夢を見ていた。自分と同じ年の子たちと共にどこかに集まっている夢。薄暗い場所で折檻を食らっている夢。目の前で誰かが悲鳴を上げながら死んでいく夢。自分より年下の子供が血を流しながら死んでいく夢。さっきまで一緒に遊んでいた子が干からびて死んでいく夢。死んで、死んで、死んで、どんどん知っている子が死んでいく。それが怖くて、次は自分の番だと思うと怖くて、怖くて、怖くて。
だから逃げだした。だから記憶を封じた。だから何も覚えていないと自分を偽った。だからこんな記憶は知らない。これは全部夢、幻、自分の空想。自分はこんなこと経験していない。そう、経験していないのだ。
だから逃げだした。だから記憶を封じた。だから何も覚えていないと自分を偽った。だからこんな記憶は知らない。これは全部夢、幻、自分の空想。自分はこんなこと経験していない。そう、経験していないのだ。
『いつか、貴女も――――――様に――――――よ?』
だからこんな声なんて知らない。自分に冷たい笑みを浮かべてくる女の人なんて知らない。知らない知らない知らない知らない。
『そうだ』
また知らない声が頭の中に響く。知らない、知らない、知らない。
『お前は何も知らない。知らなくていい。だから耳を塞いで、目を閉じて』
誰かに抱きしめられるような感覚がする/こんなぬくもりなんて知らない。懐かしい/初めての感覚。私はそれを知っている/知るはずがない。
『眠るんだ。起きたときにはきっと忘れている』
私はその言葉に従い耳を塞いで目を閉じて忘れる。こんな怖い記憶なんて知らない=分からない。知るはずがないし分かるはずもない。自分の記憶じゃないから。
だから、私は何も覚えていない。覚えていないんだ。
だから、私は何も覚えていない。覚えていないんだ。
『――――――きっと時が来たら分かるはずよ?』
だからそんなときなんて来ないし、永遠に分かるはずがないんだ――――――。
窓から差し込む朝焼けに当てられコトネは目を覚ます。何か嫌な夢を見ていたような気がするがどんな夢だったのか覚えていない。何かに突っ伏してそのまま眠ってしまったようだ。身を起こすと自分が誰かの手を握っていることに気が付き、それにつられるように昨夜のことを思い出した。ベッドの上で苦痛に苛まれていたレクトの手を握っていたのだ。少しでも苦痛が和らげばいいと思いながら。そしてそのレクトが自分をじっと見つめていることに気が付いた。感情を読み取りにくい無表情だった。コトネは急に気恥ずかしくなったのか彼の手を離し
「お、おはよう!」
とだけ言い残して部屋から出ていく。何故急に気恥ずかしくなったのか、何故慌てて部屋から出たのか理由は自分でも分からなかった。一方、当のレクトはと言うとコトネの反応の理由が分からず首を傾げるのみだった。
朝食後、コトネがミリカと共に後片付けを終えた後の事だ。レクトが無言で出て行こうとするのが見えた。コトネは何となく気になり声を掛ける。
「どこに行くの?」
レクトは野暮用と言い残しそのまま出て行った。コトネは首を傾げていると「いつものことだよ」とミリカが口を開く。
「あいつ、いつもああやって何も言わずに出ていくんだ。今のは本当に野暮用だけなんだろうけど」
「どうして分かるの?」
「剣を持ってないから。野暮用じゃないときは大体剣持ってふらっと出ていくんだよなあいつ」
「どうして分かるの?」
「剣を持ってないから。野暮用じゃないときは大体剣持ってふらっと出ていくんだよなあいつ」
へー、と曖昧に相槌を打ちながらコトネはレクトがどこへ向かったか気になった。どうしてかは分からないが気になって仕方がなかった。初めて感じる衝動故か抑えることも抗うこともできなかったのか。
「まー、いつものことだからあんまり気にしなくてもいいぞー。そのうちひょっこり帰ってくるだろうし……っていない?!」
朝食の後片付けを終えたとは言えミリカをその場に残しコトネはレクトを追いかけていったのだった。
微かに感じる魔力を頼りに人ごみに酔いそうになりつつレクトを追いかけて街中を散策していた。時折声を掛けられたような気がしたがすべて無視していた。今はただレクトの事が気になって仕方がなかったのだ。このような衝動に駆られるのはコトネにとって初めての事で、同時に理解できない物でもあった。何故、酔いそうになるほど人混みが苦手であるのにもかかわらずそれを気にしないほどにレクトの事を追いかけるのか、彼女にはどうしてもわからなかった。同時に理解できなくとも抗わずに衝動に従うことはできるのだった。
そしてレクトの魔力を追いかけているといつの間にか人気のない路地裏まで移動していたようだ。先ほどまでの喧騒と空ッとした雰囲気とは無縁の静かでじめじめとした不気味ささえ感じる雰囲気の建物に囲まれた狭い道。その辺りを見回しながら固有魔法で魔力を追っているとすぐ近くの曲がり角の先からレクトの魔力を感知した。すぐ近くにもう一人の魔力と共に。
曲がり角から覗いてみるとレクトと灰色の髪の知らない男――――――コトネは知らないがウルム・ウォルム―ドという名前の男だ――――――が何やら険悪な雰囲気を漂わせながら向かい合っていた。どちらも怖いくらいに険しい表情を浮かべている。先に話を切り出したのはレクトの方だった。
そしてレクトの魔力を追いかけているといつの間にか人気のない路地裏まで移動していたようだ。先ほどまでの喧騒と空ッとした雰囲気とは無縁の静かでじめじめとした不気味ささえ感じる雰囲気の建物に囲まれた狭い道。その辺りを見回しながら固有魔法で魔力を追っているとすぐ近くの曲がり角の先からレクトの魔力を感知した。すぐ近くにもう一人の魔力と共に。
曲がり角から覗いてみるとレクトと灰色の髪の知らない男――――――コトネは知らないがウルム・ウォルム―ドという名前の男だ――――――が何やら険悪な雰囲気を漂わせながら向かい合っていた。どちらも怖いくらいに険しい表情を浮かべている。先に話を切り出したのはレクトの方だった。
「オレに何の用がある。こんなところにまで呼び出しておいて」
「用って言うか……前回の続きと言ったところか」
「用って言うか……前回の続きと言ったところか」
その言葉にレクトは眉をひそめ警戒心を強める。対するウルムはレクトを小ばかにするような態度を示すかのようにへらへらと笑っている。一触即発。そんな空気が二人の間に漂い始める。固有魔法を通じてそれを感じ取ったコトネは密かに怯えだしている。レクトのことを知りたいと思っていたはずなのに今は彼の知らない一面が怖いと感じている。いつも淡々として、しかしどこか優しさのある態度と行動しか知らないコトネにとって初めてみるレクトの顔だった。そんな彼女を余所に二人はさらに会話を続ける。
「この前の晶柱林の騒ぎ、あれはお前の手引きなんだろ? レクト=ギルノーツ。あの時は大量に人が集まっていたんだ。ギルノーツ領のときみたいにな。さぞ殺し甲斐があっただろう」
「オレはそんなことしていない」
「口では何とでもいえるさ。こっちは証拠があるんだぜ?」
「オレはそんなことしていない」
「口では何とでもいえるさ。こっちは証拠があるんだぜ?」
出まかせを口にしてレクトの反応を探るウルムであったが彼は険しい表情のまま特段反応を見せることはなかった。レクト=ギルノーツが何かしらの反応を引き出せればそれでいいと思っていた彼にとっては誤算だった。何か動揺したり言い訳をすればそれを利用して情報を抜き出しさっさと始末するつもりだった。全開のしかし、当のレクトはそう言った反応を見せないため別の切り口から攻めることにした。
「それにしてもわざわざギルノーツの名を名乗るなんて何考えてるんだ? 言っちゃなんだが帝国においてギルノーツなんて所詮ちっぽけな男爵貴族でしかないし治めてる土地も小さな場所だ。その上、ギルノーツ家の人間は行方不明者は一人、後は全員死亡したって言う話だ。領民の生き残りもいない。そんなところの家名を名乗るなんざわざわざ犯人ですと名乗り上げてるようなものだろ」
「だからオレが怪しいと?」
「そうとしか考えられないだろ? 本当にどういうつもりでギルノーツの名を騙ってんだ? 仮にギルノーツ家に連なる血筋だったとしてもだ、帝国紋章院に名前が載ってない。その上この前の晶柱林の騒ぎと来た。明らかにおかしいだろ? 魔物に食われておきながら生還するって冒険活劇かよ。何かしら細工をしてなければあり得ないね。というわけでお前くらいしか容疑者がいないんだ。いい加減に白状しろよ」
「だからオレが怪しいと?」
「そうとしか考えられないだろ? 本当にどういうつもりでギルノーツの名を騙ってんだ? 仮にギルノーツ家に連なる血筋だったとしてもだ、帝国紋章院に名前が載ってない。その上この前の晶柱林の騒ぎと来た。明らかにおかしいだろ? 魔物に食われておきながら生還するって冒険活劇かよ。何かしら細工をしてなければあり得ないね。というわけでお前くらいしか容疑者がいないんだ。いい加減に白状しろよ」
ウルムは完全に自分が犯人だと決めつけているようだった。ウルムとしてもレクトくらいしか怪しい人間の目星が付けられなかったというのもある。何より、さっさと仕事を終わらせたかったというのもある。連絡役を通して上司に仕事の進捗をせっつかれるわ、情報を集めるために昼夜問わずに調査を続ける必要があるわで疲労が溜まる一方だ。さっさと片付けてのんびり休暇でも取りたいというのが本音だった。どのようにレクトを殺すかという算段を立てようとしている時、レクトが大きくため息をついた。どこか諦観の色が混じっているようにも思える。
「もう分かった。話すよ」
「賢い選択だ。何から話してくれるんだ?」
「賢い選択だ。何から話してくれるんだ?」
ウルムはついにレクトが観念したかと思い内心浮きだつ。しかし、レクトが話す内容がウルムの想定から外れるものである可能性を除外していた。
「オレはロブロニアというギルノーツ家の爺さんが平民の母さんを手籠めにしたことで生まれた人間だ」
何かおかしな発言を聞いた気がした。ロブロニアという人間のは心当たりがある。事前にギルノーツ家の情報を確認していたからだ。ロブロニア=H=ギルノーツという、女好きかつ節操のない典型的な小物の平凡な貴族当主だ。それも周囲からの評価は相当に低いとされている。そんな男が平民を手籠めにして生まれた? どこか信じられない。
「お前……年いくつよ」
「十六くらいだな」
「おいおい……それだといい年した爺さんが性欲のままにお前の母親を手籠めにしたとしか聞こえないんだが?」
「事実だよ。いい年した爺さんが母さんを弄び不幸にしたんだ。だから、オレはギルノーツ家の血を引いた人間だってわけだ」
「……ルイニア=F=ギルノーツの妾だと言われた方がまだ話が通じるわ。でも、そんな話だけじゃお前がギルノーツの血を引いてるということには……」
「『フルーレ』が使える。お前だって前に見ていただろう?」
「十六くらいだな」
「おいおい……それだといい年した爺さんが性欲のままにお前の母親を手籠めにしたとしか聞こえないんだが?」
「事実だよ。いい年した爺さんが母さんを弄び不幸にしたんだ。だから、オレはギルノーツ家の血を引いた人間だってわけだ」
「……ルイニア=F=ギルノーツの妾だと言われた方がまだ話が通じるわ。でも、そんな話だけじゃお前がギルノーツの血を引いてるということには……」
「『フルーレ』が使える。お前だって前に見ていただろう?」
レクトは袖をまくり腕に青白く光るラインを浮かび上がらせる。ウルムは『フルーレ』発動時にはギルノーツ家の人間の身体にそう言った現象がみられることを事前に聞いていた。そしてギルノーツ家の人間しか使えないことも。それ故に事実であると認めざるを得なかった。
「なるほど……なんで帝国紋章院にお前の名前が載っていなかったか合点がいった。ロブロニアを失脚させたルイニア=F=ギルノーツがお前という存在を隠蔽したんだな。だから、その復讐のためにお前はギルノーツ家の人間を殺したということだな」
「ギルノーツ家の人間を殺したのはリベリオ=ギルノーツだ」
「ギルノーツ家の人間を殺したのはリベリオ=ギルノーツだ」
またしてもおかしな発言が出てきた。リベリオ=ギルノーツ。ルイニア=F=ギルノーツの息子でギルノーツ家の次男。ギルノーツ領殺戮事件の時に行方不明になった男の名だ。その人物がギルノーツ家の人間を殺した? ウルムは頭が痛くなってきた。
「おいおい……リベリオ=ギルノーツは行方不明って話じゃ……」
「だったら何で生きていないと断言できるんだ? 行方不明ってことなら生きてる可能性がゼロではないということだろ?」
「だとしてもだ……。ちっぽけな男爵家の次男とは言え仮にも貴族だぞ? 殺す理由がないだろ」
「最強になるためだって聞いた。リベリオがルイニアを殺した時に」
「そんな話が信じられるとでも? まだお前が殺して回ったって言う方が説得力があるぜ?」
「当時オレの年は八くらいだ。剣も握れないくらいにひ弱だったし腹違いの兄弟からはいつもいじめられてたよ。そんな子供がどうやって殺せるんだよ。仮にも力も知恵も体格も上の相手に」
「……仮にその話が事実だとしてだ。なんでお前はギルノーツ家の名を騙ってる。理由がないだろ?」
「どこかに生きているリベリオをおびき出す為だ。どこにいるかも分からない相手をただ闇雲に探したって見つかるわけがない。ギルノーツ家の名を使い続ければいつか向こうから殺しに来るかもしれない。そうすればオレがあいつを殺す機会が巡ってくるからな」
「だったら何で生きていないと断言できるんだ? 行方不明ってことなら生きてる可能性がゼロではないということだろ?」
「だとしてもだ……。ちっぽけな男爵家の次男とは言え仮にも貴族だぞ? 殺す理由がないだろ」
「最強になるためだって聞いた。リベリオがルイニアを殺した時に」
「そんな話が信じられるとでも? まだお前が殺して回ったって言う方が説得力があるぜ?」
「当時オレの年は八くらいだ。剣も握れないくらいにひ弱だったし腹違いの兄弟からはいつもいじめられてたよ。そんな子供がどうやって殺せるんだよ。仮にも力も知恵も体格も上の相手に」
「……仮にその話が事実だとしてだ。なんでお前はギルノーツ家の名を騙ってる。理由がないだろ?」
「どこかに生きているリベリオをおびき出す為だ。どこにいるかも分からない相手をただ闇雲に探したって見つかるわけがない。ギルノーツ家の名を使い続ければいつか向こうから殺しに来るかもしれない。そうすればオレがあいつを殺す機会が巡ってくるからな」
レクトの話を聞いてウルムは頭を抱えて悩むも数瞬の事だった。やはりどうしても信憑性に欠ける。『フルーレ』が使える以上ギルノーツ家の人間であるのは事実なのだろう。しかし、話を証明できる証拠がない。そうである以上はレクトの話を信じられない。故にやはり彼をギルノーツ領殺戮事件の犯人であると断定するしかなかった。
「やっぱりさ、どう考えても無理があるってそんな話……!」
ウルムは懐からナイフを抜き、同時に周囲に煙幕を張り巡らせる。ウルムに紐付けられた隷属精霊の魔法だ。相手の視界を奪い背後から急所を突く。隷属精霊のバックアップもあり自分だけは煙の中でも視界は効く。ウルムの暗殺術の十八番だった。素早く駆け出しレクトの背後に回り心臓にナイフを突きつけようとした。
しかし、ナイフを握っていた手を掴まれたかと思うとそのまま組み敷かれながら地面に叩きつけられる。それと同時に強く手を捻られたことで痛みからナイフを手放してしまった。首だけ動かしレクトを視認する。『フルーレ』を発動しているのか腕や首筋に青白いラインが浮かび上がっているのが見える。煙幕の中で正確に手を掴めたのもその力の恩恵なのだろう。
しかし、ナイフを握っていた手を掴まれたかと思うとそのまま組み敷かれながら地面に叩きつけられる。それと同時に強く手を捻られたことで痛みからナイフを手放してしまった。首だけ動かしレクトを視認する。『フルーレ』を発動しているのか腕や首筋に青白いラインが浮かび上がっているのが見える。煙幕の中で正確に手を掴めたのもその力の恩恵なのだろう。
「オレはお前を殺せる。そのことを今この場で証明できたな」
「し、正気かよ……。オレっちを殺したところでどうにかなるわけじゃないだろ? 下手したら俺の背後にいる連中も敵に回すかもしれないんだぜ?」
「し、正気かよ……。オレっちを殺したところでどうにかなるわけじゃないだろ? 下手したら俺の背後にいる連中も敵に回すかもしれないんだぜ?」
ウルムは顔を引きつらせながら脅しをかけるがレクトは険しい表情のまま微動だにしない。そればかりかさらに力を込めてウルムの腕を捻る。その痛みから苦悶の表情を浮かべる。
「だったら腕と足を折った上で魔物の群れにでも放り込めばいい。そうすればオレに疑いもかけられないし周囲も不幸な目に遭ったで納得するだろ。幸い今は誰にも見られてない。オレがお前と接触した事実も隠蔽できる。オレはまだ死ぬわけにはいかないんだ。今ここでお前を殺してでも――――――!」
「駄目だよレクト!!!」
「駄目だよレクト!!!」
ウルムの腕を折るために力を籠めようとして、背後から誰かに抱き着かれた。ウルムの組み伏せたまま背後に視線を向けるとコトネが必死な様子で自分の身体にしがみついているのが見える。
「やめて……、そんな怖いことしないで……。わたしを助けてくれたレクトがそんなことするのやだよ……」
そんなコトネの様子を見てレクトは逡巡の末にウルムの手を離しそのまま立ち上がる。そしてコトネを連れてウルムの前から立ち去った。ウルムはレクトとコトネが立ち去るのを見送りながら屈辱に震えていた。たかだか一冒険者に後れを取った上に情けを掛けられた。そのことが屈辱であった。同時に同僚や上司に知られる訳にもいかなかった。カルツェン猟兵隊に所属する人間があろうことか暗殺に失敗した上に情けを掛けられ見逃されるなど失笑もの、万死に値するものとして指を差されて嘲られるだろうことが容易に想像できた。しかし、今のでレクト=ギルノーツには一人で勝てないことを思い知らされた。その上このような失態をしておいて同僚に頼ることもできない。ウルムにできることはただ屈辱に打ちひしがれることだけであった。
レクトとコトネは無言で表通りまで続く道を歩いていた。双方の間でどこか気まずい空気が漂っている気がした。
「……なんで止めたんだよ」
先に口を開いたのはレクトだった。先ほどのウルムとのやり取りのことを言っているのだろう。何故止めたのか、コトネにも分からなかった。ただレクトがウルムを地面に叩きつけた瞬間、レクトの方から殺意を感じ取った。気が付けば体が動いていたのだ。
「……分からないよ。ただ、レクトがあんなことしようとしてるのが嫌だったからつい……」
「そっか……」
「そっか……」
そんなやり取りを交わした後も表通りまで二人はただ無言で歩き続けた。表通りに戻ると人々の喧騒で溢れかえっていた。ちょうどお昼時という時間なのか人々の往来でいっぱいだった。コトネは鍛冶屋まで戻ろうとして、レクトに手を掴まれた。彼の方を振り向くと何かもの言いたげな様子がうかがえた。
「少し、付き合ってほしい」
そしてレクトはコトネを連れて歩き出した。どこに連れていかれるのかコトネには見当もつかなかった。