280 :
空の王な俺:2011/05/01(日) 15:42:44.85 ID:LZYxtaWgP
予約無かったよな……
前回のあらすじ
余「ウルスラ死んでやる気出ない。」
281 : 忍法帖【Lv=10,xxxPT】 :2011/05/01(日) 15:44:01.69 ID:NIC8yjsT0
君を待っていた 支援
282 :空の王な俺:2011/05/01(日) 15:44:39.25 ID:LZYxtaWgP
ミーナ「重症ね……」
男との接見を終えて戻る途上、ミーナがため息混じりに一言こぼした。
地下にあった独房から、既に地上施設に戻っている。声が男に届く心配はない。
坂本「そうだな。『マルス』には間に合わないかも知れん。だが、あのざまではいない方がマシだ」
ミーナ「随分辛らつね?」
やや砕けた口調。独房の中では衝突していた二人だが、いま交わす言葉に険はない。
さきほどの対立はあくまで「飴と鞭」という役割を心得た上での演出である。
坂本「いささか失望しているのは確かだ。あれではまるで駄々をこねる子どもじゃないか」
ミーナ「そんな言い方しなくても……。近しい人を亡くしたら、落胆するのは当たり前よ」
坂本「クルトのことを言っているなら済まなかった。だが、ミーナはそれでも戦い続けているだろう」
ミーナ「私は……落ち込んでる余裕が無かっただけよ。カールスラント本国を放棄しなければならないほどの激戦だったもの」
坂本「それは今だってそうだ。『オペレーション・マルス』は人類反攻の要だぞ」
ミーナ「それは、……そうだけど」
283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 15:45:15.72 ID:pt1knDsO0
おかえりよっさん!
285 :空の王な俺:2011/05/01(日) 15:50:53.34 ID:LZYxtaWgP
坂本「そもそも『戦え』と命じられれば、その意味や理由を問うことなく戦うことができるのが優秀な兵士だ。やつはその域に達していない。平たく言えば、幼いんだ」
ミーナ「そうかしら?兵士ではない、というのは確かかも知れない。でもそれは最初から分かっていたことだわ。
何しろ本人が名乗ってる。『空の王』ってね。彼は命令では戦わないわ。戦闘の主体として、意味や理由を問わないわけにはいかないのよ」
坂本「……」
ミーナ「彼には結局、ウルスラさんのため以上の
戦う理由がなかったということね」
坂本「私たちでは足りない、か」
ある意味、それが一番腹立たしい。仲間だと思っていたのに。
向こうはそうは思っていなかった。あの男にとっては、『STRIKE WITCHES』はウルスラとその他大勢でしかなかった。
裏切られたような気分だった。
ミーナ「でも、恋ってそういうものじゃない?」
坂本「ふん」
その後は沈黙が続いた。二人無言で廊下を歩く。
時刻は昼を回り、基地の廊下の床には太陽の光を窓の形に切り取った模様が規則的にならんでいる。
そのギラつく明るさに慣れたミーナの目には、基地の内部は昼間だというのにむしろ夜より暗く感じられた。
286 :空の王な俺:2011/05/01(日) 15:57:00.17 ID:LZYxtaWgP
二人が去った後、男は彼女らが来る前と同じ姿勢のまま動かなくなった。
何もする気力がわかない。ミーナらが来る前リーネが運んできた朝食にも結局手をつけていない。
怒りや憎しみの熱は消え去っていた。
代わりに胸にぽっかりと穴が開いたような空虚さがある。
胸に沸き立とうとする怒りや悲しみといった感情が、生まれた端からその穴を通じてどことも知れぬ暗く深い海へ漏れ出し続けているかのよう。
代わりに思考ともつかぬ思考、思い出に沈みこんで、胸の内にあるその虚を見つめ続けていた。
そこでは未来と過去の区別も曖昧で、いつまでだって甘い追憶の中に沈んでいられる。
少し時間が経って ―― 十数分かもしかしたら一時間以上かも知れなかったが、男は意識していなかった ―― 再び扉をノックする音が響いた。
エーリカ「よっさん、起きてる?」ヒョイ
余「寝ておる。」
エーリカ「ちょっと話したいんだ。……入るよー」ガチャガチャ
余「無視か……。」
がちゃがちゃと金属同士がぶつかる音を立てながら、錠がはずれ、扉が開いた。
こうまで堂々としていながら人目を気にしてというわけでもないだろうが、エーリカは滑り込むように独房に入ってきた。
287 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:03:36.03 ID:LZYxtaWgP
余「勝手に鍵を開けて良いのか?余は咎人という扱いであろう。」
エーリカ「こんな扉なんて、よっさんがその気になればいつだって吹き飛ばせるでしょ」
余「今の余には、どうだろうな。」
エーリカ「撃てないの?あの超“にらみつける”」
余「……興が乗らぬ。」
エーリカ「そう」
ふいと目をそらす男に、エーリカはさほど興味がなさそうに応じた。
そして生じた僅かな沈黙にも耐えかねるように、男が口を開く。
余「何の用だ?」
エーリカ「んー……」
余「用が無いなら、下れ。今しばし一人にせよ。」
エーリカ「……今は私の顔、見たくない?」
ぴくり、と男が反応し、その首がエーリカの方を向いた。
薄暗い照明が、彼女の顔に微妙な陰影をつけ、その表情を分かりづらくしている。
288 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 16:10:02.04 ID:GWU4bmf50
避難所で催促した甲斐があったぜ、やったー!
289 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:10:03.89 ID:LZYxtaWgP
エーリカ「私の顔見たら、あの子を思い出しちゃうから」
余「……そなたは辛いのか?」
エーリカ「……」
エーリカ「これ、あげる。よっさん持っててあげて」
エーリカは答えず、懐から何かを差し出した。男は怪訝に思いつつも受け取る。
ガラスが融け、フレームの曲がった眼鏡。ウルスラの遺品だった。
余「これは……。」
エーリカ「ウーシュのために悲しんでくれてありがとう。それ、あの子もきっと余っさんに持ってて欲しいと思う」
余「……。」
エーリカ「渡しときたかっただけ。じゃね」ヒラヒラ
余「待て。そなたにとっても、大事なものではないのか」
エーリカ「私には他に色々あるからさ。大丈夫」
余「……そちは余に戦えと言いにきたのではないのか?」
エーリカ「んー?別に。無理しなくていいんじゃない」
290 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:15:09.95 ID:LZYxtaWgP
余「……そちは戦うのか。」
エーリカ「まぁね」
余「そなたは強いな。余は弱い……。否、弱くなった。ウルスラだ、かの娘のせいで余は……余にはもう、戦う理由が分からぬ。」
余「余はもう戦えぬ。気力が湧かぬのだ。余はウルスラのために戦ってきた。他の何のためでもなく、かの娘ただ一人のために。」
この男らしからぬ弱音、取りとめもない言葉。ともすれば人類への裏切りでもあるような独白。
しかし韜晦でも偽悪でもなく本音だ、とエーリカは直感で理解していた。
もともとこの男は言葉を器用に繰ったり、舌先三寸で他者を弄したりするような人間ではない。
エーリカ「……いいよ。仕方ない。よっさんは十分、十分過ぎるくらい戦ってきたよ。
それに、自分自身より大事なひとを見つけたってことでしょ。きっとそれは、弱さじゃないよ」
余「だが愛した娘一人、護ることはできなかった。……愛しているとさえ、まだ告げていなかった。」
エーリカ「あの子は知ってるよ。そこまで想ってもらってたこと。よっさん分かりやすいもん。きっと……幸せだったと……」
言葉が途切れる。
292 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:21:35.21 ID:LZYxtaWgP
共有する喪失の痛みが、二人を結びつける。
どちらともなく縋りつき、痛みに耐える者が何かにしがみつくようにお互いを抱きしめた。
エーリカ「……」
余「……」
ウルスラと同じ匂いが男の鼻腔をくすぐる。
エーリカの声が震えている。ウルスラと良く似た声が。
エーリカ「私も寂しいよ……!」
静かにすすり泣く声が、地下に響いていた。
294 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:27:13.34 ID:LZYxtaWgP
数日後、1945年8月某日。
その日のアドリア海は夏の盛りであるというのにやけに気温が低く、空は分厚い雲に覆われ、今にも降り出しそうな空模様だった。
その日人類連合ロマーニャ方面軍は、最重要戦略目標であるヴェネツィア上空のネウロイの巣攻略作戦『オペレーション・マルス』を発動した。
ヴェネツィア沖、数十kmの海上に三十隻近い大艦隊が展開、迎撃に現れたネウロイに対する対空防御陣形を形成している。
空母天城から艦載機が発進していく。それを横目に、『STRIKE WITCHES』が作戦前最後のブリーフィングをしていた。その場にある影は、11。男はいない。
ミーナ「本作戦における私たちの役割は、大和の護衛。大和がネウロイ化して巣を撃破するまでの間、これを守り抜きます」
そこで言葉を切り、全員の顔を見回す。皆緊張した面持ち。
ペリーヌ「結局、陛下さんは来ませんでしたわね」
リーネ「私たちだけで大丈夫でしょうか……」
ミーナ「……フラウ、あなたはどう?本当に戦えるの?」
エーリカ「大丈夫だよミーナ。大丈夫、本当に。それに、余っさんいないのに私まで抜けたら、作戦になんないでしょ?」
バルクホルン「見くびるなよハルトマン。お前や奴がいない程度で戦えなくなるような『STRIKE WITCHES』ではない」
295 : 忍法帖【Lv=20,xxxPT】 空の王な俺:2011/05/01(日) 16:33:29.04 ID:LZYxtaWgP
坂本「そうとも。ウィッチに不可能はない。それに、そんな弱気をあの男が見たらなんと言うと思う?」
シャーリー「きっとこうだぜ。『なんだ、やはり余抜きでは何もできぬようだな。ぬははははは!』」
ルッキーニ「ぬははははは!」
声色を使い、わざと憎憎しげに踏ん反りかえって笑うシャーリーとルッキーニ。
バルクホルン「目に浮かぶようだな……」
エイラ「ムカつくナ」クスクス
坂本「そういうことだ。私たちは丸一年近く、このロマーニャの地獄の持久戦を耐え抜いてきた。あの男無しでだ。いまさら頼らねばならない理由はない。
私はミスをしない、お前たちもミスをしない。それだけで全て丸く収まる」
ミーナ「そう、その通り。だからフラウも、皆も気負いすぎないで。必ず全員で帰還するの、これは命令よ」
ウィッチーズ「「了解!」」
散開。小隊単位で担当区域に分散、『STRIKE WITCHES』は邀撃戦闘に入る。
296 : 忍法帖【Lv=20,xxxPT】 空の王な俺:2011/05/01(日) 16:39:18.92 ID:LZYxtaWgP
巣から産生された無数の円盤型ネウロイが雲の天井を侵食するカビのように迫ってくる。
実際にはその円盤は時速数百kmという高速で殺到してきているのだが、見る者にその速度を錯覚せしめるほどの、文字通り雲霞のごとき大群である。
第一波、その先陣がさっそく大和に照準を合わせ、ビームを放つ。
芳佳「やらせない!」
宮藤の巨大なシールドが、超弩級戦艦大和の実に前半分を覆う規模で展開され、ビームを弾く。
ネウロイ先頭集団は構わず再攻撃にかかろうとするが、その前にリーネの放った大口径のライフル弾が次々に突き刺さる。爆発。
リーネ「大丈夫?芳佳ちゃん」
宮藤「うん、ありがとうリーネちゃん!」
ペリーヌ「あなたも、背後がお留守でしてよ!」ビリビリビリ!
リーネ「きゃっ!」
いつの間にかリーネの背後に回りこんでいた一群が、紫電の一閃を受けて爆散する。ペリーヌの援護である。
飛び散った破片のうち大きなものは、塵に分解しきらぬままリーネのシールドを雹のようにぱらぱらと叩いた。
いつの間にこれほど接近されていたのか……リーネの顔が青ざめた。
リーネ「ペリーヌさん、ありがとうございます」
ペリーヌ「どういたしまして。……あちらでも始まったようですわね」
297 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:46:45.88 ID:LZYxtaWgP
ペリーヌの見やる空では、直掩の通常航空部隊が艦隊の対空砲と連携し寡勢ながらよく敵を抑えてきた。
負けじと『STRIKE WITCHES』も、感知系の固有魔法を有する指揮官二人が管制、ときに護り、積極的にけん制して大和に執拗に迫るネウロイを打ち払っていく。
数度の波を凌いだ時点で、攻勢に一定の傾向を見てとった坂本が呟く。
坂本「大和が狙われているな」
ミーナ「ええ。彼らも今の大和が普通じゃないことに気づいているのかもしれないわね……」
ミーナ「次がここに来る前に勢いを抑える。打って出ます。バルクホルン大尉、ハルトマン中尉は先陣をお願い!」
バルクホルン「了解だ!」
エーリカ「了ー解!……とんでもない数だなぁー」
バルクホルン「ふふん、無理なら休んでるか?ちびっ子ハルトマン」
エーリカ「にひひ、そんなに優しくしないでよトゥルーデ。本当に大丈夫だからさ」
二重螺旋を描いて飛んでいく両機の吐き出す弾雨の嵐が、ネウロイの群れを切り裂いていく。
雨が降り出そうとしていた。
299 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:52:49.35 ID:LZYxtaWgP
ぱた、ぱたた。
シャーリー「お、ついに降り出した?」
ルッキーニ「嫌な天気ー……」
ぱらぱらぱら。
坂本「雨天ではネウロイの活動が鈍る。これは天佑だ」
サーニャ「でも……」
エイラ「こんなの多少鈍ってもさー……!」
ざぁぁぁぁぁ。
芳佳「くぅ、きつい……!」
リーネ「芳佳ちゃん!」
300 :空の王な俺:2011/05/01(日) 16:58:21.47 ID:LZYxtaWgP
航空母艦天城。ネウロイ化して巣に特攻をかける大和に代わり、連合艦隊の旗艦を務める。
艦橋に座する艦長、杉田大佐は双眼鏡を片手に、随伴する最終兵器、大和のネウロイ化のタイミングを図っていた。
幸い天城にも大和にもまだ直撃はない。航空部隊が踏ん張っているおかげだ。並外れた大きさのシールドが大和への直撃コースにあったビームを弾くのを、杉田はむっつりと押し黙って見つめていた。
直撃こそ無いものの、流れ弾やビームが艦の傍で派手な水柱を立てるたびに、巨人の手で叩かれるような揺れが艦橋を襲う。
同じく艦橋で大和の制御を担当している技術士官が、ついに焦れた声を上げた。
オペレータ「艦長。大和のネウロイ化、準備は完了していますが」
杉田「まだだ。巣まであと15km接近する。ネウロイ化の時間は限られているのだ」
冷徹な声で命令しながら、杉田は我知らずぎりり、と奥歯を噛み締めた。
視線の先には曇天の空よりなお黒いネウロイの群れの中で、複雑な航跡を描きながら決死の空戦を続ける航空部隊の姿がある。
そしてその向こう、巣から出撃した円盤型ネウロイ第二波。あれが到達すれば、今の微妙な均衡は一気に崩れ、空は目を覆わんばかりの地獄と化すだろう。
だがそれでも、彼らが全滅するとしても、それまでの僅かな時間を使って、1kmでも大和をネウロイの巣に接近させる。
悲壮、冷血、残酷。しかし勝利のためには必要なこと。杉田の覚悟は決まっていた。
杉田.oO(すまないが、耐えてくれ……!)
301 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:05:52.02 ID:LZYxtaWgP
一方、501戦隊基地。既にほとんどの人員が引き払われた基地で、男は未だに独り独房に閉じこもっていた。
今頃は『オペレーション・マルス』も開始している頃だろうか。彼女らは勝てるだろうか。
そこまで考えて、男は自嘲気味に首を振った。
勝利も、敗北も、余には関係ない。
敗北しロマーニャを放棄することになったとしても余の心は痛まぬ。痛める資格もない。
逆に勝利していたとしてもその、勝利に余は何ら寄与しえぬ。
余「まったく、何と情けない発想だ……。」
エーリカ・ハルトマン。かの娘も妹を亡くしたというのに戦っている。
悲しみの度合いは余に劣るものではあるまい。翻って余のこの無様さときたらどうだ?
やるべきことは分かっている。戦うことだ。王の責務でも、復讐でも、言葉の上では何でもいい。
だが、王の責務?愛しい娘一人護れず、今さら何が王か。復讐?それが何になる。
何もかも、どうでもいい。
ウルスラがいない以上、この空には何のこだわるべき物も。
302 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:12:01.83 ID:LZYxtaWgP
余「……ウルスラはなんの為に戦ったのであろうか。」
彼女について、彼女の死の意味について考えたとき、今さらながらそんな問いが浮かんだ。
自明すぎて問うまでもないことだ。彼女は自分の祖国を取り戻す為に戦っていた。
このロマーニャの地も、その第一歩だ。だからこそ彼女は、自らの命をかけてまで戦っていた。
その大地を、ネウロイの軍勢に蹂躙されるがままにするのか。
彼女と過ごした時間の全てが、本当に空虚なものになってしまったのか。
空虚にされるのを、看過するというのか。
そうさせないために、『STRIKE WITCHES』は今も戦っている。悲しみを懸命に堪えながら。
悲しいだけではない、彼女らは怖いはずなのだ。ウルスラの運命はいつ彼女ら自身に降りかかるか分からないものだ。
男は乙女らへの深い共感と敬意を覚え、そして唐突に理解した。
誰かのために戦うというのは、実はその一人のためだけに戦うということではないのだ。
ウルスラにとって大事なもの、彼女が護りたかったもの、彼女の属する世界そのものを護らねば意味がないのだ。
まだ戦いは終わっていない。
まだウルスラの為に戦うことができる。
男は顔を上げた。
303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 17:13:33.86 ID:pt1knDsO0
胸熱展開なんダナ
304 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:19:02.12 ID:LZYxtaWgP
<●><●>
ギカッ!
地下房の扉、木製の板で分厚い鉄骨を挟んだ頑丈なそれが跡形も無く消し飛ぶ。
もしかしたら鍵は開けてあったかも知れないが、どうでもいいことだった。
漂う煙を威風ともども吹き払って、男は大股で歩き出した。
誰にも会うことなく、無人のハンガーに辿り着く。ストライカーは全機発進済みで、中は閑散としていた。
その隅に、まるで無造作に、板状のストライカーユニット『玉座』が立てかけてある。
その表面をなぞると、僅かに数日分ではあるが、確実に埃が積もっていた。情けない姿だ。
余「ふっ。まったく、余に相応しい。」
小さく笑って呟き、そして顔を引き締める。
自嘲はこれが最後だ。我こそは空の王。唯一無二。君臨するもの。
あれだけ醜態を晒しておいて今さらな気がするが、立ち直りの潔さも王の器量だ、と無理やり自分を納得させておく。
滑走路に出ると、一度立ち止まって空を見上げる。厚い雲が垂れ込め、フライトには生憎の天候だ。しかし、
余「雲の上に出てしまえば関係あるまい。」
晴れやかな気持ちで、一歩目を踏み出す。一歩目が次の一歩を呼ぶ。四歩目からは小走りに。
魔力を注ぎ込まれた『玉座』の紋章が青白く輝き浮かび上がる。
数日の間に僅かに積もっていた埃が、清水に浚われるように払われていく。
九歩目でひときわ強く地を蹴り、小脇に抱えていた『玉座』に飛び乗る。
励起したエーテルが放つ燐光を尾と引いて、一気に飛び立った。
305 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:28:40.70 ID:LZYxtaWgP
ヴェネツィア近海。
雨は勢いを増している。
ミーナ『各員、報告してください!』
ミーナはインカムに向けて怒鳴った。あまりにも敵の数が多すぎて、彼女の固有魔法をもってしても味方の位置を把握しきれなくなっている。
ずいぶん前から、小隊ごとにバラバラになってしまっていた。
エイラ『こちらエイラ。無事ダ。でもサーニャが魔力切れで今から一緒に天城に帰還するゾ』
シャーリー『こちらシャーリー、ルッキーニと一緒だ。一応無事だぜ』
ルッキーニ『うじゅ~……暗くて見えにくいけど、多分艦隊の先頭らへんにいるよ』
坂本『坂本だ。後ろについてるぞ、ミーナ。大和が大群に襲われている。ペリーヌ、宮藤、リーネは大丈夫か?』
リーネ『リーネです!大変です!』
ペリーヌ『バルクホルンさんとハルトマンさんが、私達を助けるために残ってるんです!』
ミーナ『なんですって……!?』
芳佳『バルクホルンさん、戻ってください!死んじゃいやです!ハルトマンさん!』
306 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:34:41.60 ID:LZYxtaWgP
エーリカ「もうこれ以上、犠牲を出すのは耐えられないんだよ。……つき合わせちゃってごめんね、トゥルーデ」
バルクホルン「いいさ。お前の世話にはなれてる」
背中あわせで軽口をたたき合う二人。彼女らを、円盤型ネウロイの大群が取り囲んでいる。ネウロイ達はすぐには襲いかかってこようとはせず、二人の周りを旋回していた。
それはまるで一匹の巨大な巨大な毒蛇が、二人を中心にとぐろを巻いているような光景だった。
大和を護衛する宮藤・リーネ・ペリーヌが包囲されそうになっていたのを、二人が撹乱し引きつけたものだ。
エーリカ「さて、ミヤフジ達が逃げ切れるまで、もうちょっと付き合ってもらうよ!」
その言葉が合図だったかのように。ついに機を窺っていた毒蛇がその鎌首をもたげて飛びかかってきた。
バルクホルン「うおおおおお!!」ダダダダダ!
エーリカ「そーれこっちだよー、と」
エーリカは徹底した一撃離脱戦法でスコアを稼いだ大エースだが、こういった格闘戦においても頭抜けたセンスを持っていた。
急降下、切り返し、機首を動かさないままの変針。大気を操るエーリカの固有魔法により、通常のウィッチでは考えられない機動を見せる。
十数機の円盤型ネウロイが彼女に光線を浴びせんと追随するが、むしろ変幻自在の機動に幻惑されて衝突を起こしかけてさえいた。
エーリカのその姿はまるで、鼠を率いて踊るハーメルンの笛吹きのよう。
バルクホルンは、それほどの変則的な機動はできないが、教則に則った堅実な回避機動でビームをかわし、阿吽の呼吸でエーリカと連携してネウロイの機動を抑えていく。
二人は次々襲い掛かってくるネウロイの攻撃をひらりひらりとかわし、隙あらば機銃弾を叩き込んでいった。
ネウロイは数の上では十倍以上の優位にありながら、この二機にいいようにあしらわれていた。
309 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:40:29.20 ID:LZYxtaWgP
しかしそれもいつまでもは続かない。
エーリカ「はぁ……はぁ……三人はちゃんと離脱できたかな……」
バルクホルン「ぜぇ……はぁ……ああ……、先ほど通信が届いた。みな無事だ」
エーリカ「本当?……ありゃ、私のインカム壊れてるや」ガサゴソ
少しずつ疲労は蓄積し、集中力は途切れがちになる。連携は空振りし、段々と、鑢で削るように少しずつ、機動の自由度が奪われていく。
エーリカ「くっ……!」
上方から新たな一群が獲物に狙いを定めた鷹のように急降下、幾条ものビームを撃ち掛けてきた。
エーリカは直感頼りにコースを弾き出し、きわどいところで回避。しかし。
バルクホルン「ハルトマン!」
エーリカ.oO(!!……あーあー、しくじっちゃったかなぁ……)
視界の端に、時間差で二の矢を構えているネウロイ。
一撃目を回避したあとの無理のある体勢では、かわせない。シールドでも防ぎきれない。
バルクホルンが機銃を乱射して援護しようとするが、数発も撃たないうちに激発が下りっぱなしになってしまった。弾切れだ。
310 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:46:45.19 ID:LZYxtaWgP
ネウロイのビーム発振器が輝く。機首が完全にエーリカを捉えている。
どこに被弾するかは運しだいだが、一撃で終わらなかったとしても結果は同じだ。なぶり殺しにされる。
時間が無限に引き延ばされる感覚。脳がその能力の限界までを発揮している。
エーリカ.oO(今からそっち行くよ。早すぎてごめんね、ウーシュ。だけど、許してよね。こういう事情だったわけだし……)
エーリカ.oO(死ぬのってどんな感じかなぁ。痛いのかな、それとも一瞬で済むのかな。……あんな、誰かも分からない、真っ赤な塊になっちゃうのかな……)
エーリカ.oO(……いや……怖い!いや!)
脳裏に襲撃の日のハンガーの様子がフラッシュバックする。心臓を鷲掴みにされたかのような恐怖。
エーリカはついに目をぎゅうと閉じた。
見えなくても感じる、こちらを見つめる無機質な眼ならぬ眼の、赤熱した殺意。
そして。
312 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:52:24.07 ID:LZYxtaWgP
(●><●> )
(<●><●>)
( <●><●)
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 17:53:15.72 ID:pt1knDsO0
ワロタwwwwwwwwww
314 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 17:53:56.16 ID:IJSxQMEO0
シリアスなのにwww笑っちまったじゃねーかwww
315 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 17:55:24.90 ID:13+bXQRvP
不意討ちすぎるwww
316 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 17:55:30.26 ID:gEuV0Uy80
眼つぶしすんぞてめぇ
317 :空の王な俺:2011/05/01(日) 17:58:13.61 ID:LZYxtaWgP
空が爆発した。
無数のネウロイの群れが、黒い津波の波濤が砕け散るように千々に引き裂かれ真白に輝く。
上は雲間に紛れ込み、下は海面に反射して、光の乱舞がビームと弾幕と散華の炎に彩られた戦場を一瞬で塗り替える。
「なんだ、何が起こった!?」 「ネウロイの新兵器か」
「各艦、損害を報告せよ」 「やられたのはネウロイの方だ!」
「大和がやったのか」 「違う、大和はまだ……」
飛び交う無線、混乱と怒号。事態を正確に理解しえたのは、この力に間近で触れ続けてきた彼女らだけであった。
ミーナ「この攻撃は……!」
坂本「ふふん、千両役者のお出ましか」
ルッキーニ「ウジュァアアキタアアアーーー!!」
シャーリー「いいタイミングだな」
ペリーヌ「まるで見計らったかのようですわね」
318 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 18:00:23.10 ID:I61NsSj90
私だ
お前だったのか
320 :空の王な俺:2011/05/01(日) 18:03:06.07 ID:LZYxtaWgP
エーリカは眼を開いた。眼前に遊弋する影がある。
眩くネウロイの破片が乱舞する空を背景に、小さく、しかし切り取られたようにはっきりと、他を圧する存在感を放って。
エーリカ「……よっさん」
余「陛下、と呼べ。」
男は振り返り、傲然と胸を張って応じた。
321 :空の王な俺:2011/05/01(日) 18:04:01.29 ID:LZYxtaWgP
今回はここまで
次かその次で最終回
今度こそ
最近シリアス()すぎて大変だよ
そんなつもりで書き始めたんじゃないのに
gdgd続けるもんじゃないね
ところで>>312は書き溜めのまったくもって普通に、シリアス()な描写の一環としてやってたんだが、投下する段になって自分でも噴き出したわ
322 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 18:05:35.92 ID:pt1knDsO0
乙wwwwwwwww
次も期待してるwwwwwwwww
323 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 18:06:01.17 ID:gEuV0Uy80
余っさん乙
とうとう最終回か……
324 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 18:06:42.40 ID:SaCGpm/H0
乙
なんだこの安心感は…
325 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 18:07:26.15 ID:IJSxQMEO0
いよいよ最終回か
乙‼
326 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/01(日) 18:07:46.81 ID:13CBQWq/0
乙ww
途中目のとこで盛大に吹かせてもらったw
次もがんばってくれよな!!
最終更新:2013年02月02日 13:47