加東「……何、これ」

俺「どう見てもバラだろ」

稲垣「いえ、そう言う事じゃなくて…」

俺「ほら、マミにもやるよ」


テーブルに向かう稲垣に、大きな花束からひょいと一輪のバラを渡す。
渡す折にふわりと白いレースのリボンを巻き付け、膝を折り、綺麗な所作で目の前に持って行く。


稲垣「わ、わわわ…!ありがとうございます!」


立ち上がりながら頭を撫で、可愛いマミへ、と付け加える。
さすがロマーニャ。この一言に尽きる。



本日はバレンタインデー。扶桑ではチョコレートを渡す習わしがどこぞの製菓会社からの発祥で広まり、世界ではこの扶桑流が広がりだしている。
しかしここはアフリカだ。そんなものは無い……と、言いたい所だが、将軍達のありがたい計らいのお陰で大量の氷を手に入れたのだ。
そのお陰で現在滑走路では暑苦しいバレンタインが繰り広げられている。
乱闘まで起こりそうな熱狂ぶりを少し離れた格納庫で加東達は眺めていた。


整備班長「おう俺おかえり。あ、曹長、チョコレートありがとうございます!」

加東「味わって食べなさいよ?マミが頑張って作ったんだから」

俺「ハッハッハ!手伝ってやった甲斐があるってモンだ!」

稲垣「氷の運搬と仕込み、ありがとうございました」ニコ

俺「おうよ。扶桑ではチョコを配るなんて知らなかったけどな」

加東「そういうロマーニャではバラを渡すのかしら?」

俺「ロマーニャでは恋人たちの日だぜ?告白とかじゃなくて愛を確かめ合う日さ」


恋人同士でプレゼントを渡し合ったり、夫婦同士、もしくは相手の決まった者同士で渡し合うんだ。
思い出す様に呟いた後、ぐいと酒瓶を傾ける。
なるほど。やはり国が違えば行事も違うのか。


俺「まあ、一人で関係無いって事は無かったがな」

整備班長「お前は今全ての男を敵に回した」ギッ

兵士a「そうだぞ少尉、誰もが女持ちなんて幻想だ!まやかしだ!!」

兵士b「そうですよ!俺だって可愛い彼女とすごしたいんですよォ!!」

俺「ハハーン、お前等マミのチョコはいらねえのか?喰いながら文句言いやがってよォ…」


ぐるぐると喉を鳴らし、ぎっと牙を見せる。
野次を飛ばしていた男達は口々に謝罪の言葉と稲垣に感謝を伝えながら再びテーブルの上、皿に盛られたチョコへと走る。


加東「正直でよろしい。これは晩御飯いらなそうね」

マイルズ「あーしんどかった…マミー私達はご飯必要よ……」

ペットゲン「地上は大変だったみたいですね…」

マイルズ「ガールズ達に任せて来てやったわ。マミー晩御飯は?」

稲垣「はい、今日はミートボールスパゲッティーです!俺さんには及びませんが…」

立ち上がりながら稲垣が笑えば、バラを整えていた俺がわしゃわしゃと頭を撫でる。

俺「なーに、女の子が作ってくれたってだけで最高に旨いのさ」

稲垣「…俺さんはいつもそう言います」

加東「はいはい、もう良いから行って来なさい」


加東も続けて撫で、稲垣を送る。
兵士達からラブコールを受けながら走る稲垣に、居合わせた皆が笑う。


北野「俺さんはいらないんですか?」

俺「後でくれるってよ」


クッキーをかじる北野にバラを差し出し、マイルズからの紅茶を飲む。
すいすいとその場にいたウィッチにバラを配っていく。おそらくここが最後なのだろう。
貰ったバラの絞ったような形のリボンを弄くりながら、加東が口を開いた。


加東「この虎め」

俺「ああ、でもな」

加東「?」

俺「今回は貰いに行く」


まだ大量に残ったバラ達を再び整え、花束をばさりと肩に担ぐ。
俺は夕日が射す中不敵に笑い、オレンジ色の光に融けて行った。



マイルズ「…リボンの色全部違う……細かいなぁ」

加東「向かった先がバレバレってのもあれね…いいの?ライーサ」

ペットゲン「別に?ティナが楽しければ私はそれで」


あの虎はそこらの犬より大人しいから。
ぐいっと紅茶を飲み、ペットゲンが吐き捨てるように言う。
マイルズと加東は目を合わせた後、こっそり笑った。





最終更新:2013年02月02日 13:06