「蒼穹の絆2-14」
―夜襲 ファイナル―
****
ミーナ「はい。書類は全てお仕舞い!お疲れ様、俺さん」
俺「今日は結構ありましたね。明日は少ないことを祈りましょ」
ミーナ「だと良いわね。ブランディでも飲みましょう?」
俺「あ、良いですね。戴きましょう」
「「あなたの健康に 乾杯」」
ミーナ「お聞きしてもいいかしら?俺さん、恋人はいらっしゃるの?」
俺「居ませんよ。振られてそれっきり。縁がないですわ」
ミーナ「・・・そう」
俺「まあ、こんな変態ですからしょうがない」
ミーナ「そんなこと!・・・・ありませんよ、きっと」
俺「・・・」
ミ「どんな人がタイプなの?」
俺「笑顔が素敵な人。笑い声が素敵な人、ですね」
ミーナ「ええ・・・(私は・・・笑顔?笑い声?解らない・・・)」
俺「あと、責任が重くても投げ出さないで一生懸命やる姿に弱いかな」
ミーナ「はぃ・・・(まさか。自分に都合よく聴いちゃ駄目・・・)」
俺「そういう人には、手助けしたくなりますよ」
ミーナ「どういう手助けを?(期待してしまうじゃない・・・)」
俺「・・・・苦労を共にできるように」
ミーナ「優しいのね、俺さんは(ずっと手助けしてくれている・・・)」
俺「そうすれば、一緒の時間を過ごせますしね。その人をいつも見ていれる」
ミーナ「ええ、そうですね(私かも!)」
俺「美味しいブランディでした。ご馳走様!さ、ミーナさんはお風呂で疲れを癒して下さいね」
ミーナ「有難う。俺さんはこの後は?(もう行ってしまうの?もうちょっと・・・)」
俺「2300まで、リーネ君のボーイズの引き金を改良します。引き味をシャープにしようと」
ミーナ「余り根を詰めないで下さいね?(私との時間よりそっちが大事? あ、我侭ね・・・)」
俺「ええ。上手くできたら、ミーナさんのも加工していいかな?」
ミーナ「ええ。楽しみにしています(引き止めたい・・・)」
俺「では。おやすみなさい」
ミーナ「おやすみなさい」
行っちゃった・・・・。
今聞いたことは・・・私の事ですか?思い違いでしょうか。あなたは私をどう見ていますか?
はっきり聞いてしまったほうがいいのかな。
でも。・・・・怖い。もうちょっと、今のままでもいいのかも・・・。
あなたが私の思うように意志の強固な人なら。あなたが思う相手からでないと、申し込まれても・・・断って
くれると思うんです。・・・・あなたは、誰を想っているんでしょう・・・。
夢であなたとお話したことが、いつか現実になるのかしら・・・。
ラスカルが残したグラスに、そっと唇をつける。
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草木も寝静まる筈の0030時。ムクッとベッドから起き上がる人影。裸身にガウンを纏い、少し考えてから
タンスから下着を選んで、ヘアブラシで一心に髪の毛を梳かす。歯を丁寧に磨き、洗面。
やっぱり、髪の毛を纏めようか?リボンで結んだほうが可愛くないだろうか。でも、皆は流した髪の毛を
褒めてくれた・・・。どっちが好きなんだろう?・・・・・普段と違う私を見て欲しいかな。よし。結ばないで
自然に流し髪としよう。
こんなものかな?.....もっと伸ばしておいたほうが良かった・・・。致し方ない。今後考えよう・・・。
忘れていることはないか?戦場で忘れ物をするなど愚。もう一度点検しよう。かわいいと思うパンティ、
よし。ブラジャーは無し、よし。ガウン、よし。....私服にするか? いや、ガウンのほうが脱ぎやすい。
首元が寒いか?ショールがどこかにあったな。あったあった。点検を続けよう。髪の毛よし。歯磨きよし。
目脂よし。ああ・・・口紅.....。
買って置けばよかったか。まあ、しょうがない・・・。今度買おう。爪、よし。あ!そうだ。靴!プレゼント
の靴がかわいいかな・・・。よし。足・腕の無駄毛よし。わきの下も昨夜しっかり手入れした。よし。上から
下まで全て点検完了。では!
*
...トイレに行きたい。緊張しているな。済ませておこう。あ!その後シャワー浴びないと!でも、時間が・・・。
サーニャが帰投するのが0430時。もう0100時を廻っている。・・・二人の時間は長く居たい。濡れタオルで
しっかり拭いていけばいい。
*
忘れていた!ネックレス! よし、完璧だ。行くとしようか。部屋に戻ってばかりでは進まないじゃないか。
もういい!兵は迅速を尊ぶ!
いかん!!出血するんだろう?ガウンのポケットに入れてと。ラスカルが自制してくれるかも知れないけれど・・・。
私は・・・・考えたもの。成る様に・・・・。
足音を忍ばせてテントに着いた。回りを念入りに確認。歩哨なし。先客無し。すまん!友よ!私は決断した!
そっと押し開け、中に滑り込んだ。暗いな・・・。目が慣れるのを待とう。何かに躓いては・・・。
ああ、見えてきた。足元に地雷無し。寝室はあっち。
そっと仕切りをめくる。ああ!緊張する!初陣のときよりも・・・あ、これも私の初陣か。頑張れ!私!
ベッドに静かに歩み寄る。こんもりと毛布が盛り上がっている。鼓動が激しい。ああ。
「(ええと。なんと声を掛けよう)おい・・・ねえ、ラスカル?(女らしく!)」
・・・・・
「(声が小さすぎたか) ラスカル?起きて?(このくらいが限度だ!)」
・・・・・
ええい!眠りが深すぎる!駄目じゃないか、戦地だぞ!揺り起こそう!
あ!誰か来た!ええと!あそこに隠れよう!酒の箱!
「おーい、ラスカルゥ?」
フラウ! お前何しに! アッ・・・・私と同じか・・・。いかん!いかんぞ!これは!
「ラスカルってば? あ!やば!」
ん?懐中電灯?また誰か来た!フラウ!こっちに来るなよ!
ああ、反対側に隠れたか。あっちは弾薬箱だな。
ん?入り口にいかないで、テントのベッド脇に立った?
「・・・・よかった。ちゃんと眠れているのね・・・」
ミーナ!お前まで! あ?去っていくぞ? ああ、悪夢を心配して来たのか・・・。優しいな、ミーナは。
良かった・・・良くない!フラウが居る!私のほうが先に着たのに!どうしよう??あああああ!声なんて
掛けないで、そのまま脱いでベッドに潜り込むべきだったのか!
「ああ、びっくりした。では・・・」
うわあ!脱ぎだしてる!おい!フラウ!先約は私だ!!馬鹿な真似はやめるんだ!フラウ!
「えへへ。では失礼」
何てことだ!わたしは・・・フラウとラスカルのラブシーンを聞いていなくちゃならないのか!やめろ!
やめてくれ!叩きだせ!ラスカル!
「・・・・・・・・・・・・またにするよ・・・」
え?ラスカルに断られた?やった!!
よしよし。服を着て出て行った。ふう。危なかった。
待てよ?ということは・・・ラスカルは私かミーナを...。
決断してもらうしかない・・・いや、答を聞くんだ。ラスカル・・・わたしの想いは届いているか?
隠れ場所から這い出して。ガウンを脱ぐ。体が熱い!濡れだしたのが自分でも解る。お前が愛しいから、
私もこうなるんだ。決して私がはしたないわけでは・・・。
毛布を捲る。ベッドに滑り込んで・・・
あれ!?
居ない!!ラスカルが居ない!
あいつ!察知して逃げたか!
・・・・・なによ。覚悟して来たのに・・・。
泣き止んだバルクホルンが去った。
暫くしてから、ベッドと本の隙間から溜息。
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バルクホルン「ふぅ。・・・・今日も終わった、な」
湯船に肩まで使って、体を伸ばすバルクホルン。首をコキコキやっている。
ハルトマン「今日も返事貰えなかったね。もう一週間」
横にいるハルトマンが、普通の声で喋った瞬間、バルクホルンに口を塞がれる。
バルクホルン「おい!みんなに聞こえるだろう」
ハルトマン「そのほうがいいんじゃない?他の人がどう思ってるか解るし」
バルクホルン「そうとも、言えるか」
ハルトマン「そうそう。影でこそこそする必要は無い」
「ねえ!ラスカルの事が好きな人!手を上げて!!」
バルクホルン「おい!」
シャーリー「ん?好きだよ?」
ルッキーニ「あたしもー!」
エイラ「悪い奴じゃないよナ。好きダ。サーニャもそうだロ?」
サーニャ「・・・うん」
ペリーヌ「わたくしも、尊敬申し上げております」
リーネ「・・・私も、好きです」
全員が手を上げた。
ハルトマン「ええー!皆そうなの?全員がライバル!」
バルクホルン「なんと・・・・」
ペリーヌ「ライバル?ですか?」
エイラ「ああ!そういう意味カ!大尉とハルトマン、ラスカルに惚れたんダ?」
オオーッ!どよめきが風呂場に響き渡る。
ハルトマン「そう。みんなは違うの?」
全員首を横に振る。多少、ぎこちない振り方をしたものもいたけれど。
ハルトマン「ああ、よかった!」
バルクホルン「ウンウン」
シャーリー「・・・・告白、したんだ?」
ルッキーニ「ワオ!愛の告白!すっごーい!ネエ、シャーリー、イイノ?」
リーネ「わぁ!勇気ありますね」
エイラ「おお!で?どうなったんダ!」
サーニャ「・・・・すごい」
ペリーヌ「・・・なかなか決断力がおありで」
バルクホルン「それがな・・・逃げられてばかりなんだ」
ハルトマン「うん。私達ではないのかな?看護婦さんが好きなのかな?」
シャーリー「へ?看護婦さん?中佐だろ。 ア!ヤベ」
口が滑った!と慌てるシャーリー。周りが聞き逃すわけも無い。
エイラ「え!ミーナ中佐? エエエ!(サーニャ?知っていたのカ!あの占い!)」
ペリーヌ「あ!そういうことでしたの?」
リーネ「・・・・やっぱり・・・」
サーニャ「そう・・・・」
ルッキーニ「シャーリー、駄目ぢゃん・・・」
シャーリー「イヤー、スマン。ウッカリシタ。ゴメンミーナ」
ハルトマン「うん。ミーナも恋してるよ、ラスカルに」
バルクホルン「ああ。三人から選べ、と間違いなく言った」
大騒ぎ。
バルクホルン「でも、返事をくれないんだ」
ハルトマン「この501で、今一番色づいている3人なのに。なぜ!」
シャーリー「・・・看護婦さん、かもなあ?制服可愛いし、優しいし。アイツ入院多かったし。エヘヘ」
ハルトマン「三度入院しただけだし。三回目は注射の件で牙剥いて怒っていたよ。接点はあったけど
継続していないよ。やっぱり違う」
バッサリ切り捨てられて、流れを変えることに失敗。
全員で、ラスカルの意中の人探しで話に花を咲かせる。シャーリーだけが居心地が悪そう。
サーニャは話しを聞くだけで、ニコニコしている。
**
シャーリー「夜分ごめん。ちょっとラスカルに・・・」
執務室に顔を出したシャーリー。ミーナが柔らかい笑みで迎える。
ミーナ「いいわよ。今ちょっとテントに戻ってるわ。座って待っていて?」
シャーリー「うん。それじゃ悪いけど・・・。あ、あとで夜食持ってくるよ。サンドイッチでいい?」
ミーナ「ありがとう、シャーリーさん。ここで食べない?人数多いほうが楽しいし、仕事はもうすぐ
終わるわ」
シャーリー「うん。そうさせて貰おうかな。・・・・ねえ、中佐。ちょっと聞いてもいいかな」
ミーナ「?いいわよ、体重以外なら」
シャーリー「えへへ。好きな人は、いるんだろ?」
ミーナ「え? ええ・・・まあ・・・」
シャーリー「そうかあ。頑張ってね」
ミーナ「ありがとう、シャーリーさん。でもね・・・」
シャーリー「?どうしたの?」
ミーナ「ううん、なんでもないの。俺さん、遅いわね」
シャーリー「あ、じゃあメモで書いとくよ。それで十分だし。何時頃に夜食持ってくればいい?」
未使用のメモ用紙に万年筆を走らせるシャーリー。
シャーリー「ほんじゃ、そのくらいに!お邪魔しました~」
帰ってきたラスカルが、そのメモを開いて首をかしげる。
俺「『状況変化。前進せよ。心に正直に!』何だこりゃ?」
ミーナ「そのメモで十分だって、シャーリーさん言っていたわよ?」
首をかしげるラスカルの顔を見て、心中笑うミーナ。当惑顔も素敵・・・。
夜食を持ってきたシャーリーとルッキーニ。でも、部屋にはミーナがいるだけ。
シャーリー「お待たせ。あれ?ラスカルは?」
ミーナ「今日は疲れたから、って帰っちゃったのよ。シャーリーさんが来るのに・・・」
シャーリー「そっか。んじゃ、三人で食べようよ」
ルッキーニ「ねぇねぇ、ミーナ隊長!これ食べてみて!あたしが作ったの!」
*
ハルトマン「あ!ねえ、リーネ。なにか食べるもの無い?」
リーネ「あ、はい。ハルトマンさん。さっき、シャーリーさん達と作った
サンドウィッチが
ありますよ。それでいいですか?」
ハルトマン「有難う!頂戴!」
リーネ「はい、どうぞ。紅茶淹れますね」
紅茶を2カップ持ってきた。椅子に座って、二人で寛ぐ。
暫く経って、リーネが口を開いた。
リーネ「あの・・・ハルトマンさん。ちょっと、いいでしょうか」
ハルトマン「うん。なに?ああ、美味しい!」
リーネ「はい。有難うございます。 えっと、ラスカルさんへの告白の件なんですけど・・・」
ハルトマン「うんうん」
リーネ「その、独りで告白されたんですか?それとも・・・」
ハルトマン「トゥルーデと一緒だよ。ミーナは居なかったけど」
リーネ「そう・・・ですか・・・」
ハルトマン「どうかした?」
リーネ「あの・・・わたし、経験が無いんで言っていいのか・・・・。あの・・・ラスカルさんも答え難かった
んじゃ、ないかなって。ラスカルさん、結構繊細な人だと思うんです。答えないで逃げているんじゃ
なくて。迷っているから答えないんではなくて・・・内心思う人がいらっしゃるんじゃないかって・・・。
その・・・自分の答えが誰かを傷つけてしまうことを恐れて、返事をしないんじゃないかなって、そう
思うんですけど・・・・」
カップを見つめながら、訥々と喋ったリーネが顔を上げる。愕然としているハルトマンの顔があった。
リーネ「あ、あの・・・。知りもしない事を偉そうに・・・御免なさい・・・」
ハルトマン「ううん。有難う、リーネ。言われるまで気付かなかった。ラスカルの気持ち、考えていな
かったよ・・・。そうだよね。悪いことしちゃった・・・」
リーネ「紅茶、入れなおします・・・」
リーネが厨房に消えた。
ハルトマン「ラスカルが想っているのは・・・・・・」
「ってこと・・・・だよね」
手に持ったサンドウィッチを見る。食欲がなくなった。でも・・・リーネが心配する。
有難う、リーネ。むしゃむしゃと平らげ、目を擦る。
ハルトマン「ねえ~!紅茶まだぁ?」
その晩、バルクホルンのベッドで酔っ払って眠りこける二人の姿があった。
バルクホルンもハルトマンも制服のまま。
見回りに来たミーナが毛布をそっと掛ける。
*
バルクホルン「£ΠΣ?」
3秒に2発ペースで薬莢を蹴りだしていたライフルが薬莢と共にクリップを弾き出した。
俺「? ああ、トゥルーデか。ちょっと待って」
早朝の射撃場。例によってM1ガランドを伏射しているラスカルの脇にバルクホルンが立っている。
左手二の腕を締め付けていた皮スリングを緩め、銃を毛布の上に置きイヤマフを外す。目を瞬いて、
狙撃兵特有の鋭い灰色の眼差しを消しつつ立ち上がる。
俺「ごめん。聞こえなかった。どうした?」
バ「すまん。詫びに来た」
俺「詫び?」
バ「ほら、前にお前のことが好きだから、お前を好きな三人から・・・って言っただろう?あれだ」
俺「うん」
バ「私は、自分の気持ちを間違えていた。私がラスカルに抱いてきた気持ちだが。あれはお前に対する愛情ではある
のだがな、『お兄さん』としてのラスカルへの愛情、敬慕の気持ちだったんだ。男性を好きになったことがない
もので、取り違えてしまっていた。済まなかった」
俺「・・・・いいよ、こんな変態でもよければお兄ちゃんになるよ」
バ「・・・でも、迷惑なんじゃないのか?私はこんなだし・・・」
俺「トゥルーデは、いい人だよ。俺も人を見る目はある積もりだ」
バ「有難う!・・・二人のときは・・・」
俺「ああ。『おにいちゃん』でも『兄貴』とでも呼んでくれたら嬉しいね、トゥルーデ」
笑顔で帰って行くバルクホルンの背中を見つめて首を振るラスカル。
お前は本当に優しいな・・・。有難うな。
ライフルを構えなおし、ピープサイトを通して標的を睨むラスカル。その眼は、先ほどまでの狙撃兵
の目付きに戻らなかった。
この日、準非番となっていたラスカルは、午前中を射撃場で過ごした。午後からは銃身命数がそろそろ
尽きるライフルの銃身交換をしようと格闘している。
大汗をかいて、バレルレンチとバイスで機関部から銃身を外し、新たな銃身をねじ込んで薬室深さの
最終調整を終えた。後はストックと結合し、慣らしをかねて照準合わせをするだけだ。一服しようと
後ろを向いたラスカルが飛び上がった。
俺「わっ!エーリカ!」
ハルトマン「えへへ。お邪魔してるよ」
いつの間にいたのやら。ちょっとバツの悪そうな顔をしてハルトマンが椅子に座っていた。
俺「すまん!全く気付かなかった。何時からいたの?あぁ、吃驚した」
ハ「えーと?バレルを外している最中から。集中していたからさ、声を掛けるの遠慮したの」
俺「かなり前からじゃないか。すまんすまん。コーヒー飲んでいてくれりゃいいのに」
ガスストーブの上で保温されていたコーヒーを注ぎ、ハルトマンに渡す。
自分も一杯用意して、椅子に座って汗を拭く。
ハ「ねえ?ラスカル。あなた、好きな人が居るんでしょ?」
俺「・・・・」
ハ「やっぱり。そしてそれは私じゃない、んだよね。いいよ、答えてくれなくて」
俺「・・済まない」
ハ「いいんだって。ラスカルの気持ちだもの。私、諦める。あなたは周りの気持ちを大事
にする人だから。気を使ってくれて有難う。それだけ言いに来たんだ」
俺「うん」
ハ「その代わり。私のお兄ちゃんになって!ね?いいでしょ?お兄ちゃんがいたらって、昔
からいつも思っていたんだ。双子の姉妹だから、お兄ちゃんに憧れていたの。」
俺「エーリカは、その姉妹の妹かい?」
ハ「失礼な。私が姉です」
俺「失敬。妹さんは?」
ハ「ウルスラ。いい子だよ!ちょっと人見知りするけど。ねえ?いいかなあ?」
俺「うん。いいよ。宜しくね、妹よ」
ハ「お兄様!それじゃ早速。お兄様、かわいい妹にハーシーのチョコ頂戴!」
***********************************************************************************************9下
―アクシデント―
4月。春の嵐も収まって花々が咲き始めた。隊員も太陽を楽しんで生活している。
ミーナが一月以上公休を取っていなかった為、周りが説得して休みを取らせた。あなたが休まないと
部下も休めないのです、と。
ミーナ「お待たせしました」
俺「おお!あの時の服だね。やっぱり似合う!」
ジープで待っていたラスカルに歩み寄る私服のミーナ。あの誕生日プレゼントを着用している。
ミーナ「有難う。フラウとトゥルーデがどうしてもこれを着ろっていうのよ」
俺「あなたは仕事から解放されなくちゃ。制服は駄目w。さ、行きますか」
ミーナが照れくさそうにジープの助手席に座る。スムーズに発進させたラスカルは、ロンドンへ
ハンドルを向けた。
ロンドンに到着。制服姿のラスカルに促されて、腕を組む。最初は遠慮気味だったが、すぐに
自然な歩みとなった。二人で買い物を楽しみつつ、のんびり歩く。ミーナは、ウィンドウに映る
二人の姿に笑みがこぼれる。
ミーナ「(照れくさいけど、似合いのカップルに見えるわよね・・・私達)」
ミーナ「(ずっとこうしていたい・・・)」
向うからリベリオン軍人が来たときだけは歩みが止まる。ラスカルが答礼するからだ。なにか、自分
も敬礼しなくてはならないような、面映い思いを味わう。また、相手の目に浮かぶ表情で恥ずかしく
なる。あからさまな称賛。それは勲章にではなく、一緒に歩いている自分に対したものと気付いたから。
ちらっとラスカルの顔を見上げると、彼も気付いてミーナに微笑みかける。けっして驕っていない笑顔。
ミーナ「けっこういらっしゃるのね、リベリオンの方は」
俺「立ち止まってばかりで申し訳ない。でも、私も鼻が高いよ、今日は」
ミーナ「どうしました?」
俺「ブリタニア一の美女が一緒にいる。みんなの目がそう言ってるよ?」
ミーナ「あら?お上手ね。(ありがとう、俺さん)この服のおかげよ?(気持ちが軽くなるわ、制服を
脱ぐと。有難う)」
二人で笑う。
いつの間にか、ミーナの頭が俺の腕に当てられている。
買い物をし、食事をする。
俺「ミーナさんは、やっぱり休みを取って制服から解放されなくちゃ」
ミーナ「え?どこか違います?」
俺「肩の力が抜けて自然だよ。そしてよく笑う。そのほうがいい。素敵な笑顔だもの」
ミーナ「ありがとう。そんなに違いました?(!笑顔を褒めてもらえた)」
俺「うん。普段の10倍以上素敵」
ミーナ「あら!素直に喜んじゃいます(どうしよう!)」
俺「そうそう。その笑顔。胸が苦しくなる笑顔だよ?」
ミーナ「俺さんのお好みの条件に入ります?(聞いちゃえ!)」
俺「そりゃもう!テン・エックス!」
は?という顔のミーナに、照れくさそうにラスカルが説明をする。標的紙の10点、それの更に内側
にある円だと。つまり、ど真ん中。
ミーナが耳まで赤くなる。そして笑顔がほころぶ。
夕方が近づいてきた。皆へのお土産を買出し、ジープに詰め込む。
若い男が数名、二人の背後に近づいてきた。
男1「よぉ、リベリアン。ちょっと顔貸せよ」
男2「逃げられねえぜ?お前らがいう『退路が断たれた』って奴さ」
俺「・・・・何の用だ?ボーイズ?」
ラスカルがスッとミーナを背後に回す。
男3「ユニフォーム着て強がるなよ?お前の女に用がある」
男1「そうそう。それともこのまま置いていくか?女をさ。そうすりゃ痛い目にあわねえぜ?」
男4「そのほうが利口だぜ?刺されると痛ぇぞ。女には別の物ぶち込むけどな!」
俺「ふむ?」
自分の体が震えだしたのに気付いた。戦闘中とは違う恐怖。俺さん!あなたの目!
俺「じゃあ、話しようや。俺の恋人は渡せない。ミーナ、車で待っていろ。ドアは閉めてな?」
足ががくがくする。言われたとおり、運転席に座る。ジープのドアには鍵は掛からない・・・。
俺さん、あなたは大丈夫?
男2「おい、女。彼氏捨てて逃げるなよ?すぐにお前も済むからよ!その後二人で病院いけや。
お前は股を洗ってもらえば済むからよ!」
彼が周りを囲まれて脇の路地に連れ込まれていく。この後、自分に何が起こるのかがはっきり
解った。闘わなくては。俺さんが戦うんだもの!
歯を食いしばって、震えを我慢しながら、バッグからバルターPPKを取り出し、スライドを一杯に
引いて離す。鋭い金属音に悪寒が走った。
鈍い音が聞こえ出した。うめき声も!俺さん!クラクション鳴らしたら、警邏が来ないかしら!
ああ!
今加勢する?でも俺さんを誤射するかも!ナイフを持っていても使わないわよね?殺人事件では
警察が乗り出す。でも強姦なら・・・。よし、あいつらが出てきたら、近寄ったところで撃つ!
ドアは少し開けておいて、蹴り開けて連射するのよ!そして俺さんを助けて、病院へ!
ミーナ!しっかり!
路地から出てきたのは、ラスカルだった。多少、着衣に乱れはあるが血で汚れてはいない。
拳銃を持ったままでミーナが飛び出す。ラスカルの胸に飛び込んで泣きじゃくる。
そっと拳銃をミーナの手から外し、安全を掛ける。そしてしっかり抱きしめた。
*
まだ震えが止まらない。俺さんがシフトチェンジ以外は右手で私の手を握ってくれているけれど・・・。
俺さんが無事でよかった・・・。怖かった・・・。
俺「もう、追いかけてこないから・・・・。リラックスして?大丈夫だから・・・」
うん、うん、と頷くことしか出来ない。声を出したら、また泣いてしまう。
俺「怖い思いをさせてしまって済まない・・・」
首を振る。違うわ。あなたのせいじゃない。
俺「あなたは・・・俺が護るから」
また、涙が零れそうになる。あなただけを危険に晒してしまった・・・。ごめんなさい。
俺「・・・・ねえ?ミーナ?」
名前だけで呼んでくれた?
俺「あなたが良ければ、だけど。ずっと護らせてもらえないかな?」
え?
彼の顔を覗き込んだけれど・・・。さっきの鋭い顔はしていない。対向車のヘッドライトで
顔がはっきり見えた。心配げな顔・・・。彼の右手を握り返す。
ミーナ「今・・・・なんて?」
何も言わなくなってしまった。聞き間違いだったのかな。車内、煩いし・・・。
俺「ああ、ミーナさん。パブがあそこにある。ちょっと引っ掛けて落ち着こう?」
また戻っちゃった・・・。車から降りるのを手伝ってくれた。まだ、足がガクガクしちゃって・・・。
私にリンゴのブランディをオーダーしてくれた。彼はスタウトビール。
二人で、静かに飲む。周りは明るい声が行きかっているけど・・・。
爺「失礼?お二人は501部隊の方ですか?」
俺「ええ・・・。そうですが?」
爺「失礼。表の車を見ましてな。いつも有難う。これは私達からあなた方へのお礼です」
ホットラムが差し出された。地元の方々から?パブの皆さんが私達に微笑んでいる。
ミーナ「有難うございます。頂戴いたします」
爺「お疲れの様子。これを飲んで温まってください。では・・・」
俺「皆さん、有難うございます。マスター?皆さんにもビールを」
また賑やかになったわね・・・。賑やかなほうがいい。
ホットラムが体を、強張った心を解してくれる。彼も微笑んでいる。
やっと、笑えるようになった。ありがとう、お爺さん、皆さん・・。いい人が沢山・・・。
賑やかな見送りに送られて、また基地へ戻る道に。
ミーナ「さっきは・・・有難う。ちょっと・・・・刺激的過ぎて」
俺「笑顔が戻ってよかった。あなたには笑顔が一番似合う」
ミーナ「酷い顔を見られちゃった」
俺「心配してくれて有難う。えーと、貴重な経験が出来ました」
ミーナ「え?殴り合いが?」
俺「違う違う。憧れの人を抱きしめることが出来た、ってことですよ」
ミーナ「あら。いつもの俺さんに戻ってくれたわ。良かった!」
凄く安心したの。あなたの胸で泣けて・・。
俺「えへへ。ミーナさんは、笑顔は最高ですが、泣き顔もまた」
ミーナ「もう。それは忘れてください!」
俺「うーん。どうしようかな?あ、基地に戻ったら、さっきの服もう一度着て見せて?」
俺さんが見立ててくれた服。あの時の彼の笑顔が嬉しかった。
ミーナ「泣き顔を忘れてくれるなら考えます」
俺「はーい!ではとびっきりの笑顔でお願いします!」
また、私の手を握ってくれた。暖かい・・・。さっきの言葉は・・・きっと聞き間違いよ・・・・ね。
*
ミーナ「・・・・という事があったの。だから、皆さんも外出するときは単独行動は避けてくださいね?
あと、拳銃は必ず携帯してください」
エイラ「撃っちゃえって?いいのカ?」
ミーナ「はい。私が責任を持ちます。皆さんが大事ですから」
ペリーヌ「そんな獣、半殺しにしてしまえばいいんです!」
その晩の風呂場。珍しくミーナが自分から皆のいる時間に入浴してきた。危機情報の拡散か。
バルクホルン「4人をのしたのか。やるな!ラスカル!」
シャーリー「それでこそ我らが海兵隊だ」
ルッキーニ「やるぅ!大事な人を護る為に戦うラスカル!かっこいぃ!」
ペリーヌ「ええ!ご無事でよかったです!」
リーネ「・・・強い人なんですね、ラスカルさん・・・」
ハルトマン「強いお兄様って素敵!」
エイラ「強いお姉さんと強いお兄さんに護ってもらえるゾ!」
皆の視線がバルクホルンへ。顔を赤くするバルクホルン。
サーニャ「・・・・お姉さま・・・・」
バルクホルンが揺れた様に見えた。
バルクホルン「・・・。で?その後どうしたんだ?」
ミーナ「え? えーと、泣いちゃったわ」
エイラ「え!ミーナ隊長、告白されたンダ!」
どよめく風呂場。皆、大体の事情は解っている。
ミーナ「いえ・・あの・・。怖くて、俺さんに抱きついて大泣きしちゃったの」
真っ赤になって否定しようとするミーナ。
逆効果。風呂場は大騒ぎになる。
ハルトマン「おおっ!熱烈抱擁シーン!すごいっ!」
リーネ「ああ・・・・ステキ過ぎます・・・イイナァ」
エイラ「サササーニャァ!君も飛び込んでおいで!」
サーニャ「恋人同士・・・」
エイラ「 ソンナァ」
ペリーヌ「お似合いですわ。ようございました」
バルクホルン「そうか・・・ミーナが心をさらけ出したか・・・ウム」
シャーリー「なかなか中佐もやるもんだ。うんうん」
ルッキーニ「ねえねえ!こんな感じ?『有難う、あなた!愛してる!』『泣くなよ、ミーナ!』
『ラスカル、あたし怖くて』『もう大丈夫。ミーナは俺が護るから』って~♪」
ドサクサ紛れにミーナに抱きついて胸に顔をスリスリするルッキーニ。周りは爆笑。
ミーナは、心がどこかに飛んでいる。
ハルトマン「ミーナ?」
ミーナ「ああっ!どうしよう!」
バルクホルン「どうした?」
エイラ「ン?なんだか嬉しそうダナ」
リーネ「?」
ペリーヌ「中佐?耳まで赤くなっておられますが・・・」
シャーリー「大事な事を忘れていた顔だね」
ルッキーニ「どったの?」
ミーナ「乱闘の時、『俺の恋人は渡せない』って。どうしよう。怖くて忘れ―」
「「「「「「「「「恋人ォォォ!?」」」」」」」」」
ミーナ「その後、車の中で『ずっと護る』って・・・」
泣き出したミーナを皆が祝福する。
「泣き止んだら、彼に返事しなくちゃ・・・ね?」
ミーナの肩に手を添えて、優しく囁くシャーリー。
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最終更新:2013年02月02日 12:11