――2日後、私自室・サロン――

コン、コン

シャーリー「……? 私ー? おーい」コンコン

シーン…

シャーリー「……いないのかな? おーい、いるかー?」ドンドン

シーン……

シャーリー「……参ったな。せっかく本返しに来たのに。どうしよっかな……」
(私のいないときに入っちゃいけない、って言われてるけど……)

シャーリー「……ま、いいか。ほんの少しだし。本返すだけだ。……おじゃましまーす」ガチャッ

シャーリー(……やっぱり、誰もいないな。どこ行ったんだろう……えーと、本棚本棚……)

シャーリー(あ、あった。ここだったよな。……よし、返却完了)

シャーリー(……それにしても……)

――ふと、サロンの中を見廻してみる。
   木製のデスク。簡素な作りのテーブルとソファ。そしておびただしい量の、しかし整然と並べられた本。

――整っている。一言で言うなら、まさにそれだ。そして、無駄が無い。
   だが……同時に、生気も感じられない。

シャーリー(……なんというか……寂しい感じだな)

――窓際のデスク。足が自然にそちらの方向へと進んで行ってしまう。

――デスクの上には、シンプルなスタンドと、何本かのペンがあるだけだ。
   いつだったか、ルッキーニがプレゼントしていたGペンもある。
――なぜか、それだけまるで別格のように、大事そうに箱の中にしまわれていた。

シャーリー(……使ってんのかな? ……あ、写真だ)

――部屋の整理の日、偶然だが見てしまった写真。中央に写っているのは他でもない、私だ。
   今と全く変わらない姿で、随分安らいだ表情をしている。

――その隣には小さな白い犬。お父さんだ。彼も昔から全然変わっていないようだった。
   ……まあ、ロボットだから当然か。

シャーリー(……じゃあ、この右側の女の人が……?)

――私の右側に写った、白衣の女性。身長は私よりも少し低いが、胸の大きさは随分と差がある。
   ……あたしよりも少し、小さいぐらいかな。

――何もかもを包み込むような優しい眼差しのその女性は、私の肩を抱き、静かに笑っていた。

――おそらく、この人が……私のお母さんなのだろう。
   私が常に信奉し、おそらくは彼女の絶対的な基準となっているであろう、あの。

シャーリー(……まあ、確かに……あたしに似てなくもない、かな)

シャーリー(……ハハ、こんなこと言ったら、また何か言われちゃうな。……ん?)

――ふと、写真のすぐそばにあった紙に目が行く。
   その紙には、なにかこまごまと奇妙な文字が書きつけられていた。

シャーリー(……? なんだ、これ……ブリタニア語じゃないよな……)

シャーリー(暗号……か何かかな。……あれ? ここだけアルファベットだ)

シャーリー(えーっと……ぱ、『PANTS』、『P.O.P』……?)

バダン!!

シャーリー「!!?」


私「…………」

シャーリー「あ……わ、私……」

私「……勝手に入るな、って言わなかったっけ?」

シャーリー「ご、ごめん! 本、返したくってさ……」

私「……今度から外に返却箱置いておくわ。留守だったらそこに入れるようにしてね」

シャーリー「あ、ああ……ごめん」

私「……? 何よ、部屋に入っただけにしては随分謝るわね?」

シャーリー「え!? あ、いや、そ、そうかな……ハハ」アセアセ

私「……ふーん。ま、いいけど……あ、そうだ。ちょっと相談があるんだけど」

シャーリー「え、何だ?」

私「いや……さっき研究室にリーネちゃんが来てね。『芳佳ちゃん時計を私に譲って下さい』とか言って、ほら……これを置いてったのよ」ドンッ

シャーリー「うぉっ……随分でかいケースだな。札束でも入ってそうだよ」

私「入ってんのよ」

シャーリー「へーえ、そりゃ……え?」

私「……扶桑円にして50万円。……おこづかいだって。実家からの」

シャーリー「」ポカーン

私「ボイスの『バルクホルンさん』を『リーネちゃん』に変えてくれるんなら、さらに50万出すそうよ」

シャーリー「……どうしてこうここの人間は金銭感覚が異常なんだよ」

私「まあ、とりあえずどっちも録音してもらってるんだけどね」

シャーリー「宮藤の?」

私「おっぱい型枕5セットで快く引き受けてくれたわ。いやーいい子よ、ホント。いちおうリーネちゃん用のもボイスは取ったんだけど……」

シャーリー「だけど?」

私「発声AIの肝になる部品が、ちょうど切れちゃったのよ。けっこう貴重なパーツでね、次に市場に回るのは3週間後。
……つまり、芳佳ちゃん時計は1つしか作れないのよ」

シャーリー「……だから、バルクホルンかリーネか、か……」

私「……オークションにでもしようかしら」

シャーリー「あの2人なら自己破産してまでも金を作りそうだな……」

私「まあ、とりあえずは……バルクホルンにリーネちゃんの事を伝えましょう」

シャーリー「リーネはいいって言ったのか?」

私「ええ。『精々少ない貯金を用意して頑張ってください』だって」

シャーリー「……強気だな。宮藤が来る前のリーネからは想像できないよ」

私「人は変わるものよ。……むしろ、変わるからこそ人間なの」

シャーリー「まーた哲学かよ……好きだよなあ、そういうの」

私「人が人である意味。……素敵じゃない? なんだか」

シャーリー「そんな難しいことでもないけどなぁ……」

私「……そう」



――バルクホルン・ハルトマン自室――

ゲルト「なにぃっ!? リーネが!?」

私「ええ。50万持って来たわ。なんとしてもアレを手に入れたいみたいね」

ゲルト「……もちろん私に売ってくれるんだよな?」

私「……まあ、そりゃあんたの依頼だし……でもねー、正直な話、3万と50万だったら……ねえ?」

シャーリー「え、あたし? あ、ああ……」

ゲルト「おのれ……リーネェェ!!! 50万だと!? そんなはした金、この私が蹴散らしてくれる! ちょっと待ってろ!」ゴソゴソ

シャーリー「……? あれ金庫?」

私「女の子の写真が貼ってあるわね……へーえ、けっこうかわいい。あれが噂の妹さんかしら」

ゲルト「……よし。私!」ドサッ

私「うわっ!?」

ゲルト「貯金の全額だ。100万円ある。リーネの2倍だ。これで宮藤は私のものだな」

シャーリー「そうまでして欲しいのか……」

私「あーっと……い、今はまだ受け取れないわ。一応リーネちゃんにも聞いてみないと」

ゲルト「そうか、分かった。まぁ、もう勝負は見えているがな。せいぜいよろしく伝えておいてくれ」フフン

シャーリー(完璧に勝ち誇ってるよ……)

私「完成は明日ぐらいになると思うわ。じゃ、お金用意して楽しみにしててね」

ゲルト「ああ。それじゃあな」

私「ええ。ほら、行くわよシャーリー」

シャーリー「はーい」

バダン…



――廊下――

シャーリー「……なまじ給料が良いと、金銭感覚って狂ってくるんだな。やっぱり」

私「好きな物にありったけ使う。いい事じゃない。使わないよりはずっといいわよ。私の懐も潤うしね」

シャーリー「……どうせあの2人に競りでもさせて、限界まで絞ろうって魂胆なんだろ?」

私「……~♪」ピュッピュイーッ

シャーリー「図星か……」



――私自室・研究室――

宮藤「『お姉ちゃん、おっきして! 遅刻しちゃうよ!』……ふぅ、よし、これで……」

父「……なんか、すまんな」

宮藤「いえ、いいんです。私さんのお手伝いするの、好きだし。……それに……」

モニュッ モニュッ

宮藤「ああ……この感触……」ニヘーッ

父(……どこに売ってんだ? あんな枕)

コン、コン

父「ん? ああ、開いてるぞ」

ガチャッ…

私「はーい、芳佳ちゃーん」

宮藤「あ! 私さん! 終わりましたよ!」

私「いやーありがとう。助かったわ。これで完成できるわね」

宮藤「でも……なんだか恥ずかしいな、えへへ。どなたなんですか? 私の目覚まし時計が欲しい、なんて……」

私「あー……それはちょっとね。ま、芳佳ちゃん大好きな誰かの1人……とでも言っとこうかしら。
じゃ、ありがとね。もういいわよ」

宮藤「はーい。また何かあったら呼んで下さいね!」バダン
(……うへへへ……さっそく使ってみよっと)

シャーリー「……さて、どうするんだ? これから」

私「私は作業しておくから、シャーリーはリーネちゃんに伝えてきてよ。バルクホルンが100万用意した、って」

シャーリー「えー、助手の仕事かよー?」

私「つべこべ言わずに行った行った! お客様のお相手も立派な仕事よ」

シャーリー「……はいはい」



――食堂――

リーネ「!! ほ、本当ですか……!? 100万……!?」

シャーリー「ああ。本気らしいな。……あ、それだけ伝えにきたんだ。それじゃ……」

リーネ「……こうなったら……」ボソッ

シャーリー「?」

リーネ「シャーリーさん。バルクホルンさんに伝えて下さい。……『こちらも全力でいかせてもらいます』って」ゴゴゴゴゴ

シャーリー「あ、ああ……分かった」(……いいのかなぁ、これで……)

リーネ「それじゃ。よろしくお願いします」ダッ

シャーリー「? どっか行くのか?」

リーネ「……ええ。ちょっと」

シャーリー「?」



――バルクホルン・ハルトマン自室――

シャーリー「……と、いうわけらしいんだけど」

ゲルト「……リーネめ。何を企んでいる……?」

シャーリー「さ、さぁ……?」

ゲルト「……分かった。礼を言うぞ、シャーリー。……それじゃ」ダッ

シャーリー「お、お前もどっか行くのかよ?」

ゲルト「ああ。……どうも気になる。準備は万端にしておかねばならん」

シャーリー「あ、そう……」



――夜、私自室・研究室――

コン、コン

私「はーい」

ガチャッ

シャーリー「戻ったぞ」

私「お疲れ。2人は何だって?」

シャーリー「さぁ? 2人してどっかに出かけて行ったぞ。もう戻ってきたけど……何しに行ってたんだろうな」

私「ま、どうだっていいことよ。払えるモン払ってくれるなら、どうでも。……ほら、何ぼさっと突っ立ってんの。手伝って」

シャーリー「……はいはい」

カチャ…カチャ…

シャーリー「……なぁ、私……」

私「ん?」



シャーリー「……お母さんって……どんな人だったんだ?」


ピタ…

私「…………」

シャーリー「……ごめん。聞き流してくれ」

私「…………そう」

カチャ…カチャ…

シャーリー「……あ、そう言えば……お父さんは?」

私「さぁ? その辺散歩でもしてるんじゃない? ……あ、レンチ取って」

シャーリー「はい」スッ

私「あんがと」キュイッ、キュイッ

カチャッ……クイッ
グッ、グッ……カチッ……

シャーリー「……静かだな」

私「みんなもう寝ちゃったのかしらね」

シャーリー「今は……もう11時か」

私「……いいのよ? 眠いなら寝ても」

シャーリー「……大丈夫だよ。まだまだ」

私「…………」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『……ダメでしょう? もうこんな時間……』

『まだ大丈夫です。もっとお母さんとあそびたいです……』

『……でもね、お母さんも、もう眠くなっちゃった』

『! じゃあ……いっしょに……』

『……ええ。寝ましょうか』

『えほん! えほんよんで! お母さん!』

『はいはい。今日はどれにする?』

『えーっとね……えーっと……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



私「……ふふっ」

シャーリー「……? どうしたんだ?」

私「……懐かしいな、って」

シャーリー「?」



――翌朝――

チュンチュン…

私「よし、完成……! できたわよシャーリー、ほら……」

シャーリー「……ぐーっ……かーっ……」zzz

私「……無理ないか。ほとんど徹夜だったしね。……さーて、あとはこれを……」

ドンドンドン!!!

私「ん? はーい、どなたー?」

ガチャッ!!

宮藤「わ、わ、私さぁん!! 大変です!!」

私「あ、おはよう芳佳ちゃん。どうコレ? よく出来てるでしょー?」

宮藤「わ、ホントだー! でもわたし、こんなかわいくないですよー」テレテレ

私「なーに言ってんの。芳佳ちゃんは可愛い! いやマジで!」

宮藤「えへへ、てれちゃうな――って! それどころじゃないんですよっ!
り、リーネちゃんとバルクホルンさんが……!!」

私「え?」

シャーリー「ぐかーっ……すーっ……」zzz



――食堂――

ゲルト「私だ! 私の方が絶対お前よりも宮藤を愛している!!」

リーネ「何度も同じ事言わせないでください。無駄だから嫌いなんです。私の方が芳佳ちゃんを愛してますから」

ゲルト「いーや! お前の1万倍は宮藤が好きだ!」

リーネ「いいえ! 私はバルクホルンさんの10万倍芳佳ちゃんが大好きですっ!」

ゲルト「100万!」

リーネ「1億!」

ゲルト「1兆!」

リーネ「えーっと、次何だっけ」

エーリカ「……」ハァ

エイラ「朝から賑やかダナ」

バタバタバタ…

宮藤「ほら! あそこですよ私さん!」

私「おー、やってるやってる」

宮藤「そ、そうじゃなくって!!」

ゲルト&リーネ「!! 私(さん)!!」

私「おはよー。どう? 決着ついた?」

ゲルト「……空軍の仲間に聞いたり、ヘルマに借りたりして、何とかかき集めたが……悔しいが、200万が限界だった……」

リーネ「……財団の資金を少しパク……頂いたんですけど、私も200万が精一杯……」

私(さ、30万が200万……!! ボロ儲けね、全く……!!)
「……そう。で、どうするの? せっかくだけど、今はどっちか1人にしか……」

ゲルト「わ、私! 何か欲しい物は無いか!? いくらでも用意してやるぞ!」

リーネ「あっずるい! 私も! ビショップ家の総力を挙げて何でもプレゼントしますから!」

私「え? んな急に言われても……あ、じゃあえーと……会社、とか……なんつって、ハハ」

ゲルト「よし待ってろ、近くの軍需工場乗っ取ってくる!」

リーネ「お父様に子会社の一つを譲るよう交渉してきますね!」

エーリカ「わーっ! ま、待ってトゥルーデ! 早まらないで!」ガシッ

ゲルト「ええい離せエーリカ! 宮藤のためなら犠牲なぞいくらあっても……」

宮藤「と、止まってリーネちゃん! 冗談! 私さん冗談好きだから! ね!?」

リーネ「な、なら……私さん!」

私「こ、今度は?」



リーネ「……私を、ペロペロして下さいっ!!」



宮藤「!?」 
エーリカ「!?」
ゲルト「!!!」



私「……なん……だと……!?」


リーネ「私さん、まだ私をじっくりペロペロしたことありませんでしたよね……? いいんですよ。どこでも、何時間でも……。
……ね、だから……」ポヨン

私「……!!」

リーネ「私さんの気のすむまで、どれだけでもペロペロしてください!!」

宮藤「落ち着いて! とにかく落ち着いてリーネちゃん!」

リーネ「私は恐ろしいほど冷静よ、芳佳ちゃん」

エイラ(……冷静な結論でそれかよ)

私「……へぇ…………」ジュペロ

ゲルト「! な、なら私! 私もいいぞ! 私もペロペロされてもらって構わない! もう1回、既にお前の相手はしているからな、
きっとリーネよりも満足できるはずだ!!」

エーリカ「……もう私の知ってるトゥルーデじゃない」

ゲルト「これこそ私の真の姿だ、ハルトマン! 妹の為に命を掛ける……それが真の姉だろう!
だからほら、私! さあ!」クイッ

私「えーっ、ど、どっちにしようかなぁー……ハハ」ニヤニヤニヤニヤ

リーネ「私さん!!」
ゲルト「私!!」

私(……これが! これがハーレムッ! 両手に花ッ! 酒池肉林ッ!
ブラバー……おお、ブラバー!!)

ゲルト「……! そうだ! 私! 
私の知り合いにヘルマ曹長というウィッチがいるんだがな……」

私「?」
エーリカ「!!」

ゲルト「素直ないい子でな。ひそかに妹候補――ゲフンゲフン……ほら、彼女の写真だ」スッ

私「! へぇ……可愛い子ね」(小動物っぽい雰囲気ね……結構小さいわ、まだ……)

ゲルト「真面目な子だからな……きっと初初しい反応をしてくれるぞ?
どうだ、紹介してもいいんだが……」

私「是非お願いします」ジュペロ

エーリカ「と、トゥルーデ! 何考えてるの! 関係ない人まで巻き込んで……!!」

ゲルト「……悪く思うな、ヘルマ。これも祖国奪還の為だ……!」

エーリカ「どこが!!」



――同時刻、カールスラント空軍基地――

ヘルマ「……!?」

ハイデマリー「? どうかしたんですか、ヘルマさん?」

ヘルマ「い、いえ……何やら邪悪な気配がしたのであります」

ハイデマリー「……? ネウロイ……は出現していないみたいですけど……」キュイイン

ヘルマ「まあ、気のせいかもしれません。申し訳ありません、大尉」

ハイデマリー「もう……大尉はやめてください。お友達でしょう? ……あ、そのパン、どうぞ」

ヘルマ「ありがとうございます……ジャガイモパンおいしいであります」モグモグ



――501基地、食堂――

ゲルト「フフ……2対1だ。形勢逆転だな、リーネ」

リーネ「ぐ、ぐぬぬ……」

エーリカ(……ヘルマ、ごめんね。私じゃトゥルーデを止められなかったよ……)

リーネ「な、ならこっちは!」スッ

私「? 誰? この写真の人」(健康的な体つきね……それに美人だし。どことなくリーネちゃんに似ていなくも……)

リーネ「私の……お姉ちゃんです」

エーリカ「!!」

宮藤「!?」 

ゲルト「!!!」(そう言えば……リーネも妹だったな)

私「へぇ……綺麗な人ね」

リーネ「……家ごと、私さんと仲良くしたいですから。……どういう意味か、分かりますよね」

私「……グッド!」ジュペロ

宮藤「り、リーネちゃん! 駄目だよそんなの……! その人、リーネちゃんのお姉さんなんでしょ!?」

リーネ「お姉ちゃんも分かってくれるわ、きっと……」

宮藤(め、目が据わってる……)



――同時刻、ガリア――

ウィルマ「!!」

アメリー「! ど、どうしたんです軍曹! ご気分でも……」

ウィルマ「いや……何でもないんだ。ちょっと寒気が……」

アメリー「?」

ウィルマ(……虫の知らせ、って奴か? ハハ、らしくないな……なぁ、リーネ?)



――501基地、食堂――

ゲルト「さぁ! そろそろ結論を出してもらうぞ、私!」

リーネ「私とバルクホルンさん……どっちに芳佳ちゃんをくれるんですか!?」

宮藤「え!? わ、私!?」

私「そう……ねぇ……どっちの提案も魅力的だし……うーん……」
(もう少しゴネてもっと集ろう)

ゲルト「当然、私だよな!?」

リーネ「いいえ! 絶対私ですっ!」

エーリカ(……頭いたい)

宮藤「も、もう! いい加減にして下さい! 2人とも! ……っていうか、2人が私の時計を……?」

ゲルト「そうだ! 宮藤の時計を巡る話なんだ、宮藤の意見も聞いてみよう!」

宮藤「……へっ?」

リーネ「それもそうですね……芳佳ちゃん! 私とバルクホルンさん、どっちが好き?」

宮藤「え!? は……えええっ!?」

ゲルト「私だろう!? な、そうだよな、宮藤!」

リーネ「私と芳佳ちゃんは大親友だもんね! ね、芳佳ちゃん!!」

宮藤「あ……え、えーっと……その……」

ゲルト「私だ!」
リーネ「私ですからっ!!」

宮藤「あわわ……」ガクガク

私(……シェイクスピア曰く、『神よ、知り合い同士が手をつなぎ合うのはなんと難しいことか』……)


ゲルト「ええい! 埒が開かん! ……こうなったら……」

リーネ「……?」

ゲルト「リーネ。ここは公平に……私からあの時計を奪取した方に譲ることにしないか?」

私「……は?」

リーネ「……まあ、それが一番公平ですかね……負けませんよ」

私「えっいやちょっと待って」

ゲルト「それはこちらも同じだ。……よし、じゃあ1,2の3でスタートだぞ!」ザッ!

リーネ「異議なし!」ザッ!

私「ちょっタンマタンマタンマ――なんだってそんな理屈に」

ゲルト「3! 2! 1! ……スタートッ!!」バッ!!

リーネ「!!」ダッ!!

私「きゃあああああああ!!??」


ゲルト「ええい、チョコマカと! うおおおっ!!」バッ!

リーネ「待ちなさい、私さん!!」ダダダダダッ!!

私「金払ってくれるんじゃなかったのぉぉぉぉ!!??」ヒョイッ

ゲルト「まずは現物ありきだっ!」ザッ!

リーネ「あとで払いますからっ!」バッ!!

私「な、なんだってこんな事に……!?」サッ!

ドギャァァン!! ボギャァッ!! ガシュッガシュッ!! ズドォォン!!

エーリカ「わ、わーっ! ちょっとちょっと! 2人ともストップ! ストーップ!!」

宮藤「もうやめてください!! 食堂が……!!」

ゲルト「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 宮藤ぃぃぃ!!」

リーネ「芳佳ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

私「ひいっ!?」

ゴンッ!!

私「! あっ……!!」



スポーン……



ゲルト「!!」
リーネ「!!」

宮藤「! つ、つまずいた拍子に時計が……!」



ヒューッ……ガシャン!!


ゲルト「!! し、しまった!」

リーネ「こ、壊れ――?」 

……カチッ



≪おはようございます! 今日もまた、新しい1日が始まりますよ!≫

ゲルト「!?」
リーネ「!?」

宮藤「! わ、私の声だ!」

私「落ちた拍子にボイスが誤作動したのね……」

≪いま、世界はネウロイの襲撃を受け、とても苦しんでいます。苦しんだ世界は、人の心までも荒らしてしまいます≫

≪自分の欲望のためだけに、誰かを陥れようとする人がいます。目的にとらわれるあまり、恐ろしい手段をとってしまう人もいます≫


ゲルト「…………」


≪人の気持ちを、平気で踏みにじってしまう人がいます。そして、自分を正しいと信じて、自分以外の誰も認めようとしない人がいます……≫


リーネ「…………」


≪――昨日は、もしかしたら辛い1日だったかもしれません。誰かに傷付けられたり、誰かを傷つけてしまったかもしれません≫

≪でも、日はまた昇ります。人は何度だってやり直せるんです≫

≪昨日を忘れる事はできないかもしれません。でも、せめて今日は……ほんの少し、優しくなってあげてください≫

≪そうすれば……いつかきっとまた、みんなが笑顔で暮らせる世界が戻ってきます! さぁ、今日も1日、がんばりましょう!≫



私(……流石に長かったわね)





ゲルト「……なぁ、リーネ……」

リーネ「…………はい……」

ゲルト「…………私達は……何をしていたんだろうな……?」

リーネ「……ごめんね……ごめんねぇ……芳佳ちゃぁん……」グスッ

宮藤「えっ!? な、何で!?」アタフタ

ゲルト「……」グスッ

リーネ「うぁぁぁぁん……! ごめんね芳佳ちゃぁん……」エグッ

ゲルト「……すまない……すまない、宮藤……!!」

エイラ「な、なんだこの三文芝居……」

エーリカ「」ポカーン

宮藤「えっ……よ、よく分かんないけど……一件落着、なのかな……?」

私(……やっぱ不味いわよね、この空気で金のこと聞くのは……)

私(……ま、いっか)



――数時間後、私自室・研究室――

シャーリー「……で? その後どうなったんだよ?」

私「結局、買ってくれなかったわ。『姉失格だ』だの『友達失格だ』だの言って……。あーあ、大損よ……2台も作ったのに」

シャーリー「へ? 2台? だ、だってお前、パーツが足りないとか何とか……」

コン、コン

私「あ、来たわね。……違う違う、芳佳ちゃん時計“は”1つしか作れなかったのよ。……はーい、どうぞー」

ガチャッ

エーリカ「取りに来たよー、私?」

私「ハーイ、きちんと出来てるわよ、エーリカちゃん。ほら」スッ


バルクホルン時計≪≫


シャーリー「!? こ、これ……まさか!!」  

私「……言ったでしょ? ボイス付き目覚まし時計の構想はできてる、って。……ま、プロトタイプって奴ね」

シャーリー「じゃ……バルクホルンに頼みってのは……」

エーリカ「わーい! ありがと、私ー!」カチッ

≪起床だ! 起きろハルトマン! カールスラント軍人たるもの、1にも規律、2も規律!≫

シャーリー「! あ、あの時録音してたのか……!」

私「こうでもしなきゃ、バルクホルンの肉声なんて手に入んないしね……ホント、ちょうどよかったわよ」

エーリカ「えへへ……これでトゥルーデと、毎朝一緒だね」カチッ

≪起きろ! 全く……手のかかる奴だな、お前は≫

エーリカ「……大丈夫。もう迷惑かけないよ。……これからは、ずっと寝坊してもいいんだよ、トゥルーデ?」

私「ISACAの実験のお礼……だからって、タダで時計2台はキツイなぁ……どうしよ、これから」

シャーリー「……あ、そうだ。宮藤の時計はどうしたんだ?」

私「ああ。芳佳ちゃんにあげたわ。私が持ってても仕方ないしね。
……まあ芳佳ちゃんのことだし、誰かにプレゼントでもするんじゃない?」




――数日後、扶桑・横須賀――

祖父「おーい、美千子ー! お前に荷物が届いとるぞー!」

みっちゃん「はーい! ……ロマーニャから? 誰だろ……えーと……え!? よ……芳佳ちゃんから!?
な、なんだろう……」ガサゴソ


芳佳ちゃん時計≪≫


みっちゃん「!! わ……わーっ!! かわいい!
ね、ねぇおじいちゃん、おじいちゃん! 見て見て! 芳佳ちゃんから……!」



第7話、おわり
最終更新:2013年02月07日 14:26