1945年7月、ヴェネツィア沖50km。
 扶桑海軍儂中将率いる連合軍統合戦闘艦隊、第一遊撃部隊は空を覆わんばかりに押し寄せるネウロイと激烈な対空戦闘を展開していた。
 ガリアに続く欧州における第二の決戦に臨むにあたって、統合艦隊司令部は可能な限りの戦力を結集していた。
 主力艦だけで扶桑の空母天城、千歳、千代田、戦艦大和、カールスラントの戦艦ビスマルク、ロマーニャの戦艦リットリオ、ドージェ 、そしてブリタニアからはプリンス・オブ・ウェールズを含むKGV級戦艦が4隻参加している。
 空母3隻、戦艦9隻に加えて、その周囲を固める駆逐艦群は-防空性能が高いことでしられるリベリオンのフレッチャー級を含む-各国の新鋭駆逐艦14隻がその防空任務に付いていた。
まさに 人類が今持てる戦力全てを結集した艦隊だった。
 統合艦隊旗艦天城の昼戦艦橋から艦隊司令長官儂中将は、睨むように戦況を見据えていた。主要防御区画内にCIC--中央指揮所--を持たない扶桑の艦艇では、総司令官以下の艦隊司令部員全てが危険な昼戦艦橋に集まっている。儂中将の目前では無線から伝えられる艦隊に所属する各艦からの報告に対して、参謀たちが次々と戦術的な議論を交わしていた。

「電探より報告、敵第二波後退していきます」
「各艦に連絡、被害報告セヨ」
「損傷の激しい艦は後退させろ」
「戦闘可能な艦を下げさせるなよ、決戦だぞ」

全艦に防空戦闘を命じたこの段階では、彼の指揮権で出来ることは--艦隊総司令という肩書きから一般人が想像するそれより--驚くほどに少ない。
 乗艦である天城の操艦及び戦闘指揮は杉田艦長以下の士官の任務であるし、戦隊行動、空母航空隊、そして第501統合戦闘航空団、それぞれの部隊の指揮官が彼の描いた戦局図を実現するために全力を尽くしている。
 彼が次に命令を発することが出来る局面は、戦況が決定的な状況に達したときだけだった。
すなわち、決戦兵器たる大和がネウロイの巣を粉砕したときに発する追撃命令、そしてもうひとつは、作戦が失敗したときに発する全軍退却の命令だけだからだ。
 頼むぞ、杉田艦長、坂本少佐。儂は自身の無力に歯噛みする気持ちで思った。大和を曳航するこの天城が損傷を受けることはそのまま、作戦の成功率の低下を意味する。そのために儂中将は、旗艦の直衛には、恐らく世界一であろう戦闘力を持つ501航空団を付けたのであるし、扶桑海軍一の操艦術を持つ杉田大佐を大和から引きぬいて天城に乗せていた。
 圧倒的な数で迫る敵の攻勢に対して、501が行う戦闘は見事としか言うことのできないほどのものであったが、百倍にも達している数の暴力に対して度重なる爆撃を許していた。つまり、機動性の低い空母がここまで一度も被弾せずに来れたのは、杉田艦長の巧みな操艦のみがなせた奇跡であった。


 統合艦隊旗艦天城-防空指揮所-

 艦橋の最上部に位置する防空指揮所では、天城艦長の杉田大佐が操艦の指揮をしていた。露天の防空指揮所は言うまでもなく危険な場所だが、その危険の何にも勝る見晴らしの良さから大抵の艦長はここで防空指揮をを行っている。

「敵機複数右ヒトゴーマル(150)度、旋回運動」
「本艦の中心線上を占位しつつあり!」
「取舵ヒトマル(10)」

 八方に各二人ずつ位置する見張り員から次々と飛び込む報告を受けて、杉田は回避運動の準備行動を指示した。すでに獲物を睨む狩人のような厳しい視線を上空の敵機編隊に向けている。敵機が爆弾を投下しようとするその瞬間を見極めようとしているのだ。敵機が艦の直後方に位置した瞬間、杉田は操舵員に向けて叫んだ。見張り員の報告がそれに重なる。

「取舵一杯!」
「敵機急降下!!」

 取舵方向に行き足のついていた艦はその巨体からは、驚くほど機敏に方向を変えた。
ネウロイが投下した光弾は、目標を見失い海中で炸裂し、虚しく海水を巻き上げた。海水が雨のように吹きつける中で、杉田は杉田は背筋に冷たいものを感じていた。

「被害報告!」
「各部異常なし。全力発揮可能です」

 輪形陣を組む艦隊の中央に位置する天城についに至近弾があった。それが意味することはすなわち、艦隊の防空に穴が生じたということに他ならない。既に501の支援に繰り出した艦載機の半数が未帰還となっている。
 幸いにもウィッチに損害はないがこの戦況ではいつ迄持つかわからん。杉田は思った。

「敵第三波来ます!」

 見張り員の言葉に、杉田はネウロイと航空部隊の入れ乱れる戦闘空域を再び見据えた。(なんだ。何かおかしい?)杉田は前方に広がる光景に違和感を覚えた。(爆撃機が少ない……いや!いない!まさか!?)

「空戦型ネウロイ多数と確認、艦長!これは!?」
「敵機全機大和に向かいます!狙いはウィッチです!」
「なんだとっ!?」



  • 大和上空2000m-

『司令部ヨリ空戦指揮官へ、敵援軍ハ空戦型多数ト認ム。十分ニ注意サレタシ。援護ノ要望アラバ全力デ之ニ応エン』


「あぁっ!?」
「囲まれたっ!?」

度重なる敵の攻勢に、幾度かの着艦休憩を挟んで防空戦闘を繰り広げていた501だったが、敵の主目標の突然の変更に対応する一瞬の隙を突かれて各機の連携に乱れが生じていた。そしてついに、大和直上でお互いの背後を守るように飛んでいたペリーヌ、リーネがその数の暴力の前に捕まった。数機のネウロイが彼女たちの後方についている。

「リーネちゃんっペリーヌさん!」

 そう叫ぶ宮藤だったが、数十のネウロイによる大和への一斉砲火を防いでいる最中であり援護にまわる余力はなかった。あるいはネウロイはこの巨大なシールドを持つウィッチをそこに釘付けにするために
、それを行っているのかも知れなかった。

後方より迫り来るネウロイの火線をかろうじて掻い潜っていた二人だったが、最高速度、機動性共に勝る相手を振り切るのことは生半可な技量でなせることではなかった。いや、あるいはペリーヌひとりであったらそれは可能だったはずだ。しかし彼女には僚機がいた。リーネは才能の優れたウィッチであったが、一流のエースとなるにはまだ経験が圧倒的に不足していた。そしてなにより、格闘戦は彼女の最も苦手とするものであった。
リーネが追従できるぎりぎりの機動で敵の追撃をかわし続けるペリーヌであったが、このままではいずれ限界を迎えることが彼女にもわかっていた。

「ペリーヌさん……。私を置いて逃げてくださいっ! 私が足を引っ張って」

前方を飛ぶペリーヌに向けて言うリーネ。それに遮るようにペリーヌは叫んだ。

「お黙りなさいっ! 貴女はわたくしに親友を置いて逃げる恥知らずになれと言うんですの!? そんな世迷い事を口走る暇があるなら、戦闘に集中しなさいっ!」

自力ではどうしようもない状況だが、彼女はひとりではない。こうして飛んでいる限り、仲間がきっと援護に入ってくれるはずだと、ペリーヌは信じていた。彼女の仲間は世界一のエースたちなのだから。

しかしついにその希望も水泡に帰した。最初に被弾したのはリーネだった。

「リーネさん! 上から来ます!」

直上から迫る空戦ネウロイにペリーヌは無意識に、戦闘脚を操った。右ヨーからのハイGバレルロール。敵機の狙いを完全に外すことに成功する。しかし、次の瞬間後方より響いた悲鳴に、全身が粟立った。

上方からの奇襲に完璧に対応したペリーヌであったが、その高度な空戦機動にリーネは完全に取り残されていた。
ネウロイの光線がリーネの左脚をかすめる。マーリン魔道エンジンは2、3度大きく振動した後、黒煙を吐いてその機能を停止した。きりもみしながら落下するリーネを見てペリーヌは血相を変えた。二人がいたのは大和の直上。落下すればその体は海上ではなく、硬い甲板に叩きつけられることになる。

 もちろんそんなことを考えるより先にペリーヌはリーネを助けるために急降下に入っていた。その判断の速さと幾分の幸運によってペリーヌは墜落死寸前でリーネを抱き抱えることに成功した。
 しかし幸運の女神はいつまでも微笑んでいてはくれなかった。被弾していたリーネの飛行脚が爆発。その余波にやられてペリーヌのストライカーもその機能を停止した。
 こうなってはガリアのエース、青の一番といえどもただ出来る限りのシールドを貼って落下の衝撃に備えることしか出来ない。

僚機の墜落、その光景を前にして宮藤は弾かれたように飛び出した。

「リーネちゃああんっ!!!ペリーヌさあああん!!」

当然指揮官から叱責が飛ぶ。

「宮藤さん!待ちなさいっ」
「いや、いいミーナ。このままでは宮藤は戦えないだろう。宮藤ぃ!!大和内で二人の治療を行え!上は私たちが守る!」

それに割りこむように坂本が叫んだ。

「!?……もうっ。これだから扶桑の魔女って!」
「すまんな。ミーナ……」
「いいわ。編隊各機に告げます。フォーメーション・ドーラ。大和防衛に全ての力を注ぎます」

 各機から了承の声が上がる。依然として大和に集中する火線の中で501部隊は劣勢を強いられていた。もともとの数で圧倒されていた上に、三機が戦線を離脱したことで濃密に貼られていたはずの防空網に穴が空いていた。

「第四波……爆撃型ネウロイ約50機来ます」

 サーニャの魔導針が敵の第四波を捉える。

「うじゅぅ…防ぎきれないよー」
「主要区画以外なら通しても構わん!大和は戦艦だ!沈みはしない」

 事実だった。戦艦は同級艦との直接打撃戦を想定して設計されている。46センチ砲の直撃クラスでなければ傷はついても沈むことはない。だがしかしそれには例外もあった。

「しかし少佐!中には宮藤たちがっ!」

 バルクホルンが声をあげる。
 頑丈に作られた艦が無事でも中の人員はそうはいかない。そして扶桑海軍の設計思想には、伝統的にダメージコントロールの中に人員を含めないという悪癖があった。

「大丈夫だ!大和の防御力を信じろ!!」

 扶桑海軍軍人の坂本がそれを知らないわけがない。しかし彼女には佐官としての責任があった。大和の性能を過大に発して、部隊の士気を維持する。指揮官としての判断だった。

「それより中佐。あとどれくらい守ればいいんだ?こっちはそろそろ打ち止めだぜ」

 不毛な議論に割りこむように、シャーリーの冷静な声がインカムに入った。部隊の調整役の彼女らしい配慮だった。その言葉に込められた意味を読み取って、歴戦のウィッチ達は防空戦闘に意識を戻した。
ミーナが返答する。

「八分よっ! 各機僚機と支援しあってちょうだいっ」
「りょーかい! いくぞおおルッキーニぃぃ」
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁ!」

 ルッキーニを連れてシャーリーが勢い良く飛び出した。しかしその心中は勢いとは真逆だった。

(この戦況で八分か……)

シャーリーはふと後ろを飛ぶルッキーニに振り返った。目が合ったルッキーニが微笑んだ、戦場に似合わない無邪気な笑みだ。その笑顔が、シャーリーの中にあった迷いを吹き晴らした。シャーリは思う。

 何かを守るために……か。宮藤のやつが言っていたことが少し分かった気がする。少なくともこの小さな笑顔だけは絶対に守りぬいてやろう。そう、たとえこの身に代えることになっても。

 眼前に高速で迫る中型爆撃ネウロイに向けてBARを打ち鳴らす。 しかし7.62mm弾ではその厚い装甲を撃ち抜くには足りなかった。

「シャーリー!!」

ルッキーニが心配の声を上げる。(ルッキーニ、そんな悲しい声で私の名前を呼ばないでくれよな。こんなやつ私があっという間に吹き飛ばしてやるからさ)そう心中で告げると、シャーリーは全速でネウロイに向けて突進した。前方に貼ったシールドがネウロイと接触する。衝撃に全身の骨がみしみしと音を立てている。(堅いな。だけど!!)シャーリーは自身の持つ超加速の魔法を発動させた。P-51Dのマーリンエンジンが咆哮をあげる。

「いっけぇー!!」

シャーリーが叫ぶと同時に、シールドがネウロイの装甲を完全に粉砕した。シャーリーの目が正面のネウロイのコアを捉える。照準を合わせる。射撃。BARのあげる金切り声がネウロイの悲鳴のように響いた。そして、その7.62mmがネウロイのコアを貫いた。ネウロイの破片がきらめく中心で、シャーリーは叫んだ。

「さあ来い!今日のグラマラス・シャーリーは一味違うぜ!」




 急速に悪化する戦況の中で奮闘する彼女たちを救ったのは、戦場の主役としての座をとうの昔に奪われた一隻の戦艦だった。

「大和直衛ウィッチ被弾。大和内で治療を開始」
「艦長!落ちたのは宮藤軍曹だそうです!」

 副長の言葉に、艦橋がどよめいた。統合艦隊派遣ロマーニャ艦隊旗艦、ヴィットリオ・ヴェネト級二番艦リットリオ。アドリア海でウィッチーズに、宮藤に救われた恩を彼女は忘れてはいなかった。艦長である俺大佐が口を聞いた。

「ふむ。副長。近頃の連合軍内に広まる我が軍に対する不名誉な噂を知っているかね」
「は?」
「なんでもロマーニャ軍はヘタレの集まりで、仲間にしない方がマシ、勝率があがるそうだ」

 突然の俺の言葉だったが、彼がまだ水雷艇の艇長だったころから付き従ってきた副長はそれだけで彼の決意を理解する。

「はっ。なんとも不名誉な噂ですな。しかしまるっきりの中傷というわけでもありますまい。我が国民は一般的な戦場での勇敢さに欠けるところがありますからな」

副長の言葉に、否定の声が上がった。勤務態度に難があることで知られる、砲術長だ。

「しかし副長!今はそんなくだらない戦場なんかじゃありませんぜ!!」
「その通りだ砲術長。目の前でお姫さまが困っている。ならば我々は何かね?ヘタレ国家ロマーニャの弱兵かね?それとも……」

砲術長の言葉を継いだ俺の問いかけに艦橋にいた全ての男達が立ち上がる。それを代表して副長が答える。

「決まっています。我々は騎士です。イイ女の前で意地も張れぬなどと、男としてありえませんな」
「艦長!連合軍の連中に教育してやりましょう本当のロマーニャの男の勇気というものを」

 我が意を得たりと、俺艦長は大きく頷き命令を発した。

「これより本艦は艦隊指揮下を離れる!全速前進。全砲門使用自由。大和の前に回りこめぃ!」

 それが当然と言わんばかりに副長が答える。

「了解!男の見せどころですな」

 大和の前に出る。つまりネウロイの巣と大和の間に位置することでネウロイの攻撃を自らの方に逸らそうと言うのだ。ネウロイ化後の自己修復を想定して無人曳航されていた大和とは違い、彼女は兵員を乗せていた。

「左砲戦用意。射撃準備急げ」
「機関全速発揮中。本艦現在31ノット」
「射撃準備完成!」
「撃てぃ!」

 しかしそれでもだれも恐れていなかった。かつてその身を救ったウィッチが、墜落した仲間を助けるために大和内にいる。その状況で黙っていられるほど彼らの誇りは安くはなかった。ロマーニャの男は女性を守るためなら世界で最強。その言葉を、彼らは自らの血肉をもって示そうとしていた。




 轟音が響き船体が大きく揺れた。身体を揺らす衝撃にリーネは目を覚ました。あたりを見回す。薄暗いがどこかの艦艇の中のようだ。

「リーネちゃん!よかったぁ……」

 リーネの足元から聞きなれた声が聞こえた。芳佳の手は回復魔法の光で輝いていた。そうか私ネウロイにやられて…。確かペリーヌさんに助けられて、そしたら私のストライカーが……っ。

「芳佳ちゃん!ペリーヌさんはっ?私のせいで!!」
「大丈夫だよ。ペリーヌさんはもう気が付いて自分のストライカーを修理してるの。それよりまだ動いちゃ駄目。すっごい怪我だったんだから

 装着状態のストライカーの爆発によりリーネは足の付根に大きな傷を負っていた。今まがりなりにも繋がって動いているのは宮藤の迅速的確な処置の賜物だった。船室の扉が乱暴に開かれペリーヌが飛び込んで来る。

「宮藤さんっ。修理が終わりましたわ。脱出しますわよ」
「でもまだ治療が終わっていません!動かすのは危険です」

 宮藤の言葉は事実だった。リーネの怪我は宮藤の魔法で、かろうじて塞がってはいるものの本格的な治療が必要だった。

「でももなにもありませんわ。この場の最上級者はわたくしです。従ってもらいますわ。……それに、先程の攻撃で前方で大和の身代わりになっていた戦艦が被弾いたしました。次の攻撃には大和はともかく、私たちは耐えられませんわ」
「!?っロマーニャの戦艦が……」

 巧みな操艦とその強靭な装甲で、大和の盾となっていたリットリオだったが、度重なるネウロイの攻撃の前についに避けきれずに主要部への被弾を許していた。

「でもっまだみんなが!」
「いいえ中佐を含む全員が既に魔力切れを起こして天城に退避しています」

 退くことさえ出来ない戦況で絶望的な抵抗を続けていた501だったが、リットリオの乱入により担当空域が減少、魔力切れの隊員から順次着艦していたのだった。

「リーネさんはわたくしが背負います。いきますわよ」

 言いながらも、既にリーネを背負いペリーヌは走り出していた。目的地はストライカーを収納した後部格納庫だ。

「……了解」

 宮藤はペリーヌを追って駈け出した。しかしこの場にもう一人居れば気づいただろう。宮藤の手が治療中も含めて常に脇腹に当てられていたことに、駆け出す宮藤の顔が一瞬苦痛に歪んだことに。だがペリーヌは気づかない。声に張りがないことすらも、彼女には医者として了承しかねる部分があるのだろうと考えてしまっっていた。

 ストライカーを装着しエレベーターで後部甲板に出た三人が見たものは、
大火災を起こし、天を衝かんばかりに黒煙をあげるリットリオの姿だった。

「戦艦が……」
「……沈む」

しかしその艦首はは本来ならありえない方向、天に向かっていた。いや
彼女の命運を考えれば、あるいはその艦首は進撃する方向に向いているのかもしれなかった。

 衝撃と轟音が発生した。俺大佐は身体に力を込めてなんとかその衝撃をやり過ごした。

「各部被害報告!」
「右舷艦尾被弾。火災発生」
「機関部に直撃弾、出力維持出来ませんっ!」
「左舷後方第五区画漏水発生。右舷応急注水開始します」
「傾斜角戻りません!現在4度」

 手の施しようのない大傾斜をおこした艦の防空指揮所にて俺は最後の命令を発した。俺の命令を受けて通信員が全艦に総員退艦を伝えた。

「もはや……、ここまでか。総員退艦せよ」

 俺は生き残りの士官を見回した。全員に向けて敬礼をする。軍隊では敬礼は本来下級者から行うものであるが、何故かこのとき俺はそうしたかった。全員からの答礼を確認し告げる。

「今まで俺によく従ってくれた。諸君らの祖国と海軍への忠誠に感謝する。副長!退艦の指揮を頼む」
「はっ!お別れですな。なに我々もすぐに行きます」

 副長の指示に従い、艦橋部の生き残りが退艦を開始する。生き残りの中からは俺の心意気に心服し、退艦を拒むものが続出するが、俺はその一人一人の肩を叩き、「しっかりやれよ」と激励して、水中に付き落とした。
 艦内に一人残った俺は最後の信号を発信すると、自身の身体を羅針盤にきつく巻きつけた。あんだけカッコつけて生き残ったら洒落にもならない。
 海水が侵入してくる。俺が黒煙の向こうにみた最後の光景は、大和の中から人を背負ったウィッチが飛び出すところだった。よかった、俺達の突撃は無駄じゃなかったんだ。
 しかし海中に沈んだ彼は、知らない。彼が最期に見たウィッチはペリーヌ・クロステルマン中尉、背負われていたのはリネット・ビショップ曹長であるということを。彼と彼の艦をかつて救った恩人、宮藤軍曹は、未だその身を大和内に置いているということを。


 その身をポセイドンの神殿へと沈めたリットリオ。彼女の沈没により戦場はさらに混迷を極める。ウィッチの退いた戦場で男たちの戦いが始まる。そしてその身に宮藤を抱いたまま、大和が飛翔する。次回男たちの最終回~儂中将編~。お楽しみに~
最終更新:2013年01月28日 16:24