スリーピー・ホロウ(映画)

登録日:2023/01/08 Sun 19:20:00
更新日:2024/08/29 Thu 23:41:40
所要時間:約 16 分で読めます







月夜の晩は、なくした首がすすり泣く。


謎の連続殺人事件、犯人も被害者も……首がない!?




興奮!ティム・バートン最高傑作!!



概要


『スリーピー・ホロウ』(原題:Sleepy Hollow)は、1999年11月19日にアメリカで公開されたゴシックホラー映画。
日本では日本ヘラルド映画(現・角川映画)配給で2000年2月26日に公開された。
監督はティム・バートンで、盟友ジョニー・デップとは3度目のコンビ作となる。

鬼才と呼ばれるバートンであるが、本作の前には需要など知るかとばかりに全力で趣味に走って撮った『エド・ウッド』と『マーズ・アタック!』が立て続けにコケていた*1
さらにニコラス・ケイジ主演で企画されていたスーパーマンの映画『Superman Lives』も、脚本完成の遅れなどで製作になかなか入らない状況が続き、しびれを切らした彼は降板。
結局企画はお流れになり、1年以上を棒に振る羽目になるという地味に大ピンチの状況に陥っていた。
……実際にケイジがスーパーマンの衣装を着た画像や映像があるが、かなりのインパクトである。
あと、バートンが描いたスケッチはぶっちゃけスーパーマンのコスプレをしたエドワード・シザーハンズにしか見えない
ちなみに、この時ボツになったスーパーマン映画の無念を託したキャラクターが「ステインボーイ」である。

後がなくなったバートンだが、この時に見つけた脚本が『スリーピー・ホロウの伝説』を基にした怪談だった。
この企画もまた様々な理由から泥沼にはまっており、バートンの元に転がり込んだ事でようやく動き出した。
ゴシックホラーはバートンのお気に入りのジャンルであり、いかにも彼のためといった感じのテーマ。一方で純ホラー作品を撮るのは意外にも初のこと。
そこで本作はバートンが慣れ親しんできたハマー・フィルムの古典ホラー映画や、イタリアのホラー映画の巨匠マリオ・バーヴァの『血ぬられた墓標』のオマージュを詰め込んで作られた。
ほぼ全編モノトーンやセピアを基調とした陰鬱さと、どこかおとぎ話を思わせる幻想性を併せ持つ、もはや絵画レベルの舞台美術の美しさは必見。
さらにイカボッドが使うどこかユーモラスな小道具の数々も、ダークな物語の中に色どりを添えてくれる。
ただし、ホラーだけあって18回もの首刎ねシーンがあるので、苦手な人は注意。
それもあって、日本ではPG12指定に区分されている。

背水の陣で挑んだ甲斐あって、作品の興行成績は全世界累計で2億ドルを超える大ヒット。
評価も高く、当時「バートンの最高作」と呼ぶ批評も出るほどだった。



あらすじ


1799年のニューヨーク。
当時は捜査や裁判において、拷問で容疑者を自白させ、犯人扱いするのが当たり前の時代。
そんな中、イカボッド・クレーン捜査官は科学的な捜査で得られた証拠を重視する、当時としては先進的な捜査官であった。
しかし、この時代に彼のやり方は受け入れられず、市長によってハドソン川沿いにあるオランダ移民の僻地の村スリーピー・ホロウへ送り込まれる事に。
ここでは2週間のうちに3人が殺害され、いずれも首を切断されていた。
村長のピーター・ヴァン・ギャレット、その息子のダーク、未亡人のウィンシップ婦人。
村の長老達曰く「彼らは首なし騎士に襲われ、頭を地獄に持ち去られた」という。
イカボッドはそれを迷信に過ぎないと断ずるが、後日本当に首なし騎士の殺人現場を目の当たりにし、真実であると認めざるを得なくなる。
そしてその裏には、何やら陰謀が蠢いていた……
はたして、首なし騎士が人を襲う理由とは?


登場人物


  • イカボッド・クレーン
演:ジョニー・デップ / 日本語吹替:平田広明(映像ソフト版)、堀内賢雄テレビ東京版)

本作の主人公。
魔法など迷信が信じられていた時代において科学技術を重んじ、それを捜査に取り入れるように訴えていたが受け入れられず、僻地の村スリーピー・ホロウに派遣された。
魔女の容疑をかけられた母親を狂信的な父親の手によって処刑された過去を持つため、迷信と思い込みによって相手を裁く事が許せず、科学を重んじる道に進んだ。
つまり、スリーピー・ホロウ内ではよそ者だが、警察の中でも先進的な思想を持つ故に浮いた存在という、二重の意味で異端の存在と言える。
要するにいつものバートン作品のキャラクターである。
このように設定だけなら一見カッコよく見えるが、実は非常に小心者で虫が苦手な上、魔女の家に侵入しようとしたときはマスバス少年を盾にするというヘタレっぷり。
おまけに劇中では5回も気絶するという、とても主人公と思えないほどの虚弱っぷりを見せつけてくる。ヒロインのカトリーナでさえ2回だったのに……
しかし、この事件の解決にかける思いは本物で、黒幕の存在や遺産争いが関係している所まで突き止め、最終的に首なし騎士に真っ向から立ち向かうまでになった。

原作では学校の教師として登場。
その風貌については「袖口からは両腕が一マイルもはみ出していたし、脚はシャベルとしても使えそうな面白い形をしていた」「身体全体がひどくだらしなくて締まりがないのだ」といった具合で見事にディスられている
デップはその風貌を再現しようとしていたが、多くのスタッフの猛反対に遭ったらしい……
一方で、クライマックスの馬車アクションはノースタントで挑んでいる。

  • カトリーナ・ヴァン・タッセル
演:クリスティーナ・リッチ / 日本語吹替:小島幸子(映像ソフト版)、片岡身江(テレビ東京版)

本作のヒロイン。ヴァン・タッセル家の一人娘。実の母親は脳炎で2年前に亡くなったという。
妙齢のクリスティーナ・リッチが演じるだけあってかわいい。
イカボッドが村にやって来た日のパーティーでのゲームで、偶然居合わせた彼に歓迎のキスをしている。
その後も彼に好意的で、お守りとして母の形見のまじない集をプレゼントしたり、かつて住んでいた小屋の跡地に案内したり、西の森の捜索に同行したりした。
しかし、父が事件の容疑者扱いされたのを知って証拠を燃やし、絶縁を突きつける……


演じたクリスティーナ・リッチはこのキャラクターに対し、「おとぎ話のお姫様のようなキャラクターで、とても一方的で、感情的な深みがないというアイデアが気に入った」と語っている。

  • バルタス・ヴァン・タッセル
演:マイケル・ガンボン / 日本語吹替:村松康雄(映像ソフト版)、石田太郎(テレビ東京版)

カトリーナの父親で、村一番の豪農。加えて地主で銀行家。村人達の信頼も厚く、相談役も務めている。
村には後から移住してきた存在で、ヴァン・ギャレット家から土地と古い小屋を与えられ、そこから一代で財を築き上げた。
村長だったピーター・ヴァン・ギャレット亡き今、村の最有力者となっており、遺言によりヴァン・ギャレット家の遺産を相続する事から、イカボッドに黒幕の容疑をかけられる。


  • ヴァン・タッセル夫人
演:ミランダ・リチャードソン / 日本語吹替:一城みゆ希(映像ソフト版)、駒塚由衣(テレビ東京版)

カトリーナの継母。
看護師として雇われ、前妻が死去した後にバルタスと結婚する。
イカボッドに対しても親身になって世話をしていたが、不倫現場を目撃される。
その際、何故か自身の手のひらにナイフを突き立て、傷をつけていた……
書記の自殺により牧師が緊急集会を開いた時、傷の治療用の薬草を取っていたが、その最中に首なし騎士に襲われて死亡。
しかし、殺される場面は描かれていないばかりか、その亡骸の手の傷に不審な点が見つかり……?


  • マスバス少年
演:マーク・ピッカーリング / 日本語吹替:矢島晶子(映像ソフト版)、宮田幸季(テレビ東京版)

ヴァン・ギャレット家の使用人である父・ジョナサンを首なし騎士に殺され、仇討ちのためにイカボッドの助手に志願する少年。
母親はすでに他界している。
危険とされている西の森の捜索に同行して「死者の木」を発見したり、イカボッドのベッドの下に魔法陣が書かれている事に気づいたりと、なかなか有能。
この魔法陣は悪魔の目で、相手を呪うものだというが……

  • ブロム・ボーンズ
演:キャスパー・ヴァン・ディーン / 日本語吹替:鈴木正和(映像ソフト版)、成田剣(テレビ東京版)

カトリーナのボーイフレンドで、本名は「エイブラハム・ヴァン・ブラント」
よそ者のイカボッドを快く思わず、首なし騎士に扮装してカボチャを投げつけるというイタズラを敢行する。
キリアン一家が殺害された後は首なし騎士に立ち向かうが、胴体を一刀両断されて死亡した。
しかし、彼だけ首を斬らなかった事が「首なし騎士は無差別に襲っているのではなく、誰かに指図されて動いている」という事実にイカボッドが気づくきっかけとなった。

原作ではマッチョな風貌で、カトリーナと結婚するという勝ち組だったが、この末路。
まあ、バートンらしいというか……

  • サミュエル・フィリップス判事
演:リチャード・グリフィス / 日本語吹替:島香裕(映像ソフト版)、西村知道(テレビ東京版)

村の長老の一人で、ジョナサン・マスバスが首なし騎士の犠牲になった後、イカボッドに本当の犠牲者の数は5人だと告げる。
「5人の犠牲者が4つの墓に眠っている」その言葉は、ウィンシップ婦人が身籠っていた事を意味しており、彼女からはその事について相談されていたらしい。
しかしその後、身の危険を感じて村から逃げようとするが、首なし騎士の第6の犠牲者となる。

  • ジェイムズ・ハーデンブルック書記
演:マイケル・ガフ / 日本語吹替:益富信孝(映像ソフト版)、岡部政明(テレビ東京版)

村の長老の一人で、公証人。右目に白内障を患っている。
イカボッド達がピーター・ヴァン・ギャレットの遺言状目当てに家に押しかけた時、そこにはジョナサン・マスバスの遺品のカバンがあった。
中には封印が破られた遺言状が入っており、それによると、息子が死んだ場合の遺産相続人はウィンシップ婦人。
さらにカバンには結婚証明書も入っており、「財産を彼女とお腹の子に残した」と記されていた。
つまり、元の相続人は遺産を受け取れなくなった事を意味していた。
書記曰く「私ら4人は巻き込まれたんだ」。
その後、殺人事件にまで発展した罪悪感と首なし騎士の恐怖から自殺してしまった。

  • トーマス・ランカスター医師
演:イアン・マクダーミド / 日本語吹替:篠原大作(映像ソフト版)、千田光男(テレビ東京版)

村の長老の一人。
医師という立場上、負傷したり気絶する事の多いイカボッドと接する機会が多いが、解剖など先鋭的な彼の姿勢には懐疑的。


  • スティーンウィック牧師
演:ジェフリー・ジョーンズ / 日本語吹替:小形満(映像ソフト版)、堀勝之祐(テレビ東京版)

村の長老の一人。
牧師という立場上、宗教と真っ向から対立するイカボッドのやり方には最も否定的。


  • キリアン
演:スティーヴン・ワディントン

助産師の妻と幼い一人息子を持つ男性。
イカボッドに馬を貸し与えたりなど協力的だったが、「死人の木」の発見後首なし騎士に家に押しかけられ、一家全員殺害されてしまった。
直接的描写こそないものの、幼い子供まで殺す容赦のなさには戦慄した人も多いだろう……

ちなみに音楽担当のダニー・エルフマンにとって、一番曲を書いてて乗ったのはこの一家殺害シーン。
曰く、「奥さんの首が床を転がって、床板の合わせ目から目が覗くシーンが一番好き」らしい……

  • 魔女
演:ミランダ・リチャードソン

森に隠れ住んでいた女性。
首なし騎士の調査で森を彷徨っていたイカボッドに悍ましい黒魔術を披露して「死人の木」の場所を教えた。


  • 首なし騎士
演:クリストファー・ウォーケン / スタント:レイ・パーク

スリーピー・ホロウを脅かす悪霊で、村民の首を次々に狩っては自身の墓のある「死人の木」に持ち帰っている。
一方でターゲット以外は抵抗されない限り、基本的には襲わない。
武器は。その剣は地獄の炎の熱を帯びており、斬られた傷口は焼き切られたように塞がっている。
死人だけあってあらゆる攻撃が効かず、弱点らしい弱点は神聖な場所である教会の敷地内に入れない事くらい。
イカボッド達が「死人の木」を発見した時にはすでに墓は掘り返され、頭蓋骨が盗まれていた事が発覚。
さらに根元から首なし騎士が飛び出す所を目撃するのだった。

その正体は、独立戦争時にドイツからイギリス軍の応援で送り込まれた傭兵*4
しかし、金目当ての他の仲間達と違い、その目的は殺戮そのもの。
風貌もヤスリで削られたような牙のような歯を持つという、生前から怪物じみたものだった。
が、1779年、西の森にて遂に自身の剣で首を落とされ、今でもそこは不気味な場所として誰も近づきたがらないという。


演じたクリストファー・ウォーケンはデヴィッド・クローネンバーグ監督の映画『デッドゾーン』にて、『スリーピー・ホロウの伝説』に言及している。
本作のキャスティングは恐らくそれ繋がりだと思われる。

スタントのレイ・パークは『STAR WARSシリーズ』でダース・モールを演じている。


余談


〇要所要所で印象的な使われ方をする玩具・ソーマトロープ*5
特にイカボッドとカトリーナがこれを巡る会話をする場面は、イカボッド視点では母の形見を見せる事で心を開き、
カトリーナ視点では科学を信奉していたイカボッドが「魔法」を見せる逆説が描かれるという、重要なシーンである。
本作の事件の解決も、科学的な捜査と魔術が連携する事によってもたらされたと考えれば象徴的と言えるだろう。

〇劇中、カエルが「イカボッド」と鳴く描写があるが、これは『イカボード先生と首なし騎士』のオマージュ。
さらにラストのニューヨークの場面で「ブロンクスは北、我が家はこっちだ」と紹介する場面は『踊る大紐育』の歌「New York, New York」の歌詞が元ネタ。

〇撮影中は現場の地面がぬかるんでいた事があったが、バートンは撮影に集中するあまり、知らない間に膝まで泥の中に沈んでいた。
しまいには腰まで泥の中に埋まっていたという……

〇『ビッグ・フィッシュ』の公開直前に、初めて子供を授かったバートン。
その後、「息子がもうちょっと大きくなったらまず『スリーピー・ホロウ』から観せるからね。僕が子供の頃にテレビの前で喜んで観ていたのがああいうタイプの映画だったからさ」
と、英才教育する気満々の発言を残している。


バートンの次回作は、SF映画の金字塔である『猿の惑星』のリメイク版であった。
また、バートンが手がけた絵本のキャラクターを基にしたFlash短編アニメ『ステインボーイ』が公開された。

追記・修正は、なくした首を取り戻してからお願いします。

参考文献
キネマ旬報2000年3月上旬号(キネマ旬報社)
月刊Cut2005年10月号(㈱ロッキング・オン)
映画秘宝2006年9月号(洋泉社)
ティム・バートン―期待の映像作家シリーズ (キネ旬ムック―フィルムメーカーズ)
ティム・バートン[映画作家が自身を語る](フィルムアート社)
リップとイカボッドの物語(三元社)
ティム・バートンのポートレイト(Television Networks.Biography:Tim Burton, Trick or Treat. New York: A & W Home Video, 2001. )
ソーマトロープが紡ぎ出す真実 : ティム・バートンの『スリーピー・ホロウ』における身体論的象徴性
Burton and Depp: Wide awake in 'Sleepy Hollow'

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  • イカボード先生と首なし騎士
  • 1999年
最終更新:2024年08月29日 23:41

*1 現在は両作ともカルト映画化するレベルには人気だが。

*2 一言で言えば「アメリカ版浦島太郎」。

*3 その名前は、アーヴィングの友人がニューアムステルダム(後のニューヨーク)の建設者、ハーマン・ニッカボッカの子孫だった事からつけられている。

*4 原作での別名は「早駆けヘッセ人」であり、ドイツのヘッセン大公国傭兵の幽霊である。当時のヘッセン=カッセル方伯は多数の領民を傭兵としてイギリスに売った事で悪名高く、18世紀を通じてヘッセン=カッセルの人口の7%以上が軍務に就いていた。

*5 2枚の絵を裏表に貼り合わせ回転させる事で、1枚の絵が完成するという残像現象を利用した玩具。この仕組みは映画やアニメの起源ともなっている。