過去編 第3話「カールスラントを取り戻したら」
~お見舞い二日目、病院~
ここに脚を運んだのを『命令』という理由にして昨日と同じ病院へと足を運んだ。
ネウロイの恐怖から来る陰鬱とした病院内の空気には自分も気が重くなってしまう。
コンコン
「どうぞ」
ガチャ
俺「こんにちわ。暇だったので来ました」
バルクホルン「帰れ」
俺「まぁまぁそう堅いことを言わずに。 どうぞ、お見舞いの握力きたえるやつです」
バルクホルン「む、すまない」
ハルトマン「(なんだそれ……)」
俺「体調はどうですか?」
バルクホルン「……上々だ」
目も焦点が定まっており、しっかりと憎たらしい俺の顔をとらえている。
唇がわずかに湿っているところをみると唾液もでているし、顔色も決して悪くはない。
指を交差させて握っているところもみると手も十分に動くみたいだし、足の先はさっきからちょいちょいと動いているのでこれも同様。
だが、やっぱり昨日と同じでどこか無理して表情を作っているために、雰囲気には暗雲がたちこめていた。
俺「そのようですね。安心しましたよ、昨日通りで」
ハルトマン「俺はトゥルーデを見にきたの?」
俺「ええまあ、その通りです」
バルクホルン「そうか。しかし二日連続来るとは思いもしなかったな」
俺「暇でしたので。迷惑なのは知ってますけど」
バルクホルン「見事にずうずうしいな……」
俺「それに、今のあなたを一人にしておくとちょっと危険ですから」
ハルトマン「……危険?」
俺「ええ、今のバルクホルンさんは……ほうっておくと何するかわからないですから」
バルクホルン「……」
俺「いや、俺の勘ですよ。あてにしないでください、逆に適当なこと言ってすみませんでした」
白い部屋を沈黙が占める。なにやら言ってはならぬことを口に出してしまったようだ。
自分のデリカシーの無さに驚きを感じ得ず、自分の手を思いっきりつねる。
ハルトマン「そ、それはそうと。明日から私は部隊のほうでもいろいろあるから毎日トゥルーデの見舞いにこれないんだ」
バルクホルン「……すまないな。私もすぐに復帰できると上に言ったんだが……」
俺「ここで無理してでてこられても面倒なので少し休んでろ、と言われたんですか」
バルクホルン「む、その通りだ」
俺「俺も、そんな感じで。ちょっと手ひどくやられたんで部隊機能が、ね」
ハルトマン「じゃあ暇なの?」
俺「最初に言ったとおり」
ハルトマン「じゃあここに毎日これる?」
バルクホルン「お、おい!ハルトマン!まさか……!」
ハルトマン「そのつもりだよー。俺は毎日ここにきてトゥルーデの看病できる?」
バルクホルン「ま、まて。私はひとりでも大丈夫だ!」
ハルトマン「俺はさっきトゥルーデを一人にしてはいけないって、毎日暇だって言ったんだから……毎日これるよね?」
しまった。しゃべりが過ぎたようだ、厄介なことを押し付けられてしまった。
……しかし流れからして断る雰囲気ではない。
俺「ええ、大丈夫ですよ。バルクホルンさんが迷惑でなければ毎日看病に来ます」
心で否定しつつも口ではそう答えていた。どれだけ雰囲気に流されやすいんだ、情けない。
ハルトマン「じゃ、よろしくね。あ、でもトゥルーデに何かしたらただじゃおかないよ」
俺「心配しなくても、そんな趣味はありませんから」
バルクホルン「(どんな趣味があるんだ、こいつは)」
俺「それでは、明日もきますね。なにか必要なものはありますか?」
バルクホルン「いらない!おまえも来なくていい!」
ハルトマン「一応着替えも食べ物もあるからいらないかな」
俺「了解しました」
バルクホルン「お、おい!」
俺「それでは」
ガチャ……パタン……
バルクホルン「お、おい。どういうつもりだ、ハルトマン!」
ハルトマン「私も、今トゥルーデを一人にしちゃいけないと思ってたからさ」
バルクホルン「だからってあいつを……」
ハルトマン「他の人は来れないし、俺は都合がいいみたいだし。それに……」
バルクホルン「な、なんだ?」
ハルトマン「トゥルーデと気が合いそうだから。俺は目が死んでるけど、信用できそうだよ」
バルクホルン「しかしだな……」
ハルトマン「トゥルーデは覚えてないと思うけど、信用できるって思える理由が1つあるんだよね」
バルクホルン「は?」
ハルトマン「実はトゥルーデが気絶して、私が医者を連れてきたときにさ―――」
~さらに翌日~
コンコン
「……どうぞ」
ガチャガチャ
俺「おはようございます」
バルクホルン「……おはよう」
俺「気分はどうですか?」
バルクホルン「最悪だ」
顔をぷいと逸らしてぶっきらぼうに答えるバルクホルン。
そんなやりぐさに少しだけ嘆息しつつ、とりあえず容態は安定している方なので安堵した。
俺「元気そうでなによりです。検診はすみましたか?」
バルクホルン「ああ、さっきな」
俺「今日は、ハルトマンさんは来ないんですね」
バルクホルン「いろいろと、忙しいからな」
俺「俺は暇ですが」
バルクホルン「そうか」
俺「なにか要りますか?」
バルクホルン「いや、特にはいらないな。それより早くにでも軍に復帰したいところだ」
俺「今は休むことの方が大切ですよ。ですが、気を抜きすぎないように。一気に脳にストレスがきて死にますよ」
バルクホルン「気を抜いたことなどない」
俺「そういえばバルクホルンさんはカールスラント出身で?」
バルクホルン「ああ、そうだ。おまえは?」
俺「さぁ?一体全体どこで生まれたのか、検討もつきませんね」
バルクホルン「意味が分からない」
俺「俺は捨て子ですから。どこで生まれたのかなんて知りませんからね」
バルクホルン「あ……それはすまない」
俺「いえ気になさらないでください。つまらないことですよ」
バルクホルン「じゃあ親の顔とかも覚えてないのか?」
俺「ちっとも。ただ育ててくれた人はいますよ」
バルクホルン「その人は今どこにいるんだ?」
俺「ブリタニアです。カールスラントにはもういられませんから」
俺はどこかのバス停のそばに捨てられていたそうだ。
そこ育て親が通りがかり拾ってくれ、律儀にも色々と養育してくれたのでここまで育ったのだ。
なかなか口にはしないが、感謝しているし、生きていたことにはかなり安堵したっていうのは内緒である。
バルクホルン「すまない……私がもっとしっかりしていれば……」
俺「カールスラントを奪われたのはバルクホルンさんの責任だけではありませんよ」
バルクホルン「それでも……」
俺「まぁ生きてただけでもうれしいですし、でも……会いたいとは思いませんけど」
バルクホルン「なぜだ?会いたくはならないのか?唯一の家族みたいなものだろう」
俺「これもまたつまらないことですよ。情けない姿を見せたくないんです」
バルクホルン「なぜだ?別に情けない姿なんてあまり感じ無いが……私を助けてくれたのもあるし」
俺「俺はまだ子供ですけど、自分に殴りたくなるほど情けない人間になってしまいましたから。あ、でもカールスラントを取り戻したら……もう一度会いたい
ですね」
バルクホルン「カールスラントを取り戻したら……か」
バルクホルンがわずかに顔を伏せる。
その動作の意味が自分の無神経さを言葉もなく責めたてた。
今のバルクホルンの心的状態からは禁句の一つでもあって、それを口に出してしまうことは本当に細心の注意をはらうべきだったのだ。
止めることのできない沈黙が流れだす。
それを遮ろうと、言葉を発する前に、バルクホルンが先に口を開けた。
バルクホルン「本当に……すまない」
顔をわずかに上げ俺を捉えたバルクホルンのきれいな瞳が強くぐらりと揺らいだ。
目に涙をかすかに浮かべたバルクホルンが俺の目を強く捉える。
俺はその懺悔の視線に耐え切れずに目を逸らし顔を伏せた。
俺「……」
バルクホルン「そう、だな。カールスラントを取り戻さないとな」
俺「(……やっぱりまだ信じきれないか)」
バルクホルン「カールスラントは………ネウロイの手に落ちてしまったんだな」グスッ
俺「……事実です。変えようない、終わってしまったことです」
嘘は言えなかった。
事実を再確認した瞬間バルクホルンがぎゅっと握りしめたシーツに一滴の雫がこぼれ落ちた。
バルクホルン「えぐっ……うぅぁ……くそぅ、うぐっ……」
俺「……ちょっと、外の空気を吸ってきますね」
俺は無機質な白色の部屋をでてドアをゆっくりと静かに閉じた。
それと同時に漏れてきた泣き声と嗚咽は胸を突き刺すような、苦しい音だった。
ドア越しから聞こえてくるその音は理由はわからないが俺の中でなにか深く心に食い込んでくるものがあった。
理由もわからない悔しさにぎゅっと拳を握りしめ
ただひたすらに廊下で突っ立って
少女を抱きとめ慰めてもやれない自分を
酷く
強く
殺したいほどに
憎んだ
その後30分後に入室すると少しまぶたが赤くなった少女が顔を俯かせながら乱れてしまったシーツを直していた。
後ろ姿をみながら俺はすっかりしぶくなってしまったティーを注ぎぐいと飲み干す。
渇いたのは喉ではないことを俺は知らずに、ぐいと飲み干したのだった。
その日はほかに何事もなく終わりまた明日尋ねる約束を取り付け、自分の部隊に戻ったのはいいが、またもや上官に呼び出されいろいろと報告をさせられた。
第3話終わり
最終更新:2013年01月29日 13:54