vivere est militare.

生きる事は戦う事だ。

──古代ローマの格言──

───うるせぇ。
 鉄臭さと騒がしい音で男は安物の古臭いベッドの中から目を覚ます。目覚めた彼はまずコーラル入りの煙草を吸う。彼はドーザーだった。男の名は「クラウン・トリデンタ」。故に彼は目覚めの一杯は泥水のような安い合成フィーカを啜るではなく、頭の中が炭酸のように弾けるコーラルを吸う。

ウェイカー・コープの煙草は良く効く、太っちょの先輩ドーザーはそう言っていた。

「…ふぅ、やっぱ目覚めのコーラルは良いな!」

 テレビを付けると、いまやルビコンでは知らないものはいないと言わしめるグリッド051名物「アリーナ」で武器を持たないAC「BASHO」が二機、殴り合っていた。AC乗りの間では有名な所謂「カラテ」とかいうやつらしい。

 それを横目に、シャワーを浴びる。いくらドーザーだからといって不潔感が漂えば依頼もまともに受けれねぇんだよな。そう思いながら男がシャワーを終え、タブレット端末を開く。

 古い型だがRaDの時から愛用していたものであり、あまり綺麗とは言えないがそれほど壊れているというわけでもなかった。

「まぁ、俺のような低ランクだったらこんな程度の依頼だよな。」

 依頼の内容はいつもの通り「ブラックマーケット警備」「解放戦線部隊撃破」といったような単純なばらまき依頼だった。飲みかけのコーラルコークスの「バーニック」を飲み干し、RaD時代からの年季の入ったパイロットスーツのチャックを締め、部屋から出る。

「よぉドーザーの兄ちゃん、これから依頼か?」

 隣の部屋のオッサンが話しかけてくる。ここに来た時からの仲で、兄貴分のようなものだ。ここら当たりではガキ共に人気があるらしい。

「あぁ、オッサンもこれから仕事か?」

「おうよ、これからグリッド最上階まで荷物運びだ。兄ちゃんも暇さえあればルビコン運送をよろしくな。」

「おう、考えとくぜ。じゃあな。」

仕事があるオッサンと別れて、駐車場に停めているバイクに乗り、ALTの共用ガレージに行く。

~~~~~~

 共用ガレージに着き、自分のACが格納されている場所まで歩く。入口のロックを解除し、ガレージ内に入った直後怒号が聞こえる。

「おいドーザー野郎!てめぇまたチェーンソーぶっ壊しやがったな!」

「……わーったわーった!俺が悪かったから!ジジイ、そんなカッカしていたら早死にするぞ?」

 共用ガレージで俺の機体を担当している爺さんにちょっとした茶化しを入れながらコックピットに乗り込む。

『またぶっ壊しやがったらてめぇの身体で支払ってもらうからな!』

「おお怖い怖い。旧式の強化人間なんかにされちゃ大変だ。」

『…ったくこれだからドーザーは……無茶すんじゃねぇぞ、小僧。』

「あいあい、爺さんもな。」

 機体をエレベーターで運んでいる間、回線で爺さんと軽口を言う。

 今回はブラックマーケットの警備を選んだ。特にヤバい奴でもない限りチェーンソーはあまり使わないだろう。

~~~~~~

 オールマインドが派遣したヘリによって他のMTやACと一緒に運ばれる。移動中は暇な為、皆コーラルを吸ったり音楽を流したりと各々が好きに過ごしている。

『よぉ、そこの黄色いACのパイロット。お前もブラックマーケットの依頼か?』

 煙草に火をつけてると通信が聞こえる。どうやら横のBAWS製MTのパイロットからだ。

「あぁそうだ。あんたもか?」

『おうよ。あいにく暇なんだ。俺の話にちょいと付き合わねぇか?』

 こちらも娯楽になるものは特にない為、MTのパイロットである男と話すことにした。

『……でな、今回の依頼でACを買えるぐらいコームがたまるんだ。といってもBASHOぐらいなんだがな。』

「へぇ。で、あんたの名前はどうすんだ?」

『ははっ、まだ決まっちゃいねぇさ。だがよ、考えている名前があるのよ。』

「そうかそうか、じゃあ教えてくれよ。」

『おう、その名も……』

《まもなく目的地です。パイロットの皆様は降下準備をしてください。繰り返します…》
無機質な女性の声が通信から聞こえる。オールマインドの音声である。数分後にブラックマーケットに着くため、降下準備を整える。

『……じゃあな。次にあったら言ってやるぜ。』

MT乗りとの通信が切れる。メインシステムを起動させる。

《メインシステム、通常モードを起動します。》

 COMから聞こえたのは無機質な男の声。しかし、この声はブルートゥと同じ声だ。COMのこの音声を聞くたびに苦い思い出がよみがえるので、煙草を吸う。頭がパチパチする。
気分もいい。

~~~~~~

《メインシステム、戦闘モードに移行します。》

 COMが、ミッション開始を宣言するように戦闘モードに移行する。
内容は簡単。ブラックマーケットで敵が来たら撃破するか追い返す。それだけだ。

 基本的には小規模のドーザーが駆るMTや汎用兵器が来るが、稀に技研の無人兵器やジャンクACなどが襲撃してくるのでその時はMTの後方支援とACで対処するというのがブラックマーケット護衛の戦術である。

「ヒャッハー!雑魚狩りだぁ!このチェーンソーのサビになりてぇがらくたはどこだぁ?」

 この男、クラウン・トリデンタはコーラルを多く摂取することにより、多量のドーパミンとアドレナリンを生成し、コンバットハイになれる。

現在の彼は右手の「WR-0777 SWEET SIXTEEN」をMTにゼロ距離で押し付け、まとまった敵機体には肩の「WR-0999 DELIVERY BOY」で一気に殲滅している。

圧巻な光景で唖然となっていた後方のMTと汎用兵器の集団は恐れおののいていた。その時、1機のMTが高速で接近してくるACに気が付いた。

『ACが1機高速で迫ってる!撃て!撃て!』

MTのスナイパーキャノン、マシンガン、ミサイルといった弾幕が飛び交う。ACはクイックブーストで回避してはいるが、流石に数が多く、スナイパーキャノンとミサイルの直撃でACS負荷がかかりスタッガーを引き起こす。

ちょうどMTらを片付けたトリデンタのAC「ストンド」が敵、パイルフィシュの「キリングヒット」にブーストチャージ、俗にいう蹴りをくらわせる。

蹴られて吹き飛ばされたキリングヒットにストンドはチェーンソー「WB-0010 DOUBLE TROUBLE」をチャージし、とどめを刺そうと近づくが、スタッガーから回復したキリングヒットは反転、逃亡した。

「逃げるな卑怯者!正々堂々と戦え!その背中のパイルは飾りか!」

 折角のACをやれると思っていたトリデンタであったが、しっぽを巻いて逃げた相手に罵詈雑言を浴びせるが残弾が心もとないために追い打ちは諦めた。

 その後、散発的にドーザーのMTが来るだけであり、ミッションは無事終了した。派手にやってしまったせいで弾代と修理費が高くつき、大して多くもない報酬が更に差し引かれたが、大量のMTや通常兵器の撃破、ACを撤退に追い込んだからか追加報酬が支払われた。

 これでしばらくは依頼をせずとも過ごせるだろう。そう思っていたトリデンタの元に着信音が鳴る。古めかしいロックを聴き、通信を開く。

『よぉ、トリデンタ。生きてて何よりだ。』

 通信相手はRaD時代の悪友だった。

「何の用だ?まさかだが企業の輸送車両の襲撃の助っ人にでも誘おうってか?」

『いいや違うな。』

 どうやら企業を相手取るわけではないらしい。

『お前、宝探しに興味ないか?』


続くかも
今回出てきたモブが今後出る可能性は低いです

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小説 秋棒
最終更新:2024年04月28日 21:00