――深夜、川沿いの土手にて――
俺はとても後悔していた。
自宅からこの土手を走り始めて約2時間半、距離にして35キロを超えているだろう。
ついに体は限界に達し、エネルギー切れ、足は腱鞘炎を起こしていた。
Tシャツと薄いウィンブレの2枚しか着ていないため、寒くて歯がガチガチと音を立てる。
やっぱり、現役の時のようにはいかないか…。
今日はとにかく、走って遠くのどこかへ行きたかった。
どうでもいい大学のこと、家のこと、人間関係のこと、嫌なこと全てから逃げ出したいと思った。
そして気がつくと、今はもう歩くことしか出来ない。
俺「怖い…痛い…怖い…寒い…」ガクガク
後ろをキョロキョロと振り返りながら、来た道を歩いていく。1円も持ってきていないので、電車にも乗れない。
周囲は真っ暗。夜の土手は本当に怖い。誰かがつけてきているような気がしてゾワゾワする。
それに今は足が故障しているため、不審者に追っかけられても逃げられない。
そう思うと更に恐怖が増してきて急ぎ足になったが、痛みに我慢できず、立ち止まってしまった。
歩くのもキツくなってきた。あと家まで何時間かかるだろうか…。
俺「どうしよう、あと30キロはあるだろっ…て……んっ?」
風で草が揺れている川沿いで、何かが光った。
俺(赤い光…なんだ……怖いけど…いや気になる…)
好奇心にかき立てられて、ゆっくりと、痛い足をかばいながら土手の坂を下った。
俺「このあたりだったような…」ガサガサ
生えた草を手で払いながら光った方向へ進んでいくと、隕石が衝突したような小さな穴を見つけた。
しゃがんでその穴をのぞいてみると、赤色の光で輝く、結晶のようなものが埋まっている。
俺(空から降ってきた…いや誰かが埋めたんだろう。まるでスト魔女のネウロイのコア…みたいな。)
不思議なおもちゃを見つけたと思った俺は、綺麗な光に吸い込まれるように、手を伸ばしてその結晶を掴んだ。
――1945年、春、ヴェネチア上空――
竹井(この作戦で…ネウロイとのコミュニケーション実験が成功すれば…終結できるかもしれない……この戦いを…!)
目の前には人型ネウロイがいる、が…
竹井「!!」
竹井がハッとして上を向いた瞬間、降ってきた赤いビームが人型ネウロイに直撃した。
ネウ子「ピィィィィィィィッ!!」パシュウウン
竹井「な、なぜネウロイのビームがネウロイを!?」
人型ネウロイ消滅後、竹井は更に上に位置する巨大なネウロイの巣に気付いた。
竹井「何…あれ…」
巨大なネウロイの巣は、古い巣を破壊し、瞬く間にロマーニャ北部を飲み込んだ――
竹井「……こちら竹井…作戦は失敗した…。」
――同時刻、ロマーニャ北部――
「……き……ろ……お…き……ろ……」
「起きろ!!」
俺「うぉっ!?」ビクッ
おじさん「やっと起きたか!ネウロイ共がすぐ上に来ている!警報も鳴った!早く逃げねぇと…」
俺「ha?あ……あの、どういうことですか?」
おじさん「いいから!とりあえずこの街から出るんだ!」
太陽が出ていて、周りが明るくなっていた。どうやら俺は寝てしまっていたようだ。
とりあえず、なにがどうなっているのかさっぱりわからない。
川が小さくなって、土手が消えていて、そのかわりにヨーロッパな感じの街並みが広がっている。
それに、さっきのおじさんが言っていたネウロイって…
ネウロイ「ピキィィィィィィ!!」バシュウウウン……ズドォォォン!
俺「うわぁぁぁ!?」
空から赤いビーム降ってくる。目の前の家屋に当たって爆発した。他の場所からも火の手が上がっていった。
俺「なんだよ…なんだよ……!?…」
空を見あげると、巨大な黒い固まりが飛んでいる。それはまさしく、テレビ、小説、映画で見たネウロイそのものだった。
頭を整理する。
すっ飛び抜けている今の状況から考えられることは…ここは、ストライクウィッチーズの世界ではないかということだった。
フィクションの世界に行けるわけがないが、これはあまりにもリアルすぎる光景だ。
俺「まじかよ…まじかよ…まじかよ…って……い…いよっしゃあああああああああ!!」
頬をつねる。痛い!これは夢じゃない!まさしくストライクウィッチーズの世界だ!
何がどういうわけか知らないが、あの赤いコアっぽいものに触ったせいだろう。
2012年は人類滅亡だとか、新しい周期だとか言われていたけど、まさかこうなるとは!
ヨーロッパっぽい街の人もネウロイがどうとか言っていたし、きっと俺は地球から抜け出したんだ!
俺「ってことは、あの可愛らしいウィッチ達もいる……!」
ますますテンションが上がってきた。よく「俺」を主人公としたスト魔女SSを読んできたが、
これなら現実にウィッチたちとの イチャイチャ キャッキャウフフ な生活が実現する!
それに違う世界から来たわけだし、特別である俺はもしかしたら魔法が使えるんじゃないか?
きっと俺は主人公で、ネウロイを倒しまくって、英雄にもなれる!
ウハウハしながら俺は早速ネウロイを倒せるんじゃないかと思い、炎で溢れている街へ走った。
足の痛みは興奮により分泌されたアドレナリンで感じなくなっていた。
きっとどこかの家か倉庫に武器かストライカーが置いてあって、それを使って初戦果を上げる。
そうするつもりだった。
俺「…あ…あああ……っ」
目の前には予想外の惨劇が広がっていた。傷ついた人、泣き叫ぶ子供、動かない大人。
上空のネウロイによって多くの人々が殺されていた。視界には必ず死体が映る。
俺「…はぁっ……はぁっ…っ!」
恐怖でどんどん過呼吸になっていった。下半身から寒気が背筋を通って全身へ広がる。
頭には見てきた死体の姿が焼き付いている。
おじさん「……ぉい………ぉおぃ」
俺「!!」ビクッ
声がした方に振り返ると、川の近くで俺のことを起こした人が、崩れた家屋の下敷きになっていた。
火の手はその家屋にも移っており、その人を巻き込みそうな勢いで燃えている。
おじさん「…もう…もぅ…助からねぇ……足も手も動かない……体が熱ぃ…おいさっきの、そこに銃があるだろ…?」
俺「じゅ、銃…?」
足下に銃が置いてあることに気がつく。
街の人「このまま苦しみながらで死ぬのは嫌だ……もう楽にしてくれ……頼む…」
俺「…………えっ…?」
信じられなかった。
おじさん「頼む・・・早く…してくれ…」
本や映像ではない。本物の戦争。さっきまでの浮かれた気分でいた自分は消えていた。
嘘だろ…殺せるわけがない…でもこのままじゃ…一人じゃ崩れた家屋を動かそうとしてもビクともしないし…
撃たなかったら…火でこのまま……。
どっちにしろ、俺は一人の命を奪うことになる。助けられない、なら・・・
俺は震える手でその人の頭に銃をかまえた。この人のためだと頭の中で連呼する。
今、俺は人を殺そうとしている。
目をつぶり、歯を食いしばって、引き金を引こうした、が・・・
ピキィィィィィィ!!
いきなり、真上に大型のネウロイが降りてきた。
気がついた俺は上を向くと、すぐ近くにいるネウロイの大きさと不気味さにより、全身が震えだした。
そして死体の映像が頭を駆けめぐる。
俺「あ・・・ああ・・・う、うわあああああああ!」ドンドンドンドン!
ネウロイに殺されると思った俺は、持っていた銃でネウロイに向かって撃ちまくった。
怖い。死にたくない。
俺には魔力があるはずだ、倒せるはずだ。
この世界でならきっと俺は特別で、魔力を使える英雄になれるはずなんだ。そう思っていたせいでもあった。
しかし、弾はすべて効かなかった。
俺「なんでっ…!なんで…っ!契約してないから!?でも・・・っ!」カチャカチャ
もう弾がないのに引き金を何回も引いた。気付いたネウロイが、俺に向かってビームを撃つ体勢になった。
怖すぎて、漏らしそうになる。
その時、
竹井「はぁぁぁあ!」ダダダダダダダ!
ネウロイ「ピキィィィィィィ!!」バリンパリン
竹井「早く避難して!くっ…!」ダダダダダダダ!
駆けつけた一人のウィッチが大型ネウロイに向かって砲撃した。ネウロイは逃げるように遠くへ離れていき、そのあとをウィッチが追っていった。
俺「あれが…ウィッチ……」
目の前からウィッチとネウロイがいなくなった。
俺「た…助かった…のか…」ドサッ
おじさん「お前……やってくれた……な…」
自分の命を守ることだけに気を取られていた俺は、銃の弾をすべて使い果たしてしまった。
泣きながらどうにかしておじさんを救い出そうとするも、すぐに救助隊が駆けつけてきたため俺たちは一命をとりとめた。
あのウィッチが呼んでくれたのだろうか。
その後、俺には行く場所もなく、元の地球に帰る方法も分からなかった。おじさんは軍人らしいため、その人の紹介で軍に入隊した。
当然、魔力なんてものは検出されず、主に男性のための生活雑用係新兵として、ロマーニャの501戦闘航空団に派遣された。
やっぱり俺は、どこの世界でも俺のままだった。
――ストライクウィッチーズ、ロマーニャ基地――
彼「えー、本日より501戦闘航空団ストライクウィッチーズの一員として配属になりました、彼少尉です。どうぞよろしく。」
ミーナ「彼さんはごく希な男性ウィッチとして、今日からここの一員となります。みなさん、仲良くしてくださいね。」
坂本「うむ。」
宮藤「は~い………って・・・」
「「「男ぉ!?」」」
~つづく~
501の基地に配属されることになった俺。
ウィッチ達に会えることに多少の期待を抱くが、あの日味わった光景が忘れられず、ことの重大さに悩んでいた。
一方、新ウィッチとして「彼」がウィッチーズの隊員となる。
同い年ぐらいの彼は、俺とは違う、成功してきた奴の顔立ちだった。
最終更新:2013年02月03日 15:52