俺は今、基地の射撃場に居る。
誰一人居ないレンジで椅子に座り、八歯の歯車の様な物...フルムーン・クリップを弄っていた。

俺「ひとーつ、ふたーつ」

俺が使っているサブウェポンはM627リボルバー拳銃。.357マグナム弾を8発装弾出来る。
元々はM27で装弾数も6発だったが、カールスラント技術省に俺の固有魔法のデータを渡す代わりに改造してもらったのだ。
無論その分重たくはなったがそこまで素早く取り出すものでも無い。俺の趣味、といっても良いくらいだろう。

俺「弾倉内に異常なし。シリンダーキャップも大丈夫」

薄いクリップで8発のFMJ弾が留められている。俺はそれを弾倉に押し込んだ。
素早く安全装置を解除。使い魔を具現させて20m先に置かれた人型の的を狙う。

俺「すぅ・・・・・・・!!」

最初に間を空けて2発、そのまま一気に6連射。跳ね上がる反動を強化した筋力で強引に押し込む。
そのまま一気に弾倉をスイングさせて薬莢を地面へ。そのまま銃を天へと向けた。

俺「綺麗だ・・・」

ステンレス鋼のフレームが光を受けて綺麗に輝く。
それは今まで見てきた銃の中でも一番素晴らしい光景だろう。
俺はしばらくの間、自らの銃の輝きを何も考えず眺めていた。

ルチアナ「・・・よろしいでしょうか?」

俺「・・・ん?何だい?」

ルチアナ「いえ、俺さんを探していたら何かに集中していたのでつい...」

俺「あぁ・・・ちょっと見てただけさ」

銃をテーブルに置き、下に落ちたままの冷えた薬莢を拾う。
最後にもう一度弾薬を装填し、安全装置を掛けてホルスターにしまった。

ルチアナ「銃に思い入れがあるんですね」

俺「ただ好きなだけだよ。おっさんが壺を集めるようなものと同じさ」

俺「何かする?今日はやること無いはずだけど」

ルチアナ「そうですね・・・私も特には決めていません」

ルチアナ「でも一つやっておきたい事があります」

ルチアナ「採寸で俺さんの体型を知っておきたいんです」

俺「りょーかい。ルチアナの部屋に行くんだね?...」

俺達は射撃場を後にして宿舎の方へとゆっくり歩いていく。春独特の暖かい日差しが俺達を照らしていた。
ルチアナは俺の横で考えに耽りながら歩いている。
視線の先には大将とジェーンがベンチに座り、一緒に何かの瓶を飲み合っていた。

俺「コカ・コーラなのかな」

ルチアナ「ペプシ・コーラの可能性もあります」

俺「ルチアナはどっちが好き?」

ルチアナ「私は・・・ああいう飲み物は好きではありません」

俺「俺もかな。炭酸飲料はあんまり。でも前に食事で出た柑橘系の果物が入った奴は美味しかったな・・・」

ルチアナ「CHINOですか?良ければまた出しますよ?」

俺「お願いするよ。もし買えるのなら2、3瓶ほど買いたいんだ。無論お金は出す」

ルチアナ「分かりました。買い付けていきますね」

諏訪「あ・・・俺さん、それにルチアナさん。ここに居たんですね」

俺「どうしたんだ?諏訪と中島揃って」

中島「私達、扶桑に一度帰るんです。だから皆に何かお土産を買っていこうと思って聞きまわっていました」

ルチアナ「そうですか・・・どれくらいで戻ってきます?」

諏訪「どうとも言えません。多分夏には戻ってこれそうです」

俺「お土産かぁ...何でも良いのか?」

中島「取り寄せやすい物でお願いします」

俺「んー・・・じゃあ梅干で。後スルメイカも頼むよ」

中島「ふむふむ....ルチアナさんはどうしますか?」

ルチアナ「欲しいもの・・・・・・和服をお願いできますか?一度着てみたいんです」

中島「分かりました。頼んでおきます・・・」カキカキ

俺「ちょっと良いか?もう一つ頼みたいんだ」

中島「はい?」

俺「...この名前の人物を探してほしい。今は多分近畿のどこかの陸軍に所属していると思う」

諏訪「この姓は・・・」

俺「居なければ別に構わない。この世界で彼がどう歩んでいるかは分からないからな」

中島「分かりました!必ず見つけ出します!」

俺「いやいや本気にならなくて良いさ...ではお願いするよ」

諏訪「了解です!」

ルチアナ「・・・・・静かになりますね」

俺「フェルとティナが居る限りあんまり変わらないさ」

ルチアナ「それとあの名前、俺さんの親族の方ですか?」

俺「お爺ちゃんだよ。昔は陸軍に所属していたらしい」

俺「ま、こっちの世界がどこまで前の世界と一緒かを確認するには良いかなってね」

ルチアナ「相変わらず試す事がお好きですね」

しばらく話すうちに部屋まで着いた。入ると俺は上着を脱ぎ、ベッドに腰掛けて彼女の用意を待つ。

ルチアナ「動かないで下さいね...」

彼女がメジャーで俺の体格を測っていく。手馴れているのか動きが素早い。

ルチアナ「ここがこうで...」

俺「・・・」

胸囲を測る為に背中へ腕を回される。目の前で揺れ動く頭。
俺は彼女の後頭部へと手を回しゆっくりと撫でていた。

ルチアナ「・・・・・・その、恥ずかしいんですが...」

俺「照れるルチアナも可愛いよ」

ルチアナ「もう...」

顔を赤くしながらも彼女の腕は俺を離さない。
そのまま彼女を抱きしめベッドへ倒れこむ。

俺「・・・・・・ねぇ、このまま寝ても良い?」

ルチアナ「でも...夜間哨戒が...」

俺「後3時間はある。ちょっと寝ても大丈夫だって」

ルチアナ「・・・寝坊しても知りませんからね?」

俺はその言葉を聞き、そのままベッドに寝転がる。
ルチアナは少々の呆れ顔を見せたが静かに目を閉じ、俺の腕の中で寝息を立てていた。

俺「・・・・・・・・・・寝た?」

ルチアナ「...はい?」

俺「その・・・ありがとう」

ルチアナ「...私は俺さんとこうする事、好きですよ」

ルチアナ「・・・お休みなさい」

俺「うん・・・お休み」


俺「オペレーション・トラア...」

フェデリカ「トラヤヌスよ。ト ラ ヤ ヌ ス 」

俺達504のメンバーはブリーフィングルームで今回受けた任務の説明を聞いていた。
プロジェクターに移った画像の前で、フェデリカ少佐が指示棒を握っている。

マルチナ「因みにトラヤヌスってのは昔のロマーニャ皇帝だよ。知ってたー?」

俺「ぜんぜ~ん。まぁ俺が知ってるのは日本史だからな。異世界の歴史は知らないよ」

俺「で、そのトラ何とかは一体何なんです?」

竹井「トラヤヌスよ。俺さんはあの事を知らないわね・・・一から説明するわ」

竹井「・・・今から数ヶ月前、501統合戦闘航空団のとあるメンバーが人型ネウロイとコンタクトを取ったの」

竹井「その後色々あってそれ以上の接触は無かったんだけど・・・」

竹井「このネウロイの存在を知った上層部はネウロイとの意思疎通を行う作戦を立案、私達に命令が下ったと言うわけ」

俺「へぇ・・・」

「・・・・・・」

ルチアナ「...もっとリアクションが大きい方が良いのでは?皆さんちょっとがっかりしていますよ」

ドミニカ「・・・今回の賭け、勝ったな」

ジェーン「私の負けです...」

フェル「もう少し驚くと思ったのにねぇ・・・人型ネウロイよ?」

俺「いやあの...俺はネウロイ自体に知性があるのは分かっていたので・・・別に人型が居てもおかしくないでしょうし」

アンジェラ「確かに正論だな」

俺「それに...エイリアンが人型になるって典型的でしょ?」

竹井「典型的?あまりそういう物は見たこと無いんだけれど・・・」

俺「まぁ知らないでしょうね・・・ニューボーンとか」

俺「で、どこにそのネウロイは居るんです?」

フェデリカ「そりゃ決まってるじゃない・・・」

フェデリカ「ネウロイの巣よ」

俺「・・・巣一つにある熱源数は数百以上です。それが襲ってくる可能性が高い事を理解していますか?」

竹井「もしこの作戦が成功すればネウロイとの戦いを...」

俺「分かってますよ・・・本当に貴方達は勇気ありますね・・・」

フェル「もし行きたくないのなら行かなくていい。どうする?俺中尉」

俺「・・・行かせてもらいます!」


俺「って言ったが良いが...」

マルチナ「? デザート食べないの?」

俺「あぁ、食べるさ・・・」

ルチアナ「どうしました?悩み事ですか?」

フェル「この男が悩みを持つわけないでしょー。いっつも楽観的なのに」

俺「一言余計です。俺は内面は傷つきやすいんですよ?」

フェル「傷ついてもすぐに回復するんでしょ」

俺「心の自動治癒魔法が掛かっているんです」

俺「今考えていたのは・・・人型ネウロイの事ですよ。彼らの意図は一体何なのか」

ルチアナ「・・・ウィッチを真似しただけでは無いでしょうか?」

俺「多分そうだけど・・・では何で彼らは真似...形態模写をするのか」

俺「人類に興味があるのか、ウィッチに勝つ為の作戦なのか」

俺「ただ勝つ為なら、今まで通りに戦況に合った機体で一気に攻めれば良い」

俺「ウィッチといえど数は限られている。数で押せばいとも容易く戦線を押し戻せる」

俺「なら人型を作る必要もない」

ドミニカ「なら興味があるだけじゃないか?」

俺「興味の度合いも問題です。人を殺戮する為に生態を知りたいのか、ただコンタクトをとりたいだけなのか」

パトリシア「でも前にネウロイに遭遇したあの扶桑の子は大丈夫だったよ?」

俺「竹井さんの報告書によれば、ネウロイは昔にウィッチを洗脳したとの記録があるようです」

俺「好意的に見えたのも彼らの作戦なのかも知れません」

アンジェラ「だが前回と今回は違う。我々全員と航空機部隊で向かうのだ。捕まる事は無いだろう」

俺「ですが敵の制空権内に入る以上安心は出来ません」

フェル「まったく・・・そんなに心配なのにどうしてこの任務に志願したのよ!?」

俺「それは・・・・・・」

俺「面白そうだし、ルチアナ...皆も行くって言うし、一人で留守番とか嫌だし」

ドミニカ「・・・これは随分と子供な発想だな」

マルチナ「変なの~」

俺「・・・・・・」ムスッ

フェル「まぁ良いんじゃないの?来てくれるなら単純に戦力としても、索敵役としても心強いわ」

フェル「そうでしょう?ルチアナ」

ルチアナ「...はい。俺さんが居てくれればありがたいです」

ジェーン「まぁちょっと変な所はありますが、一応俺さんは頼れますよね」

ドミニカ「まぁ近距離戦の上手さでは私に劣るが、一応頼れるな」

パトリシア「まぁ射撃の腕前は普通だけど、頼れますね」

マルチナ「索敵だけは頼れるねっ」

俺「・・・褒めているんですよね?」

ルチアナ「皆、心の中では俺さんを信用していますよ」

俺「なるほど、ツンデレなんですね。なら...」

俺「べ、別に心にキュンと来た訳じゃ無いんだからねっ!」

「・・・・・・」

俺「...明日の任務、必ず成功させましょうね」

フェル「そ、そうね」

ドミニカ「とりあえずこれでも飲まないか?ちょっとしたコネを使って貰ったんだが・・・」スッ

アンジェラ「それはワインじゃないか。それもガリア産の...」

ドミニカ「ガリアが戦火に巻き込まれる前の品らしい。飲むだろう?」

ジェーン「私達はともかく俺さんとルチアナさんは・・・」

俺「飲みましょう。今日は夜間哨戒はありませんから」

ルチアナ「なら私も一杯...」

ジェーン「あら、良いんですね。ではグラスを・・・」

フェル「じゃあ私も・・・」

マルチナ「ボクも飲むー」

アンジェラ「・・・私は先に...」

パトリシア「アンジー、ねぇ一緒に飲もうよ~」

アンジェラ「だが・・・・・分かった!そんな目で見るな!」

竹井「あらあら、美味しそうな物を持っているじゃない」

フェデリカ「私達の分もあるわよね?」

ジェーン「今入れます!」トクトク

テーブルの前に置かれたグラスへワインが注がれていく。全て注ぎ終わった後、皆でグラスを手に取った。

俺「誰か乾杯の音頭を...」

フェデリカ「ジュンコ、お願いするわね」

竹井「私が?...そうね、分かったわ」

竹井「今回の作戦はネウロイとの初公式のコンタクト作戦です。でも成功すればそれ以上の結果を残せます」

竹井「絶対に成功させましょう!乾杯!!」

「「乾杯!!!」」


<ロマーニャ公国,ヴェネタ潟上空,AM10:00>

竹井「俺さん、巣の状況は?」

俺「・・・巣内部に動きなし。いつも通りです」

竹井「ありがとう。何か小さな動きでもあったら報告をお願い」

俺「了解」

魔導針を通して見るネウロイの巣は恐ろしいものだ。IRSTにもレーダーにも多くの影が映っている。
そして俺の後ろにも多くの機影が映っている。今回の作戦で支援を行ってくれるロマーニャ空軍の飛行機部隊だ。

ジェーン「こんなに友軍が居てくれれば何とかなりそうですね」

ドミニカ「上手く行けば良いが...」

マルチナ「すごい数だよね。ボク始めて見るよ」

フェル「初めてと言えば、こんなに巣に近づくのも初めてだわ・・・」

パティ「不気味ですね・・・」

アンジェラ「あぁ・・・」

俺達は飛行機部隊を先行する形で編隊を組み飛んでいた。
一番前は竹井大尉。そして赤ズボン隊と俺。一番後ろの両端には大将とジェーン、アンジェラ大尉とパティがいる。

ルチアナ「ネウロイの巣、かなり大きいようですね」

俺「直径は10km以上。中の反応数は数百以上はある」

ルチアナ「もし一斉に攻撃されたら・・・」

俺「・・・それはあんまり考えたくないシナリオだな」

俺達はヴェネツィア市街地の上空に入る。そこで竹井大尉が止まった。
しばらく滞空すること数分。巣に変化が起こる。

俺「何かが降りてきます。人型です!」

竹井「来たわね...」

俺達の目の前に現れた漆黒のウィッチ。彼女?はゆっくりとこちらへ...

俺(新たな反応?だが....)

巣からじゃない。もっと高い所から何かが・・・

俺「...ネウロイ!避けろ!」

俺の言葉に首を傾げるネウロイ。俺は咄嗟にネウロイへM627を向け、当たらないように数発撃ち込む。
俺の攻撃を素早く回避したネウロイ。俺へと腕を構え、じっとこちらを見続けている。

竹井「俺さん!許可無しに撃つのは...っ!」

ネウ子「!!」

今までネウロイが居た所に赤いビームが照射される。呆然とするネウロイとウィッチ達。

俺「敵の攻撃です。ですがこのネウロイ達とは違う・・・」

言葉が終わらない内に多くのビームがネウロイの巣へと降り注ぎ始めた。
それに合わせて今のネウロイの巣よりも高い場所に何かの反応...

竹井「俺さん!状況を報告して!」

俺「どうやら別の巣が来たようです!その巣がこのネウロイ達を攻撃しています!」

竹井「そんな・・・」

俺「新手の方が有利すぎます!巻き込まれない内に撤退しましょう!」

ビームと共に新しい巣からネウロイ達がこっちへ向かってくる。膨大な数だ...

竹井「・・・・・・こちら竹井。作戦は失敗した。繰り返す。トラヤヌス作戦は失敗した・・・」

竹井「全部隊、すぐにベネツィアから撤退せよ!アルダーウィッチーズは航空機部隊を護衛しながら撤退します!」

竹井「・・・作戦は失敗したわ。でもこのまま新しいネウロイにやられる訳には行かない!」

竹井「皆で航空機部隊を離脱するまで守りましょう。それが今私達に出来る事よ!」

「「了解!」」

皆が航空機部隊の援護に回っていく。俺も向かおうとしたが一つ気になる反応があった。

俺(あの人型ネウロイ、どうするんだろう・・・)

ただ呆然と巣が崩壊しているのを見続けるネウロイ。俺は彼女に声を掛ける。

俺「そこのネウロイ!このまま巣と共に死ぬ気か?」

ネウ子「・・・」

こちらを見てそのまま黙ってしまうネウロイ。

俺「なら俺達の基地に来るか?」

ルチアナ「俺さん!?」

フェル「今何て言ったの!?」

俺「...どうせ彼女も行くあてが無いんですよ。それに俺が威嚇射撃をした時にすぐに撃ち返さなかった」

俺「お前は戦う意思が今でもあるのか?」

ネウ子「・・・」ブンブン

俺「竹井大尉、彼女を亡命者として受け入れましょう」

竹井「でも...」

俺「色んな情報を聞き出すチャンスですよ。人型ならより詳しいコミュニケーションも取れます」ボソボソ

竹井「・・・分かったわ。来るのならこっちに来なさい!」

竹井「...俺さんとルチアナさんはあのネウロイを見ていて頂戴。攻撃する意思が見られたらすぐに撃つのよ」

俺&ルチアナ「了解です」

竹井「アンジェラさんとパティさんは戦闘機部隊と共に迫ってくる敵の...」

撤退している俺達へと近づく人型ネウロイ。それをバックにして巣が崩壊していくのが見えた...




1945年4月。トラヤヌス作戦は思わぬ収穫とベネツィアの完全放棄、多くの被害と共に失敗した。
最終更新:2013年02月07日 13:55