「蒼穹の絆1-8」
俺の調査期間があと10日ほどとなった501。度々敵襲はあるものの、普段と変わらぬ毎日である。
俺と加藤少尉は、暗いうちから車でロンドンへ。最後の経過報告、そして加藤少尉は休養二日をロンドン
で過ごす。俺は日帰りする。丁度、ミーナも司令本部への連絡業務があるので、帰りはミーナが乗ってきた
連絡機のJu52に便乗することとなった。部隊司令官は分秒が大事なのだ。交通機関も優先される。
―最悪の夜 序章― ミーナ視点
薄暗い機内で、俺さんと業務についての意見交換をする。其々が管轄部署から得た情報の交換も。
防空圏内ゆえの制限もあるので(まっすぐ飛べば1時間程度の距離だが)迂回するので2時間半ほどかかる。
まあ、車よりは早い。
一通りの情報交換を終えた頃、機関士がコーヒーの入ったポットとカップ、それにチキンサンドを持って
来てくれた。礼を言って受け取る二人。外は既に真っ暗。3発のエンジン騒音でやかましい機内。ヘッド
セットを使うことも出来るが、それだと操縦員などにも筒抜けになってしまう。機密保持。それは逆に
秘密の共有の言い訳。
もうすぐ、あなたは別の場所に行ってしまうのね。次に逢えるのは何時なんだろう。扶桑に帰ってしまう
のかしら・・・。そうなったら、私が軍を辞めるまであえないって事にもなりかねない。どうしよう・・・。
俺「どうしました?ミーナさん」
ミ「あ。ちょっと考え事を。 あの、この任務が終わったら次は?」
神様。お願いします・・・。
俺「暫く、ロンドンの海軍代表部に腰をすえての任務になる予定ですよ?来年春頃まで、でしょうか?」
ホッ・・・。近くにいてくれるのね。なら、寂しさは余り・・・。
ミ「連絡ください・・・お願い」
俺「心配しないで!寂しいのは私は苦手なんです。手を考えましょう」
彼の手がそっと私の膝に置かれた。その上から手を被せる。安心出来る・・・。
前は、こんなに孤独を恐れたことは無かった。仲間がいた。でも、今は彼もいてくれないと・・・。
ミ「ええ。私も。寂しいのは嫌・・・・」
そっと彼のほうへ距離を縮める。
俺「ミーナさん。これ、さっきロンドンで探したんですけど」
事務鞄から包みを取り出した。
なんだろう?? 私に?
ミ「えと・・・なんでしょう?」
俺「気に入ってくれると嬉しいのだけど」
ミ「開けてもよいのですか?」
二つの小箱・・・。
俺「ええ」
細長いほうから開封。出てきたのはプラチナのネックレス。可愛いヘッドにはダイア。
ミ「私に?」
貴方・・・・。 ジンワリしたものがこみ上げる。
俺「ええ。似合うと思います」
つけてくれるというので、制服の胸元を緩める。そっと、彼の指がうなじに触れた。
ミ「・・・・似合うかしら?」
髪の毛をそっと払って、彼に向き直る。似合うといいな・・・。
俺「よかった!似合います!」
思わず、ペンダントヘッドを両手で押さえてしまった。ありがとう。大事にします。衣服を整える。
誰に気付かれなくてもいい。わたしだけの宝物・・・。
ミ「こちらは?」
小さな箱がまだ・・・。
促されて開けてみる。中にあったのは・・・
ミ「あなた!」
おもわず、そう呼んでしまった。涙が零れそうになる。
俺「結婚、してくれ。ミーナ」
頷くしかできない。喉に何か詰まったようで、声が出ない。
そっと、彼が私の手を取り、嵌めてくれた。ああ、神様!
―最悪の夜 本章― ミーナ視点
二人、黙って座っている。互いの手を握って、二人とも静かに
物思いにふける。
ふと、ミーナが窓の外を見て、軽く手を振った。その手には指輪が光る。
ミ「ちいさなエスコートが迎えに来てくれたわ。ほら、あそこに」
サーニャが乱流に影響されない程度の距離を置いて並行して飛んでいる。
俺「今晩の夜間警戒は彼女でしたか」
二人で手を振ると、サーニャも微笑んで左手を振り返した。
私たちの婚約の証人、ね。
ミ「エイラさんも近くにいるはずよ。もうすぐ、基地ね」
と、着陸が近いと俺に説明する。
説明しながら、何気なく窓の外を見ていた私は、サーニャさんに別のウィッチが被さり、機体から引き離す
のを見た。エイラさん?と思った瞬間。
真っ赤なビームが直上からJu52の周りを何条も貫く!
俺も間髪を要れず、非常ベルの釦を握りこぶしで叩いた。次の瞬間、操縦席がビームで貫かれる。
爆発音と熱が同時に二人を襲った。次の攻撃で左翼が吹き飛ばされ、燃料タンクが爆発。
二人がそれを頭で理解したとき、既に機体はきりもみで墜落していく最中。体は遠心力で機体内部に張り
付いてしまっている。まだ生きているエンジン一つが無意味に加速度とスピンを上げていった。
高度は5000mだったはず!でも、このままでは身動きできないまま墜死する!私は恐怖に鷲掴みにされた。
俺さんは何処! Gに逆らって、必死に顔をめぐらす。やっと見つけた。座席の下からパラシュートを
取り出している。二つ取り出すのにも時間はどんどん過ぎていく。やっと、私の傍に這いずって
戻ってきた。
彼は諦めていない!私も諦めてはいけない!
必死に体をGに逆らって動かし、彼に協力する。足を片方ずつ上げて、股間縛帯を通す。壁に手をついて
突っ張り、本体を背中に。魔力を展開して、少しからだが動かしやすくなった。
俺が喘ぎながら、胴体縛帯を固定し、締め上げる。そのまま、私を必死に引っ張って胴体横にある昇降
ハッチに引き摺っていく。私は必死に抗う。駄目よ!
あなたもつけなきゃ!あなたも!
必死にもう一つのパラシュートの縛帯を掴む。それを手繰ろうとする私。私を引き摺る俺。
ハッチは無事に開いた。ロックを解除しただけで、遠心力で勝手に開き、なおかつ外流で引きちぎられる。
俺「ミーナ!体を思い切り丸めろ!赤ちゃんのように!尾翼にぶつかったらおしまいだ!」
だめよ!まだあなたは!
ミ「イヤッ!!貴方もつけて!」
俺「時間が惜しい!俺は大丈夫!後から行く!さ!飛ぶんだ!」
ミ「いやあああああああああああああっ!」
絶対ダメ!クルトもそういった!なのに!
貴方が死ぬなら私も!もう一人ぼっちは嫌!!!
ゴン!と彼の頭が私の頭にぶつかった。必死な目が私を睨む。
俺「俺を信用しろ!俺はお前と生きる!必ずな!!行ってくれ!」
信用していいの?絶対よ!お願いだから!
ミ「約束して!!」
俺「必ず!!!飛べ!」
泣きながら、私は彼に押し出された。風の奔流が私を襲う。必死に言われたことを守る。
体を小さく!小さく!お願い!あなた!早く来て!早く出て!!
回転が収まりだした。泣きながら体を伸ばす。眼下に真っ赤な火の玉がまわりながら落ちていくのが見える。
リップコードの取っ手を握ったけど・・・今は彼と落下したい。早く飛び出して!
発狂しそう。早く!
早く!
腕の多目的計器を見ると、高度はすでに1000メートルを切っている。
勝手に絶叫が迸る。風が口の中に押し込まれて、声にならない。でも構わない。何かしていないと気が狂う!
早く!
あっ! 何か機体から離れた!彼よね!お願い・・・神様!
パラシュートがスルスルと伸びだした!彼だ!!
安堵で涙と鼻水が頬を伝わる。彼と同じ高度になった。リップコードを思い切り引く。
ガツンと衝撃。開いた・・・。彼の傍によりたいけれど・・・
あ! 機体が爆発。炎の塊が彼を飲み込んでゆく。彼の叫びが聞こえた、と思う。
私の名前・・・!
「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
泣き叫びながら暴れていた私は、海中に突っ込んだ。冷たい海水に包まれて訓練が蘇る。
口から鼻から海水がなだれ込む。縛帯のロックをこじ開けた。夢中で傘体の無いところに飛び出る。
彼は何処!
海面が燃えているほうへ必死に泳ぐ。どこ!どこなの!
必死に探すけれど、波が高くて視界も魔力も利かない。炎もどんどん小さくなっている。
ふと、なんかが聞こえた? 自分の叫びを押し殺し、じっと耳を済ます・・・・。
立ち泳ぎのまま、体を回す。
あ! ロケット弾の発射炎? また!間違いない。位置を示そうとしているのね!
がむしゃらにそっちへ泳ぐ。
誰かが何かを引っ張って、海面すれすれでホバーする姿が見えてきた。サーニャさん?
彼とサーニャさんだった。サーニャさんは、彼がおぼれないように必死で肩の縛帯を掴んで引っ張っていた。
ミ「生きているの?」お願い・・・お願い・・・
サ「はい。重症のようです。意識が・・・」
生きているなら!今生きていてくれれば!
ミ「私が確保します。ゆっくり降ろして!」
仰向けとなるようによう、彼の首に腕を回す。落ち着くのよ。ミーナ。彼を護るの!
サ「エイラが今、なにか捕まるものを探しに行っています。少し我慢してください。基地へは通信済みです。
救助隊が発信しました。沿岸警備隊も向かっていますが・・・時間が・・・」
ミ「ありがとう。ボートは・・・どれくらいかかるって?」ああ、早く来て!
サ「・・・90分くらいは掛かる様子です。すみません・・・」
ごめんなさい。あなたのせいではないわ。落ち着きますから・・・
サ「はい。・・・でも、攻撃を許してしまいました。・・・ごめんなさい・・・・」
泣きそうな顔をしているサーニャさん。
ミーナ!いけない!しっかりして!
ミ「あなたの責任じゃないわ。大丈夫よ。真上から撃ってきていたわ。あれでは防ぎようがありません。
サーニャさんの探知半径より上から、ってことよ・・・。仕方がないことよ?自分を責めないで。有難う」
泣きそうだった顔が少し晴れた。 よかったわ・・・。
ミ「あ!エイラが何か・・・ゴムボートみたい、引っ張ってきました。私も手伝ってきます。待っていて
ください?」
ええ。大丈夫。お願いね。
ユンカースに積まれていた非常用ゴム・ボートが漂っていたらしい。三人で力を合わせて俺さんをボートに
引っ張りあげる。私も二人に手伝ってもらって転げ込む。10人くらい乗れる大きなボートだった。
ユニットを外した二人も乗っている。
エ「隊長!毛布があったゾ!服を脱いで、これに包まってクレ!早く!」
そうだった。低体温症!夏といっても、ドーバーの水は冷たい。
急いで、俺さんの服を脱がす。二人も手伝う。・・・足が骨折しているみたい。脊髄や首の骨は大丈夫
かしら。軍学校で学んだことを思い出しながら必死に探る・・・けど。よくわからない!悔し涙が止まらない。
サ「俺さんの服、出来るだけ絞りました。これを体の下に敷いて、海水で体温が奪われないように・・・」
ありがとう!彼の唇が黒っぽく見える?いけない!体温が!!
私の服も急いで脱ぎ捨てて絞り、下に敷く。其処に彼を横たえ、私が下になるよう抱き締めて、毛布を
かけて貰おう。暖めないと! 二人が急いで服を脱ぎ始めた。・・・有難う・・・。二人に両脇をお願いして、
三人で一生懸命手のひらで摩る・・・。お願い。死なないで。お願い・・・。死んじゃだめ!お願い・・・。
死んだら許さない!絶対許さないから!!
―最悪の夜 終章― 坂本視点
サーニャからの連絡で、基地はひっくり返った。連絡にあった座標を確認し、隊員を救助隊として出すこと
を決定。エイラの続報で、敵は撃墜できたというが、念のため半数には通常武装を指示した。
サーニャ・エイラとコンタクトし、基地で待機する救急隊に情報を流す。
ボートが来るまでに・・・戻る時間・・・時間のロスが大きすぎる。救助ボートの設備では不十分だろう。
荒っぽいやり方だが、うまくやれば時間が稼げる!
やっと、遭難場所に到着した。エイラに呼びかける。
エ「ここ!ここダゾ!」
右下から曳光弾の射線が上がってきた。エイラのMG42か。
坂「ご苦労!確認したぞ!よくやった!」
エイラめ、沈着だな。あとで褒めてやろう。
ペリーヌとハルトマンには、周囲を探って生存者を探してもらう。・・・・無理とは思っていても・・・。
海面に激突しないよう、緩やかに降下しながら円を描いて降下。サーチライトの光にボートが照らされた。
なるほど。肌で暖める、か。機転が利く。
ボートに乗り移る。よし!やってやる!死なせはせん!!
坂「ミーナ!待たせてすまなかった!怪我は?」
ああ、軽傷か。少将をしっかり暖めてくれ。
「宮藤!頼む!」
治癒魔法をミーナごと処置してもらう。よし、と。次!
坂「エイラ、サーニャ、ご苦労様!よく機転が利いたな!さ、服を着て、ユニットを装着してくれ」
ペリーヌたちが戻ってきた。目で尋ねると、黙って首を振る。 そうか・・・。
坂「説明する。私が抱えてきたタンカで少将を移送する。時間が惜しい。私とバルクホルンがタンカを
横抱きにして運ぶ。宮藤!お前はタンカの真上で治癒を頼む。風を遮る必要がある、ペリーヌ、宮藤の
上からシールドを展開してくれ。リーネ、お前はその下から、シールドの不足分を補う目的で同じく
シールドを展開。ミーナには、少将をそのまま暖めてもらう。ペリーヌとリーネが疲れてしまったら、
誰かに交代してもらう。
質問は?」
みなが頷く。
坂「バルクホルン!銃を宮藤以外に渡せ。ハルトマンと
シャーリーがいいかな? よし。さて次。
ミーナ。ちょっと待っていてくれ」
持ってきた乾いた毛布をタンカの上に広げる。半分は下に。残りは上にかけよう。バルクホルンと協力
して、少将をタンカに乗せる。全裸だが誰も気にするものはいない。傷は・・・いかんな・・・。
坂「ミーナ、俺さんにもう一度、しっかり抱きついてくれ」
ミーナも全裸だが、同じこと。躊躇いも見せず、ミーナが少将を抱きしめた。ミーナ、耐えろ・・・!
宮藤とリーネが毛布を二人に毛布を掛ける。端がめくれないように押し込んで固定した。ボートの救急
物資から包帯を借り、しっかりと毛布とタンカに巻きつける。
ペリーヌが銃でタンカの横棒を相互に連結し、一定幅を持たせたらどうかと提案してくれた。早速やる。
これでよかろう。よし。
ユニットを装着しエンジンを始動。バルクホルンと息を合わせて抱き上げた。リーネたちが支えてくれる。
うねるボートの上ではなかなか、難しい・・・。
坂「まずは30m上まで静かに上昇。呼吸を合わせろ」
頼むぞ?バルクホルン!
バルクホルンが目を合わせる。目で呼吸を合わせて・・・よーし!いいぞ! 一端停止。今度は水平飛行に
移行する。
バ「30度の200メートルでいいかな?」
ふむ。そうだな。余り急速に高度を取ることはない。飛行高度は低くないと、ミーナたちに負担が掛かる。
芳「速度はあわせます!いつでもどうぞ!」
ペリーヌとリーネが、私とバルクホルンに干渉しない大きさのシールドを張った。
坂「よし。タイミングを合わせる。ゼロカウント。3 2 1 いけ!」
最初は多少左右が前後したが、すぐに揃う。ゆっくりと加速。200で水平飛行。進路を定め、基地へ向かう。
宮藤、頼むぞ・・・。ちらりとタンカを横目で見ると、ミーナが必死に彼に呼びかけていた・・・。
何て日だ・・・。
規則など無視!官舎入り口に垂直着陸。宮藤とペリーヌが反対側を支えてくれる。
そのまま、待機していた医療チームに二人ごと委ねる。宮藤は付き添わせる。ユニットは脱ぎ捨てさせた。
所詮道具。人命には・・・。
装具を収納し、皆が医務室前に自然と集まった。まだ、結果は出ないだろう。気持ちはわかるが・・・。
坂「皆!ご苦労!サーニャ!エイラ!取り急ぎ体を風呂で温めろ!ほかは談話室で待ってくれ!
ご苦労だったな!さあ!いけ!」
強権発動、も・・・。皆、わかってくれ・・・。
バルクホルンが皆を連れて行ってくれた。
小一時間が過ぎ、最初にミーナがベッドに横たわった姿で出てきた。電気毛布で覆われ、足元は大きく
毛布が膨らんでいる。足を保護しているのか・・・。看護助手に容態を聞く。
助「はい。両足の指骨及び右足の腓骨を骨折しています。パラシュートの開傘高度が低かったか何かで
しょう。あと、低体温症が出ています。ほか、若干の打ち身、切り傷等。精神的動揺が激しいこともあり
モルヒネを投与の上、輸液しています。。現在は安静が必要です」
坂「有難う。お願いします」
頭を下げる。ミーナは寝たまま集中治療室に運ばれた。ボートの上で、そして医療室にはいるまで、
ミーナは平然と歩いていた。無我夢中な人間にしか出来ないこと。それほど、人は愛せるものか。
宮藤はまだ出てこない・・・。ということは・・・。
椅子に腰掛け、坂本は目を閉じる。
神よ。仏よ。私自身のことで願ったことは無い。縋ったことも無い。でも・・・自らのことでないのだ、
どうか、彼を助けてやってください。彼にもしものことがあったら、私の親友が・・・。代償は私の命で
結構!助けてやってください。お願いします・・・・!
―祈り― バルクホルン視点
皆を談話室と風呂に連れて行き、手術室前に戻る。途中、ミーナが集中治療室に移った事を聞いた。少し
安堵しつつ、病室にいく。
目の前のベッドに横たわる少女。なんと小柄で弱弱しいのだろう。ミーナが一回り小さく見える。
そっと手を取る。傷だらけの手には絆創膏と包帯がびっしり。両手の爪が割れている。指輪が目に留まった。
今朝は無かったもの・・・。そうか・・・そうだったのか。記念すべき日に・・・なんてことだ・・・。
よく頑張ったな・・ミーナ。しっかりしろよ・・・。ふと、銀色のチェーンが目に入る。チェーンを直し、
胸にヘッドが来るように。そっと・・・・。私の涙が、彼女の胸に滴り落ちた。
顔を制服の袖でぬぐってからドアを開ける。今は私たちがしっかりしなくては。
一度、談話室に戻る。全員が其処にいた。ミーナの容態を伝えると、安堵が広がる。が、少将の容態
を問われても、今はまだ何も・・・。また、落胆と恐怖が部屋に満ちてしまった。リーネにココアを全員
に飲ませるように指示を出す。何かしていないと、心が壊れる。
情報が入ったらまた知らせに来ると約束し、手術室前に。
坂本少佐が目を瞑って一心に何か祈っている。 邪魔をしないよう、距離を置いて腰を下ろした。
宮藤はまだ中か。・・・・芳佳、頼む!少将を救ってくれ! 頼む!・・・・
ドアが開いた音で椅子から跳ね起きる。壁の時計を見ると、4時間がたっていた。
少佐のところまでしか進めない。怖いのだ。
軍医が出てきた。血に染まった手術着。結果が怖い・・・。
医「お待たせしました」
坂「・・・・どうでしょう??」
いつになく、弱弱しい声。声を出せるだけたいしたもの。私など、喉に何かゴリゴリしたものが出来た
ように思えて声が出せない。
医「正直に申します。あなた方にうそはつけませんから。
全身打撲。脚部の複雑骨折。内臓にも打滅に近い損傷。これが最大の問題。つづいて低体温症を
発していることによる心肺へのダメージ。パラシュート降下したのですね?火傷も負っています。
運が悪い・・・。どうにも・・ね」
暫く、頭が受け入れない。ダメなのか?助からない・・・?
坂「確立・・・は?」
医「宮藤さんがいなかったら、もう終わってしまっていました・・・」
頭がガンガン鳴っている。何とかなるのか!
バ「み・・・・宮藤が頑張ってくれたら?・・・助かる かも?」
医「・・・・ええ。あとは宮藤君に縋るしか・・・ それしか・・・」
何も考えられない・・・・
医「彼女の助けになることを願って、出来るだけの処置をしました。祈りましょう・・・奇跡 奇跡を」
軍医に頭を下げたかどうか、記憶が無い。というより、いつの間にかいなくなっていた。
ストレチャーに載せられ、体中にチューブを縫い付けられ、酸素マスクを当てられた少将がドアから出て
きた。宮藤が横を一緒になって歩きながら、治癒魔法を照射している。
宮藤の邪魔をしては、と二人とも壁に背中を押し当てる。頼む・・・宮藤! 頼む!!
少将は、ミーナの横に安置された。様々な器具が新たに繋げられる。
坂本少佐と、二人で部屋を出た。言葉を交わす気力も無い・・・。
みなになんと説明する?
談話室には、加藤少尉もいた。顔についた埃が、涙の線で縁取られている。そうか、車で必死に・・・。
必死の形相の彼女から質問攻めに会う。無理やり、椅子に座らせた。
二人で交互に、坂本少佐が言いよどんでしまうと、私が引き継ぐ、そんな重苦しい説明となった。
加藤少尉が号泣してしまう。自分がその場にいなかったことを責めている。坂本少佐が抱きしめながら
言い聞かせている。そう、誰の責任でもない。リトヴャク中尉とユーティライネン少尉が、皆と少し離れて
いる・・・。不味い。 なんとか、説明を終える。明るい希望が今の説明にあったか?・・・無い・・・。芳佳・・・
頼む!
何人か泣き出してしまった。その波は徐々に伝播していく・・・。リトヴャク中尉とユーティライネン
少尉が特に激しい・・・。いかんぞ!
バ「みんな!よっく聞いて欲しい!」
「今回の事件・・・事件は、誰の責任でもない!あらゆる点から考えて『人智の及ぶものではない』という
ことだ」
「自分を責めるな。責は、ここにいる誰にも無い・・・。敢えて言う!二人は生きている!
死んでいて当たり前、助かる見込みが無かったものが、今生きてこの建物にいる!」
「それはだ!リトヴャク中尉及びユーティライネン少尉の努力のおかげだ!二人ともよくやった!」
エ「いや!私が!私がもっと早く予知して!機長に直ぐに指示すれば!!」
ちがう!
サ「違います!私が探知しそこなったから!私がしっかりちゃんとやっていたならこんなことには!!」
違うんだ!
バ「ちがう!!!」机を激しく両手で叩く。
涙があふれてきた。しっかりしろ!しっかり説明して、納得してもらわないと!仲間を喪う・・・。
「よく考えろ。エイラ。お前が指示を出しても、鈍重な輸送機では・・・回避できない。真上から
撃たれたのだ。一番大きな的だ!回避のしようなど、無い。お前はサーニャを守った!お前がいなければ
サーニャも戦死していただろう! 違うかな?そうだろう?」
「サーニャ。探知範囲外に相手がいたのでは、どうにもならぬ。基地のレーダーも、沿岸のレーダーも
襲撃後に相手をやっと探知した。それまでは探知できなかった!
お前は優秀な
ナイトウィッチだ。世界最高の一人だ。それでも、人間であるからには・・・限界があるんだよ」
「これが、人智の限界、なのだろう。我々はウィッチだ。でも、神にはなれない。人間なんだ!」
「サーニャとエイラが、ネウロイを落としてくれた。敵を討ってくれた!有難う」
「そして、遭難していた・・・そのままでは死んでしまった二人を救助してくれた・・・」
「本当に良く頑張った!私は二人を誇りに思う。ほ・・・本当に!有難う・・・」
涙で、周りが見えない・・・。しっかりしろ!!!
「今は悲しむときではない。自分自身に活を入れろ!しっかり・・・して、少将が無事に目を
覚ますことを祈ろう! ・・・今、我々にできることは・・・いのり・・・祈るしか・・・ない・・・・」
テーブルに腕を突いたまま、言葉が出なくなってしまった。誰かが後ろから抱きしめる。
シ「ああ。そうだよな。信じて・・・祈ろう」
彼女の涙が背中に熱く沁みてきた・・・。
みんなで抱き合って・・・静かに涙を流した。
また、少佐と共に病室へ。
宮藤は、汗だらけになりながら治癒魔法を使っている。看護助手たちが心配そうに彼女を見ている。
私たちは、静かに片隅で見守るしか・・・何も出来ない自分・・・何も・・・。一般は、私たちを畏怖の目で見る。
でも、我々は『神』にはなれない。クリスのときも、それを実感した。そして今また。今度は・・・
どういう結末になるのだろう・・・。
1-8終
最終更新:2013年02月02日 12:02