脱出装置(軍用機)

登録日:2014/12/12 (金) 21:01:35
更新日:2023/12/26 Tue 23:19:31
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脱出装置とは、文字通り施設や車両等からの緊急時脱出のための装置である。アニヲタ的にはコア・ファイターとか馴染み深いんじゃないだろうか。
とはいえ全ての脱出装置について語るのも何なので、ここでは軍用機のそれについて記すこととする。


前史――なぜ脱出装置が必要となるか

航空機が開発され、実用化と軍事転用が盛んになって以降、第二次大戦後期までは航空機の最大速度は速くても精々が600km/h代中盤であり、
脱出するにしたってそこまで困難じゃなかった。搭乗前にパラシュートを背負っておいて、墜落前に飛び降りるだけでも何とかなったのだ。
しかし、これだとコクピットから飛び出した際に自機の尾翼にぶつかる危険があるし、何より高速化に伴って機体と脱出者の相対速度は増大する。
飛び降りた瞬間尾翼にラリアットされて首が飛んだり体が真っ二つになる事故も起きるようになったため、キャノピーを排除した上で座席ごとパイロットを放り出し、
接触事故の危険を抑えつつ比較的安全に降下する方式が考案された。いわゆる射出座席、あるいはベイルアウトだ。
当たり前だが作動させれば機体の方は確定でオジャンだし、パイロットも相当な衝撃を受けて最悪気絶する可能性もある。気軽に使える安全装置ではなく大人しく墜落するよりはマシな程度といったところ。

歴史上初めて射出座席を装備した機体は、ドイツはヘンシェル社の開発した試作ジェット戦闘機、He280だ。
これの射出座席は圧縮空気射出式で、後の火薬式に比べパワーはないが乗員への負担は小さかった。
射出座席を本格的に実用化したのはイギリスの航空機メーカー(現・射出座席関連製品製造業)のマーチン・ベイカーだ。ここで開発されていた火薬式が後のスタンダードになる。
火薬式のメリットは射出力の高さで、これによりパラシュートの展開高度を安全に稼いだり、機体との接触事故の危険性をより抑えることができた。

これが一般化するのはジェット機が急速に発展した大戦後になる。何しろ空気抵抗は速度の2乗に比例するわけだから、速度が倍加すれば抵抗は4倍になるわけだ。
そんな状態で墜落中の機体から自力脱出なんぞ出来るわきゃねぇので、射出座席も必要に迫られて発展していったわけである。



射出座席とモジュール式脱出装置

軍用機用の脱出装置は概ねこの2つに大別される。というか現状他にない。ついでに言うとモジュール式のほうがレアい。

射出座席

オメガ11の友である。オメガ11イジェークト!!以上。
……では芸がないので大雑把に現行式のを解説すると、
①まずキャノピーをプリマコード(詳しくは導爆線でググって、どうぞ)なり火薬なりで爆砕orパージします
②ロケットモーターに着火します
③パイロットが座席ごと直上に吹っ飛びます
④パラシュートを展開して降下します
⑤パイロットの皆様はお手元のサバイバルキット等各種備品をお確かめの上、速やかな装備と離脱を推奨します
だいたいこんな感じ。

⑤にもあるが、脱出から救出までのサバイバビリティ確保のために、射出座席には一人用の膨張式の筏や非常食、護身用拳銃、連絡用のトランシーバー、
そしてもっとも重要な防水アルミパッケージに入ったサバイバルキット(火熾し器具や釣具、ワイヤー式鋸、応急医薬品や方位磁針、サバイバルナイフなど)などが同梱されている。
ちなみに冷戦時代のU-2偵察機には、これに加えて捕虜になったとき用の自殺用服毒薬まで仕込まれていた。
まぁ、アメリカからソ連に亡命(物理)させられるとか地獄だろうし、偵察機のパイロットは機密に触れているのでしゃーないっちゃしゃーないのだが。

射出用のロケットモーターは火薬ぶっぱよりはGが小さいためパイロットも安全……と言いたいが、それでも15-20Gは普通にかかるので、
ちゃんと姿勢をとって身構えてないと首なり背骨なりが「逝きましたー」する事もありうる。
なので、射出直前にハーネス等で固定され、姿勢矯正を行う機構がついてたりする。
このハーネスにはライフジャケットや意識喪失時の補助として自動切り離し機能が内蔵されており、よっぽど不運が重ならない限りは脱出後に死ぬこたぁない……はず。

また、パラシュートはオートじゃないので操作手順を知ってなければならず、これも結構大変だったりする。
そのため、米軍では射出座席付航空機への搭乗者には訓練修了と資格取得を義務付けている。
これはただ相乗りするだけでも必須であり、ゆえにアメリカでは訓練未了の観光客などは戦闘機に乗れない。
なお、ロシアでは「ンな事知ったこっちゃねーよ」なノリで観光客を戦闘機に載せるツアーが開催される模様。

旅客機にパラシュートや射出座席が装備されてないのも概ねこのせいだったりする。素人が海にパラシュートで撒かれるとか死亡フラグだよね。
まあそれ以前に、大型機なら不時着水してから脱出した方がリスクが小さいというのが大きかったりもするわけだが。
後、地上への安全かつ確実な減速ができるほどのパラシュートが搭載できなかった時期には、宇宙船の再突入ユニットに射出座席が装備されていたことも。
ちなみにガガーリンも射出座席で脱出しており、実は国際航空連盟の定める「宇宙飛行」の定義(着陸or着水まで船外に出ちゃダメ)から微妙に外れていたりする。
なお、ソ連は人類初の宇宙飛行と認定された後でこれをバラした模様。汚いなさすがソ連きたない。

最近では攻撃ヘリにも採用されることが増えてきている。より低空・低速度用に設計されている他、そのまま飛び出すとほぼ間違いなくメインローターに切り刻まれるので先に爆破して時間差で作動したりとこちらはこちらで色々と工夫されている。

余談だが、普通は、というか当然ではあるが上向きにパイロットを射出するわけだが、F-104の初期型だけは一味違った。
というのも、垂直尾翼が鋭利すぎてパイロットの首が飛ぶのを防止するため、下向きにパイロットをぶっぱしていたのだ。

どう見ても「ボルガ博士、お許し下さい!」です、本当にありがとうございました。あるいはガー様指パッチンでも可。

モジュール式(ry

音速機からの脱出も(ある程度)安心確実になった射出座席だが、さすがに高々度超音速飛行中の脱出には厳しいものがあった。そこで開発されたのがこれ。所謂「緊急脱出ポッド」的なモノである。
コクピットそのものを脱出用カプセルユニットとして設計し、緊急時に射出することでより安全に救援を待てる、という寸法だ。
何より、パイロットを過酷な高々度環境に露出させないため、そういった点でもより安全性は高まっている。
大がかりなモジュールを組み込むだけあって、着水時の低体温症回避や非常用備品の充実など、パイロットのサバイバビリティを考えればこれ以上ないものではあった。

ただ、ユニットが大型化する関係上落下速度が速くなったり、パラシュートも大型化せざるを得なくなったり、軟着陸対策にエアバッグ仕込んだり、
それら諸々がモロに響いてただでさえ重いのがクッソ重くなったり、そのせいでそもそも搭載できる機体が限られたり、そして何より高い
近代化改修やメンテナンスの度に金が吹っ飛んじゃやってられねぇので、まともに採用した量産機F-111くらいだった。
また、『ゼロゼロ射出』(高度0速度0からでも、パラシュート展開高度まで射出できる能力のこと)がやりづらいという欠点もある。
まぁデカいし重いから残当っちゃ残当かもしれない。

ただまぁ金かけただけの事はあるようで、救援到着までの簡易避難所としても機能するし、着水時には筏代わりにもなる。
雨風凌げるというのはサバイバル中の精神負荷に大きく関わってくるので、そういう意味では運用する側にとってはかなりありがたいだろう。
配備する側?わかりきってるじゃないの、言わせんな恥ずかしい。

アニヲタ的には上述のコア・ファイターとか、グリプス戦争以降のイジェクション・ポッドなんかがこれに該当する。
あとはR-9Cなんかもキャノピーごとコクピットをパージして緊急脱出が可能。
これらは宇宙でも使われるので、モジュール式でないと
生存そのものが危ぶまれるとかカネをかけてでも回収したいモノを積んでいたりとか、そういった背景がある。


やっぱりあったよ英国面

案の定と言うべきか、やっぱりかと言うべきか、はたまたまたお前かと言うべきか。
脱出装置の大家を擁するイギリスだからこそなのか、やっぱり紳士共のかっとビングなセンスはこの方面でも存分に発揮された。
かっ飛びすぎ?そんな言わずもがなのことを言われても困る。

○スイングアーム式脱出装置
かつてマーチン・ベイカーが…今となっては射出座席の大家であるはずの、あのマーチン・ベイカーがクソ真面目に考案した脱出装置。
機体にクレーンめいたアームユニットを仕込み、非常時にそれで機外にパイロットをぶん投げる。仕掛けは中世の投石機そのもので、確かに物を放り上げるには悪くないが…
ぶん投げた後?知らん、そんな事は俺の管轄外だ

○ボールトンポール P.100の脱出装置
英国式二人羽織ことデファイアントでおなじみ、ボールトンポールが考案した軽戦闘機。見た目やコンセプトは英国面搭載型震電だと思っておけばいい。
震電系(推進式)の設計ということで、普通の脱出装置ではパイロットがプロペラに当たってミンチよりひでぇ状態と化すのは明白。
で、どうやってこの問題をクリアしたかというと……機首の下半分を口のようにくぱぁし、そこからパイロットを放り出す
まさかイギリスにもチャーケニストがいたとはこの海のリハクの目をもってしてもry

○ヴィクターの脱出装置
英国が誇る三馬鹿、もとい3Vボマーの一角をなす最後発機。ハンドレベージの手になる大型爆撃機ヴィクター。
大型爆撃機だけあって5座という脅威の乗員数を持つ本機だが、その脱出形式も驚異だった。
パイロットはごく普通にベイルアウトするのだが、後ろ向きに座っている残り4名はどうやって脱出するのかというと、
二酸化炭素を充填したカプセルを起爆し、その爆圧で機外に退避する。
なお、残念ですらないし当然だが成功例はない模様。

創作においての脱出装置

ウルトラマンシリーズが代表的。
怪獣の攻撃を受けて戦闘機が被弾炎上から
「脱出!」
の掛け声とともにパイロットが射出されてパラシュートが宙を舞うのは、特に昭和シリーズではMAT以降のお約束だった。
ちなみに戦闘機のミニチュアのコクピットから風防が吹っ飛んで座席が射出されるまで造形されており、架空の戦闘機でも非常にリアル。
一方でゴジラシリーズではゴジラの熱線を戦闘機が浴びたらそのまま粉々になることがほとんどであり、脱出に成功した事例はほとんどない。

アニメにおいてはゼロの使い魔Fの最終回で、才人が自衛隊から拝借したF2戦闘機をエンシェントドラゴンに特攻させる寸前で脱出装置を使用。
この際、レバーを引く、風防が吹っ飛ぶ、座席が飛び出すまでが細かく描写されている。




追記・修正はオメガ11と一緒にイジェークトしてからお願いします。

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最終更新:2023年12月26日 23:19