―ブリタニア 某所―







ある朝のこと。
ブリタニアのやや町外れの静かな某所。そこを、一台のバイクが場違いな音を響かせて走っている。

「…はぁ」

バイクに跨る男は溜息を吐きながら、さらにアクセルを捻る。
道は舗装されていないためやや不安定だが、グラマラス・シャーリーによるカスタムは伊達ではない。多少の障害など、全く意にも介さずに駆け抜けていく。

軽快に走っていたバイクが、打ち棄てられた小さな小屋の傍で停車する。その場所が男…俺の目的地だった。

「おい。来たぞ。いきなり呼びつけて何の用だ?」

メットを取り去り、小屋に向かって声をかける俺。今にも番が取れそうな木の扉が、ゆっくり開く。

「よう俺! 来てくれたか!」

その向こうから、人の良さそうな笑みを浮かべた一人の青年が現れた。彼の名は、パシリという。俺の古い友人だ。

「久々に手紙送ってきたと思ったら…こんな所に呼びつけやがって」

メットをバイクのハンドルに引っ掛け、俺が苦笑しながら言う。

そんな俺に、パシリは笑顔で言い返す。

「そう言うなって。二年ぶりの再会だろ? まあ中に入ってくれ。座って話そうぜ」

人のいい笑みを浮かべたまま、小屋の中を指し示すパシリ。小屋の中には、古びた椅子が見えた。
パシリの言葉に従って小屋に入り、崩れかけの椅子に腰掛ける俺。それを見計らい、パシリも俺と向かい合うように椅子にかける。

「で、だ。お前、ツンツン娘と付き合ってんだって?」

「ぶっ!? おま、何処でそれを!?」

ふっふっふ、とパシリは含み笑いを一つ置くと、懐から一枚の手紙を取り出した。

「エーリカからの手紙で知った」

ニヤニヤしながら言うパシリに、俺は頭を抱える。

「で、何処まで行ったんだ?」

「…俺の話はいいんだよ。それより、何の用でここに呼びつけたんだ?」

おっとそうだった、と言ってパシリは腰に付けたポーチに手を伸ばし、中を漁り始める。
しばらく漁った後に、

「お、あったあった!」

そう言って取り出したものは、ビンだった。ただし、ポーチに入るとは到底思えないほどの大きさの。

「超高濃度マタタビエキス圧縮対ネコ用獄滅極殺香水型兵装『ネコマッシグラ』~!」

何処からか軽快な効果音が聞こえてきそうな仕草で、パシリは揚々とそれを掲げてみせる。

「超高濃度…何だって?」

頭痛を堪えるような顔で、俺が聞き返す。

「まあ、早い話が濃厚なマタタビ臭のする香水だ。こいつをお前にやろう!」

晴れやかな笑顔でそのビンを俺に差し出すパシリ。

「…はぁ。で、こいつを貰って俺にどうしろと?」

差し出されっ放しなのも何なので、質問しつつ俺はビンを受け取る。

「猫には当然超強力に効くんだが、使い魔が猫のウィッチにもどうやら効くらしいぞ」

「…言いたいことが見えん」

「とりあえず、それはタダでやるよ! 使いたいように使ってくれ!」

笑顔でそう言い切るパシリに、俺は思わず溜息を吐いた。

「さて、折角来てもらったんだが、もう行かないといけないんだなーこれが」

渡すものを渡すと、唐突にパシリは立ち上がる。

「なんだ? 501には寄らないのか? 顔見せればエーリカが喜ぶぞ」

「ああ…行きたいのは山々なんだけどね? 今日中にこいつらをアフリカまで届けなくちゃいけなくてな…」

やや疲れたような表情で、パシリが小屋の奥を指す。俺がそちらを見ると、大小様々な木箱が積まれていた。
恐らく、でなくてもブリタニア土産だろう。そう思い至った瞬間、俺はぽんと手を打った。

「…ああ。魔女の僕(パシリ)は健在か」

そう言ってケラケラと笑う俺。

「その名で呼ぶな! 俺はただ魔女(レディ)の要望に忠実で敏感なだけだ! …ったく、整備の仕事も終わってないのに…」

反論しながらも、表情が沈み込んでいくパシリ。

「とにかく、そろそろ行くわ。ツンツン娘によろしくな」

よっと、と木箱を一つ持ち上げ、裏口に当たるであろう扉を足で開けるパシリ。そのまま、外に出ていった。
その姿を目で追っていた俺は、ふと何かを思い出してコートの内側に手を入れる。

「おい、パシリ。お届けものだ」

「ん? 俺にか?」

再び小屋に戻るパシリ。木箱は外に置いてきたのか、手ぶらだ。

「ほれ。エーリカから預かったものだ」

コートの内ポケットから取り出した手紙を、パシリに手渡す俺。

「ほう、エーリカからね…どれどれ…」

封を切り、手紙を取り出して読むパシリ。その顔が、見る間に真っ青になっていく。

「どうした? …う、わぁ…」

パシリの手元を覗き込み、手紙の内容を見た瞬間、俺の口から同情の息が漏れる。


『パシリへ。 お土産はお菓子がいいな。   エーリカ

                             追伸:楽しみにしてるからね』


たった一行、それに追伸付きの、手紙とは言えない代物。だが、それを見たパシリの顔は真っ青だ。

「おおお俺! 助けてくれ! 今から501に寄ってる暇は本当に無いの! それにお菓子も無いのぉぉお!!」

俺の肩をガクガクと揺さぶるパシリ。
恐らくパシリの心は、魔女の要望を叶えたい心境と、それが出来ない悲しい現実の間で揺れているのだろう。

しかも、叶えられなければ後が怖いというおまけ付きで。

だがしかし、そんなパシリに俺は苦笑するしかない。

「…まあ、あれだ。ドンマイだな?」

「Oh…」

パシリは、ガックリとうな垂れる。

「…あ、そういえば」

そこで、俺があることを思い出した。

「ここに来る途中で聞いたんだが…なんでも、アフリカ行きの輸送機がトラブルで離陸不可らしいぞ」

「…マジで?」

パシリの顔が、段々と蒼白になっていく。

「つ、つまり…俺はどうなるの?」

今にも震えだしそうな様子で、パシリが恐る恐る俺に尋ねる。俺は苦笑と共に、告げる。

「…アフリカには、帰れません」

「OMG」

膝を突き、床に伏すパシリ。俺は黙って、パシリの肩に手を置いた。







―第501統合戦闘航空団ブリタニア基地 ハンガー―







結局、どうしようもなくなったパシリはブリタニアで菓子を購入、俺と共に501基地に来る運びとなった。

「ああ、帰ってからが怖い…」

「…仕方ないだろ。まあエーリカに菓子渡せるだけいいと思うんだな」

ヤバイ早く帰りたい。そうパシリは言いつつも、早くも視線はストライカーのほうに向いている。

「まずは執務室行かないとな。顔見知りとはいえ、無断で基地にいたら流石のミーナ隊長も黙ってないぞ」

「Oh…それは勘弁だな」

二人がハンガーの出口に足を向けた瞬間、そこからハルトマンがふらふらとハンガーに入ってきた。

「俺ー。帰ったの? あー! パシリじゃん!」

パシリの姿を認めた瞬間、表情を輝かせて小走りでパシリに駆け寄るエーリカ。

「久しぶりー! 元気にしてた? ねえお菓子は? お菓子は?」

「よう、久しぶりだなエーリカ! って会った次の瞬間からお菓子請求かよ!?」

そう言いつつも、パシリは手に持った紙袋から先程購入した板チョコを取り出してエーリカに渡す。

「…ああ、エーリカ。パシリを執務室まで連れて行ってくれないか?」

「ん、いーよ。パシリ、こっちこっち!」

板チョコを口に銜えながら、パシリの手を取って走り出すハルトマン。おい急に引っ張るなよ、等と言いつつ素直に付いて行くパシリ。

「…さて」

一人になった俺が、手に持ったままのビンを眺める。

(香水なぁ…どうしたものか)

厳密にはただの香水では無いのだが、パシリの説明の重要なところが頭から抜けていた俺は、ペリーヌにでも渡すか、などと考えてハンガーを出た。







―同隊同基地 俺自室―







「あ…俺さん。…遅いですわよ」

俺が部屋に戻ると、定位置であるベッドに座ったペリーヌが一瞬嬉しそうな顔で出迎えた。が、すぐに表情を憮然としたものに変えてしまう。

「悪かったよ。それより、パシリが来てるぞ」

ビンをテーブルの上に置き、ペリーヌに苦笑を向けながらパシリの来訪を告げる俺。

「あら、パシリさんが? では、後で挨拶に伺いますわ」

そう言った後に、ペリーヌは俺がテーブルに置いたビンに目をやった。

「…何ですのそれ?」

「ああ…パシリに貰った。香水…だったかな?」

いるか? と俺はそれをペリーヌに手渡す。

「…ラベルも何もありませんわね。何の香水なのでしょうか…?」

ペリーヌが香水のビンを受け取ってまじまじと見つめている間に、俺はパシリの言葉を思い出していた。

(確か…ネコマッシグラ、だっけか…? マタタビがどうたらって…)

シュッ、と。スプレーのような音が部屋に染み渡る。ペリーヌが、香水を自らに吹きかけた音だった。

「…なんですのこの匂い…マタタビ?」

ペリーヌは再度香水を吹きかけ、匂いを確かめる。

「全く、香水と言うから何かと思ったら…これ、猫用じゃありません…の…?」

何やら、ペリーヌの目がとろんとして、語尾が尻すぼみになる。その様子を見て、俺はパシリの言葉を正確に喚起した。

『猫には当然超強力に効くんだが、使い魔が猫のウィッチにもどうやら効くらしいぞ』

(…おい。まさか…)

「ぺ…ペリーヌ? 大丈夫…か?」

恐る恐る俺がペリーヌに話しかける。ベッドの上に座るペリーヌはその言葉に反応を示さず、代わりに耳と尻尾が現れた。
思わず閉口した俺に向かって、ペリーヌが口を開いた。

「…にゃ?」

その瞬間、部屋の空気が凍りついた。そう感じるほどに、俺の思考は停止していた。

「にゃ…」

そんな俺にペリーヌは首を傾げた後、

「なー」

右手を軽く握り、猫が飼い主にじゃれるように俺をぽんぽんと叩く。

(お、おいおい…冗談…だろ?)

それでも反応を示さない俺にペリーヌは不満げな表情をすると、俺を叩いていた手を下ろして自分の隣の空いている場所を叩く。
座れ、という意思表示だろうか。とりあえず、俺はその通りに座る。

「にゃあ♪」

その途端に、嬉しそうに鳴いたペリーヌは俺の膝に飛び込む。

「にゃー…」

幸せそうに俺の膝に顔を押し付けるペリーヌ。段々と、俺も落ち着きを取り戻してきた。

(あー…使い魔が猫のウィッチに効くってこういうことか…もっとちゃんと話聞いとけゃよかった…)

そう思いながら、何の気無しに俺はペリーヌの頭と耳を撫でてみる。気持ち良さそうにそれに身を任せるペリーヌ。

「にゃぁ…」

(ヤバイ…結構、どころかすごい可愛い…)

俺は試しにペリーヌの喉を撫でると、ペリーヌは本物の猫のようにゴロゴロと喉を鳴らした。

「にゃあ…にゃぁ」

空いていた俺の左手を取ると、指に噛み付くペリーヌ。所謂、甘噛みだ。

(なんかもう…可愛いなぁ)

左手をペリーヌに預けたまま、右手でペリーヌの頭を撫でる俺。なにやら奇妙な空間になった俺の部屋に、ノックの音が響いた。

「俺ー。ツンツン娘いるかー? 入るぞー?」

パシリの声が廊下から聞こえてきた。そのまま、俺の返事を待たずに開かれる扉。

「ちょっ、待っ…!」

俺が声を上げかけるが、時既に遅し。パシリと、その後ろにハルトマンが連れ立って俺の部屋に入ってきた。
パシリとハルトマンの視線が、まずペリーヌに向かう。そして、何か見てはいけないような物を見てしまったという表情で今度は視線が俺に向かう。

「…あー…すまん。邪魔したな」

「あはは…続きをどうぞー…」

「待ちやがれ。話を聞きやがれ」

素早く背を向ける二人に、俺はたまらず声をかける。ここで逃げられたらたまったもんじゃない、と俺の本能が告げる。

「…にゃ?」

ペリーヌが俺の手から口を離し、二人を見る。

「…今の声、ペリーヌ…だよね?」

「俺…早速使ったのか?」

二人がゆっくりと俺とペリーヌに歩み寄り、ペリーヌをしげしげと観察する。

「…聞いた話をすっかり忘れて、そのまま渡しちゃったんだよ…」

四人の間に、微妙な空気が満ちる。そんな空気を破ったのは、ペリーヌだった。
ハルトマンを見ながら、猫がそうするように低く唸り、威嚇するような表情を見せたのだ。

「…え。私? なんかした?」

きょとんとした表情でペリーヌを見るハルトマン。そんなペリーヌの頭に俺が手を置き、

「こら、ペリーヌ。エーリカは何もしてないだろ?」

その言葉に、しゅんと耳を垂らすペリーヌ。

「にゃ…」

「…なんだ。ツンツン娘はこうなっても俺に従順なのか?」

ここに来るまでに何を聞かされたのか、ペリーヌに珍しいものでも見るかのように好奇の視線を向けるパシリ。

「にゃー……にゃっ!!」

ペリーヌが視線をゆっくりとパシリに向けた途端、突如ペリーヌが猫さながらの動きでパシリに飛び掛った。

「おわぁ! 何だ!?」

その勢いを受け止めきれずに、ペリーヌを伴って後ろに倒れるパシリ。

「痛ててて…俺が何したよ!?」

パシリが背中の痛みに耐えつつペリーヌに抗議すると、パシリに馬乗りになったペリーヌは不気味な笑みを浮かべ、両手をゆっくり持ち上げる。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!」

「Noooooooooooooooooooooo!!」

一体パシリの何が気に入らなかったのだろうか。ペリーヌは両手の爪で、パシリの顔面を猛烈に引っ掻きだしたのだ。
その様子を呆然と見つめていた俺とハルトマンだが、ふと我に変えるとペリーヌを押さえにかかった。

「お、おいペリーヌ!」

「パシリの顔が酷いことになっちゃうよー!」

二人に押さえつけられたペリーヌは尚も唸り続け、二人の手を振り払う。

「あっ、ペリーヌ!」

ハルトマンの制止も聞かず、部屋を飛び出していくペリーヌ。部屋には、ペリーヌの行動に一切の動きを奪われた三人が残った。

「目がぁ…目がぁぁあ…」

「…せめて、四足歩行になってなくて良かった」

「そういう問題じゃないんじゃないかな?」

某大佐のような呻きを上げるパシリと、妙なところで安心する俺、それに突っ込むハルトマン。
誰しもが、平常心を欠いていた。要するに、どうしようもなかった。

「…まあ、とりあえず捕まえないとヤバイよな。エーリカはパシリを頼む」

数秒の後にいち早く平常心を取り戻した俺は立ち上がり、パシリをハルトマンに任せて部屋を出る。

廊下を走りながら、俺の口から深い溜息が漏れたことは、言うまでも無い。







―同隊同基地 屋上―







「やっぱり、ここにいたか…」

俺は部屋を飛び出した後、三十分ほど基地内を探し回ったが、ペリーヌを全く見つけられなかった。
結局ペリーヌの行きそうな場所をしらみつぶしに探す方向に切り替えた俺は、最初で当たりを引き当てられたのだ。

「んぅ…すぅ…」

耳と尻尾を出したまま、ペリーヌは日向で丸まり、本物の猫のようにすやすやと寝ていた。

(…まあ、ここは日向ぼっこにはいいかもしれないけどな…)

昼過ぎの屋上は、気持ちのいい日差しが降り注いでいる。確かに、昼寝には最適だろう。

「…やれやれ…散々人を走り回らさせてこれかよ…」

実際に原因を作ったのは俺ではあるのだが、疲れの押し寄せた俺はペリーヌの横にそっと腰を下ろした。

「んー…にゃ…?」

その物音で目を覚ましたのか、ゆっくりとペリーヌが目を開く。相変わらず、口調は猫そのものだったが。

「にゃ…にゃー」

手の甲で眼鏡を押し上げて目をこすり、隣にいるのが俺だと気付いたペリーヌは、僅かに体を動かし、俺の膝を枕にするように頭を置く。

「ん? …猫みたくなっても、ペリーヌはペリーヌか」

その様子に、俺は苦笑しつつも膝に乗った頭を撫でる。

「なー…」

ご満悦な様子のペリーヌは、尻尾をゆらゆらと揺らしながら体の力を抜いた。

「よしよし…」

俺は頭と同時に、耳も弄ってやる。気持ち良さそうに鳴くペリーヌ。

「にゃぁ…」

しばらくそうしている内に、ペリーヌが脱力し切った、赤面した表情で俺を見上げる。

「…ん?」

俺もペリーヌと視線を合わせるが、返事が返ってくるわけでもない。
そのまま互いに何も言わずに見詰め合っていると、ふとペリーヌが体を起こす。

「…にゃっ♪」

ペリーヌは一鳴きすると、突然俺に正面から抱きついた。

「っ!? うわっ!」

突然の行動を予測できなかった俺はペリーヌを受け止めきれず、押し倒される形で地面に倒れる。

「てて…おい、ペリーヌ…?」

「にゃー…」

俺に覆いかぶさったペリーヌが、俺の胸元辺りに頬を摺り寄せて、満足そうに鳴く。その様を見て、つい俺は言葉を失う。

(なんだよ…そんな顔されたら、怒るに怒れないだろ…)

頬を掻き、そのままペリーヌの頭に再び手を置く俺。

「全く…猫になっても可愛い奴だな…」

「にゃぁ」

俺の言葉が理解できているのかは判別できないが、それでも幸せそうな表情を浮かべるペリーヌ。
しばらくならこのままでもいいかな、と俺が思った瞬間、ペリーヌがふと俺から顔を離す。

「…?」

思わず訝しげな顔でペリーヌを見る俺。未だに俺に馬乗りになったままのペリーヌは不意に笑顔になると、

「ペリー…んむっ!?」

そのまま、俺の顔に被さってきた。より正確に言うならば、倒れこむようにペリーヌが俺の唇を奪ったのだ。

「ん…んぅ…」

俺の唇を、自らのそれで啄ばむペリーヌ。まるで上等な餌を与えられた猫のように、ペリーヌは夢中でその行為に没頭する。

「ん、む…ん!?」

俺が事態に付いて行けずに一旦ペリーヌを離そうとした時、俺の全身が硬直した。ペリーヌが、俺の口内に舌を入れたのだ。

「ちゅ…ん、ん…」

俺の動きが止まった隙を逃さずに、ペリーヌの舌がさらに俺の口内を蹂躙する。
舌を絡ませ、歯茎の裏まで舐め取り、ややあって舌が離れる頃には、俺は憔悴しきっていた。

「はぁ…はぁ…」

戦闘や訓練後のそれとはまた違う荒い息を吐きながらも、なんとか起き上がる俺。俺にくっついていたペリーヌも、その動きに追従する。

「にゃ…ふぅ…」

ペリーヌもやや乱れた吐息で、熱に浮かされたような表情で俺を見上げる。
その様に、俺は何やら自制心や理性その他諸々の壁が突き崩されそうになり、思わず顔を背ける。

「にゃ…? にゃぁ…」

その様子に何を感じたのか、急に不安そうな表情になったペリーヌが俺に縋り付く。そんなペリーヌに、俺は視線を戻して苦笑する。

「そんな顔しないでくれ…別に、嫌いになんてなったわけじゃない」

改めて、ペリーヌの頭を耳をゆっくりと撫でる俺。俺の様子に、ペリーヌは安心した様子で俺に笑顔を向ける。

「でも、まあ…」

そう言うと、俺はペリーヌの肩を掴む。一転して、きょとんとした表情のペリーヌ。

「やられっぱなしってのは、好きじゃないな」

一瞬だけ意地悪く俺は笑うと、ペリーヌが反応を返す前に、今度は俺から唇を奪った。

「ん!?」

ペリーヌが動揺するのが、キスで触れる唇から伝わる。
内心で俺は苦笑すると、ペリーヌの後頭部に手を添えて、先程の仕返しとばかりに舌をペリーヌの口内に潜り込ませる俺。

「んん! んぅ…ちゅっ…ふぅ…」

突然の衝撃に、先程の俺と同じく硬直するペリーヌ。その隙を突くように、俺は好き勝手に舌でペリーヌの口内を弄る。
自分がやられた行為をそのままなぞるように、舌を絡ませ、歯茎まで舐めていく俺。

だが、そこでペリーヌも反撃とばかりに舌を絡めてくる。

「ん…ふ…」

「ちゅ…んむ…」

舌を絡め、唾液を取り合いながら、互いを貪り合う。やがて息が苦しくなり、どちらからともなく二人は離れた。

「にゃ…ぁ…」

やや淫靡な息遣いと共に、俺にしなだれかかるペリーヌ。

(ちょっと刺激が強すぎたか…? つか、猫ってこんなことするもんだっけか…?)

まあいいか、と俺はペリーヌを優しく抱き締める。息が整うと、ペリーヌは疲れ切ってしまったのか、瞼が下がってきた。

「ん…少し、寝るか?」

「にゃ…」

俺の言葉が通じたのかは不明だが、ペリーヌは頷くと俺に全身を預ける。そして、しばらくもしない内に寝息を立て始めた。

「…やれやれ。でもまあ、可愛いから、いいかな…」

ペリーヌの髪をゆっくり撫でていると、耳と尻尾が何の前触れもなく引っ込んだ。

「あ…香水の匂いが切れたのか…?」

ほっと一安心する俺。それと同時に、俺にも睡魔が襲い掛かってきた。

(あー…いつの間にか俺も疲れてたのかね)

ふわ、と欠伸した後にペリーヌを抱え直し、目を閉じる俺。

(少し寝かせてもらうか…まあ、大丈夫、だろ…)

その思考を最後に、ゆっくりと意識を手放す俺。

穏やかな日差しの中、寝ているはずの二人の手が自然に繋がれたことは、二人の知るところではなかった。







―同隊同基地 滑走路―







「良かったな。ミーナ隊長が気効かせてくれて」

ペリーヌが大変なことになった翌日。ミーナが手配したアフリカ行きの輸送機の前で、俺とペリーヌはパシリの見送りに出ていた。

「本当良かったよ。このまま帰れなかったらどうしようかと思っていたところだ」

そう言って、顔面に絆創膏を大量に貼り付けたパシリは本当に身震いする。そんなパシリに、俺は黙って苦笑する。

「まあ、ブリタニア土産も持って帰れるし。万事問題無しだ!」

「私は大有りでしたわよ!!」

そう言ってのけるパシリに、ペリーヌが食いつく。その様子に、パシリだけではなく俺も笑い出す。
どうやら、ペリーヌは猫と化している間の記憶が無いらしい。俺にとっては、その方が良かったのだが。

「全く…次は、ちゃんと役に立つ物を持ってきてくださいまし!」

「悪かったって。お詫びにストライカー最適化してやったろ?」

未だにぷりぷりと怒るペリーヌに、何とか機嫌をとろうとするパシリ。その様子に、俺は苦笑を禁じえなかった。

そうこうしている内に、輸送機の離陸準備が整ったらしい。パイロットが扉から半身を出して俺達に手を振った。

「さ…そろそろ行くわ。世話になったな」

パシリは荷物を抱えて、別れの挨拶を告げる。

「また来いよ。いつでも歓迎するから」

「ふん。…来ると言うのなら、歓迎してあげないことも無いですわ」

俺は笑顔で、ペリーヌはそっぽを向きながら挨拶を返す。最後にじゃあな、とパシリは言い残して輸送機に乗り込む。

二人が輸送機から少し離れてすぐに、離陸していく輸送機。
段々と小さくなっていく機影を見送り、そろそろ戻ろうかと二人が踵を返した時、

「おーい! 待て~~!!」

ハルトマンが、何やら小さな木箱を持って基地の方から走ってきた。

「…エーリカ? どうした?」

「今起きたんだけど…それより、パシリは!?」

理由は分からないが何か焦っているハルトマンに、俺とペリーヌは訳の分からないまま背後の空を指差す。

「あー…遅かったか…」

がっくりと肩を落とすハルトマン。

「えっと…エーリカ…まさかとは思うが、それ…」

俺が恐る恐る指差したそれは、昨日俺も見た記憶のある物だった。

「うん…パシリの忘れ物…これ、ハンナへのお土産なんだって…」

滑走路に、冷たい風が吹き抜けた気がした。三人はただパシリが消えていった空を見上げて、黙祷を捧げた。







―上空 輸送機内―







「OMGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!」
最終更新:2013年02月02日 13:41