でそう言いながら俺のマグカップを持って厨房へと向かった。
数分後、バルクホルン大尉は意外な人物と一緒にやってきた。
「おろ、サーニャちゃん」
「俺さん、怪我はいいんですか…」
眠そうな顔のサーニャちゃんは俺の隣のソファに腰掛けて目をこすりつつそう口を開いた。
「芳佳ちゃん達のおかげで大丈夫さ」
「ほら、コーヒー入ったぞ。サーニャも飲むといい」
「ありがとう、バルクホルン大尉」
バルクホルン大尉からマグカップを受け取る。
外はまだ冷たい雨。雨と、コーヒーは、思い出す、事がある。
「どうした?」
コーヒーを持ったまま固まっている俺を見てバルクホルン大尉がそう問いかけてくる。
そういえばバルクホルン大尉は
シャーリーには堅物だなんて言われてるんだっけか。そんなやり取りしてると、思い出すことがある。
「昔の事を思い出したのさ……あんまり、いい話じゃ、ないけど」
「まぁ、話の種にはなるだろう。聞かせてくれ」
熱いコーヒーを飲んで少し眠気が覚めたのか、サーニャちゃんも「聞きたい」と呟いた。
「面白い話じゃないぞ? あれは41年の東部戦線……427が結成されるより、2週間ぐらい前。まだ、第13特別実験中隊だった頃の冬で…」
62 :427な俺 番外編:2012/11/13(火) 22:45:04 ID:3CTkjSnI
1941年冬 オラーシャ西部カールスラント国境
その日は朝から寒く、第13特別実験中隊が根城にしているハンガーには冷たい風が吹き込み続けていた。
あまりの寒さに目を覚ました俺とヘルマンはストーブのすぐ横に置かれている薪を手に取る。
「火、ついた」
ヘルマンが火をつけているので、俺はその間に薪を片手に距離をとる。
「ヘルマン、そのままストーブの戸を開けとけよ?」
そして、よく狙いを定めてフリスビーの要領で投げ込む。
薪は見事に火の点いたストーブの中へインした。
「お見事」
意図を理解したのかヘルマンも薪を数本片手に俺の脇まで来ると、バスケットボールのシュートのように両手で投げる。こちらもイン。
「やるじゃん」
二人でストーブに薪を投げ込むゲームを楽しんでいると、併設のオフィスからアルフォンスが顔を出した。
「おい、ストーブ用の薪、ちゃんとあるのか? 火を絶やして全員凍え死んだら、中佐にどんなこと言われるか解らんぞ」
皆の中でいつもリーダーシップを発揮し、俺達の隊長であるクロステルマン中佐(一昨日中佐に昇進したので盛大にパーティを開いた)に最も忠誠を尽くしているモヒカン頭のアルフォンスはそう口を開く。
中佐はまだ部屋から起きてきてないが、目を覚ましたら確実に燃料の心配はするだろう。
「薪はあるさ。なぁ、ヘルマン?」
俺が軍に入隊後からの親友にそう声をかけると、眼鏡をかけた彼は首を左右に振る。
「俺。確かに薪はある。………発電機やトラックに使うガソリンが底を付きそうなんだ」
「はぁ!? なんだよそれ…。前当番だった奴誰だよ」
俺の問いにヘルマンはいつも通りの口調で答える。
「パウルとハルトムート」
「起こしてくる」
アルフォンスがハンモックの群れへと向かい、イビキがうるさいハルトムートと少しチキンなパウルのハンモックを、力任せに逆さにした。
「起きろバカ二人! お前ら、この前ガソリン運んだんじゃないのか! ヘルマンがないと言ってるぞ!」
「うぁ? あー……」
ハルトムートが嫌そうに立ち上がり、続いてパウルも慌てて身体を起こした。
「この前、ガソリンは…」
「どうしたパウル?」
「運んでは着ました、けど……一昨日、オラーシャ軍に」
「ああ、そういえば補給トラックが…え。お前、まさか」
「燃料が足りないからって、つい置いてたドラム缶の中身を半分…。パンも貰って」
63 :427な俺 番外編:2012/11/13(火) 22:48:12 ID:3CTkjSnI
オラーシャにあるこの拠点はオラーシャ軍から補給を受けている。しかしこのオラーシャ軍。
大国ではあるが他の先進国より装備や供給に劣る。それ故、国民の生活は苦しい。
ネウロイの攻撃を受けて国が分断された今、軍や連合軍に優先して物資や燃料が向かっている為、国民達は困り果てているのだ。
そこで彼らは連合軍への補給に何かにつけて減らそうとしているのだ。酷いときには今回のように、ウィッチを騙して誤魔化すこともある。
つまり、パウルはそれに引っかかったのである。
「よし解った。お前はアホだ!」
アルフォンスのストレートパンチがパウルの腹を襲い、彼は膝を折って床に伏した。
「まったく…ハルトムート、パウル。それと…俺、ベネディクト。お前らで集積地からガソリン取ってこい。今すぐ、だ」
「俺もかよ」
悪態をつく。くそ、パウルのアホんだらめ。俺まで巻き添えじゃないか。
「バカ。これで中佐が起きてきたらいつものようにトネられるんだぞ。トネられるより俺のパンチの方がマシだろうが」
「了解。おら、パウル行くぞ」
俺はパウルの背中を蹴飛ばしつつ、もう一人の友人のハンモックを揺り動かし、ベネディクトを起こす。
ベネディクトは話を聞くなりやはりパウルの背中を軽く蹴飛ばし、ハルトムートに肘鉄を食らわした。
ハンガー脇の人間用出入り口の扉を開けると、想像以上に冷たい風どころか…。
「大変だアルフォンス! 吹雪になってるぞ!」
「バカ、さっさと行け! ストーブが消える! 俺たちを凍死させる気か!?」
「こんな中出てったら死んじまうよ!」
ベネディクトが悲鳴をあげるがアルフォンスは無言で壁にかかった角材を手に取った。
「わかったわかった! お前、中佐からもケツ角材は止めろって言われてんだろうが!」
ケツを角材でぶっ叩かれるのは冗談抜きで痛い。
とりあえず今回の事態を引き起こした間抜けなパウル君を先頭にハンガーから300m離れた集積地へ向かう。
しかし外は吹雪である。繰り返すが、吹雪である。
「パウル君よー、集積地は右に少し曲がってからまっすぐだぜ。迷うような道じゃないんだぜ?」
「こんなので見えるわけないでしょ」
「頑張れパウル君。俺達の命は君にかかっている」
しかしパウル君とて伊達にカールスラント軍唯一の男性ウィッチ部隊の隊員ではない。
集積地までどうにか辿り着くと、ガソリンのドラム缶を一つ、横倒しにする。
「んじゃ、転がしまーす」
ハルトムートの号令で4人で力を合わせてごろごろにゃーんとドラム缶を転がしていく。
64 :427な俺 番外編:2012/11/13(火) 22:52:07 ID:3CTkjSnI
「しっかしパウルよー。あんなの騙されるなよ」
「だって、なぁ……小さい子供いるらしいし」
「そんなの何処だってそうだろ。俺なんか叔父さん夫婦が死んじゃってさー。その子供が3人も家に転がり込んできてるんだぜ?」
「僕も妹いるんだよ、ベネディクト」
パウルはベネディクトにそう返しながらドラム缶を転がし続ける。
「あれ? お前の妹って確かこの前ウィッチになったーとか言ってなかったか?」
「うん、そうだよ」
ハルトムートの問いにパウル君あっさり。いやいや、ウィッチになるぐらいなら小さくないじゃん。
「妹が苦労しないようにさ、僕が頑張らないと、ね?」
「でもオラーシャ軍に騙されてるようじゃアレだぞ。中佐は怒らないとは思うけど俺は怒る」
軽くパウルの尻を蹴飛ばして俺がそう囁くとパウルはゴメンと口を開いた。
「つーことで頑張って運べ。先に戻ってストーブでコーヒー沸かしてるよ」
我ながら完璧なタイミング。いつまでも吹雪の真ん中でドラム缶ころがしはゴメンだ。
「さり気なく逃げようとしてんじゃねぇよ」
そんな宣言と共に後頭部に打撃。
「いてぇ!」
後ろからぶっ叩かれ、背後を振り向けば吹雪のど真ん中であるにも関わらず角材を持ったカスパーが立っていた。
「なんだよ、バリカタのカスパー。こんな時でも歩哨か?」
バリカタ、というほどどうしようもない堅物ゆえに妙なあだ名をつけられたカスパーもまた俺達の仲間だ。
カールスラント人らしい焦げ茶の髪の下にいつも青筋を浮かべている。パウル君に禿げないか心配されているレベルだ。
「滑走路のチェックだ。それとお前らがアホをやっているからな」
「ネウロイは雪も雨も嫌いだからこんな日にはこねぇよ」
「わからんぞ。それよりガソリン運べ。コーヒーも沸かせよな」
「おめーのコーヒーねぇから!」
俺は実にいい笑顔でそう答えた直後、カスパーの角材が尻にヒットした。
ケツ角材は禁止にしてもらうように中佐に頼むべきだと思う。
結局4人で力を合わせてハンガー脇までガソリンのドラム缶を運び、発電機とトラックにガソリンを入れるのはパウルに任せて俺らはハンガー内部に撤収。
先に朝食の準備に取り掛かる事にする。
カールスラント軍所属なので、たとえここがオラーシャの地であっても食事はカールスラント料理が多くなってしまう。
ガリア出身の隊長から一度も苦情が来ないのは有難いが。
「ソーセージは1人につき2本だぞ」
俺が水を張った鍋をストーブの上に置いた時、アルフォンスの声が飛んだ。
65 :427な俺 番外編:2012/11/13(火) 22:55:19 ID:3CTkjSnI
「じゃがいもとにんじん誰か刻んどいてくれよ」
「またアイントプフ?」
籠に刻んだ野菜を載せたヘルマンがそう呟く。テメェ、アイントプフの何が悪いってんだ。
「つーか、寒いんだよ。あったかいもん食わせろ」
「外出てたからね」
ヘルマンは昔から俺と一緒にいる、というより親友としては入隊時からの付き合いだが、一応面識自体はそれ以前にもあったらしい。
ヘルマン曰く、俺の従妹にちょっかい出してたら俺に斧を持ち出された記憶があるそうな。
そういえばウルスラをいじめた相手に斧を持ち出した記憶があるけどさ。
「コーヒー」
「ありがと」
だけど、そんないじめっ子が今や物静かだけどやる時はやる、俺の相棒と言っても過言じゃない奴になるとは。
受け取ったコーヒーはブラックだった。そういえばこの前コーヒー用のミルクも無くなったんだっけ。
「ハルトムートとベネディクトも飲む?」
「くれー」「もらう」
吹雪の外から帰ってきて熱いコーヒーは嬉しい。…ハルトムートはブラックである事に難色を示していたが。こいつは甘党だ。
そこへ、ハンガー脇の扉が盛大に音を立てて開かれる。
「おい、俺! パウルを雪で殺す気か!?」
「どうしたんだよ、いきなり」
カスパーの盛大な怒鳴り声のせいか、まだ眠っていたカール達も目を覚まし、次々とハンモックから降りてくる。
「今、トラックの給油中だろパウル君」
「トラックの給油中にトラックの屋根に積もってた雪が落ちてパウルが埋まったんだよ!」
よく見るとカスパーは雪まみれのパウルを背負っており、そのままストーブの前まで直行するとパウルを下ろす。
「それ貸せ」
カスパーがヘルマンの手からコーヒーをひったくり、パウルの口に押し付けると、ようやくパウルの顔に生気が戻ってきた。
そして、ひとこと。
「しぬかとおもった」
「おっと、アイントプフが焦げる」
「ヘルマンに任せろ。いいか、俺」
カスパーは腰に手を当てると、心底苛立ったように口を開いた。
「ベネディクトとハルトムートも。お前ら一緒にガソリン取りに行ったんだよな? それなのに1人を置いて戻ってくるなんて―――」
「文句があんならお前がやれ。少なくとも俺とベネディクトはパウル君のせいで押し付けられたんだぞ」
「今はそんな話をしていない! だいたい――」
「カスパー。だいじょうぶ、大丈夫だから。僕が悪かったんだよ」
パウルがカスパーの腕を引いて強引に黙らせる。
「しかしだな、お前凍死しかかってんだぞ」
「うん」
「原因がお前にあるとはいえだな、お前を1人にした責任は――――」
「だから僕が悪いんだから、そこまで言わなくてもいいよ」
「……とりあえず、中佐には報告し―――ああ、中佐。おはようございます」
背後でアルフォンスの声が響き、俺達は慌てて背後を振り返って敬礼する。
が、正直な話事の顛末を聞いたら―――――。
俺とベネディクトとハルトムートは朝からトネられる羽目になった。
66 :427な俺 番外編:2012/11/13(火) 22:59:29 ID:3CTkjSnI
「朝から酷い目に遭った。俺、泣いちゃう」
朝食の後、ストライカーの整備をしながら俺がそう呟くと、おしゃべりなルドルフとシュタイナーは笑いを必死にこらえていた。
「あーあー。悲惨だね俺くんは。まー、パウルはカスパーに感謝しなきゃいけないだろうけどさ。凍死するかも知れんし」
「だな。しっかしパウルの奴、前にも騙されてなかったか?」
「ああ。たぶん3回目ぐらいじゃないか?」
口を挟んだのはハルトムートだ。
「4回が正しい」
ストライカー整備にまた一人、新しい声が加わる。無口であまり喋らない、戦闘のときは手榴弾をよく使う「爆弾魔」マテウスだった。
「お前が風邪で寝込んでいる間、オラーシャ軍にリンゴを貰いに行ったがレモンを貰ってきたからな」
「あー…だからレモンの輪切り食わされたのか、俺」
何せ風邪を引いたときに果物は解るが何故レモンと本気で首をかしげたものだ。
「あれは本当に酷い味だった」
ヘルマンが思い出したように顔をしかめる。こいつがこんな顔をするのも珍しい。
「パウルの奴は平気なのか?」
「朝飯食ったら歩けるようにはなってたから多分大丈夫だろ」
マテウスの問いにはルドルフが答え、一同でストライカーを整備する音だけが響く。
中佐が教えてくれた事だが、ネウロイは雨や雪を嫌うので冬季は活動が鈍るが、それはストライカーも同じ事で冬は整備をきちんとしないと動かなくなるらしい。
ほうっておいたらストライカー内部の冷却水が凍り付いて大変な事になるとか。
「ああ、整備か」
そこにカール、フェーリンガー、ベネディクトといった仲間達も整備に加わり、カスパーとアルフォンスと話題だったパウル君以外の全員が集まっていた。
「そーだ。パウル君と言えばさー。アイツって牛乳苦手なのな」
それだけ集まれば再びパウルの話題になるもので、思い出したようにシュタイナーが口を開いた。
「え、マジで?」
「ああ。何でも飲んだら腹具合悪くなるらしい」
「でも時々、訓練後に中佐が牛乳一瓶くれる時でも嬉しそうにしてるじゃん」
「あいつ優しいから苦手だって中佐に言えないんだよ。で、我慢して飲んで腹下す。パウルが晩飯後のミーティングに遅刻する時はいつも牛乳貰った時なんだよ」
「マジか、それ知らなかった! 俺、悪いことしちゃったなー」
「どうしたんだよ、フェーリンガー?」
俺がそう問いかけるとフェーリンガーは手を休めずに口を開いた。
「パウルってカールスラントの東部の出身でさ、オラーシャに近いじゃん。つーか、このあたりの生まれなんだよ。だからオラーシャ料理好きなんだよな」
「ああ、日曜日の度にボルシチ作ってるよなパウル君」
なにせどいつもこいつもカールスラント人ばかり。何故かオラーシャ料理が好きなパウルのボルシチ作りはちょっとしたイベントだ。
「そうそう。で、俺ボルシチ苦手なんだよ。サワークリームが入ってるからさ」
「うんうん。で?」
「だからさ、パウル君がいつものようにボルシチ作ってる間に鍋見ててって頼まれたからさ、味マイルドにするために牛乳たっぷり入れたのよ。それからパウル君、3日間腹壊したぞ」
「うわお前ひでぇ!」
「パウル君の楽しみなんだぞ、ボルシチ! フェーリンガーお前何してんだよ」
「いやぁ、苦手だなんて知らなかったんだって! 腹壊してたのボルシチの食べすぎかなって思ったんだよなー」
「確かいつもより2倍ぐらい量が増えてたからってパウル君死ぬほどボルシチ食ってたけどお前のせいかよ!」
口々ではフェーリンガーを非難する仲間達だが、全員笑いをこらえるのに必死だった。
67 :427な俺 番外編:2012/11/13(火) 23:02:40 ID:3CTkjSnI
「い、いやぁ、牛乳入りボルシチ俺は好きだぞ…? マイルドで旨いぞ?」
「マテウス、フォローになってない」
「いや、もうボルシチはいいだろうがよ。フェーリンガー、今度謝っとこうぜ…げ」
俺は右足用ストライカーを開いた時、その冷たさに思わずぞっとした。
やはり。中佐は嘘をついていない。
「冷却水凍ってるよ。カチカチなんだけど」
「お湯沸かす?」
「ヘルマン、お湯かければ解けるって訳じゃないんだぜ…冷却水の予備ねぇ?」
「ない」
なんてことだヘルマン。ここまでカチカチだとエンジンごと総取替えした方が早いな。
「見ろよ、このカチカチぶり。まるでカスパーの頭だ」
「うまい俺! 配給のファンタ一袋もんだぜ! カスパーの分の!」
「カスパーのかよ!」
ルドルフの冗談に俺が笑うと、背後にゆらりという影。
「で、お前本人の前で同じ事言えんの?」
「ん?」
背後を振り向くと、角材を手にした雪塗れのカスパーが盛大に角材を振り上げていた。
クリーンヒットした。
「お前、本当に俺に対して扱い酷くないカスパー?」
「自業自得だ。真面目じゃないお前が悪い」
カスパーは角材を床に投げ捨てると、ストライカーを引き寄せて同じく整備を開始する。
「そういやカスパー何処行ってたんだ?」
「朝飯食ってる間に雪が雨に変わった。通信室行ってネウロイ予報聞いてきた。…本国が陥落した時は、雨も雪も無くネウロイが来たというからな」
カスパーは淡々と答える。
俺達は、本国が陥落するより前にノイエ・カールスラントに避難していたから、本国でどんな撤退戦が行われたのか、よく知らない。
ただ、逃げ遅れた人や多くのウィッチや軍人が犠牲になった事だけは、知識として知っていた。
そしてその犠牲者であるウィッチの一人に―――カスパーの姉がいたという事は、本人は語らないが中佐が内緒の話として話してくれた、公然の秘密という奴だ。
奴がどうしようもない堅物なのも、それが小さな理由だろう。
「で、予報はなんだって?」
「昨日の夜と変わらん、出ないだろうという話だ」
ベネディクトの問いにカスパーが答えた後、医務室からパウルが戻ってきた。
皆がやっているなら僕もとばかりにストライカー整備を始め、その直後にフェーリンガーがボルシチの一件を謝罪する。
「え? なんだー、そうだったのかー。いいよいいよ。ボルシチ苦手だなんて知らなくて…」
「俺もパウルが牛乳苦手だなんて知らなかった。悪い」
「お前ら…ボルシチの腹のたまり具合を馬鹿にするなよ」
カスパーが呆れ顔でそう答えつつ、俺のストライカーを覗き込む。
「完全に凍り付いてるじゃないか。何があったんだよ」
「やはり場所が悪かったか……今朝から整備しようかなと思ってさぁ、保管庫の外に出してたからなぁ」
「それが原因だ馬鹿」
カスパーが再び呆れていると、パウルがストライカーを覗いて口を開いた。
「じゃあ、僕のと替える? この前、予備届いたし」
「マジかよ、パウル。ありがとう!」
パウルの両手を取ってお礼を言うとパウルは照れくさそうに笑った。
=======================
148 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:03:56 ID:.2.xIbCs
1941年冬 オラーシャ西部カールスラント国境 カールスラント空軍第13特別実験中隊・ハンガー
パウル君が持ってきた予備のストライカーを受け取り、俺はいつものように機体制御補助ユニットの回線を抜き取り、出力のほうに繋ぎ直す。
出力が向上する分、最高速度も上がる。制御補助が無い分、操縦は完全手動だ。
「俺ってよくそんなカスタムするね」
パウルが俺のカスタムを見ながらそう呟く。
「中佐がそうした方がいいって言ったんだよ。固有魔法を長時間持たせるってのと、自由に動き回れるようにさ」
「ああ…俺が固有魔法使ってるときに下手に近づくと大変だからねぇ」
俺の固有魔法は念動系に分類される《物体操作》。
身に付けた装備がそこら中を飛び交うため、ウィッチとしては珍しい接近戦向きだと中佐は言っていた。
ネウロイに近づいて接近戦を行うので、自由に動けた方が良いだろうという勧めでこんなカスタムになっている。
「俺としては固有魔法持ちという時点で羨ましいけどなー」
ハルトムートが羨ましそうに口を挟んでくる。まぁ、固有魔法持ちのウィッチは女性でもレアだというしな。
「よし、出来た! ありがとなパウル。えーと…」
とりあえず何かお礼を出さないと…と思ってポケットから出てきたのは昨日の晩飯についてきた軍用チョコレート半分(俺の食べかけ)とグレープフルーツ味ファンタの粉末袋だった。
「これ、お礼」
「あ、ああ。どうも……俺ってグレープフルーツ味ファンタ苦手だったんだよね」
「それを言うならチョコ返せ」
「ごめんごめん」
とか言いつつ既にチョコを齧り始めるパウル。
「お前ら相変わらず何騒いでるんだ」
併設のオフィスで中佐の書類仕事を手伝っていたであろうアルフォンスが姿を現す。
「ちょっと色々なー」
「ところで俺。パウルのストライカーの修理でもしてたのか?」
そう言われて、俺はストライカーを見る。そして気付いた。
パーソナルマークだ。第13特別実験中隊は、部隊員は全員黒地に赤眼の蒼い狼をメインとし、狼が口に咥えているもので個人を識別している。
(前はストライカーの損耗率が高かったのでパーソナルマークを似たようなものにしてしまえば壊しても他人の予備を借りて誤魔化せるというのが理由だ)
俺のマークは狼がナイフを咥えているものだが、パウルのマークは狼が鎌を咥えているものだ!
「いやー、パウル君が俺と同じカスタムしたいって言うからさぁ…あはは」
「嘘こけ。お前のストライカーの冷却水が凍ったからパウルの予備を借りただけだろ」
なんで空気を読まないのかねこのバリカタ野郎は。
「カスパー、いい加減その頭を柔らかくしないと禿げるぞ」
「ハンガーのど真ん中でストライカー放置したバカはどいつだ?」
カスパーの言葉にアルフォンスが反応し、いつも通り角材を手に取った。
「何を考えてんだアホ! こんな寒い日にストライカーを保管庫の外に放置するバカがどこにいる!」
「いでぇっ!?」
まさかの本日2回目のケツ角材。めちゃくちゃ痛い。
「それとパウルも俺に甘すぎだ。お前はただでさえ機体を壊すんだから予備を貸さなくてもいいだろうに」
「まぁ、でも俺が飛べないと困るでしょう」
カスパーがため息をつく。
150 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:07:20 ID:.2.xIbCs
「少なくとも自分よりこいつの方が、飛ぶのは上手いですから」
「あれ、カスパー褒めてる?」
「不本意だがな!」
「僕よりもずっと上手いよね。…正直さ、憧れちゃうよ。アレだけ強いと」
「12機撃墜だぜ。そろそろ俺もエースの仲間入り?」
「中佐の前じゃ俺ら全員ひよっこだ」
アルフォンスの冷静なツッコミ。まぁ、それは言えている。だてにガリアのウィッチの名家出身ではない。
それにコルシカガリア空軍で部隊を一つ率いていたのだからまさに言う事なしだ。
直後だった。
凄まじい警報が鳴り響いた。
「ネウロイか!?」
「カスパー、予報外れてるじゃねぇか!」
「予報は完璧じゃねぇよ!」
しかしそこはハンガー。俺達の根城兼出撃地点である。
アルフォンス、俺、ヘルマン、カスパー、ベネディクト、カール、ルドルフ、マテウス、ハルトムート、シュタイナー、フェーリンガー、パウルと12名があっという間にそれぞれのストライカーを手に整列。
そしてクロステルマン中佐が通信室から姿を現した。
「揃ってるわね? ワルシャワ方面から敵は接近してきているわ。カールスラント軍とオラーシャ軍の陸上部隊が迎撃中よ」
「今回は彼らの支援ですか?」
「いえ。それは連合軍のウィッチ部隊がやってくれてる。まぁ、ベテラン揃いですもの。心配は無いでしょう」
アルフォンスの問いに中佐はそう答える。
「なら、今回は中佐が出る幕も無いですね。俺達だけでさくっと終わらせてきます」
「何が起こるかわからないから用心だけはしなさいな、アルフォンス君」
「失言でした」
「カールスラント軍とオラーシャ軍の横に、ネウロイの別働隊…とはいっても小規模なんだけれども、放棄された鉱山周辺で留まってます。
現時点でこの別働隊は動いてないけれど、叩くに越した事はありません」
中佐が地図を広げながら指差す。
「メンバーはアルフォンス君、俺君、カスパー君、ベネディクト君、ヘルマン君、ハルトムート君」
「ちょっと待って下さい」
唐突にパウルが手を上げた。
「なにかしら?」
「僕に行かせて貰えませんか」
「どうして?」
「ベネディクトは風邪が治ったばっかりです。雨の中飛んだらまたひいちゃいます」
パウルの言葉に中佐は頷くと、ベネディクトを横目で見た後に、口を開いた。
「わかったわ。ベネディクト君は待機で。代わりにパウル君を」
「うひょう、珍しいなパウル君。今回はストライカー壊すなよ?」
「黙れ俺。お前は少し押し付けという言葉を知れ」
俺のジョークに、眉間に青筋を浮かべたカスパーがそう口を挟む。
「今回のロッテはアルフォンス君とハルトムート君、ヘルマン君とパウル君、俺君とカスパー君で」
「「んなっ!?」」
151 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:12:22 ID:.2.xIbCs
.>>149うぃ、すまぬ。これでどうだろうか
冗談キツすぎる。耳を疑うレベルだ。いつもなら俺はヘルマンかベネディクトが僚機だ。
カスパーの方だってアルフォンスの僚機か誰かの長機というのが殆ど。いつもと違う。
「なんで俺がこんなバリカタを僚機に!?」
「いつからお前が長機と決まった!」
俺とカスパーが文字通り同時に声をあげた直後、ダンという中佐の床をサーベルで叩く音。
「命令よ。返事は?」
「「い、イエス、アイ、マム!」」
俺とカスパーは踵をそろえて敬礼した後、ストライカーを同時に履く。
「言っとくが、俺が長機だからな」
「お前みたいな奴が長機だと、僚機が落ちる。こっちの指示に従え」
「ああ?」
「お前ら、行くぞ! くだらねぇ事すんな!」
アルフォンスの怒号が飛び、俺達は次々と空へと飛び出す。
雨の中を。
「くそっ、豪雨だ!」
雨はまさしく土砂降りだった。朝まで降っていた雪のせいで気温も低いというのに、芯までずぶ濡れになるとは。
本来こんな雨の日にネウロイは出てくる筈も無いだろうに、何で今日に限ってお休みじゃないんだ。
「ヘルマン! 水筒にあっついコーヒーとか確保してないよなー!」
「あるわけが無い。熱いコーヒーで消毒なんて出来ない」
「ですよねー」
まぁこれは無謀な期待という奴か。
「ところでパウル。どうして出撃希望出したんだ? 普段あんなこと言わないだろ」
ハルトムートが思い出したように口を開くと、パウルはあっさり白状した。
「来週の今日は誕生日なんだよ。妹のね」
「ほう」
「でさ。ネウロイ1機撃墜ごとに撃墜手当てが出るでしょ?」
「ああ」
「今日の手当てでプレゼント買えば、来週の妹の誕生日に間に合うからね」
パウルはそう言ってウィンク。こいつ、案外シスコンだな。
154 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:15:35 ID:.2.xIbCs
「いい兄じゃないか。お前の妹も、お前がネウロイを倒したと聞けば『きゃー! おにいちゃんかっこいい! 私も頑張るねキャピッ☆』となるからな」
カスパーの口から出たあまりにも有り得ない言葉に俺達の思考が1秒間停止。
「……なになにカスパー、今なんて? 恥ずかしがらずに言ってみな?」
「忘れろ。今の発言は忘れろ! 忘れなかったら俺はお前らを撃ち落す!」
本気でMG42を向けられたのでそれ以上は黙る。
「お前ら、集中しろ。あと3分でエンゲージだ。雨で視界が悪いから用心しろ! よし、行けー!」
アルフォンスの声と共に、前方に雨雲の中を飛び回るネウロイの影が見えた。
「潰す。一匹残らず潰す」
カスパーの呟き。パウルもそうだが、こいつも焦ってるな、と思う。
焦りが出れば出るほど落ちやすくなる。一番最初に消えたフランツもそんな奴だった。
「よーし、カスパーついてこいよ!」
「お前が指示を出すな!」
とか言いつつきちんと俺の機動についてこようとするあたりカスパーも素直じゃない。
「行くぞハルトムート!」
「パウル。右に」
アルフォンスとハルトムート、ヘルマンとパウルのロッテもそれぞれ散開し、6機は20機ほどのネウロイに攻撃を仕掛ける。
MG42を両手でしっかりと保持し、ネウロイの動きにあわせて引き金を引いていく。
小型のビームを撃ったら回避する。すごく簡単なお仕事です。
「いっちょうあがり、お次!」
「あんまり調子乗るなよ」
カスパーの奴は相変わらず冷たい声。
「ぐだぐだ言ってると、お前の分まで取っちゃうぜ?」
「遊びじゃないんだぞ俺! いい加減にしろ!」
「なに? じゃあ一機撃墜したら『あのネウロイにも家族がいただろうに…』とか泣かなきゃいけない? ここは戦場。死にたくなけりゃ撃ち落せ、だ」
弾丸が尽きたMG42のドラムマガジンを取り替える。
155 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:18:45 ID:.2.xIbCs
「ぐっ……」
「それと、いつまでもアホみたいに意地を張ろうとすんな。焦れば焦るほど死に易いって中佐も言ってただろ?」
「お前に一番言われたくない言葉だよ、俺」
カスパーはそう答えつつ、遠くの小型を撃墜。
「後ろにも注意しとけ」
こいつだってバリカタなんてあだ名がついているあたり、真面目にやってるから腕前も悪くない。
「連中、逃げ始めたぞ」
「残り14…撃墜は6機か?」
俺が2、カスパー、アルフォンス、ハルトムート、ヘルマンが1ずつ。
「深追いする必要もないだろう。引き上げるぞ」
「待って」
「どうした、パウル?」
カスパーがパウルに声をかけると、パウルは今までの事を思い出すように呟いた。
「おかしくないか?」
「何が?」
「カールスラント軍とオラーシャ軍が出張ってる奴らはメインだけど、その側面を突くにしても小型20じゃ少なすぎじゃないかな?」
「……それもそうだが。それ以外に確認できてないだろ」
「レーダーだって完璧じゃないよ。……まだ、何かいる。鉱山で停滞してるってのが、一番おかしいんだ」
「パウル」
カスパーが口を開く。
「お前だけ撃墜無しだからって、くだらない事を言うのはやめろ。焦らなくても、機会はある」
カスパーの奴、さっき俺に言われた事をそのまま言い出すとは。まったく、素直じゃない。
「……お前らはどう思う?」
アルフォンスはカスパーとは違い、パウルの言葉も最もだと思ったようだ。
さて、冷静に考えてみよう。ワルシャワ方面から来ているネウロイの方はそれなりに大規模なものだ。
その側面を突くにしても、確かに小規模すぎる。では、単なる偵察部隊?
「もし仮にこいつらが偵察部隊なら…後から本隊が来る。もしくは。パウルが言うように、本隊が鉱山にいるかも知れない」
「悲観的に考えれば、な」
アルフォンスが言葉を続ける。
「ならばこちらも偵察しますか。なぁ、パウル君。つーことで、ついてこいよ!」
俺は鉱山めがけて方向転換すると、パウルと顔を見合わせてニヤリと笑う。
156 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:22:03 ID:.2.xIbCs
「俺のそういう調子のりやすいところ、僕は好きだよ」
「おいこらお前ら! まったく、偵察だけだぞ」
「相変わらずアイツは独断行動が多いんだから!」
アルフォンスがその後に続き、ヘルマン、ハルトムート、カスパーと続く。
鉱山へと向かい、大きく開いた鉱山の上から少しずつ下降としていく。採掘現場もそれなりに広いので、そこまで速度を出さなければストライカーでも飛べる範囲だ。
「濡れずに済むな」
カスパーの声。
「あんまり奥まで深入りすんなよ、俺達は中を把握してる訳じゃない」
「わかってるよ、アルフォンス」
俺はそう呟きつつ、目を凝らしてみる。
雨天ゆえに、ストライカーに航空灯を装備しておいて良かったと思う。この中でも僅かながら安定した灯りがあるのはいい。
「特に反応は無さそうだな」
ヘルマンも呟き、パウルも「そうだね」と答える。
「取り越し苦労でよかったな、パウル」
「確かに。撃墜数ゼロは残念だけど」
「次の休暇で村に出たら、妹さんへのプレゼント買えばいいさ。俺も少し出すからさ」
「あはは、ありがとう俺」
「待て」
カスパーが急に手で全員を制止した。
「どうした?」
「アルフォンス、何か聞こえないか?」
「……?」
俺達は耳を澄ます。鉱山の中は静かで空洞ばかり、俺達の声でもよく響く。
だが。
「なんだ…?」
キャタピラか何かが、移動する音がかすかに聞こえる。いや、それは。
少しずつ音を大きくして、徐々にそれは振動に変わった。
「近いぞ!」
「ハルトムート、声をあげんな!」
アルフォンスがそう叫んだ直後、一番奥側にいた俺とパウルの背後からそれはやってきた。
157 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:25:20 ID:.2.xIbCs
崩れていた筈の坑道を突き破り、瓦礫と岩石を同時に撒き散らす。
「陸戦ネウロイだ!」
「こいつ、大型だぞ!」
火力に優れている上に、こんな狭い坑道では航空ウィッチなど役にたつ筈もない。
「全員、撤退しぐおっ!?」
「アル!」
アルフォンスが叫んだ直後、陸戦ネウロイの砲撃が俺達の真上に直撃し、山のような岩石と瓦礫が降ってくる。
6人でそれが庇いきれる筈も無く、床へと盛大に叩きつけられ…いいや、それだけじゃなかった。
叩きつけられた瞬間、浮いた。
違う。
床まで、崩落した。最深部まで…真上に空いた穴から降り注ぐ、冷たい雨。
それが最後に見た光景―――――。
「……ぐっ」
生きていた。身体を動かすと、胸と腕に痛みが走る。あばらでも折れたらしい。
腕は打撲したのだろう、痛みはあるが折れてはいない…。足の方は、と思いつつ自身の足元を見る。
「…マジ、かよ……」
パウルから借りたストライカーは、右足の方が大きく折れ曲がっていた。左足の方もほぼ半壊して部品が飛び出ている。
「くそっ!」
こんなんじゃ動くはずも無い。
一回だけ咳をする。血が混じっているが、口の中が切れたのだろう。
「皆、無事か!?」
俺がそう叫ぶと、すぐに返事をしたのはアルフォンスだった。
「ああ……くそっ…足が」
「アル? 大丈夫かアルフォンス?」
「折れてはいないようだが…捻挫したかも知れん。ストライカーもやられた」
「…ストライカーが全損だよ…でも、生きてはいる」
額から血を流しながらヘルマンが口を挟む。ストライカー全損か。
「…おい、パウル?」
返事が無い。すると、上から航空灯の灯りが降って来た。
158 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:28:43 ID:.2.xIbCs
「生きてるか?」
「ああ」
カスパーとハルトムートは崩落に巻き込まれはしたが、上の方に引っかかっていたようだ。
俺達と違ってストライカーの破損もないし、怪我も無いようだ。
「ストライカーどうした?」
「やられた」
アルフォンスたちがそんな会話をしている間に、手探りでパウルを探す。
「パウル! 生きてるか、パウル!」
「使え」
ヘルマンから借り受けたライトを点けた直後。
目の前に飛び込んできたのは、無数の瓦礫と、一本の鉄骨。
そして鉄骨の下から、赤い血が流れていた―――パウルの身体から。
「パウル!」
鉄骨は細いし、瓦礫そのものは、怪我をしている俺でも持ち上げられるほどの重さ。
だが、速度も相まって、叩きつけられたとすると。
「大丈夫か!?」
「ねぇ……無事?」
「お前が一番重傷だよ…悪い、パウル。お前のストライカー、パーにしちまった」
「気にしなくていいよ……来週のプレゼントに……間に合えば…」
ごふ、という咳。あふれ出る血。
内臓が2、3個潰れているかも知れない。直感でわかる。これはヤバイ。
「とにかく、ここを出るぞ」
カスパーがそう呟いた時、ふとアルフォンスが目を見開いた。
「お前ら、見てみろ…」
鉱山の最深部は暗い。そして先ほどもいたように、陸戦ネウロイが飛び出してきた。
パウルが言っていたように、この鉱山は陸戦ネウロイの巣窟だった。
俺達に、いつの間にか無数の陸戦ネウロイが近づいてきていたのだ。
無事なのもストライカー持ちなのもカスパーとハルトムートだけ。
無事なストライカーは2台。航空ウィッチが運べる人間は1人が精一杯。
誰か二人、この巣窟に置き去りになる。
159 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:32:20 ID:.2.xIbCs
「カスパー、パウルを無事に届けてくれ。早くしないと、死んじまう!」
「何を言ってんだお前! バカな事を言うのはよせ!」
「無理に全員運ぶのは無理だ! 誰か置き去りにならなきゃ、全員死んじまう!」
「…置いていくのは俺でいい、カスパー、ハルトムート…どうにか3人を…ぐっ」
アルフォンスがそう叫んだ直後、ハルトムートがストライカーユニットを外し、ヘルマンに差し出す。
「アンタがいなくて誰が指揮を取る! ヘルマン! アルフォンスを運んでやってくれ!」
「ハルトムート…」
ヘルマンは一瞬呆気に取られたが、ハルトムートは更に叫ぶ。
「早くしろクソガキ! アルフォンス無しじゃ、ウチの隊はやってけないの、アホでも解るだろ!」
「……わかった!」
「おい、ハルトムート! どうする気だ!」
アルフォンスが立ち上がりかけても、捻挫している足では立てない。その間にヘルマンが後ろから掴んだ。
「離せヘルマン!」
それを横目で見ながら、カスパーがふっと口を開いた。
「……なぁ、俺。俺はお前の事は嫌いだ」
「そっか」
「だが、悔しいけど、お前は俺よりもずっと飛べる。俺よりも、生き残れるだろう。俺みたいな戦いしてたら、確かに落ちるだろうな。どっかで」
カスパーはそういうとストライカーを脱いだ。
「パウルを届けてやってくれるか。そして―――死ぬなよ、俺。お前なら、俺よりもずっとネウロイ殺すのは上手いんだ。お前が生きてれば、その分だけ多くの人を守れるだろうからな」
「…カスパー…」
かっこつけんなバカ野郎。
「早くしろ! パウルを殺す気か!」
怒鳴られ、俺はストライカーユニットを掴んで足につける。
腰のベルトを使ってパウルの身体を背中に固定する。
「パウル、いいか。頑張るんだぞ」
「うん…」
「お前の妹の頬にキスするまで死ぬなよ」
そう言い聞かせながら、ストライカーを装着し、残りの魔力を振り絞る。ストライカーでの垂直離着陸には膨大な魔力がいるし、今までろくにやったこともない。
だけど、今なら出来る!
力強く地面を蹴るイメージと共に、凄まじい爆音が俺とパウルの身体を押し上げた。
カスパーとハルトムートは、無事なMG42を手に取り、俺達を見上げた。
160 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:35:43 ID:.2.xIbCs
「頼むぜ、戦友! ヴァルハラで会おう!」
ハルトムートは軽く笑いながら手を振ってそう言う。
「生きるんだ、俺! 必ず生き残れよ! …戦友よ、頼んだぜ」
カスパーの声が、とても優しく耳に届いた。
とうとう瓦礫の中を踏み越え、陸戦ネウロイが2人の間近まで襲い掛かる。MG42の銃声が響きだす。
「離せ、ヘルマン! 戻れ、戻るんだ!」
「駄目だ! 戻ったらアンタまで死んじまう!」
普段感情を爆発させないヘルマンが泣きそうな声でアルフォンスを掴みながら俺の隣を飛んでいく。
「離せヘルマン! 離せぇぇぇぇっ!」
アルフォンスの叫び声が響く中、ヘルマンと俺は狭い鉱山の上に空いた穴へ、空へと続く道へと飛んでいく。
「応答しろカスパー! ハルトムート! 聞こえないのか! 応答しろ!」
足の痛みに耐えながらも、インカムに向かって叫び続ける。
返事は無い。アルフォンスの叫びに、返事は無い。
「二人とも無事なのか!? 生きてるのか!?」
アルフォンスの叫びが徐々に消えていく。
「パウル、絶対に死ぬなよ…」
俺がそう呟くと、背中のパウルはゆっくりと口を開いた。
「また、ストライカー…壊したね……中佐、許してくれるかな……」
「当たり前だろ、優しいんだよ、中佐はよ……」
「本当はさ……」
息を吐いたパウル。背中に、その体温の暖かさが伝わってくる。いや、これは生暖かく濡れている。
「妹は…僕の事さ、嫌いみたいで……男ウィッチなのに、撃墜数0なんておかしいってさ……電話で怒られたんだよ……。
誕生日までに……増やさなかったら、もう家族だなんて言わせないって………ちょっと酷いかなって思うけどさぁ…僕、兄らしいこと、してなくて…。
許してくれるよね…妹は…僕の事を…誇りに思えるようにさ……」
「許すに決まってんだろ、家族だぞ…ああ、思うよ。誇りに思うだろう! お前のかっこよさならな!」
「皆に…迷惑かけてばっかだし……今日もさ、俺、許さないって…」
「許す。なんだって許してやる。ボルシチにサワークリームどっさり入れたって許す! お前の為にチョコもファンタも全部やるよ。コーヒーだって毎朝沸かしてやる!」
161 :427な俺 番外編:2012/11/17(土) 22:38:57 ID:.2.xIbCs
「だから死ぬな! カスパーとハルトムートは、生きろって言ってんだよ、お前に! 俺達に! 俺達が生きる為に!」
「そうだね……でもさぁ、眠いんだよ。寒いんだよ……カスパーには、お礼を言わないと…」
パウルの声が、小さくなる。傷ついた身体を鞭打ち、基地へと急ぐ。
まだ、遠いのか。だから死ぬな。
「……生きてくれよ…僕よりもずっと、君は強いウィッチだよ……だからさ…どうなっても生きてよ…」
「僕らの代わりに………道は、まだ長いよ…国への道を…君なら…開けるんじゃないかな…」
「僕…信じてるよ……君が、カールスラントを…取り戻すのを…」
「待ってるよ……その日…」
涙で何も見えなくなっていた。
その鼓動の音が消えるのを、身体で感じた。冷え切った身体。
「ボルシチのレシピさぁ……教えろよ…お前の奴、旨いんだよ…」
返事はもうなくなっていた。
「俺も好きだよ。パウルのボルシチ」
ヘルマンの声だった。
「週に一度の楽しみだった」
アルフォンスも、そう呟いた。さっきまで取り乱していた彼の姿はもう無い。
いつもの、俺達のリーダー役に戻っている。
「……っ」
泣いてる場合じゃない。急げ、急ぐんだ。
=======================
166 :427な俺 番外編:2012/11/18(日) 10:22:07 ID:O1dR/yY.
俺達が基地に戻った後、すぐに入れ替わりでベネディクト達待機組が鉱山へと飛んだ。
だが、既に陸戦ネウロイが埋め尽くしており、カスパーとハルトムートの二人は発見できなかった。
「降りるどころか上空を飛ぶだけでも精一杯」
というのはシュタイナーの弁。そもそも狭い鉱山をストライカーで飛ぶのは、ネウロイがいなければまだいいが陸戦ネウロイの山の中では困難だ。
パウルの亡骸は一度簡単な検死が行われた後、すぐに死体袋に収められた。
いずれノイエ・カールスラントで待つ家族の元に送られるだろう。
ただ、何よりも。
朝までいた仲間達が3人も姿を消したという事実だけが、俺達に沈黙を強いていた。
仲間が姿を消すこと自体は
初めてじゃない。
この3ヶ月の間で、4人がいなくなっていた。でも、3人も同時に消える事は初めてだ。
俺達は、ハンガーの片隅で、ただ黙りこくっていた。誰もが雨に濡れているのに、ストーブもつけないままで。
がちゃり、という音と扉が開き、中佐が姿を現した。
「そのままで聞いて」
立ち上がって敬礼するより先にそう言われた。
「パウル軍曹は戦死。カスパー少尉、ハルトムート曹長の両名は戦闘中行方不明…ただ、報告状況から考えるに、近いうちに戦死認定が下ると思うわ」
ぱらりと書類をめくった後、アルフォンスに視線を向けた。
「アルフォンス中尉。詳細の説明を」
「……パウル軍曹は、カールスラント軍とオラーシャ軍の横を突く、例のネウロイ部隊が別働隊にしては少なすぎると考えたようです」
「…その報告は初めて聞いたわ。どうして言わなかったの?」
ここでアルフォンスが俺の背中を突いた。
俺が立ち上がった。
「自分が軍曹の意見に賛成し、独断で偵察を行ったからです」
「アルフォンス中尉、それは間違いないかしら?」
「俺少尉が先行しました。間違いありません。ただ、自分も俺少尉も、その時、ネウロイはいないだろうと考えていました」
「何故それを報告しないの!」
ダン、と中佐がサーベルで床を叩く音が響いた。
「前述のように、自分もアルフォンスも軽く考えていたからです!」
「それで結果はどうなったの?」
167 :427な俺 番外編:2012/11/18(日) 10:25:43 ID:O1dR/yY.
「…偵察した範囲内にネウロイは確認できず、引き返す直前に陸戦の大型ネウロイの攻撃を受けました。狭い坑道内で、自分達は回避が出来ませんでした」
アルフォンスが言葉を続ける。
「攻撃によって坑道が崩落しました。一番奥にいたパウルが重傷を負い、自分と…俺少尉、ヘルマン曹長のストライカーが損壊しました。カスパーとハルトムートは手前にいたので巻き込まれませんでした」
「………」
「二人に援軍を呼ぶこととパウルを連れ帰ることを頼みましたが…。ハルトムートのストライカーでヘルマンが自分を、カスパーのストライカーで俺がパウルを輸送しました。
二人を置き去りにしました。俺は何度も反対しましたがヘルマンが―――」
「それはヘルマン曹長の責任ではないわ」
興奮しかけたアルフォンスを、中佐はぴしゃりと黙らせた。
「ヘルマン曹長も、パウル軍曹も…全員、無断で行動を起こして今回の事態を招いたこと。その責任は重いわ」
「「「はい」」」
「特に少尉!」
「はい!」
背筋を伸ばした。そうだ。やっぱり…この責任の一番は、俺だ。
「軍曹の意見が最もだと考えても、現場と連絡が取れている間は、どうしてその指示を仰がないの!?」
「申し訳ありません」
直後、中佐が俺の目の前に立ち、そして、平手が襲う。
「…後で、私の部屋に来なさい」
痛む頬を抑えられないでいると、中佐はそう言って、部屋へと戻っていった。
「……カスパーとハルトムートが残ったのって…お前らが怪我してたからか?」
口を開いたのはベネディクトだった。
「ああ」
アルフォンスが答える。
「そっか…。パウル君も予感が駄目な方向に当たったんだな」
「いるとは思わなかった。相手が陸戦でも、狭い坑道でストライカー飛ばすのは難しい」
ヘルマンが言葉を続ける。
そして俺は、カスパーの言葉を思い出していた。
168 :427な俺 番外編:2012/11/18(日) 10:28:55 ID:O1dR/yY.
「カスパーの奴が…生きろって言ってた、あの堅物がさ……俺に生き残れって言ってた」
「…ああ」
「ヘルマン、アルフォンス…皆も聞いてくれ。俺は生き残る。必ず、アイツらの為だけじゃない、ウィッチになったからには、国を取り戻すまで死ねない」
「ああ」
「カスパーは言った。俺が生きてればネウロイを倒せる、人を守れるってさ」
溢れそうな涙をこらえて、袖でぬぐった。
そうだ。死ぬわけには行かない。皆の為に、皆を守るために。
「お前、中佐の部屋に行かないとまずいぞ?」
「あ、ああ」
そうだった。
マテウスの言葉に俺は立ち上がり、中佐の部屋へと向かう事にした。
「失礼します」
「どうぞ」
ノックした後、すぐに帰ってきた返事を受けて扉を開ける。
「……ああ、俺君ね」
鼻をすする音が聞こえた。
今まで、戦死者が出た時も、中佐は1時間ぐらいは、部屋から出てこなかった。
泣いていたんだ。俺達の為に、泣いていたのだと理解した。
「…そっちのフェルトを取ってもらえるかしら?」
「は、はい」
サイドテーブルに置かれていたフェルトの束を手に取り、中佐が座るベッドまで持っていく。
中佐は、いつも着ているジャケットを脱いでいた。
ガリア軍のものであろう、いつも多くの装飾に彩られたジャケット。当たり前のように、その裏側なんて見た事が無い。
でもその時になって、裏側には無数のマークが縫い付けられていたことに気付いた。
初めはそれが何を意味するのか解らなかった。本来ならば見えない、ジャケットの裏地だ。
だが、その中で一番新しいマークを見て、思い出した。似たようなマークが、4つ並んでいれば。
「…中佐、それって」
「………今までにね。死んでいった、部下や同僚のマークよ。忘れないようにって、こんな事をするのはね、女々しいかも知れないけれど」
中佐はそう言って、青のフェルトを手に取り、ハサミで切りそろえていく。続いて赤も。
真新しく並んだ4つの、黒地に、赤眼の青い狼のマーク。数センチほどしかないその大きさなのに。
それぞれ、違うマークだった。中佐は、俺達のマークを見分けてたんだ。
169 :427な俺 番外編:2012/11/18(日) 10:32:21 ID:O1dR/yY.
「人は死んだら、記憶の中で生き続ける。でも、それも無限じゃない。記憶なんて曖昧、いつかは消えてしまうかも知れない。
……だから形に残すの。その人が生きた証を残して、その人がいた意味に触れて、それで初めて記憶が続く。
本当の戦場では、私が知る以上に何人も何人も、毎日毎日死んでいく。でもせめて、私が触れた人たちだけは、覚えていられるように…。
その人たちが消えてしまわないようにこうするのよ。せめて、私の中でも、覚えられるようにね」
「………」
裏地に縫い付けられた無数のマーク。それが、今までこの人が失ってきた人の数だと知った。
3つのマークが新たに縫い付けられる。
本を咥えているのはカスパー、鎌を咥えているのがパウル、金色のメダルを咥えているのはハルトムート。
「中佐」
「……なにかしら」
「俺は、その裏地の中には何があっても入りません。…死にません」
中佐が、ジャケットを再び着込んだ。
「カスパーも、パウルも…きっとハルトムートもそうでしょう。俺に生きろと。生きて、ネウロイから、多くの人を守れと言っていました」
「俺は彼らの為にも…そして、カールスラント解放の為にも、まだ死にません」
「戦場では、今日以上の出来事なんて当たり前のようにあるわ。それでも、あなたは立ち止まらない?」
「止まりません」
「もう家族に会えなくなるかも知れない。もう二度と平穏なる世界には戻れないかも知れない。それでも?」
「構いません。覚悟はあります」
「たとえ目の前で愛する人を失っても?」
「…はい。決めました」
そう、心に決めた事だ。
「そう。わかったわ」
「泥に這い蹲っても、恥辱に塗れても、死の淵を彷徨っても、戦える限り、戦い続けることを誓いなさい。
仲間達の十字架を背負い、散った者の願いを背負い、手足を止める事は許されない。私が許さない。あなた自身も許してはならない。
どんな命運にも悲劇にも抗いなさい。それがあなたが出来る、死者達への手向けよ」
「はい、必ず!」
俺は生きる。
絶対に死なない、死にたくない。手足が許す限り、戦える限り、戦い続ける。
それが仲間達の約束。大佐との約束。
170 :427な俺 番外編:2012/11/18(日) 10:35:25 ID:O1dR/yY.
1945年 ロマーニャ第501統合戦闘航空団基地
「……倒れていった者達の為に、戦い続ける、か…」
バルクホルン大尉は残ったコーヒーを飲み込んでからそう口を開いた。
サーニャちゃんは話の途中から完全に聞き入っていたようである。
「………俺はあの頃から反省してない部分もあるな、今気付けば」
そうでなけりゃあんな無茶は起こさないからな。
「まったくだ。ただ、死なないという意思は大したものだ」
「俺さんは、その…お二人にはとても信頼されてたんですね」
サーニャちゃんの言葉に、頷く。
「うん。やっぱり、戦友だったからな」
「負傷者のみをどうにか返すにしても、彼らにとっては苦渋の決断だったのだろう。…その、アルフォンス、の気持ちも解る」
「アルは、自分が残ってればって事を相当気にしてたからな。後になっても。俺とヘルマンの前では、言わなかったけど、解ってたよ」
何せ長らく付き合ってたんだ。それぐらいは解るさ。
俺もアルも、その時から十字架を背負い続けていたんだ。
そして今は、アルの分も背負ってる。
「……あなたも、色々背負ってきたのですのね」
振り向くとちょうどペリーヌが談話室に入ってくるところだった。
「あれ、聞こえてた?」
「入るタイミングを逃しただけですの!」
ということはだいたい聞いてたんだなぁと思いつつ、近くの椅子を引くとペリーヌはあっさり座った。
「姉様は、あなた達の事をしっかり見ていたのですね。昔から、人をひきつけたり、子供達の面倒を見たりするのは得意だったけど」
「やっぱそうなんだ。俺らにとっても、頼れる人で、皆を引っ張ってくれる人だったからな。まぁ、厳しいところもあったけど。しょっちゅうトネられてたからな」
「姉妹で同じ固有魔法というのもあるのか、ペリーヌ?」
「ええ。宮藤さんはお祖母様とお母様も治癒魔法の人だとおっしゃってましたし」
「ペリーヌにトネられたのはまだ一度だけだけど、威力は大佐以上だったよ……」
少なくとも着任初日からウェルダンに焼かれる羽目になったのは記憶に新しい。
「まぁ、あなたがしょっちゅう叱られてたのは想像できますわね」
「確かにな。調子が過ぎるというか……それで部隊を危険に晒したのはマズイだろう」
「とほほだぜ…」
171 :427な俺 番外編:2012/11/18(日) 10:40:58 ID:O1dR/yY.
そんな事を話していると、サーニャちゃんがぽつりと呟いた。
「パウルさんのボルシチ、美味しそう……」
「美味かったよ? 普段はドジだったし、戦闘もイマイチ、だけどボルシチ振舞ったり、色々と皆には愛されてる奴だったよ」
「少なくともお前に自分のストライカーを貸している話を聞くだけでもいい奴だとわかるさ。優しい奴じゃないか……。
だが俺、寒冷地で一晩中ストライカーを保管庫外に放置するなど、貴様は何を考えているんだ!? 凍るに決まってるだろう!」
「ぎゃあ! バルクホルン大尉の堅物スイッチがオンになった!?」
ヤバイ、このままではスーパー説教タイムが始まる。しかし助けを求めようにも、ペリーヌは「黙って聞きなさい」オーラでサーニャちゃんは頼りにならない。
「サーニャ~。サーニャ、何処ダー…あ、サーニャ!」
そこへやってきたのはエイラ中尉である。ヤバイ、余計に事態が収束しない!
「俺……サーニャに何ヲシタ……?」
一瞬で阿修羅の形相になったエイラ中尉が凄い勢いで迫ってくる。バルクホルン大尉がサーニャを伴って俺に説教しているという点で謎の脳内変換。怖すぎる。
酷い目に遭うかも知れない、俺、泣いちゃう。つーか、泣く!
「うわぁぁぁぁん、大佐助けてぇぇぇぇ!」
「泣き出し始めましたわ!?」
「え? こ、こら! カールスラント軍人たるものそうそう涙を流すな!」
バルクホルン大尉が慌て始めたが阿修羅になったエイラ中尉には通用せず、俺が飲んでいたコーヒーのマグカップを掴んだ。
「泣いてもムダだゾ、喰らェェェ!」
「エイラ、コーヒーをぶちまけちゃ駄目!」
サーニャちゃんの注意より先に冷めてはいるがそれでもそれなりの温度のコーヒーが降りかかる。
「熱っ! エイラ中尉、コーヒーやめて熱いからやめてぇぇぇ!!!」
「いけませんわ、とりあえず近くのこれでふき取りましょう!」
「許さんゾォォォォォッ!」
エイラはそこら辺のコーヒーの入ったカップを次々と掴んでぶちまける用意。いや、俺以外に被害が出たらどうすんのさ。
「なんだ、騒がしいな」
「何の騒ぎでしょうね」
坂本少佐と芳佳ちゃんが通りかかったのが運の尽きだった。
「「熱っ!?」」
「ああっ! 坂本少佐!」
172 :427な俺 番外編:2012/11/18(日) 10:44:04 ID:O1dR/yY.
20分後。
俺達は正座する羽目になった。明らかにとばっちりな人が一部いるけど正座である。
「……乾かない洗濯物がコーヒーでっ……坂本さんお気に入りの手ぬぐいをっ…エイラさんのせいでっ…」
例のコーヒーを拭いた雑巾…が、どうやら坂本少佐お気に入りの手ぬぐいだったようで。芳佳ちゃんが悪鬼羅刹の顔になったのは初めて見た。
具体的に言うと坂本少佐が怒鳴るより先に大爆発したので少佐が怒鳴らなかったぐらいに。
それにエイラ中尉がコーヒーをぶちまけて大荒れしたために洗濯物に大きな被害。
この部隊で怒らせたら怖い人というのは結構たくさんいるみたいです、大佐。427の皆が恋しい…。
「な、なぁミヤフジ! か、解放シテくれナイか? 猛烈に足が! 足がぁっ…」
「駄目です」
「わ、私が談話室に来た時はコーヒーはすでにふき取られた後ですのよ!? それに暴れたのはエイラさんですし…」
「何か?」
「ひいっ! な、なんでもありませんわ宮藤さん…」
「これも訓練これも訓練これも訓練…ブツブツ」
「足が…痺れて…」
「ああっ! サーニャぁ…」
「エイラ、お前はもう少し反省がいるようだな…お前だけ座禅の組み方にするか?」
「ヒィッ! しょ、少佐も怖いンダナ…」
平和なんだか平和じゃないんだが…。
501基地での日々は、どたばたしつつ過ぎていく。
最終更新:2013年04月02日 18:56