夢を……見ていた

何の事はない、いつも見る夢だ

自分が眠る度に現れる、亡霊のような夢だ

いつもと同じ、平穏な暮らしを送っていたあの日々の夢

いつまでも変わることはないと思っていた、家族との夢

自分を大切に育ててくれた、両親との夢

自分の後ろをとてとてと歩いていた、妹との夢

友人以上の想いを抱いていた、彼女との夢

忘れることは出来ない、楽しき日々の夢

けれどその夢は――いつも同じ終わりを迎える

燃え盛る業火。燃え盛る故郷、燃え盛る我が家。燃え盛る彼女の家……鳴り止まぬ悲鳴

そして……そして……

暗雲の中に浮かぶ、異形の――――

「……ッ!!!!!!!!!」ガバッ!

「…………………………」

オレ「夢……か」

オレ「……また、同じ終わりだ」

そう……今まで何度も何度も見ている夢だ。この憎しみが決して消えることは無い様にとオレ自身に刻みつけるかの様な夢だ

いつもと同じ様に、あの惨劇の途中で終わる夢――おかげで、あの時の異形の姿形が、思い出せない

オレ「…………………………」

オレ「……起きるか」ムクッ

だが……起きたところで部屋の扉は硬く閉ざされている

もう少し寝るか?……けれどあの夢のおかげで寝起きは最悪だが――目は覚めている

それに、窓からの光の差し込み具合からしておそらくもうすぐ――

コンコンコン

<オレさん?起きていますか?朝食の時間ですよーっ

……朝食の時間だ

オレ「ああ、宮藤。今起きたところだ――三分ぐらい経ったら開けてくれ」

…………………………

がちゃがちゃがちゃ……きいぃっ……

宮藤「オレさん、おはようございます!」

オレ「おはよう……これで、あと2日か」

宮藤「はいっ、今日をいれてあと2日です。頑張ってください!」

……配属された初日。オレを迎えるようにネウロイが出現した

オレはいつものように単機で出撃し――いつものように自室禁固を食らった

現在、自室禁固3日目――1日のほとんどを自室で過ごしているため、当然他の隊員との会話も未だゼロに近い

唯一話しかけてくる人間といえば――こいつと、シャーリーと……あとは金髪の子供――エーリカと言ったか――ぐらいだ

宮藤の友人(と思われる)リネットとやらも早々に違反を犯したオレを恐れているらしく、目を合わせれば何処かへと逃げてゆく――だが、慣れたコトだ

むしろオレは目の前を歩く小動物、宮藤を不思議に思う

あの日、あの時、激昂したオレをこいつは見たはずなのに――未だこうして俺に接している

……変なヤツだ

………………………………

オレ「……おはよう」

「おーう、おっはよーっ」

食堂にはエーリカがいた。

椅子に座って宮藤が作った扶桑食を食べている

中佐にあまり女性隊員との接触は避けるよう言われているので――それはあくまで建前で本当は気まずくなる事態を避けるために――朝食は皆が食べ終わってからにしている……のだが

どうやら彼女、エーリカは朝に弱いらしく、俺と同じ時間帯になっていると言う訳だ

エーリカ「オレも今日で三日目だからあと二日だね~頑張れ頑張れ♪」ニシシ

オレ「一体何を頑張れって言うんだ」

エーリカ「さあ?……でもまさか来たその日に謹慎喰らうとは思わなかったな~」

オレ「……お前はオレが怖くないのか?」

エーリカ「そんなわけないじゃん。まだ数日しか経ってないけどさ、オレはいいヤツだと思うよ?」

オレ「お前『も』変なヤツだよ……」

エーリカ「?」

オレ「……なんでもない、気にするな」

エーリカ「へんなのー……あ、そだ。坂本少佐が朝食を採ったら私のところに来いって言ってたよ?」

オレ「少佐が?……わかった、伝えてくれてアリガトな」

オレ(……謹慎中のオレに一体何の用だ?)

………………………………

坂本「……来たか」

オレ「それで、オレを呼び出した理由は?」

坂本「なに、簡単なことさ」ヒュッ!

オレ「!!!」パシッ!

オレ(これは……木刀?)

坂本「ひとつ、私と手合わせでもしてみないか?」

オレ「……謹慎中のオレとか?」

坂本「ああ、そうだ。貴様も部屋にこもっていては腕が鈍るだろう?」

坂本「それに今日はミーナが本部に出向いているからな……鬼の居ぬ間に洗濯と言うヤツだ!」

オレ「……後で知らねェぞ?」ボソッ

坂本「はっはっはっ!まぁなるようになるさ!」

オレ(地獄耳……)

オレ「まあいい……なら、さっさと始めようぜ?」

坂本「――――いざ!」

オレ「………………」ニイッ!

オレ「尋常に!」

「「勝負ッ!!!!!!!!」」

ドッ!!!!!!!

…………………………

「……んにゅ?」

いつものように木々の上で惰眠を貪っていたルッキーニだが――不意に、その目が覚める

不思議に思った彼女が寝ぼけ眼であたりを見回してみると、近くに一組の男女を発見した

坂本少佐とトゲトゲお化け――彼女はオレのことをこう呼ぶ――である

二人は少し会話を交わした後――坂本が急にオレに向けて何かを放った

そして数秒後――――

「いざ!!!」「尋常に!!!!」
「「勝負!!!!!!」」

彼らの発した叫びが、ルッキーニの耳をつんざいた

ルッキーニ「ふぎゃ!」

びっくりした彼女は体制を立て直すと直ぐに彼らの方を見る


オレ「…………………………」

坂本「…………………………」


――――驚くことにルッキーニが想像したような嵐のような戦いは起きなかった

二刀を掲げるオレと、中段で木刀を構える坂本

両者は互いに構えを保ちながら、停止している

それもそのはず、超絶的な技量を持つ二人が闘うのだ――お互いの力が均衡し、膠着状態を生むのは自明の理だ

今この瞬間、彼らの時は止まっていると言っても過言ではない

ヒュオオオオッ……

……木の葉が風に舞い、額に汗を浮かべるルッキーニの頬をかすめるが

今彼女の全神経は二人へと注がれているため……少しも気に留めていない

それ程までに、二人が放つ大気は異質だった

ルッキーニ「……っ」

ごくり、と、かたずを呑んで彼らを見つめるルッキーニが、口内に溜まった唾を飲み込む

――――そして

彼女がツバを飲み込んだのと、にらみ合う両者が動いたのは――――全くの同時だった


「「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!!!!!!」」

ドッ!!!!!!!!!


お互いがお互いを斃すため――必殺の一撃を放つ

オレは、先日ネウロイを葬り去った、二刀による――超速の剣撃を

坂本は、彼女の経験によって、洗練に千連された――無尽とも言える連撃を


「「――ッ!!!!!!」」

ベキィッ!!!!


……勝負は、一瞬だった

彼らの持つ木刀が――そのあまりの負荷に耐え切れず……へし折れたのだ

だが、彼ら二人には……それだけで十分だった

数秒にも満たぬ撃ち合いだが……彼ら二人がお互いの実力を知るには、それだけで十分だった


ルッキーニ「……!」


ルッキーニはぱちぱちと瞬きを繰り返して、呆然としている


ルッキーニ「……すっげー」


口から出たのは、当然とも言うべき感嘆の声


バサバサバサッ!


彼女が座る木の周りから、オレ達の剣気にあてられた鳥たちが一斉に空へと飛び立つ

飛び立つ鳥達の中の一羽――その羽が一枚、ひらりとルッキーニの頭の上に乗っかった

……………………………………


オレの手には、真ん中からへし折れた二本の木刀が握られていた

そして彼から数間離れた位置に経つ彼女――坂本の手にもまた、彼と同じく中ほどでへし折れた木刀が握られている


「「…………………………」」


2人は沈黙し、お互いをじっと見つめ――


坂本「はっはっはっ!」


不意に、坂本が彼女特有の高笑いをし始めた


オレ「……フッ」


つられたように俺もまた、くっくっと小さく笑う


坂本「……いい連撃だった」スッ

坂本が左手を差し出す

オレ「あんたもな」

ニッとオレも笑みを浮かべ、右手を差し出し――がしっ!と、二人は力強い握手を交わした

坂本「はっはっはっ!お前ほどの技量を持つ人間と手合わせるのは久方ぶりだったぞ!……そうだ、これから私と訓練でもしないか?」

オレ「そいつは遠慮しておく……第一オレは謹慎中だ」

坂本「む、そうか。なら仕方ないな!はっはっはっ!」

オレ「……代わりといっちゃあなんだが……木に登ってるあのコでも誘ったらどうだ?」


サムズアップした親指を、グッとルッキーニのいる方向へと向ける

このオレ、どうやら相当離れていた場所にいるルッキーニに気づいていたらしい

こうして……

二匹の狼の決闘は幕を閉じた……
最終更新:2013年02月15日 13:26