そして次の日の朝。
物資搬入を手伝っていた俺は、坂本に呼ばれてハンガーの一角へと向かっていた。
そこには坂本以外のメンバーの姿もあり、大きな砲のようなものを珍しそうに眺めていた。

芳佳「おっきい……。これっていったい何なんですか?」

ミーナ「軍の技術部から送られてきた試作兵器『G-B.R.D』よ。連合軍上層部からの命令で、私達がこの兵器の実用テストを担当することになったの」

芳佳「じーばーど?」

シャーリー「Generative - Beam Rifle Device……って、ビーム!?」

ミーナの手元の資料をのぞき込み、シャーリーが驚きの声を上げる。

坂本「ネウロイのビームとは違うさ。内蔵されたジェネレーターで魔法力を変換し、圧縮・収束してビームとして撃ち出すんだ」

リーネ「すごい武器ですね……。誰がこれを使うんですか?」

坂本「それなんだが……俺に任せようと思う」

俺「俺に、ですか?」

バルクホルン「私は反対だ。試作兵器をよりにもよってこいつに任せるなどと……」

当然のごとくバルクホルンが異を唱える。
彼女からしてみれば、新兵同然で身元も怪しい人間などには任せられないのだろう。
俺を含めた他のメンバーも理由を推し量ることができないでいる。
それに対し、坂本は資料をめくりながら周りに言い聞かせるように説明した。

坂本「理由はいくつかあるが、第一にさっき話した通り、こいつは魔法力そのものを武器にする。よって、使用者は高い魔力を持つ者でなくてはならない」

ミーナ「武器自体のサイズも大きいし、重量がかなりあるのよ。これを任せられる人となると……」

バルクホルン「待ってくれ。それなら私が担当すればいいじゃないか」

バルクホルンは固有魔法の特性上、魔力の消耗が少ない。さらに怪力のおかげで重武装でも問題なく扱うことが可能だ。
実際、新型装備のテストに駆り出されたこともある。

ミーナ「あなたは既にFw190D-6のプロトタイプのテストを担当しているでしょう? 一度に二つも新装備をテストさせるわけにはいかないわ」

坂本「俺なら魔力も高いし、元々の膂力もあるから身体強化で重量等の問題もクリアできる、というわけだ。というわけで俺、引き受けてくれるか?」

この武器を使いこなす事が出来れば、固有魔法が使えない劣等感のようなものを打ち消すことができるかもしれない──。
そう思い、俺は坂本の提案を受け入れることにした。

俺「……わかりました。やらせてください」

坂本「よし、俺は今のうちにマニュアルをよく読んでおけ。午後の訓練で早速テストをするからな」

視界の隅でバルクホルンが不満そうな顔をしているのが見えたが、俺は構わずミーナから武器のマニュアルを受け取った。


          ●


昼食後、俺、芳佳、リーネ、バルクホルンの4人は訓練のため、ハンガーに集合していた。
4人が坂本の前に整列すると、坂本が訓練の内容を説明する。

坂本「今日はまず編隊飛行の訓練を行う。リーネと俺は私に付いてこい。後でテストを行うから、俺はG-B.R.Dを持ってくるんだぞ。そして宮藤はバルクホルンの2番機だ。……宮藤、返事はどうした?」

返事が遅れた芳佳を叱り、坂本は説明を続ける。
それを聞きながら、俺はバルクホルンをちらりと盗み見た。

バルクホルン「…………」

表には出していないが、なんとなく機嫌が悪そうに見える。
坂本の説明が終わり、空に上がって訓練をしている最中もそれは変わらず、俺は密かにため息を吐いた。
その直後、突然何の前触れも無く基地の警報が鳴り響いた。

芳佳「え!? な、何!?」

バルクホルン「ネウロイか!?」

基地要員から戦闘区域の情報を確認すると、坂本達はそのまま先行し、後からミーナとペリーヌが合流する。

坂本「最近、やつらの出撃サイクルにぶれが多いな」

ミーナ「カールスラントでも動きがあったらしいけど、詳しくは……」

坂本「隊列変更だ。ペリーヌはバルクホルンの2番機に。宮藤は私の所に入れ。俺とリーネはミーナの指示で動け」

何故かむっとしているペリーヌを尻目にし、俺は後方に下がろうとする。
その際、一瞬見えたバルクホルンの顔が酷く動揺しているように感じ、俺は自然と声をかけていた。

俺「大尉、どうかしたんですか?」

バルクホルン「……なんでもない」

そうは答えるものの、バルクホルンの顔は晴れないままだ。
不安に思った俺が再度話しかけようとした瞬間、魔眼で敵を見つけた坂本が声を張り上げた。

坂本「敵機発見!」

ミーナ「バルクホルン隊突入!」

バルクホルン「了解」

ミーナ「少佐、援護に」

坂本「了解。付いてこい、宮藤!」

芳佳「はい!」

バルクホルンのチームがネウロイに先制攻撃をかけ、それに続いて坂本達が攻撃を加える。
数回の攻撃の後、それを見ていたミーナが戸惑うように呟いた。

ミーナ「やっぱり……おかしいわ」

俺「大尉ですか?」

俺の目から見てもバルクホルンは無理に攻めすぎている。
それは、ガリアでエースと呼ばれたペリーヌが動きに付いていけていない事からも明白だ。

ミーナ「ええ。あの子、いつもは常に2番機を視界に入れているのよ。なのに今日は一人で突っ込み過ぎる……!」

険しい瞳で見つめるその先には、至近距離でネウロイに銃弾を浴びせるバルクホルンの姿がある。
その時、俺はネウロイの装甲表面の再生速度が衰えてきているのに気付いた。

俺「中佐、やつの装甲が!」

ミーナ「あれは……! あそこを狙って!」

リーネ「はい!」

ミーナの号令に従い、リーネが指示された場所を対装甲ライフルで狙撃する。
俺もリーネに倣ってG-B.R.Dを構え、トリガーを引く。
だが、カチッという音が鳴るだけで、その砲口からビームが放たれる事はなかった。

俺「ビームが出ない……? なんで!?」

何度トリガーを引いてもそれは変わらず、俺はセーフティや計器類を調べてみる。
すると、ゲージの一つに異常が確認できた。
出力ゲージの数値が安定していないのだ。

俺「出力が……? 原因はこれか!」

ミーナ「ここにきて故障だなんて……!」

攻撃が一時中断した隙にネウロイは損傷を回復させ、反撃とばかりに大量のビームを撃ち出し始めた。

坂本「近付き過ぎだ! バルクホルン!」

大量のビームが接近していたバルクホルン達に襲いかかる。
バルクホルンは咄嗟に回避したが、ビームは後ろにいたペリーヌへ伸びていく。
突然のビームに一瞬慌てはしたものの、ペリーヌはシールドを張って攻撃を受け流す。
だが、その衝撃で弾き飛ばされ、バルクホルンに衝突してしまった。

俺「大尉! 避けて!」

バルクホルンが俺の声に反応して顔を上げると、眼前にビームが迫っていた。
シールドを張ろうとしたが間に合わず、ビームが銃に当たって爆発が起き、その破片がバルクホルンへ突き刺さる。

ペリーヌ「大尉!」

芳佳「バルクホルンさん!」

俺「くそっ! 中佐! 俺がフォローに回ります!」

ミーナ「お願い!」

落ちていくバルクホルンを追い、芳佳とペリーヌが戦線を離脱する。
俺が少し遅れて地上に降りると、芳佳が治療を行う側でペリーヌが立ち尽くしていた。

俺「芳佳! 大尉は!?」

芳佳「出血が多いです! ここで治療しなきゃ……!」

俺「わかった。大尉を頼む。クロステルマン中尉は……? 中尉?」

ペリーヌ「私のせいで大尉が……大尉が……」

俺が話しかけてもペリーヌは返事をせず、泣きそうな顔で何かを呟いているばかりだ。
俺はペリーヌの両肩に手を置き、強引にこちらを向かせる。

俺「ペリーヌ! しっかりしろ!」

ペリーヌ「あっ……俺、さん?」

俺「大尉はここで芳佳が治療する。俺はここで二人を守るから、ペリーヌは坂本少佐の2番機に入れ」

ペリーヌ「で、でも……」

俺「いいから早く!」

ペリーヌ「は、はい!」

飛び立つペリーヌを見送り、俺は芳佳達を背にネウロイと対峙した。

バルクホルン「お、お前達……」

芳佳「バルクホルンさん、気が付いたんですか!」

バルクホルン「私に……構うな……。その力を……敵に……」

俺「喋らないでください。体力を消耗する」

芳佳「絶対助けます。仲間じゃないですか!」

バルクホルン「私など……捨て駒でいいんだ……」

俺「そんなこと……クッ!」

俺がバルクホルンに反論しようとすると、空からビームが降ってくる。
シールドで受け止めたが、それを皮切りにビームの激しさが増していく。
どうやら、ネウロイは完全に俺たちをターゲットにしたらしい。
その間にも俺の後ろで芳佳達の問答が続く。

バルクホルン「敵を倒せ……お前達なら……」

芳佳「あなたがいれば、もっと多くの人を守れるじゃないですか!」

バルクホルン「無理だ……私には……たった一人さえ……」

その言葉を聞いた瞬間、俺は見覚えの無い光景が意識に入り込んでくるのを知覚した。
それは、ネウロイと戦う誰かの見た景色。
眼下に広がる燃えさかる街。
炎と瓦礫の中で泣いている少女。
街に降り注ぐネウロイの破片。
白いベッドに寝かされた少女は、未だに目を覚まさない──。

バルクホルン「私のことなんて……どうでもいい……私の……命など……」

俺「……勝手なことを言うな!」

溢れる感情を抑えきれず、俺は大声で怒鳴っていた。

俺「あんただって遺された人間の気持ちはわかるはずだ! あんたが死んだら、妹は独りぼっちになるんだぞ!」

俺を突き動かしたのは、かつての自分が経験した喪失感。
そして何よりも、自分が昔陥りかけた思考を否定したいがためであった。

バルクホルン「ハルトマンだな……余計なことを……」

芳佳「遺された人間の気持ち……」

俺「それに、国や家族を失ったってあんたはまだ生きてるだろう! 生きてるってことは──」

その時、バルクホルンは見た。
俺の周囲に、蒼や碧の光の粒子が舞っているのを。

俺「──生きていかなきゃいけないってことなんだよ!」

バルクホルン「俺、お前は……?」

坂本『俺! 気を付けろ!』

坂本の言葉を聞き、俺は空を見上げた。
ネウロイは攻撃を止め、自身のあちこちから出したビームを前方に集中させている。

坂本「トドメを刺す気か……!」

ペリーヌ「やらせませんわ!」

坂本達が攻撃するものの、数が少ないせいか有効打を与えられていない。
今までのビームの威力からして、あれだけ集中させられたらシールドを使っても防ぎきれないだろう。
俺が後ろを見ると、バルクホルンと目があう。
バルクホルンが無言で何かを訴えているのがわかった。
俺はG-B.R.Dをネウロイへと向けると、全魔法力を注ぎ始める。

リーネ「俺さん!?」

ミーナ「何をする気なの!?」

俺「出力が安定しないって言うなら、安定も何もない最大出力で——!」

俺の驚異を感じ取ったのか、ネウロイが甲高い叫び声のようなものを上げる。
そして、集中させたビームの固まりが一気に俺へと放たれた。

俺「——迎え撃つまでだ!!!!」

直後、G-B.R.Dから莫大な量の光が放出された。
その光はネウロイのビームとぶつかると、それを押し返しながらネウロイへと伸びていく。

ミーナ「嘘……ビームを押し返しているの!?」

坂本「なんだ……この光は……!」

ネウロイのビームと違い、G-B.R.Dのそれは青い輝きを放っている。
どこか幻想的に感じられるその光を見つめ、ペリーヌは思わず戦場に似つかわしくない言葉を漏らした。

ペリーヌ「綺麗……」

G-B.R.Dから放たれた光はネウロイの前方にあったビームの塊を掻き消し、ネウロイ本体を飲み込むかに見えた。
だが、コアに到達する寸前でその光は消え失せてしまう。

俺「まだだ……もう一度……!」

ミーナ「もう限界よ! やめなさい、俺さん!」

魔法力を限界まで使った影響か、俺は気が付けば地面に倒れていた。
後ろを見れば、同じように倒れ込む芳佳をバルクホルンが抱き留めているのが見える。
遠くなっていく意識の中、バルクホルンが飛び立っていく姿を目に焼きつけ、俺は意識を手放した。


          ●


俺「ここは……」

俺は気が付くとベッドに寝かされていた。
傍らには何故かバルクホルンが付き添っている。

バルクホルン「俺、気が付いたか。ここは医務室だ。お前が魔法力を限界まで消費して気絶したから私が連れてきた」

俺「そうですか。ありがとうございます。……そうだ、戦闘の方は?」

バルクホルン「敵は私が撃墜した。けが人も私とお前以外出ていない」

俺「そうですか、よかった……」

俺はほっと胸をなで下ろし、ふとバルクホルンの態度が違うことに気が付いた。
前はもっと険悪な雰囲気だったのが、どういうわけか今は鳴りを潜めているのだ。

バルクホルン「その……あー、あのだな、お前に言われたことでその……いや、ミーナにも言われたことなんだが……」

バルクホルンはやたらと組んだ指を組み替えたり、体をよじらせたりしながらぼそぼそと呟く。

バルクホルン「わ、私もクリスのことで色々と……何というか、お前に対しての態度が、ええと……」

俺「はあ……?」

バルクホルン「つまり、私はお前に礼を──」

その時、医務室のドアが勢いよく開けられ、ルッキーニが部屋に飛び込んできた。

ルッキーニ「俺ーっ! おっきろー!」

俺とバルクホルンがドアの方を見ると、ルッキーニの他にシャーリー達の姿も見える。

シャーリー「こら、医務室で騒ぐんじゃないって言っただろー?」

芳佳「そろそろ起きてる頃だと思ってご飯作ってきました〜」

ペリーヌ「せ、せっかくですし、私が食べさせてあげてもよろしくてよ?」

シャーリー「ん? ペリーヌのやつ、デレ期が来たんじゃないのか?」

ルッキーニ「デレ期デレ期ー!」

ペリーヌ「ちちち違いますわよ! 私はただ……」

エーリカ「あれ? トゥルーデいたの?」

バルクホルン「お、お前ら……!」

あっと言う間に騒がしくなった部屋を眺め、俺は滲んだ涙を密かに拭う。
目の前の景色は、俺が昔失った景色に良く似ていたからだ。

俺(ああ……俺は今度こそ、守ることができたのか……)
最終更新:2014年10月22日 23:44