私「んっ……くぁあ……」
背骨を伸ばしながら周りを見るとまだ部屋は暗いままで、窓の外を見ても太陽は昇っていなかった。
珍しく夜中に目が覚めたようだ。
二度寝をしようにも目が冴えているし、起きていようにも暇でしょうがない。
私「どうしたものだろう」
誰かの部屋に行こうかと考えたが、今の時間は恐らくミーナも寝ているだろう。
こういうときに部屋に何もないと暇をつぶすことができない。今度絵本でも小説でも、暇にならない物をかってこようか。
そんなことを考えつつベッドから起き上がる。
私「……何か作るかな」
別に小腹が空いていたわけではないがベッドの上で寝転がっているだけ、というのも中々に辛いものがある。
余ったら今日の朝食にでも並べてやればいい。
テーブルの上のリボンを掴み、髪を結びつつ部屋の扉を開いた。
少し肌寒さを覚えながら一人で廊下を歩く。
自分以外に誰もいない廊下というのは音がよく響く。静かに歩いているつもりなのに足音が鬱陶しく感じる。
ドドドドド……
突然の轟音、窓の外を見ると海が真っ二つに割れている。
私「坂本か」
この基地でこんな芸当ができるのは坂本1人しかいない。
目を凝らすとやはり坂本が見える。それにしてもなぜ岩に乗る必要があるのだろうか。
よく見ると宮藤も見える。何か坂本に言っているようだ。
私「まあ、言っていることは予想できるけどな」
正直、私は宮藤があまり好きではない。
理由なんてくだらないもので、昔の自分に似ているということだけだ。
私「……全てを守れるなんてあり得ないんだよ」
自分に言い聞かせるように呟くと、再び台所を目指して歩き始めた。
台所につくとまず冷蔵庫をあさる。
あるのは卵とジャガイモ、そして小麦粉に調味料が多数。
私「……補給日は今日だったか」
しかたない、あるもので作ってしまおう。
ジャガイモを3つと卵を1つ、小麦粉と塩と胡椒を取り出す。
まずジャガイモの皮をむき芽を取る。この辺は大体アバウトでいい、ただし芽はきちんと取る。
次にジャガイモを生のまま摩り下ろす。
ジャガイモを下ろし終わったら、小麦粉と卵、そして塩コショウ。ここもまたアバウトで。
そしてこれをよく混ぜ合わせる。出来れば手で。
適度に混ざったらフライパンを用意して熱する。
バターをフライパンにしいてペースト状になったジャガイモを焼く。
ある程度焦げ目がついたらひっくり返して、それを
繰り返して完成。
私「失敗した……」
アバウトに焼き過ぎたのか、表面が黒く焦げついてしまっている。
これにトマトを乗せればネウロイ焼きの完成。……馬鹿か私は。
しかし食べ物を粗末にするわけにはいかない。
包丁で切るのもよかったが、横着して人差し指の指先でビームを放ち、昔扶桑で食べたお好み焼きのようにカットする。
私「久々に使った気がする」
数か月ぶりになるビームの使用に違和感を感じつつ、箸を持って一切れ口に入れる。
私「にっがぁ……」
焦げ目が舌がしびれるほど苦い。 甘党の私にとってこれはつらい。
だが自分が作ったものは自分できちんと始末をつけなければならない。
次々と口の中へとイモ焼を放り込んでいく。
数分後
私「うんうまいうまいようまい」
舌が麻痺してきたのか、段々と美味しく感じてきた。ついでに涙も流れてきた。
最後の一切れを口に入れようとした時――
宮藤「あ、私さん……」
宮藤が台所へとやってきた。普段の彼女とは違いどこか落ち込んでいるように見える。
私「どうした宮藤、なんでここへ?」
宮藤「いえ何かいい匂いがしたんで……」
いい匂いって私には焦げた匂いしかしないんだが。
私「……食べるか?」
箸でつまんだイモ焼を宮藤へと差し出す。
少し躊躇ったが宮藤はイモ焼を口の中へと入れた。
宮藤「苦い、です」
私「そりゃあそうだ、焦げてたからな」
じゃあ食べさせるなと自分に言う。
宮藤「私さん……」
俯いたまま宮藤が私の名前を呼ぶ。
宮藤「わたし強くなりたいんです!」
私「……何故だ?」
わかりきっていることなのにわざと尋ねる。
宮藤「わたしみんなを守るために強くなりたいんです!」
坂本も苦労しているだろうに。
だから嫌いなんだ。考えを変えず、真っすぐなところが昔の私に似ているんだ。
私「みんなを守る、か」
宮藤「はい!」
私「無理だな」
別に彼女が嫌いだから言っているわけじゃない、彼女が誰かを守れないから言っているわけじゃない。
全てを守ることは無理なんだ。ただ、それだけ。
宮藤「でも……」
私「……そう落ち込むな。まずは一つの物を守りきれ」
宮藤「一つ……?」
私「そうだ。扶桑の言葉だったか? 二兎を追うものは一兎を得ず、だっけ? 全てを守ろうとして無理をすると全てが守れない。なら、まずは一つずつ確実に、だ」
宮藤の為じゃない、ただ彼女の夢は幻想だと思い知らせるためだ。
そう自分に言い聞かせ納得する。
宮藤「私さんの言う通り私には全ては守れません。……でも」
宮藤は顔を上げ私を真っすぐと見つめてくる。
宮藤「今は一つでも、絶対に守ります! みんなを守ります!」
ああ、だから嫌いなんだお前は。
どうしてそう真っすぐなんだ、どうしてあきらめないんだ。
……守れなかった私には眩しすぎる。
私「……そうか」
私は立ち上がり宮藤の横を通る。
私「宮藤お前、強くなったな」
宮藤「えっ?」
片目を僅かにネウロイ化させてみると、魔力が溢れているのが見える。純粋な魔力の量なら間違いなく、私が見たウィッチ達の中で一番だ。
初めて出会ったときはそうでもなかったのだが、今見ると明らかに成長していた。
私「後悔だけはしないように、な」
逃げるように私は自室へと戻る。
台所から出る直前、後ろから『ありがとうございます』と声が聞えた。
部屋に戻ると変なのがいる。
人型で黒くてういてて足に変なのつけてて
おまけに耳まで生えている。
どうみてもネウ子です本当にありがとうございました。
ネウ子(君の悲しみを因数分解『バラ』してみようか?)
私「うるさい黙れ」
ご丁寧に窓が割れている本当にどうしてくれようこいつ。
ネウ子(もーノリ悪いなあ)
私の背中に抱きつくネウ子。
ネウ子(まあいっか。今日は君に頼みがあって来たんだヨね)
私「頼み?」
一体全体頼みって何だ。こいつの頼みごとって基本ろくでもないことが多い気がする。いや、気がするじゃなくて実際そうなんだが。
ネウ子(んー扶桑から大和って戦艦が来てるんだよね)
大体わかった、それを沈めて来いというわけか。それくらい自分でやれ。
ネウ子(おおっと! 別に大和を沈めてほしいってわけじゃないヨ?)
私「何故だ?」
尋ねるとネウ子は首をかしげる。
ネウ子(うーん、わかんないんだけど、なんとなーく大和は沈めちゃ駄目な気がするんだよね)
私「なんだそりゃ……」
ネウ子(まあ本題はこの大和とほぼ同じサイズの戦艦が、ロマーニャに向かってるってこと)
私「大和と同じサイズだって?」
そんな戦艦なら噂になっていてもおかしくはないはずなんだが。
ネウ子(そりゃ噂にもならないヨ。だってキミとボク達が侵略しきった国の、最後の戦艦だから)
私の脳裏に一つの国が思い浮かぶ。私がかつて育った国、私がかつて軍人だった国。
――私がかつて裏切られた国。
私「……あの国か」
ネウ子(あの国、ボク達と戦う気はもうないみたいなんだけど……)
私「じゃあ放っておけばいいじゃないか」
ネウ子が首を横に振る。
ネウ子(ボク達を倒し終わった後、ロマーニャにその戦艦で攻め込んで国を再興しようとしてるみたいなんだ)
あの国、全く変わってない。馬鹿の極みだ。
私「……となるとその戦艦の名前は」
ネウ子(だね、キミも完成した時はいたはずだよ)
私「ああ、最高に趣味の悪い名前だった」
ネウ子(ボクは大和側に攻撃を仕掛けるから、キミはその戦艦へと向かってほしい)
私「……泳いで行けと?」
ネウ子(いんや、ボクの知り合いが攻撃をしかけてくれるはずだから、多分この基地に救援要請が来ると思う。そのまま護衛ってことで乗りこめばいい)
私「……わかった」
ネウ子(ボクは向かってくる人間は好きだけど、後から漁夫の利を狙う人間は大嫌いなのさ)
私「相変わらずわからないなお前は」
ネウ子(褒め言葉だね。じゃあね、また来るヨ)
そう言ってネウ子は割れた窓から飛び去って行った。
私「また人を殺すか……」
拳を握りしめ呟く。
自分を姉と呼んでくれる少女、真っすぐな少女、二人の姿が浮かんで消えた。
世界最強と謳われた兵器 特典は予約済みの鬼籍
その戦艦の名は 殺戮の女王(レーヌ・ミシェル)
最終更新:2013年02月02日 14:24