202 :空の:2011/03/24(木) 16:33:57.07 ID:XN44bjTvP
確認してきたが予約はない……よな。
生存報告も兼ねてちょっと借ります。
第501統合戦闘航空団隊長ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は彼女の頭を悩ませるいくつもの問題を抱えていた。
先の襲撃が基地に与えたダメージは深刻だ。フィジカル、メンタル両面に深い爪あとが残された。
ハンガーに駐機してあったストライカーは、その整備員もろともほぼ全機を喪失した。機材は補充が利くが、熟練の整備員はそうはいかない。
もともと『オペレーション・マルス』をもって解散が決定していた部隊のこと、優秀な人材は引き抜ける状況ではなく、現在基地は扶桑海軍の人員を借り受ける形でなんとか運営されている。
そして、ウルスラ・ハルトマン……。彼女のことを考えると、ミーナの胸が痛んだ。
彼女の遺体はまだ見つかっていなかった。あるいは、見つかってはいるのだが彼女のものだとは特定されていなかった。
ネウロイのビームは生身で浴びれば骨さえ残らない。整備員達の遺体も、四肢が無事なものは一つもなかった。それどころか、「誰のどの部分か分からない肉片」が大量にあるといった有様だ。
手足、毛の付いた頭皮のかけら、腹だけ、生首、肉片と血の川。襲撃直後のハンガーは、まさに酸鼻を極める光景だった。
基地付きの女医であるアレッシア・コルチ博士による検死解剖 ―― 実際の作業は『解剖』というより『接合』といった方が近かったが ―― が行われたが、身元がはっきりしない遺体も数多く残った。
ウルスラ・ハルトマンは綺麗な少女だった。
ウィッチには見目麗しい者が多い。彼女も多分にもれず美しい、双子の姉のエーリカいるだけで場を明るくさせるような娘であるのに対し、
ウルスラはよく似た顔ながら控えめで無口な性格もあり、ふとした拍子に見かけた旅人の心を癒すような、ささやかな野花のような少女だった。
あの肉塊の中に、かつて彼女であったものがあるとは思いたくなかった。
それらもろもろはウィッチ達の士気にも大きく影を落としている。
特に仲間を失ったことのない若年のウィッチ達に影響が大きく、誰もが沈み込み、会話さえ声を潜めるように小声でなされていた。
ささやかながらも笑い声の絶えなかった少女達の仮宿は、今は夜昼となく静まり返っている。
まるで墓場のようだ、と考えてからミーナはかぶりを振った。『墓場』は不吉すぎる。特に今のこの状況には。
204 :
空の王な俺:2011/03/24(木) 16:37:58.95 ID:XN44bjTvP
この事態の元凶である、新型の不可視のネウロイについての情報が一切ないのも大きな問題だった。
ミーナは基地に対する損害よりも何よりも優先してこのネウロイについて報告したし、上層部も大きな関心を寄せていた。
同型のネウロイによる奇襲を警戒して、各地の基地には各種監視・警戒網の強化と、それでも奇襲を受けた場合のダメージコントロールについての見直しが徹底されるよう通達が渡った。
しかしながら予想に反して、この不可視型ネウロイの出現は最初の一回以来ぴたりと途絶えている。
後方警戒に使われている、故障中、生産性が悪く少数しか存在しない、さまざまな理由が推測されているが、真相は謎だ。
ネウロイの思惑など推測しようと思ってできるものではないし、そもそも彼らがものを考えることができるのか、ということからしてまだ結論は出ていない。
そもそもそんなネウロイは存在せず、501基地が奇襲に気づかなかった失態を誤魔化そうとしているだけではないか、という邪推すらある。
あるいは……。実はミーナはこれが一番可能性が高いと考えているのだが、あのネウロイはここ、501戦隊を奇襲するための、ただそのためだけの特別機だったのではないだろうか。
この基地には彼がいる。たった一人で戦線を支えていた ―― これでも表現としては控えめだろう ―― 彼が。
207 :空の王な俺 なになんか仕様変わった?サル?が凄い勢いでくるんだけど:2011/03/24(木) 16:43:33.53 ID:XN44bjTvP
彼、『空の王』を名乗る名前の無い男、は現在地下倉庫に閉じこめられている。
魔力を使い果たし、意識を失った状態で基地に連れ戻された男は、その後丸一日眠り続けた。
目覚めたとき、魔力は戻っていたが、男は抜け殻だった。
一応は罰ということで閉じ込められることになっても、一切抵抗しなかった。
簡易ベッドに座り込み、ただひたすら壁か天井を見つめている。食事すらろくに手をつけてはいないようだ。
彼はまた戦えるようになるだろうか。ヴェネツィア解放作戦、『オペレーション・マルス』まで一週間もない。
彼が一緒に戦ってくれるならそれほど心強いことはないのだが。
連合軍司令部は、彼については『そのまま拘束しておくように』と命令してきていた。完全に彼を不安要素と見なしている。
これまでの彼の戦果について十分に知っているはずなのに、たった一度の暴走で状況は一変してしまった。
確かに戦場において『死』は日常だ。それに触れただけで地上への被害も省みずあれほどの力を振りかざす彼は危険因子と見なされても仕方ないかもしれない。
しかし、とミーナは彼を内心で弁護する。
地上への被害を省みなかったといっても、実際彼があのクレーターを穿ったのはネウロイ勢力圏内に入ってからだ。完全に理性を失った、考える頭も持たない『災害』ではなかった。
そもそもウルスラは、彼にとってただの同僚などではない。他の誰かが傷ついても……あるいは戦死したとしても、彼があそこまで取り乱したかは疑わしい。
エゴイスティックだが、恋とはそういうものだ。
とにかく彼を立ち直らせることだ。正常な精神状態にあることを示すことができれば、司令部に改めて彼の参戦を具申する根拠になる。
『オペレーション・マルス』決行にあたり、連合軍は魔導ダイナモを積載した扶桑の超弩級戦艦「大和」という切り札を投入することを決定していた。
司令部によれば、その戦闘力は圧倒的であり、わざわざ暴走する危険のある個人をあてにする必要はないという。
しかし、戦場における損害は戦力差の二乗に比例する。戦力には十分すぎるということはない。
自分の部下たち ―― 家族にも等しい少女達 ―― を前線に出す身としては、男の力は諦めがたいものだ。
208 :空の王な俺:2011/03/24(木) 16:48:37.54 ID:XN44bjTvP
控えめなノック。執務室の扉が来訪者を告げる。
ミーナ「どうぞ」
芳佳「あ、宮藤です。もうすぐお食事の用意ができます」
物思いに耽っている間に朝食の時間になっていたようだ。
窓の外、薄明はとうに明けており、海鳥の鳴く声が聞こえてくる。
ミーナ「今行くわ。ありがとうね、宮藤さん」
直前までの悩みを悟られぬよう、努めて明るく返事をする。
食堂では、リーネと宮藤が配膳を始めていた。まだほとんどの隊員はやって来ていないようだ。
入り口付近にいたバルクホルンが声を掛けてきた。
バルクホルン「おはよう、ミーナ」
ミーナ「ええ、おはよう。フラウは?」
バルクホルン「まだ寝ている。今から起こしにいくところだが、ミーナも来るか?」
ミーナ「じゃあ、そうしようかしら」
209 :空の王な俺:2011/03/24(木) 16:53:22.71 ID:XN44bjTvP
襲撃以来、ミーナはなるべく多くの時間を若い隊員ら、特にエーリカと共に過ごすように気をつけていた。
バルクホルンも察しているのだろう、こうして機会を作ってくれている。
彼女も彼女で、ウルスラとは知らない間柄ではない。肉親を傷つけられる痛みを知っていることもあるのだろう、エーリカのことを気にかけているようだった。
バルクホルン「ハルトマン、朝だ。起きろ。起床時刻はとうに過ぎてるぞ」
シーツの下でエーリカの華奢な体がもぞもぞと動き、寝起きらしいくぐもった声が返ってくる。
エーリカ「あと40分……」
バルクホルン「せめて一桁にしろ……」
エーリカ「あと90分……」
バルクホルン「延ばすな!」
ミーナ「フーラーウ、もう朝ごはんができてるわ。起きないと朝食抜きよ?」
エーリカ「ええ~嫌だ~~」
もぞもぞと芋虫のようにシーツの中でぐずるエーリカ。
実の妹を失ったエーリカ・ハルトマンは、それでも一見すると普段通りに振舞っていた。
朝は今のように寝坊してバルクホルンに叱られているし、だらしのない格好で基地内をうろついているし、くだらないいたずらを仕掛けて宮藤などをからかったりもする。
211 :空の王な俺:2011/03/24(木) 17:01:06.37 ID:XN44bjTvP
その変わらなさが、むしろミーナには痛ましかった。彼女は頭のいい娘だ。そしてそれ以上に優しい娘だ。
悲しみにくれている場合ではないことを知っている。そして彼女は自分が暗い顔をすれば、周りもより悲しむことを知っている。
自分勝手に気ままに生きているように見せて、その実誰より周囲の人間のことを想っている。
撃墜数よりも、列機を必ず連れ帰ることを自慢にしているなどというエピソードは、そのまま彼女の隠しがちな内面を表している。
それでも、こんなときくらいは自分本位に感情を顕にしてもいいのに。
ミーナはそう思って、しかし口には出せない。
ただ、そっと彼女の手を握るのだった。
ミーナ「さぁ起きるの」
建前上、そんな言葉とともに。彼女の思いやりを無にしないために。そして、それでも労わりの気持ちが伝わるように。
バルクホルンが、ミーナの考えを察して反対側の手を握る。
彼女も彼女で、エーリカを叱っているようでいて、しかしそれは彼女もまた「普段通り」を意識的に実行しているだけのこと。
本心から、エーリカと悲しみを共有しようとしているのはミーナと同じだった。
バルクホルン「時刻厳守は規律の大前提だぞ」
ミーナ・バルクホルン「「せーの、」」グイッ
エーリカ「うにゃぁぁぁぁぁ~~……」
二人がかりで引っ張り出されて、エーリカが気の抜けた声を上げる。無邪気なじゃれ合い。
ミーナとバルクホルンはそのまま彼女を食堂まで引っ張っていった。
エーリカは廊下に出ても両の手を離さない二人に文句を言いながらも、どこか安心したような様子だった。
212 :空の王な俺:2011/03/24(木) 17:07:44.62 ID:XN44bjTvP
一方その頃食堂では、宮藤、リーネらが最後の配膳を行っていた。
中世の城塞を改築した基地、内装も当然ながら当時の意匠を反映しているそこに、一種場違いな味噌と焼けた魚の香りが漂っている。
エイラ「……宮藤、おかしいゾ、食器の数」
テーブルには13膳の箸やスプーン、コップが並べられていた。
男やウルスラを含めた数。
ここ数ヶ月あまり当たり前だった朝食の風景。
芳佳「ああ、これは――」
坂本「陰膳か?」
芳佳「はい」
エイラ「何だそれ?」
宮藤「扶桑では、身内が旅行や出征に家を離れてる間も、食事のときにその人の分を一膳用意する風習があるんです。そうやって、その人の無事を祈るんです」
ルッキーニ「……」
宮藤「まだそうだって決まったわけじゃありません!きっとウルスラさんは、ちょっとお出かけしてるだけです!」
リーネ「芳佳ちゃん……」
213 :空の王な俺:2011/03/24(木) 17:12:36.33 ID:XN44bjTvP
坂本「宮藤。気持ちは分かるが……、それは扶桑の風習だ。ミーナや、エーリカがどう思うかは分からん。ここは控えておけ」
坂本が慎重に言葉を選びながら言う。あまりウルスラの件には積極的に触れるべきではない。少なくとも今はまだ。
悲しみを克服したように見えても、内部では何が渦巻いているか分からないからだ。
エーリカは無論のこと、宮藤自身にしても当の本人が自覚していない場合もある。
下手をすれば、痛む傷口に触れたように反射的な暴発を招きかねない。
坂本自身、ふとした拍子に襲い来る身を切るような悲痛に未だ慣れてはいない。若い隊員らについては想像するまでもなかった。
芳佳「……はい」
宮藤は何か言いたそうではあったが、この尊敬する上官の言葉には大人しく従った。
やりとりが終わると、場には沈黙が立ち込めた。配膳し直されていく食器がカチャカチャと鳴る以外は、誰も口を開かない。
リーネ「……陛下さんの分は、私が持っていきますね」
沈黙に耐えかねたように、リーネがお盆に一膳を取るとそそくさと部屋を出て行った。
入れ違いに、エーリカをつれてミーナとバルクホルンが戻ってくる。
エーリカ「いい匂いだ~。宮藤、今日のご飯は?……どうかした?みんな。変な顔してるけど」
気まずい朝食が始まる。
214 :空の王な俺:2011/03/24(木) 17:16:44.25 ID:XN44bjTvP
朝食後。ミーナは執務室に戻らず、そのまま地下へ向かうことにした。男に会いに行くためである。
彼が正規の軍人、『STRIKE WITCHES』の一員であるなら、先の破壊行為・命令違反に関する尋問をしに行く、ということになるのだろう。
しかしあの男は今もって正式な軍人ではなく、さりとてただのゲストでもない、いわく表現しづらい立場にある。
果たして彼に対する査問・審問・尋問等の権限をミーナが持っているのか、彼女自身は分からなかったし、他の誰なら持っているのかも分からなかった。
司令部もおそらく分かっていないのではないだろうか。ということで彼に会いに行くこと、は単に会いに行く、というそれだけの言い方しかできない。
そんなとりとめもない事を考えていたミーナの背後から、坂本が声をかけた。
坂本「ミーナ、奴のところへ行くのか?」
ミーナ「坂本少佐。ええ、様子を確認しておこうと思って」
坂本「あいつをマルスで使うつもりか」
ミーナ「可能ならね。この作戦、きっと熾烈な消耗戦になる。広域制圧力に秀でた彼の固有魔法はどうしても欲しいもの」
坂本「まぁ、やつが出られるなら頼もしいという点については同意するが……」
ミーナ「不安?」
坂本「まぁ、な」
215 :空の王な俺:2011/03/24(木) 17:20:31.68 ID:XN44bjTvP
ミーナ「だからこそ、彼の状態を確認しておくことが必要だわ。彼を出撃させるかさせないか。判断するのはそれからでもいいはずよ」
坂本はミーナと違い、錯乱した男の様子とその被害を直に見ている。難色を示すのも無理はない。
辛抱強く理解を求めるミーナに、坂本はしばし逡巡したが、やがて「ふむ」と一つ息を吐いた。
坂本「そういうことなら、私も付き合おう。『鞭役』が必要だろう」
ミーナ「……ありがとう」
叱咤・挑発して奮起を促す役と、優しい言葉をかけ、同情してみせることで感情を共有し共感を引き出す役のコンビによる、いわゆる『飴と鞭』。
説得や交渉の場における有用な方法論として知られている。
男が閉じ込められている倉庫は、元々この建物が城塞であった頃には地下牢として用いられていた部屋を改装したものだ。
思いがけずして果たすことになった本来の用途に沿い、その部屋には分厚く頑丈な扉が設えられている。
ミーナ「陛下さん、起きてるかしら?」
返事はない。しかし気配はある。
ミーナ「入るわよ」
ミーナは懐から鍵を取り出すと、さび付いた鍵穴に差し込んで捻った。耳障りな金属音が廊下に響く。
216 :空の王な俺:2011/03/24(木) 17:26:57.21 ID:XN44bjTvP
部屋の中に菱形に光が差し込む。地下に設けられたそこは階上よりも涼しく、少し黴の匂いがした。
男は変わらずベッドに腰掛けたままだった。リーネが運んできた朝食は手を付けられた形跡がない。
ミーナ「少しは食べないと、体を壊すわよ」
余「……。」
ミーナ「ウルスラさんのことは……残念だったわね。いい子だった」
余「……。」
男は返事をしない。視線を向けさえしない。“飴”は今は効かないようだ。ならば次は。
目配せすると、坂本がおもむろに男の襟首を掴み捻りあげた。
坂本「いつまでそうして冬の鯰みたいにじっとしているつもりだ!悔しくはないのか、ウルスラを殺されたというのに!」
余「……余が復讐に走ったのを止めておいて、いまさら何を言う。」
男が唇の端を吊り上げる。傷口が開くように口許が歪む。
しかし今の男の言葉には覇気が全くない。坂本が気圧されることはなかった。気にするでもなく言葉を返す。
坂本「お前がネウロイだけを吹っ飛ばすなら、邪魔などしなかった」
ミーナ「まぁまぁ美緒……。数日後には、『オペレーション・マルス』が発動するわ。そこでなら、あなたの戦闘行動を止めるものは何もない」
余「興が乗らぬ。……どうでも良い。」
ふいと目をそらす。この男らしからぬ仕草だった。
219 :空の王な俺:2011/03/24(木) 17:33:36.12 ID:XN44bjTvP
坂本「負け犬め。その体たらくで、よく『空の王』などと名乗れるものだ」
余「……。」
ミーナ「美緒、言葉が過ぎるわ」
坂本「いいやミーナ、これでも足りないくらいだ。お前はウルスラを愛していたのだろう。機会を得たのに復讐に立たないとは、とんだ腰抜けだ」
ミーナ「坂本少佐、いいかげんに――」
余「そうとも……そうだとも!何もかも遅い、失われたのだ。何をしようとかの娘は帰ってはこないのだ!」
坂本「お利口な答えだ。私が以前言ったのと同じ理屈だな。お前はそれで納得しているのか?」
余「余に何を求めているのだ……」
坂本「ガッツを見せろ。武器を持って戦え。弔い合戦だ」
余「……控えよ下郎。王に指図しようとは、おこがましいぞ。」
坂本「やっと少しは元気を見せたじゃないか。なら――」
ミーナ「坂本少佐、そこまでよ。彼はまだ心身が衰弱しているわ。無理はさせられない。今日のところは、ここまでにしましょう」
ミーナは坂本を促して部屋を出ていく。コツコツと石の床に軍靴の足音が響く。ドアを出たところでミーナは足を止め、振り返った。
ミーナ「あなたの助けがあれば心強いのは確かよ。でも、あなたの悲しみも理解しているつもり。無理強いはしないわ。……ただ、私たちも同じ気持ちでいる。一人で抱え込まないで。ね?」
余「……すまぬな。」
220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/24(木) 17:35:49.77 ID:XN44bjTvP
今日はここまで。いつまでも暗くてスマソ。
何度も言い過ぎてもはや信用無いだろうけどもが、今度こそもうすぐ終わるよ。
あと2~3回。
最終更新:2013年02月02日 13:46