前話:第十一話


#12 不幸にあがる軍配

「では、続けて考えましょう。査察団として私も助力させていただきます」
彼女ーーターフ・アレシャ参事官ーーは言葉をつづけた。
彼女のその巨人のような覇気が場の空気を変える。
言葉の分からないアシュタフィテスとゼスナディは若干戸惑っていた。

「んじゃ、さっさと決めよ。」
ラムノイは若干不満げな顔をしている。
そんな様子のラムノイの一言で場の緊張が解けた。

「で、ではアシュタフィテス君にはキミの領民に呼びかけ、統一した市民軍を結成してもらいたい」
「はい、承知しました」
ラムノイの後につづいたレーシュネの言葉にアシュタフィテスは承諾をする。

 元々、市民による反乱は起こっており、アシュタフィテスの領地、フォルティナでもノルメル独立を謳う市民組織が結成されていた。
つまり、アシュタフィテスがそれを認め、支援をするという計画ということだった。

「ぜひ、私にも領民に呼びかけさせてください」
ゼスナディがすぐに言葉をつづける。

「私もゼマフェロスの民として協力させていただきたい」
内容は彼も計画に賛同し、自らも呼びかけるということだった。

「ああ、兵士は多いほど利益だ、高い士気にもつながる。キミの決意に託そう」
レーシュネは彼に初めて会った時からの、彼の自信、決意に満ち溢れた目を信じ、この一大計画への協力を快諾した。

「では、市民軍を正式に結成したのち、連邦軍の派遣も始めよう」
その言葉で、ゼマフェロス側の陣営は正式に市民軍を結成し、ノルメルからの独立革命を起こさせることが決まった。

「やっと、始まるな、ゼスナディ」
「ああ、共に頑張ろう。母なるこの地のために、我らが民のために」
2人は成し遂げようという決意に満ち溢れた顔つきで見合って、うなづいた。

■  ■  ■  ■  ■

 作戦を練り終わり、行政庁から領地へ帰る途中、俺は単身で馬に乗りながら戻っていた。
若干雲は淀んだ色をしており、天はその雲によって遮られていた。
今、雨が降られると困るものだ、馬を急がせよう。

その思いも空しく、途中でポツポツと小雨が降り始め、次第に雨は強くなった。
空は先よりも黒く濁り、その色は俺を急かす。
雨はスロンミーサの来訪の証というが、何故かこの雨はそうではないような気がした。

 段々と街の建物が見えてきて、俺は一安心した。
適当な家の軒下で少し雨宿りをしようか...

 馬から降りて、街の小さな門を開こうとした瞬間だった。
何者かが数人、影から出てきて俺を取り押さえた。
俺は雨で湿った土に顔を押され、少し息苦しくなる。

「スローヴェ・アシュタフィテスを国家反逆の疑いで逮捕する」

 そんな想像もつかなかった言葉に困惑し、顔を見上げる。
ああ、世は無情なものだ。
そこにいた数人は、黒縁で正面に紋章のついた帽子、紺色の軍服を着た男たち...
紛れもなくノルメルの軍だった。

俺は悟った。
自分がノルメルに目をつけられていたこと
もう最期かもしれないということを...

「お前は、他国と連携して国家転覆を謀ろうとしたという情報が入っている」
「それは...」

 一人の軍人の冷徹な言い草に何も言い返せず、俺はなるがままに軍に連行された。

 両手を縛られ、強く引っ張られながら、俺は強引にノルメル軍の荷馬車に乗せられる。
中は狭く、古く、カビ臭く、まさに奴隷のような扱いだった。

そんな馬車に乗せられ、俺はどこかに運ばれる。
多少、乗馬の経験があるとはいえ、俺は貴族でこんな馬車に乗せられる経験なんか無い。
酷い乗り心地で、何度も吐きそうになる。
今までの捕まった人は、こんな扱いを受け続けてきたのだろう...

 外はまだ雨が降っている。
黒い雲は空に垂れ込み、俺の心情を表してるようだ。
ただただ、この先のことが怖かった。

 そして、何十分か馬車に揺られていると、突然馬車が止まり、帳が上がる。

「着いたぞ、出てこい」
俺はその強い口調の言葉を言われると同時に、腕を引っ張られ外に出される。

 目の前にあったのは、石のレンガで建てられた堅牢な建物だった。
周りは堀で囲まれている。
一目で分かった、これから入れられるのは牢獄だ。

反逆を企んだ犯罪者は裁判を受ける権利もないのか...
そして、俺はノルメルの軍に連れられて、独房の中に入れられた。



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最終更新:2023年07月28日 00:45