「では、続けて考えましょう。査察団として私も助力させていただきます」
彼女ーー
ターフ・アレシャ参事官ーーは言葉をつづけた。
彼女のその巨人のような覇気が場の空気を変える。
言葉の分からない
アシュタフィテスとゼスナディは若干戸惑っていた。
「んじゃ、さっさと決めよ。」
ラムノイは若干不満げな顔をしている。
そんな様子のラムノイの一言で場の緊張が解けた。
「で、ではアシュタフィテス君にはキミの領民に呼びかけ、統一した市民軍を結成してもらいたい」
「はい、承知しました」
ラムノイの後につづいた
レーシュネの言葉にアシュタフィテスは承諾をする。
元々、市民による反乱は起こっており、アシュタフィテスの領地、フォルティナでもノルメル独立を謳う市民組織が結成されていた。
つまり、アシュタフィテスがそれを認め、支援をするという計画ということだった。
「ぜひ、私にも領民に呼びかけさせてください」
ゼスナディがすぐに言葉をつづける。
「私も
ゼマフェロスの民として協力させていただきたい」
内容は彼も計画に賛同し、自らも呼びかけるということだった。
「ああ、兵士は多いほど利益だ、高い士気にもつながる。キミの決意に託そう」
レーシュネは彼に初めて会った時からの、彼の自信、決意に満ち溢れた目を信じ、この一大計画への協力を快諾した。
「では、市民軍を正式に結成したのち、連邦軍の派遣も始めよう」
その言葉で、ゼマフェロス側の陣営は正式に市民軍を結成し、ノルメルからの独立革命を起こさせることが決まった。
「やっと、始まるな、ゼスナディ」
「ああ、共に頑張ろう。母なるこの地のために、我らが民のために」
2人は成し遂げようという決意に満ち溢れた顔つきで見合って、うなづいた。
作戦を練り終わり、行政庁から領地へ帰る途中、俺は単身で馬に乗りながら戻っていた。
若干雲は淀んだ色をしており、天はその雲によって遮られていた。
今、雨が降られると困るものだ、馬を急がせよう。
その思いも空しく、途中でポツポツと小雨が降り始め、次第に雨は強くなった。
空は先よりも黒く濁り、その色は俺を急かす。
雨は
スロンミーサの来訪の証というが、何故かこの雨はそうではないような気がした。
段々と街の建物が見えてきて、俺は一安心した。
適当な家の軒下で少し雨宿りをしようか...
馬から降りて、街の小さな門を開こうとした瞬間だった。
何者かが数人、影から出てきて俺を取り押さえた。
俺は雨で湿った土に顔を押され、少し息苦しくなる。
「スローヴェ・アシュタフィテスを国家反逆の疑いで逮捕する」
そんな想像もつかなかった言葉に困惑し、顔を見上げる。
ああ、世は無情なものだ。
そこにいた数人は、黒縁で正面に紋章のついた帽子、紺色の軍服を着た男たち...
紛れもなくノルメルの軍だった。
俺は悟った。
自分がノルメルに目をつけられていたこと
もう最期かもしれないということを...
「お前は、他国と連携して国家転覆を謀ろうとしたという情報が入っている」
「それは...」
一人の軍人の冷徹な言い草に何も言い返せず、俺はなるがままに軍に連行された。
両手を縛られ、強く引っ張られながら、俺は強引にノルメル軍の荷馬車に乗せられる。
中は狭く、古く、カビ臭く、まさに奴隷のような扱いだった。
そんな馬車に乗せられ、俺はどこかに運ばれる。
多少、乗馬の経験があるとはいえ、俺は貴族でこんな馬車に乗せられる経験なんか無い。
酷い乗り心地で、何度も吐きそうになる。
今までの捕まった人は、こんな扱いを受け続けてきたのだろう...
外はまだ雨が降っている。
黒い雲は空に垂れ込み、俺の心情を表してるようだ。
ただただ、この先のことが怖かった。
そして、何十分か馬車に揺られていると、突然馬車が止まり、帳が上がる。
「着いたぞ、出てこい」
俺はその強い口調の言葉を言われると同時に、腕を引っ張られ外に出される。
目の前にあったのは、石のレンガで建てられた堅牢な建物だった。
周りは堀で囲まれている。
一目で分かった、これから入れられるのは牢獄だ。
反逆を企んだ犯罪者は裁判を受ける権利もないのか...
そして、俺はノルメルの軍に連れられて、独房の中に入れられた。