それは、誰もが手にする     ─ソラノカケラ─   
   
   
   
2005年9月19日   
エルジア共和国首都、ファーバンティは戦火で血の色に染まっていた。   
   
中立都市サンサルバシオン、最終防衛拠点であるウィスキー回廊を失い、浮き足立っているエルジア。   
それを好機とみた連合軍は、軍総司令部のあるファーバンティに進軍を開始。   
ジョンソン記念橋を破壊しエルジア増援部隊に足止めを食らわせ、残すところ司令部を制圧するだけとなった。   
終戦への足音は確実に近づいている。   
  

その中で、戦火に包まれた首都へ近付く機影が5機



AWACS ≪こちらホークアイ  アクィラ隊 、間もなく作戦空域に到達する。≫   
   
AWACS ≪各機、交戦態勢をとれ。≫   
   
俺 ≪こちら黄13、了解した。≫   
   
編隊を整える動きが何処となくぎこちない。   
   
俺 (黄7以外の3機は、ヤツらと互角にやれるだけの技量はない、何とかして俺がこいつらを守り切らなければ……)   
   
かつて最強を誇り、連合軍の先鋭部隊をたった5機で壊滅に追い込んだその姿は今はもう見られない。   
   
YELLOW 15≪首都の上が敵だらけです!!信じられない光景だ…≫   
   
YELLOW 3 ≪何て数なんだ……≫   
   
YELLOW 7 ≪まさかここの空を、ISAF機が飛ぶことになるとはな。≫   
   
YELLOW 9 ≪連合軍のやつら!!俺達の空を好き勝手に飛びやがって!!≫ギリッ   
   
戦火に燃える街とその上で飛ぶ大量の機影に少しずつ近づいてゆく。



俺 ≪こちら黄13、作戦空域に到着。≫   
   
AWACS ≪了解、アクィラ隊  交戦を許可する。首都上空の制空権を何としても手に入れろ。≫   
   
AWACS ≪この戦況を変えられるのは君達しかいない……幸運を祈る!!≫   
   
俺 ≪了解。≫   
   
そう言ってスロットルを開き機体を加速させると、Gが俺をシートに押さえつける   
”いつも通りの感覚”……ではない。   
   
俺 (この燃料で、エンジンがいつまで持つか…)   
   
各地での敗戦が続くにつれて、質の悪い燃料が供給されるようになっていた。


YELLOW 15 ≪隊長!連合軍機が一機こちらに接近中です!!≫   
   
数十機飛んでいる中の一機がこちらに向かって迫ってきていた。   
   
俺 (一機?…まさか…)   
   
俺 (少し青味を帯びているラプター       メビウスの輪を模したエンブレム         間違いない………奴だ  )   
   
   
俺 (…リボン付きの死神…)   
   
   
「リボン付きの死神」と恐れられるそのパイロットは、戦争が始まった当初は全くの無名であったが、黄13の二番機であり恋人でもあった黄4をストーンヘンジの戦いで撃墜して以降、目覚ましい成長を遂げていた。   
   
   
俺 (…リボン付き…奴は必ず俺が) グッ   
自然に操縦桿を握る手に力が入る。   
   
俺 ≪黄13から全機、ISAF機を始末しろ。≫   
   
  ≪了解。撃墜します。≫   
   
その合図で隊員達は空に広がっていった。


俺 ≪黄5突っ込み過ぎだ≫   
   
俺はオーバーシュートさせられた黄5のフォローにはいる。   
   
たまらずリボン付きは回避行動に移る。   
   
YELLOW 5 ≪すっ…すみません!≫   
   
俺 ≪1機で戦うな。5機でやる≫   
   
最初の内は数的優位で押していたものの、やはり飛行時間の足りない新米達は手も足も出ない。   
   
俺 (くそっ守り切れない…)   
   
次々と落とされていく部下達。   
   
YELLOW 7 ≪クソッタレ!!被弾した!!!≫   
   
俺 ≪黄7脱出しろ、命令だ。≫   
   
YELLOW 7 ≪すまない…俺……後は任せた。≫   
   
燃え盛る機体から、脱出していく姿が確認できる。   
   
初期の頃からの隊員であった黄7も落とされ、俺は列機を全て失った。



仲間の脱出を最後まで見届けている暇は無い。   
奴の迫り来る攻撃をいなしつつ、背後を取りにいく。   
後ろを取っては取り返され、それが幾度と無く繰り返される。  
   
終わりの見えないドッグファイト。   
   
   
俺 (好敵手と技の限りを尽くして戦う)   
   
俺 (それが俺の望みだった。この戦争の最後にこうしてお前のような奴と戦えて俺は幸運だ。)   
   
   
二つの鋭い飛行機雲が空に刻まれてゆく。   
   
二人の闘いに水を差してはならない、そのような雰囲気が場を支配していた。   
   
手を出す者は誰一人としていなかった。

その中で、ついに勝負は動き出す。   
   
俺 (後ろに付かれたか…)   
ミサイルアラートが鳴り響いている。   
   
俺「全く、いつになっても好きになれない音だ。」思わず苦笑いが出る   
   
ダイブでの振り切りに成功するが、またしても後ろにつかれてしまう。   
   
俺「まずいな…」   
   
急激な上昇や急旋回などの多くのGが掛かる飛行を繰り返したためか、俺の身体は悲鳴をあげていた。   
   
俺 (どうやら時間はあまり残されていないらしい…………アレをやるしかないか……)   
   
奴の機体が近付いてくる。   
いつミサイルを撃たれてもおかしくない距離。   
   
俺 (まだだ…もう少し…もう少しだ…)   
   
ミサイルアラートがけたたましく鳴り響いている。   
   
俺 (3…………2…………1…………)   
   
俺 (今だッ!!)   
奴からのミサイルが放たれたその瞬間、操縦桿をめいいっぱいに引き込んだ。   
   
機体の向きが鉛直方向に変わり、空気抵抗によって急激な速度減少が生じる。   
   
奴の機体が放たれたミサイルと共にオーバーシュートしていく、それと共に機体の向きを戻した。

出力を全開にし奴の後ろにつく。 
   
俺「これで……チェックだ 」   
   
ミサイルを発射しようとしたその瞬間…   
   
後方からの激しい衝撃が俺を襲う。   
気を失いそうになりながらも後ろを振り返ると、エンジンが炎をあげて燃えている。   
   
俺 (嘘だろッ!?一体何が!??)   
   
不完全な整備、粗悪燃料、急激な出力操作、ここまで正常に動いていた事が不思議な程であった。   
   
やがて機体は推進力を失い、炎に包まれながら落下していく。  
   
俺「クソッ!動いてくれっ!!」 
必死に操縦桿を動かすが機体は言う事をきかない。   
   
最初の爆発で既に油圧系と電気系が共に破壊されていた。   
   
俺 (このまま…俺は………死ぬのか…?)   
   
炎がコックピット内を埋め尽くし、意識が薄れていく…   
   
反転した奴の機体から放たれたミサイルが迫ってきていた。   
   
俺 (…もはや…これ…まで……か…)   
   
直後、激しい爆発音と共に俺の意識は途絶えた


1944年 第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」基地   
   
加東「たまにはこうのんびりするのも悪くないわね……」   
   
ネウロイの出現予報もなく、マルセイユが取材で基地から出掛けている今、加東は束の間の休みを満喫していたのであった。  
   
加東 (そういえば最近、書類仕事が多くてあまり寝てなかったわね。一眠りしようかしら…)   
そう思いソファに横になろうとしたのだが、それは叶わなかった。 
   
基地内に警報音が鳴り響き辺りがざわつき始める。   
   
加東「まさかネウロイッ!!?」 
   
加東 (タイミングが悪いわね。今はマルセイユがいないっていうのに…)   
   
だが外に出てみると、皆戦闘準備をするというよりも空に釘付けになっていた。   
   
加東 (ネウロイじゃないの?なら一体……)   
そう思い空を見上げる。   
皆の視線の先には、炎を纏いながら落ちてくる物体があった。  
   
加東 「何あれ!!」   
思わず驚愕の声をあげてしまった。

加東 (あれって……もしかして隕石!?)   
いきなり訪れた非日常に少し混乱する。   
   
もう一度冷静に目を凝らして見てみると隕石では無い様に見えた。 
   
ペットゲン「ケイ!あれは一体??」   
   
近くにいたライーサが声をかけてくる。   
   
加東 「わからないわ。でも見た感じでは、幸い基地内に落下する事はなさそうね。」   
それを聞いたライーサはホッと胸を撫で下ろす。   
   
加東 (少し飛行機の形に似ているかしら……?)   
   
そうこうと思考を巡らせるうちに、落下物の高度はかなり下がりテントに遮られ見えなくなってしまった。   
   
数秒後…   
   
ドガアアアアアアアアアン   
耳を劈く様な音が聞こえてくる。 
   
加東「落ちたようね。取り敢えず様子を見に行って見ましょうか。」   
   
ペットゲン 「わかりました」


ジープに乗り、落下地点である基地の少し外れまで近づくと、落下物の外形が徐々に見えてくる。   
   
ペットゲン「どうやら隕石ではなかったようですね」   
   
ここまで近づくとすぐにわかる。あれは隕石などでは無い。   
それはそこら中に落ちているボルトや鉄の破片が物語っていた。   
   
加東「そうね…おそらく戦闘機よ、何処の国のものかはわからないけども。」   
   
加東「ライーサ、急いで救護班に連絡をして頂戴。」   
   
ペットゲン「えっ…それって…」 
   
加東 「…人が乗ってた可能性が高い……急ぎましょう。」   
   
ペットゲン「…はい……」   
   
おそらくパイロットは死んでいるだろう。それどころか、人としての形を保っているかも分からない。   
そんな事はわかっていた。   
でも少しでも可能性がある以上私たちは諦めない。   
   
そして、落下地点に到着した私達が見たものは、信じられない光景だった。


散乱した破片が散らばる中に一人の男が仰向けに倒れている。
   
加東「!」ペットゲン「!」   
倒れていた青年の奇妙な状態を見て驚いてしまう。   
   
服装の乱れは殆ど無く、少し出血が見られる程度。   
機体の破損具合からは想像出来無い事だった。   
   
何より私達を驚かせたのがその青年が使い魔を発現させていたことだ。   
   
本来魔法を使えるのは若い女性だけ、マティルダなど独自の魔法体系を持つ者はいるが、男性が魔法を使える事例は聞いた事がなかった。   
   
唖然としている私達の近くに救護班の車両がやってくる。   
   
救護班男 「加東少佐!!只今到着いたしました。負傷者はどこに?」   
   
その声ではっと我に帰る。   
加東「あっ…あぁ彼よ。」   
   
救護班男「えっ?この男ですか??」   
   
加東「えぇお願い。」   
   
そう言うと救護班男は不思議そうな顔をしながらその青年を担架に載せ基地へ帰って行った。

ペットゲン「彼は一体何者なのでしょうか……」   
   
加東「さぁね……幸い軽傷の様だから、意識が戻ったら話をきいてみましょう。」   
   
加東 「はぁ……」   
(面倒な事になったわね。まさか男性の魔女、いや魔術師だなんて…) 
   
加東「まぁいいわ。ライーサ、帰りましょうか?」   
   
ペットゲン「はい」   
   
再びジープに乗り込み基地へ頭を向けた。


   
   
その時の私には、既に世界の進む方向が変わってきている事なんて、分からなかった…   
   
   
いえ、分かるはずがなかった   
   
   
だってそうじゃない?   
   
   
一人の男が世界を変えてしまうなんて   
   
   
そんな事、誰も信じられないでしょ?





最終更新:2013年03月09日 23:31