諍い
聖華暦833年 12月12日 13:17
「けっ、新入の癖に生意気だな! 序列ってもんを教えてやる!」
そう言って、暗黒騎士ガストーネ・ゴザレス卿の弟子の一人が吠えた。
僕に対してである。
僕に対してである。
「すみません、本当に急いでいるんです。構っている暇はありません。」
「喧しい! 逃げんじゃねえよ‼︎ 」
彼らは僕を取り囲み、僕の行き先を塞ぐように立ち塞がる。
困ったなぁ。師匠から呼び出しがあり、城塞司令部へ向かっているところなのに。
困ったなぁ。師匠から呼び出しがあり、城塞司令部へ向かっているところなのに。
………事の発端は、彼ら四人が急いでいた僕に絡んで来た事だ。
彼らは僕が修行を始めて一年に満たない事を誰かから聞いており、先輩風を吹かす為だけに僕に絡みに来たようだった。
呼ばれている事を理由に丁重にお断りをしたのだが、彼らはそんな事はお構い無しに憤慨し、こんな事になっている。
それにしても彼らはガラが悪い。
将来、僕らは暗黒騎士として帝国臣民の羨望と畏怖の対象となり、模範となるべく励まねばならないというのに、彼らからはそんな気概がまるで感じられない。
将来、僕らは暗黒騎士として帝国臣民の羨望と畏怖の対象となり、模範となるべく励まねばならないというのに、彼らからはそんな気概がまるで感じられない。
なんだか物語に出てくるチンピラのような小悪党みたいだ。
本当に暗黒騎士の弟子なのか、にわかに疑ってしまう。
そして、彼らの師であるゴザレス卿の、指導が如何なるものかが疑われる事に繋がってしまうというのに。
本当に暗黒騎士の弟子なのか、にわかに疑ってしまう。
そして、彼らの師であるゴザレス卿の、指導が如何なるものかが疑われる事に繋がってしまうというのに。
「おいコラ、ビビってんじゃねえぞ!」
一人が場所も弁えずに暗黒闘気を纏う。
ここはエーレンヴェルグ城塞内部の通路である。
僕らの他に城塞の守備についている軍人もいるというのに、周りの迷惑など気にも止めていない。
僕らの他に城塞の守備についている軍人もいるというのに、周りの迷惑など気にも止めていない。
彼らは『力』に酔っている。
そのようにしか、見えない。
まだ、暗黒騎士の弟子でしかない、半端な未熟者でしかないというのに。
そのようにしか、見えない。
まだ、暗黒騎士の弟子でしかない、半端な未熟者でしかないというのに。
もうすでに自分の半端な『力』を過信して、自分は特別な存在だ、と言わんばかりに随分な振る舞いだ。
『力』に魅入られるとは、こうなる事なんだなと、なぜか客観的に、落ち着いて見る事が出来た。
自分はこうならないよう、努めねばならない。
自分はこうならないよう、努めねばならない。
おっと、今はそれよりも司令部へ急がなくてはいけないんだ。
それなのに、彼らは勝手気儘で聞く耳を持っていない。
それなのに、彼らは勝手気儘で聞く耳を持っていない。
仕方ない、せめて前方に立ち塞がる二人だけをすり抜けるしか無いなと、覚悟を決めて動こうとした時だった。
僕達の後方から凄まじい威圧感が流れ込み、場の空気を支配した。
ここにいる全員が、さすがにこの四人も、その威圧感に動きが止まり、身をすくめた。
「貴様ら、何を遊んでいる。」
抑揚の無い、けれども力のこもった男性の声。
僕もゆっくりと振り向く。
僕もゆっくりと振り向く。
視線の先には三人が立っている。
一人はフルフェイスの兜を身につけた大柄な男。
今の声と、この威圧感は彼のものだ。
一人はフルフェイスの兜を身につけた大柄な男。
今の声と、この威圧感は彼のものだ。
その隣には長い金髪と青眼の女性。
リューディアさんとは違った優しそうな美人。
リューディアさんとは違った優しそうな美人。
そして彼らの奥に静かに、でも威圧する男性よりも確かな存在感を示す、射抜くような鋭い眼光で僕達全員を睨め付ける女性。
「暗黒騎士シルヴィア・ガーランド卿の御通りだ。道を開けろ。」
ゴザレス卿の弟子達は顔を見合わせると、おずおずと道を開けた。
僕も通路の端に寄って道を開ける。
僕も通路の端に寄って道を開ける。
彼らが通り過ぎようとした時、最後尾を行く暗黒騎士、ガーランド卿が足を止めて僕を見た。
「リコス・ユミア、ですね? イディエル卿が呼んでいた筈です。一緒に来なさい。」
「…はい、判りました。」
渡りに船、僕はガーランド卿の後についてその場を離れる事が出来た。
チラリと後ろを見ると、ゴザレス卿の弟子達は僕を睨んで壁に蹴りを入れていた。
*
「リコス・ユミア、ただ今出頭致しました。」
「シルヴィア・ガーランド、ベイン・イルフード、リリィ・ハーティス、ただ今出頭致しました。」
司令部には師匠と、フギン卿が待っていました。
「来られましたか。では全員こちらへ。」
第二の砦司令官のホプキンズ准将に僕達は奥の別室へと案内され、そこで僕達は極秘の勅命を受ける事となった。
僕達六人は、その勅命に険しい表情を浮かべました。
僕は師匠達のついででその任務に就く事になるのだけど、その重過ぎる内容には正直怖気付いてしまいそうだ。
僕は師匠達のついででその任務に就く事になるのだけど、その重過ぎる内容には正直怖気付いてしまいそうだ。
出立は明日6:00。その為、これから準備をしなければならない。
加えて、この勅命の内容については他言無用。誰にも言ってはいけない。
加えて、この勅命の内容については他言無用。誰にも言ってはいけない。
解散が言い渡されてから、僕は重い足を引き摺るように機兵駐機場へと向かった。
*
砦の機兵駐機場で、僕は自分の乗機である軽機兵スパーダが慌ただしく整備されているのを眺めていた。
ついさっき、整備技師長から機体整備の詳細な説明を受けていた。
ついさっき、整備技師長から機体整備の詳細な説明を受けていた。
通常、暗黒騎士の弟子は魔装兵『クローエ』という機兵が与えられる。
クローエは暗黒騎士の弟子用に調整が加えられた第六世代機兵になる。
いわゆる高等練習機というものだ。
クローエは暗黒騎士の弟子用に調整が加えられた第六世代機兵になる。
いわゆる高等練習機というものだ。
その機兵は第七世代機兵ノクスからフラタニティフレーム以外の全ての部品を第六世代機兵のものに換装し、デチューンされた機兵だ。
その為、第七世代機兵には及ばないけれど、第六世代としては高性能、その上、暗黒剣技に対応する為に機体内にダークライトを内蔵している。
その為、第七世代機兵には及ばないけれど、第六世代としては高性能、その上、暗黒剣技に対応する為に機体内にダークライトを内蔵している。
ただ、弟子の能力や修行の進捗具合によっては他のカスタム機兵やワンオフ機が与えられる場合もある。
かえって、僕のスパーダは高機動が売りの軽量級の機体だ。
その分装甲が薄く、操縦性もピーキーという事で、乗手を選ぶ機兵だと言われている。
その分装甲が薄く、操縦性もピーキーという事で、乗手を選ぶ機兵だと言われている。
暗黒剣技に対応する為にダークライトを内蔵するカスタムが施されている以外は、僕の癖に合わせて調整されているだけ。
でも僕にはとても扱いやすい機兵だ。
扱いやすいのはその調整のおかげでもあるんだけど。
扱いやすいのはその調整のおかげでもあるんだけど。
整備が終わったら、勅命を受けた僕達六人の機兵はファイデリン級軽巡航艦に載せられる。
そして時間になれば出発する。
そして時間になれば出発する。
今のうちに休養する様に言われているし、部屋に戻って休もう。
駐機場から出た直後だった。
駐機場から出た直後だった。
「おい、さっきは逃げられたが、まだ話は終わってねぇぞ。」
はぁ、またか。
彼ら、ゴザレス卿の弟子達だ。
彼ら、ゴザレス卿の弟子達だ。
「ここじゃあ、邪魔が入るからなぁ。ついてきな。」
「すみませんが、勅命によって明日師匠と出撃しなければいけませんから、またにしてもらえませんか?」
「ざっけんな! 先輩が教育してやるっつってんだ! 黙ってついて来い!」
やれやれ、彼らは本当にチンピラだ。
一体、僕に何を求めているのだろうか。
もう大人しくついて行って、さっさと終わらせよう。
一体、僕に何を求めているのだろうか。
もう大人しくついて行って、さっさと終わらせよう。
もし多少手荒な事になったとしても、それは仕方がないだろう。
で、倉庫の裏手に連れて来られた訳で。
……なんと言うか、場所も月並みだと言うか……
……なんと言うか、場所も月並みだと言うか……
「ふん、まだ一年未満のお前に、暗黒剣技を見せてやるぜ! ありがたくその眼に焼き付けな!」
そう言って、彼らのリーダーらしいのが言い放つ。
そして暗黒闘気を纏ってから、右手にソウルイーターを発動させた。
そして暗黒闘気を纏ってから、右手にソウルイーターを発動させた。
纏った暗黒闘気は彼の全身を一回りくらい覆う程度、そして肝心のソウルイーターは……、長さはせいぜいロングソードくらい、凝集させた反物質が若干ブレている。
あ、ソウルイーターに変化があった。
ちょうど鍔にあたる部分から反物質の小さな刃が突き出した。
これは……
ちょうど鍔にあたる部分から反物質の小さな刃が突き出した。
これは……
「どうよ‼︎ 」
リーダーが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「……クロス・ソウルイーターですね。突起の分、反物質の消費が増えて、実用性に欠ける技だと聞いていますよ。」
何かガッカリしたせいで、ポロリと言ってしまった。
「なんだとっ‼︎ 」
案の定、リーダーは憤慨し、ソウルイーターの切先を僕に向けた。
なんとも言えない怒りのようなものが込み上げる。
なんとも言えない怒りのようなものが込み上げる。
「こう言っては失礼ですし、どうかとは思ったのですが、貴方達は随分と暇を持て余しているんですね。この砦では皆がいつ起こるか判らない危機に対処する為に懸命に働いているというのに。」
「てっ、てっ、テメェ! 俺らを馬鹿にしてんのか!」
その言葉を皮切りに、彼ら四人は揃って暗黒闘気を纏う。
怒りに燃える四人に取り囲まれているというのに、まるで恐怖や威圧感が感じられない。
リーダーが手にしたクロス・ソウルイーターを振り上げた瞬間、僕は右手で瞬時に発動させたソウルイーターの切先を彼の首元に突きつける。
これには流石に動きが止まった。
そして驚愕の表情を浮かべている。
そして驚愕の表情を浮かべている。
彼との距離は2mほど離れているけれど、僕は一歩も動いていない。
後ろの一人が動こうとしたから、左手でもソウルイーターを発動させ、そちらの首元にも突きつけた。
「だ、ダブル・ソウルイーターだと? 暗黒闘気も発動させて無いのに?」
ここに至り、四人から動揺の気配が現れる。
僕はソウルイーターを首元から引くと、見せつける様に、ダブル・ソウルイーターの持ち手の逆からも反物質の刃を出した。
僕はソウルイーターを首元から引くと、見せつける様に、ダブル・ソウルイーターの持ち手の逆からも反物質の刃を出した。
四振りのソウルイーター、ちょうど双翼刃を二本持っているような格好になる。
「な、な、なんなんだ、おまえは? 一年も修行してないのにっ、なんでそんな事が出来るんだ?」
彼らは混乱して、暗黒闘気が掻き消えている。
集中力も大した事が無い。
集中力も大した事が無い。
「僕は戻ります。退いてください。」
言葉と共に暗黒闘気を纏った。最大限に威圧するように。
その瞬間に、彼らは何かを感じ取り、一目散に逃げ出した。
その瞬間に、彼らは何かを感じ取り、一目散に逃げ出した。
……ちょっとやり過ぎたかな……。
まぁでも、これでしばらくはちょっかいもかけて来ないだろう、と思う。
ふぅ、とため息をついて、暗黒闘気を解除。
暫定的な自室へと戻って休む事にした。
暫定的な自室へと戻って休む事にした。