汎用機

登録日:2023/12/25 Mon 23:16:11
更新日:2023/12/28 Thu 05:49:50
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"それ"は、兵器とはなにかという問の答え、そして戦場のルールそのものを覆した。

巨大な人型のマシン』が戦場に初めて現れたとき、一部の好事家以外は"それ"を、こんなものはアニメーションのメカだ、人型兵器は非合理に足が生えたマシンであると幾度となく言われているなどと嘲笑した。

だが、無重力下では宇宙戦闘機であり、大気圏内では究極のマルチロールファイターでもあり、地上では二本足で歩く戦車且つ巨大な歩兵でもあり、浅海では多機能潜水艇でもあり、作業現場では万能重機であり、何より『初めて実戦に投入された巨大ロボット』として軍のマスコットともなった彼ら彼女らは、兵器の概念を、戦場のあり方を、根底から覆すことになった。

彼ら彼女らの最大の武器は、こなれたマシンガンでも、正確無比なレーザーライフルでも、最強の破壊力を持つ核弾頭でもなく、「何でもできるという汎用性」だった…。

このように、「たった一機(或いは一ジャンル)であらゆる用途に対応できてしまう」、それが汎用機と呼ばれるものである。
対義語は「専用機」であろう。

⚫︎目次

汎用機の種類

汎用機と呼ばれるジャンルには大きく分けて2つがある。

  • 自身は「制御ユニット」「コアモジュール」「頭脳」に特化し、追加ソフトウェアやオプションパーツで作業に対応するもの(現実におけるPC等)
  • 最初から、或いは結果として「あらゆる局面に対応できる」設計となっており、単体で様々な作業に対応できるもの(モビルスーツ等)

前者はスマブラで言うなら「コピー能力で対戦相手の技をコピーして使えるようになるカービィや、「技をカスタマイズしてプレイヤーにとって使いやすい構成にできるパルテナ(For)」
後者は「コマンド技も含めて技が多彩なためやれることの自由度が非常に高く、使いこなすほどに多彩な戦術を取れるや、「地形を自由に生成できる能力を用いて攻撃も防御も柔軟に行えるマイクラ組」に相当するといえる。

前者の「頭脳タイプ」は基本的にそれ単体では無能~できることは非常に限られるという無視できない弱点を抱えていることも少なくない。
例えばPC本体を買ってきても、その時点でできることはWindowsやMacというOSに最初から付属している機能やアプリでできることだけであり、高度なプログラミングや最新ゲーム、機械類の制御となると、専用のソフトウェアや後付のアクセサリー類をDLしたり買い足すことになることになるのは理解できるだろう。
但し「制御コア」に徹していて、その他の機能は追加ソフトや外付けパーツに頼り切っているということから、新技術や新型マシンが後に登場しても、接続規格とソフトさえ用意できれば比較的すんなりと対応できるという利点も持っている。
「なにもないから、何でもつけられる」とはよく言ったものだ。

後者はそれとは全く逆で「体一つでありとあらゆる作業や局面に対応できる」という場合が多い、というよりそれが売りとなっているケースが多い。バランス型に近いとも言える。
アニヲタ的にはガンダムシリーズ筆頭のロボット物における、巨大ロボットの存在意義の一つ(の設定)としての例が有名だろう。
「巨大な人間型のマシンなので、人間のできることはなんでもたいていできるから、巨大ロボット一台で宇宙戦も空戦も陸戦も水中戦もできてしまうし、何なら戦わなくても人型の重機としても活躍できる」、
「兵装は「手持ち」という形ですぐに交換できるので、近距離で撃ち合うならマシンガンやビームガン、長距離狙撃ならレールガンやレーザーライフル、迎撃なら追尾ミサイルのポッド、戦車などの頑丈な目標との戦闘なら巨大メイスやグレネードランチャー、水中戦なら敵艦の船底をぶち抜くパイルバンカー、火力支援なら大口径砲、艦隊殲滅なら核ミサイルランチャー…というように、任務や状況に合わせて簡単に兵装を交換できるし、何なら狙撃任務中に敵機に近寄られたらレールガンを即座に近接専用のマシンガンやビームサーベルに持ち替えて自己防衛という咄嗟の兵装交換だってできる」
…というように、「これ一種類で(装備次第というのも含めて)なんでもできてしまう」ということが巨大ロボットの存在意義の一つである、というあれである。
このタイプは機体一つ(と、場合によっては多少のオプションパーツの追加)であらゆる局面に対応できてしまうという点で、「整備性や管理の面で有利」、「導入コストを減らせる」などの利点を持つ一方で、新規格や新技術が台頭して自分自身が「時代遅れ」にされると挽回が難しいことも多い。

汎用機の弱点

「汎用機に弱点ってあるの?」と言われれば、もちろんある。

目的があまりにもニッチ過ぎて、専用機でやる方が一周回って簡便

現代では狭義の、つまり「紙に文字を打つデジタルタイプライター」としてのワープロは、機能を汎用機たるPCに統合された結果廃れてしまったのはご存知だろう。
PCならWordや一太郎といったワープロソフトとプリンターを追加すればワープロ「にもなる」し、追加投資額もソフトとプリンターを合わせても3万もあればどうにかなる。
今や専用機としてのワープロは、外国人が日本語学習のために中古を買うくらいしか出番がない。
…狭義の「現代のタイプライター」としてのワープロなら。

では、広義の「文字を打つ機械」としてのワープロなら、どうだろうか?
文字の書かれたラベルを作成する、「ラベルワープロ」なら今でも文具店や家電量販店で新モデルが売られている。
なにかに文字を打つ機械という点では、ラベルワープロだって立派なワープロだ。
こういったジャンルはPCに統合されるどころか、現代でもばっちり生き残っている。
理由は「目的がラベル作成というニッチなジャンル過ぎて、汎用機では環境を整えるのが(相対的に)大変・面倒だから」である。
紙に文字を打つのなら、普通に売られているプリンターで十分だろう。
だがラベルなら?そもそも普通のプリンターはラベル、特にテープタイプなんかには対応していない。
もちろんラベル印刷に特化したタイプのプリンターも市販されてはいるが、そんなものを買うのは「日常的にラベルを印刷している」という特殊な人間くらいである。
メモ書きや注意書き程度で時々作成するには大げさすぎる買い物であろう。
その点ラベルワープロという専用機なら、棚から取り出して(ラベルとインクリボンをセットして)電源を入れればすぐに作成開始できるし、ちょっと使うくらいならむしろこういった機能が限定された専用機のほうが逆に手軽になる。

また、最近流行の兆しを見せている電動キックボード、あれだって「ちょっとコンビニに行く」程度だったらはおろか原付バイクよりも手軽な足である。
車種によっては免許すら不要で乗れるという無茶苦茶な手軽さであるし、自転車と違って動力が付いているから登り坂でも楽々、折りたためば車や電車にも持ち込める。
「ちょっと」「手軽に」程度なら、多機能すぎる汎用機よりもむしろ機能が限定されている専用機のほうが小回りがきくということも多いのである。

目的が突き抜けすぎていて、汎用機では力不足になる

マニア向けやプロユースなど、「特定の目的に対して超特化した、突き抜けた仕様や性能が求められる」というなら、一点特化の専用機のほうが好まれるということもあり、この場合も「なんでもそつなくこなせる」程度ではどうにもならないため汎用機では代替が難しいというケースも有る。

例として、普通の音楽プレイヤーは現代ではほぼスマートフォンに統合されているが、マニアが求めるような「値段はとんでもなく高額でも構わないから、非圧縮音源を超高精度のDAC*1で再生して、ノイズが極限まで少ない超高性能アンプで出力して、ついでに光デジタルやARC*2を使ってホームシアターの大迫力で聴きたい!」という無茶振りなら、そんなものに対応できる機種なんて殆どないだろう。
だいいち、そんなものを作ったとしても高額すぎて一般人はまず買わない=採算が取れないとなるはずだ。あなたは本体だけで100万円もするスマホがあったら、買おうと思いますか?ということである。
だったら、「マニア向けの最強の音質を目指した超高性能音楽プレイヤー専用機」を作って、大枚はたいてでも音質を求めるマニア向けに売ったほうが採算が取れるし、買う側も満足するだろう、ということである。

またテレビ局や映画撮影などで使われるビデオカメラも「スマホという汎用機では足りないから撮影専用のカメラが求められる」という例の一つであろう。
今でこそ「全編iPhoneで撮影し、編集までした、全部iPhoneで作った映画」も登場しているが、それでもこういった「撮影」がお仕事の場では「テレビカメラという専用機」の方が有利なことには変わりない。
何しろスマホのカメラは最近になってようやく4K撮影が当たり前になったのに対し、プロ向けのテレビカメラは8K撮影なんてのもとっくに常識である。
プロが本格的に「商品」としての番組を作るとなると、スマホの「4K程度」では素材としては足りないのである。
「何でもできます」ではなく、「突き抜けた一点特化」となると、汎用機では足りなくなるということも多いのだ。
同様に静止画用のスチルカメラも、コンパクトデジタルカメラと呼ばれている小型カメラの需要はほぼスマホにパイを取られ絶滅に近いが、
レンズを交換できる一眼(レフ)カメラは一時的に需要が落ち込むこともあったが、スマホにはできない超クローズアップ撮影(マクロ)や超望遠撮影、機械式絞りやシャッタースピードを任意で変更可能で自由自在な表現が可能なために、
これがなければ撮影できないことがあるという非汎用性、かつ1台あればレンズの交換で何にでも対応できる汎用性という2点で生き残っている。
ちなみにカメラ自体進化で画素数が向上していった結果「4K解像度であれば補完処理なしで記録可能」という状態になってしまい、上の動画用カメラの一部用途を奪い去ってしまったりしている。
故に「動画特化の一眼カメラ」というちょっと謎の物も誕生していたり、動画用カメラでもレンズマウントに静止画用のソレを流用した物なんかもある。

カタログスペック上の数値でなく、心象的な面であれば、「ななつ星in九州」「TRAIN SUITE 四季島」「トワイライトエクスプレス瑞風」など、最近JR各社で流行っているクルーズトレインもこの一種といえる。
クルーズトレインは、いわば「移動手段」「交通機関」という側面をぶん投げて、「高い金を出してまでこの列車に乗って旅したい」「最高に上質な"旅行"をしたい」という方面に特化した列車である。
乗車料金が最高額で100万円前後になり、子供はツアーに参加できない、さらに車内でのドレスコード*3まであるという列車…というかツアーなのに、乗せられるのがごく普通の普通列車グリーン車や新快速、或いは汎用の特急列車だったらどうなるだろうか?
「高い金出して、猛烈な倍率の競争をくぐり抜けて、服装までビシッと決めてきたのにこりゃねーよ!」ってなるだろう。大人の旅も、普段と違う上質さもあったもんじゃない。
ましてや事実上JR各社の真ボス、象徴ともいえるポジションを任せられているならなおさらである。
普通じゃない旅、いつもと違う旅だからこそ、そのキモとなる列車も一般的なものでなくツアー専用の特注品を用意している、ということだ。

器用万能を目指すと非常に高コストになる

上と若干かぶるが、「じゃあそもそも何をやっても専用機以上の事ができる超高性能品を作ればいいじゃん」と思う方もいるだろうが、そうなると今度は無茶苦茶な高コストになりがちである。

例えばゲーミングPCであるが、汎用機たるPCの中でも最新ゲームを快適にプレイし、しかも対戦ゲームならプレイヤーの技量をダイレクトに反映させて勝ちにつなげるだけの処理性能を持たせたマシンである。
そのため、CPUは最新世代~その一世代前のその中でもハイエンド品、GPUも高フレームレートをスムーズに描ける高性能なもの、大容量のRAMと非常にハイスペックなマシンとなっている。
…が、その分一般的なPCと比べて高額になるのは、当Wikiを見ている皆様なら理解できているはずだ。
「大量のデータを処理する高性能CPU『だけ』があればいい」ではなく、「処理性能もグラフィック性能もレスポンスも全てにおいて最強」を実現しようとすると、あのような値段になるのだ。

兵器としてはF-35ライトニングⅡが挙げられるだろう。
「ステルスで、対空対地戦術偵察を高いレベルで行えて、電子戦もある程度こなせて、機密性を維持したまま機体間や他部隊とネットワークで繋いで情報共有できるようにして、設計を共有した3つの異なるタイプの機体を多国間共同開発で安く作る!」という何でもできるすごく強くて安い究極の汎用機を目指し、結果的に開発が炎上しまくった凄い機体である。
研究開発費だけで数兆円規模にも膨れ上がった本機はもはや一国家だけで費用を賄えるものではなくなってしまった。次世代の国家間戦争に耐えうる機体開発はかくも厳しいものである。
まあ、鎮火した後にはマジで何でもできる超強くて(次世代戦闘機としては)破格に安い機体が本当にできたあたりは特筆すべき点であるが。機体単価の安さは主に受注増による量産効果により達成されている。

このように、汎用機というものは「特定の目的に特化すると弱さが露呈する」「しかし、その部分まで埋め合わせるほどのスペックを与えると超高コストになる」という、何でもそつなくできるからこその弱点も持っているため、あらゆる局面において「じゃあ汎用機でいいや」とはなりにくい弱点も持っているのだ。

何でもできる=最大の利点

と、ここまで汎用機の弱点を挙げてきたが、それを補って余りある

「汎用性」

という武器が汎用機にはあるし、これこそが汎用機の存在意義だ。

「これ一台、一ジャンルでなんとかなる」というのは実際めちゃくちゃに強い。
何しろ「これだけあれば大抵のことはこなせる」のだから。

例として、現代の戦闘機は大抵がマルチロールファイター、つまり「戦闘機であり攻撃機/爆撃機であり偵察機でもある」軍用機である。
何故なら一機種で何でもできるという方が機体の導入やメンテナンスの面では非常に有利だし、パイロットの教育も共通化できるからだ。

或いはこれまた皆大好き戦車であるが、黎明期は機動力を重視した快速戦車・歩兵を守りながら進む歩兵戦車・機動性をかなぐり捨てて固い!強い!に特化した重戦車…とジャンルが細分化されていたが、現代では「機動力も装甲も攻撃力も全部入りで、戦車戦にも都市攻略にも使える」汎用機たる「主力戦車」ばかりとなっている。
様々な車種を用意するよりも、車種を統一したほうが都合がいいのだ。

兵器ではなく民生用途なら、PCやスマホはまさに「家電における汎用機」である。
携帯電話でありネット端末でありゲーム機でありデジタル会員証であり決済端末でありカメラであり音楽プレイヤーでもあるスマホに様々な携帯機器が統合されているのは周知の通りだろう。
複数の機器を持ち歩くよりも、コスト・荷造りの面で合理的になっている。

汎用機として突き抜けた代物としては、メルセデス・ベンツの多用途トラック「ウニモグ」が挙げられる。
こいつは乗り物というより「万能機械」に全振りしたマシンであり、オプションパーツの追加などで「陸を走る機械ならおよそ何にでもなれる」という代物である。
え?欲しい?日本じゃ中古でも円で1000万単位のお車ですよ?
一般人には手を出すのが難しい価格や、汎用作業機械を追求した設計という点では、「汎用機を突き詰めた結果、一周回って常識的な部分が抜け落ちた(或いは割り切った)マシン」とも言えるだろう。

フィクションの世界なら、巨大ロボットの存在意義として「汎用機」である、ということは定番の一つ。
陸海空宙どこでも戦えて、戦闘以外でも作業もできるメカという点で説得力を出している。
また、「新世紀エヴァンゲリオン」におけるエヴァの肩書は「汎用人型決戦兵器」と、汎用機であることが明確にされており、実際サキエル・ゼルエル戦では直接の殴り合い、ラミエル戦では長距離狙撃、イスラフェル戦では2機によるシンクロ攻撃、サハクィエル戦ではATフィールドを展開して受け止める…というように、相手の特性に合わせて柔軟な戦闘を行っている。
このあたりはN64のゲームでも描写されており、サキエル戦は格闘ゲーム・ラミエル戦はガンシューティング・イスラフェル戦は音ゲー…というように、ステージによってゲームシステム自体が変わっていくという形で表現されている。
メタ的に言うなら、「汎用機ということで、対戦相手に合わせて毎回変わる戦闘スタイルで視聴者に新鮮さを提供できる」とも言える。

また汎用機の「何でもできる」という特性を利用して、「一点特化した性能にカスタマイズして、実質的に(機能的にもユーザー的にも)専用機とする」という使い方もある。
シャアに合わせて運動性に特化したシャアザクは著名な例だろう。

「なんでもできる」というのは一点特化にも万能選手にもなれる、カタログスペックには現れない最強の才能とも言えるのだ。

主な汎用機

【フィクション】
巨大ロボット(ロボットアニメ全般)
モビルスーツ(ガンダムシリーズ)
エヴァンゲリオン(新世紀エヴァンゲリオン)
スコープドッグ(装甲騎兵ボトムズ)

【現実】
PC
スマートフォン
マルチロール機
九九式襲撃機
現代駆逐艦、フリゲート全般
主力戦車
ウニモグ(自動車)



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最終更新:2023年12月28日 05:49

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