Episode 23 『エピローグ』
「サーニャ・・・」
この声・・・
「ごめん・・・俺、また約束破っちゃったっス・・・」
約束・・・?
「本当はずっと、君と一緒にいたかったけど・・・やっぱ無理だったみたいっス・・・」
どうして・・・?嫌・・・側にいて・・・
「どうか、幸せになってください・・・君のこれからが、きっと幸せであるように祈ってるっス・・・」
待って・・・行かないで!お願い!!
「さようなら・・・」
---サーニャ&エイラの部屋---
サーニャ「待って!」ガバッ
エイラ「う・・・んぅ・・・どうしタ・・・?サーニャ・・・?」コシコシ
サーニャ「エイラ・・・」
エイラ「大丈夫カ?顔色よくないみたいだゾ・・・?」
サーニャ「ううん・・・なんでも・・・ない・・・」
エイラ「そうカ・・・?ならいいけど・・・って、そろそろご飯の時間ダナ。サーニャ、起きれるカ?」
サーニャ「うん・・・」
サーニャ(今の男の人・・・なんでだろう・・・すごく、胸が苦しい・・・)
---基地内食堂---
芳佳「あ、サーニャちゃん早起きだね!おはよう!」
サーニャ「うん・・・」
エイラ「ワタシを無視スンナ~!」
芳佳「あはは・・・ごめんなさい・・・それより、サーニャちゃん、元気ないみたいだけど大丈夫?」
サーニャ「えっ?うん・・・平気よ。ありがとう、芳佳ちゃん。」ニコ
芳佳「う、うん・・・あ、じゃあこれご飯ね。」コトッ
サーニャとエイラが席へと突く。
ルッキーニ「おっはよー!サーニャ!エイラ!」
シャーリー「おーっす。お、今日は早いな、サーニャ。」
サーニャ「ちょっと、早く目が覚めちゃって・・・」
シャーリー「そっか。なんにせよ、みんなでご飯食えるならそれに越したことはないな!」
ルッキーニ「にひ~・・・それっ!」モニュ
サーニャ「ひぁっ!」
ルッキーニ「なるほど~ペリーヌよりはおっきいかな~・・・でも~残念賞~」ムニムニ
サーニャ「あっ・・・はぅ・・・///」
エイラ「あ!コラ!サーニャになにすんダー!!」
ルッキーニ「エイラが怒った~」タッタッタ
エイラ「待テー!」タッタッタ
坂本「こらこら、食事中だぞ、お前たち。」
ペリーヌ「まったく、成長がない方達ですこと・・・」
ペリーヌ「な!なんですって!?ぐぬぬぬぬ・・・」
坂本「ペリーヌ・・・」
シャーリー「あはは・・・ごめんな、サーニャ。14だけどあいつ、まだ母親が恋しいんだよ・・・」
サーニャ「14・・・?ルッキーニちゃん、15歳じゃありませんでしたか・・・?」
シャーリー「あれ?そうだっけ?だって今日は4月・・・あれ・・・?」
食堂の柱にかかったカレンダーを見るシャーリー。しかし、日付に違和感を覚える。
シャーリー「2月・・・?しかも1947年・・・?なぁ、ミーナ隊長。このカレンダーおかしくないか?」
ミーナ「え・・・えぇ・・・そうね・・・」
ゲルト「どうしたミーナ?難しい顔をして・・・」
ミーナ「いえ・・・大丈夫よ・・・シャーリーさんのことは後で話があるからその時にね・・・」
シャーリー「? そっか・・・了解。」
エーリカ「・・・?」
---ブリーフィングルーム---
ウィッチたちが集められ、ブリーフィングが始まる。
ミーナ「皆さん、おはようございます・・・」
芳佳「ミーナ隊長、まだ難しい顔してるね・・・」ヒソヒソ
リーネ「うん・・・どうしたんだろう・・・」ヒソヒソ
ミーナ「みんな・・・今から私がいう事を、どうか落ち着いて聞いてほしいの・・・」
エーリカ「どうしたのさ、改まって?」
ミーナ「今朝、上層部から連絡が入ってね・・・その・・・」
ミーナ「ネウロイが・・・消えたのよ・・・」
ゲルト「ネウロイが・・・消えた・・・!?」
坂本「どういうことだ!ミーナ!?」
ミーナ「落ち着いて頂戴・・・私だって信じられなかったわよ。でも、各国の上空に出現していたはずの巣が、消えたらしいのよ・・・」
ペリーヌ「それは、全部消えたんですの・・・?」
ミーナ「ええ。突然、それも綺麗さっぱりね・・・これを見て。」
ミーナが取り出したのは今朝の新聞。見出しには『ネウロイ消滅』の文字。
ミーナ「それと、おかしなことがもう一つ・・・今日の日付を見て・・・」
ミーナが指を指した新聞の日付の部分には1947年2月1日と書かれている。
シャーリー「おかしいな・・・だって、昨日は1946年の4月だったはずだろ?」
ミーナ「ええ・・・分からないことばかりだわ・・・」
サーニャ「・・・・・」
ネウロイの消滅。本来ならば喜ぶべきことである筈なのに、彼女たちは素直に喜ぶことができなかった。
心に何かが引っ掛かる。何か大切なことを忘れている気がする。そんな気がしてならなかった。
ミーナ「・・・とにかく、あと2週間はまだネウロイが現れる可能性を考慮して、皆さんにはここに滞在してもらうことになっています。いいですね?」
全員『了解。』
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―――――――
――――
その後、毎日哨戒に出ようにも、ネウロイは結局のところ一機たりとも現れることがなかった。
各国のメディアでは連日ネウロイ消滅のニュースが流れ、世界中が大騒ぎしていた。
そして、二週間後。ストライクウィッチーズはこの日をもって解散することとなった。
皆が、最後に思い思いの時間を過ごす。
---エーリカ&ゲルトの部屋---
エーリカ「ふぃ~・・・おわったー!」
ゲルト「ようやく片付いたな・・・こうしてみると、この部屋も案外広かったのだな。」
エーリカ「そだね~」
ゲルト「そだね~、ではない。お前が普段から片づけていればこんなに苦労することは・・・」
エーリカ「はいはい。お説教は後で聞きますよ~。じゃね~」タッタッタ
ゲルト「待て!どこへ行く!おい、ハルトマン!・・・まったく・・・変わらんな・・・ん?」
床に、エーリカがしまい忘れた写真立てが転がっていた。
ゲルト「ちゃんと片づけられて無いではないか・・・しかもすごい埃だ・・・ふっ!」
息を吹きかけ、ひとしきり埃を払う。
ゲルト(これは・・・みんなで撮った写真か・・・?こんなもの、いつ・・・)
写真には、こちらを向いて笑いかける皆の姿が写っていた。その中にゲルトは一つの異変を見つける。
ゲルト「! これは・・・」
---芳佳&ペリーヌ&リーネの部屋---
リーネ「なんだか・・・寂しいね・・・」
芳佳「うん・・・感覚はまだ2、3週間しか過ごしてない感じなのに・・・もう、一年も経っちゃってたなんて・・・」
ペリーヌ「ほら、準備ができたなら行きますわよ。」
芳佳「ペリーヌさん、もう少し名残惜しさとかないんですか?」
ペリーヌ「わ、私にだってそれくらい・・・だって・・・少佐ともうお別れしてしまうんですわよ・・・あぁ・・・少佐・・・」ブツブツ
リーネ「あはは・・・あ、そういえば一つ気になってたことがあるんだけど・・・」
ペリーヌ「なんですの?」
リーネ「ほら、芳佳ちゃんもペリーヌさんも、あと、私も。ずっと、このリボンしてますよね?」
指を指すのは腕に巻いたリボン。皆、習慣づいたようにいつもこのリボンを巻いていた。
ペリーヌ「そういえば・・・そうですわね・・・」
芳佳「当たり前のようにしてたから、全然気にもしてなかった・・・」
リーネ「なんだろうね、これ・・・みんなしてるから、きっと、大切なものなんだと思うけど・・・」
3人「う~ん・・・」
タッタッタッタ
ふと廊下を、だれかが走り去る。
リーネ「あ、今のって・・・」
芳佳「バルクホルンさーん!なにしてるんですか~?」
ゲルト「! 宮藤か!ちょうどいい!」クルッ
踵を返してゲルトが急いで戻ってきた。
芳佳「え?何がですか?」
ゲルト「これを・・・この写真を見てくれ!お前たち二人も!」
リーネ&ペリーヌ「え?は、はい・・・」
3人がゲルトの手に持つ写真を見る。そして、気づく。
芳佳「!」
リーネ「これ・・・この人って・・・」
ペリーヌ「そうですわ・・・このリボン・・・確か・・・!」
---基地内ハンガー---
カチャカチャ
シャーリー「・・・うっし。これでよしっと。」
ルッキーニ「シャーリー、終わった?」
シャーリー「ああ。これでいつでも飛べるぞ。」
愛機の飛行機であるグラマラス・シャーリー号の整備を終え、片づけを始めるシャーリー。
シャーリー「あれ・・・そう言えばルッキーニそのゴーグル・・・」
ルッキーニの首にかかったゴーグル。それは、元はシャーリーが愛用していた宝物であった。
ルッキーニ「あ・・・そっか・・・これ、シャーリーのだったんだよね・・・ごめんなさい・・・」
ゴーグルを首から外そうとするルッキーニ。
シャーリー「あ~、いいよルッキーニ。それ、確かお前にあげた気がするし。返さなくても、今は新しいのあるしな。」ニッ
そう言って、新品のゴーグルのストラップを指先でくるくると回すシャーリー。
シャーリー「でも、一応は宝物だったから、大切にしてくれよな。・・・って、前も言った気がするなこれ・・・」
ルッキーニ「! うん!大切にするね、シャーリー!」
シャーリー「おう!・・・でも、なんでだろうな。さっきから覚えてないのに、覚えてるような・・・なーんか大切なことを忘れてるような・・・」
ルッキーニ「あ、それあたしもだよ、シャーリー。」
シャーリー「だよな~・・・なんだっけな~・・・」
シャーリー&ルッキーニ「う~ん・・・」
シャーリー&ルッキーニ「・・・あ。」
お互いに身に付けたリボンを指さしながら、叫んだ。
シャーリー&ルッキーニ「約束!!」
---執務室---
坂本「ミーナ、この資料はどこにしまえばいい?」
ミーナ「ちょっと見せて。・・・アルカナネウロイ・・・?なんのことかしら・・・これは捨てておいていいわ。」
坂本「そうか・・・了解した。」
ミーナ「みんなとも今日でお別れだなんて・・・やっぱり寂しいものがあるわね・・・」ペラッペラッ
ミーナは隊員の名簿をめくりながら、懐かしむようにつぶやく。
坂本「ふむ・・・消えるに越したことはないのだが・・・こうも急だと何かと後味が悪いな・・・」
ミーナ「自分の手で決着をつけたかったから、かしら?」
坂本「ああ。できることならば、この手で決着をつけたかった・・・」
ミーナ「美緒・・・変わらないわね、あなたは。」
坂本「人間、そう簡単に変われるものではないさ。それに、わたしは諦めが悪いからな、はっはっは!」
ミーナ「もう・・・あら?」
名簿をめくっていたミーナの手が止まる。
坂本「どうした・・・ミーナ?」
ミーナ「これ・・・この子・・・」
ミーナが坂本に名簿をみせる。
坂本「こいつは・・・確か・・・」
二人の脳裏を断片的な記憶が過る。
ミーナ「!! そうだわ!どうして・・・なんで忘れてたの!?もう!」
坂本「ミーナ、本部に連絡を!!」
ミーナ「ええ!大至急よ!!」
---基地内廊下---
ここ2週間、サーニャは夢の中に出てきたあの男のことで頭がいっぱいであった。
なぜかは分からない。でも、その男のことを考えるとサーニャの胸に切ない感情が込み上げる。
そんな中サーニャは、意味もなく脚の赴くままに廊下を一人で歩いていた。
エーリカ「あ、サーニャ・・・」
一つの扉の前で、エーリカが立っていた。
サーニャ「エーリカさん・・・」
エーリカ「あれ?サーニャ、いつからエーリカって呼んでくれるようになったっけ?」
サーニャ「え・・・?前からだと・・・思いますけど・・・」
エーリカ「そうだっけ?まぁいっか。・・・って、やっぱりサーニャはここに来るんだね・・・」
サーニャ「?」
エーリカの意味深な言葉にサーニャは困惑する。
エーリカ「にゃはは。ごめん、なんでもないよ。じゃね~」タッタッタ
サーニャ「は、はい・・・」
エーリカ(やっぱり、忘れてても心のどこかで覚えてるんだよね・・・彼を好きだったこと・・・)
走りながら、エーリカはそんなことを考えていた。
サーニャ(この部屋・・・)
走り去るエーリカを見送った後、サーニャはエーリカの立っていた部屋の前の扉を見つめる。
そこは、誰もいないはずの空き部屋であった。
サーニャ(前にも、この部屋に入った気がする・・・それも、何回も・・・でも・・・どうしてだろう・・・)
サーニャ(エーリカさん、私がここに来るの知ってたみたい・・・多分この部屋に、なにか・・・)
考えるよりも先に手が伸びていた。サーニャはゆっくりとドアノブをひねり、扉を開けた。
---空き部屋---
空き部屋である筈の部屋は、なぜか家具が置かれ、どこか生活感を漂わせていた。
まるで最近まで誰かがここに居たように。
サーニャはその部屋を一通り見まわす。
サーニャ(やっぱりこの部屋・・・知ってる・・・)
それから彼女は部屋の探索を始める。何かをつかむための、手がかりを探すために。
クローゼットを開ける。中には、同じ軍服が何着かあるのと、扶桑の民族衣装である甚平が2着入っていた。
なんとなく気になったベッドの下を見てみる。
サーニャ「!!///」
そこには男のバイブルが一冊隠されていた。気になって、中身を除く。
サーニャ「~~~~~~~~~!!///」サッ
すぐに元の場所に戻した。
しばらくして落ち着きを取り戻し、それから机を見る。
サーニャ「これ・・・」
机の上には、写真立てと何枚かのネコペンギンの便箋が散乱していた。その上に一つ、その便箋を使った手紙が置かれている。
手紙の宛名には『サーニャへ』と書かれていた。
サーニャ(私あての・・・手紙・・・)
よくわからないまま、恐る恐る手紙を開いてみる。
『サーニャ』へ
君がこれを読んでいるって事は、俺はまた勝手にどこか行っちゃってるか、多分、死んじゃったんだと思います。
というより、俺のことなんかもう忘れてるかもしれないんですよね。もし覚えていないなら、こんな手紙はゴミ箱に捨てて、どうか忘れたままにしてください。
その方が、きっと幸せでいられると思います。
でも、もし覚えてくれているなら、もう少しだけ読んでくれるとうれしいです。
そこで捨てることはしなかった。サーニャは読み続ける。
俺は、君に謝らなくちゃいけないことがあります。
はじめに、君に選んでもらったこの便箋、親父に手紙を書くために使うはずだったんだけど、結局何書けばいいか分からなくて、使わずじまいになっちゃいました。
今こうして遺書みたいに使ってしまって、ごめんなさい。
2つ目は、また勝手に消えてごめんなさい。どういう事情で消えたか、書いている今じゃわからないけど、多分勝手な無茶をやらかしたんだと思います。
3つ目は、約束を守れなくてごめんなさい。桜を見に行く約束も、君とエイラと一緒に、君のご両親を探す約束も、君の目の前から消えてしまった今じゃ果たせなくなっちゃいました。
最後は、君を幸せにしてあげられなくてごめんなさい。結局口だけで、俺、君を幸せにすること、何一つやってあげることができませんでした。そればかりか、逆に俺は君に辛い思いをさせてばかりでした。
本当にごめんなさい。
読み進めるうちに、なぜか涙が込み上げてきた。それでもサーニャは読み続ける。
なんだか謝ってばかりだけれど、君と一緒にいる間、俺は、本当に幸せでした。
君と出会って、毎日を一緒に過ごして、そんな中で君の笑顔が見れたときは、なんだか俺も嬉しくなって、そんな君から、俺はたくさんの元気と、勇気をもらいました。
いつしか君を好きになって、君と恋人になれてから、君を幸せにするために生き続けようって思えました。君は、俺に生きる意味をくれました。
出来ればもう一度君に会って、たくさんありがとうを言いたいです。
本当にありがとう。サーニャ。君と出会えて、本当に良かった。
あまり長くてもなんなのでこのくらいにしておきます。
最後に、ずっと言いたかったけど恥ずかしくて言えなかったことがあるのでここに書きたいと思います。
そして、そこに書かれた言葉が、彼女の心のせきを切り、
愛してます。
世界で一番、お菓子や他の俺の好きなどんなことよりも、君のことを。
サーニャは泣き崩れた。
涙があふれて止まらない。嬉しくて、でも、寂しくて・・・ごちゃごちゃになった感情がサーニャを苦しめる。
さよならは言いません。きっと、生まれ変わって、もう一度会えると信じています。
また、会いましょう。
『俺』より
サーニャ「俺・・・おれっ・・・」ポロポロ
ようやく全てを思い出した。自分が大切に思っていた青年の名を。その青年と歩んだ一年間のことを。
ぽたぽたとこぼれ落ちる涙が手紙を濡らしてゆく。サーニャは手紙を抱きしめるようにして、その場にうずくまる。
エイラ「サーニャ・・・?」
その声に振りかえれば、後ろにはエイラが立っていた。
エイラ「サーニャ・・・泣いてるのカ・・・?」
サーニャ「エイ・・・ラぁ・・・」
ギュッ
サーニャはエイラにすがるように抱きついた。
サーニャ「グスッ・・・俺が・・・俺が・・・いなくなっちゃった・・・」ポロポロ
エイラ「俺・・・?」
ふと、机の上の写真立てに目がいく。自分とサーニャの隣で歯を見せて笑う青年の姿がそこには写っていた。
エイラ「!! 俺・・・くっ・・・!」ギュッ
エイラはサーニャを強く抱きしめる。サーニャはその腕の中で、しばらく泣き続けた。
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――――――――
――――
仲間たち全員が『俺』と、一年間の記憶を取り戻した。しかし、その後俺の捜索を願い出るも俺の行方が分かることはなかった。
その後、ストライクウィッチーズは解散。
各々は母国へ戻り、原隊に復帰するはずであったが、ミーナの計らいにより、かねてより約束していた花見をするため全員が船に乗って扶桑へ向かう事となった。
~2か月後~
世界に、本物の平和が戻った。ネウロイの突然の消滅に各国はイニシアチブの掌握に失敗。
結局どの国も覇権を握ることなく、第二次ネウロイ大戦は終息していった。
だが、人類はネウロイ出現の前例を受け、機械化航空歩兵と機械化装甲歩兵の部隊を解散させることなく、新たな怪異の出現に備えていた。
更には国と国とが結託し、新たな技術開発もすすめられていた。世界は、以前よりも他国間の結束をより強めていたのであった。
そんな平和になった扶桑の桜の木の下で、ストライクウィッチーズの隊員全員があつまり、花見を行っていた。
ミーナ「これが、桜・・・」
リーネ「うわぁ・・・」
ひらひらと舞い落ちる桜。その美しさは国境を越えるようで、皆が感嘆の息をもらす。
そんな彼女たちは軍服から私服へと衣を変えていた。その姿がこの世界の今の平和を象徴しているようでもあった。
サーニャ「・・・・・」
サーニャは白いワンピースに身を包んでいた。あれから伸びた髪は、ピンク色のリボンでポニーテール状にまとめられている。
俺から受け取ったままの、あのリボンで。
坂本「さ、飲めみんな!酒はここにあるからな。」
芳佳「おつまみも作ったので、よかったらつまんでくださいね。」
酒を酌み交わし、宮藤の用意したつまみを食べる。
本来ならば皆が団欒に花を咲かせ、笑い声の一つでも起きるはずなのだが、いまいち盛り上がりに欠けていた。
シャーリー「なんだ・・・もりあがんないなぁ、みんな・・・」
ゲルト「お前一人で盛り上がっていればいいだろう、リベリアン・・・」
シャーリー「んだよ~こういう時は飲んで騒いで何ぼだろ?ほらほら!」
坂本「そうだぞ、みんな。これでは酒を用意した意味がまるでないじゃないか。」
ペリーヌ「ですが・・・少佐・・・」
エーリカ「みんな、俺がいなくなっちゃったから遠慮してんだよ。自分たちだけで盛り上がっていいのかなってさ。あ、この芋ウマー!」
坂本「まぁ・・・確かに飲んで騒ぐような気分ではないのかもしれんが・・・」
ルッキーニ「・・・・・」
サーニャ「俺も・・・」
全員『?』
サーニャ「俺も、みんなが笑ってくれていたら、きっと喜ぶと思います。」
エイラ「サーニャ・・・」
ミーナ「・・・そうね。彼もきっと、それを望んでるはずね。せっかく宮藤さんと美緒が用意してくれたんだもの。いただきましょう、みんな。」
エーリカ「早くしないとこのお芋、私一人で食べちゃうからね~」
芳佳「ほら!早くしないと肉じゃがハルトマンさんに食べられちゃいますよ!みんな!」
サーニャ「あむっ・・・」モグモグ
ゴックン
サーニャ「これ、すごくおいしいわ。エイラ。」
エイラ「そ、そっか。じゃあいただくんダナ。」
ミーナ「私もいただくわね。」
ゲルト「お前だけに独占されてたまるか。あむっ。」
サーニャを口火に皆が手を付け始める。次第に会話が始まり、いつしか笑い声が起るようになった。
シャーリー「だーっはっはっは!そんなこともあったなぁ!」
ゲルト「ぐっ・・・くぅ・・・///」
芳佳「そんなことが・・・」
ペリーヌ「なんだか意外ですわね・・・」
エーリカ「トゥルーデ、顔真っ赤だよ。かわい~」
ゲルト「う・・・うるさいっ!///」
思い出話や、
ミーナ「そう・・・あなた達はサーニャさんのご両親を探しに行くのね。」
エイラ「ああ。あと、俺も探すんダ。一緒に。ナ。」
サーニャ「うん。」
リーネ「きっと・・・きっと見つかるよ。お父さんとお母さんも、俺さんも・・・」
サーニャ「ありがとう、リーネさん。」ニコッ
エイラ「リーネはどうするんダ?」
リーネ「私は、ペリーヌさんと一緒に復興のほうを・・・」
これからのそれぞれの将来の話。
ようやく花見らしい光景になり、その場はいつもの彼女たちらしい雰囲気に包まれていた。
ふとサーニャが桜の木を見上げる。
サーニャ(俺・・・俺が言った通り、桜、とっても綺麗よ・・・でも・・・できたら・・・俺も、一緒に・・)
木は風に揺らぎ、花びらがそれを受けて舞い落ちる。サーニャは手のひらで舞い落ちてくるそれを迎える。
サーニャ「?」
ふと、彼女の手のひらに、桜の花びらに交じって、一本のリボンがあることに気付く。
自分の身に付けていたリボンが落ちたのだろうか。サーニャは髪を触って確認する。
サワサワ
違う。髪は結ばれたままだ。他の者を見渡す。
サーニャ(みんな・・・ちゃんとつけてる・・・)
誰もリボンを落したような者は居なかった。サーニャは風の吹いていた方向を見据える。
サーニャ(・・・・・)
なんとなく、直感でしかなかった。それでもサーニャは向こうに自分が想いつづけたあの人がいる気がしてならなかった。
スクッ
エイラ「ん?サーニャ?」
サーニャ「いる・・・」タッタッタ
エイラ「あ、おい!サーニャ!うわっ!」
少し酔いのまわっていたエイラは姿勢を崩してしまう。ポケットにしまっていたタロットカードが一枚こぼれ落ちてしまった。
エイラはそのカードをめくる。
ペラッ
エイラ「死神・・・でも、逆位置・・・」
死神の逆位置。その意味は、
エイラ「再生と、新たな出発・・・」
サーニャが走り去ると同時に、彼女たちの元に別の人物が訪れた。
?「芳佳。」
芳佳「はい。・・・えっ・・・?」
坂本「! あ、あなたは!!」
芳佳の目の前にはメガネをかけ、茶色のコートを纏った優男が一人。
ミーナ「嘘・・・」
エーリカ「あれ・・・この人、もしかして・・・」
ルッキーニ「だれ?」
見紛うはずもない。その人物は・・・
芳佳「あ・・・あぁ・・・」
一郎「大きくなったね、芳佳。」ニッコリ
芳佳「お父さん・・・おとうさああぁぁん!!」バッ
――――――――
――――
――
サーニャ「はぁっ・・・はぁ・・・」タッタッタ
木々の間を抜け、俺の姿を探す。
サーニャ(俺・・・どこ?どこなの?)
彼女は捜し続ける。やがて、少し丘になっている広場へと出た。
その丘の頂上に、一本の桜の木が立っていた。サーニャはそこを目指して歩く。
サーニャ「・・・・・」キョロキョロ
やがてたどり着いた桜の木。しかし、俺の姿は見えない。
サーニャ「!」
幹の後ろに人の足が見える。サーニャゆっくりと幹の裏へと回る。
白髪の青年「・・・・・」
そこには、一人の青年が幹を背にして目を閉じていた。
間違えるはずもない。思い出して以来、片時もその青年を忘れたことなどなかった。
ずっと自分が大切に思い、愛し続けた彼。そう、まぎれもなくその青年は、
サーニャ「俺・・・」
ようやく見つけた・・・サーニャは俺の目の前で膝をつき、左の手を取り、頬へ寄せる。
手は冷たく、まるで死んでしまっているようだった。
俺「・・・・・」
サーニャ「・・・・・」
ピクッ…
サーニャ「!!」
ふと、指先が動いた気がした。
俺「・・・う・・・ぅん・・・」
次第に手に温かみが戻って来る。
俺「あ・・・」
俺が目の前のサーニャに気付く。それからにっこりとほほ笑むと、彼女の頬をゆっくりと撫ではじめる。
サーニャ「っ!!」ダキッ
俺「うおっ!」
サーニャは俺の胸にすがりつく。俺はそんなサーニャの頭を撫で続けた。
俺「ちょっと・・・苦しいっス・・・」
サーニャ「・・・・・」ギュゥゥゥ~
俺「さ、サーニャ・・・」
サーニャ「ずっと・・・ずっと会いたかった・・・寂しかった・・・」
俺「そっか・・・ごめんなさい、寂しい思いをさせて。」
サーニャ「・・・ただいまは・・・?」
俺「あぁ・・・うん・・・えと・・・」
俺「ただいま。サーニャ。」ニッ
サーニャ「うん・・・おかえりなさい・・・俺・・・」ニコッ
笑顔と同時にサーニャの頬を涙が伝う。
ようやく出会えた二人。もう二度と離れぬよう、二人はしっかりと手を握りあい、寄り添う。
指は、離れないようにしっかりと絡め合って。
俺「涙、止まったっスか?」
サーニャ「・・・・・」コクッ
俺「よかった・・・それで、みんなは?どうしてるっスか?」
サーニャ「・・・みんな、別の場所でお花見してるわ・・・後で一緒に行こう?」
俺「あぁ、うん。そうっスね。あと、ご両親は見つかったっスか?」
サーニャ「ううん・・・まだ探しに行ってない・・・俺も一緒に行くって、約束したから・・・」
俺「あ、そっか・・・俺のせいで・・・ごめん・・・」
サーニャ「俺のせいじゃないわ。扶桑を通ってオラーシャへ帰るって、前から決めてたから・・・」
俺「そっスか・・・」
サーニャ「それより・・・今まで、どこいってたの?」
俺「えと、ちょっと地獄まで・・・で、閻魔さまに裁かれそうになったんでビビッて逃げてきたっス。」
サーニャ「真面目に聞いてるの・・・」ムゥ
俺「あはは・・・まぁ、いろいろと・・・」
サーニャ「もう・・・」
俺「ごめんなさい・・・と、そうだ。桜、どうっスか?綺麗でしょ?」
サーニャ「うん・・・とっても綺麗・・・見てると、心があったかくなるみたいで・・・」
俺「・・・桜って、他の花と違って上じゃなくて、下を向いて咲くんスよ。それこそ、みんなを見守るみたいに・・・」
サーニャ「・・・・・」
サーニャは木を見上げる。確かに、桜の花は下へ向いていた。
俺「それで、時期が来るとすぐに散っちゃって、でも、それがすごく綺麗なんスよ。例えがちょっと悪いかもしれないけど、俺、桜とウィッチって似てると思うんス。」
サーニャ「どうして?」
俺「ウィッチって、ある程度年齢が来ると飛べなくなっちゃうじゃないっスか。桜も時期が来たら散っちゃうんス。」
俺「でも、咲いている間はすごく綺麗で・・・ウィッチも桜みたいに、綺麗で、空からみんなを見守り続けて、たくさんの人を笑顔にするために戦う。それで、魔力がなくなると、役目を終えて引退していく・・・それこそ、桜が散ってしまうように・・・」
俺「俺、そんな桜みたいなウィッチに、男だけど憧れてて・・・俺もこんな風にかっこよくなりたいなって思って・・・魔力があるって分かった時、すぐにウィッチになろうって決めたんス。」
サーニャ「そうなんだ・・・」
俺「まぁ、俺も・・・もう散っちゃいましたけどね。」
どこか含みのあるその言葉にサーニャは一瞬戸惑う。
よく見れば、俺はメガネをかけていない。にもかかわらず、使い魔の耳と尾が出ていなかった。
サーニャ「メガネ・・・どうしたの?」
俺「ん?ああ・・・俺、魔力無くなっちゃったんスよ。だから、もうこいつはいらないんス。」
胸ポケットからメガネを取出し、くるくると回す。
サーニャ「そう・・・なんだ・・・」
俺「マルセイユ大尉に次会ったらどうしたらいいんスかね。もう勝負できないなんて言ったら怒られるかも。」
サーニャ「ふふっ・・・そうね。」ニコッ
俺「だから・・・よっと。」カチャリ
サーニャ「ん。・・・?」
持っていたメガネをサーニャにかける。
俺「ははっ、すっげぇ似合ってるっス。可愛いっスよ。」
サーニャ「・・・///」
俺「あ、そうだ・・・そういえば・・・」
俺が自分の右腕を触る。そこにはリボンがまいてあるはずだった。だが、
俺「あれ・・・?ない・・・ない!」
サーニャ「どうしたの・・・?」
俺「リボン・・・君から預かってたやつ・・・失くしちゃったみたいっス・・・」
サーニャ「・・・ううん、失くしてなんかないわ。さっき、ちゃんと返してもらった・・・」
サーニャは握っていたリボンを見せる。
俺「そ、そっスか・・・よかった・・・」
サーニャ「だから、こっちは俺に・・・」スルッ
サーニャは髪に結んでいたリボンをほどき、俺へと手渡す。俺はそのリボンを受け取る。
俺「・・・戻ってきたんスね・・・俺・・・」
手元のリボンを見ながら、俺がつぶやく。
サーニャ「うん・・・」
俺「・・・・・」グッ
リボンを握りしめる。同時に俺の表情がすこし陰る。
サーニャ「俺・・・?」
俺「・・・サーニャ・・・君は、俺といて幸せでしたか・・・?」
サーニャ「・・・どうして・・・そんなこと聞くの・・・?」
俺「・・・俺、君を幸せにするって言ったくせに・・・全然、君を幸せにしてあげられた気がしないんス・・・むしろ、君を泣かせてばっかで・・・」
俺「・・・俺、たぶん・・・これからも君を不幸にしてしまうと思うっス・・・サーニャ・・・やっぱり・・・」
サーニャ「ダメ・・・」
その言葉の先を察したように、サーニャが呟いた。
俺「え・・・?」
サーニャ「どうして・・・離れようとするの・・・?俺は・・・私と一緒は嫌になった・・・?」
俺「違う・・・そうじゃない!俺はずっと君に幸せでいてほしい・・・君に、苦しい思いをしてほしくない・・・だから・・・」
サーニャ「なら、離れないで・・・っ!わたしは、俺と離ればなれの時が・・・一番、つらいから・・・」
俺「サーニャ・・・」
サーニャ「わたし、俺としたいこと、まだたくさんあるわ・・・」
サーニャ「またお祭りにいきたい・・・この素敵な桜もまた一緒に見たい・・・お父様とお母様も一緒に探してほしい・・・」
サーニャ「それに――」
それは、俺にとって思いがけない言葉だった。
何度も離れ離れになって辛かった。でも、もう離れたくない。これから先もずっと、この青年の側にいたい。
そんな一途な想いから生まれた願いが言葉となって告げられる。
サーニャ「俺と、本当の家族になりたい・・・」
俺「本当の・・・家族・・・?」
その言葉だけでは、俺は意味をとらえられなかった。
彼女は気恥ずかしそうに、この鈍感な青年に言ってあげた。
サーニャ「だから・・・俺のお嫁さんに・・・なりたい・・・の・・・///」
言葉が後半になるにつれ、サーニャの声が消え行ってしまいそうなほど小さくなる。
俺「・・・お嫁さん、って・・・俺・・・今、プロポーズされ・・・た・・・?」
サーニャ「・・・///」コクッ
俺「・・・・・」
サーニャ「お・・・俺・・・?」
俺「・・・ホントに・・・本当に・・・俺なんかでいいんスか・・・?俺、平気で約束破っちゃうような男っスよ・・・?それに、俺より素敵な人なんか、世の中いっぱい・・・」
サーニャ「うん・・・わかってる・・・俺は約束を破るし、すぐにどっか行っちゃうし・・・黙って、え・・・えっちな本、隠してるのも・・・」
俺「っ!・・・あれは・・・その・・・」
サーニャ「・・・それでも俺がいい・・・わたしは、俺の側にいたい・・・この先もずっと・・・」
俺「・・・・・」
俺「・・・そっか・・・ははっ・・・なんか・・・すげぇ嬉しいっス・・・」ツー
頬を、自然に涙が伝う。
サーニャ「俺・・・」スッ
サーニャの指が俺の涙を拭った。
俺「あぁ・・・ごめん・・・なんで泣いてるんスかね、俺・・・」
サーニャ「俺・・・お返事、聞かせて・・・」
一呼吸おいて、サーニャの瞳を見つめながら俺は答えを返す。
俺「・・・俺も、サーニャとこの先もずっと・・・一緒にいたいっス。君と、幸せになりたいっス。」
サーニャ「じゃあ・・・」
俺「今度こそ、俺の一生をかけて君を幸せにしてみせます。もう絶対に、君を1人になんかしないっス。だから、サーニャ・・・」
俺「これからもずっと、俺の隣にいてください・・・」
サーニャ「はいっ・・・」ニコッ
笑顔を見せると、サーニャが抱きついてきた。それに、俺も抱擁を返す。
もう、二人を別つものは何もない。目の前の幸せを二度と放すことの無いよう、二人は体を寄せ合った。
サーニャ「俺・・・」
俺「はい・・・」
サーニャ「愛してる・・・」
俺「!」
俺の胸に顔を預けたままサーニャが呟いた。
俺「サーニャ・・・」
サーニャ「俺も言って・・・お手紙に書いてあったこと・・・
俺の気持ちが、本当なら・・・」
俺「手紙・・・?」
サーニャ「俺の机に置いてあった・・・」
俺「あ、あぁ・・・あれ、読んじゃったんスか・・・」
サーニャ「お願い・・・聞かせて・・・」
俺「・・・うん・・・わかったっス。」
彼女の瞳をやさしく見つめながら俺は告げる。
それは、ありきたりで月並みな言葉かもしれない。
けれど、その言葉にたくさんの想いを籠めて俺は伝える。
世界よりも大切で、大好きで、愛おしいこの少女に。
俺「愛してます・・・君のこと、世界で、一番・・・」
サーニャ「うん・・・私も・・・愛してる・・・」
それから、特に示し合せることもなく二人は指を重ね、唇を寄せ合い、
チュッ…
そのまま唇を重ね合わせた。
長く、長く――
今まで離れていた時間を埋め合わせるように。
お互いの愛がもう二度と、離れてしまわないように。
やがて二人の唇が離れた。
後になって照れくささがやってきて、お互いに少し目を伏せてしまう。
それでも視線が交り、少しもじもじしながらも、二人は微笑みを交わした。
俺「あ・・・」
見上げれば、桜の花びらに混ざって、いつか見た青い蝶が二人の周りを舞っている。
どこか幻想的に見える景色に二人は見とれる。
サーニャ「綺麗・・・すごく・・・」
俺「うん・・・綺麗っスね・・・」
穏やかな景色の中、二人は寄り添い続ける。
俺(なんだろう・・・すごく満たされた気分だ・・・こんなに幸せなのは久々かな・・・)
隣には愛する少女がいて、周りには桜の舞う鮮やかな景色が広がる。
少女の顔を覗く。気づいた少女が一瞬こちらを向き、にっこりと、心からの笑顔を見せてくれた。
俺もそれに微笑みを返した。それから二人はもう一度空を見上げる。
やがて、安心したせいか、溜っていた疲労が今頃体を覆い、眠気がやってきた。
俺(なんだか眠いな・・・ふわふわするみたいだ・・・)
体が浮いてしまいそうな感覚。心地よくて、幸せな気分だ。
俺(ははっ・・・魔力無くなったのに今なら飛べそうだな・・・まってくれよ俺も・・・一緒に・・・)
俺は宙を舞う青い蝶へ、ゆっくりと手を伸ばす。
そして――
「ありがとう・・・サーニャ・・・」
トサッ…
サーニャ「? ・・・俺?」
俺「・・・・・」
見れば、サーニャの肩に俺が寄りかかっている。腕は力なく地にうなだれていた。
サーニャ「・・・寝ちゃったの?・・・ふふっ・・・疲れちゃったのね・・・」
サーニャは俺の頭をゆっくりと自分の膝元に置く。
サーニャ(ずっと・・・がんばってたのよね・・・今はゆっくり休んで・・・私はずっと、俺の側にいるから・・・)
俺「・・・・・」
サーニャ「愛してる・・・」
そうつぶやき、サーニャは――
眠る俺の唇に、そっと口づけを落した。
穏やかな春の日差しの中、サーニャの膝元で俺は眠る。
彼女はそんな俺を見守りながら、彼が安心して眠り続けられるよう、優しい声で歌い続けた・・・
俺の腰のホルスターには銃ではなく、一本の鍵が入っていた。"Memento mori"と刻まれていたはずのそれには、今は別の言葉が刻み込まれていた。
その言葉は、
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最終更新:2013年01月29日 14:30