---刑務所:面会室---
ギイィィ…
薄暗い部屋の中、一人の男が俯きながら座っていた。
その手には重苦しい手枷が嵌められている。
ミーナ「・・・お久しぶりです。閣下。」
マロニー「よせ。私はもう軍人ではない。」
そう言って男は顔を上げる。
トレヴァー・マロニー元ブリタニア空軍大将。
以前見た時よりもやつれた姿の彼がそこに居た。
俺(あれが・・・マロニー大将・・・)
マロニー「今更この老いぼれに何の用があるというのだ・・・」
眉根を寄せ不機嫌そうに訊ねる。
ミーナ「先日、我々の前にグレゴリと名乗る2人組みが現われました。」
ミーナ「彼らは、死を呼ぶもの・・・『デス』を復活させるために暗躍していたようです。」
マロニー「デス・・・だと・・・!?」
『デス』と言う単語に反応を見せるマロニー。
この男もどうやらこの件について関わりを持っているようだとミーナには見当がついた。
ミーナ「ご存知のようですね。デスについて。そしてグレゴリと名乗るネウロイの力を使う2人組みについても。」
マロニー「ネウロイの力・・・まさかあの時の孤児達か!?」
ミーナ「ええ。彼らは実験に利用され、半ネウロイ化してしまったそうです。」
マロニー「そうか・・・彼らは生きていたのだな・・・」
どこか悔しそうに、マロニーが歯を噛み締める。
ミーナ「教えていただけませんか。彼らの施された研究と・・・そしてデスについて・・・」
マロニー「・・・・・」
しばらく黙った後、マロニーが再び口を開く。
マロニー「デスの核心については私も詳しくは知らない。だが、君たちが知ろうとしている計画の首謀者の男は知っている。」
―――――――――
――――――
―――
私にはかつて大学時代の同期の友人がいた。
そいつは非常に有能だった。他に類を見ない天才とまで言われた。
それに、奴は自分の夢のためにはどこまでも真っ直ぐなやつだった。
そいつの名は・・・『アレイスター・クロウリー』。
時が経ち、私は軍事職に、奴は軍からスカウトされネウロイの研究員として動員された。
奴と再会したのは12年前。
ネウロイ研究の成果の一部を軍に導入しようという案件があり、その交渉のため、私は奴の研究所を訪れていた。
私とアレイスターはそこで再会した。
奴は既にネウロイ研究の権威となり、その研究所の所長へと昇格していた。
しかし過去に見たアイツの面影はどこにも無かった。
奴は研究を続けるうちにネウロイの力に魅入られ、その力を利用しようと企んでいた。
そしてその力で何か途方もないものを造り出そうとしていた。
芳佳「途方も無いもの・・・?」
そう、時空間を操る神器だ。
ミーナ「時空間操る神器・・・」
言葉の通りだ。時の流れや空間さらには次元までもを操作し、あらゆる事象を意のままに操る道具だ。
奴はネウロイの時空や次元に干渉する力に心酔し、それを我が物とし、世界の全てを支配しようとした。
俺「や・・・野望のスケールがデカい・・・」
本来ネウロイの弱点を探り出したり、その力の一部を軍事利用するためだけのはずだったその研究は、アレイスターの指示によりおかしな方向へ進んでいった・・・
アレイスターがおかしくなったのは、奴が最愛の妻を失ってからだと言う話を聞いた。
それからの奴は生きる目的を失い、己の空虚な心を満たすためだけに研究を続けた。
次第に奴の目的も歪み始め、遂には単なる支配力の追求ををはずれ、滅びを求めるようになった。
アレイスターはとり憑かれたかのように研究員にネウロイのコアを集めさせた。
そして、奴はその集めたネウロイの力で人工のウィッチと人工のネウロイを造りだしていた。
全て、世界を滅ぼすための道具とするために・・・
だが、人工のウィッチの開発に使われたのは行き場を失った孤児たちだった。
研究員の一部は疑問を感じていたようだがそれを止める事は出来なかった。
ある日、もう一度私がアレイスターの元を訪れ、その事実を知った時・・・
クロウリー「君は実に有能なサンプルだ・・・」
マロニー「これ以上はやめろ、アレイスター!」
私は奴の研究をやめさせようとした。
奴の人としての間違いを正すために。
クロウリー「なぜやめる必要があるのだ、マロニー。」
クロウリー「この研究が成功すれば、もはやネウロイなど恐れる必要もなくなるのだぞ?」
マロニー「ふざけるな!そのためにこの子達の命が奪われるのはおかしいだろう!お前は命をなんだと思っているんだ!?」
クロウリー「命など・・・無意味だ。」
マロニー「なに!?」
クロウリー「無意味なのだよ。生きている以上人はいつか死ぬ。その時期が少し早いか遅いかの違いだけだ。」
マロニー「血迷ったか、アレイスター!!」
クロウリー「血迷ってなどいない。私は正常だ。」
マロニー「いや、お前はおかしい!今のお前は紛れもない悪魔だ!」
クロウリー「なんとでも言うがいいさ。」
マロニー「くっ・・・このわからずやめ!」ツカツカ…
その後も何度も説得に訪れた。だが・・・
クロウリー「戦争に利を見出すような腐りきった世界は、一度滅ぼさなければ救われないのだよ。」
何度訪れようとこの台詞の一点張りだった。
・・・私は奴の説得をあきらめた。もう奴に私の言葉は届かない。
そう確信したからだ。
・・・私が最後の説得に訪れたた日、ふと一人の女性研究員に声をかけられた
白髪の女性「少し、よろしいでしょうか・・・」
マロニー「あ・・・ああ、構わない・・・」
私はその女性に別の研究セクションへ案内された。
そこにはデスとは別の人工ネウロイがいた。
そのネウロイは人のような姿をしていた・・・かと思えば急に鋭角状に形を変えたりと不思議なネウロイだった。
マロニー「これは・・・」
白髪の女性「それはヒュプノスです・・・」
女性の研究員は私にそういった。
マロニー「ヒュプノス?」
白髪の女性「この話は所長にはご内密に・・・」
その後、私はそのネウロイ、ヒュプノスについて話を聞いた。
ヒュプノスは元々アレイスターによって作られた最初の人工ネウロイだった。
初め、奴は世界を滅ぼす手段としてネウロイを操り、自らの力にしようとしていた。
そこで開発されたのが「コアコントロールシステム」。
ミーナ「たしか・・・それは・・・」
そう、私が開発させたウォーロックにも搭載されたものだ。
元々この技術はアレイスターによって開発されたものだ。
ヒュプノスは、そんなコアコントロールシステムが搭載された初の人工ネウロイだった。
だが、アレイスターはより確実に世界を滅ぼす方法としてデスの存在を発見した。
それからのやつは人工的にデスを開発しようと躍起になり、同時にヒュプノスは廃棄される事になったそうだ。
だが、ヒュプノスは別のセクションへと移され、アレイスターの思想に疑問を抱くものたちによって秘密裏に改造された。
そして、新たにヒュプノス与えられた目的。それは集めたネウロイ、そしてデスが暴走した際の保険。
その改造のきっかけは、宮藤博士にあると聞いた。
芳佳「お父さんが・・・」
博士はどうやら新たなストライカーの開発を行うためにアレイスターからネウロイのデータを提供してもらっていたそうだ。
だが博士はアレイスターがこんな危険な研究をしてるとは知らなかったようだな。
研究所を直接訪れて
初めて、博士はアレイスターの恐ろしい研究の内容を知ったそうだ。
そして、デスを見た宮藤博士はこのネウロイの危険性をいち早く察し、裏で別の研究員にデスを止めるための手段を開発するよう提案したそうだ。
そこでアレイスターに疑問を抱いていた研究員達は、廃棄されそうになっていたヒュプノスを再利用する事を決めた。
あくまでデスを鎮圧するための手段としてな。
宮藤博士の提案どおりヒュプノスの再開発は秘密裏に進められ、時折博士自身も様子を見に来ていたそうだ。
開発に携わった研究員達は、ネウロイに学習能力があることを利用し、まだ自身をネウロイとも認識していない無垢なヒュプノスに、自らの役割を認識させるために何度も刷り込みを行った。
その後もヒュプノスはそのまま見つかることなく開発が進められた。
そして9年前の事故。
表向きでは単なる爆発事故として報道されたが、本当は研究所で開発された人工ウィッチのサンプルによる暴動。
俺「・・・・・」
事実とはいつも隠されるものだ・・・
その事故で偶然生き残った研究員から聞いた話では、その時にアレイスターは死んだそうだ。
そしてヒュプノスについて話してくれた彼女も・・・
暴動の際、デスの入っていた容器がサンプルによって破壊され、デスは不完全な状態で暴走した。
だが、同時に研究員の誰かの手によってヒュプノスが起動した。
そして、ヒュプノスによりその場でデスは鎮圧された。
だが、同時に役目を終えたヒュプノスは完全にネウロイと化した。
元々ヒュプノスは純度の非常に高い、ネウロイに近い存在だった。
与えられた役割を失ったヒュプノスは自らをネウロイと認識し、同胞の元へ帰るために飛び去ったという・・・
そして今から約2年前、ヒュプノスは我々の前に再び現われた。
完全なネウロイとしてな。
芳佳「まさか・・・」
そう、君が接触したあの人型ネウロイこそヒュプノスなのだよ。
当時の私はアレイスターの事など殆ど忘れ去っていた。
大将の座についてからの私は権力に溺れ、世界的なイニシアチブを握る事に躍起になっていた。
そしてその実現のために無意識の内にアレイスターの研究に手を出し、ウォーロックを作り出した。
だが、そんな中ヒュプノスの存在を君たちより少し早く観測した。
そこで私は我に返った。ヒュプノスもいわばアレイスターの研究の一部だ。
それが世界に知れれば、瞬く間にその研究の技術は浸透し、再びアレイスターのように滅びを求めるものが現われるかもしれなかった。
私はウォーロックの開発を急がせた。ヒュプノスを撃滅するために・・・アレイスターの研究を後世に残さないために・・・
だが、それ以前に私自身もアレイスターの研究に手を出していた事に気がついた・・・
自分の愚かしさに腹が立った。だが、ヒュプノスはどうしても撃滅せねばならなかった。
そしてウォーロックを出撃させた日・・・まだ調整が必要だったウォーロックはそれでもヒュプノスを撃滅する事に成功した。
更には、開発の目的の一つであった、ネウロイの巣の単機での破壊も難なくやってみせた。
だが、何の理由かウォーロックは暴走し、君の乗っていた赤城や扶桑皇国艦隊を襲い始めた。
芳佳「・・・・・」
完全に誤算だった。巣の破壊を終えた後、早急に廃棄するつもりが赤城と融合してしまったのだからな・・・
―――――
―――
―
マロニー「それでもウォーロックは君たちの手により撃破された。」
マロニー「正直な話、君たちには感謝せねばならない。私の罪すらも取り払ってくれたのだからな・・・」
ミーナ「深入りは禁物・・・以前あなたが寄こした手紙に書いてあったこと・・・」
ミーナ「あれはこの事を知られないためのものだったと言うことですか・・・?」
マロニー「その通りだ。君達はあまりにもアレイスターの・・・ネウロイの研究に近づきすぎていた。」
マロニー「ヒュプノスの存在を君達が上層部に明かせば、いずれ誰かがそれを回収し、その技術で別の者が再びネウロイの研究を始めたかもしれない。」
マロニー「それだけはダメだ。あんな危険な研究は二度とあってはならない。」
マロニー「だが聞いた話では、ロマーニャでの作戦の際もコアコントロールシステムが使われたそうだな?」
ミーナ「ええ。魔道ダイナモという改良した形でですが・・・」
マロニー「・・・結局、私のせいでアレイスターの研究は残ってしまったというわけだな・・・」
マロニー「権力の追求に溺れていたのが愚かだったのだ。全く、あの頃の自分を殴ってやりたいものだ・・・」
マロニー「君たちには謝っても謝りきれない。今更だが、本当にすまないことをした・・・」
芳佳「マロニーさん・・・」
一度マロニーは一度ため息をつく。
マロニー「済まない・・・もう疲れてしまった・・・私に話せるのはこのくらいだ。」
マロニー「そういえば私の家に当時の研究員が残した音声記録があったな・・・」
マロニー「恐らく今は連合国側に押収されているはずだ。君の上層部の人間に旨を伝えればまわしてもらえる筈だ。」
マロニー「もしかしたら君達の役に立つかもしれない。私が君たちに出来る罪滅ぼしはこのくらいだが、よければ役立てて欲しい。」
ミーナ「閣下・・・」
芳佳「あの、一つ聞かせてください!」
マロニー「なんだね?」
芳佳「お父さん・・・いえ、宮藤博士が亡くなったのもちょうど9年前なんです。」
芳佳「もしかして、博士もその日、研究所に居たんでしょうか・・・?」
マロニー「すまない、私もそこまでは知らないのだ・・・」
芳佳「そうですか・・・」
ガックリと肩を落とす宮藤。
俺「宮藤さん・・・」
看守「そろそろ時間です。」
ミーナ「貴重なお話、どうもありがとうございました。では、失礼します。」
マロニー「ああ。」
三人はその場を後にした。
数日後・・・
夜
---バルト海上空---
エイラとサーニャの二人は夜間哨戒の任務に出ていた。
ブロロロロロロロロ…
サーニャ「・・・!」ヴン
突然、サーニャの魔導針が点滅を繰り返す。
エイラ「どうした、サーニャ?」
サーニャ「帰ってきた・・・」ブロロロロロ
サーニャは急いでミーナ達の乗っている輸送機へと向かう。
エイラ「お、オイ!サーニャ!まってくれヨ~!」ブロロロロロ
次いでエイラも後を追い、二人が輸送機へと近づく。
サーニャ「おかえりなさい。」
エイラ「なんだ、そういうことかヨ・・・」
ミーナ《ご苦労様、サーニャさん。エイラさんも一緒ね。誘導、お願いできるかしら?》
サーニャ「了解。」
サーニャは誘導のために歌を口ずさみ始める。
芳佳《ほら俺さん、サーニャちゃんとエイラさんですよ?》
俺《うぇっぷ・・・すいません・・・それどころじゃ・・・》
芳佳《いいから!》グイッ
俺《ぬおぅ!》
宮藤は俺の上体を無理やり起こし、窓を向かせる。
サーニャがそれに気づき、手を振る。
エイラ(サーニャ・・・いつもより嬉しそうダ・・・しっぽもあんなに立てて・・・)
芳佳《サーニャちゃーん!エイラさーん!ほら、俺さんも手、振ってください!》フリフリ
俺《あはは・・・》フリフリ
サーニャ「ふふっ・・・?」
サーニャが向けた視線の先で、エイラが俯いてどこか暗い顔をしている。
サーニャ「エイラは手、振らないの?」
エイラ「・・・・・」
サーニャ「エイラ・・・?」
翌日
---ブリーフィングルーム---
聴取へと向かっていた3人は先日マロニーから聞いたことを一通り隊員に話した。
皆、各々思うところがあったようで、マロニーへの認識を改めていた。
そして夜、持ち帰ってきた約束の音声記録を再生する事になった。
ミーナ「では、再生したいと思います。」
音声はレコードに記録されていた。
早速レコードをかける。
雑音が混じりながらも悲鳴や爆音のような音が聞こえてきた。
ザザ…ザザザ・・・
?「この記録が、心ある人に聞かれていることを願います・・・」
聞こえてきたのは女性の声。
俺(この声・・・)
?「所長は忌まわしい思想に魅入られて変わってしまいました・・・」
?「この実験はやはり、行われるべきではなかったんです・・・」
?「今日、あの子達が解放され、今、研究所を破壊しています。」
?「その衝撃で・・・先ほど・・・デスが不完全な状態で覚醒してしまいました・・・」
?「不完全であったデスは12のネウロイを飛散させました・・・」
?「この飛び散ったネウロイが後世に悪影響を及ぼすのは間違いないでしょう。」
?「お願いです・・・よく聞いてください。」
?「飛散したネウロイに決して触れないでください!」
俺(たぶん・・・いや・・・間違いない・・・)
?「この研究、私にはとめることができませんでした・・・」
?「所長には私ごときの声は届きませんでした・・・」
?「あのネウロイは互いを食い合い1つになろうとします・・・そうなれば、世界は破滅してしまうでしょう・・・」
?「もう一度言います!ネウロイには決して触れないでください!!」
俺「おふ・・・くろ・・・」
?「私はもう助からないでしょう・・・」
?「いま私の息子が、この研究所の避難用シェルターにいます。」
?「私は・・・所長に脅しをかけられ息子をここへ連れてきてしまいました・・・」
?「私は最低の母親です・・・息子を・・・実験のサンプルにしようとしたのだから・・・」
?「・・・この記録を聞いた誰か・・・もし、できるならば・・・シェルターを開けて息子を助けてください・・・」
?「おねがザザ・・・ザ・・・ザザザ・・・」
ここで音声は途切れた。
俺「そんな・・・おふくろ・・・」
俺「う・・・ぐ・・・くっ・・・」ボロボロ
ゲルト「俺・・・?」
俺「うああああああぁぁぁぁぁぁ!!」ボロボロ
そのまま泣き崩れ机に顔を伏せた。
俺「なんだよ・・・おふくろは・・・母さんはこんな研究のために死んだってのかよ!!」
俺「くっそおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」ガンガンガン!!
俺は泣き叫んだ。
母を失った時の悲しみと苦しみ、そして今生まれたやり場の無い怒りを全て吐き出すように。
何度も、何度も机を殴打する。慣れないことをしたせいで、次第に彼の拳からは血が滲み始めた。
ミーナ「俺さん・・・」
ルッキーニ「おれ・・・泣かないで・・・」グスッ
皆が哀れむような目で俺を見つめる。
ルッキーニは今にも嗚咽しそうだった。
トン…
と、俺の背中に暖かい熱が伝わる。
サーニャ「もう・・・やめて・・・」
エイラ「・・・・・」
サーニャがそっと俺の背中に体を寄せ、宥めていた。
俺「うぅ・・・くっ・・・」ボロボロ
サーニャ「・・・・・」
しばらく机に突っ伏した後、俺は徐々に落ち着きを取り戻した。
俺「・・・すみません・・・サーニャさん・・・もう、大丈夫っス・・・」グスッ
サーニャがゆっくりと離れる。
俺は顔を上げて服の裾で涙を拭った。
俺「・・・取り乱してすみませんでした・・・その・・・今の声、多分・・・おふくろのだったんで・・・」グスッ
ミーナ「そう・・・あなたのお母さん、研究員だったのね・・・」
俺「はいっス・・・まさか、ネウロイの研究だとは思わなかったっスけど・・・」
坂本「さっき、息子がシェルター内にいるといっていたがあれは・・・」
俺「俺のことっス・・・当時のことはショックでよく覚えてないんスけど・・・」
俺「あの日はいままで散々おふくろにわがまま言って、やっと研究所につれてってもらった・・・ずっとそう思ってました・・・」
俺「でも俺、実験台にされようとしてたみたいっスね・・・はは・・・」
サーニャ「・・・・・」
俺「それで、その時、あいつらの襲撃にあって・・・おふくろは死んだっス・・・」
全員が黙ってしまった。
俺「ごめんなさい・・・俺のせいで空気悪くしちゃって・・・」
ミーナ「謝ること無いわ。あなたの気持ち・・・よく分かるから・・・」
嘗て最愛の人を失ったミーナにも、彼の気持ちが痛いほどよく分かっていた。
ミーナ「今日はもう、解散にしましょう。」
この日のブリーフィングは解散になった。
---巌戸台---
俺「・・・・・あれ?」
一度眠りについた後、再び巌戸台の地に降り立っていた。
しかしどうも様子がおかしい。
街のあちこちに棺桶のようなオブジェが幾つも並んでいる。
夜空は奇妙な緑色の燐光を湛え、その頂点に不気味な程巨大な月が佇んでいた。
俺「なんだよ・・・これ・・・」
更に、地面に目を向ければ血のような赤い水溜りがそこら中に出来ている。
目を疑った。今までとはあまりにも違いすぎるその景色は妙な悪寒をそそった。
そこへ突然誰かに声をかけられる。
一郎「君は・・・俺君?」
それは、以前接触した宮藤博士だった。
俺「宮藤博士!?」
一郎「久しぶりだね・・・」
俺「博士・・・これは一体・・・」
一郎「ああ・・・これはこの世界特有の現象でね、午前0時を過ぎると1時間だけこの時間が発生するんだよ。」
一郎「この時間は『影時間』と呼ばれているらしい。」
俺「影時間・・・ですか・・・」
一郎「うん。それで、この時間は普通の人間には感じ取ることの出来ない時間らしいんだ。」
一郎「この時間を認識できるのは適性を持つ者だけ。」
一郎「つまり私と君は適性を持っているということだね。」
俺「はぁ・・・」
と、生返事を返す事しかできなかった。
一郎「いきなり言われても分からないよね。でもここはそういう世界なんだ。」
俺「あの・・・博士・・・」
一郎「なんだい?」
少し表情を硬くし、博士に今の世界の状況を伝える。
俺「今、俺らの世界で異変が起きてるっス・・・」
一郎「それはどういう・・・」
俺「突然街中にネウロイが現われて、そいつに襲われた人は無気力になっちゃう病気とか・・・」
俺「デスっていう滅びを呼ぶ者が復活しそうになったりだとか・・・」
一郎「デスだって・・・!?」
思わず博士が声を荒げた。
俺「はいっス。先日、マロニー元空軍大将から人工ウィッチと人工ネウロイの話を聞きました。」
俺「その時、ヒュプノスの開発に博士が携わっていたと・・・」
一郎「・・・その通りだ。私はヒュプノスの開発を手伝っていた。」
否定する様子も無く、宮藤博士は続けた。
一郎「デスの研究・・・勿論人工ウィッチの研究もだが、それが危険なことはあまりにも明白だった。クロウリー博士はデスの強大な力を利用してこの世界を滅ぼそうとした。」
俺「はい。それは、マロニー元大将から聞いたっス・・・」
一郎「そうか・・・それで、人工ウィッチが暴動を起こした日、私はヒュプノスの最終調整を見るためにその研究所にいた。」
俺「博士が・・・あの日・・・」
一郎「襲撃にまき込まれた私はかろうじて生き残った。そしてデスは私の予想通り不完全な状態で暴走した。」
一郎「ヒュプノスは私が開放した。そして、ヒュプノスは研究者達が刷り込んだようにデスを倒すために動いてくれた。」
一郎「正直そのときは、意識が朦朧としていたからあまり詳しいことは覚えていない・・・」
一郎「私が最後に見た光景はヒュプノスが何者かにデスを封印していたところだ。」
一郎「それが誰だったかはよく見えなかったけど、デスは間違いなく封印された。」
一郎「そのあと意識を失って気がつけばこの巌戸台にいたんだ。」
一郎「おそらく、ネウロイのもつ時空間に干渉する力が、元々ネウロイの中でも特殊な存在であるデスとヒュプノスが衝突した際に発生したんだろう。」
ネウロイの力は、宮藤博士自身の体にも影響を及ぼしていた。
博士の体は、この世界に来てから空腹や眠気といった人間が感じるはずの生理現象の一部を一切感じなくなったという。
つまり、博士自身の体の時間が止まっていたのだ。
俺「ん?ちょっと待ってください・・・妙に話がかみ合うんですけど、これもしかして夢じゃなくて・・・現実・・・?」
一郎「夢?何を言ってるんだい?」
俺「だって俺、この前だって目覚めたらちゃんと基地に戻っていたし・・・」
一郎「君はここを夢として訪れている・・・と言うことかい?」
俺「そのはずっス・・・」
一郎「そうか、道理で君が別の人間には認識されていないわけだ。あの後私たち遭遇しなかったのも合点がいく。」
一郎「一つ言えるのはこれは紛れも無い現実だってことだ。」
俺「そうか・・・現実・・・なのか・・・」
一郎「・・・ところで、私たちの世界で無気力症の人がいるという話だけど・・・」
博士が話題を元の路線に戻す。
俺「はいっス。ネウロイに襲われた人が次々に・・・」
一郎「そうか・・・実は、この世界にも似たような現象が起こってるんだ。」
俺「はい。前に見たことあるっス。」
そうだったのかと博士が一言言った後に続ける。
一郎「この世界にはネウロイではなくシャドウという存在が蔓延っていてね、それに襲われた人は無気力になったり場合によっては死んでしまうんだ・・・」
俺「シャドウ・・・」
一郎「ああ・・・おっと、そろそろかな。」
直後、異様な存在感のあった月の気配が薄れる。
そして、天を彩っていたはずの緑色の燐光は消え失せ、月は白くなり、星が瞬き始める。
つまるところ、影時間が明けたのだ。
棺桶のようなオブジェも消え、その場所から人が次々に現われる。
一郎「私はそろそろいくよ。君も元の世界に帰るといい。」
俺「はいっス。あの、博士。」
一郎「何かな?」
俺「俺、きっと博士をこの世界から元の世界に連れもどす方法見つけるっス。だから、待っててください。」
一郎「ありがとう。私も引き続き戻る方法を模索する。家族もきっと待ってくれているだろうからね。」
一郎「それじゃあ、またいつか。」
俺「はいっス。」
段々と意識が遠のいて行く・・・
最終更新:2013年01月29日 14:19