過去編 第1話「出会い」






いつも一人だった。

隣には誰もいなくて、後ろにも前にも誰もいない。

何も知らないし、何も持ってないし、何もできない。


歩く道は氷河。
四季はなくただ寂しい冬の荒野が広がっている。
流れでた汗と血はたちまちに凍りつく。

春などない。







魔法力を自分の中に見つけたのはいつだったろう、それから軍に入るのを希望したのはいつだったろう。
でも断られたっけ。俺に関する情報が少なすぎるって。
戸籍なんてものも血統主義のカールスラントじゃ作れなかったな。出生地主義でもないし。
だけど上官が俺をある部隊に来いと勧誘にきた。
それで気が乗って入隊したのはよかったが……いろいろ最悪だった。






眼下の街並みが轟々とした火であんぐりと包まれて今やなにもかも燃やされ空にはその灰と火の粉が飛び散る。
空は煙と灰のせいか夜のように暗くて気味が悪く、どんよりと重い空気は体を締め付けて息苦しい。



ダイナモ作戦……これが始まってからもうどのくらいになるだろうか。
ウィッチや兵器の力をもってしてもネウロイの進撃は止まらず、已然として世界的な死の危機にさらされている。
国民が避難する時間稼ぎをしているのが現状だ。毎日目にする逃げ惑う人々はもうこの燃え盛る街の中には存在しない。

今回もなんとか時間を稼ぐことができたようだが、満足のいくものではなく、大多数の人々がこの硝煙と炎のなかへと消えていったのは間違いのないことだ。




ザザッ―


『俺少尉、現状報告をお願いします』

俺『街の人々は避難をすでに完了している。ブリタニアへの船が到着次第終了です』

『街の被害を』

俺『街の被害は尋常じゃありません。もう火の海です』

『わかりました。あとは他に誰もいないか見まわってください』

俺『了解』




血のついた赤い手に灰がひたと落ちてじゅっと手のひらを焦がした。


俺「……ん?」


手のひらを見つめながらぼーっとしていると視界の端にわずかに赤い閃光を捉えたが、見間違いかと思い視界を向ける。



俺『戦闘か……?こちら俺少尉、街から東の方で戦闘が行われているみたいですが?』

『別の部隊が大型ネウロイと戦闘をしているようです。どうなされますか?』

俺『もちろん向かいます。他のやつらの手助けは必要ありません』

『了解しました。あとブリタニア行きの船はもうじき到着します。出航までには船に乗り込んでください』

俺『了解しました』







近くに来るとネウロイが視認でした。どうやら大型一機の模様。
その周りをひゅんひゅんと飛び回る二つの影がある。俺と同じウィッチのようだが、どこの部隊かは選別がつきにくい。



俺『こちら俺といいます。ネウロイと交戦中のウィッチに告ぎます。どこの部隊ですか?』

?『ぐっ……こちらはカールスラント空軍第52戦闘航空団第2飛行隊だ。現在ネウロイと交戦中!』



苦しそうな声と息切れをする音。魔法力も疲労も限界に来ているのだろう。



?2『俺って言ったけ?ちょっと手伝って!』

俺『かまいません。微力ながら手をお貸しします』

ハルトマン『私はエーリカ・ハルトマン、よろしくね!』

?『はぁッ……はぁッ……感謝する』



おかしい。なぜこの二人だけ戦闘をしているんだ?他のウィッチたちはどうしたのだろうか。
大型なら二人じゃなくもっと多い人数で十字砲火をあびせて落とすのが楽なんじゃないだろうか。


とりあえず背中から扶桑刀を抜き一気に氷結させ大剣を作り出し、重々しく構えた。


俺『ほかの方々はどうしました?』

?『先に撤退してブリタニアに向かったウィッチが多数だ。もう船も次で最後だろう。私たちは最後まで残っているつもりなんだ』

俺『そうですか。でももう二人も限界のようなので下がられたほうがいいと思います』

?『撤退しろ、と言っているのか?』

俺『そのとおりです』

?『そんなことできるわけないだろう!皆が避難するまで退くわけにはいかない!』

俺『……わかりました。ですが無理をしないようにお願いします』

ハルトマン『くるよ!!』





その凛とした声とともに届いたのは赤い閃光。俺はすぐさま体を捻り回避。
すぐさま戦闘態勢を取り大剣に力を込め、大上段から切り下ろした。無数の氷柱が刃表面から放出され、高速でネウロイの装甲と衝突する。
黒光りするネウロイの体を抉ると同時に、コアを見逃さず確認。




ハルトマン『おぉ~やるじゃん!はぁ……はぁ……!』

俺『どうやらコアは敵の頭部当たりですね。俺がこじ開けます。そこを二人は打ち込んでください』

?『了解した』

俺『いきます!!』ヒュッ




もう一度大量の氷柱を精製しネウロイへと弾丸のように撃ち放つ。
ビームで対抗してくるネウロイの間をかいくぐった氷柱はネウロイを先ほどと同じく貫き真紅のコアを露出させた。

そこを狙って二人のウィッチは狩人のごとく眼光を鋭くさせ獣のようにビームをかわし機関銃を構え、狙いを定め撃った。


しかし、獲物を狩るときが一番危ない。




俺『おい!!そこのウィッチ危ない!!!避けろ!!』

?『―――え?』




だが同時に弾丸を撃った瞬間標的になったのだろう、ネウロイのビームが髪を後ろで二つに結び分けた女を貫いた。

シールドを反射的に張ったようだが魔法力が満たされていない状態ではビームからすれば紙も同然だ。

赤い液体が中空へと飛散する。



そしてさらに同時に金髪少女、ハルトマンがネウロイのコアを破壊。ネウロイは真っ白の結晶へと変化を遂げた。



?『かはっ―――ッ!』

ハルトマン『トゥルーデ!!』

俺『(煙で視界が遮られたか!?)おいっ!!』

ハルトマン『トゥルーデッ!!』



ハルトマンと俺は急いで地面へと墜落するトゥルーデと呼ばれた少女を追いかける。
……地面に激突する前になんとかキャッチ、意識があるか確認をする。



俺『おい、あんた。大丈夫か?』ペシペシ

?『あぐっ……こほっ……』

俺『致命傷にはギリギリなっていないな……。急いで港にいきます。医者の一人や二人はいそうですから』

ハルトマン『う、うん。トゥルーデ、しっかりしてね』

俺『ハルトマン少尉、あなたは限界でしょうから俺がこの人を担ぎます。なるべくついてきてください』

ハルトマン『わかった』



意識を失った女性ウィッチを俗にいうお姫様抱っこをしてブリタニアへ向かう船が来るであろう場所へと急いで飛んだ。









ハルトマン『もうすぐ船が来るみたいだよ。人が集まってる』

俺『そのようですね。ハルトマン少尉は医者を連れてきてくれ。俺は応急処置をするから』

ハルトマン『わかった!すぐつれてくる!』



地に降り立った俺達はトゥルーデと呼ばれる少女を助けるために動き出した。
俺は上に来た灰色のジャケットを脱ぎ水平な地面へと敷いてから少女を寝かしつける。
傷の箇所と状態を確かめるために少女の軍服を割き、タオルでぎゅっと抑えつけて止血、さらに他に怪我をしていないかを確かめる。



俺「腹部だけか。深くはないが……」ギュッギュッ
?「あぐっ……!」



意識を失っていても痛みに体が反応するようだ。
だが俺はその少女の苦しそうな表情を見ても、血を流すのを見ても、特になんとも思いはしない。感情をこめずに処理していく。
そんなとき耳につけたインカムから耳障りな音が入った。




『ザザッ……俺少尉、応答を願います。現在位置を』

俺『現在港です。どうかしましたか?』

『そこへ向けて中型3小型12、計15機が向かっています。ただちに撃墜を』

俺『今現在ウィッチを応急処置中です。他のウィッチを向かわせてください』

『他にはもういません。すでに全員ブリタニアへ到着しております。あとは俺少尉、あなただけです』

俺『(チッ、俺の部隊は本当にこれでも軍の一部なのか……?)』




戸惑った。

この船で全員ブリタニアへ向かって、ダイナモ作戦は終了となる。

このまま最後の船に乗る気まんまんでいたわけだから放置されるかもしれないという問題があるわけだ。

そしてさらに厄介な問題がもう一つ、この伝達を気絶しているはずの少女が聞いていたということ。




?『ぐ……だ、大丈夫だ。私が、向かう……ッ!』

俺『おい、起きるな。怪我をしてるんだぞ!』

?『かまわんさ。こんな、体で、みんなが助かるなら……どうだってなっていい』

俺『だめだ。今は寝ていろ』

?『だめだ、戦わないと……。ここに、ネウロイが来るん、だろう?』

俺『……そうだ。だが船もすぐにでるはずだ。そろそろ積荷したし人も乗り込んだからな』

?『こ、このままじゃ船もやられてしまうだろう。頼む……いかせてくれ、私は、みんなのために戦わないと……』

俺『その怪我でなにを……』

?『私は、みんなを守らなきゃなら……ないんだ』グググ

俺『なぜ……そこまでして』

?『もう、みたくないんだ。自分だけ逃げて誰かが死ぬのは、もう嫌、なんだ』

俺『……自分が死ぬのが怖くないのか?』

?『何も守れない方が、怖いからな、げほっ』

俺『……』





なんでこんなに必死なんだ。

おかしいだろ、今あんたが死んでも誰も気にもとめないと言うのに。

なんでこんなにかっこいいんだ。

……なぜそこまでして誰かのために戦おうとする。



ああ、この少女を前にすると自分の弱さに腹がたつ。
ここまでぼろぼろになって、すすで顔を汚して、髪もぼさぼさで……本来ならもっといい生活をしているはず。
そんな少女が誰かを守ろうとしているのに自分は逃げ出そうとしている。
憤りが湧いてくる、俺の中に、俺に対して、何も守ろうともしない俺に対して。


初めてだ、こんな感覚。




俺「トゥルーデさんと言いましたか、もう無理でしょう、寝ていてください」

?「まだ、戦える。みろ、腕だってあげることができる」

俺「……馬鹿を言わないでください」



ほらみろ、足だってふらふらで震えてるじゃないか、目なんて焦点もままなってないだろうに。
血だって服から染みだして真っ赤じゃないか。



『どうなされますか?』

俺『……』

バルクホルン『私がネウロイを撃墜する。このゲルトルート・バルクホルンがな』



さっきまで無感情で応急処置をしていたハズなんだが、なぜこんなことになっているのだろう。
ああくそ、一層腹が立ってきた。ちょっと憂さ晴らしにでもいこう。
この少女を見ていると、心が押しつぶされそうだ。



俺『……ネウロイは俺が落とす。あなたの好きなカールスラントは守りきれませんでしたが、ここにいる者達だけは守ってみせましょう』

バルクホルン『な、なに、を?』

俺『だから今は寝ていてください』ギュッ

バルクホルン『あ……』トサッ





俺『俺少尉、迎撃に向かいます。位置を』

『わかりました。では、まず空へと願いします。そこから情報を流していきますので』




抱きしめた瞬間に琴が切れたようにまた気絶したバルクホルンを地面に優しく寝かせ、顔をハンカチでぐいぐい拭う。



バルクホルン「みん、なを……頼む……」

俺「……了解。願い、叶えさせていただきます」グイグイ

ハルトマン「医者連れてきたよ!それよりもネウロイがここに向かってきてるんだって!」

俺「聞こえてたのか。まぁいい、バルクホルンを頼んだ」

ハルトマン「君はどうするの?もう船が出ちゃうよ!これって最終らしいし」

俺「心配しなくても大丈夫です。では」タッタッタ

ハルトマン「あっ!」








自分でもよくわからない。

俺『まず小型1』

なぜか誰かのために戦っている。

俺『小型3』

誰のために?あの娘のためか?

俺『小型6』

あの娘の純粋さに惹かれたのだろうか、はて、どうなんだろうか。

俺『中型1小型8』

でもあの凛々しい顔にはちょっと惹きつけられてしまった。

俺『中型2小型12』

なぜだろうか、なぜ俺はまだ戦っているんだろう、わからないが妙に気持ちはすっきりとしている。

俺『中型3小型15。全機撃墜完了』



こんなに速く撃墜したのも本当に久しぶりだ。でも不思議と苦戦を強いられたわけではなかった。
あの娘は、無事船に乗れただろうか……。





背中から生えた刺々しい氷の翼の先には何体ものネウロイが突き刺さってぶら下がっていた。
ネウロイ装甲の隙間を縫って冷却、さらに表面凍結させ氷で覆う。
そして微かに力を入れると、ネウロイはパキンと心地のいい砕音とともに砕け散り白い結晶を飛散させながら消滅した。




時折下から舞い上がってくる灰や塵は俺に近づくたびに氷片へと変化し、あたりにダイヤモンドダストを形成している。

その中で腕から若干の血を垂らしながら獣のような氷爪と鳥のような翼をもって浮かんでいる姿は、ただの化物にしか見えなかった。


俺『さて、ブリタニアへ向かうか……』


このまま戦いを続けても魔法力がきれて終了だろう。船もかなり遠くに離れネウロイも追ってこれない距離だろうし引き上げても大丈夫だな。
ブースト機能を使用、船を追いかけた。












~ブリタニア、A/H機密実験部隊~




そのあと部隊へと帰還。様々な報告書を提出。
そして今はなぜか執務室に呼ばれたが、その空間にいる人物が想像とは反していて少し驚いてしまった。



俺「は?」

上官「だから私がここの部隊を仕切ることになったから。よろしくな」

俺「ちょっと待ってくださいよ。アルベルト・ハイムっていうこの部隊の長は?」

上官「ああ、なんか逃げたぞ。追われてるらしくて。たぶん今はノイエカールスラントにでも逃げのびようとしてんじゃないか」

俺「ずいぶん悠長ですね……」

上官「私がここにいられるんだからそれでいい」

俺「まさか上官……追いやって……」




たぶん……いや、たぶんどころではない、絶対にこの上官が何かを仕組んで追いやったのだろう。
結局のところ混乱に紛れて席をぶんどっただけなのだと理解した。




上官「で、ウィッチを一人助けたと聞いているが?」

俺「(相変わらず詮索上手だな……)そのとおりです」

上官「名前は?今現在どうしている?」

俺「ゲルトルート・バルクホルンというウィッチです。今はダイナモ作戦も終わったことですし入院でもしているんじゃないですかね」

上官「ほう、バルクホルンか。将来伸びるウィッチだな」

俺「知っているのですか?」

上官「有名だぞ。頭角を表しているウィッチのひとりさ。おまえもそれぐらい知っておけ。そしてかわいい」



俺「はぁ。で、なんで呼ばれたんですか?」

上官「ああ、おまえが人を助けるなんて珍しいと思ってな」

俺「そう、ですね」




このA・H機密実験部隊はアルベルト・ハイムというわけのわからない研究者の提案によって設立された。
戦争に甘んじて、孤児や精神異常者などのウィッチを集めて、人体実験やら魔導兵器やらの研究・実験をするのが目的のようだ。
そんな場所のせいか、生ぬるい言葉が存在するわけでもなく、ただひたすらに黙々と命令を聞き続け生にしがみつくような醜い生活が続いている。




上官「珍しいな。普通なら置き去りだろうに。なんで助けたんだ?」

俺「目の前に人が倒れていたら助けろと教育を受けているもので」

上官「そんな教育はうちの部隊ではしてないな。自分だけを考えろとは教えたが」

俺「自分のことを考えた結果、そうなっただけです」

上官「実に興味深いな、おまえのよくわからない思考は」




入隊当初、様々な教育を受けた。しかしこと哲学についてはまったく教えられもしなかった。
だから道徳らしきものはほとんどないと言ってもいいのだが、自分はもともと育て親の教育がよかったためか今はこんな人間となっている。




上官「じゃあそのバルクホルンのところに行って様子を見てこい。どうせこの部隊の機能が完全に回復するのもまだ先だ」

俺「は、はぁ。了解しました」




カールスラントの偉い人がブリタニアに許可願いを出したそうだ、ブリタニアにあるひそかな建物を利用して部隊を駐屯させる許可を。
すべて機密でことは進められこうやってブリタニアの誰も近寄らない真っ白な建物で部隊を駐屯させた。
利用条件としては、ブリタニアが秘密裏で行っている様々な研究に手を貸すことらしい、内容はほとんど人体実験とでもいったほうがいいが。




上官「たまには、普通の人とでも触れ合ってくるんだな」

俺「わかりました。無駄なお気遣い感謝します。上官もたまには気がきくんですね」

上官「その減らない口も教育した覚えはないがな」

俺「よい上官をみて大きくなりましたので」

上官「ふん、さっさと行け」

俺「では、失礼します」







第1話終わり





最終更新:2013年01月29日 13:52