じりじりと陸戦型ネウロイ達の進行方向に車体を合わせながら熱風を切り裂く。
風切り音が次第に大きくなる中で、二人の声も合わせ、上回るように大きくなっていく。 


俺「よーし中尉。運転は出来るな?」


マルセイユ「当然。まあ、お前程ではないがな」

俺「上等。運転は任せるぜ!」

マルセイユ「何をする気だ?」

俺「何って決まってんだろ?今から―――」


≪ザザッ聞こえる!?今そっちにネウロイの出現が―――!≫

マルセイユ「おおケイ。どうしたんだ?」


緊迫した声がONになっていた無線機から流れ出る。
しかし応対するマルセイユの声は基地で寛いでいる時となんら変わりがない。
返事が返ってきたことに安堵しながら、加東は観測班からの情報を焦りと共に伝えた。


≪どうしたもこうしたもないわよ!あなた達のいる領域にネウロイが――!!≫

俺「ああ、もう目視範囲だな」

≪…あなた達何をのんきな事言ってるの!?まだネウロイは気付いてないからさっさと回避しなさい!すぐに私達が出撃するから!!≫


俺「おいおいカトー、何言ってんだァ?撃破の間違いだろ?」


こいつは何を言っているんだ?司令部で無線機越しにため息を吐く。
こんな馬鹿な事を話している間にも最新の情報が次々と飛び込んでくる。
どうやらこの群れは峠を大きく迂回しながらトブルクへ直進しているらしい。

状況は最悪。最速で飛んだとしても間に合うかどうか…頭の回るネウロイに舌打ちしながら無線機に吠える。


≪あなた達武器もないのよ?それに後10分もあれば追いつくからさっさと回避しなさい!!≫


再び緊迫した声で加東は叫ぶ。
…しかし今は本当に緊急事態なのだろうか…無線の先から聞こえる音は緊急時本来の焦ったものではなく、俺の春まっ盛りな頭の中身とマルセイユの暢気な声…


俺「……ッハ!カトー!俺を誰だと思ってやがる!!」


無線機越しに朗々と笑っていた男が大きく吼える。
その声は焦りも恐れも何もない、絶対的な自信を纏いながら加東の耳に届く。
隣で「もう終わりだ」と呻いていた通信兵が顔を上げ、無線の声に耳を傾ける。

僅かな希望を運ぶその声に、思わず加東は聞き返した。


≪はあ!?≫

俺「ロマーニャ空軍第3航空団所属特殊戦略飛行隊いや、一匹支援隊隊長…否!
  ロマーニャ公国が誇る、俺だ!!そして、ロマーニャの男はなァ、女の子の前でなら世界最強だ!!」


ぐうの音も出ない。無謀としか取れないその言葉に不思議と安心する。
俺との因縁が滔々と脳裏を流れゆく。

先ほどから黙って会話を聞いていたマルセイユが唐突に吹き出し、押し黙った加東に声を送る。


マルセイユ「ははっ安心しろ、ケイ!こいつは馬鹿だ!!」

俺「ハァッハー!馬鹿でイカれたいい男!まさに俺の事じゃあねェか!!」

マルセイユ「そういうことだ、ケイ。諦めるんだな」

俺「そうだぜカトー。それに敵に背中を向けるなんて男のする事じゃねえ!!」


≪っく~~~ッああ、もう!!好きにしなさい!……2人とも、私達が着くまでに必ず生きている事。これが今出せる最高の命令よ…!≫


マルセイユ「…了解だ、ケイ!」

俺「ああ、始末書でも書きながらゆっくり来るんだな!!!」


≪今すぐ向かうわ!二人とも、絶対に死なないように!≫ッブチ


この期に及んでまで陽気な二人にセリフを叩きつけ、すぐに加東は通信を切断した。
そのままの体勢で震える加東に、背後の通信兵が各部隊への命令を聞くか聞くまいか悩み、立ちすくんでいた。

気合いを入れて声を喉まで運んだ瞬間、加東が計器を殴りつけて叫んだ。


加東「はあぁーー……あの馬鹿!!」

通信兵「あの、少佐、何が…?」

加東「…ああ、各将軍の銃兵に連絡をよろしく。三将軍の呼び戻し…なるべく早くね。どうせどっかのパブで飲んでるんだから…
   休みだからってあの三将軍は…!!」


再び計器を叩く。隣の通信兵が慌てて止めようと計器と加東の間にその身をねじ込む。
しかし入った途端に加東が周波数を変え、地上部隊へと通信を繋いでいたので急いでその補助に回った。


稲垣「えっと、ケイさん一体―――――」

加東「マイルズ聞こえる?」


≪聞こえてるわ!何?要請でも来た?≫

加東「ええ、トブルク付近に陸上型ネウロイが6体。今マルセイユと俺少尉が迎撃してるわ。」

≪…アレとマルセイユは非番じゃなかったのかしら?≫


加東「買い物帰りで遭遇よ…何考えてるか知らないけど早めに行かないとアレはともかく、マルセイユが危ないわ」 

≪確かにね。でも…わっ!危なっ、こっちも結構キツイから数人しか出せないわよ!?≫


着弾の音が無線機越しでも鮮明に響いた。マイルズ隊のウィッチ達の声が大きくなる。
砲撃音が度々入り音が時折飛ぶが、簡潔に内容を伝える。


加東「分かってるわ。出撃隊員は航空ウィッチより私とライーサ。
   陸戦ウィッチはマイルズ隊の数名とシャーロット、あと古子ね」 

≪了解!今すぐ行くわ!――管制、座標を!≫ブチッ




加東「さっき呼んだ者以外は待機!行くわよライーサ!」ダダッ

ライーサ「…了解!」(ティナの為だからね…馬鹿虎、死んでもティナを守りなさいよ!!)

稲垣「……了解」


―――――――――――――――――――――――――


一方的に切られた通信で不要になった無線機のスイッチを切る。
まだ距離は遠いが、空にはチラチラと黒点が映りだし、向かう彼らに状況の悪化を伝えた。


俺「カトーもせっかちだなァ…」ヤレヤレ

マルセイユ「さて、武器も無い状態でどう戦うんだ?飛行杯まで出てきたが」


大きく伸びをしながらマルセイユが俺に問う。
熱風に押し流される声を俊敏に俺の耳が掬いあげ、こちらからは大声で答える。


俺「ハッハー、中尉。俺には拳が、お前にゃ射撃の腕がある。これじゃあ駄目か?」

マルセイユ「いーや、最高だ」フフン


返された無茶苦茶な答えを難無く聞き取り、俺を軽く小突きながら笑い返す。
その反応に笑みを作った俺がホルスターごと愛銃を投げ渡した。


俺「はっはっは、おらよ!俺のマテバだ、大事に使ってくれ!」ポイ

マルセイユ「っな、これは競技用だろ?」


昼食時の会話を思い出しながら、マルセイユは銃を突き返した。
それを待っていたとばかりに俺が口を開く。


俺「安心しろ!3,75口径の対人用だ!!」

マルセイユ「相手はネウロイだ!!」

俺「任せろ!!」ガシッ

マルセイユ「うぇっ!?」


俺がマルセイユに渡した銃と共にその手を鷲掴む。
ぼう、と俺の手から金色の光が溢れ、その光は俺の銃―マテバ2006M―に溶けて行く…

魔法力の色でもない突如現れた金色に瞳を煌かせながらマルセイユが俺に問う。


マルセイユ「これは……?」

俺「俺の魔法を忘れたか?…攻撃特化は攻撃に使うもの、つまり『運動性のあるもの』になら全てのものに使える。
  もちろん、銃にもな!」ニイッ


俺「だが、難点が一つ!」


誇らしげに力を語る俺に、先程までの発言が虚偽ではない事を改めて実感する。
渡されたマテバを握りしめ、マルセイユが顔を上げると、間近に俺の顔が迫り、風よりも大きな声で吼えた。

鼻と鼻がぶつかるほどの距離に目を瞬かせながらマルセイユが聞き返す。


マルセイユ「なんだ?」

俺「この魔法は俺の魔法力に連動している。だから後…保って3分だ」


笑みを引っ込め、真剣な面持ちで俺が制限時間を告げた。
獣のような双眼に金の光を覗かせながら、眼前の蒼海を見つめる。
虎に見詰められる大鷲は、森然と冴えわたる瞳を見澄まし、微笑んだ。


マルセイユ「…ふふん、3分もあれば充分」

俺「…ハッ、お前ならそう言ってくれると思ってたぜ」

マルセイユ「当たり前だろ?」

俺「やっぱりお前はいい女だ。っと渡し忘れだ」ガサゴソ 


そう言ってズボンのポケットから鷲掴みにした.357マグナム弾をマルセイユに手渡す。
確かな重みが両手を出したマルセイユに伝わる。
手の大きさの違いか、3,4発がマルセイユの手からカランと落ちた。


マルセイユ「最初から入れてないのか?」

俺「使う直前に込める主義なんだ」

マルセイユ「…せめて最初の6発位入れておけ」ハア

俺「使わないからいいの!っさあ行くぜ!」ッダン!


後ろに積んであった荷物からマントを引っ掴んでボンネットに飛ぶ。その間にマントは胸の前でしっかり止め、残りの布は風に遊ばせたままにしてあった。

そのまま後ろ手にハンドルを操る。アクセルは俺が飛びあがった時にマルセイユが咄嗟に運転席に移動して踏んだようだった。
バタバタと風に遊ぶマントをうっとおしそうに掴み、フロントガラス越しに声をかけた。


マルセイユ「……マントが邪魔だ…なんでボンネットにいるんだ!前が見えないだろ!」

俺「中尉が選んでくれたんだぜ?それに…カッコいいだろ!!」キリッ!


ボンネットに腕組みをしながら立った俺が吠える。不意に操縦士がいなくなったハンドルをマルセイユが慌てて握る。
こちらを横目で見てニカッと笑う俺に、思わずマテバを突き付けた。


マルセイユ「試し撃ちが済んでなかったな…その尻に鉛玉をブチ込んでやろうか?」チャキ

俺「やめてくれ。さすがに二つも守れない…」タラ…

マルセイユ「…何の話だ?」

俺「あ、いや、コッチの話だ…」ストン


大人しく座って、また後ろ手にハンドルを握る。アクセルはマルセイユが踏んだままで的確に操って行く。
この辺りはさすが元レーサーと言った手捌きだった。





距離がだんだんと近づく中、すっくと俺が立ち上がる。そのまま瞳を引き絞り、精神を研ぎ澄まして行く。


俺「行くぜ相棒、手ェ貸せよ…」ボウ


俺の体が青い光に包まれる。そして使い魔である虎の耳と尻尾がぴょこんと飛び出してきた。
そして黄色と黒の縞模様の毛がふさふさと生え、腕に、胸に、背中などを覆い、だんだんと姿が虎に近づいて行く

ひとしきりの変化を終えると、少しばかり息を切らし、ぐるぐると唸って身震いをした。


マルセイユ「虎が使い魔なんてな…」


見たままの感想を伝える。驚きの混ざったマルセイユの声を聞き、口角が上がれば大きな犬歯が見え隠れした。
巨大な体躯に、鋭利な爪牙、鈍く黄金の輝きを放つ双眼に、腕から背後にかけて燃える金の光。
虎を纏った俺には、逃げて出したくなるようなくらいの威圧感と、そのまま食べられてしまいそうな迫力があった。

ぞっと本能が怖気を連れてくる。固まっていると、ぐるぐると虎が笑いかけてきた。


俺「ハッハ、エルドラドっつうんだ!よろしくな!」


犬歯を光らせ大きく笑う。すると、一瞬感じた恐怖はどこへやら、マルセイユは元通りに笑って正面を向いた。


マルセイユ「はいはい。で、作戦は?」

俺「…おそらく3,4とは接触するだろうな。敵さんは前後に分かれてるみてぇだ。
  大方、前衛と上の飛行杯は捨てだな。まあ偵察か何かじゃねえか?…分かってるって作戦だろ?

  ハッハー!聞いて驚け!
  俺が奴等を引きつけて殴ってる間に中尉がそいつで奴等のコアをブチ抜く!!どうだ!?」


荒く鼻息を立てて俺が吼える。内容を理解するのにさほど時間はかからなかった。
今までこんな作戦で生き残った者がいただろうか?きっと答えはNOだろう。


マルセイユ「…単純明快、だが一番難しい作戦だな」

俺「はっはっは!無茶で無謀も通せば勝ちだ!」


呆れた様に物言うマルセイユに俺が楽しげに声をかける。
広大な砂漠にたった二人、重い武器も無ければ、小賢しい命令も無い。
全ての責任を自らが背負う正真正銘の自由な戦い。

喜びと同時に、程よい緊張が湧き溢れるのを感じ、虎を見上げた。


マルセイユ「ふふん、随分と私達らしい言い分だ」

俺「だろ?……さあ、ここだな。
  中尉、このルートを真っ直ぐ行けば何事も無く基地に帰れる。危なくなったら俺は捨て行け」


マルセイユ「…ロマーニャの男は女の子の前では世界最強じゃなかったのか?」

俺「だが、何か―――」


ここまで言っておきながらまだ逃げ道を残して置く虎にむっとする。
(お前が約束を果たしたように、私も約束を果たして見せるさ)ぐっと喉で溢れそうになった思いを留めた。
自分を見上げる少女を逃がそうと声を低めた虎の言葉を遮って、マルセイユは言う。



マルセイユ「私一人位、守ってみせろ。俺」



俺「……ハッハ!そうだなァ…これが終わったら一緒にミルクでもどうだい?」

マルセイユ「乗った!ほらさっさと行け!」ベシ


はっとした顔でこちらを見下げる虎がくくっと笑い、上体を屈めてマルセイユの顎を掬う。
こういう事を言うのは慣れていない。増してやこんな事をされるのも慣れていない。
赤くなった顔を隠すように、その手ごと使い魔を呼び出してブッ叩いた。


俺「ハァッハ!…俺の後ろ、任せたぜ!!」

マルセイユ「ああ、任された!」


俺「ハァッハ!ティグレ、行くぜぇ!!!」ドゴォオ!!




バルーンタイヤを蹴り跳び出す。衝撃でタイヤがひしゃげるが知ったことではない。
そのまま熱砂の上に足をを付ける。ぐっと脚に力を込めて地を駆ける。前へ前へと飛ぶたびに、ごうごうと体に熱い砂と風が叩きつけられる。
不快なはずの感覚――これさえも今は心地よくて仕方がない。


俺(なんだ?この感覚は…!)

口元がむず痒くて仕方ない。胸が疼くって仕方ない、楽しくて仕方がない!!

俺「はは、ックハハ!ハァッハッハッハアーー!!!ふはははは!なんだこりゃあ!?」


ぐんぐんと敵との距離を真っ直ぐに詰めていく。戦術もへったくれも無いが、背中を任せられるほどの名手が背後に居る。

インカムも無い、武器も無い。味方と声を交わす事も敵わず、管制からの報告もなにも無い。応援もあと8分以上経たなければ来ない。そしてネウロイとの接触まではあと数十秒。

絶望的とも言えるこの戦況。信じられるのは己の拳。そして相棒の腕。たったこれだけ。
だがこれは、否、これほど信じられるものは無い!!


あれだけ遠かったネウロイも今や後数秒での接触範囲。さあ、戦おうではないか!スクラップメタル達よ!!


俺「女の良さも分からねえ鉄クズ野郎共に、中尉をやらせるかってんだァ!」ダンッ!


また一歩。ネウロイはすでに砲門をこちらに向けている、だが中尉には気付いていない。好都合!
陸戦型が撃ち方の準備をする微かな動作音、地を蹴る幾多の脚の回転音、
黒い鉄の体から聞こえる様々な音階の軋み。全てが手に取るように分かる。

そう、お前達の運命はすでに俺の拳の内に!

最前のネウロイとの距離3m。ぐっと脚を踏ん張り、腰を入れる。小指から拳の形を作り出す。拳を握れば轟々と揺らめく金色が力と共に己に満ちる!!


俺「歯ぁ食いしばれよ、スクラップ!!
   男の魂完全燃焼!!必殺!キャノンボールアタァアアックゥッ!!!」ドゥッ!!



ゴガシャアアアアアアア!!!


轟音と共にネウロイと俺の拳が激突する。かちあったのは一瞬、衝撃波と火花が飛び散る中、ネウロイの堅固な装甲に拳が喰い込む。
腸をえぐるような爆発の重低音が鉄の体を木霊する。一度崩壊を始めたら止まらない。そのままゴキボギと装甲が拉げ、砕け、壊れ、俺の拳が通る道を創る。

己を遮る装甲は砕いて壊す。装甲内の不可思議な金属もブチ破る。
がしゃっとガラスの割れるような音が耳に届き、のたうつ様に暴れていたネウロイの動きが停止する。

ネウロイは前方の方が酷いか、全体が衝撃でひしゃげ見るも無残な姿に変えている。もはやそこに悪魔の面影はない
コアの破壊によりその身は熱風に削られ、辺りに白いカケラが舞い散る

幻想的な砂漠の風花の中、虎はその巨躯を震わせ咆哮する。


俺「ハァッハッハッハ!!さあ、次はどいつだ!?一匹残さず狩り尽くしてやるぜぇ!!」



雷鳴の様な低音が、砂漠の大気を震わせた。



――――――――――――――――――――――

マルセイユ「っぅわった!」


俺が蹴り跳んだ衝撃で車線がぶれる。急ぎ修正するが、細かいところまでは分からない。


マルセイユ(しかし、これで既成事実が出来たというわけか…)


やっぱり逃げ道を作った俺に、ため息が漏れる。
もう子どもじゃないんだから少しは信頼して欲しいと思うが、もともとそういう奴だった。
これで処罰は全て俺が被ることになるだろう。マルセイユの行動を妨害して危険に晒したとなれば、謹慎以上は免れないだろう。


マルセイユ「やっぱり馬鹿だな…虎なのに…」ハア


しかし、いつまでも呆れている時間は無い。アクセルを踏んだまま立ち上がりネウロイにマテバを突き付ける。そして、見つめた先に広がる光景に息を飲んだ。


 一瞬わけが分からなかった。だが意味を理解した瞬間、言いようのない喜びが湧き上がって来るのを感じた。


俺はマルセイユに背を向け、正面に真っ直ぐ飛びこんでいた。上空、左右にネウロイがいるにも関わらず、真っ直ぐに中央のネウロイに金の光を纏いながら突っ込んでいく。

傍から見たら自殺志願者だろう。だが、一年前の約束を知っていれば、自殺志願者は、誇り高き虎へと姿を変える。

初めて使う銃、初めての相棒で要求される作戦にしては酷過ぎる。
だが、こんなにも心躍る作戦はない!


マルセイユ「こんな要求もこなせないほど、私は落ちていないぞ?俺ぇ!」ガチッ


ハンマーを引き、俺が拳を振りかぶるが目に映る。
俺の突貫に上空の飛行杯達が気付き、射撃を開始しようと体勢を傾ける。

だがそれよりも早くマルセイユは飛行杯に狙いを定める。
天空の王に、死角などあるものか

すっと狙いを定める。狙撃は好みではないが、今はそんな事も言っていられない。
ほわほわと金色の光を揺らすマテバを構える。己の魔法力を込め、再度コア付近に狙いを付け…撃つ!



         パンッ          ゴパァアアッ!!


軽い音とは裏腹に、遠方の飛行杯の上部が弾け飛んだ。ぐらりと体勢を崩し、周りの飛行杯達が困惑したように漂う。
中央を狙った弾丸はその狙いを大きく外し、上の部分を掠っただけだった。


マルセイユ「なんだこれ…!?反動が…」


そう、マテバ2006Mは言わずと知れた『変態』リボルバー。
通常のリボルバーならばシリンダーの最上部の弾が発射されるが、このマテバはシリンダーの最下部
…つまり手の軸線上に近い弾丸が発射されることにより、銃身の跳ね上がりを抑える…という寸法でつくられたのだが実際使ってみるとアラ不思議!

逆に反動が強くなるわ、その癖に慣れると普通のリボルバーは使い辛いわの良くも悪くも『極端』な変態銃になってしまったのだ!

だがここで諦めるほどアフリカの星は甘くなかった。


マルセイユ「さすがお遊びで造らせた銃だ!…制作元に突きつけてやる!」


立て直すまでわずか2秒。そのまま先ほど上部を砕いた飛行杯から零れる赤い光を狙い撃つ。
そして、今度こそ完璧にコアのど真ん中を撃ち抜いた。


ゴガシャアアアアアアア!!!


響く轟音。その音に紛れて上を飛ぶ飛行杯を落とす。前衛の方の飛行杯は全て落とす
視線を落とせば俺とネウロイが正面からがっぷりとぶつかっている。よく見れば俺の右腕はネウロイの装甲を軽々と突き破っていた。


マルセイユ「ネウロイを…殴った…?」


信じられないと言った表情でマルセイユは俺を見る。
無残にひしゃげたネウロイ。すでにコアに攻撃が届いていたようだ。風でネウロイの破片が舞い散って行く。

ゆっくりと体勢を正し、拳に纏う光を説いた。
すっと息を吸ったと思うと、朗々と砂漠に虎の咆哮が轟いた。


マルセイユ「ふふん、これで無茶じゃなくなったな」チャキ


大鷲は自信に溢れたその笑みを、前方で咆哮を上げる俺に零した。


――――――――――――――――――――


両サイドのネウロイが機銃を放ちながら横に滑る。


俺「ハッハッハ!そんなもんか、よっ!!」ダンッ


バック宙返りで弾幕を避け、ネウロイに機銃を浴びせる。そして宙返りからの落下でネウロイに蹴りを叩きこんで己の体勢を整え、
ジャブからの正拳突きを横っつらに叩き入れる。


ギイイイィイイイイ!! 


高周波のような音を出して刺さる拳から逃れようとするネウロイ…だが願いは叶わず、
俺が拳を抜き去った瞬間、弾丸がコアに飛びこんで行く。


俺「ハァッハー!いい腕してるなァ!!中尉!」


声は届かないが言いたくなる。それほどに精密、的確。
一瞬でもタイミングがずれれば、俺の右腕は吹き飛んでいただろう。


マルセイユ(撃ちたい時に射程から外れる、そして射撃している方向が分からないようにかく乱…これが観察眼か…?それとも…)


俺「最高に相性がいいって奴かァ?こりゃあよッ!!」バゴオオオオ!!!


前衛のネウロイが全て薙ぎ払われる。中尉も距離を着々と詰め、戦いの終わりを知らせる。



俺(あとは陸3と空の6を払えば終わりか…惜しいな…だが!)

俺「これで!!」グッ


まさに大地を踏みしめたその瞬間だった

ッギャリギャリギャリ!!

突如一体の陸戦ネウロイが進行方向を変え、トブルクの逆方向へと進み、
そして残った2体と飛行杯6体が速度を上げてトブルクへ直進して行った。


マルセイユ「俺!乗れ!」ギャリギャリ

俺「っおう!」ッド!


ターンしたキューベルワーゲンに飛び乗る。そのままひしゃげたバルーンタイヤの上に腰かけ後ろ手に運転する。
トブルクへと向かった群れに狙いを定め、ハンドルを切った。


俺「げえっ、ありゃ完全にトブルク行くぞ!」

マルセイユ「追うしかないだろ!俺、代われ!」


魂を込めるマルセイユに俺が知らせる。
急いで弾を込め終わったマルセイユが俺の手を叩き、叫ぶ。


俺「だな、…今から追走だ!」ダンッ!


再び虎は熱砂に飛び込み、追撃を試みる。


俺「どおーーーりゃぁああ!!」ズガァ!!


トブルクへひた走る陸戦の背後に思いっ切り飛び蹴りをブチ込む。
バランスを失いひっくり返る。


俺「くらえよ、鉄クズが!」バゴォッ!


そのままハイキックで背を蹴り上げ、ネウロイの鋼の巨躯を天に舞い上げる。


マルセイユ「っと」タンッ 


一発で飛行杯と陸戦型のコアを撃ち抜く。実質2分程度で完全にマテバをモノしてしまったようだ。










     この時、二人とも気が緩んでいたのかも知れない。
      時間を忘れるほどに楽しい戦闘をたった2分。

        扶桑のことわざにこんなものがある

             『油断大敵』



俺「てめえで最後だッ――――――!!?」


虎の拳が迫った瞬間、突如陸戦型ネウロイがスピンターンを繰り出し方向を180°転換
…つまりマルセイユの方向へ進行方向を変えたのだ

輝く砲門、かりかりと響く動作音…



  考えられる行動は、唯一つ。


俺「…!?マジかよ―――てめえ!!!」



咄嗟に砂を蹴り上げ、ネウロイの砲門前に飛び出す。体は届かない!

せめてもと右腕を伸ばす。届かない!!


弾丸が砲門から発射されるのが見える。狙いなんて分かりたくもない!!!


手を広げ、一発、二発と瘴気を纏った弾丸を掴み取る!螺旋を描き、掌を貫こうとする弾丸を握り止める。

そのまま右手で砲身を、力のままに掴み捻り潰す!


遅かった…三発目はすでに発射されている…追いつけ!追いつけ!!


俺「うお、おおぁあああああああああ!!!!」グァアア


指先に弾がかする…!落ちない―――!!
そのまま弾丸は真っ直ぐ中尉へ…


俺(嘘だろ、嘘だろ!?俺が…動け、動けっつってんだ!!)
俺「中尉!!!」

マルセイユ「ッツ―――――!!?」ザシュッ


ぶわりと、砂漠に深紅が舞い散った…





最終更新:2013年02月02日 12:58