妲己

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妲己 - (2019/03/17 (日) 09:03:37) の編集履歴(バックアップ)


妲己(だっき)とは紀元前11世紀ごろに中国に存在した「殷」王朝の君主・紂王の妃である。
後世では暴君として伝えられる紂王だが、記録によればプライドの高い部分はあったものの、
頭の回転が速い上に猛獣も素手で殺す文武両道の君主であり、
前代まで続いていた人身御供を取り止めるなど、統率者としての素質は備えていたようである。
が、有蘇氏を討った際に献上された妲己を寵愛するあまり贅沢の限りを尽くしたため民や家臣から失望され、
後の「周」の君主となる武王に国を滅ぼされたとされている。

強大な力を持っていた殷王朝の王を惑わせる美貌を持ち、
それを後ろ盾に国を滅ぼすまで傍若無人に振る舞った逸話から、中国史に残る悪女として知られている。

ちなみに、殷時代には女性のフルネームを記述する際に名から先に書いていたため、「妲」が名で「己」が姓となる。

創作物における妲己

明の時代の古典怪奇小説『封神演義』における妲己が有名。
『封神演義』とは、殷と周の王朝交代に絡めて神々が神々となった由来を描いた作品で、
その中で妲己は「九尾狐狸精」なる妖怪として登場する。
後世の創作物で妲己が「九尾の狐」として扱われるようになったのは、同作の影響が大きいとされる。

九尾狐狸精こと妲己は、紂王の無礼に怒った女神・女媧の送り込んだ三匹の女妖の長女。
女媧は「紂王を堕落させて殷が滅びる時期を早めよ」という旨の命令を出したのだが(殷王朝が滅びる事は運命によって決定済み)、
大義名分を得た妲己は己の欲望のままに暴走。
残虐な処刑方法を考案し、それらで自分の気に入らない者(主に自分に媚びない有能な政治家など)を次々に処刑。
姉妹や一族を宮中に招き入れて処刑後の死体や宮女たちを喰う、
王政に干渉し、自分たちに媚びへつらう無能な政治家や権力者を重用する、
「酒池肉林」という贅沢三昧の宴を連日催して国の財政を圧迫し、足りない分は民に重税を課す…
など、あまりに好き放題し過ぎたため女媧の怒りを買い、
最期は「私たちは女媧様の命(天命)に従っただけなのに、何故殺されなければならないのか」等の命乞いも空しく、
女媧からは「誰がここまでしろといった」とバッサリ切り捨てられ、太公望らによって討伐される。
しかも、やりたい放題やっておきながら「殷滅亡の早期化」という本来の目的は果たせなかった。

ちなみに、執筆された当時には殷の時代の風習は殆ど忘れられていたようで、
名が「妲己」で姓が「蘇」の「蘇妲己」がフルネームとされている。

日本においては、1804年に刊行された『絵本三国妖婦伝』で知られるようになったとされる。
本物の妲己を殺して身体を乗っ取った九尾の狐であり、太公望の手で肉体は喪失したものの九尾本体は逃げ伸び、
700年後に現在のインドにあたる摩竭陀国の王子「斑足太子」の妃である華陽夫人として再び表舞台に立ち、
紂王のときと同じく太子を堕落させるが、耆婆という医者に正体を看破され、薬王樹で作った杖で正体を暴かれたという。
ただし耆婆はこのとき九尾を仕留め損ねている。
その後、九尾の狐は中国に戻り、西周の王である幽王の寵姫「褒似」の姿で王に取り入ったとされる。
褒似は全く笑顔を見せない妃だったが、手違いで上げられた緊急事態の知らせの狼煙を見て駆け付けた諸侯が「無駄足」と脱力した姿を見て笑ったため、
彼女の笑顔を見たい幽王が何度も無駄に狼煙を上げたため周囲から失望を買い、西周は反乱軍に滅ぼされるが九尾の狐は逃げ伸びており、
遣唐使船に同乗し日本に降り立った
最初は藻女という名で子のいない夫婦の元に身を寄せた後、鳥羽上皇に仕える女官となって玉藻前と名を変え、
その美貌と博識から鳥羽上皇に寵愛されるようになる。
しかし、陰陽師・安倍泰成に正体を看破され、上総介広常の手でついにトドメを刺されたとされる。
なお、この泰成はかの安倍晴明の子孫。晴明の母親が「葛の葉」と言う名の白狐だとされている事を考えると、皮肉な話である。
(江戸中期の説話『泉州信田白狐伝』では、晴明が修めた秘伝と葛の葉も同じ遣唐使船で渡ってきている設定となっている)
死体は石へと変化、周囲に近づく人間や動物や次々に死ぬ事から、
「殺された怨念で毒気を出している」として『殺生石』と呼ばれるようになる。
鎮魂に訪れた高僧をも次々に昏倒させていたが、南北朝時代の僧侶・玄翁和尚により金槌で粉砕された。
金槌の別名・玄翁は彼に肖ったものである。
尚、殺生石は現在も栃木県に存在しており、毒気の正体は「有毒な火山ガス」だという事が判明している。
観光名所でもあるのだが、火山ガスは今でも吹き出ているため、濃度が高い場合は入場禁止になる。

以上の事から九尾の狐は国を跨いで人を誑かせた大妖怪として名を知られるようになり、
妲己もその化身の1つとして同じく名を知られるようになる。

近代の日本では『週刊少年ジャンプ』で連載されていた藤崎竜氏の漫画『封神演義』(通称「フジリュー版」)の印象が強い。*1
原典ではちょっと強い程度の妖怪に過ぎない(「女媧ら天界の神>仙人>>妖怪>一般人」)筈なのだが、
フジリュー版では「策士キャラにしてズバ抜けた戦闘能力を持つ才色兼備のメインヒロイン兼ラスボス(候補)」という破格の扱い*2を受け、
圧倒的な力を持った女媧に対しても下剋上を企てる程の実力者として描かれた。
なお「本物の妲己」は(家柄は良いものの)いかにもな田舎娘だったが、
妖怪狐に身体を乗っ取られたことで設定年代を完全に無視した全身タイツないしレオタード姿な今の美貌を得たと言う設定。
全体的にキャラ付けが濃い同作のキャラクターの中でも、読者に強烈な印象を残す顔役の一人となっていた。

一方の玉藻はというと、同じくジャンプで連載されていた『地獄先生ぬ~べ~』の影響で男のイメージが定着してしまい、*3
別作品の同一人物に対して初見で妲己だと思い込んだプレイヤーも多く、
正体を知っても同期前例のせいで「また女体化か」と誤解を招く結果となった(後に妲己も敵として登場)。

同時期にNHK教育テレビで放送された『天才てれびくん』の劇中劇「妖怪すくらんぶる」でも九尾が強敵として登場しており、
関連した逸話を持つ妲己の名が当時の子供達に知られるのに一役買っていた。
ちなみにこちらの九尾は、「玉藻」を名乗る女性アイドルに化けたり、妖怪の姿でも女性キャストが割り当てられていたりと、
ちゃんと原典通りの女妖怪になっている。

妖怪創作のパイオニアである『ゲゲゲの鬼太郎』では中国妖怪軍団の長であるチーが九尾の実弟とされており、
説明の過程で九尾伝説が語られることがあるが、何故かもっぱら玉藻前の名前が使われ、妲己の名前はあまり出ない。


MUGENにおける妲己

koyu@TWINT氏の妲己Rが公開中。
元々はMUGENドット絵板の企画「第2次聖板戦争」で之々氏によって考案されたキャラであり、
「改変、動画使用は自由」とされていたため、koyu@TWINT氏の手で改めて改変された経緯を持つ。

ボタンの強弱で性質が変わる飛び道具や、時間経過及び任意で下から射出する設置技など面白い技を持つ。
どこかで見たような技を使うお茶目な一面も。

7P以降は強化モードとなり、攻撃力が上昇し、専用の「九尾ゲージ」が追加される。
九尾ゲージは一定量を消費することでガードキャンセル等を行える他、
超必殺技のダメージを即死レベルにまで強化できる。
ただし、一試合で使える九尾ゲージの量は限られている。
また、8P・11Pは常時ゲージ増加、9P・12Pは常時ゲージMAXとなり、
さらに10P以上で様々なアクションに長い無敵時間が追加される。

AIもデフォルトで搭載されている。


出場大会



*1
フジリュー版は原典(当然古代中国語)を安能務氏が翻訳したものを原作としているのだが、
この翻訳版は安能氏によるオリジナル設定や独自加筆に誤訳が混じって原典とは少々趣の異なるものとなっており
(ただし、原典のほうも設定や時系列の矛盾などが多く、日本人には理解しにくい当時の風習や価値観を前提としたものであったのは確か)、
これに更に藤崎竜氏による独自解釈やオマージュ、ギャグ、時代考証完全無視のデザインや演出、少年漫画的要素などが混入した結果、
古典怪奇小説からファンタジーSF歴史異能バトル少年漫画とでもいうべき内容になってしまった。
が、引き延ばし展開で顰蹙を買い易いジャンプ漫画としては珍しく、
大きな破綻なく物語を綺麗に畳んだ名作」と評される事が多い。崑崙山2の直径は3m?知らんなぁ

*2
とはいえ悪役である事には変わりなく、原典で行った悪行三昧(+α)も普通にやらかしている。
残虐な処刑法で殺した人間を喰う、人肉ハンバーグを原材料となった人物の父親に振る舞う
一般人を洗脳して兵士として使い捨てにする等、まったく自重していない。
それでもメインヒロイン扱いされるのは「この漫画のメインヒロインは妾」と宣言しているからではなく
策略や知略を用いて太公望らを何度も絶望的な状況に陥れるが、太公望が絶体絶命の時には助けに現れるという、
太公望の一族や家族の仇にして命の恩人という奇妙な関係ゆえであろう。
また、元々少ない女性キャラが一部ギャグキャラ化・ネタキャラ化していて、
ヒロイン扱いできそうな女性キャラがあまりにも少ない事も原因と思われる。
太公望に惚れて仲間になるという女性キャラもいるのだが、何故か筋肉モリモリマッチョゴリラの変態女妖怪
(原典では美しい仙女。太公望との色恋沙汰?ないよ、そんなの)だし。
女神・女媧に至ってはリトルグレイである。
本作の妲己はこの後にインドや日本で暗躍することはないと思われるが、逆に殷の前の夏王朝の末喜(妲己の伝承と酷似しており元ネタとも言われる人物)や、
殷が衰え始めた小辛の妻・王氏や、太公望の少年時代に彼の一族・羌族を狩る指示を出した殷の后が同一人物と設定されている。
この作品のアドベンチャーゲームなどへのゲーム化は結構多く、顔役の妲己の出演も多いが、
格闘アクションゲーム出演としては『ジャンプアルティメットスターズ』のサポートコマがあり、扇で突風を撃つ2コマ、上記の誘惑能力で相手のゲージを減少させる3コマを持つ。

*3
ややこしいがこちらで「玉藻京介」を名乗っている男は玉藻前を名乗っていた九尾とは別の妖狐であり、
妖狐の大ボスとして殺生石の下に隠れて九尾も登場している。
トップクラスの実力者であり強烈なインパクトを残したが、本作では「九尾が玉藻前と名乗っていた」ことは強調されていないため誤解は解消されなかった。