アドリア海に浮かぶ島々
ブラチ島とコルチュラ島に挟まれた位置に座するフヴァル島
古くからアドリア海の海上移動の中心地として機能しており
かのガリアの英雄『ナポレオン・ボナパルト』もこの島に滞在し、島の中心都市であるフヴァルの港を見下ろせる高台には未だに当時の城塞が残っている




この東西に長いアドリア海最長の島、普段は四季を問わず観光・ビジネスのために訪れる人間も多く
今の時期には収穫祭に賑わう島民達が連日大騒ぎをしているはずだった

そう、はずだったのだ
フヴァルの港には漁船の1つもなく、港町の中心地にある鐘楼の鐘は鳴る事もなく静かに佇んでいる
青い空、青い海といったアドリア海の特徴的な美しい風景も、忌々しい人類の敵が発する瘴気によってまるで欧州各地の伝承に残る魔界のような様相を示していた



フヴァル島を人類の手から奪った根源
島の一番高い山の上空に君臨し、未だに瘴気をバラ撒くこの島の暴君
その異形の者の姿は皮肉にも中世盛期にこのアドリア海を所狭しと駆け巡った大型のガレー船の姿を象っていた

連日続く奪回作戦

この島の奪還を目論む人類の軍勢をその圧倒的な巨体と、戦慄の暴力によって蹂躙し続けるその姿に
かって「アドリア海の女王」と呼ばれたヴェネツィア共和国を滅ぼした『ナポレオン』のようだと人類は皮肉をこめてこの異形を呼称した





ナポレオンの戦法は単純明快
己に害成す者は誰よりも早く察知し、全身に配置された砲門から全てを無に帰す赤い光でもって超長距離から敵を殲滅 

恐るべきはその探知範囲
詳しくは解からないが、その距離は半径にして50㎞を軽く超えるらしい
這い寄ってくる小蠅を察知し撃墜する、今日もそんな変わらぬ退屈な戦いが始まるはずだった


ナポレオンの索敵範囲に、高熱のエネルギー反応が察知された瞬間
その強固な装甲には大きな穴が穿たれる

強力な磁力反発によって脅威の加速を得た鉄球は、電磁石化されるさいに無理矢理流された大電流によってプラズマ化…
強力なローレンツ力を得て、フヴァル島に君臨する暴君に超高速で接近
“超電磁反発式砲弾”と射手が呼称する弾丸は大型ネウロイにもダメージを負わせる事が可能らしい
見事に奇襲を成功させた


シャーリー「いっや凄っげえな!メジャー行けるよ!この球速なら!!
      扶桑から来たサムライピッチャー!まさにリベリオンドリームだ!!」


光の速度に若干遅れて登場したのは音速の壁を破った女神
彼女もまたナポレオンの索敵範囲外から高速接近、索敵どころではなく体勢を立て直そうと必死なネウロイに無慈悲にも銃撃を浴びせる


俺《ザザッ…生憎キャッチャーがいませんよ、それじゃ単なる暴投王です》


シャーリーのリベリオンジョークに生真面目に答える俺は未だ投擲のポーズを取っていた
ネウロイの索敵範囲ギリギリから、全力の投球

シャーリー「だっはっは!本当に冗談通じないのな!」



余裕の高笑いをあげながら己に銃撃を仕掛ける小さき者に対し怒りを感じたナポレオンは、完璧に冷静さを欠いていた
己の強さを形成する一因であった索敵を怠ったのだ





ナポレオンの船体が激しく揺れる
魔力の込もった銃弾が装甲を削り取る

ルッキーニ「うじゃぁー!全部当たったー!!」

ゲルト「見事だ!ルッキーニ!!」

エーリカ「やっるー!!」

彼女達3人がレシプロ機ではおよそ到達できない速度でナポレオンの索敵範囲外から飛来してくる
彼女達はシャーリーのように加速能力は持たないはずだ、ではなぜこれほどまでの速度でもってこの戦域まで到達できたのか?



最初の小蠅に続き、鬱陶しい事に3匹も己に牙剥く者が現れた事にナポレオンは激怒する
小さき者達を薙ぎ払おうと全身の砲門を使用しようとした瞬間
今度は激しい雷撃と対装甲ライフルによる重い一撃に見舞われる

芳佳「凄い!ペリーヌさん!リーネちゃん!!」

リーネ「当たった!!」

ペリーヌ「あれ程大きいのですから当たって当然でしょう!!」

と、宮藤を窘めながらも少し照れている様子のペリーヌ



更にたたみかけるように発射される9発のロケット砲
その全てがネウロイに見事に着弾、確実にダメージを負わせる

エイラ「いいぞサーニャ!効いてる効いてル!!」

サーニャ「…うん」

自らも銃撃を浴びせながらも、パートナーを褒めるエイラ




彼女達も、ナポレオンが察知してからすぐにこの戦域まで辿りついている
ネウロイに思考能力があるのかは不明だが、確かにナポレオンは恐怖していた自分の理解を超える存在を…

再び、ナポレオンは接近してくる3機の機影を察知
またもや察知したと思った瞬間に弾幕の挨拶を受ける


坂本「あいかわらず便利な能力だ、“でんじかそく”と言ったか?」

義子「難しい事あたし解かんな~い♡」

ミーナ「“電磁加速”ね、原理はさっきの砲弾と似た物らしいけど…」


年増3人組みの言う通り、彼女達は全員俺少尉の固有魔法“電磁力”を用いたリニア式加速能力によって射出されたのだ
ネウロイの探知する範囲の遥か外から、電磁反発を用いてレールを形成その上に乗せたウィッチ達を時速581㎞の速度で撃ち出したのだった





俺「さすがに…12回は…しんどい…」

戦域の遥か後方、全ウィッチを射出し終えた俺は
息切れしながら自分を飛ばすための電力をチャージし始める









ミーナ「ファーストアタックは成功、ダメージも大きいわ!
    このまま押し切ります!!ナポレオンの辞書に「不可能」の文字を刻んでやりなさい!!」


ミーナの声に、ガリア解放の英雄「ストライクウィッチーズ」と扶桑皇国海軍遣欧艦隊から派遣された“リバウの魔王”西沢義子を含めた11人は目前の敵
この辺りの艦隊や、ウィッチ達を蹂躙してきた強敵
フヴァル島の暴君「ナポレオン」を見据える


ミーナ「全機!!アタック!!!!」



「「「「「「「「「「「了解!!!!!」」」」」」」」」」」









己の周囲を飛び交う12匹の忌々しい者達に、ナポレオンは全身に隙間なく配置された砲門から破滅の光をまるでハリネズミのように撃ち出す


並大抵のウィッチならこの無慈悲な一撃の前に命を散らす可能性が高いであろう
しかし今この大型ネウロイと交戦中なのは501JFW
世界各国から選り抜かれたエース達なのだ


ある者はその規格外に強固なシールドで付近にいる味方を守り

またある者はその非常に珍しい“未来予知”の固有魔法でもってその攻撃を鼻歌交じりに回避する



ビームの射出が終わった後、そこには誰1人として欠ける事なく彼女達は飛行していた
すかさず行われる反撃

「シュトゥルム!!」

「トネール!!」

奔る疾風が装甲を穿ち、轟く雷撃がその動きを緩慢な物とする


義子「うっわ!噂以上だな501は!!」



その全員がウィッチ全体にして一握りしか持ち得ない特別な才能「固有魔法」を持ち
常に最前線で鎬を削る彼女達の動きに西沢義子は素直に驚嘆していた
義子自身、相方である俺少尉と共に501に派遣されたのは一週間ほど前でありまだ彼女達の実力を測りきれていなかったのだ

それでも、模擬戦において人類最強“黒い悪魔”エーリカ・ハルトマンに完膚無きまでに叩きのめされてはいたのだが


義子「こりゃ負けてられないね!お姉さんとしては!!」


年長者としての誇りか?何かが彼女を奮い立たせたようで、坂本少佐をして「芸術的」とまで言わせた機動で義子はナポレオンの側部にある砲門を迎撃のビームをかわしながら次々と破壊していく


ナポレオンが大きく揺れる、リーネの対装甲ライフルが火を吹き
見事にガレー船のマストを吹き飛ばしたのだ



続いて撃墜数人類第2位のゲルトルート・バルクホルンがその固有魔法を用いた怪力でMG42をまるでハンマーのように振り回しながら突撃する
真正面から突っ込むバルクホルン


ゲルト「?」


心なしか、いつもより速度が速い気がする…いや確実に速い
破壊力とは簡単に言えば「速度×力」である
単純に言えば速ければ速いほど、与える衝撃は大きくなる

巨大ガレー船型のナポレオンに、バルクホルンの怪力が大穴を空ける
威力は途中で殺されてしまったが、内部でなお鈍器を振り回し、反転して船底を突き破る


俺「バルクホルン大尉、いかがですか?電磁加速による飛行補助は?」


船底から体を出せば、“番犬”と呼ばれる俺少尉の姿
充電を終え、電磁加速によりやっとこの戦域まで辿りついたようだ
バルクホルンとネウロイの間に引き寄せ合う電磁作用を俺が発生させたために、先程の不自然な加速が行われたようだ


ゲルト「ふっ、悪くない」 


こんな使い方もあるのか
と素直に感心しつつバルクホルンが答える


俺「こんな使い方もありますよ…
  リドヴャク中尉!!」

俺も声と、手の合図にサーニャは戦闘前の打ち合わせを思いだして、狙いも付けずにロケット弾を迷わずぶっ放す


俺の体を青い光が包み込む、固有魔法発現の証
9発のロケット弾は、ウィッチ達に向けビームを放とうとしている砲門へ誘導されているように前進し直撃


ちょうど義子が狙いをつけていた砲門もロケット弾に破壊される

義子「こらポチー!!あたしの獲物とるな!!!」





獅子奮迅と形容するに相応しいストライクウィッチーズ+2の猛攻にアドリア海の暴君とまで称された大型ネウロイはその装甲を削られ
己に刃向かう小さき者共を瞬時に屠る牙となる砲門はすでに半壊だった

ナポレオンの上空でミーナと坂本は手を繋ぎ合わせ、互いの固有魔法を連結させて黒き鎧で自ら覆い隠すナポレオンを丸裸にする

走る感覚、煌めく魔眼
ミーナの“超感覚”が坂本の“魔眼”に立体的な内部構造の把握を可能にさせる


坂本「見えた!丁度中心部!烈風丸でなければ届かない
   西沢!俺!私について来い!!!」

ミーナ「美緒!!」


美しき隊長の制止など右から左に流れるように無視して
501JFWの戦闘隊長はアドリア海の暴君に斬りかかる
自らの魔力を込めて丁寧に打ち込んだ烈風丸には特殊な術式が編み込まれ
それ自体がシールドの役割を果たし、ネウロイのビームですら裂いて道を切り拓く


坂本「はっはっは!!こうして飛ぶとリバウを思い出すな!
   醇子がいないのが残念だ!!」


そんな彼女の声を聞き、坂本に無理矢理引っ張られた“魔王と番犬”のコンビは嫌そうな顔を隠そうともしない


義子「まだ同窓会って年でもないでしょ…
   嫌だ嫌だ、年は取りたくないねぇ~」

俺「ソッコー発言がババ臭いぞ、義子」


2人は軽口をたたき合いながらも確実に、堅実に坂本を前に飛ばす
リバウ島での激戦で培われたコンビネーションはなお健在のようだ




突撃を仕掛ける坂本達を、501のエース達が全力でサポート
ついにナポレオン唯一の攻撃手段であると思われる砲門が全て破壊された

ゲルト「34…そっちは?」

エーリカ「46!ま、よゆ~だね」

背中合わせになり、砲門の破壊数を数え上げる人類最強ペア

ゲルト「な!46だと!!
    ふぅ~…貴様にはかなわんな…」

普段のあまりにだらしがない言動とは打って変わり、空の上では世界最高のエースである彼女に、バルクホルンは呆れていた



コア近辺の装甲は、大型ネウロイの強固な装甲の中でも際立って強固だった
坂本の後から機銃の掃射でコアへの道を切り拓こうとする2人だが、この装備では破壊は無理そうだ…

義子「硬った!!ポチ!アレ!!」

俺「時間が無ぇ!!最低で5分はかかる!!」




そうこう言ってる内にも坂本は強固な装甲まで突っ込んでいく


義子「おい坂本!!」

俺「坂本さん!!」


遠くから響く銃声
義子と俺の合間を縫って銃弾が飛ぶ

前方の坂本を追い抜いて弾丸はコア周辺の強固な装甲を吹き飛ばす
思わず振り向く2人
視線の彼方、遥か後方に対装甲ライフルを構えたリネット・ビショップがいた

義子「いい腕ね!ボインちゃん!」


魔王に褒められ、照れるリーネ


盾のような装甲もなくなり、後は剥き出しのコアのみ
坂本は矢のようにコアに向けて飛び、烈風丸を大上段に構える


坂本「アドリア海に沈め!偽りの英雄よ!!」



烈 風 斬!!!



勇ましい声が戦場に響く
刀に収束された強力な魔力が解放され、大きな奔流となってナポレオンをコアごと両断する 




義子「はぁぁぁあああ!!!???

俺「なん…だと…」

各々の反応で驚愕を示す2人
真っ二つになった巨大ガレー船は、その名を冠した英雄とは違い皮肉にも侵略したヴェネツィアの地に散る事となった




坂本「これにて討伐完了!はっはっはっはっはっは!!!!!!」



義子「ねぇねぇポチ、あれさぁ…コアごと全部斬ったよね」

俺「斬ったな」

義子「私達の援護いらなかったんじゃない?」

俺「…うん」



坂本の高笑いがアドリア海に響き渡る
偽りの英雄、フヴァル島の暴君を見事討伐したのは12人の善き魔女と1匹の番犬




ミーナ「さぁ、私達の家に帰りましょう」

こうして、俺の固有魔法を利用して索敵範囲外からの高速接近によってフヴァル島に座する大型ネウロイ「ナポレオン」を撃破する“オペレーション・ウォータールー”は無事成功に終わった




義子「坂本ー!その技教えて!!」



俺「お前がそれ以上強くなったら困るだろ…」









【501JFW 基地 食堂】



『いただきます!!!』


激闘を終え、彼女達は一時の安らぎの時間を堪能する
宮藤とリーネが作った夕飯は、今や最大人数になった扶桑勢の祖国料理
白米と味噌汁、肉じゃがにアジの干物、青菜のお浸しといった一汁三菜の基本を押さえた献立だった



義子「う~ん…ポチ、この青菜…鮮度どう?
   私的には結構ヤバそうな感じするけど…」

俺「いや~…大丈夫だと思うけど」

鼻をクンクンとさせ匂いを嗅ぐ俺
生まれつき胃腸が繊細な義子には食材の鮮度はかなり重要なファクターだったのだ



芳佳「え?腐ってました!?」

作成者である宮藤芳佳が急いで青菜を確認する

俺「あ、大丈夫だよ宮藤
  こいつがこんな性格のくせに胃腸弱いだけだから、気にしないでくれ」

ルッキーニ「うじゅ、アネゴに以外な弱点が…」

エイラ「アネゴ…」

この基地に2人が派遣されて一週間ほど、ウィッチの少女達はみな義子と俺を快く迎え入れてくれた
元より実績のある2人と言う事もあり、戦闘でもなんとか肩を並べる事ができ
私生活でも西沢の豪放磊落・自由奔放さはこの隊の自由な空気によく馴染んでいた

特にルッキーニとエイラは、顔合わせ初日に義子の胸を触ろうと目論んでいたが、彼女の野生の勘とでも言うべきか?
本能によって回避され、逆に2人とも腰が立たなくなるまで胸を揉みしだかれて以来
義子の事を「アネゴ」と呼んで慕っているようだ



義子「なに見てんのよ、また揉みしだくよ」

ルッキーニ「うじゃ!」

エイラ「…」

ジト目で睨みつける義子に怯えてルッキーニとエイラが眼をそらす



ミーナ「うふふ」

更に賑やかになった食事が、ミーナは楽しいようだ
そんなミーナ…というより、ウィッチ達を見て俺は物思う

俺(JFWに派遣されるたびに思うけど、ウィッチってのは本当に美人揃いだな
  右を見ても左を見ても美少女だらけ、まったく壮観だよ)

思春期を過ぎ無事に自己の確立をすませ、この女性に囲まれるというなんとも羨ましい状況にももう慣れてしまった彼は冷静に彼女達を評価する


俺(18歳以下はともかく…ミーナ隊長は挙動が年齢より上に見えるな…もったいない
  坂本さんは…もはや何も言うまい…顔見るだけであの地獄の日々が思い出される…)


続いて黙々と箸を動かして肉じゃがの芋を口に運ぶバルクホルン大尉とイェーガー大尉に目を向ける
2人共対照的な性格ながら、その健康美は年頃の男性にとっては確実に目の毒だ


俺(バルクホルン大尉はタイプなんだが性格がな…こう、真面目すぎてもさ…
  模擬戦でもフルボッコにされたし…
  イェーガー大尉は…凄いな…でも俺は貧乳派なんだ)



チラリと横にいる、少女に目をやる
魔王と呼ばれる少女は本格的な扶桑料理に大満足のようで
先程鮮度を気にしていた青菜の浸しもペロリと食べていた

義子「おっいしぃ~っ♪」

満面の笑みで感想を漏らす義子

俺(やっぱこいつが1ば…)



などと、思考をめぐらす彼が
ふと、視線を感じて前を向けば『黒い悪魔』エーリカ・ハルトマンと目があった
彼女はニヤリと微笑み、意味深な視線を送る


俺「どうかしましたか?ハルトマン中尉」(やべ、視線見られてたか?)

エーリカ「べっつに~、男の子は大変だな~って」


俺「ははっ、何の話ですかね?」

汗をダラダラと流す俺、はっきりいって異常な量だ
みんな俺の異常に気付く



義子「ポチ?どうしたの?汗パないよ」



俺「な、なんでもないさ…いや暑いなしかし」









【同日夜 義子、俺自室】

ペリーヌ・宮藤・リーネの寝室の隣
一つだけあった空き部屋に義子と俺は寝泊まりしている

年頃の男女が同じ部屋で生活する事に風紀の乱れが生じる恐れがあると意見したのは当然バルクホルン
ペリーヌも「はしたない!!」と大声をあげた
しかし空き部屋が他に無いという事情と、坂本の「この2人ならば間違いの起こりようが無い」という意見で押し切られてしまったのだ


俺「…」


部屋には義子と俺の最低限の荷物と、簡素な造りのベッドが2つ
部屋の両端に離されて置いてある、片方はシーツもぐちゃぐちゃ、もう片方は使われていないように綺麗だった

最低限の荷物と共に俺が持ってきたのは小説の数々
彼が好むのは男のウィッチが魔女達と共に戦い、ラブロマンスを繰り広げるような作品

今読んでいるのは中世の時代、かつて英雄と呼ばれた男が失意にさいなまされる中で
彼を叱咤激励し立ち直らせた美しい魔女のために誓いを立て、一振りの槍となり戦う名作
どことなく、このヒロインがミーナ隊長に似ている気がする


もう何度読み返したのだろうか?ひ弱だった幼かった時分に、いつも読んでいた
主人公の「あなたも、あなたの守りたい物もすべて守る」という言葉に憧れた
何度この主人公のようになりたいと思ったことか…


月明かりが差し込む部屋で椅子に腰かけていた俺は、傷だらけの己の腕に目を落とす


俺「かっこわり」 


思わず苦笑する
スマートにはいかないものだ


義子「あー気持ちよかった♪」


ドアが乱暴に開けられる音、タオルで髪を拭きながら義子が部屋へと入ってくる
風呂上がりの彼女の肌は上気し、ほんのりピンクがかっている

他のウィッチ達に引けを取る事無く、その顔立ちは端正
猫を連想させる大きな目には勝気な性格そのままの意思の強さを感じさせる瞳
スッと通った鼻立ちはいつだって人を魅了してきた



俺「ほれ、ちゃんと拭かないと風邪ひくぞ」

読みかけていた本に栞を挟み、椅子から立ち上がる
本は椅子の上に置く
適当に髪を拭いている彼女からタオルを奪い取り、丁寧に水分を拭いとる


義子「ん、ありがと」


若干くすぐったそうに義子はじっとしたまま礼を述べる
体が大きく成長した俺の手は、義子の頭など片手で握り潰してしまいそうなサイズだ
そんな大きくて武骨な手が優しく丁寧に頭を撫でつける

義子「クスッ」

外見は変わっても、優しい内面は変わっていない事を改めて実感して義子は思わず噴き出してしまった

俺「なんだよ」

義子「べっつに~」

俺「気になるじゃねぇか」

義子「だからなんでもないってば
   そんな事より、今日はどんなお話聞かせてくれるの?」



頭を拭き終わると同時に義子が布団に潜り込む
リバウ島の頃から、寝付きの悪い彼女に俺が小説で読んだ話を要約して義子に聴かせてやるのが日課となっている


義子「は~や~く~」


義子がベッドの隣を空け、そのスペースをバンバンと叩き催促する
基本的に物語自体が好きな彼女に対し
本を自分で読めばいいと思うだろうが、彼女は「好きな事だけしていたい、やりたくない事はやらない」
といった非常に解かりやすい性格をしているため、生まれてこのかた一度も本を開いた事もなかった


俺「今日はなんの話にしようか?身分違いの恋に悩むスナイパーの話…
  型破りな凄腕パイロットの話…仮面を纏って戦う拳士…」

義子の隣に俺が潜り込み2人して隣り合う
狭いベッドの中で、確かに彼女の温もりを体に感じる
昔…思春期の頃に初めてこうした時はドキドキして心臓が5倍程の速さで動いていたのもいい思い出だ


義子「う~ん、全部好きなお話だし面白いけどつい最近聞いたばっかだしなぁ~
   …あ!久しぶりにあれ聞きたい!!」

と言って義子が指さしたのは俺がさっきまで読んでいた「魔女と槍


俺「あれか…よし解かった」


何度も何度も幼い頃より読み返し、もはや一字一句違わずに暗記している本を義子に読んで聞かせる
元来、感受性の強い義子は、もう何百回と聞かされている本の主人公に激しく感情移入し盛り上がる所では驚嘆し、彼が過去の傷をヒロインに話す名シーンではその大きな瞳に涙を浮かべていた



義子「ねぇポチ」

俺「ん?」

主人公がヒロインを守ると誓いを立てるシーンで珍しく義子が話を遮って話しかけてきた
ここ2年間一度もなかった事だ

義子「今でも私の事守りたいって思う?
   あれから、ずっと時が経って、素敵な人も沢山見てきたよね
   ミーナ隊長なんてまさにこのお話のヒロインみたいな人だよ、私と違ってとっても魅力的ね」

お前は後悔しないのか?と問いかける
きっと“魔王”としてではなく純真無垢な“少女”として



俺「思うよ…俺はこのお話の主人公みたいにカッコよくはなれないけど…」

俺「それでも俺は!」

番犬は答える、世界中で美しいウィッチ達を見てきて
その各々の素晴らしい魅力でもって世界中の男性達を魅了される彼女達を間近で見て…
10年以上の時を経てなお変わらぬ想いを… 


俺「世界中の誰より…お前の事が…」


そこまで伝えた時に、至近距離で義子の顔が苦悶の表情に歪む
この表情を俺は幼い頃から何度も見てきた



義子「お…お腹…さっきの…青菜…」



俺「…トイレ行ってこい」


義子が脱兎のように部屋から駆けだしていく
変わらないのは俺の想いだけでなく彼女の胃腸の弱さも同じらしい


俺「はぁ…」


ご主人様を見送って、静かな部屋に番犬の溜息がこぼれ落ちた


俺「お前が守りたい物までは守れないけど、お前だけは絶対に守れるように、がんばってみるよ…」
最終更新:2013年02月02日 14:50