強化人間実験施設防衛作戦におけるV.Oイグレシア運用実績に関する報告書
報告者:P.オーベルシュタイン

はじめに

本報告書は、ベイラムによる強化人間実験施設への襲撃に対する施設防衛作戦における『V.Oイグレシア』の運用実績に関するものである。

結論としては、イグレシアは戦力において、質、量双方で不利な状況で善戦しており、完璧とは言えぬまでもある程度の防衛実績を残したと評価できる。

デザインドの独自の強みである並列処理能力が、現場にて指揮統帥権を主張したV.Oラインハルトにより効果的に運用された事が奏功したものと推察される。

参考までに、イグレシア自身による報告書を添付するが、その内容に関しての注意点を先に述べておく。

イグレシアは本報告書を『自伝の原稿』と認識している。そのため、独自の散文的表現や抒情的記述が散見される点は、イグレシア自身の主観に基づくものであることを留意されたし。

イグレシアの学習過程において表出した認識野の擾乱についてはこれまでにも再三述べているが、本報告書で初めて本プロジェクトに接する諸兄のために、以下にそのあらましを格納させていただく。

V.Oイグレシアの状況認識の特異性に関する簡易報告

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イグレシアには、現実を独自の解釈によって歪曲して解釈するという認識野の混乱が発生している。学習過程で読み込んだ古典文学の世界観に影響を受けたものと推察されるが、彼女の認識している世界観を理解し、適宜言語の変換を行えば意思疎通自体は問題なく可能であるため、以下にその内容をまとめさせていただく。報告者にて自動変換AIも作成しているため、意思疎通に際しては利用することを推奨する。

『基本設定』
イグレシアの認識する世界において、人類の生存圏となる宙域は大きく二つに分断されている。惑星アーキバスを本星とするアーキバス銀河帝国と、惑星ベイラムを本星とするベイラム自由惑星同盟である。銀河帝国は、封建的な貴族による統治を主体とする勢力であり、自由惑星同盟は民主主義に基づく議会制政治により統治される勢力と認識すれば良いだろう。他の企業体も、この勢力分類に現実の情勢を概ね反映する形で組み込まれているが、煩雑化を避けるため必要に応じて都度解説を挿入させていただくこととする。

『イグレシア自身の自己認識』
イグレシアは自らを『アーキバス王立宇宙軍第7a3c侵略艦隊所属の征夷大将』にして『旗艦ディセンブラシア艦長』であると設定している。7a3c侵略艦隊とは概ねヴェスパー・オフシュートを指すものと認識して間違いない。それ以外の部隊の呼称は一定しておらず、必要に応じて適当に設定しても構わない。階級制度に関しても同様に、状況に応じて適宜設定して構わないが、V.Oラインハルトに関してのみ、明確に呼称が『提督』に固定されており、自らの直属の上司として認識している事が確認されている。

『ルビコンⅢにおける作戦行動の認識』
惑星ルビコンⅢおよびコーラルの特性に関する認識は概ね現実に即したものである。ただし、アイビスの火の発生時期に関してはおよそ50万年前との設定になっており、それ以前の遺物に関しては人類発生以前の先住知的生命体による超古代文明の遺産であるとの認識となっている。コーラルそのものは、超古代文明の滅亡に際して絶滅した先住知的生命体が残した遺産であるとの解釈になっている。

『兵器による戦闘行動にまつわる認識』
イグレシアがアーマード・コアを指して呼称する『AC』は『アサルトクルーザー』の略称であり、おおよそ600m前後の全領域対応型艦艇として理解されている。次元歪曲航行(アサルトブースト)により最大で光速の5%まで加速可能だとのことである。同様にMTは『ミニオントラクター』の略称であり、ACに対し機動性と対応力において後塵を排する旧式兵器として認識されている。武装群に関してもイグレシアが収集した各種創作物の用語が都度採用されるが、明確な一貫した法則性はなく、同じ武装でも呼称が異なっているケースが散見される。戦闘における距離感に関してはおおよそ1000万倍のスケールで説明すると彼女の認識と合致する。わかりやすく言えば、50メートルは50万キロメートルに相当する。

}

以下、V.Oイグレシアによる報告書を原文のまま引用する。なお、括弧内は報告者による注釈となる。参考にされたし。

V.Oイグレシア自身による報告書

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銀河将星録・外伝 〜海月の尭将、イグレシア〜 群雄編・第3部
『秘儀は帷に包まれて/バーミリオン星域会戦』

帝国歴8d7b、嵐の月、7日の未明。
(年号表記に一貫性はないため、無視してよい)
惑星ルビコンⅢにおける我らがアーキバスの
将帥育成のために建造された天体拠点、
リップシュタット・アカデミー(そんな名称は存在しない)は
ベイラムの叛徒どもによる襲撃に晒されていた。

東西からの挟撃に相対するは、我らが『黄金の獅子』、
ラインハルト閣下の麾下に属する我がイグレシア艦隊と、
王国軍の忠臣、エヴァレット枢機卿とその姉妹による連合艦隊。
それぞれに西と東からの侵攻に相対すべく布陣し、
ほぼ同時刻に戦端が開かれた。

「イグレシア卿。貴公の武勇は伝え聞いております。
此度の戦においてもその忠誠を存分に示してください」
アカデミーを挟み、背中合わせに寄せ出を迎え討つ
エヴァレット卿からの言葉に頷きを返し、
(V.Oエヴァレットは既に自動変換AIを導入済みである)
私もまた幕僚に進軍の下知を飛ばす。
(ここにおける幕僚とは、イグレシアが
脳内タスクを並列処理するために分割した演算リソースに
割り振った識別名称であるが、イグレシア自身はこれを
一個の独立した人格として認識しており、
その発言の全てを自身による独演で再現している)

相対するベイラム自由惑星同盟が差し向けた刺客は、
同盟軍が誇る猛将、スカマンドロス率いる要撃艦隊。
重武装の要塞艦、インドミナスを旗艦とし、
上空からのトップアタックに秀でた
四脚艦スコープオンおよびシルバーステークが前衛を務め、
小回りがきく二脚艦ドア・ノッカーおよびアフォニアンが
旗艦の直掩に当たる、敵ながらバランスの取れた編成である。

艦数にしておよそ4000対5000。
(AC一機には、原則として麾下が1000隻ある認識である)
客観的に評価すれば、その量のみならず練度においても
我が方が不利。正面決戦を挑めば押し切られるは必定であった。

しかしここで、我らが提督による神謀が齎された。
「イグレシア、分かるな。『バーミリオン星域会戦』だ」
諸君には、あえて説明する必要はないだろう。
(イグレシア、及びラインハルトが準えている
古典文学における架空の戦役の名称である)

「了解です、提督!」
「いいだろう。お前が錆びつくまでは、付き合ってやろう」
ミッターマイヤーとロイエンタール
(分割された演算リソースの識別名称である)
も即座に呼応し、淀みなく隊列を組み直す。

スカマンドロス艦隊との戦端が開かれる時には既に、
我ら銀河帝国軍の流麗なる艦影は、研ぎ澄まされた
穂先の如き一糸乱れぬ縦深陣形を形成していた。

畢竟、先頭を預かるトリスタン(イグレシアの操作する随伴機)に
スカマンドロス艦隊の砲撃が集中するが、トリスタンはこれを
粒子変性障壁(パルスアーマー)と粒子振動輻射砲(パルスガン)
による弾幕防御によって耐え忍ぶ。

言うまでもなく、一時凌ぎであるがそれで十分だ。
スカマンドロス艦隊の火力の全てを引き受けるのは
重荷には違いないが、それはあくまでも制御された損害である。

「二の矢を放て」
提督の下知に応じてトリスタンが後退し、入れ替わりに
我がディセンブラシアが前衛に進出する。
同時に、光子魚雷(プラズマミサイル)を全門斉射する。
足は止めない。即座に交代して後続のベオウルフが
光波砲(光波砲)を斉射、更には入れ替わった
ブリュンヒルデが主砲であるハイストリーム・ブラスター
(複合エネルギーライフル)の充填を見せつけるに至り、
スカマンドロス艦隊もその意図を悟ったようだ。

ヘイトコントロールの主導権を奪い各艦隊の損耗率を
制御するとともに、波状攻撃による
火力集中を図ることこそ、この陣形の真髄である。

しかし、相手も少なくとも弱敵ではないらしい。
凡庸な指揮官ならば、初手で最初の標的を
轟沈せしめていたものを。
敵将は、乱数機動を交えた照準撹乱で
被害を抑え、鮮やかに後退してみせた。

しかして、この状況を我が軍は佳しとする。
寄せ出にとってはアカデミーへの侵入こそが作戦目標。
守る我らは、行手を阻めればそれでよいのだ。

言うまでもなく、繊細な作戦である。
本来ならば分散して防衛網の死角を塞ぐべき戦力を
一点に集中している以上、
側背を抜けられれば終わりだが・・・

「───それを見逃す俺だと思うか??」
我らの形成する縦深陣を迂回すべく、転針した
スカマンドロス艦隊の行手に我が方が回り込む。
目指す標的により近いのは言うまでもなく防衛側。
であれば、迂回への対応に必要な移動距離もまた
寄せ手より短くなるのは必然だ。
要塞艦のみで編成された我が方は、その防御性能を
存分に発揮し、得手とする火力戦を挑み続けられるのだ。

あとは、状況が次の段階に移行するまでに
どれほどの損害を与えられるか・・・
しかし、その対応の速さ。
スカマンドロスもまた、端倪すべからざる
名将であったと言わざるを得まい。

「そう。そのように動くしかあるまいよ」
提督閣下はそう告げて、左右に分かれたベイラムの
艦隊に対し、防御陣形を敷いてその通過を見送るのみ。

だが。それはまさしく、閣下の私への信頼あればこそ。
「さて。狩りを始めるぞ、イグレシア」
「承知いたしました、提督」
余分な言葉は要らない。
同時に急速転針すると同時に、次元歪曲航行に
温存していた出力全てを傾ける。

損害を最小限に抑えるために、拙速を承知で
強行突破を図るスカマンドロスの決断力は素晴らしいが。
我々が求める犠牲は安くはない。

航行速度の差が露呈し、進軍から徐々に脱落するのは
敵軍旗艦インドミナス。
その背に、自軍全艦の照準が集中される。
「チェックメイトだ。全砲門開け・・・ファイエル!!」
閣下の号令の元に、麾下の全軍が一斉砲撃を敢行する。

その瞬間。スカマンドロスは、ついに我々の掌中で弾けた。
「粒子臨界爆発(アサルトアーマー)だと・・・!?」
瞬間的に発生した攻性障壁は、我らの乾坤一擲の
一斉攻撃を跳ね除け、その閃光で我々の照準を撹乱した。

まさにこの一瞬を、スカマンドロスは狙っていたのだ。
───それを悟った時には。
「ろ、ロイエンタール〜〜〜ッッッ!!」
先陣を切っていたトリスタンが喰われていた。

「怯むな!防御効果はごく短時間に過ぎぬ。
先制するは我にあり・・・圧し潰せ!!」
閣下の号令で統制を取り戻したディセンブラシアと
ベオウルフもブリュンヒルトと連携し、
犠牲に狼狽えることなくインドミナスへ
全力の火力集中を継続する。

そこから先は、両軍の気魄が激突する力戦であった。
実際の交戦時間は10秒にも満たないものであったが、
その間に両軍の艦艇の損耗は限界に達しつつあった。

しかし。数に劣る我らが拮抗できていたことこそが
思い返せば奇妙であった。

敵軍は、全軍でのアカデミー突入を断念し、
最も足が速いドア・ノッカーに後事を託していた。
今や追う側となった我らの前には、旗艦インドミナス
自らが厚い壁として立ち塞がり、その進軍を阻むことは
もはや叶わなかった。

両軍の損害は共に著しかったが、
それでいて轟沈した艦が僅か1隻だったことはむしろ、
対峙した両雄の卓抜した手腕を証明するものであった。

これ以上の流血は双方共に望むところではなく、
撤退するスカマンドロス艦隊を、我らは
見送ることしかできなかった。

落胆する私の背を叩くように、閣下は呵呵大笑してみせた。
「面白い。この俺から『より完全な勝利』を奪うとはな!!」
時を同じくして、エヴァレット卿からも通信が入る。
曰く、埋伏していた独立傭兵団(団ではない)による
アカデミーへの侵入を許したと。

「此度は互いに望む武勲を得られなんだが、
まだ終わってはおらぬ。エヴァレット卿、その方らは
麾下を率いてアカデミー内部で迎撃に当たられよ。
我らは拠点外苑に展開して敵軍の増援及び
侵入者の脱出を妨害しよう」
私の献策をエヴァレット卿が受け入れたことは、
これまでの経緯を思えば意外と言う他はなかった。
「いいでしょう。外郭の警戒はお任せします。
こちらからもステラを東側の警戒に充てましょう」

共に、アーキバス銀河帝国の繁栄を願う意志は同じ。
その実力を認めた好敵手に道を譲り、再び戦場を見渡す
私の胸には、今しがた見えた強敵との胸躍る
激戦の記憶が去来していた。

}

総括

イグレシアによる報告書は以上である。
交戦中の戦術判断は、その内容、速度共に水際だっており、デザインドの特徴である並列演算性能の有用性が十分に証明されたと言えるだろう。両軍の構成メンバーのアリーナランク格差を鑑みれば、スカマンドロス隊の大半を撤退せしめた戦果は十分に評価できる。特に、今作戦に於いて指揮権を主張したV.Oラインハルトとの連携の精度は極めて高く、両者の機体構成のシナジーと合わせて、優れた戦果が期待できる組み合わせである。

ただし、その能力とは別の懸念も存在する。V.Oラインハルトに関しては、以前からアーキバスへの忠誠心に関して疑問視せざるを得ない言動が多く確認されている。イグレシアが個人としてもラインハルトに忠誠とも取れる発言をしている点は大きなリスクとなるだろう。社内では、そのコンセプト上成果を競い合う関係にあるV.Oエヴァレットもラインハルトの圭角にははっきりと警戒を示しており、今後ラインハルトとの距離を縮めることは、イグレシアにとってはライバルに弱点を晒す結果になりかねない。

そのパフォーマンスを最大化するべきか、それとも政治的なリスクは排除するべきか。今後の舵取りには慎重を要するものと思われる。
最終更新:2023年12月18日 01:21