ガリア パリ 俺・ペリーヌ自宅―






「…ふぁ…」

午前七時。ペリーヌは欠伸をしながら自宅の階段を下りていく。
今日の復興作業のことをまだはっきりと目覚めていない頭の片隅で考えながら、リビングの扉を開いた。

「おはよう、ペリーヌ」

扉を開いた先には、彼女と同じく復興作業に携わる俺が二人分の朝食を作っている最中だった。
ガリアに渡って以来二人は俗に言う同棲生活をしているわけだが、食事全般に関しては俺が担当していた。

「おはようございます、俺さん」

挨拶を返しつつ、定位置の椅子に腰を下ろすペリーヌの前に、ちょうど焼き上がったベーコンエッグとパンが置かれる。

「…ん、冷めない内に食べてくれ」

自分の前にも同様のものを置いて、俺も腰を下ろした。

「はい。いただきます」

「いただきます」

俺とペリーヌは互いにフォークを取り、朝食を始める。

「…やっぱり、美味しいですわね」

ベーコンエッグを一口食べたペリーヌが笑みを浮かべる。それに対し、俺ははにかみつつ答える。

「宮藤みたく上手くはいかないけどな」

「それでも、私は…」

と、少し俯くペリーヌ。
実際、ペリーヌの料理の腕前は怪しい。紅茶はともかくとして、俺が食事全般を受け持っているのはそういう訳だ。

「ま、まあまあ。ペリーヌの淹れてくれる紅茶は凄く美味いから。それだけでも十分だよ」

苦笑しながらそう言う俺は、ふと今日のことを思い出した。

「…そういえば、今日は物資と、ウィッチが一人来るんだっけ?」

俯き加減だったペリーヌが、その一言に顔を上げた。

「ええ。物資は有難いのですが…」

正直、ガリアの復興はかなり難しい。お世辞にも、物資も人出も足りているとは言えないからだ。
その旨を先日二人の上官である沢原に打診したところ、物資とウィッチを一人手配すると返答が帰ってきたのだ。

何故ウィッチを、という問いには返答が無かったことから、またあのクソ上官は何かやらかす気だ、と俺は頭を抱えた。

「まあ…それより、さっさと食って作業場に顔出そうか。どうせ来るのは昼からだしな」

俺がそう催促し、二人は食事を再開した。昼からの出来事に、期待と若干の不安を抱えながら。






―同国 同都市 作業場―






「…物資のほうはこれで全てですか?」

俺がクリップボードを手に、沢原から送られてきた物資を確認していく。

「おう、全部輸送機から引っ張り出したぜ」

それに気の良さそうな、いかにも職人といった風貌の男が答える。ガリア復興実働班の総班長である男だ。

「了解です。では、これを元に各班で物資を分けてください」

そう言って俺はチェックを終えたボードを総班長に渡す。

「おう。…そういや、嫁さんは今日は一緒じゃないのか?」

総班長の質問に、俺はつい苦笑してしまう。最早夫婦。それが俺とペリーヌへの外部の共通認識だった。

「まだ嫁じゃないっすよ。彼女は今はウィッチの方を迎えに行ってます。どうやら、そちらは物資とは別口で来るようなので」

「そうかい。じゃあ、こっちの作業は後は俺が引き継ぐから、嫁さんの方に行ってやりな。まだ一緒にいたい盛りの時期だろうしな!!」

はっはっは! と豪快に笑う総班長にもう一つ苦笑を向けてから会釈すると、俺はペリーヌのいる場所に足を向けた。

(…というか、夫婦の認識は改めてくれないのか…まあ、いいか…)

俺は歩く道すがら、ほとんど諦めのような思考を浮かべた。悪い気はしないというのが、偽らざる彼の本音ではあるのだが。






―同国 同都市 広場―






(…遅い。ですわ)

懐中時計を逐一取り出しながら、ウィッチの到着を今か今かと待ちわびるペリーヌ。

(もう、あの少将…俺さんは大層な苦労をしてきたのでしょうね…)

ペリーヌの手には、沢原からの封書が握られていた。今朝、ガリアに届いたものだ。
内容は、ウィッチだけはストライカーを用いてガリアに行くので、広場辺りで出迎えて欲しい、というものだった。

「…なんでわざわざストライカーで来させるんですの…」

思わず口に出してしまい、溜息を吐くペリーヌ。
彼女達レイヴンウィッチーズの任務には、ガリアの防衛も含まれている。それを踏まえれば、増援といった見方もできるのだが。

(…絶対、そんな意図ではありませんわね)

沢原を知って日が浅いペリーヌだが、彼をクソ上官と罵る俺の気苦労の一端を知った気がした。

と、そんなペリーヌの耳に、ストライカーのエンジン音が入ってきた。
懐中時計と封書を仕舞い、顔を上げるペリーヌ。その視線の先に、広場へ向かってくるウィッチの姿があった。

(遅いですわよ…全く…)

せめて文句の一つでも垂れてやろう、と決めたペリーヌに、ウィッチがぐんぐんと接近してくる。

(…えっと…なんでこちらへ真っ直ぐに向かってくるのかしら…?)

何故かそのウィッチは、ペリーヌの気のせいでないとしたら、彼女に向かって一直線に飛んできていた。

「え、ちょ、止まりなさい!!」

もう、気のせいではない事を悟ったペリーヌが慌てて身構えた瞬間、

「ペリーヌ中尉ぃいいいいい!!!!」

見覚えのある泣き顔がペリーヌの視界一杯に広がった瞬間、衝撃がペリーヌを襲う。最高速度では無かったとはいえ、常人ならば共倒れとなっていただろう。

「…っ…あ、貴女は…」

どうにか抱き留めたそのウィッチを見て、ペリーヌは驚きと共にその名を口にした。

「アメリー!? アメリー・プランシャール!?」

「お久しぶりです中尉~…お会いしたかったです~~!!!!」

アメリー・プランシャール。ペリーヌがテットリング基地に駐在していた頃の僚機だ。

「ちょ、アメリーさんくるしぃ…」

全力で抱き締められ、ペリーヌが悲鳴を漏らす。その声にペリーヌを抱き締める力が緩み、二人は正面から向かい合う。

「貴女…どうしてここに?」

ペリーヌがそう質問すると、さらにアメリーの目に涙が溜まっていく。

「新聞…っ…読みました…」

新聞、という言葉に一瞬心当たりが無かったペリーヌだが、すぐに俺との写真が載せられたあの新聞に思い至り、思わず目を背ける。

「ペリーヌ中尉に…ペリーヌ中尉に彼氏が出来てたなんて私知らなくて…っ」

全く理由になっていない。そうツッコミを入れようとしたが、とりあえずこれ以上泣かれたら敵わないので、アメリーを慰めにかかるペリーヌ。

と、そこへ、

「ペリーヌ、ウィッチ来たか? …あー。えっと、その子…か?」

間が悪いことに、俺が現れた。正確には、現れてしまった。

「…う…」

俺を見て、泣き止みかけていたアメリーの目に再び涙が溢れ出す。

「…俺さん…」

「え、俺何かしたか?」

広場に、何ともいえない空気が満ちた。






「えっと…改めて紹介しますわ。こちらは私の昔の僚機だった、アメリー・プランシャール軍曹ですわ」

「は、初めまして…その…俺大尉…」

ようやく落ち着いたアメリーをとりあえず座らせて、ペリーヌが俺に紹介する。

「ん、俺だ。よろしくなアメリー。あと、名前は階級無しで呼んでくれ」

俺が自己紹介して笑顔を向けると、アメリーはペリーヌの背中に隠れてしまう。その様に、俺は苦笑する。

「…嫌われてるな」

肩をすくめる俺に、アメリーは引き気味になりながらも口を開く。

「えっと…あの…あなたが嫌いなわけではなくて…その…うぅ…」

「?」

俯きながらも何かを必死に伝えようとするアメリーの言葉に、俺は耳を傾けた。

「その…俺たい…あ…俺さんは…ペリーヌ中尉の、彼氏なんですよね…?」

その質問に、俺は思わずペリーヌの方を見てしまう。何とも言いがたい表情を浮かべるペリーヌ。

「あ、ああ…まあ、そうだな…」

「やっぱり…うー…」

ペリーヌの袖を掴み、俯いて唸るアメリー。俺は何が何だか分からず、それはペリーヌも同様らしい。
と、そんな微妙な空気の中、

「ペリーヌさーん! ちょっといいですかー!?」

広場の入り口で、リーネが両手をメガホンのように口に当てて、大声でペリーヌを呼んだ。

「す、すぐ行きますわ! 俺さん…その、少しだけアメリーをお願いします…」

凄く心配そうな顔で俺とアメリーを見比べた後、リーネに駆け寄っていくペリーヌ。そのまま、二人は広場を出て行った。

「あ…」

一瞬だけペリーヌの後を追おうとしたアメリーだったが、一歩踏み出したところで足を止める。

「……」

「……」

とてつもなく気まずい空気が、二人の間に流れる。

「…えっと、アメリー?」

「…はい…」

俺がいたたまれずに声をかけると、おずおずといった様子で振り返ったアメリーが、俺を見上げる。

「…あー…俺、君に嫌われるようなことしたか?」

「ち、違うんです…その…」

先程と同じ調子で、否定だけして俯いてしまうアメリー。これには、俺もお手上げだった。

(弱ったな…どうしたものか…)

相変わらず気まずい空気は払拭できていないし、何よりアメリーがこの調子では、俺も具体的な行動を起こせない。
やれやれ、と俺が痛々しい苦笑を浮かべて頬を掻いた時、ぽつりとアメリーが言葉を零した。

「…私、元々ペリーヌ中尉の僚機だったんです…」

「ああ。さっき、そう聞いたな」

アメリーの言葉と、先程のペリーヌの紹介を照らし合わせて頷く俺。

「私は足手まといではないって言ってくれて…それで、中尉が501に行ってしまった時、凄く寂しくて…それから、ずっと中尉に会いたくて…」

ああ…と俺が内心で頷く。何となくだが、俺はアメリーの言いたい事と、俺に対するぎこちなさの理由が掴めた。
ついでに、沢原がアメリーをわざわざこちらに遣した意味も。

「この前、501が解散されて…それとガリアが解放されたって聞いて…それで、また中尉と会えるって思ったら…」

そこまで言うと、再びアメリーの目に涙が溜まる。

「そしたら、中尉は転属したって…しかも、新聞で写真を見て、彼氏が出来たって知って…うっ…ぐすっ…」

俺は、いよいよもって確信した。アメリーは、俺にペリーヌを取られたと考えているのだ。

自分の憧れた大事な人が、自分の許から去っていく…それが、怖かったのだろう。

「分遣隊長に…っ…ムリを言っ、て…沢原少将という方にこちらに来れる様にして頂いて…っぅ…えぐっ…」

それ以上は、言葉にならなかった。アメリーはただ必死に涙を手で拭って何とか言葉を紡ごうとするが、それは嗚咽にしかならない。
俺はアメリーの話を一語一句心に留め、その裏にある想いを全て噛み締めて、口を開く。

「…大丈夫だよ」

「…ふぇ…?」

不意の俺の言葉に、泣き腫らした顔を上げるアメリー。

「大丈夫。ペリーヌは、絶対に君の傍からいなくなったりしないよ。 俺も、君からペリーヌを奪うなんてことは絶対無い」

微笑みを投げかける俺に、アメリーは一瞬驚いたような表情を浮かべ、

「でも…」

「大丈夫だって」

未だに泣き止まないアメリーの頭にそっと手を置き、ゆっくりと、安心させるように撫でる俺。

「ペリーヌは君の傍からいなくなりはしないよ」

再び繰り返す俺。その言葉と行動に、アメリーの涙はゆっくりと引いていく。

「…ぅ…おれさん…」

「ん?」

未だにしゃくり上げながらも、アメリーはゆっくりと言葉を発する。

「ペリーヌさん…わたしのそばからいなくなったり…っ…しませんよね…?」

「ああ。絶対だ」

俺の笑顔とその言葉に、初めてアメリーは俺に笑顔を浮かべた。

「その…すみません…ありがとう、ございます…」

その笑顔に、自然と俺の頬も緩む。

「アメリーは本当にペリーヌが好きなんだな」

「はい! 私の自慢の方です! 模擬戦では、ずっと負けてばっかりだったんですけど…」

すでにアメリーの目には涙はなく、至極嬉しそうな顔でテットリング基地での思い出を話し出すアメリー。

「あの時は少尉でしたけど…その時から、私の憧れでした!」

嬉々として話すアメリーを俺は微笑ましく見つめて、頭に置いていた手を離す。

「あ…」

そこで、嬉しそうに話していたアメリーの口が不意に止まる。

「ん? どうした?」

首を傾げながら聞く俺に、アメリーは頬を染めながら、

「えっと…そのぅ…」

何やらもじもじしながら、上目遣いで俺を見るアメリー。

「あの…もう少し、なでてください…」

どうやら、頭を撫でられるのがお気に召したらしい。

(アメリーは誰かに似て甘えん坊なんだな)

内心でそんなことを考えながら、俺は再びアメリーの頭を撫でる。

「…なんだか、落ち着きます…」

頬を染めたまま嬉しそうに俺の手に身を委ねるアメリーを見て、小動物的な微笑ましさを感じて笑う俺。

と、その俺の後ろから、

「俺さん…浮気、ですか?」

その声に恐る恐る俺が振り返ると、そこにはいつの間に戻ってきていたのか、ペリーヌが暗い笑顔で立っていた。

「あー…えっと…」

「ペリーヌ中尉!」

俺が何か言葉を発する前に、アメリーがペリーヌに駆け寄り、抱きついた。

「ちょっ、アメリー…? 貴女、何かあったの?」

「えへへ…何でもないですよ」

先程とは違い、笑顔でペリーヌに抱きつくアメリーに何かを感じたらしく、ペリーヌは俺を見る。
俺は何を言うでもなく、苦笑を浮かべるのみに留めておいた。

彼女の想いを代弁するのは、自分は適役とは俺には思えなかった。






―同国 同都市 俺・ペリーヌ自宅―






「アメリーから大体のことは聞きましたわ」

夜。
今日一日の作業を全て終えた二人は自宅で夕食を済ませ、ペリーヌの淹れたカモミールティーを手に寝室に戻っていた。

俺とペリーヌはあの後広場で別れ、俺は復興作業に従事し、ペリーヌはリーネと共にアメリーを連れて宿舎の場所等を案内していた。

「そっか」

ベッドに腰掛けた俺は一言、特に言うことは無いと言わんばかりにカップを口に運ぶ。林檎のような香りが、俺の鼻腔一杯に広がる。

「彼女があんなことを考えていたなんて…私は、ちっとも知りませんでしたわ」

俺の隣に座るペリーヌも同じくカップを口に付けながら、ポツリと語る。

「まあ、アメリーは寂しがり屋みたいだしな。しばらくガリアにいるそうだし、しばらく一緒にいれなかった分を埋めていけばいいさ」

そう言ってペリーヌに微笑む俺。ペリーヌも、柔らかい笑顔を返す。
アメリーはリーネのいる宿舎に寝泊りすることになった。本当は俺がこの家から出て行くつもりだったが、当のアメリーがそれを遠慮したのだ。

「ええ…あ、このカモミールティーも、アメリーに教わったものなんですのよ」

そうなのか、と俺は再びカモミールティーを口に含む。先程とは、味の印象が少し変わった気がした。

「それはそうと…俺さん?」

ペリーヌがそっとカップを置くと、むすっとした顔で俺を見る。

「貴方、アメリーには随分と優しくしていたようですわね? 彼女、嬉しそうな顔で貴方の事話してましたよ」

「あー…それは…まあ、その…」

同じくカップを置き、苦笑する俺。

「全く…俺さんは…優しいんですから…」

何やら複雑そうな顔でぶつぶつと文句を垂れるペリーヌ。

「その…機嫌直してくれよ、ペリーヌ」

俺がそう言いつつペリーヌの頭をそっと撫でるが、ペリーヌはむすっとしたまま。

「…駄目です」

一言言い放つと、苦笑する俺の前で赤面しながらそっぽを向き、両手を広げるペリーヌ。

「…はいはい」

要望通り、ペリーヌを抱き締める俺。

「むぅ…」

未だに不満そうな声を上げるものの、ペリーヌも俺に腕を回す。
その内に、ペリーヌの機嫌は直ってきたようで、俺の胸元に額を擦り付ける。

「…俺さん?」

そのまま、ペリーヌが俺を呼ぶ。

「名前を、呼んでください」

ふと、そんなことを言うペリーヌに俺は首を傾げながらも、

「ん? …ペリーヌ」

言われた通りに彼女の名前を呼ぶ。

「違いますわ」

抱き締められたまま、ふるふると首を振るペリーヌ。そのまま俺を見上げ、二人の視線が愛しい距離で絡み合う。

「私の…本当の名前を、ですわ」

ペリーヌの本当の名前…と俺は一瞬考え、501に転属した際に閲覧した資料にあった名前を思い出す。

(…でも、確かペリーヌはその名前は嫌いじゃなかったっけ…?)

501の基地で坂本から聞いたことがあった。彼女は実名が嫌いで、ペリーヌと名乗っていると。
それを知っているだけに、俺はペリーヌの意図がよく分からなかった。

「…俺さん?」

ペリーヌの視線が、もしかして知らなかったか、と語る。俺は微笑んで告げる。

「もちろん知ってるよ。…ピエレッテ」

俺が口にしたその名前を、ペリーヌは目を閉じて心の内で反響させる。

「…もう一度」

「ピエレッテ」

再び呼ばれるその名前。ペリーヌは、その名前が嫌いだった。でも…

「不思議ですわね…」

ぽすん、と。再び俺の胸に額を当てて、ペリーヌは言う。

「嫌いだった名前でも、貴方に呼ばれると…なんだか、好きになれてしまいそう…」

そう言って。ペリーヌは微笑んだ。俺からはその顔は見えなかったが、俺も幸せそうに微笑む。

「…俺さん。時々なら…私を、その名前で呼んでも構いませんわ。いえ…呼んで…ください…」

恥ずかしげに言うペリーヌに、俺はそっと微笑んで、ペリーヌを抱き締める腕にそっと力を入れる。

「分かったよ、ピエレッテ」

俺の言葉に、一瞬だけ肩を震わせて、ペリーヌは再び顔を上げる。

その顔はとても幸せそうで、俺も、また幸せそうだった。






気付けば、ペリーヌは見慣れない部屋にいた。

「…これは…」

辺りを見回す。そこは、白い白い部屋。一つだけ、場違いな扉があるだけの部屋。

「ここは…?」

ペリーヌが部屋を見回していると、不意に扉が開く。

「あ、ペリーヌさん! 着替え終わったんですね!」

そこから現れたのは、今は扶桑にいるはずの宮藤だった。

「み、宮藤さん? 貴女、一体何故ここに…?」

「? どうしたんですか? わー、それにしても綺麗ですね、ペリーヌさん!」

ペリーヌの言葉に宮藤は小首を傾げると、ペリーヌの体に視線を落として感嘆の声を上げた。

「き、綺麗って…何が…え?」

ペリーヌは宮藤の視線を追って自身の体に視線を落とし、言葉を無くした。
自分が、いつもの自己調達した青い軍服ではなく、純白のドレスのような衣装を身に纏っている事に気付いたからだ。

それは、世間一般でウェディングドレスと呼ばれるものだった。

「え…え…?」

事態に付いていけずに、上手く言葉を発することのできないペリーヌ。

「さ、早く行きましょう!」

不意に宮藤がペリーヌの手を取り、歩き出そうとする。

「行くって…何処に、ですの?」

困惑しながらなんとか言葉を発するペリーヌに、宮藤はあっけらかんと、

「皆待ってますよ!」

ペリーヌの手を取ったまま、扉を開ける。眩い光がペリーヌを包み、思わず目を覆う。

「…え?」

光が収まったことを感じ取り、ゆっくりと目を開けるペリーヌ。そこで、再び言葉を失った。

彼女が立っている場所は、赤い絨毯の上だった。
その絨毯の左右には、彼女が今まで知り合ってきた全ての人たちがいる。

その中には、テットリング基地のウィッチ達、501のウィッチ達の姿もあった。

何が何だか分からずに呆然と立ち竦むペリーヌの腕を、不意に誰かが掴んだ。

「坂本…少佐…?」

「何をしているんだ? ほら行こう、ペリーヌ。彼もお待ちかねだぞ」

それは、坂本だった。彼女に腕を引かれ、ゆっくりと絨毯を歩いていくペリーヌ。一歩踏み出すたびに、左右から次々と祝福の言葉が飛び出してゆく。

そこで、ペリーヌは顔を上げた。そう遠くない絨毯の終着点、その先には、

(あ…)

彼女の、愛しい人がそこに立っていた。いつもの黒い軍服、見慣れたコートではなく、黒い正装で。

やがて、絨毯が終わる。坂本は笑顔でペリーヌの背中を押す。
その暖かな手に押され、一歩ずつペリーヌは進む。その先の、俺の許へと。

「…ピエレッテ」

俺が微笑んで、ペリーヌに手を差し伸べる。あと、数歩も無い距離。

「…俺、さん」

ペリーヌも微笑み、その手に向かって自身の手を伸ばす。

二人の手が、そっと重なる。その瞬間、再び眩い光が、彼女の視界と、彼の笑顔を包み込み―――






朝日が差し込む、暖かな部屋で、ペリーヌはゆっくりと目を覚ます。

「…あ」

むくりと上半身を起こし、いつもの習慣で眼鏡をかける。
ふと自分の体に目を落とす。ドレスなどではない、いつも彼女が寝る時に着ているネグリジェが目に映る。

(…夢、でしたのね)

ふと、ペリーヌは残念そうな表情を浮かべる。

(もう少し、見ていたかった…)

そう思えるほどに、幸せな夢だった。

視線を横に落とすと、夢で見た、愛しい人の寝顔がそこにある。ペリーヌは微笑むと、先程の夢を俺に話すかどうか、暫し考える。

夢は夢だ。時間が経てばいずれ忘れてしまう。その前に話してしまおうか。

それとも、このまま自分の胸にそっとしまっておこうか。

(もし、話したら…俺さんはどんな表情をするのかしら…)

いつものように苦笑を浮かべるのだろうか。それとも、優しく微笑んでくれるだろうか。

「ん…」

ふと、俺が身を捩る。
起こしてしまったか、と見つめるペリーヌの視線の先で、うっすらと目を開く俺。

「…ピエレッテ…?」

まだ寝ぼけているのか、ぼんやりと名前を呼ぶ俺。

くすっ、とペリーヌは微笑む。

色々と考えるのは後回しだ。ペリーヌには、何より先に、俺に言いたいことがあった。

「…おはようございます、俺さん」






――――それは、いつか見る夢。ほんの少しだけ、先の未来。彼らの歩みは、今日も続いてゆく。
最終更新:2013年02月02日 13:40