「・・・で、二人とも仲良く戻ってきたわけか。」

グリッド051では名の通っている露店『ミサキ』の主人『ホールデン』は顔に傷を持つ青年の独立傭兵『ラステッド・ファング』とついさっき相方になることが決まった女ACパイロット『シルヴィ』を見ながらため息をつく。

「・・・この際俺の名前を漏らしたことは多めに見てやるが、これからどうするつもりだ?ヴェスパーにマークされたというのは少々厄介ではあるが」

ホールデンの問いにファングが口を開く。

「こいつに戦い方を教えると言った以上、俺が当分は面倒を見る。アーキバス残党が封鎖機構の兵器を解放戦線に渡す取引もこなした以上、おまえのところで仕事をするには業績は不十分か?」

「いや、それに関しては構わない。」

ホールデンは言う。問題なのは、とシルヴィを見るとこう続けた。

「・・・これからもACで任務をこなす以上メンテナンスを定期的に行えるだけの地盤が必要だ。あいにく俺はそれほどのリソースは持っていない。そこらへんの人脈はそちらで用意してくれると助かる。」

言われなくとも、と傷持ちの青年は隣に立っていた少女に行くぞ、と声をかける。本人が戸惑う様子も気にかけずにその場を去ろうとするので慌ててついていく。

「どこに行くんです?機体も直ってないのに。」

その問いにファングはそうだな、と呟く。

「とりあえず腹ごしらえだな。」



「別に食べに出るのはいいんですけど・・・なんでわざわざホールデンさんじゃないとこで?」

 グリッドの露店のカウンターでミールワームの焼き串を頬張りながらシルヴィが聞く。

「いや、あそこ単純に混んでるから。」

「あ、そういう・・・」

と、同じくワームの焼き串を齧る青年を見る。その様子を見てファングがふっ、と笑いながら冗談だと付け加える。

「待ち人をしているのさ。ここの店は『アレ』が置いてある数少ない店でな。」

「『アレ』?」



「来ないかもしれない待ち人を素直に待っているとはな。」

うだるげな、どこか疲れている声が聞こえてくる。振り返るとそこには髪を伸ばしてポニーテールに留め、咥えタバコをしている無精髭の男が立っている。フライトジャケットのポケットに手を突っ込みながら二人の元へ歩いてきた。

「例のものは?」

「あるとも。俺の奢りだ。」

ファングがそう言って露店の店員に何か注文する。出てきたのはカップに入った一杯のフィーカだった。

 青年からそれを受け取った男はそれを軽く煽りながら口を開く。

「・・・ヴェスパーの実験部隊と出会ったとは災難だったな。」

「全くだ。終戦前のヴェスパーの方がまだ対処のしようはあったが、あれは『本物』の強さだ。頭のてっぺんから足の隅まで兵器として設計された奴だ。」

ファングがため息をつきながら語る。おそらく『イレヴン』と名乗ったヴェスパーの機体のパイロットのことを言っているのであろう。

「・・・今のヴェスパーは第二隊長を失って以来再建に躍起になっている。だが結果的に全ての人員をまとめる人間が現れなくてああやって分割してまとめるのが関の山といったところだ。」

「なるほどな。」

それで、今日は何の用だと中年に近いであろう男は問いかける。聞いてくれてよかった、と青年は続ける。

「今こいつと仕事をしているんだが、機体がすっかり大破してな。今回は雇い主が面倒を見てくれるが今後の定期的なメンテナンスに関しては面倒を見きれんということで」

「俺に紹介して欲しいと」

「・・・ああ、そういうことだ。」

男の鋭い視線がシルヴィに向けられる。

「!!」

その澱んだ、しかし冷たい鋭さを感じる視線は彼女の胸の底にどっしりとのっかり、下手な口出しを許さなかった。少しでも言葉を発せば心を見透かされるような、そんな視線だった。

「・・・俺が紹介できる保証もなしに当てにする度胸は認めてやる。その素性のわからん女と仕事をするのはやめておけ、と言いたいところだがもう拾った後なんだろう?」

「あいにくな」

はあ、と今度は男がため息をつく。ジャケットの胸ポケットから小さな紙切れとペンを取り出して雑に書き込む。名義のようなものが書かれた紙切れを青年に寄越すとこう続ける。

「現役だった頃に世話になっていた整備の奴らがそこで仕事をしている。企業とのしがらみはない。と言うより、もともと企業の連中が信用できなくて頼っていた奴らだからな。当てがないと言うならそこに依頼すればいい。俺の名前を出せば、向こうも納得してくれるだろう。」

紙切れを受け取った青年は記載された文面を見つめる。それを折りたたんでジャケットに入れると手短に礼を伝える。

「感謝する。」

「礼を言われるようなことはやっていない。お前には借りがあったからそれを返しただけだ。」

フィーカはもらっていくぞ、と紙コップを持ったまま男は立ち上がり、人混みの中に消えていってしまった。

「・・・あの人、何者だったんですか?」

とファングの後ろから首をひょこっと出したシルヴィが男の背中を見ながら聞く。

「・・・昔の知り合いだ。遠い昔のな。」

ファングはそうとしか返さなかった。その目はどこか遠くを見ていた。



 二人のACが格納されているガレージに戻ると修理は大幅に進んでいた。ホールデンもガレージに来た。

「機体はあらかた注文通りにしておいた。」

「ああ、ありがとう。」

「それとシルヴィの機体だが、こっちもお前の注文通りに変えておいたぞ。」

と顎でシルヴィのAC『ワンダー』の方を指す。その風貌を見て彼女の顔は驚愕の色に染まっていた。

「ちょっ・・・だいぶ変わってません!?」

元々作業用AC『ウォーカー』を軽く武装しただけだった機体の頭部・腕部はベイラム製AC『メランダー』のものに変更されており、機体用に用意されていた武装もバーストハンドガンはベイラムのアサルトライフルに、分裂ミサイルは中型の水平六連ミサイルに、そして武装が搭載されていなかった方の肩にはメリニット製の二連グレネード砲が装着されていた。

「元々のお前の機体は正直言って独立傭兵の仕事をこなすには舐めているとしか言いようのない機体だったからな。最低でもこれぐらいの構成は抑えておけ。アサルトライフルの基本火力、それに敵を止めるミサイルとグレネード砲、それと近接戦闘用のパルスブレード。これでとりあえず大体の敵は叩ける。今回は費用に関しては俺とホールデンで肩代わりしておいてやる。改良したいことがあったら自分の報酬金で好きにやればいい。」

とだけ言うと自分の機体の方に行ってしまった。

「あいつ・・・妙に責任感持ってるみたいだな、お前に対して。」

ホールデンもフン、とどこか感心した様子を見せつつガレージから出ていった。



「・・・オーバーシアーの軍門に下ったあいつが俺を訪ねてくるとはな。見た目よりは元気そうだったが。」

そうコックピットで呟くのはファングにツテを紹介した男だった。彼は愛機の四脚ACと共に渓谷に隠れている。

「やはり今日顔を出したのは得策ではなかったか。『元』諜報部門トップの俺にしては失策だったな。」

そういつつ機体を起動させ、火のついていないタバコを咥える。火がついていなくても咥えている方が落ち着くのだ。

 その時、コックピット内にアラートが鳴り響く。咄嗟に避けると目の前に二機の大型の機体が降り立つ。それはアーキバスによって改修された封鎖機構のLCだった。

『裏切り者の第三隊長・オキーフ。今日こそお命を頂きます。』

通信の言葉にはぁ、とだるそうなため息をついて一人呟く。

「これは随分豪華なメンツだ。いよいよ本社も本気で俺を殺そうと思い始めたか。」

かつて存在したアーキバスのエリート部隊・ヴェスパーの第三隊長が駆るAC『バレンフラワー』はゆっくりと向きを変えてLCに向かい合う。センサーライトが妖しく光り、BAWS製のアサルトライフルを握るマニピュレーターの力が強まる。

「人間のまま死ね。それがせめての救いだ。」

相手に伝える気があるのかもよくわからないような、そんな口調で言い放った。



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投稿者 d2seaevo

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最終更新:2024年01月17日 22:44