前話:第八話



#9 命からがら

 突然、行政庁に来たテロリスト共がライフルを連射している。
目の前で何人もの職員が倒れていった。

そのような状況の中で私は、笑っていた。

このテーブルの設計上では内部に鉄板が組み込まれており、弾は貫通しない。
奴等が同じように連射していれば、直にリロードしなければならないはず...
その隙をついて逃げ出すしかない...!

 さっきまで派遣軍の要請を伝えに来た職員はまだ生きている。
すぐ隣にいるその職員に声をかける。

「おい、お前! 奴等がリロードする隙をついて逃げ出すぞ!」
「わ、分かりました!!」

その職員の見かけはまだ若かった。
新人なのに大変な目に遭っているものだ。

 何秒待っただろうか...
食いしばっている歯も痛くなりはじめ、これが現実のことだと実感してくる。

すると、発砲音は収まり始め、マガジンの落下して床を叩きつける音が聞こえた。

「今だ!」
と、私は叫び、出口へと走る。

若い職員は後へと続き、後ろをついてくる。

私はドアノブを回し、廊下への逃げ道を開く。

しかし、少し遅かった...
やはり、マガジンの交換時間のほうが早かったようだ。

後ろを追いかけていた彼は足を打ち抜かれ、倒れこんだ。
倒れた彼は助けてくれとでも言うように手をこっちに伸ばし、必死な顔をしている。

「ーーーー」
何かを言おうとしたのか口を開いた瞬間、脳漿を打ち抜かれ、彼の全身は床へと倒れこんだ。

 そんな状況の中、私は外へ脱出しようと動く。
銃弾が私の腕を追いかけ、貫通していった。
鋭い痛みにふらつきながら、どうにか廊下に出る。

そうすると、廊下の奥の方から何人かの足音が聞こえた。

「ーー応援到着、執務室にてテロリストの襲撃!ーー」
「ーー執務室前方にて、職員と思われる怪我人1名発見!ーー」

どうやら、駆け付けた応援隊が到着したようだ...

そう気づくと、突然めまいが起こり、意識を失った...

■  ■  ■  ■  ■

 知らない天井だ...

目が覚めると、そこはどうやら医務室のようだった。

いくらケートニアーといえど、怪我をすれば、それ相応の支障は出る。
撃たれた私の左腕は、包帯が巻かれていた。

レーシュネさん、状態はどうでしょうか?自分で報告できますか?」

振り返ると、そこには看護婦がいた。
窓から差し込む日光が重なり、若干眩しい。

「ああ、少し痛む...あの後はどうなった...?」
「状況を説明します、少々お待ちください。」

看護婦は部屋を出ていき、部屋に一人になった。



 5分ほど待っていると、部屋の戸がノックされて開いた。

「長官、回復して良かったです。」

出てきたのは、軍服を着た一人の男だった。
すこし老いている人だ、服装からも上位の軍人なのだろうと思った。

「何日か前に、臨時行政庁にテロリストが侵入してから、本部を別所へ移し対策を講じました。」
「被害はどうなった?」
「被害は...内部にいた職員の過半数が殺害されました...」

その軍人は残念そうに状況を報告した。
そして、軍人は言葉を続けた。

「また、ノルメル側にイェスカ革命主義者同盟が支援を行っていることが判明しました。」
「やはり、奴等が...」

確実となった事項に私はため息をついた。
クラナとの接触は、間接的にタリェナフ派との戦争となるだろう。

「あと、貴殿に会いたいと言ってる方がいらっしゃいます。」
「私に会いたい...?」
彼が言ったことに少し戸惑った。
行政庁の職員だろうか? それはない。
あの日に大勢の人が殺された。
私に会うという余裕も今は無いに決まってる。

 分からない点を考えていると、病室の扉が開いた。
入ってきたのは3人いた。
2人は見覚えがあった。
ゼマフェロスの訪問者の翻訳をしていたSHEPOLラムノイ君。
もう一人はその訪問者のアシュタフィテス君...

そして、あと1人は誰か分からなかった。
黒髪の短髪で金飾りをつけた青色の見慣れない上着を着ている。
その顔はなにか決意にあふれた顔をしていた。
どうやらゼマフェロスの民のようだった。

そんな中、アシュタフィテス君がお辞儀をして、何かを言った。
おそらく挨拶か何かだろう。

「レーシュネ殿、ご回復おめでとうございます。」
「お初にお目に伺います。私の名前はロスナ・ゼスナディと申します。今回は貴殿にお伝えしたいことがあって、参りました。」

彼らが言った言葉をラムノイ君は後に続いて翻訳する。
すると、突然ロスナ・ゼスナディと言った者が頭を下げた。

「私の失態において、ノルメルの騎馬兵を貴国の会議所に襲撃させてしまったこと、大変申し訳ありません。」

ノルメルの軍とは関係ないだろう彼が頭を下げたことに私は驚き、詳しく聞くことにした。
どうやら、クラナはもっと複雑なことになっていたようだ...



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最終更新:2023年07月13日 22:35