194*年12月24日
リベリオン、ニューヨーク州バッファロー、ベル・エアクラフト自社工場の飛行場
C-47スカイトレイン機内


「…お……きろ~、おーい起きろ~、工場に着いたぞー」
僕「………んぁ?」

誰かに頬を軽く叩かれながら寝ぼけた目を開ける。
ぼやけた視界の中で、輸送機の簡素な内装とシャーリーの顔の輪郭を描いた。
次は、これまた簡素な固いベンチの感触が尻に伝わってくる。

シャーリー「やっと起きたか~。こんなクソ固い座席で寝れるよなー」

呆れ顔のシャーリーが手を腰に当てて僕を見下ろしていた。
右肩には雑嚢をぶら下げて、防寒対策としてB-3ボマージャケットを着込んでいる。
後ろの機窓からは雪の降る飛行場が見えた。

僕「そうかな?寝れるスペースがある分、一眠りするにはちょうど良いさ」
シャーリー「乱気流にぶち当たっても爆睡出来るやつなんて初めてだよ…」
僕「あー、一度目が覚めたような気が……ちょっと待ってな」

本気で呆れるシャーリーを他所に、着てきたロングコートの襟とウシャンカの座りを直す。
ベンチから腰を上げて、枕替わりの雑嚢を担ぎ上げた。

僕「はい、お待たせ。そろそろ行こうか」
シャーリー「うん、行こう」

冷え切ったジュラルミンの貨物扉を開ける。機内に外の冷気と粉雪が舞い込んできた。


2週間程前
同国、カリフォルニア州ミューロック乾湖、ミューロック飛行場
兵舎


僕「…今日も寒いなぁ」

自室のスチーム暖房に手をかざしながら呟いた。
基地一帯は何も無い荒野なので、陽が落ちると急激に冷え込む。
季節は冬、ここの天候に慣れていない僕には、スチームの暖かさが唯一の救いだ。
手先を温めていると、ノックの音がした。

僕「どうぞ…」
ウィリアムズ「邪魔するぞ」

間髪を入れずに、NACAの技師が廊下の冷気を引き連れて入ってきた。
冷気で部屋の温度が急激に下がる。まわりの湿気が冷えたような気がした。
ぐるりと自室の中を見渡すと

ウィリアムズ「…我慢大会でもしてるのか?」

入ってきた第一声がそれだった。
スチームの元栓は全開にしてあるし、その上に置いた薬缶からは湯気が出ている。
ドテラを着込んでやっとこさ暖まれる僕にはちょうどいい室温だ。

僕「寒がりなんですよ…ところで何かありましたか?」
ウィリアムズ「僕中尉に2つのニュースだ。良い方と悪い方、どっちから聞く?」
僕「じゃあ、悪い方で」

落とした後持ち上げる方が、持ち上げた時の効果が大きいと聞く。それに倣うことにした。

ウィリアムズ「Copy、まず悪いニュースから。喜べ、クリスマスにニューヨークへ出張だ」
僕「…軍はクリスマス休暇ってものを知らないんですかね?」

部屋のカレンダーの24、25日は数字が青色と赤色になっている。
つまり、休日返上で東海岸まで出張しろというわけだ。

ウィリアムズ「24時間年中無休で世界中のどこへでも、がリベリオン陸軍だからな」

通称主任は全く同情するつもりなく言った。それを聞いて軽く溜息を付く。

僕「はぁ……それでもう一つは?」
ウィリアムズ「イェーガー大尉、いるだろ?彼女に同行して超音速試験機の受領だ」
僕「フムン…」

落ち込んだ気分が少し良くなった。
NYと言えばジャズの聖地でもあるし、受領ついでにシャーリーを連れて観光も出来るだろう。
出張の時期もクリスマス真っ盛りだから、全くもって悪くない。

僕「フム、それは確かに良いニュースですね」
ウィリアムズ「だろ?ちょうど俺も、その日はD.Cへ行かにゃならんから
       俺の代役にもなってくれるか?向こうには話を通しておく」

独り身の休日、それもクリスマスの過ごし方なんて高が知れる。
起きて読書か軽い運動をして寝るだけ。二つ返事で引き受けた。

僕「わかりました、いいでしょう。そちらも良い知らせがあればよろしく」
ウィリアムズ「おう、楽しみにしてろよ。じゃ、おやすみ」
僕「いい夢を」

開きっぱなしだった部屋の扉を閉めて出ていった。その後には自然と顔が綻ぶ。

僕「…さて、どこへ連れていってあげようか」

雪で白く染まったブロードウェイを思い描く。きっとそれは素敵な景色だろう。
ニューヨーク出張が楽しみに思えてきた。



この時、ウォルター・ウィリアムズが言った『ニューヨーク』とは州名であり
僕が思い描いた『ニューヨーク』は『ニューヨークシティ』のことである。
そのことが輸送機に乗り込んでから判明し、にこやかに見送る彼を恨んだのはまた別の話。


ベル・エアクラフト自社工場


「…はぁ、そんなことがありましたか。全く彼も人が悪い」

試験機のある倉庫へ向かう途中、ここまでの簡単な顛末を話すと
僕達の前を歩くベル社のエンジニア、ロバート・スタンレーが苦笑いした。

僕「いつもあんな感じですか?」
スタンレー「そうですね~、頭は切れるし精力的なんですけど、癖があるというか
      アクが強いというか……『悪い奴ではないけども』ってのが私の印象ですね」
僕「はぁ…」

それを聞いてなんとなく、501JFW整備中隊の先任を思い出す。
隣を歩くシャーリーが耳を寄せた。

シャーリー「…マリオみたいな奴ってことか」

耳元で囁く。全く同じ人物が頭に浮かんだようだ。

僕「ああ。どうやら僕は癖の強い上司とスケッチせにゃならんみたいだ」
シャーリー「そりゃー、何ていうか…ご愁傷様」
僕「繰り返しはギャグの基本だからな…」

両手を合わせることはしなかったが、憐れむような視線を向けられた。
しばらく歩いた後、何の変哲もない格納庫の前で立ち止まった。

スタンレー「ここです。少々お待ちを」

ポケットから鍵を出している間に、シャーリーが僕の脇腹をつついた。

シャーリー「なぁなぁ、どんなストライカーだと思う?」

プレゼントを開けたくて仕方ないと言った感じだ。
明日明後日がクリスマスだから、この試験機はひと足早いクリスマスプレゼントみたいなものか。

僕「開けてビックリなんとやら、じゃないか?」
シャーリー「だから余計に気になるだろー?ムスタングみたいにカッコイイといいな~」
スタンレー「きっと気にいると思いますよ……そっちの扉を押してください」

スタンレーの指示で格納庫の重い扉を押した。
格納庫正面、両開きの扉から締め切られた空間に冬の薄暗い光が差し込む。

スタンレー「電灯を点けて来ます。あ、備品には触らないでくださいね」

棚にある機械に触ろうとしたシャーリーに釘を刺してから、壁際のブレーカに近づく。
唸るような音がして天井の水銀灯が小さく灯った。
冷たい明かりの中で、見慣れたストライカー発進ユニットにその試験機は固定されていた。

シャーリー「……弾丸、みたいだな」

僕の横で呟いた。一目見た感じは、銃弾を人が履けるまで拡大したような形。
そいつをひっくり返して橙に塗った後、短い矩形翼を脚の付け根に生やす。
エアインテイクやラジエータは無く、脚先にロケットノズルを4つ生やして出来上がり。

スタンレー「…eXperimental Supersonic-1、略称はXS-1。
      この1号機は、ついこの前にXLR11魔導ロケットエンジンを載せたところです」
シャーリー「それでこいつの最高速度は!?」
僕「落ち着けって。載せたばかりだって言ってるから、まだ稼働させていないのでしょう?」

待ち切れなさそうに先を急かすシャーリーを窘める。
音速を超える事ができる試験機が目の前にあるからか、僕も落ち着かない。
早る気持ちを抑えて先を促した。

スタンレー「ええ、滑走試験がやっと終わったので。
      ですが速度については保証しますよ。XLR11は最大推力で6000lbfを叩き出しますし
      ストライカーの形状は超音速飛翔体の12.7mm弾を参考にしています」
シャーリー「後はあたし次第ってことか?」
スタンレー「はい、ですから…」

急に言い淀む。シャーリーの右手を取って両手でひしと握ると、真摯な目で僕達の方を見た。

スタンレー「このストライカーは、私どもの技術の結晶です。
      こいつ、いや、この子を音よりも向こう側に飛ばしてあげて下さい。
      何卒、よろしくお願いします……!」

そう言って、腰から上を直角に曲げて頼み込んだ。
その姿に驚いたようだったが、すぐにいつもの自信に満ちた笑みを浮かべた。

シャーリー「もちろんさ!絶対に超えてみせるから待ってろよ!」


『夢幻』に続く
最終更新:2013年02月07日 13:36