ヴァニラウェア

登録日:2024/10/12 Sat 00:03:58
更新日:2025/01/28 Tue 12:38:15
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『ヴァニラウェア(VANILLAWARE.Ltd)』は、日本のゲーム会社。
本社所在地は大阪府大阪市中央区安土町。2002年2月設立。

+ 目次


概要


暖かみのある2Dグラフィックやこだわり抜いたアニメーションに定評があるゲームメーカー。
代表作に『オーディンスフィア』『十三機兵防衛圏』『ユニコーンオーバーロード』等がある。

社員数は(時期にもよるが)30人前後と恐ろしく少なく、少数精鋭でゲーム開発を行っている。
ちなみに社員数が増えない理由は、この会社が有限会社*1であり、法律によって社員数を50人以下と定められていたため。
基本的に下請けにゲーム開発を丸投げすることを良しとせず、請け負った仕事は全て自社でこなすスタイルであるため、人数の少なさも相まってスタッフ一人一人の担当範囲は非常に幅広いらしい。*2

元々は『ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン』*3の開発時に事務的な都合で設立された『プラグル』という会社を母体としている。
同作の開発途中に開発チームを離れた数名のスタッフによって、ヴァニラウェアが設立された。

初代PlayStationの登場以降、2Dゲームが廃れ3Dポリゴンが爆発的に普及したゲーム業界において、2D表現にこだわり続ける同社の姿勢は独特な存在感を放っており、業界内にもヴァニラウェアのファンは多い。
例えば、ゲームライターのマフィア梶田はヴァニラウェアへのインタビューやYouTubeの動画等でたびたび同社作品への愛を語っている。
また、『NieR:Automata』や『ドラッグオンドラグーン』等で知られるゲームクリエイターのヨコオタロウは熱狂的なヴァニラウェアファンであることを公言しており*4「ヴァニラウェアのゲームは日本の宝」と絶賛した。
星のカービィ』『大乱闘スマッシュブラザーズ』等の産みの親として知られるゲームクリエイターの桜井政博は、『十三機兵防衛圏』のストーリーに圧倒されたらしく、同作のシナリオ構成の凄まじさについてコラムで言及したことがある。

公式HPが長らく古い設計のまま放置されており、https対応はおろか、スマホ対応すらしていない有り様だったが、2024年8月にようやくリニューアルされた。

後述の来歴もあって、ヴァニラウェアが開発したゲームの発売元はアトラスである事が多い。
アトラス公式サイトでは『ドラゴンズクラウン・プロ』以降のヴァニラウェア開発作品は「アトラス×ヴァニラウェアプロジェクト」と銘打って纏められている。


創業者について

ヴァニラウェアの創業者・社長は、ゲームクリエイターの神谷 盛治(かみたに じょうじ)。広島県出身。
ちなみに本名は“George(ジョージ)”であるが、画数のいい漢字名を当てて“盛治(じょうじ)”としている。

カプコン社員で、様々なメーカーを渡り歩きヴァニラウェアを立ち上げた。
ヴァニラウェア設立前の代表作に『プリンセスクラウン』がある。
ヴァニラウェア作品では企画・ディレクター・シナリオ・キャラクターデザインなどを重要な分野を担当する。

+ 来歴(カプコン時代~ヴァニラウェア設立まで)

カプコンへの入社と退職

学生時代から趣味でドット絵を描いており、友人に誘われてゲーム制作の下請け会社でアルバイトをしたことで、ゲーム開発のいろはを学ぶ。

就職活動では任天堂など関西に拠点があるメーカーに応募*5し、新卒でカプコンに入社。
しかし、安田朗(あきまん)や西村キヌ、BENGUSなどの才気溢れるデザイナーたちの存在に打ちのめされる。
この時代のエピソードとして、とある格闘ゲームの技のアイデア出しに参加し神谷が考えた技が採用された際、神谷のアイデアを元に安田が作成したアニメーションが神谷のイメージイラストより遥かに見映えのよいものに仕上がっていたため、感動を覚えた反面、当時のカプコンスタッフのレベルの高さを痛感したと語っている。
社内の人材の層が厚く、「デザイナーやディレクターとして自分が生きる道がない」と感じた神谷はカプコンを退職し、小規模なゲーム制作会社に転職する。


プリンセスクラウンの開発と商業的失敗

小さなゲームメーカーに移った神谷は、そこで『プリンセスクラウン』の企画書を書く。
企画書を片手に様々なメーカーへ赴いてプレゼンを行った結果、セガの担当者に気に入られたことで、見事開発にこぎ着ける。
しかし、開発途中に所属していた会社が倒産。慌ててセガに連絡を取った神谷はその場でアトラスを紹介され、開発チームごと移籍する。
結果、同作はセガ×アトラスのプロジェクトとして1997年に世に出ることとなった。
しかし、『プリンセスクラウン』はゲーム自体の評判は悪くなかったものの、セガサターン末期の発売だったこともあり売り上げは伸びず、アトラス社内で赤字プロジェクトの烙印を押されてしまう。

ここから神谷は数年間、まともにゲーム開発ができない暗黒時代を迎える。
所属していたアトラス大阪開発室は解散となり、路頭に迷った神谷はラクジンという大阪のゲーム会社に移籍したり、上京してソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)に所属し様々な企画書を提出するもなかなか仕事がとれず、この時期は企画手伝い程度の仕事しかできなかった。
当時、神谷は32歳頃だったが、とにかく仕事もお金もない日々で、1日の生活費は200円・パンの耳を主食とした極貧生活を送っていたと語っている。


ヴァニラウェア設立へ

東京で仕事を探し続けた神谷は、スクウェア・エニックスが企画していた『ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン』のディレクターに抜擢される。
同作の開発にあたり、事務の都合で『プラグル』という会社が作られ、神谷はここで開発チームをリードした。
この頃、神谷の元には「プリンセスクラウンが好きです」という若手スタッフが徐々に集まり始め、またファンタジーアースのプロデューサーからも「神谷さんがやるなら、お姫様でファンタジーな作品にしなきゃ」と言われるなど、プリンセスクラウンに救われるかのように仕事や部下を得る形となっていた。

そして、神谷が『プラグル』を離れることになったタイミングで何人かのスタッフに声をかけ、大阪に戻りたった5人でヴァニラウェアを結成。
ヴァニラウェア代表として『プリンセスクラウン2』の企画を仕上げ、アトラスに持ち込んだところ、前作の販売不振もありアトラス社内の反発に合いつつも、当時のアトラス開発部長の強い後押しによって開発がスタートする。
紆余曲折を経て本作はタイトルを『オーディンスフィア』へと変え、2007年にアトラスから発売された。
ちなみに5人で始めたヴァニラウェアだが、オーディンスフィア開発中に最終的なスタッフは10人程度に増えたという。*6
同作はゲーマーの間でプリンセスクラウン譲りの美麗な2Dグラフィックや作り込まれたシナリオが高く評価され、ヴァニラウェアの名を世に知らしめることとなった。



特徴


美麗な2Dグラフィック

ヴァニラウェア作品といえば、とにかく美しい2Dグラフィックが最大の見所である。
キャラクターから背景の小物に至るまでこまかく描き込まれたゲーム画面は幻想的な雰囲気を纏っており、国内外で高く評価されている。
この独特なグラフィック表現に魅了され影響を受けたと思われるフォロワー作品が海外から発売されることもある。

また、綿密なアニメーションも特徴の一つ。
キャラクターの表情や細かい仕草、ダイナミックなアクションまで全て丁寧に作られており、美麗な2Dグラフィックの魅力をさらに引き立てている。
2Dアクション、アドベンチャー、RTSと様々なジャンルを手掛けるメーカーだが、ジャンルを問わずどの作品も2Dグラフィックへのこだわりは一貫している。

3Dゲームと違い、2Dゲームはカメラを立体的に動かすという概念がないため、特にストーリーを見せる場合に苦労が多いという。
基本的に、会話シーンは舞台演劇の演出を参考にしているらしい。

ちなみに3D表現に全く興味がないわけではなく、そもそも社長の神谷は『ドラゴンズクラウン』の構想中にドリームキャストで3Dモデルを使って試作していた。
結果的に、神谷の絵柄を3Dに落とし込むことが当時の技術では難しかったため、2Dに傾倒することになったという。


食へのこだわり

ゲーマーの間で“ヴァニラ飯”の愛称で知られる、こだわりぬいた料理・食事の描写もヴァニラウェア作品の見所のひとつ。
特に『オーディンスフィア』や『ドラゴンズクラウン』『ユニコーンオーバーロード』では、西洋ファンタジーの世界観に合わせた様々な料理が登場し、そのどれもが美味しそうに仕上がっている。
朧村正』では和風の世界観に合わせて、うどんやだんご等の和風ヴァニラ飯も登場した。
『十三機兵防衛圏』では料理が大きくフィーチャーされることはないが、“焼きそばパン”がシナリオ内で無駄に存在感を放っていたり、女子高生らが下校途中に買い食いをする場面が印象的に描かれる*7など、細かい部分で食へのこだわりを見せている。

単に美味しそうな料理のイラストが出てくるだけでなく、
  • 料理が出てきた際にぷるんと揺れるアニメーションが入る
  • 温かい料理であれば湯気が立ち上ぼる
  • キャラクターが料理をもぐもぐと食べるアニメーションが入る
  • 料理が少しずつ食べられていき、最後は皿や骨だけになる
といった演出面も非常に凝っている。
プレイヤーの食欲をとことん刺激してくるため、“飯テロ”といわれることも…。

『ユニコーンオーバーロード』が2023年のNintendo Directで発表された際にも、ヴァニラ飯が話題となった。
同作のトレーラーが流れ出した直後、ニンダイの視聴者らは(絵柄が従来のヴァニラウェア作品と異なっていたため)「何のゲーム?」「どこの会社の作品?」と見守っていたが、妙に気合いの入った料理イラストが映った瞬間に「「「ヴァニラウェアだ!!!」」」と一斉に気付いた視聴者がSNS等で多く見られ、その反応を見ていたヴァニラウェアスタッフもニヤニヤしていたという。

食へのこだわりは神谷曰く、
「人間の三大欲求(睡眠欲・食欲・性欲)に働きかけることでプレイヤーの心を動かせないか、と考えたことが発端」
…とのことで、食ならゲームでも表現できると思い、毎回こだわるようになったらしい。
性欲へ働きかける作品が多いのも、これが理由なのだろうか?

余談だが、YouTubeやテレビで活動する料理研究家のリュウジ氏とヴァニラウェアがコラボし、ヴァニラ飯の再現を試みた動画がある。興味があればYouTubeで検索してみよう。
ちなみに、リュウジ氏は『十三機兵防衛圏』の大ファンで、YouTubeチャンネルに協力してくれているスタッフにもオススメしまくっているんだとか。


エロスへのこだわり

ヴァニラウェア作品を語る上では、妙にエロい要素が多い点も外せない。
エロといっても、「女の子のパンツが見える」とか「服が脱げる」とかの直接的な露出ではなく、秀逸なキャラクターデザイン・漂う色気・隠す気もないフェティシズムによってプレイヤーの性的嗜好を鈍器でぶん殴って歪ませてくるようなタイプの、匂い立つエロス表現である。

他社作品ではまず見られないような凄まじい爆乳の美女や、筋肉質でぶっとい太ももを持つ女戦士など、スタッフの性癖を堂々とぶつけてくるキャラクターデザインは毎度評判が良く、フィギュアなどの立体物が発売される機会も多い。
アニメーションも作り込まれており、胸の大きいキャラはそれはもうゆさゆさ揺れる
また、キャラクターの体型の違いを描写することに執着しており、胸の大きさの違いはもちろん、足の太さや腰の高さなどの細かい部分もグラフィックを使い回しせずに一人一人にこだわってデザインする変態性を持つ。
「俺たちはこういうのが好きなんだ」を地で行くスタイルで、多くのプレイヤーの下半身を鷲掴みにしてきた。

ちなみにエロスへのこだわりについて、神谷氏は「自分自身やスタッフのモチベーション維持のためにやっている」と語っている。
曰く「仕事がキツかったり徹夜が続くと、どうしてもモチベーションは下がるが、エロは最後の原動力として機能する」らしい。
なお、神谷氏にとって理想のヒロインは『オーディンスフィア』の主人公・グウェンドリンとのこと。
そもそも本作は、「自分の理想のヒロイン像を全部詰め込む」と意気込んでまずグウェンドリンのキャラクターありきで開発を始め、「彼女が出てきても違和感のない世界観」を後付けで構築したらしい。


続編を開発しないスタンス

ヴァニラウェア作品はリマスターやリメイクが作られることはあっても、続編作品を発売したことは全くなく、様々なジャンルの作品を次々に出している。
これは、そもそも開発時に続編やスピンオフなどのシリーズ展開を最初から考慮しておらず、「思い付いたネタはこの作品で全て出しきる」という意気込みで毎回開発を行っているため。*8
仮に続編の打診を受けたとしても「前作で全てのネタを出しきったので、続編を開発するにはまたネタを溜めるとこから始まる」という状態らしく、それだったら新作にリソースを割きたい、という方針のようだ。

なお、新作のネタは大量にあり、尽きることがないとのこと。
神谷氏がヴァニラウェア設立前の極貧生活を送っていた時期に、「将来作りたいゲーム」を日々考えてはネタとして溜め込んでいたため、その頃の資産が今でも残っているらしい。


自転車操業

「稼いだ分だけ全部使ってしまう」ことを社長自ら認めており、ヴァニラウェアの経営は仕事が止まれば即倒産しかねない自転車操業となっているらしい。
特に新作が発売される直前はお金が底をつきかけているため、一番ヤバイ時期なんだとか。
コンシューマーゲームにこだわって開発しており、スマホゲーム開発には一切手を出していないため課金などのある程度安定した収入源がなく、常に新しい企画を立て続けなければならないようだ。

神谷氏曰く「『稼いだお金で自分が何をしたいか?』を考えると『ゲーム開発』以外の答えがない」とのことで、「だったら今ある会社のお金を全部使って次の作品に全力で打ち込もう」…となり、自転車操業状態に陥っているとのこと。
一応、作品がヒットすれば社員にボーナスを支払うこともあるようだ。


作品リスト



タイトル 発売年 ハード ジャンル 発売元 備考
オーディンスフィア 2007年 PS2 アクションRPG アトラス 北欧神話をモチーフにしたファンタジー作品。
5人の主人公による群像劇と美麗なグラフィックで人気を博した。
しかし処理落ちが目立ち、システム面も一部は賛否両論だった。
グリムグリモア 2007年 PS2 RTS 日本一ソフトウェア 魔法学校・魔女っ子をテーマとしたファンタジー作品。
開発期間はわずか半年という短期プロジェクトだった。
くまたんち 2008年 NDS シミュレーション ディンプル
朧村正 2009年 Wii, PS Vita アクションRPG マーベラス 男女2人の主人公による和風ファンタジー作品。
優れた操作性などで評価される。PS Vita版は2013年発売。
グランナイツヒストリー 2011年 PSP RPG マーベラス 3国の戦争を描くファンタジー作品。
オンライン要素が強く、サーバーと同期することで戦局が変わっていく。
ドラゴンズクラウン 2013年 PS3, PS Vita アクションRPG アトラス 多人数参加型のアクションRPG。
冒険者となり地下迷宮を探索するファンタジー作品。
ソーサレスやアマゾンなどの尖ったデザインで話題となる。
オーディンスフィア レイヴスラシル 2016年 PS4, PS3,
PS Vita
アクションRPG アトラス オーディンスフィアのリメイク作品。
不評だった部分にテコ入れが入り、圧倒的な遊びやすさを獲得した。
オリジナル版のシステムも収録されている。
ドラゴンズクラウン・プロ 2018年 PS4 アクションRPG アトラス ドラゴンズクラウンにUI調整などを施した完全版。
十三機兵防衛圏 2019年 PS4, Switch ADV アトラス 初のアドベンチャーゲーム。ただしRTSパートもある。
80年代の日本を舞台としたSF・ロボットもので、ストーリー面で極めて高い評価を受けた。
口コミで徐々に人気を博し、一時は品薄になり公式が感謝の悲鳴をあげた。
Switch版は2022年発売。
グリムグリモア OnceMore 2022年 PS4, Switch RTS 日本一ソフトウェア グリムグリモアのリマスター版。
新システム等も追加されている。
ユニコーンオーバーロード 2024年 PS5, PS4, Switch,
Xbox Series X/S
RTS アトラス 西洋ファンタジー風の王道ストーリーが特徴。
とっつきやすく、かつ戦略性の高いシステムが高く評価された。



追記・修正は美味しそうな料理を作った後にお願いします。



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最終更新:2025年01月28日 12:38

*1 2006年5月の「会社法」施行により廃止された「有限会社法」に基づいて設立された会社。

*2 なお、音楽制作のみ外注に頼っている。

*3 かつてスクウェア・エニックスが運営していたオンラインゲーム(MMORPG)。後に運営がゲームポットに移管され、『ファンタジーアース ゼロ』にタイトルが変更された。

*4 「ゲームは遊ぶより作る方が楽しい」と豪語し、プライベートではあまりゲームをしないらしいが、ヴァニラウェア作品は毎回買ってしまうとのこと。

*5 プランナー・デザイナー・プログラマーと職種問わず応募しまくっていたという。

*6 神谷曰く、「ファンタジーアースは実質3、4人で全てのグラフィックスを作っていた」とのことで、少数でもゲーム開発はできるという考えはここで培われたようだ。

*7 買い食いシーンで食べられる全てのメニューを制覇すると『買い食いマスター』なるトロフィーが入手できる。

*8 ただし、『グリムグリモア』だけは続編ありきでシナリオを描いていたという。