登録日:2022/09/21 (水) 19:19:24
更新日:2024/12/28 Sat 01:49:50
所要時間:約 17 分で読めます
概要
『マーズ・アタック!』(原題:Mars Attacks!)は、1996年12月13日にアメリカで公開された
SFブラックコメディ映画。
日本では1997年3月20日公開。
監督はハリウッド屈指の鬼才
ティム・バートン。
出演はジャック・ニコルソン(『
バットマン』)を始め、グレン・クローズ(『101』)、ピアース・ブロスナン(
5代目ジェームズ・ボンド)、ダニー・デヴィート(『
バットマン リターンズ』)、サラ・ジェシカ・パーカー(『
エド・ウッド』)、マイケル・J・フォックス(『
バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズ』)、ナタリー・ポートマン(『
レオン』)などなど超豪華なキャスティングがウリ。
ニコルソンはオファーが来た時、
「全部の役をやりたい」と答えたという。(実際の作品では二役を演じている)
しかもニコルソンのキャスティングが決まった途端に難航していた多くのキャスティングが一気に進みだし、二つ返事でオファーを引き受けたり、他の仕事を蹴ってでも出た人もいるとか。
後述の内容が内容なので、そりゃ出演を渋るのも無理はないだろう……
この映画が作られるきっかけは、バートンが
「小さい頃に観ていた作品みたいに、思いっきり自分が楽しめる映画を作りたくなっちゃった♪」と思い立ったことが始まり。
そこに、友人の脚本家ジョナサン・ジェムズが彼への誕生日プレゼントに、トレーディングカードの老舗トップス社の『Mars Attacks!』と『Dinosaurs Attack!』の復刻版ボックスを送ったことが、企画の大元となった。
当初は『Dinosaurs Attack!』の方を映画化するつもりだったが、二人は
「……これ『ジュラシック・パーク』の二番煎じじゃん」と気づき断念。『Mars Attacks!』の方に白羽の矢が立てられた。
この『Mars Attacks!』は、1962年に販売された
風船ガムのおまけのトレーディングカード。
しかもあまりにもグロくお色気要素が強い内容だったため、PTAの非難を浴びて製造禁止となったという曰く付きの代物だった。
……ハリウッドトップレベルの監督が選んだ題材がこれ。この企画を通して版権を取得したワーナーもワーナーである。
これについてバートンは
「彼らは僕のことを理解してないかもしれないけど、僕の好きなことをやらせてくれるね♪」とニンマリ。
もうこの時点で何かがおかしい。まあ、
オタクを極めた彼らしいチョイスと言えばそうだが。
題材が題材なので、脚本を組み立てていく作業も奇怪なもので、バートン曰く、
「あのねぇ、カードを地面にバラバラっと撒いてどれか好きなのを1枚ずつめくったんだ。そうやってストーリーラインを造るのはとても骨が折れたよ」
とのこと。
こうして出来上がった本作は、
50年代のB級SFや70年代のディザスター映画への惜しみない愛情にあふれている。
当時最先端の技術を使って、昔のチープな特撮を再現。
火星人の動きがカクカクしているのも、円盤の造形が『プラン9・フロム・アウタースペース』ばりに安いオモチャのように見えるのもこのため。
クライマックスに登場する
巨大ロボットなどトレカの内容も忠実に再現されているし、宇宙人はあらゆる兵器を使っても倒せない代わりに、身近かつ意外なもので倒されるという往年のSF作品のお約束もしっかり守っている。
さらに火星人を制作したILMのジム・ミッチェルは
「ここんとこ恐竜やら動物やら本当にいるものばっかだったから飽きちゃった。だから火星人ってのはグーだったねぇ」と語っている。
……監督や出演陣どころか、スタッフまでこんなノリである。
そして最大の特徴は、
豪華俳優虐殺祭りというとんでもない作風であること。
特にブロスナンとパーカーのあまりにもあんまりな末路はドン引きレベルだろう。
よくオファー受けたな……
『
シザーハンズ』や『バットマン リターンズ』の頃の
「どうせみんな、僕のことなんかわかってくれない……!」的な悲壮感はどこへやら。
「最近じゃA級の俳優が作中で殺されるのはありえないから、こういうのやってみたかったんだよね~」と、すっかり開き直っている。
このように、ぶっちゃけ好き嫌いが極端に分かれる作風である。その分、刺さる人にはとことん刺さるものがあるだろう。
また、本作の火星人についてバートンは、このように語っている。
この映画では、火星人が何を考えているのかわからないというところが大きなポイントなんだ。悪ガキみたいにね。
僕はあの火星人に共感はできないけど、理解はできる。僕も、周囲の人たちから理解されないことがあったからねえ。
僕は地球にいる人間よりも火星人とのほうがうまくいくと思うよ(笑)
ちなみに本作公開の数か月前(本国:1996年7月2日/日本:1996年12月7日)にかの『
インデペンデンス・デイ』が公開されている。
同じ宇宙人侵略もののSFでも、片や王道の超大作。片や全力でB級にこだわった怪作。
当時『インデペンデンス・デイ』ではなく、わざわざこちらを選んだ人はどれだけいたのだろうか。そして観た後の空気はいかほどのものだったのだろうか……
当然というべきか、公開当時のアメリカでは
「ティム・バートン史上最悪」と酷評され、
3週間で上映が打ち切られるほどの不入りだった。
趣味全開で作品を作った結果、『エド・ウッド』に続いての興行的失敗。
そのため、彼自身一時期監督としてのキャリアのピンチに陥るというオチがついたのだった。
というかそもそも二つとも題材がニッチすぎる
しかしそのキッチュな魅力から、根強いファンが多くいるのもまた確かなのである。
あらすじ
ある日突然、
火星人が無数の円盤に乗って
地球へとやって来た。
デイル大統領とマーシャ婦人、報道官のロス、科学者のケスラー教授らは、タカ派のデッカー将軍の意見を無視して親善の準備を始める。
円盤の存在が確認されてからわずか6時間後、全国ネットで大統領による緊急放送が流された。
その後電波ジャックされたテレビでは火星人のメッセージが流れ、近く火星の大使が地球を訪れることに。
ラスベガスでホテルを経営する不動産王、ニューエイジに傾倒する彼の妻、離婚した家族に仕送りする元ボクサー、トレーラーハウスに暮らす貧乏一家……
それぞれの人間模様が織りなされる中、ついにアリゾナ州の砂漠に火星人の宇宙船が着陸した。
人類史上初の異星人とのコンタクトという歴史的瞬間。しかしそんな和やかムードも、観客席から鳩が飛ばされると一変。
火星人は突然、
地球人の殺戮を始めたのである!
はたして、地球の運命やいかに?
登場人物
吹替キャストは劇場公開版&映像ソフト収録版/テレビ東京版(木曜洋画劇場にて2000年4月13日放送)の順。
単独表記の場合は両媒体で共通。
(演:ジャック・ニコルソン 吹替:壤晴彦/瑳川哲朗)
アメリカ合衆国大統領。
しかし実際は、外面と支持率ばかり気にして決断力に欠けるボンクラ。
その結果、国どころか地球史上に残るレベルの大失態を犯すことに……
それでも終盤、部下をすべて失ってもなお火星人大使と対話を試みる大統領らしさを見せる。
これには火星人も思わず涙。ついにわかり合えたか……
と思いきや、握手したその腕が外れて虫のように動きだし、串刺しにされ死亡。
おまけにそこから火星の旗が立つという、強烈なアメリカディスりまでかまされた。
(演:グレン・クローズ 吹替:吉田理保子/藤田淑子)
デイル大統領夫人。
夫と同様外面ばかり気にしているタチで、ホワイトハウスを私物化して内装を勝手に変えようとしていた。
火星人襲撃後は一転してブッ殺すべきと主張するも、火星人がホワイトハウスを襲撃した際、落下してきたシャンデリアの下敷きになり死亡。
(演:ナタリー・ポートマン 吹替:小島幸子/根谷美智子)
大統領夫妻のご令嬢。
物事を醒めた目で見る無気力な少女で、いつもゴロゴロしている。
とはいえ周囲のアレさを考えると、現実を一番冷静に判断していたと言える。
「鳩に罪はなかったわね」
政府関係者の中では唯一最後まで生存し、リッチーとおばあちゃんを表彰した。
ホワイトハウスの広報担当。
いつも張りついたようなニコニコ顔だが、実は女好き。
火星人の変装した美女に篭絡され、あっさりホワイトハウスに入れてしまうという大失態をやらかす。
これがきっかけで、火星人の本格的な地球侵略が始まった。
(演:ポール・ウィンフィールド 吹替:二瓶秀雄/小山武宏)
ハト派の将軍で、思慮深く堅実な性格だが、意外と計算高い。
火星人とのファーストコンタクトを取り仕切るという大役を担うことになるも……
めでたく鳩に次ぐ犠牲者第二号となりましたとさ。
(演:ロッド・スタイガー 吹替:樋浦勉/富田耕生)
タカ派の将軍で、政府関係者一同が火星人への友好ムードの中、唯一反対していた。
その考え自体は結果的に正しかったものの、ぶっちゃけ戦争バカの脳筋で、大統領に何度も
核兵器使用許可のサインを要求していた。
最終的に核兵器使用の許可が下りたが……
中の人は『夜の大捜査線』でアカデミー主演男優賞を受賞した名優である。
全米宇宙航行学会長。
楽観的な穏健派で、「高度な技術を持っているのなら野蛮でなく友好的なはず」という論理のもと、火星人との友好を推し進める。
その平和ボケっぷりは、ファーストコンタクトが大惨事に終わっても「文化の違いによる誤解のせいかもしれません」と擁護するほどの筋金入り。
そして二度目のコンタクトも大惨事に終わり、円盤内部に拉致されてしまう。
彼もまた一足先に拉致されたナタリー同様、首チョンパにされてしまった。
そればかりか、首チョンパにされた者同士で愛を語り合うというノンキさを見せつけてくる。
トドメに終盤では生首同士のキスという、映画史上屈指の悪趣味なキスシーンさえやらかしている。
(演:サラ・ジェシカ・パーカー 吹替:雨蘭咲木/
井上喜久子)
ファッション番組の司会者。
チワワのポピーを溺愛しており、番組収録中だろうとお構いなしに連れている。
ジェイソンという彼氏がいるが、自身の番組で共演したケスラー教授に惚れて急接近。
しかし最初の襲撃時に、ポピー共々円盤内部に拉致されてしまう。
円盤内部で彼女に待っていた恐ろしい運命、それは人体実験のモルモットにされることだった。
その結果、ポピーと首をすげ替えられてしまう。
最後は円盤墜落の衝撃で胴体から首が外れ、ケスラー教授の生首と仲良く並ぶのだった。
(演:マイケル・J・フォックス 吹替:水島裕/
森川智之)
報道部のキャスターで、ナタリーと同居する彼氏。
ナタリーの番組内で、彼女とケスラー教授が急接近していく様子を見てやきもきし始める。
火星人が暴れ出した時には、負傷しながらも匍匐前進で中継車から転落したナタリーを助けようとするものの……
(演:ジャック・ニコルソン 吹替:壤晴彦/瑳川哲朗)
ラスベガスでホテル「ギャラクシー」を経営する不動産王。ちなみにカツラ着用。
火星人の到来をビジネスチャンスと捉え、バーバラに対し「お前は昨日を見ている。俺が見てるのは明日だ」とかっこいい名言を残す。
まあ後でホテルごと爆破されるんだけどね!
(演:アネット・ベニング 吹替:佐々木優子)
アートの妻。アル中治療のため禁酒中。
そのためか精神が不安定で、ニューエイジ系にハマったり火星人を救世主と見なし崇めたりしていた。
火星人の実態を知った後は大きなショックを受けるものの、自家用のセスナをバイロンらに貸し出しタホの洞窟に避難するように勧める。
中の人は『バットマン リターンズ』の
キャットウーマン役を妊娠のため降板したが、本作で出演が叶っている。
元ヘビー級チャンピオンのボクサー。現在はカジノでファラオのコスプレをして働き、離婚した家族とよりを戻すべく仕送りをしている。
かつては荒れていたらしいが、
イスラム教に帰依したことで「リングの外では誰も殴らない」という信条を持つようになる。
このおかげで、アートに大金と引き換えに借金の“督促”をしてこいと持ちかけられても乗らなかった。
家族に会いに行こうとした矢先に火星人の襲撃により飛行機が欠航してしまうが、バーバラたちと共にセスナで脱出しようとする。
そして最後はセスナが離陸するための時間を稼ぐため、囮役を買って出る。
本作屈指の漢その1。
中の人は
NFLクリーブランド・ブラウンズの花形フルバックとして活躍した名選手。
引退後は映画界に転身し、アクション映画やブラックスプロイテーション映画で活躍した。
ラストで生存していたことが判明しているが、これは試写後に「殺されて終わるのは後味が悪い」という理由で急遽付け足されたシーンである。
(演:パム・グリア 吹替:一城みゆ希/野沢由香里)
ワシントンDCでバスの運転手を務めている、バイロンの元妻。
ゲームオタクの二人の息子に手を焼いており、勤務中にゲーセンで遊んでいる二人を見つけた時には仕事を止めてでも叱りに行く肝っ玉母さん。
息子二人はその特技のためか、火星人戦でもけっこう活躍する。
中の人はブラックスプロイテーション映画の大女優。代表作は『コフィー』(
古墳ギャルの名前の元ネタ)など。
実際バートンも、
「彼女の映画は全部観ているけど、60年代の終わりと今では全然変わらない。今だにスゴい人だよ」と絶賛している。
そんなバートンはパムからどんな風に見られてたかと言うと、
見た目は髪の毛がクルクルした変な兄ちゃんだけど、役者に対しては血に足のついた対応をするの。
最初は「この人、本当に『ビートルジュース』を作った人なの?」って思ったけど、撮影で興奮するとビートルジュースみたいな頭と動きに変身するのよ。
それを見た時、あれは本人自身なんだって事がわかったわ。
頭の中が完全にディズニーランド化してるのね。
引用元:クエンティン・タランティーノ―期待の映像作家シリーズ P85
バイロンの勤め先のカジノにいたギャンブラー。
カジノ中が大統領の緊急生放送を固唾を呑んで見守る中、一人だけギャンブルに夢中でシカトされていた。
後半のカジノ脱出作戦でも空気の読めなさを見せ、それが原因で命を落とした。
トレーラーハウスで暮らす一家の次男。
おばあちゃん想いの心優しい少年だが、家族からはのけ者気味の扱いを受けている。
しかし火星人の本格的な侵略が始まった際老人ホームまで助けに駆け付け、さらに火星人相手に反撃の狼煙を上げた。
本作屈指の漢その2。
ちなみに当初のキャスティングはレオナルド・ディカプリオが予定されていたが、スケジュールの都合で変更になったらしい。
(演:シルヴィア・シドニー 吹替:島美弥子/
京田尚子)
トレーラーハウスで暮らす一家のおばあちゃん。
体が不自由な上家族の名前を覚えられないほどボケてきている。
そのためリッチー以外の家族からは半分死んだような扱いをされており、老人ホームに送られる事に。
しかし、対火星人特効の切り札を見つけ出したのはこのおばあちゃん。さらにその弱点に一発で気づく辺り、勘の良さもただものじゃない。
お気に入りの曲は、スリム・ウィットマンの『インディアン・ラブ・コール』。
中の人はサイレント映画時代から70年以上のキャリアを誇る大ベテランで、本作が遺作となった。
(演:ジャック・ブラック 吹替:
小山力也/桜井敏治)
トレーラーハウスで暮らす一家の長男。ジャーヘッドのミリオタ。
リッチーやおばあちゃんと対照的に家族からは大変可愛がられており、対火星軍に志願する。
火星人が暴れ出した時には銃を持ち果敢にも立ち向かおうとするが、弾倉が外れて地面に落下してしまった為、あっさり降伏するヘタレ。
そしてものの見事に光線銃の餌食となりましたとさ。
中の人は後に『愛しのローズマリー』や『スクール・オブ・ロック』で大ブレイクする。
(演:リサ・マリー)
火星人がスパイ活動のために変装した美女。ルックスの元ネタは、リーダー格が読んでいたプレイボーイ誌から。
手をゆらゆらさせながら歩く姿は妖艶だが、異様にデカい頭にいつもガムを噛んでいるなど、バリバリの不審者である。武器として赤い串団子型の光線銃を隠し持っている。
こんなのに引っかかるジェリーって……
(演:本人 吹替:石原慎一/池田勝)
ご存じ歌謡界の大スター。演じるのはご本人。
カジノでの歌謡ショーの際に火星人からの襲撃を受けるが、セスナの操縦を買って出て、無事生存。
ラストは動物たちに囲まれて名曲『よくあることさ』を熱唱し、物語の幕は閉じられる。
火星人襲来はよくあることじゃないだろ
火星人
本作の敵キャラで、自分たちのことは
「緑色人」と呼称する。
青い服を纏ったボスと、その部下で赤い服を纏った火星人大使に率いられ地球を侵略する。
それ以外の者達は基本的に円盤内において何故かパンツ一丁の姿でいる。
その名の通り全身緑色で、ギョロリとした目に巨大な
脳みそが剥き出しになったガイコツといった風貌。血液も緑色。
体の主成分は炭素で出来ており、呼吸で窒素を吸い、生殖器は持たない。
彼ら曰く、800世紀前に生まれ、火星の現生人類と他の星の生物の混血らしい。
性格は極めて好戦的な一方非常にずる賢く、相手を騙し討ちにしてから襲撃に入るのがパターン。
口先では「平和の使者」を名乗っているものの地球人と仲良くする気はさらさらなく、カラフルなオモチャみたいな光線銃で次から次へと
赤や
緑のガイコツに変えてしまう。
残忍さも特筆すべきものがあり、中でもナタリーやケスラー教授への仕打ちは語り草。
その一方で、ラシュモア山の歴代大統領の顔を自分たちの顔に作り変えたり、モアイ像をボウリングのピンにしたり、船内で『
ゴジラVSビオランテ』を鑑賞していたりと妙にお茶目な一面も。
劇中では『人差し指で空中に円を描く』ポーズを度々行っている。
実は『インディアン・ラブ・コール』の周波数が弱点で、これを聴くと頭が爆発してしまう。
リッチーとおばあちゃんがこの弱点を知ったことで、各地で大音量で歌が流されるようになり、あれよあれよという間に形勢逆転。地球は平和を取り戻した。
ぶっちゃけスケールをはるかにデカくした『アタック・オブ・ザ・キラートマト』方式である。
ついでに言うと、トマトには弱点を克服しようとした個体がいた。そのことを考えると……
ちなみにトレカ版では、地球側が火星に攻め入り、最終的に火星を爆破するというオチになっている。
余談
〇当初は火星人をストップモーション・アニメで描く予定だったらしい。
『
ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の監督ヘンリー・セリックに依頼しようとしたが、『ジャイアント・ピーチ』の撮影で予定が取れなかった。
さらに実際に動かしてみても、数が多すぎて皆同じに見えることや、時間と予算がかさむことで断念された。
〇パム・グリアはオファーを受けた当時、かつて癌の闘病中に心の支えになっていた愛犬の死期が近づいていたため、とてもオーディションを受ける気になれなかったという。
そのため、バートンの大ファンでありながら泣く泣くこのオファーを2度断っていた。
しかしその後、本人から3度目のオファーの電話がかかってきた。
この時も断ろうとした彼女だったが、バートンは
「演じてもらいたい役は、どんなに最悪の状況でも二人の息子の元から絶対離れない強い母親。だから、愛犬を思う気持ちだけでオーディションに合格したようなもんだよ」
「心配しなくていい。撮影はいくらでも待つし、心の準備が出来たら連絡してほしい」
と口説き落としたのだという。
〇ナタリーの飼い犬として登場するチワワは、かつてバートンとリサ・マリーが来日した際に、歌舞伎町近辺のペットショップで購入したもの。
脚本のジェムズが、彼女がいつも愛犬と一緒にいることに気づき、カメオ出演させるのを思い付いたのだという。
当初は映画出演用に訓練されてないことからバートンは難色を示していたそうだが、誰もがドン引きしたあのアイデアを思いついたことで、脚本に採用したとか。
愛犬に対してこの仕打ちとは鬼すぎる……『フランケンウィニー』のスパーキーとはえらい違いである
〇冒頭の火のついた牛の群れが暴走するシーンは、スタジオから動物虐待だとNGを食らっていた。
これに脚本のジェムズは「実際に牛を燃やすワケじゃないのに、何言ってんだこいつら」と猛反発。
何度NGを出されても無視し続けていたが、ついにクビにされてしまった。
その後『エド・ウッド』のスコット・アレクサンダーとラリー・カラゼウスキーのコンビがスタジオの意向通りに脚本を修正したが、今度はバートンが反対しだした。
結局クビになってから5週間後にジェムズは呼び戻され、わずか5日で修正版を書き上げた。
ついでにシレっと燃える牛の群れのシーンも復活させていたのだが、この時はなぜか通っている。
……まったく、いい加減な話である。
〇超豪華キャストの本作だが、最後までキャスティングが難航していたのはフランス大統領の役だった。
撮影前日になっても決まらず、バートンはジェムズに泣きついた所、彼はたまたまご近所さんだった名匠バーベット・シュローダー監督を推薦。
厳密にはスイス人なのだが、フランス国籍を持ってるし、見た目もド・ゴール大統領に似ているから適任だと考えたらしい。
そしてダメ元でオファーを出してみた所、自宅まで迎えの車が来るならオッケーとの返答。
バートン自身シュローダーについて何も知らなかったらしいが、あまりの演技の上手さに驚かされたという。
〇リサ・マリーが演じる火星美女の衣装にはジッパーやボタンがなく、撮影は非常に過酷なものだったらしい。
この衣装を着ていると座ることもトイレに行くこともできず、おまけに本物の人間の髪で作られた巨大ウィッグの重さで頭に穴が開いたとか……
〇作中に出てくるホテル「ギャラクシー」の爆破シーンは、実際のタワーホテル「ランドマーク」の爆破解体映像を使っている。
解体の噂を聞きつけたバートンが作品に使いたいとオファーを出したのだが、その要求が
「建物が縦に二つに割れ、ゆっくりと崩れ落ちるようにしてほしい」というもの。
この要求を実現させるため、爆破解体スタッフは「ランドマーク」の内部をくり抜き、1~4階の前半分だけ、壁を撤去した。
その試みは見事成功し、芸術的なまでの崩落を拝むことができる。
また、後年バートンはこの爆破解体シーンについて、
「その瞬間、埃が収まり、すべてが静まり返った。まるで古代の生物が死んでいくのを見るような迫力だったよ。すべてが静かだった……」
「深い悲しみだけでなく、心を揺さぶられるものがあったよ。だから(あの場面は)とても力強いものがあったんだ」
と振り返っている。
なお、『世界まる見え!テレビ特捜部』でこのエピソードが紹介された時、司会のビートたけしは「バートンのヤロー、こんなマヌケな映画撮っておきながらカンヌで俺の作品落としやがって」とコメントした
〇2020年の第54回スーパーボウルで放送されたウォルマートのCMに、本作の火星人たちが買い物客として出演している。
大規模な虐殺や破壊活動は行わないのでご安心を。
また、このCMに出演したキャラクターは『
トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤー、『ビルとテッドの地獄旅行』のビル、『
メッセージ』の
ばかうけ型宇宙船とヘプタポッド、
『
スター・ウォーズ』の
R2-D2とC-3POなど、大変豪華な面々が揃っている。
〇『
空想科学読本』の作者である柳田理科雄は、「宇宙戦争」に出てくるいわゆる「古典的なタコ型火星人」を検証してみたいと思い立って火星人が出て来る作品を探したところ、
肝心の「タコ型」という部分を指定し忘れてしまい、結果この映画を紹介されたそうな。
ちなみに紹介してもらった際には「コミカルな映画なので科学的に検証とかできるのか」と言われたらしく、実際に見たら上記の通りの虐殺祭りだったため
「どこがコミカルなんだ!?」とツッコミを入れていた。
なお検証内容は「カントリーミュージックで脳が爆発する弱点は科学的にあり得るか」「窒素で呼吸する生態はいかなるものか」で、前者はヘルメットの共鳴が起こればあり得ると肯定的に主張、後者は生物としても地球侵略の意義としても極めて難しいが仮に実現すれば
武器等なくとも呼気が人類にとって猛毒ガスなので地球を滅ぼせるという、恐ろしい結論を出していた。
追記・修正は、『インディアン・ラブ・コール』を流しながらお願いします。
参考文献
キネマ旬報1997年3月上旬号(キネマ旬報社)
ティム・バートン―期待の映像作家シリーズ (キネ旬ムック―フィルムメーカーズ)
ティム・バートン[映画作家が自身を語る](フィルムアート社)
空想科学映画読本(扶桑社)
ティム・バートンのポートレイト(Television Networks.Biography:Tim Burton, Trick or Treat. New York: A & W Home Video, 2001. )
ティム・バートン印のポップでキッチュでブラックなSFコメディの傑作!『マーズ・アタック!』
- 小野寺浩二の読者大虐殺ギャグで笑い転げていた自分にはコレが大受けしたのだが、周りの人は理解してくれなかった。今なら好き嫌いが分かれるのはむしろ当然だと思えるが…当時はなんか悔しかったなあ。 -- 名無しさん (2022-09-21 19:35:07)
- 大統領婦人がシャンデリアに潰されるシーンがえらいチープだったのが何故か印象に残ってる -- 名無しさん (2022-09-21 19:37:44)
- たしかゴセイジャーの怪人であるミューズィックのマズアータの名前の由来になった映画だったんだっけか。 -- 名無しさん (2022-09-21 19:38:47)
- 昔読んだ本では『この作品の火星人達にとって『相手の種族を虐殺する=相手への最大限の友好表現』なのではないか』と考察されていた。 いつの時代も異文化交流って難しいなぁ~………(他人事) -- 名無しさん (2022-09-21 20:21:32)
- 光線銃でホネホネにされる人類といい、音楽で頭がパーン!する火星人と言い、絵面が終始すんごい映画。残虐な火星人だけど、ボクサーの人が構えを見せたら拳を握って応戦の態度を示したりとノリが良い所もあったり、憎めない…とまでは言わないが面白宇宙人ではあった。 -- 名無しさん (2022-09-21 20:42:25)
- 面白いけど、これほど人を選ぶ作品はないわな -- 名無しさん (2022-09-21 20:48:27)
- コメディ映画に必要な物が全部詰まった快作。個人的には3本の指に入る -- 名無しさん (2022-09-21 20:54:15)
- 『エド・ウッド』の時もそうだったが、ティム・バートンのチープさへのこだわりは異常なレベル -- 名無しさん (2022-09-21 22:16:38)
- "わざわざこちらを選んだ人" ここにいるぞ。期待以上に楽しんだが、さすがに身近な人間に推す気にはなれなかった -- 名無しさん (2022-09-21 23:31:00)
- あの火星人は光線銃で人類を虐殺するけど、バイロンが殴り合いしようとしたら拳で応戦するのを見るに(他の火星人は観戦)。「殺し合いこそが最高のコミュニケーション」という文化を持つ異星人なのではなかろうか -- 名無しさん (2022-09-21 23:44:04)
- 『インディペンデンスデイ』を見て冷めた反応する層ならこっちの方が好きそう。 -- 名無しさん (2022-09-21 23:45:23)
- この映画見て火星人絶滅主義になりました。 -- 名無しさん (2022-09-21 23:49:25)
- とんでもなく悪趣味でキッチュだけど最後はホッコリさせてくれる良い映画。ただし表立って好きとは言いにくい -- 名無しさん (2022-09-22 00:19:21)
- 子供の頃に「鳩がもしかしたら火星人からすると戦争の意味だったのかもしれない」と言う台詞を見た時は「そもそも意味不明な動物を飛ばされたら友好の意図とか関係あるか?」となった。そういう問題ですらなかったが。ショッキングで早々にギブアップ。子供にはきつかったよ… -- 名無しさん (2022-09-22 04:38:58)
- 「高度な技術を持っているのなら野蛮でなく友好的なはず」←お前それデストロンを見て同じこと言えんの? -- 名無しさん (2022-09-22 07:58:49)
- 音で宇宙人倒すってのが怪獣大戦争からの着想っぽいよね -- 名無しさん (2022-09-22 09:44:24)
- ホントの爆破解体で撮影したのってコレだっけ?ビルが真っ二つになるやつ -- 名無しさん (2022-09-22 13:34:00)
- ↑ザッとググった限りだとそうっぽい。ビルの解体工事の噂を聞き付けたバートンが「どうせなら使わせて!」って感じでオファーしたらしい。真っ二つにするためだけに先に崩す側だけ壁を撤去したとかなんとか -- 名無しさん (2022-09-22 15:42:42)
- 感想は酷いの一言 想定内なのがまた -- 名無しさん (2022-09-23 03:14:57)
- 好きか嫌いかで言うと正直嫌い でも出演者やスタッフが楽しかったんならそれで良かったのかなとも思う -- 名無しさん (2022-09-23 15:03:18)
- 『ウルトラQ』の怪獣ナメゴンを送ってきた火星人から連想して考察してる人がいたな<この作品の火星人達にとって『相手の種族を虐殺する=相手への最大限の友好表現』なのではないか』 -- 名無しさん (2022-09-24 00:59:19)
- 大統領の言葉に涙を流して握手を求める⇒手を握り返した大統領をぶっ殺すのコンボもやってるので、やっぱ相手をバカにしつつ殺し自体を楽しんでるとは思う。 -- 名無しさん (2022-09-24 22:42:33)
- 某雑誌での紹介の見出しが「こんな火星人ヤダ!」…なんて的確なんだ。 -- 名無しさん (2022-09-29 09:36:49)
- クソ映画(褒め言葉)って感じ。まあ、人を選ぶのは悪趣味が過ぎるからなんだが。 -- 名無しさん (2022-09-30 11:42:57)
- ↑2「某雑誌」ってもしかしてファンロード?同じ見出しで紹介されてたの覚えてる -- 名無しさん (2022-09-30 16:49:48)
- トレーディングカードやフィギュアは後に現代的にリメイクされたけど、映画化されたのは古い方って当時のコミックボンボンで言ってたな -- 名無しさん (2022-10-01 08:17:17)
- ↑ボンボンそんなにマニアックな部分まで紹介してたんだ… -- 名無しさん (2022-10-01 19:39:03)
- ↑14↑13 まあそのあたりのテーマは大元の大元たる「宇宙戦争」からしてそうだし、逆に火星人の方も地球を理解できてないから何が起きてるのかわからないままに負ける……「インディペンデンス・デイ」ともども妙なところで元ネタに忠実というか、逆に「宇宙戦争」が古典作品だけにテーマが陳腐化しちゃってストーリーだけ並べるとむしろギャグだよねというべきか…… -- 名無しさん (2022-10-01 21:12:54)
- ↑4 はい、ファンロードですw紹介内容自体は割と好意的でしたね。 -- 名無しさん (2022-10-01 21:54:15)
- 対処法が「特定の曲を聴かせる」という敵は、後の時代にもたびたび登場するね。 -- 名無しさん (2022-10-01 23:01:18)
- これ本国の方では知らんが日本では公開前に広告とか打ちまくって結構な話題作になってたぞ -- 名無しさん (2022-10-01 23:48:24)
- ↑コレに宣伝出しまくったのかwww -- 名無しさん (2022-10-05 17:33:12)
- 日本だとインデペンデンス・デイに食われるどころかIDブームの追い風に吹かれて結構売れてたな -- 名無しさん (2022-10-05 19:56:10)
- ボンボンでマニアックな部分まで紹介してたのも映画版とトレカ版両方のおもちゃとかが実際売られてたからだと記憶してる -- 名無しさん (2022-10-05 20:49:24)
- この映画のジャンルがコメディと知った時は「全然笑えない。火星人の姿とか不気味だし、人が骨になって殺されるなんてホラーだろこんなん」と子供心に思ってたが、大人になって改めて見ると「コメディだ。コメディだな…、うん…」と思えるぐらいにはなった -- 名無しさん (2022-10-05 21:50:36)
- 余談のところw柳田先生お疲れ様です… -- 名無しさん (2022-10-08 18:03:51)
- 終盤でバイロンの生存が判明するシーンはもともとはなくて、後味が悪いからと試写後に付け足されたとのこと -- 名無しさん (2022-10-12 22:16:58)
- 子供の頃の大好きな映画の一つだったな。改めて大人になってから観直したら「こんなエグかったっけ!?」ってなって思い出補正の恐ろしさを改めて思い知った。 -- 名無しさん (2022-12-13 00:29:21)
- 子供の頃SF映画にハマってた時期があって母親からSF映画テレビでやるよ!って聞かされて見たのがこれ。始まって最初にSFホラーなんて紹介があって嫌な予感がしてたけど案の定子供にはきついシーンも多かったなぁ…母はめっちゃ面白そうだったけど -- 名無しさん (2023-02-22 16:57:01)
- バイロン役のジム・ブラウンが亡くなったそうです。RIP -- 名無しさん (2023-05-21 12:14:33)
最終更新:2024年12月28日 01:49