機動警察パトレイバー 2 the Movie

登録日:2010/02/14(日) 23:25:58
更新日:2024/11/17 Sun 15:07:00
所要時間:約 7 分で読めます






我地に平和を与えんために(きた)ると思うか。我汝らに告ぐ、しからず、かえって分争(あらそい)なり。


今よりのち、一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分かれ争わん。


父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に

ルカによる福音書、第十二章五十一節から五十三節*1



本作は1993年公開の『機動警察パトレイバー』シリーズの劇場版第二作。

【概要】

2002年を舞台に、テロ事件から始まった架空戦争危機を描いた作品。
現在のところ初代特車二課のエピソードで映像化されたものでは時系列的に最後のものであり、
首都東京を舞台に「戦争」を再現するテロリストと闘う彼らの最後の活躍が描かれている。
『The Movie 2』ではなく『2 The Movie』であり、一応、TV版⇒新OVA⇒本作という時間軸になる。
ただし、旧OVA⇒劇場版1作目を意識した描写も見られ、一方で漫画版初出でTV版後期・新OVA版のレギュラーだった熊耳武緒はなぜか影すらない(本作前売り券特典のドラマCDには参加したそうな)。
このため2023年時点での公式サイト内の見解では押井監督繋がりで「アーリーデイズ→劇場版1作目→本作→THE NEXT GENERATION -パトレイバー-」とされている。小説版では特に顕著。

娯楽性を重視した1作目から一転して、旧OVA版(アーリーデイズ)の「二課の一番長い日」を更に推し進めたような内容。


押井節全開の非常にドライな社会派サスペンスドラマに重点を置いているためエンタメは控え目で淡々と場面が進む。
映像は美麗であるがレイバー戦はほとんどなく、主人公機であるイングラムなんてラスト数分しか戦わない。
ロボットアニメとして見ると多分損する。

しかしカミソリ後藤の切れっぷりを手軽に味わえる作品でもある。
また、しのぶさんの啖呵もカッコいい。

押井守による小説版もあり、主に尺の都合でカットされたシーンも再現されている。

【あらすじ】

1999年。東南アジア某国*3にPKO(国連平和維持活動)として派遣された陸上自衛隊の一個レイバー小隊が、反政府軍部隊の襲撃に遭遇。司令部からの武器使用許可が下りず、反撃も出来ぬまま壊滅した。
そして、一人の男が生き残った。

それから三年後……。
かつては無敵のチームワークを誇った特車二課も変革期を迎え、第二小隊も世代交代が進んでいた。
野明や遊馬等が出向先で新たな人生を謳歌する一方、山崎ヒロミと共に埋立地に残った後藤隊長は張り合いのない日々を送っていた。

そんなある日。
二課の課長代理として多忙な日々を送る南雲しのぶの眼前で、突如横浜ベイブリッジが黒煙を上げて爆発した。
事故か?テロか?情報が錯綜する中、テレビ局に届けられた一本のビデオテープがある疑惑を招く。
そのテープにははっきりと、F-16J──航空自衛隊所属の支援戦闘機の機影が映っていたのだ。

ベイブリッジ爆撃は自衛隊機の仕業なのか?
世論が自衛隊への不信に傾く中、陸幕調査部別室所属の奇妙な男が二課を訪ねて来た。
荒川と名乗るその男曰く、テレビで放映された映像は何者かによって改竄されたものであり、先の爆撃の真犯人は自衛隊ではないというのだ。
では、真犯人は誰なのか?その目的は?そして何故、政府は事件の真相を公表しようとしないのか?
淡々と情報が開陳される中、ある男が容疑者として浮上する。
その男──柘植行人は先のPKO部隊唯一の生き残りであり、そして警視庁きっての才媛と呼ばれた南雲にある“傷”を負わせた張本人であった。

各方面に強い人脈を有する後藤を見込み、捜査への協力を要請する荒川。
一度は断ろうとした後藤だったが、その矢先に今度は爆装したF-16J三機が三沢基地から首都圏に飛来するという大事件が発生する。
まさか、ベイブリッジの続きか!?モニター上で東京に驀進する三機。要撃にあたった機体のフリップはベイルアウト*4を告げ、撃墜されたことを暗示した。
刻一刻と最悪の状況が迫る中、ついに防空司令は最も重い決断──撃墜命令を下した。
ところが、今まさにミサイルが発射されようという瞬間、突如レーダー上から三沢機が一斉に消失。代わりに撃墜されたはずの要撃機のフリップが戻ってきた。
そう、実は三沢所属機は最初から発進などしておらず、一連の事態はBADGEシステム*5のハッキングによって演出された“幻の爆撃”に過ぎなかったのだ。

最悪の事態はひとまず回避された。
だが、もはや航空自衛隊への不信は極限にまで達しており、三沢基地には飛行禁止命令まで出されてしまった。
おまけにこれを不服として抗議に向かおうとした三沢基地司令が、青森県警によって予防拘禁同然に基地ゲート前で連行されるという事件まで勃発。これは自身の権限強化を図った警察上層部の暴挙であった。
あらぬ疑いをかけられた挙句、こんな仕打ちを受けたのでは黙っていられるわけがない。三沢基地は即座に抗議の籠城に突入、陸上自衛隊を含む各地の駐屯地もこれに同調の姿勢を示した。
警察VS自衛隊。各基地前で機動隊と基地守備隊の睨み合いが続く中、こじれにこじれた事態の早期決着を図った政府はついに「予測される最悪の事態」に備えるべく、陸上自衛隊内の信頼のおける部隊に東京への出動命令を下した。
戦車が、ヘリが、そして申し訳程度のロボットアニメ要素戦闘用レイバーが都内各所に配備される。
かくして戦うべき相手もなき、日常と地続きの奇妙な「戦争」が幕を開けた。

そして、東京の街を雪が白く染めた朝……陸上自衛隊の塗装が為された三機の攻撃ヘリが埋立地から飛び立った。
ヘルハウンド──“冥府の犬”の名を冠するヘリたちが、都内各所で一斉に牙を剥く。
次々に落とされてゆく橋。破壊される通信施設。ガトリングの掃射にあい、無惨な姿を晒す警視庁本庁舎。
そして、特車二課は……戦端が開かれると同時にその装備のほとんどを喪失。最新鋭の警邏用レイバー“ヴァリアント”も、戦闘用ヘリの前では張子の虎も同然であった。
さらに、時を同じくして民間所属の飛行船が首都上空に飛来。ECMポッドを用いて強力な電波妨害を開始した。
この飛行船、タチの悪いことに迂闊に手を出せば自動的に墜落、周囲にガスを散布するプログラムまで仕込まれていた。
実際、功を焦った警察がヘリからのECM狙撃を試みた際にはこのプログラムが作動。着色されたガスが大量に放出された副都心一帯は大パニックに陥った。
幸いそのガスは「虫も死なない程度」の無害なものであったが、船内からは本物の毒ガスが入ったボンベも発見された。もし、これが本当に散布されていたら……飛行船に対して打つ手もなく、自衛隊治安部隊はあらゆる動きを封じられてしまった。

同じ頃、“幻の爆撃”事件以来なし崩し的に荒川と共闘していた後藤もまた行動を開始していた。
電話をかけてもつながらず、壊滅が容易に察せられる特車二課。この期に及んでなお現在進行形で展開されている「戦争」を認識しようとさえせず、管内の権力争いに汲々とする警察上層部。
そんな警察に見切りをつけた彼は、上層部のスケープゴートになりかかっていた南雲を伴い逃走。ひそかに信頼できる仲間たちに招集をかけた。
現・整備班長のシバシゲオ。
引退してなお絶大なカリスマ性を誇る“おやっさん”こと榊清太郎。
そして、彼が選び、育てた最も頼りになる部下たち……。

山崎が、進士が、太田が、そして遊馬と野明が、篠原重工八王子工場に集結する。
そこで彼らを待っていたのは、いまや一線を退き実験機として眠っていた98式AV“イングラム”

荒川が用意した衛星写真が、埋立地に野戦本部が設けられていることを示している。
ヤツは──柘植は間違いなくそこにいる。
事件の首謀者を逮捕すべく、電波妨害を止めるべく。そして、東京に展開される偽りの「戦争」に終止符を打つべく、特車二課・第二小隊最後の戦いが静かに幕を開けた……。


【主な登場人物】


今作の主人公。
特車二課第二小隊隊長。
ヘラヘラしながら警察内のしがらみに辟易しながらも、荒川から依頼されて事件を独自に調査、推理する。
二課壊滅後も独自のパイプを駆使して立て直し事態の収拾に向かう上司にしたい男ナンバーワン。



今作のヒロイン。
特車二課課長代理並びに第一小隊隊長。
出世コースにいながら柘植学校の生徒の時に柘植ととある関係にあったため、それが元で特車二課に島流しされた過去を持つ。
柘植の出現とその行動に心を揺らしつつも責務を果たそうとするが…

  • 柘植行人(根津甚八)
今回の事件の黒幕。元陸上自衛隊二等陸佐。
レイバーの運用などを研究する多目的歩行機械運用研究準備会(通称柘植学校)の創設者兼リーダーとして数々の成果を上げたが、レイバーにとって無謀とも知っているはずの熱帯湿地帯を主な活動地域とするPKOへの派遣に志願。
PKOでは陸自レイバー小隊の指揮官として行動していたが反政府軍の襲撃に遭い小隊は壊滅、ただ一人生き残る。
帰国後は行方不明になっていたが、実際はある目的のために一派を率いて極秘裏に活動しており、自衛隊関連事件において暗躍する。
風貌のイメージは「ロバート・ショー」

  • 荒川茂樹(竹中直人)
陸幕調査部別室を名乗る謎の男。常に笑っている様な口元と視線の定まらない目が印象的。
事件の詳細や裏を後藤にリークし、戦争観を語り合う。
風貌のイメージは「五分刈りの中年営業マン」

装備開発課に転属し篠原重工八王子工場にテストパイロットとして出向中。
レイバー好きっ娘だったころはなりを潜め、かなり落ち着いた性格になっている。
押井監督曰く「今まで女性キャラの気持ちがわからなかったが、本作で初めて『女性の変化』を意識的に描けた」と振り返っている。

野明と同じく装備開発課に転属し、八王子工場に開発者として出向中。

特車隊員養成学校の教官として怒鳴りまくり機材をぶち壊す日々。さすが日本警察の奇跡。
小説版では香貫花と微笑ましい関係にある様子。

  • 進士幹泰(二又一成)
子どもが出来ました。やったね進士さん。
本庁総務部総務課長に栄転し、養成学校の視察に来て太田を叱っていた。
後藤の召集に本来応える義理は無かったものの、自分でもわからない使命感にかられて後藤の元に向かった。
小説版ではかつての同僚達との飲み会にて自分達の「特車二課」時代に一種のピリオドを打つ抒情的な発言があり、
その後の招集もあって感傷的な雰囲気が増している。

唯一第二小隊に残っている。
終盤ではその体躯を生かし対戦車ライフルを撃つ。やっぱかっこいい…

  • 榊清太郎(阪脩)
我らがおやっさん。
すでに引退した身だが、二課壊滅の報を聞き、自ら整備班を率いてイングラムの換装の陣頭指揮を取る。

引退したおやっさんに代わり、整備班長についている。

  • 松井孝弘(西村知道)
腐れ縁故、相変わらず後藤さんの無茶な頼みでこき使われる。



【レイバー】


AV-98 イングラム
現役を引退し八王子工場に下取され試験機となっていたが、不測の事態用に後藤が手配しており、出撃する。
今回はリアクティブアーマーを装備しており、特殊部隊を思わせるデザインになり印象がかなり異なる。

  • 1号機
野明が搭乗。
頭部に特に大きな変化はない。

  • 2号機
太田が搭乗。
度重なる損傷のせいか、後頭部の装甲がヘルダイバーのものになっている。
作中でも戦闘と自損事故で更に壊れる。

  • 3号機
南雲が搭乗。
頭部が大きく変わっており、強力なECM装備を使用できる。


◆AV-2 ヴァリアント
イングラム引退後に特車二課の装備となったレイバー。
立ちんぼで警備するシーンくらいで全然活躍しないままぶっ壊された。


◆TRT-66 イクストル
アメリカ陸軍の軍用レイバーで柘植一派が使用する。
正確にはレイバーもどきと呼ぶべきロボットであり、作中では無人の移動砲台として使用されている。
宮崎駿曰く「散水機」、河森正治曰く「歩くファランクス」


◆AL-97B改 ハンニバル
陸上自衛隊の軍用レイバー。
冒頭のゲリラ戦と首都への治安出動シーンに登場。


◆ラーダー
柘植が冒頭で搭乗する陸上自衛隊の指揮用の6脚式レイバー。

◆99式装輪レイバー ロードランナー
神奈川県警所属の複座式装輪レイバー。
伸縮可能の脚で渋滞もなんのその。ベイブリッジ爆撃の直前に登場。


なお、MGでイングラム全機のアーマー装備、EXモデルでイクストルが立体化されている。
後年コトブキヤからはハンニバル2種とヘルハウンド(戦闘ヘリ)がキット化されたが、1/72スケールであり残念ながらMGシリーズ(1/35)とも旧キット(1/60)とも一致しない。

また公開当時にはイングラムスペシャルとして6in1キット(1商品で1~3号機のそれぞれ通常版、劇場版で6種を選択して組み立てられるコンパチモデル)が発売された。


【レイバー以外の登場メカ】


  • AH-88 ヘルハウンド
アメリカ陸軍・陸上自衛隊に配備されている架空の攻撃ヘリコプター。前作にも登場している。
折り畳み可能な巨大スタブウィングが特徴的な、テールローターを持たない「ノーター」方式の大型ヘリコプター。
長砲身20mm四銃身ガトリング砲を固定武装に、対戦車ミサイルやロケット弾ポッドを装備している。
柘植の決起シーンで登場。移動用コンテナに格納しており、スタブウィングとメインローターを展開して離陸している。
事実上中盤の主役で3機で東京の重要な橋や通信施設を爆撃する。
なおアニメでは自衛隊機であるが小説では米軍機を自衛隊機に偽装した機体になっている。

  • 01-6RB-II
陸上自衛隊に配備されている架空の観測用ヘリコプター。
ヘルハウンドと同じくテールローターを持たないノーター機で、機体下部の可動式アームに複合センサーポッドを搭載している他、ローター上部にもマスト・マウンテッドサイド・レーダーを装備している。

航空自衛隊の支援戦闘機で、現実で言うF-2に相当する機体。
1998年より配備されているという設定で、劇中では登場するのは第3航空団第8飛行隊所属機:コールサイン「ワイバーン」のSIFと
映像加工された下記の米軍機を自衛隊機と偽装したものだけで実機は登場していない。

  • F-16改 ナイトファルコン
アメリカ空軍のF-16架空改修機。
カナード翼や推力偏向ノズルを装備する他、ステルス性の向上が図られている。
ベイブリッジを攻撃した機体は当該機であったが本来は発射する意図はなくその後行方不明になっている。

  • F-15改 イーグルプラス
航空自衛隊の要撃戦闘機で、F-15Jの架空改修機。
カナード翼を持つ3サーフィス機で、3次元推力偏向ノズルを装備する他、主翼をステルス形状に改修し兵装ステーションを半没式にするなど、ステルス性の向上も図られている。
劇中では百里基地の第7航空団第204飛行隊所属機「ウィザード03」と、小松基地の第6航空団第303飛行隊所属機「プリースト21」が登場。

実在する陸上自衛隊の主力戦車
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 74式戦車改
実在する陸上自衛隊の主力戦車「74式戦車」の架空の改修型。高コスト故に配備が遅れている90式戦車を量的な面から補うべく改修された。
砲塔前半部と車体正面に爆発反応装甲を、車体側面にサイドスカートを装着している他、IR(赤外線)サイトの装備と射撃管制装置の換装が行われている。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 1式装甲車
陸上自衛隊に配備されている架空の装軌式歩兵戦闘車。2001年に制式化された。
89式装甲戦闘車よりも大型の重装甲車で、90式戦車から車体の基本コンポーネンツを流用した上でフロントエンジン化している。
武装は89式同様35mm機関砲を搭載しているが、近接戦闘を重視しているため89式とは違い対戦車ミサイルは搭載していない。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 99式指揮通信車
陸上自衛隊に配備されている架空の指揮通信用装甲車。
8輪駆動の指揮統制車両で、82式指揮通信車*6とは違い本格的な前線指令部機能を有する。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

  • 2式装甲車
陸上自衛隊に配備されている架空の偵察警戒用装輪装甲車。
87式偵察警戒車(実在する陸上自衛隊の偵察警戒用装輪装甲車。82式をベースに開発された)の後継として、上記99式をベースに開発された。
99式同様8輪駆動で、プロペラ推進による浮航能力を有する。砲塔には35mm機関砲と対人警戒用レーダーを搭載しており、車体後部に6名まで搭乗が可能。
劇中中盤の首都への治安出動シーンに登場する。

【余談】


ロボットアニメでは一番の目玉であるはずの巨大人型ロボットが活躍しない、寧ろ厄介者」という根幹の設定がネックになったのか、「映像ソフトは売上は上々、しかし玩具が売れない」というアンバランスな状況だったため、「打ち上げ花火として映画を作って一旦シリーズを畳もう」というスポンサーとヘッドギアの合意の上で制作された。俗に言う「敗戦処理」である。

「1」に引き続き、世界観を固めるためにロケハンを行ったが、東京の湾岸の埋立地だけは大怪我の可能性が高く「映画の素材の撮影」では許可が下りなかった。そこで押井はスタッフに頼み込み、ロケハンのコーディネーターが「雑誌記者主導による東京のゴミ問題の取材」という名目で企画書を都庁に出して写真撮影の許可を取った。ちなみにその模様が掲載されたのは「アニメージュ」1992年12月号である。…うん、嘘はついてない。

脚本は伊藤の単独クレジットになっているが、実際には押井が詳細なプロットも交えた大まかな縦軸の起承転結の構成・全てのキャラクターの台詞、伊藤が横軸の泉・篠原・進士を中心にした初代特車二課のその後の成長エピソードのプロットを担当した。そうして出来上がった脚本は自他共に認める「映画向けの脚本かどうかすら怪しい」「研究論文すれすれのパズルめいた小説」と称した程のお堅い構成であり、それは膨大な学術書・小説・聖書等の資料からの引用で成り立っている。伊藤はそれらの難解な要素を中和するために、長台詞を話すシーンはどの場所にするかを選び、わかりやすくなるように清書していった。

絵コンテ作業の段階では元の脚本は大筋以外はあまり重視せず、「前後と噛みあわない・魅力的だけど尺が足りない・これはやり過ぎ」と判断したら、プロット・登場人物はもちろん台詞の微妙なニュアンスの違いまで即断即決で削除・修正していった。その模様を見ていた伊藤は「脚本は所詮は『素材』に過ぎないのね…」と呆然としたという。但し、その後削られた部分はやり過ぎな部分も含めて小説版で補完された*7

作画作業に入る前に、以前から宮崎駿監督により浸透していた「如何にアニメチックな動画として魅力的に動かすか」を突き詰めたレイアウト作業とは一味違った、「天使のたまご」から研究し始めていた「出来上がる画面を綿密にイメージしながら、画面に映るパース・カメラワーク・建物・キャラクター・小道具を決めていき、フレームに一切映らない素材・設定は絶対に作らない」「実写作品制作のノウハウをアニメ上で再現する」ことをテーマにしたレイアウト作業に実制作作業の7割を費やした。この方針は限られた予算とスケジュールの中で効率よく情報量の多い画面を作る際に無駄な作業が大幅に削減されたが、もしカットの変更があったら0から作り直さなければいけないというデメリットもあった。それらのレイアウトをまとめて演出意図を大いに語った「Methods 押井守『パトレイバー2』演出ノート」が発売された。押井監督曰く「プロを志す方はどんどん真似して、コピペして欲しい」とのこと。

メインアニメーター・黄瀬和哉氏による「1」の写実的な絵柄を本作で「アニメ」としてではなく「映画」として完成させるために、高田明美女史の書いた設定表をわざと原画スタッフに配らないという所業をしてまで推し進めた結果、その余りに華のない風貌は高田女史から「こんなの私のキャラじゃない」と長く根に持たれた。それでも尚、押井監督は黄瀬氏の「書き直せと言うなら降りる」と言い切る程の作画センスを信じ続けた。反面野明の精神的成長の証としてピアスを付けさせた高田女史のセンスを押井監督はいたく気に入った。

ヘッドギア結成当初より、メカに対する造詣の根本的な違い・出渕のスケジュール管理の散漫さが原因で度々出渕氏と押井監督との諍いは少なからず起こっていたが、この期に及んで「他の仕事を優先するために設定表の提出が遅れる」と言われてしまい不満が溜まりに溜まった押井監督が大激怒、そのまま電話上での口論に発展。それ以来「仕事仲間としての付き合いはもうごめんだ」と押井監督が言わしめ、後の押井監督のエッセイ集で公然とメカの考察の際のモデルに勝手にする程の遺恨を残した。2015年に実写版でのトークショーで10年ぶりに公の場で再会、「たまに会うにはいい」とお互い色々言ったものの、一応軟化はした。

下積み時代のバナナマン設楽がモブ役で出演している。








追記・修正は既に編集されているかもしれない画面ではなく、現場の状況を自分の目と耳と知恵を使って解釈した上で判断してからお願いします。





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最終更新:2024年11月17日 15:07

*1 筑摩書房刊・世界古典文学全集5「聖書」(関根正雄・木下順治編)より引用。

*2 正確には使ったものの二課に妨害されて失敗した、また腹心と思われる人物は使うつもりはなく止めに入っていた

*3 小説版ではカンボジアと明言されている。

*4 戦闘機用語。何らかの理由で飛行不能に陥った機体から緊急脱出したことを意味する。

*5 公開当時実際に運用されていた航空自衛隊の防空指揮管制システムで、正式名称は「自動警戒管制組織」。現実では2009年7月に運用を終了し、後継の「自動警戒管制システム(JADGEシステム)」に置き換えられている。

*6 実在する陸上自衛隊の指揮通信用装甲車。第二次大戦後日本において初めて実用化された装輪装甲車でもある。

*7 特に「かつての特車二課メンバー達の飲み会」に関するエピソードは押井監督も気に入り、絵コンテまで書いたが尺の都合で削らざるをえず、後の小説版で表現された。