~基地内・桟橋~

 自己紹介も終え、とりあえず人手が欲しいとのことで整備兵長が新任者達を連れて行く。
 運びこまれた物資は極めて大量な為、仕方のない事なのかも知れない。
 整備兵長に連れて行かれた新任者達を見送りつつ、俺から美緒に話しかけた。

 俺「それにしても久しいのー、もっちゃん。
   元気しとるようでなによりや。」

 坂本「お久しぶりです、俺さん。
    あの、もっちゃんはちょっと……。」

 俺「えー?、ほな美緒ちゃん?」

 坂本「……もう、いいです。」

 ミーナ「あら、美緒お知り合いなの?」

 坂本「ああ、俺さんは以前、宮藤博士の助手を勤めて居られてな。
    ストライカーの開発にも関ってたんだ。
    ……しかし俺さん、当時は軍の所属では無かったはずでしたが何時ごろから軍に?」

 俺「大学院卒業してから直ぐやから、十二試艦戦の開発が一段落した一寸後やな。
   つーか、正確には宮内庁から大本営への無期限出向やねんけどな、元々は宮仕えやし。
   まぁ、普段は陸海軍の技術部門を行ったり来たりやな。」

 ミーナ「宮内庁?
     そんな所から大本営への出向なんてあるんですか?」

 俺「まぁ、普通は無いわ。
   元々俺が学費と生活費稼ぐのに宮内庁に籍おいて仕事してたからやねんけど。
   魔力持ちやったら、諸々の制限なしで入れたからなぁ。」

 童「おかげで未だに便利屋になっちゃってるけどねぇ。」

 ミーナ・坂本「「っ!?」」

 二人が慌てて振り向く。
 そこには紅い着流しを着た鬼の少女が、いかにもしてやったりと言いたげな顔で笑っていた。

 俺「もっちゃんはしっとるやろけど一応紹介しとくな。
   俺の使い魔やっとる童や。
   種族は鬼。
   童ー、あんまし人様を驚かすモンやないで。」

 童「ケケケ、悪い悪い。
     おっきくなったなー、美緒。」

 坂本「お前は変わらんな、童。」

 親しげに話している二人を横目にミーナが俺へと問い始めた。

 ミーナ「あの、俺さん?でいいのかしら……。」

 俺「別に呼び方は拘っとらんしそれでええよ。」

 ミーナ「使い魔がいるという事は、つまり貴方もウィッチということですか?」

 俺「…あー、そう言えば魔力持ちとか術師なんぞの呼び方は一般的やなかったな。
   まぁ、そーゆーこっちゃ。
   ちなみに今回の運用試験な。
   震電二式甲型試作改と量産甲型の試験担当は俺なんよ。
   ブランク長いんやけどな。
   坊主…僕の方は乙型試作改と量産乙型の担当な。」

 そう言いつつ俺は仕官服のボタンを外し、懐から書類用の封筒を取り出した。
 三センチほどの厚みのあるそれをミーナに手渡す。

 俺「ほい、今回の試験の関連書類。
   一応言っとくと、試験に使う機体はさっき言った四機。
   本来やったら試作改の二機の持ち込みで済むはずやってんけどな。
   出発直前で製造ラインから出てきたばっかの奴も試験してこい、とか上からねじ込まれ
   てしもうたんよ、あのカスと一緒に。
   他にもついでにとかで試したい機材の類をなんぼか持たされてなぁ。」

 坂本「一度に四機もですか?
    流石に無茶なのでは……。
    それにあの、野郎という男の事も詳しくお聴きしたいのですが。」

 美緒の問いに渋い顔を見せる俺。
 その心中は中々複雑な様だ。

 俺「あー……うん、長い話しになるんやけどな。
   ……他に訊きたがってる子とか、おるんかいな?」

 坂本「恐らく、この隊の全員かと。
    僕少尉の治療の後、かなり殺気立っていましたから。」

 童「お、ちゃんと治療してくれたんだ?」

 坂本「ああ、一週間ほど様子を見たら復帰出来るそうだ。」

 俺「さよか……すまんなぁ手間かけて。
   ほな全員居るときに紹介も兼ねて、やな。
   ……あ、そー言えば此処の基地って、独房か営倉ってあるんか?
   あのゴミカス放りこんどきたいんやけど。」

 坂本「独房はまだ造ってません。
    そう言うものは後回しにしてましたから。」

 俺「んー、ほな貨物コンテナ改造して仮設の独房作るか……。」

 ゴミカスこと野郎をいかにして監禁状態にするか思案し始めた俺だが、上着の裾をクイクイ
 と引っ張られる感覚に思考を中断した。
 目を向けると、童が見てはいけない物でも見たかの様な顔で服を引っ張っている。

 俺「どないしてん?」

 童「この子、さっきから旅立ったまんまで帰って来ないんだけど。
   どうしよ?」

 ミーナ「……ショルイ……マタショルイ……コンナニイッパイ…ウフ…ウフフフフフフフ……」

 童の声に俺と美緒が振り向いた。
 其処には、書類入りの封筒を抱えて座り込み、遠くを見つめるミーナの姿があった。

 俺「えーっと、ミーナちゃん大丈夫なんか?」

 坂本「その……、此処最近で書類の量が急増しまして。
    処理しきれなくなってきたのか、時々この様に……。」

 童「そりゃまた……御愁傷様?」

 俺「あー、そらしゃーないな……。
   外様の大佐級の権限で処理できそうなんやったら手伝ったろか?
   暇があったらやけ……。」

 ミーナ「本当ですか?本当ですね?今更ウソですとか言いませんよね?ね?」

 言い切る前に、俺の腕にミーナがしがみ付いた。
 ちなみに、メチャクチャ涙目だったりする辺りが御労しい雰囲気を醸し出しまくっている。
 中間管理職の苦労、此処に極まると言った所だろうか。

 俺「お……おぉ。
   けどあんまし込み入った所のは手ぇ出せへんよ?」

 ミーナ「ありがとうございますっ、それで充分ですっ。」

 坂本「俺さん、大丈夫なんですか?」

 美緒が疑問を投じる。
 先ほどの話しでは、この俺と言う人物、今回の試験の責任者代行と試験航空歩兵を兼任し、
 さらには基地指令官の事務処理の補助もするという事だ。
 流石に一人で処理しきれる仕事の量ではないだろう。
 と、美緒が思うのも無理の無い話しである。

 俺「まぁ、本格的に試験始めんのは来週からになりそうやしな。
   それまでは機材の設置と整備ぐらいしかやる事ないでよ。
   後は腕慣らし程度に飛ぶぐらいか。
   一寸気になる事も有るでな……。
   まっ、何とかなるわいな。
   ほな行こか。」

 問題は無いらしい。

 ミーナ「あの、どちらに?」

 俺「倉庫の方によってから、坊主のとこにな。
   荷物とか持っていったらなあかんしな。
   すまんけど案内よろしく。」





~病室~

 ミーナ達が病室へと向かい始めた頃から幾許かの時が過ぎた頃。
 病室内にて、少々珍しい光景が繰り広げられていた。

 玉藻「主殿……、契約を切って山に帰れとは一体どう言うことです?」

 僕「……ダメ?」

 玉藻「駄目です!」

 いや、少々どころではなく極めて珍しい、である。
 それは使い魔に契約の解消を求めるウィッチという、早々お目に掛かる事は出来ない代物だ。
 通常なら有り得ない事だが。

 使い魔とは、ウィッチの魔力のコントロールし、魔力行使をしやすくする為に憑けるモノ
 であるはずだ。
 その契約を切る事は即ち、ウィッチの才能を放棄する事に等しい行いである。
 あくまで通常なら、の話しだが。

 玉藻「何故です?
    主殿は私が不要とでも申されるのですか。」

 僕「そんなつもりはないけど……。
   やっぱり危ない所にまで付き合ってくれなくてもいいんじゃないかなーって。
   前みたいなこともあったりするから……。」

 玉藻「…前と言うと、以前の戦場の事ですか。
    確かに、あの時は私も休眠に至るまで消耗しつくす激戦ではありました。
    しかし、ならばこそ如何なる状況においても主と共にあり、お支えするのが使い魔
    と呼ばれる者の役割です。
    それに私自身が主殿から離れる気になどなれません。
    主殿は、私の身を案じてその様なことを申されているのでしょが……。」

 僕「玉藻お姉ちゃん?」

 玉藻「……何でしょう?」

 僕「僕は今まで、玉藻お姉ちゃんを使い魔だなんて思った事、無いよ。」

 玉藻「主殿……?」

 玉藻が呆気にとらわれた。
 この発言は流石に予測出来なかった様だ。
 そんな玉藻を見据えたまま、僕が話しを続ける。

 僕「契約上はね、術師と使い魔かもしれないけど。
   それでもずっと一緒に居てくれたのは嬉しいし。

   それに大事なヒトだから……。

   ……だから、出来れば危なくない所に居て欲しいんだけど。
   僕の事なら心配しなくてもいいから。」

 玉藻「……。」

 自分と常に共にあった、家族同然の存在である玉藻を巻き込みたくない僕。
 そして主から方時も離れたくない玉藻。
 双方の意思がぶつかり、沈黙が室内を満たした。

 と、思われたのだが、玉藻の頭の中はこのようになっていたりする。

 玉藻(大事なヒト、大事なヒト、大事なヒト、大事なh(以下略)……。
    ああっ、もう忠誠心と愛おしさとアレやソレがイロンナ所から迸りそうですオシタオシタイ。
       そんなに想って頂けていたなんて思っても居ませんでしたチュッチュペロペロシタイ。
    しかし、そんな事を言い渡されては尚更離れることなど出来ようはずがありません。
    その事、如何にして御理解いたきましょうかシンボウタマリマセン!!)

 まぁ、かなり衝撃的だったらしい。
 極めて不穏な物も混入していたりする訳だが。

 僕「……駄目、かな?」

 そんな玉藻を僕が少し困ったように上目遣いで見つめる。

 玉藻「あ、主殿……。」

 僕「ぅ?」

 僕が首をかしげた。
 そんな僕に息を荒くした玉藻がにじり寄る。

 玉藻「……幾等言葉を重ねても、恐らく御理解頂く事は無いのでしょうね?
    (主殿、その角度は反則デス……ハァハァ)」

 僕「えっと……?」

 そして、僕をやさしくベットに押さえつけた。
 押さえつけられている僕は、何をしようとしているのか解らないと言いたげな顔で目を白黒
 させている。

 ナース・宮藤「「ワッフルワッフル」」

 さらに、沈黙とともに一部始終を見守っていた芳佳とナースが興味津々といった面持ちで
 ベットサイドにかじりついていたりもする。

 止める気は無いらしい。

 <ステンバーイ……ステンバーイ……

 玉藻「なので、主殿には頭では無く体で御理解いただきましょう。(ゴクリ)
    御安心下さい、総て私がシテ差し上げますので。(グフフフ……)
    ……少々、お早いかも知れませんけど……ね。(ムフー!!)」

 などと宣いつつ僕に覆いかぶさる玉藻。
 昂ぶる自分をなだめる様に、ゆっくりと僕の病室着に手をかけた。
 見学者二名が期待に目を輝かせて見守っているのだが、最早眼中には無いらしい

 ナース・宮藤「「ゴクリ」」

 二人が固唾を飲んで見守る、しかしそうは問屋が卸さなかった。




 <ゴッ!

 「其 処 ま で だ こ の 馬 鹿 エ ロ 狐ェ――――――ッ!!」




 突如として病室の扉が開け放たれ、叫び声と共に紅い色の何かが飛び込んだ。
 飛び込んで来たソレは水平に飛行できる程の速さを持ち、その速度と質量を破壊力に変えて
 今にも僕の服を剥ぎ取ろうとしていた玉藻の脇腹へと足刀を突き刺す。

 玉藻「ゴフッ!」

 身長178cm(人型時)という、女性としては高身長の体格を持つ玉藻と言えど堪らず
 ベッドの向こう側へと弾き出され、その場所を飛んで来た者に明け渡した。

 ナース「何事!?」

 宮藤「あれ……?。」

 玉藻と入れ替わり、僕の太腿の上辺りに馬乗りになった者を僕が確認した。
 其処に居たのは己の師である俺に憑く使い魔の鬼、童(見た目18歳バージョン)であった。

 僕「……童ちゃん?」

 童「よっ、危ない所だったな。
   大丈夫か?」
最終更新:2013年01月28日 14:03