――愛は河だと言う人がいる
若葉を飲みこんでしまう河だと――
――愛は刃物だと言う人がいる
魂から血を奪う刃物だと――
――愛は飢えだと言う人がいる
満たされることの無い渇望だと――
――私は……愛は――
――1947年、リべリオン、ロサンゼルス、とある花屋――
ガランガラン
「よっ、どーも」
店主「おっ、いらっしゃい」
「オヤジさんは? 今日はいないみたいだけど」
店主「隣町に買い物さ。アンタが来てたって言ったら、きっと悔しがるねえ。今日も、いつもの?」
「ああ。……それから」
店主「?」
「……薔薇。あそこにあるだろ? あれも花束にしてくれ」
店主「……驚いた。いっつもヒナギクしか買わないもんだから。なにか、特別な日なのかい?」
「…………ああ」
――ロマーニャ、ローマ郊外、民間航空会社――
ルッキーニ「みんなー、こっちこっちー!」
エーリカ「わっ、大きくなったねールッキーニ。久しぶり」
ゲルト「元気だったか?」
ルッキーニ「うん! みんなはどうだった?」
ゲルト「私はもう引退さ。今は司令部で指揮をやってる。……私としては、もっと飛べるつもりでいたが……」
エーリカ「凄かったよー、私がちょっと上目遣いで頼んだだけで、『分かった! 私はもう休む!』って」
ゲルト「なっ……お、おい! その話はっ……!!」
ミーナ「……ふふっ。変わらないわね、みんな……」
ピンポンパンポーン…
≪ニューヨーク行き第223便、間もなく出発いたします――≫
ミーナ「あら……そろそろみたいね。ほら、行きましょう、みんな」
エーリカ「はーい」
ゲルト「……なあ、ミーナ」
ミーナ「?」
ゲルト「…………もう、2年になるんだな。あいつが……」
ミーナ「…………」
ルッキーニ「……本当なのかな……あの話」
ミーナ「……それを確かめるためにも、ロサンゼルスまで行くんでしょう?
この2年間……私達は、できるかぎりのことをしてきたわ。あとは……」
ゲルト「……あいつ次第、か」
ミーナ「……さ、乗りましょう。思い出話は……機内でゆっくりね」
――搭乗口――
社員「お荷物を」
ルッキーニ「ありがとう!」スッ
社員「はい、ありがとうございます」ニコッ
ゲルト「……? すまない」
社員「? 何でしょう」
ゲルト「いや……どこかで、会ったことがなかったか?」
社員「……はい。先程、チケットを確認させていただいた時に」
ゲルト「あ、いやそういうことじゃなくてだな……」
エーリカ「はいはい、おじさんの仕事ジャマしないの、トゥルーデ。ほら、乗って乗って」
ゲルト「う、うむ……」
ミーナ「お願いしますね」スッ
社員「かしこまりました」
ミーナ「……どうですか、この職場は」
社員「……なに、これでも海兵上がりですからね。デスクワークよりも性に合ってる」
ミーナ「……申し訳ありません。責任の一端は、私達にだって……」
社員「いいんですよ。……男の何よりの化粧は泥だ。
私が軍をクビになるだけで、貴女達と『彼女』を守れるなら、安いものです」
ミーナ「……ありがとうございました。『将軍』」
社員「……はて。誰のことでしょうね。今の私は、一介の従業員ですよ。
……よい旅を、みなさん」
ミーナ「……ふふっ……」
キィィィ――――ン……
社員「社長、モップが見当たらないのですが……」
男「あっ……す、すみません、しまい忘れてて……どうぞ」
社員「ありがとうございます」
男(昔の上司が今の部下になってる……な、何を言ってるのか分からないと思うが、僕も何を言ってるのか分からない)
少女「パパー」
男「えっ……お、おい、ダメだよシェリー。仕事場には遊びに来ちゃダメって言ったろ?」
少女「この子、さっきあそこに捨てられてたの。ねえ、飼っていい?」
白い子犬「アン!」
男「うわああああああああっ!!?!?!」ガシャーン
社員(……今日の掃除は手こずりそうだな)
――リべリオン、ロサンゼルス、街道――
ブロロロロロロ…
シャーリー「……デーイジー、デーイジー……♪」
――あれから、2年。
あの後、あたし達、ストライクウィッチーズは正式に解散し……みんなは、故郷へと戻っていった。
シャーリー「…………♪~」
――何度も、大きな戦いや動乱があったけど…新聞の死亡欄に、かつての仲間たちの名前を見たことはない。
ついこの前も、
ガリアで新型ウォーロックだの何だのの事件があったらしいけど、少佐達が無事に解決したみたいだ。
何にせよ……501のメンバーは、あの日から誰1人欠けていない。
――いや……。
正確には、『欠けたまま』――か。
シャーリー「…………」
――首に掛けた銀のロケットが、微かに光ったような気がした。
――オラーシャ、シベリア横断鉄道――
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
エイラ「へっくちっ」
サーニャ「はい、ハンカチ……」
エイラ「あ、ありがと」
サーニャ「……ねぇ、エイラ」
エイラ「うん?」
サーニャ「……本当なのかしら、あの話……」
エイラ「どうだろう……あのお父さんの言う事だしなあ」
サーニャ「でも、もし本当なら……」
エイラ「……ああ。……嬉しいな」
サーニャ「……うん……」
エイラ「……ま、行きゃ分かるって。……ほら、もうすぐ空港前だぞ」
――リべリオン、ロサンゼルス、ある一軒家――
ガチャ…
シャーリー「ただいま」
父「――ああ、お帰り」
――あの日以来、お父さんを始めとした数々の
ロボット、武器、資料は……すべて、あたしが引き取って、所有している。
上層部は、例の事件でロボットに対する不信感を強め、私の持っていた資料、発明品を処分するように申告してきた。
でも、ミーナ中佐や、あの『将軍』のおかげで……「軍事目的に一切使用しない」という条件付きで、何とか守り通すことができたんだ。
――何せ、思い出があるし……あいつが心血注いで作りあげた作品、調べ上げた資料を、そう簡単に捨てられるはずがない。
もっとも……一番大きな理由は、他にあるんだけど。
シャーリー「お、その手紙、アレッシアさんからか」
父「……ああ――」
シャーリー「……? どうした?」
父「…………今の職場で……気になる人がいるってさ……」
シャーリー「……へ、へえ……」
父「……いいさ……あの人が幸せになれるなら、俺はそれで……」
シャーリー「……そっか」
父「……だから本当に幸せに出来るのか、ちゃんと会って確かめなきゃな。
甲斐性無しのタマ無し野郎ならぶっ殺さなきゃな」
シャーリー「おいこら待てよ」
――ブリタニア、ビショップ家――
ペリーヌ「遅いですわよ、リーネさん!」
リーネ「はっ、はっ……ご、ごめん……ペリーヌさん……」
ペリーヌ「全く……『飛行機で行く』と言ったのは貴女でしょう?
準備ぐらい、事前にちゃんと済ませておきなさいな。飛行機に間に合わなかったら、どうするんですの?」
リーネ「大丈夫ですよ、出たい時に出てくれますから」
ペリーヌ「へ?」
執事「リネットお嬢様、機体の方、準備完了いたしました」
ウィルマ「いつでも飛べるぞ、リーネ」
リーネ「ありがとう、今行きますから」
ペリーヌ「……じ……自家用機……?」
リーネ「お父さん、倹約家だから、こんな小さな飛行機しかなくって……。
ペリーヌさんみたいな本物のお金持ちに言うの、ちょっと恥ずかしかったの……」
ペリーヌ「 」
――リべリオン、ロサンゼルス、ある一軒家――
父「……そういや、その花は?」
シャーリー「ちょっと古くなってただろ、今の奴。替えを買ってきた」
父「その薔薇も?」
シャーリー「ついでだよ、ついで」
父「……そうか。……やるつもりなんだな、今日」
シャーリー「……ああ」
――ロケットを首から取り、しっかりと握りしめる。
父「みんなへは?」
シャーリー「伝えるよ。……うまくいったら、さ」
父「その時は、俺も手伝おう」
シャーリー「ああ。……頼んだよ」
――扶桑、横須賀、宮藤診療所――
宮藤「はい、もう大丈夫ですよ、おじいさん」
みっちゃん「おじいちゃん、腰どう?」
じいちゃん「おおおーっ、いやはや……すっかり治っちまった! ありがとうな、芳佳ちゃん」
みっちゃん「やったぁ! 凄いよ芳佳ちゃん! もう立派なお医者様だね!」
宮藤「そ、そんなぁ……私なんてまだまだ……」
芳子「その通り。まだまだヒヨッ子にもなってないさね。これからビシバシ鍛えて行かなくちゃ」
じいちゃん「うははは、あんまり厳しくしてやるなよ? どっかのババアみたいなキツイ女になられちゃ、かなわんものな」
芳子「どっかのジジイみたいに能天気になっちまうのも、困り物だけどね」
じいちゃん「……言ったなクソババア」
芳子「……やんのかいクソジジイ」
みっちゃん「あ、あの……」オロオロ
宮藤「ふ、2人とも……」アタフタ
清佳「芳佳ー、坂本少佐が来てるわよ」
宮藤「えっ?」
坂本「宮藤ぃーっ!」ドタタタタ
宮藤「わっ、坂本さん!? どうしたんですか、そんな急いで――」
芳子「あら坂本少佐、お久しぶりです」
坂本「ああ、こちらこそお久しぶりです。――実はな、宮藤」
じいちゃん「ほー、いい刀だ」
坂本「あ、分かりますか。――じゃなくて。宮藤、これを」スッ
宮藤「……手紙、ですか?」
坂本「……読んでみろ」
宮藤「? リべリオンから…… !? う、嘘……まさか!!」
坂本「ああ……私も驚いたよ……!」
宮藤「ほ、本当に……!? 本当に、また……!?」
坂本「ああ! 行くぞ宮藤! 向こうに二式艇も用意してある!」
宮藤「はい!」ダッ
芳子「えっちょっと」
みっちゃん「よ、芳佳ちゃーん!」
宮藤「ごめんお母さん、おばあちゃん、みっちゃん! 私、ちょっと出かけてくるね!」
清佳「で、出かけるって……どこに」
宮藤「リべリオン!」
一同「 」
――リべリオン、ロサンゼルス、ある一軒家・地下室――
コツッ、コツッ、コツッ…
シャーリー「ただいま」
シャーリー「ヒナギク、だいぶ萎れてきたからな。新しいの買いに行ってたんだよ」
――地下室は昼間だというのに暗い。……まあ、地下にあるから当然か。
懐からライターを取り出して点火し、地下室の電燈のスイッチを探す。
シャーリー「……これか? この薔薇は……ま、記念ってやつさ」
シャーリー「ずっと前に話しただろ? 飾るんなら、薔薇もいいんじゃいかって。なんだか、ふっと思い出しちゃってさ」
――壁のスイッチをようやく見つけ、パチッと"ON"の方向へ押す。
裸電球の安っぽい光が、部屋全体をぼうっと包む。
シャーリー「……なあ、お前は覚えてるか?
……私」
私「――――――――」
――台の上に寝転がる『人型の機械』は、ピクリとも動かなかった。
シャーリー「……凄いよな。2年しかかからなかった。全部、みんなのおかげだよ」
――あの時。
私が、その魂を失い……コアとともに、消え去ったあと。
自分の無力が悔しくて、許せなくて……ロケットを握りしめ、空を見上げるしかなかった、あのとき。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
シャーリー『お前は――幸せになれたのか? ……私…………』
父『……? 大尉、それは……』
シャーリー『……形見だよ。あいつが、今の際に――』
バッ!
シャーリー『っ!? な、何するんだ! 返せよ、お父さん!』
父『こ、これは……!! そうか、そうか!! ははははは……やったぞ……!! やった!!』
シャーリー『……へ?』
父『大尉、さっき言っただろ、『記憶中枢』がなけりゃ、いくら体を作っても意味はない。
言い換えれば……『記憶中枢』さえあれば――!』
シャーリー『……!! そ、それじゃ……』
ミーナ『まさか、そのロケット……!』
父『ああ……! なぜあいつが、これを取られるのをあんなに嫌がっていたと思う?
言ってしまえばこのロケットが、あいつのもう一つの脳ミソだからさ!
そうか……君に、託していたのか……!』
シャーリー『じゃあ……じゃあ……!!』
父『ああ、大尉……!
あいつは……生き返るぞっ!』
――――――――――――――――――――――――――――――――――
シャーリー「それから……死に物狂いでお前を作ったよ」
シャーリー「博士やお前の遺した資料と、お父さんのアドバイスを基に」
シャーリー「何日も飲まず食わずで……でも、お前にもう一度会えるんだもんな。苦しさなんて、感じなかった」
私「――――」
シャーリー「……それにさ、みんなが協力してくれたんだ。もう一度、お前に会おうって」
シャーリー「リーネやペリーヌは、数え切れないぐらいの資金を提供してくれた。
中佐たちの説得で、上層部から、資料やお父さん達を守ることができた」
シャーリー「ルッキーニは毎週手紙をくれたし、バルクホルンなんて、手作りのお守りまで贈ってくれたんだぞ?
裁縫上手いなんて、知らなかったよ」
シャーリー「凄いだろ? あたし1人の力だけじゃ……あと、30年はかかってた。
今、お前がここに寝てられるのは……他でも無い、501のみんなのおかげなんだ」
私「――――」
――未だに眠る私の頭を、そっと撫でる。
それから、ゆっくりとロケットを自分の首から外し……私の首へと掛け直す。
シャーリー「だから……起きて、みんなに会おう。起きて、思う存分、みんなに礼を言って……。
その後は……ふふっ、みんなで、映画でも見に行くか? 買い物でもいいかもな……」
――首の後ろから、カチッと音が鳴った。……そう。そこに鎖の一部が、はまるようになってるんだよな。
よく知ってるさ。なにせ、あたしが組み上げたんだから。
私「――――」
シャーリー「バルクホルンの姉馬鹿をからかったりさ、はしゃぎすぎて、ミーナ中佐に絞られたりさ。
みんなで一緒に……めいっぱい遊ぼうぜ。2年間分、いっぺんに……」
――ロケットはセットした。
あとは……目覚めるのを待つだけだ。
私「――――――」
シャーリー「……それが終わったら……今度は、2人で出かけよう。
近所に、いい花屋があるんだ。おかみさんもおじさんも、親切でさ……」
私「――――――」
シャーリー「服のセンス、この2年間で少しは上達したつもりだぞ?
お前に似合いそうなの、たくさん選んでやるからな」
私「――――――」
シャーリー「…………リべリオン横断の計画だって、ちゃんと練ってるんだ。
スタートはここ、ロサンゼルス。ゴールは東の端、ニューヨークだ。長い旅になるけど……お前と一緒なら、きっと、すごく楽しいぞ」
私「――――――」
シャーリー「…………起きろよ…………」
シャーリー「ヒナギクも換えた……薔薇だって、ほら……。
あとは……お前だけなんだよ…………」
私「――――――」
シャーリー「……なぁ……起きろ……起きてくれよ……」グスッ
シャーリー「お前が……起きてくれなきゃ……あたしの……この2年は…………」
シャーリー「なんだったって言うんだよ…………なぁ…………!!」
私「――――――」
シャーリー「……うっ……ひっぐ…………!」
シャーリー「……駄目なのか……あたしじゃ……? なあ……私……っ!!」
「……………………」
ペロッ…
シャーリー「……!?」
「……あーあ。相っ変わらずオイル臭い手。なーんも変わってないわね、アンタ」
シャーリー「え…… あ――」
「『いつか、あんたをアッと言わせる、すごい物を作ってやる』、か。
……フフッ、まさか…ここまでとはね」
シャーリー「あ……あぁ……!!」
「……? なーに泣いてんのよ、顔グシャグシャにして。
せっかくの再会ぐらい、もっとスマートにできないわけ?」
シャーリー「うっ……ひっく……ばっ……ばかやろぉ……!」
――まったく、こいつは。
こっちが……どんな気持ちで待ってたかも知らないで。
私「――おはよう。……そして、ただいま。シャーリー」
おわり
最終更新:2013年02月07日 14:34