ある日の朝の出来事でした。
この基地に俺さんがやってきてから数日が経ちました。
そして今日は、俺さんがやってきてから
初めての私の食事当番の日です。
俺さんの故郷の・・・日本、だっけ?という国と、私と坂本さんの故郷の扶桑は、
世界は違っても同じような国かもしれない、って坂本さんが言っていましたが、
料理も似ているのでしょうか?私の料理が俺さんのお口に合うかどうか、ちょっとドキドキです。
ガチャッ
食堂のドアが開いて、
俺さんがやってきました。
宮藤「おはようございます、俺さん!」
俺「・・・ああ」
気だるそうに俺さんは答えました。
宮藤「どうかなさったんですか?」
私は質問してみましたが、
俺「・・・」
俺さんはそのまま席に座って、答えてはくれませんでした。
言葉に出はしませんでしたが、私にはその俺さんの沈黙が
「わかりきったこと聞くな」って言っているように感じました。
・・・確かに、よく考えれば俺さんの気が晴れない理由は明白でした。
もう少し言葉を選べばよかったな・・・
ちょっと悲くなったけど、気を取り直して。
私はお茶碗にご飯をよそって、俺さんに差し出します。
宮藤「俺さん、どうぞ」ニコ
俺「・・・」スッ
俺さんは黙ってそれを受け取りました。
そしてお盆に置いて、手を合わせて、
俺「・・・いただきます」
小声でそう言って、軽くお辞儀をしました。
宮藤「!」
私は、俺さんのその仕草と言葉に覚えがありました。
坂本さんも・・・いえ、扶桑の人ならみんな知っています。
ゲルト「宮藤、どうした?」
リーネ「芳佳ちゃん?」
リーネちゃんとバルクホルンさんがそう尋ねてきますが、それどころではありません。
宮藤「俺さん!」
俺「・・・ん」
宮藤「俺さんがいた・・・えっと、日本でも、それやるんですか!?」
俺「何がだ」
宮藤「その、食前と食後のあいさつですよ!」
俺「・・・」
俺さんは不思議そうな目で私を見て、そして、
俺「・・・ああ」
肯定しました。
宮藤「!」パァッ
私は、なんだか嬉しくなってきました。
俺「やらない奴はいないんじゃねえかな・・・」
そこも扶桑とおんなじだ・・・嬉しい!
あ、そうだ。私は再び俺さんに尋ねます。
宮藤「俺さん」
俺「・・・今度はなんだ?」
俺さんは少し不機嫌そうにこう聞き返してきましたが、私は気にせずに次の言葉を紡ぎます。
宮藤「扶桑料理を作ったんですけれど・・・これ、どうですか?」
俺「どうって、何がだ?」
宮藤「日本と、同じですか?」
俺さんは、目の前の私の料理に目を移し、少しの間それを見つめました。
数秒した後、俺さんは再び私に目をやって、
俺「・・・」コクリ
頷きました。
宮藤「じゃあ、やっぱり扶桑と日本は同じような所なんですね!」
俺「・・・俺は扶桑に行ったことはないけど、・・・かもな」
宮藤「!」ニコニコ
私は自然と笑顔になるのを感じました。そんな私に対して、俺さんは、硬い表情のまま、
俺「そんなに嬉しいことかよ・・・?」
と呟きました。
宮藤「はい!」
俺「・・・」ピクッ
シャーリー「俺?」
宮藤「嬉しいに決まってるじゃないですか!」
俺「・・・」
私の中で、俺さんの世界の日本に興味が湧いてきました。もっと共通点はないのかな?
宮藤「あの、俺さん」
俺「・・・」ジロッ
露骨に機嫌が悪そうな顔で私を見ます。・・・でも、それくらいじゃ私は動じません。
宮藤「もっと日本のことを教えてください!」
俺「・・・はぁ」
俺さんは、「嫌だ」と言わんばかりに溜め息をつきました。・・・
宮藤「今じゃなくてもいいです、後で・・・いえ、いつか、教えてくださいませんか?」
俺「気が向いたらな」
にこりともせずに俺さんは言いました。・・・なんだかそっけないなぁ。
宮藤「・・・」ショボン
リーネ「芳佳ちゃん・・・」
ついしょんぼりしてしまった私を見て、リーネちゃんも悲しそうな顔をしました。
いけない、私がこんな顔しちゃ・・・
ゲルト「・・・おい俺・・・」
そして、バルクホルンさんは、
俺「なんだよ」
ゲルト「貴様ァ!!」ガタッ
何故か怒りました。・・・あ、あれ?
宮藤「ちょ、ちょっとまってくださいバルクホルンさん!」
ゲルト「なんだ!」
宮藤「どうしてバルクホルンさんが怒るんですか・・・?」
ゲルト「え・・・」
私の質問に、珍しくバルクホルンが言葉に詰まります。
ゲルト「それは・・・み、宮藤が・・・」
私?
『・・・』
そんなバルクホルンさんの態度に、みんな黙ってしまいました。
ゲルト「・・・」
俺「・・・」カチャカチャ
俺さんは納豆をかき混ぜています。あ、納豆食べられるんだ・・・
俺「・・・」
そのまま納豆をご飯にかけました。・・・ペリーヌさんが恐ろしいものでも見るかのような目で俺さんを見ています。
その光景をぼんやりと見ながら、私はふと思いました。
俺さんは、どうしてこの世界に連れてこられたのでしょうか?・・・神様か誰かのせいでしょうか?
だとしたら・・・神様は、何を考えて俺さんをこの世界に呼んだのでしょうか?
・・・私は考えるのは苦手だし、そもそも考えたって仕方ないことかな、と思い、考えるのを諦めました。
でも、はっきりしているのは、・・・俺さんがこの世界にいるということは、
私にとっては異世界の扶桑のことを知るチャンスだということです。この機を逃したら、私は一生知ることは無いのでしょう。
だから、私の当面の目的は、「俺さんが気を向けてくれるように頑張る」ということに決まりました。
漠然としてはいますが、やることは単純、たった一つです。俺さんと一緒に、ここでの生活を頑張るということです。
そうしていれば、いつか、日本のことをきっと話してくれる。そう信じて、
・・・とりあえず、私は食事をする俺さんにこう尋ねます。
宮藤「俺さん、美味しいですか?」
俺「・・・」モグモグ
俺さんは、頷きもせず、首を横に振りもせずに、黙々と私の料理を口に運ぶだけでした。
最終更新:2013年01月28日 15:54