野原ひろし 昼メシの流儀

登録日:2018/05/20 Sun 15:39:11
更新日:2025/10/28 Tue 08:37:56
所要時間:約 3 分で読めます




誰もが知っている“とーちゃん”の
家族も知らない“1時間”

『野原ひろし 昼メシの流儀』とは、塚原洋一の漫画作品である。
「まんがクレヨンしんちゃん.com」にて連載中。


概要

臼井儀人の漫画『クレヨンしんちゃん』のスピンオフ作品であり、野原しんのすけの父親野原ひろしを主人公に置き、外回りの最中に駆け込む昼食店での食事風景を描く。

作風は完全に大人向けにシフトしており、今時のサラリーマンの昼食事情をリアルに描いたものになっている。
一言で言うと『クレヨンしんちゃん版孤独のグルメ』であり、画風が原作とあまり似ていないのもあって自分を野原ひろしだと思い込んでいる殺し屋がターゲットもとい昼メシを探し回る漫画などとネタにされることも多い作品である。

ただ、作者の塚原は近代麻雀などで活動していた頃は今の画風とは似ても似つかないレベルの高い劇画風の路線で活動しており(本作で塚原の存在を知った読者からは、このかなりの作画の違いっぷりに驚きを見せる人は多い)、ネタにされている原因もひろしの目が死んでることを除けば作画崩壊というわけではなく、「コマ割りなどの要所要所で滲み出る劇画的な緊迫感や殺伐とした雰囲気」と「ギャグ漫画のスピンオフで食事メインというゆるい設定」がド派手に正面衝突を起こしてシリアスな笑いを起こしているからである。過去にシリアス劇画を手掛けていたという所は谷口ジローも同じなのだが

また、『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎は個人の輸入雑貨商かつ独身でしがらみが少なく、余裕がありそうな懐具合も合わせて基本的に自由に食事を楽しんでいるのに対し、
こちらは上司と部下に挟まれ、時間にも追われる中年サラリーマンのどこか哀愁漂う食事風景が描かれており、それが独特の味を醸し出している。

巻数が進むにつれて、商談で相手側の企業の社員からご馳走されるなど外回り以外の仕事絡みのエピソードが増えるのも特徴。

アニメ版

2025年10月からBS朝日にて放送。
BS朝日におけるクレヨンしんちゃんシリーズの放送は、2023年9月に本家の放送が終了して以来2年ぶり。
制作会社は『秘密結社鷹の爪』で有名な「ディー・エル・イー」が担当し、フラッシュアニメーションになる。原作の雰囲気をかなり重視した作りで特に料理の作画は力が入っており、まるで実写というか実写である。
ニコニコ動画では瞬く間に第1話がミリオン再生を突破したりOP映像が「領域展開」と呼ばれたりと話題は尽きない。

主題歌

  • OP「ごはん食べヨ」Mega_Shinnosuke
  • ED「今日のごはんはなんだろな」サバシスター

主な登場人物

声:森川智之
主人公。35歳、双葉商事に勤める係長。
原作では愛妻弁当派だが、本作の設定では外食派。
ただし、基本的には愛妻弁当で、たまの外食、という感じなのかもしれない。今作では外回りの仕事のエピソードが基本であり「喧嘩をして妻に弁当を作ってもらえなかった」とこぼすシーンもあることから、社内で仕事をしている時は原作通り愛妻弁当ともとれる。
原作ではほとんど触れられていない仕事内容について断片的にだが語られており、「外回りの多い営業マン」であることが明かされた*1
珍しい秋田の大学時代のエピソードもある。

昼食には独特のこだわりがあり、それを乱されることを極端に嫌うが、その一方で後先考えずにその場の勢いで注文してしまい、想定外の料理が飛び出してきて頭を抱えて愕然とすることが多い。
ただし、どんなものだろうと出された料理に関しては残さず食うのが信条。
また、ゆっくりと食事を楽しもうとした時に限って予定を忘れていて掻っ込む羽目になったりと、昼食関連に関してはトラブルが多い。

女子の視線を引くために激辛カレーを注文したり、回転寿司でハンバーグ寿司を食べるのにためらいがあったりと「大人の男」らしい食事に非常にこだわる。
だが、実際のところはかなりの子供舌(そもそも、そういうどうでもいいことにこだわって本当に食いたいものを逃す辺りが中途半端に子供っぽいとも言えるが)であり後者に関しては悩んだ末に注文した結果、
他の変わり種寿司やサイドメニューなどと一緒に複数個頼んだりする様子を見せている。
食事にはこだわりがある反面、牛カツ*2やつけそば*3を知らないなど最新の料理に関しては疎い節がある。

一食千円台のランチに平然と手を出すなど、原作に比べるとかなり財布に余裕がある描写が見受けられるが、
一方でステーキ店のランチメニュー*4を予算オーバーとしつつも訪れたり、ホテルのランチバイキングのために節約したりするなどもしている。

基本的にはゲストである調理人たちに敬意を抱くのが毎回のお決まりではあるが、後述の川口やキャラの濃いゲストたちにちょっと引いたりする事も多い。

  • 川口
声:増元拓也
ひろしの部下。数少ない準レギュラー。川口のやつ

しょっちゅうスマホを弄っている今時の若者。
「ひろしのおごりだとわかっていながらひろしより高いものを頼む」など遠慮のない性格であり、
彼の登場エピソードでは、「川口と共に昼食に行ったひろしが彼の傍若無人な行動に苛立つ」という内容であることが多い。サザエさんでいうところのコイツ的な扱い。
アニメ版だとさらにその無遠慮さが強調されている。おかげでスタッフに川口ファンがいるのではという憶測まで出た
なお、原作アニメ版の川口を知っているファンからは「川口はこんなに性格悪くないだろ」という声も出たが、有識者から逆に「昼メシの流儀は川口の解像度が高すぎる」と評されたとか。
川口の有識者ってなんだよとか言ってはいけない

だが、その一方で舌は確かであり彼の選ぶ店はひろしも唸らせる。
また、お好み焼き作りが非常に上手く*5、仕事を自分流のやり方で進めた結果失敗した彼を、ひろしは自分とは違うそのお好み焼きも交えて説教するつもりだった。
しかし、(ひろし視点では)まったく味が想像できないそのお好み焼きが気になってしまい、自分のものと交換して食べた結果、その美味さに感服。
そして、お好み焼きがそうだったように、仕事も「決められたやり方を守る」だけが全てではないと実感し、その考えに固執していた自分の視界の狭さを痛感したひろしは、
「決められたやり方を守れ。」という説教をするのをやめ、「自分なりのやり方で頑張れ。」と川口を励ますことになったのであった。

なお、本作の川口の顔はアニメ版に準じている*6

  • 草加ユミ
声:三浦雅子
ひろしの部下で大体川口と一緒に登場する。

  • 部長
声:大友龍三郎
ひろしの上司。
失敗した時には叱責したりするが、仕事で大きな山場を終えた後はひろしらを連れて食事で奢ったりする。
たこ焼き回では、色んな理由で連日たこ焼き食べていたひろしに「以前に冷凍食品の試食する話をしたが、もしかして今回はたこ焼きを見抜いた上でか」と驚いたりと天然なところも。

  • 四杉遥
声:市ノ瀬加那
あちらこちらの飲食店でバイトしている若い女性。概ねコミックス1巻ごとに登場している。
頻繁にアルバイト先を変えており、しかもそのことごとくがひろしの行く先と被っているため、何度も顔を合わせることになる、
なぜか妄想が大変激しく、ひろしには全くその気はないのだが、彼の意味深な行動に「ひろし=自分を付け狙う野獣」という妄想を抱いている(アニメでは大学でバンドサークルの学生がたまたま近くで「腕のいいドラマーいねえかな」と零していたのを自分への勧誘のメッセージと勘違いし、そこから発展して全国ツアーの妄想をする程の自意識過剰として描かれた)。
一応、別の美人店員にいやらしい目線を送っていた回を始め、急いでいたため必死の形相で駆け込んだ店がたまたま彼女のアルバイト先だったりとひろしに原因がないわけでもない。

おにぎり回では主人公を務め、チャラい感じの店員を偏見の目で見ていたが、最終的に手際の良さや客一人一人の訪れた回数を覚えているほどの心意気などで彼を見直す様子を見せている。
その直後に訪れたひろしがこの店の常連だと分るといつもの様子を見せていたが。もはや運命である。

四杉という名字は原作第116話(アニメでは第2話)で判明している。
なおアニメでは原作より盛られている

直接登場したのは回転ずしのエピソードのみで、それも足だけで顔は描かれず。ひまわりに至っては「た」という吹き出しの存在でかろうじて同行していることがわかるのみ。
デフォルメされていないため、しんのすけの足が長くかなり違和感がある。画風の違いと言えばそれまでだが。
アニメでは当該シーンがカットされ、別のオチへと差し替えられているため登場していない。

電話相手としては頻繁に登場しており、時々喧嘩をすることもあるものの、原作を考えれば当たり前だが関係性は良好であることがわかる。
家族を大切にしている「家族愛」については、本作でも健在である。

  • 高桐あきたけ
声:高杉真宙
第21話から登場する双葉商事の新入社員。ひろしの部下として同じ配属先でまわっているが生成AIを活用したりと有能。
今どきの若者という性格で呑みの誘いも「海外語の勉強があるので」と断ったりするが、趣味は食べ歩きとその料理をSNSに投稿すること(フォロワーは数千人)。
実家暮らしで裕福な家庭なのかご飯も高いものを頼んだりする。

  • 沖縄料理店の大将
声:三宅健太
常連客のひろしに今週で閉店することになったと告げ、ソーキそばにラフテーとポークをサービスしてくれた。
別の回で息子の経営する沖縄料理店でひろしと再会を果たし「半分引退したようなもので今は息子の店を手伝っている」と語る。
ひろしが出された料理に独自の食べ方を見たときには思わず沖縄弁で熱弁する。

  • ケバブ屋の店主
キッチンカーでケバブを販売してる中東系の店主。
いきなりクイズを吹っ掛けたりと距離感が掴みにくい。なお彼がケバブの調理法を語るシーンがコマの構図などでコラ画像にされている。

  • 喫茶店 サンフラワー
繁華街から外れた場所にある喫茶店
色あせた食品サンプルや昔ながらのテーブル状のゲーム筐体が置いてあったりとひろしをして「時間が止まっている」と言わしめるレトロなお店。
店長は水を差し出す際もプルプルと震えていたり注文を聞き返したりとかなりの年配だが料理の腕は確か。
ひろしは数回訪れているが、レトロな雰囲気故か訪れるたびに学生時代の失恋など昔のビターな思い出を思い返している。
「ナポリタンにピラフ こりゃまた懐かしいな。」と食品サンプルを前に呟くシーンは表情と声が初代の藤原啓治或いは2代目の森川智之の他の配役から食品がコードネームの二人を始末しに来た刺客などとネタにされていたり。
後にギリシャ出身の美女と国際結婚果たした。

  • 瓦そば〜る君
山口名物「瓦そば」をPRしているゆるキャラ。非公認
担当者のミスで日程を間違えてしまい、九州物産展に無理やりねじ込んでくれたが「配置場所が奥の通路スペース」「確かに西側は若干九州地方の植民地化しつつあるが中国地方の山口が何故か九州物産展にいるので浮いてる」「飲食コーナーでのメニュー表で別枠かつセロテープで貼られている」という具合だったので客からは見向きもされない上に瓦そばもひろしが頼むまで誰も頼まないと不憫な扱い受けていた。
集客の無さにそば〜るのスーツアクターがやさぐれてしまう*7も、ひろしが山口も魅力的な所あると励まされて、特技の瓦割りを生かしたアクションをした所で子ども達から大受けして瓦そばも売れるようになった。

  • もやしそば店主
たまたま見つけた屋台の店主で語尾に訛りをいれている。
弟がもやし農家で新鮮で美味なもやしに合う「もやしそば」を出している。味は塩と味噌で塩味を頼んだひろしはその美味さに驚愕するほど。
後に川口から「各地転々と出してる幻の店」と聞かされた時には味噌味も食べれば良かったと悔やんだが。

  • 双葉商事の取引相手
ひろしが取引やプロジェクト参加を募るために遠方先に赴くが、わんこそばのごとく企画を大量に持ち込む岩手の会社、些細な事で怒ってしまう&強面でポーカーフェイスで分かりにくい品川、実はカツラだった事を明かす赤坂などと大半が癖が強い面々。



余談

主人公のいろんな意味での知名度の高さからか、2021年にはエースコックからコラボ商品として「もやしそば」の塩とみそが発売された。

作者の塚原氏は日本一ソフトウェアのゲーム『屍喰らいの冒険メシ』発売前に本作のセルフパロディである『冒険メシの流儀』を執筆・公開している。
本作でネタにされているコマが見られている辺り、塚原氏も本作へのいろんな意味での評価を目にしているのかもしれない。



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最終更新:2025年10月28日 08:37

*1 但し、原作とは一致しない描写もあることから作風の違いからめ本作のみの独自設定、パラレルとして扱われる向きも。

*2 牛肉をミディアムレアに揚げて薄めに切り分けた料理である。

*3 ラー油を使った辛めのつゆなどハイカラなつけだれにつけて食べる蕎麦である。

*4 千数百円ほど。モチーフはおそらくステーキチェーン「いきなりステーキ」のワイルドステーキだろう。

*5 コーン玉のラーメンスナックトッピングのマヨ多めと相性の良い組み合わせを選んでいる。さらに食感のために厚みをもたせつつ綺麗にまとめて片手で見事にひっくり返した上、火を通りやすくするために穴を空けるという調理面でも完璧な配慮&腕前を見せている。

*6 そもそも、川口はアニメオリジナルキャラクターであり、逆輸入の形で原作50巻に初登場を果たしているが、原作とアニメ版で顔が全く異なっている。

*7 ひろしにわざわざチャックを下ろすように頼んだ上に、描写的に他の客がいるのに関わらず