<1946年1月9日 昼>
俺「・・・・・・あの、食堂に入りたいんだが」
諏訪「今日は申し訳ないのですが...」
俺「・・・用意してるのか」
俺「...分かった。外でも歩いておくよ」
俺「ところでお腹減ったんだけど...何かない?」
諏訪「おにぎりを作っておきましたので、これをどうぞ」
彼女からおにぎりを貰い、仕方なく食堂前を後にする。
中では大勢が明日の用意を行っているようだ...
『つまみ食いはダメですよ!!』
『美味しそうだったからつい...』
『そこにテーブルを置きましょう。椅子はここにね』
どうせ明日にはどうなっているのかが分かる。今はゆっくり待とう。
俺「どこで食べようかな...」
ぼんやりと廊下を歩いて数分、着いたのはルチアナの部屋の前。
俺「・・・起きている?」
『はい。起きていますよ』
俺「オッケー、入るよ」
中にはいつも通りの事務処理を行う彼女が居た。
こちらを見て軽く微笑んで会釈をし、また仕事に戻る。
ルチアナ「今日は食堂が忙しそうですね」
俺「ルチアナは分かっているんだろ?明日のパーティーの事」
ルチアナ「去年もありましたからね。本当に嬉しかったです」
俺「俺としては
初めての大きなパーティーだからね・・・色々楽しみだよ」
ルチアナ「ドッキリもある事もあるので注意した方が良いかもしれませんよ」
その言葉の後、彼女は仕事へと集中し、俺は貰ったおにぎりを黙々と食べ続ける。
ルチアナ「捺印が必要な書類ですね・・・」
書類を見ては溜息をついては長々と筆を動かす。見ていて飽きない子だ。
その姿をただ見つめていると、彼女が不思議そうに見返してきた。
ルチアナ「前々から思っていたんですが・・・」
ルチアナ「俺さんはどうして面白そうに見ているんですか?いつもの光景ですよ?」
俺「う、うーん・・・」
俺「いつもの光景、と言ったら違うと思うんだ」
ルチアナ「違う?」
俺「だってルチアナは少しずつ日々変わっていくでしょ?」
俺「身体的な事もあるし、毎日のこの作業のスピード、正確さは段々早くなっていると思う」
俺「この何気ないいつもの日常。それこそ面白いんだよ」
俺「まぁルチアナが可愛いのが見ている理由の大半だけどね」
ルチアナ「もう...ただ作業しているだけですよ...」
照れるルチアナの頭を撫でながら思う。やっぱり俺はこの子にベタ惚れだと。
今はただ、こうやって傍に居られる時間が一番の宝だ。
俺「こうやって照れる姿も...」
ぐぅ~
思わず鳴り響くお腹。その音にルチアナはくすりと笑う。
ルチアナ「どうしましょう?何か食べましょうか?」
俺「でも食堂にまた行くのもな・・・」
俺「・・・そういえば、倉庫にさつま芋があったよね」
ルチアナ「ええ、確かにありますが」
俺「なら・・・ちょっと焚火でもしないか?」
俺「種も仕掛けもありません」
俺「ですが手をかざすと」
ボンッ!!
爆発音と共に集めた枯れ葉と紙が勢いよく燃え始めた。
持ってきた木箱に座り、二人で焚火に当たる。
ルチアナ「マッチいらずですね」
俺「個人的にはマッチで着ける方が好きだけどね」
追加で要らない木材も放り込む。炎は段々と安定してきた。
俺「もう少し時間が掛かるかな」
ルチアナ「ではゆっくり待ちましょう」
彼女を抱き寄せ、ただ焚火を眺める事に。
ルチアナは俺の肩に頭を預け、うとうとし始めるのを感じる。
ルチアナ「今日は・・・風が吹かなくて良い日ですねー・・・」
俺「天気予報だと雨だったけど、晴れて良かったよ」
ルチアナ「本当に暖かい・・・・・・」
寝息を静かに立て始めるルチアナ。書類仕事で疲れていたのかな・・・
彼女を起こさないように、さつま芋を火ばさみで掴み灰へと押し込んでいく。
俺「上手く焼けるかなー」
ルチアナ「すぅ...くぅ...」
本当に何も無い一日。最近はネウロイの襲撃も少なく、今の任務の殆どは
アフリカ方面からの敵迎撃のみだ。
他の皆もどこかに出掛ける事が多くなっている。
「・・・・・・お邪魔かしら?」
静かに話しかける声。ゆっくり振り向くとフェデリカ少佐が居た。何かの小箱を持っているようだが...
俺「今日は本部に行っていたと聞きますが...お帰りなさいませ。フェデリカ少佐」
フェデリカ「ただいま。最近はルチアナとは上手く行っている?」
俺「上手く行ってる・・・んでしょうかね・・・」
俺「彼女は不平不満なんて言わない性格ですから・・・」
フェデリカ「大丈夫よ。ロマーニャの女の子は貴方が思う以上にストレートよ?」
フェデリカ「それを言わないのなら、ルチアナは俺に満足しているって事」
俺「そう、それなら良いんですけど...」
フェデリカ「そうそう、買って来たわ。コレ」
俺「あぁ・・・ありがとうございます!」
フェデリカ「しかしまぁ...コレを渡すとは本当に貴方も面白いわね」
俺「記念日ですからね・・・丁度良い機会です」
フェデリカ「じゃあね。お二人ともごゆっくり・・・」
ソレを俺に渡すと、宿舎に戻りつつ後ろ手を振る少佐。
しばらくその姿を見ていたが、灰に突っ込んだままの芋を思い出し慌てて掘りだす。
ルチアナ「んっ・・・もう焼けたのですか?」
俺「どうだろう.....よっと」
俺「熱ッ!!・・・ほら、ホクホクだよ」
ルチアナ「美味しそう・・・頂きます」
ルチアナ「ふーふー・・・」
俺「美味しい?」
ルチアナ「モグモグ・・・はい、あまくておいしいです...」
昔作った焼き芋よりも水分や甘みが少なめに感じる。品種の違いだろうか・・・まぁこれはこれで美味しい。
「あー!そこに居たんだー!」
幼い声。走ってきたのはティナだ。大きな袋を抱えている。ゴミの片付けだろうか。
マルチナ「二人っとも見当たらないなぁって思ってたけど・・・焚火してるの?」
マルチナ「この香り・・・焼き芋!?美味しそうだなぁ~」
ルチアナ「まだ沢山ありますよ。ティナも食べる?」
マルチナ「うん!」
ゴミ袋を脇へ放り投げ、ルチアナの隣に座るティナ。焼き芋を渡すと美味しそうに食べ始めた。
マルチナ「ふぉいし~」モグモグ
ルチアナ「こら、口に物を入れながら食べちゃダメです」
マルチナ「ふぁーい」
ティナに残るあどけなさ、ルチアナの面倒見の良さ。二人は本当に親子のように見える。
ルチアナ「口元に付いてますよ」フキフキ
マルチナ「んんっ...ごちそうさまでした!」
俺「まだ余っている・・・ティナ、これを皆に持って行ってくれるか?食べ切れないだろうし」
マルチナ「うん、りょうかーい!」
食べ切ったルチアナは自分の服を袋代わりにして焼き芋を持って帰っていく・・・ゴミ袋を置きっぱなしにして。
それに気付いた俺達。二人でくすくすと笑い、火を消してゴミ箱に捨てに行く。
俺「ちょっと歩く?運動がてらに」
ルチアナ「はい。分かりました」
そのまま基地の外周を回るように歩き始める。
久しぶりの天気のいい日だったので外には洗濯物が多く干され、弱い風で靡いていた。
ここで俺は、今まで切り出したかった事を話し始める。
俺「・・・ルチアナはさぁ」
ルチアナ「?」
俺「これからどうする?もう君は飛べなくなるだろ...」
ルチアナ「・・・そうですね。あと数ヶ月でしょう」
ルチアナ「俺さんもそろそろ上がりですが・・・また別なのでしょうね」
俺「いや...俺も最近は索敵能力がガタ落ちだよ...」
ルチアナ「えっ・・・」
俺「ははは・・・レーダーの索敵範囲を狭めたりして騙して来たんだけど・・・」
俺「いやぁー上がりは20歳と聞いていたけど俺は別だったんだろうなー」
俺「まぁ所詮生まれながらのウィッチじゃないし、これは覚悟していたんだけどね」
既に全周探知は不可能。メーザーも出力が落ちている。もう前のように戦う事は出来ない。
ルチアナ「どうして言ってくれなかったんですか?......」
黙りこむルチアナを俺は抱きしめる。胸に顔を埋める彼女を優しく撫でながら話しかけた。
俺「だから今日は、君にこれからのプランを話したかったんだ」
ルチアナ「.....」
俺「・・・もし軍を二人で辞めたらさ、一緒にベルギカのアントウェルペンに行かないか?」
俺「俺は軍で教官でもして働いて、君は美術アカデミーに通う」
俺「ルチアナが卒業したら、俺の貯金で土地を借りて服屋を作るんだ」
俺「俺が店番をしてルチアナが服を作る。稼ぎはある程度あれば良い。ぼんやり過ごしてさ...」
俺「たまーに遠くまで出掛けて遊んだり、ウィッチの皆に会いに行く・・・」
俺「もし良ければ、一緒に来てくれるかい?」
ルチアナ「・・・・・・はい!一緒に行きましょう!」
夕焼けの中、彼女は笑顔を見せてくれる。
その笑顔は、本当に心から喜んでくれているようだった。
<1月9日 23時59分>
俺の部屋に上がりを迎えるウィッチが二人。ただ、その時を待ち続ける。
部屋の中は炎の燃える音と、チクタクと鳴る時計の音以外は何も聞こえない。
俺「41、42、43...」
二人でベッドに腰掛け、俺が持つ懐中時計を静かに眺め続けていた。
俺「55、56、57...」
カチッ
俺「誕生日おめでとう・・・ルチアナ!」
ルチアナ「お誕生日おめでとうございます。俺さん」
しばらくの間、お互いを見つめあう。段々と近くなる距離。そして...
ルチアナ「んっ...」
軽く触れ合うようなキス。すぐに唇が離れる。
俺「・・・おめでとう」
ルチアナ「俺さん・・・」
俺はそのまま、ゆっくりと彼女を押し倒した。
<1月10日 食堂前 昼>
ルチアナ「そろそろでしょうか」
俺「やけに時間が掛かっているようだね...」
『よし、料理の用意は出来たわね。二人とも入ってちょうだい!』
ルチアナ「・・・では、行きましょう。俺さん」
手を差し伸ばすルチアナ。その手を取り、二人で扉に手を掛ける。
ルチアナ「・・・」コクッ
頷く彼女の肩には大きな袋。俺への誕生日プレゼントらしい。
対して俺が持つのは小さな箱。中に入っているのは、この日をもう一つの記念日にする物だ。
俺「...行こう」
二人で一気に扉を開く。その先には。
――数週間後、504JFWから二人のウィッチが除隊した。彼らはベルギカへ旅立ったと言われている――
最終更新:2013年02月07日 13:56