ナレーション:諏訪天姫
こんばんは、ナレーションの諏訪天姫です
夜も老け、今宵もいい頃合のお時間と相成りました
どこから行くのかも、どこからたどり着くのかも、誰も知らない気まぐれに現れるこの
Ore's Bar
今日も「Open for business」の文字を掲げ、中からはまた微かな話し声が聞こえてきています
そうそう、先程この扉の主が荷物を持って中に入っていく姿を見かけました
いつもより落ち着かない様子で何度か溜息をついていたようです
……なにがあったのでしょう?
さてさて、前置きはこのあたりにして、そろそろ中を覗いてみましょう
それでは、私はまた後程
――――KKI空間「ORE's Bar」
俺「……ふぅ」カチャカチャ
ヘルマ「……」キュッキュ
俺「……はぁ」カチャ
ヘルマ「あのー」
俺「何ですか?ヘルマさん」
ヘルマ「どうしたんですか、俺さん疲れてますか?」
俺「いいえ、これからお客様をお迎えするのにそんな訳ないじゃないですか」キリッ
ヘルマ「うーん、でもさっきから溜息ばかりついてますよ?」
俺「えっ、そうでしたか?」
ヘルマ「はい、私がお店に入ってからずっと」
俺「……参りましたね、そんな表に出すつもりではなかったのですが」
ヘルマ「もしかして今日のお客様が関係してるんですか?」
俺「してるとも言えますししてないとも言えますね」
ヘルマ「よくわからないであります……」
俺「大丈夫ですよ、準備は万端に整っていますから」
ヘルマ(本当に大丈夫かなぁ……)
俺「ほら、お喋りしてる時間はありませんよ、そろそろお客様のいらっしゃる頃です」
カチャッ カランカラン
ヘルマ「あっ、いらっしゃいませ!」ペコリ
俺「いらっしゃいませ」
黒江「よっ」シュタッ
ヘルマ「本日のお客様は、元扶桑皇国陸軍飛行隊第1戦隊
現扶桑皇国陸軍航空審査部所属、「魔のクロエ」こと黒江綾香少佐であります!」パチパチパチ
俺「」パチパチパチ
黒江「あはは、な、なんかそう言われるとくすぐったいな」
ヘルマ「どうぞ、カウンターの方へ」
黒江「あいよ」
ヘルマ「お水とお手拭きです!」ササッ
黒江「はい、どーも」
俺「こんばんは、黒江少佐。最近のご加減はいかがですか?」
黒江「……」ジー
俺「噂はかねがね伺っていますよ、少し前にも坂本少佐と
模擬戦でやりあったとか……」
黒江「……」ジー
俺「新型ストライカーのテストパイロットとしても非常に貢献されていると軍部のお話も耳に入っておりますし」
黒江「……」ジー
俺「暇さえあれば釣りばかりと……ああその辺はお変わりないようで」
黒江「ぷっ」
俺「……?」
黒江「ふ……あははははははっ、あーははははははは」バンバン
ヘルマ「ど、どうしたんですか!?」
黒江「あは、あはははは、お、俺……そ、その格好なんだよ、あはははは」バンバン
俺「何って……そりゃあお客様をカウンターでおもてなしするんですから正常な格好ではないですか」
黒江「タキシードなんか着ちゃって、む、胸ポケットからハンカチなんて見せて……」
俺「これもエレガントさの演出ですから」
黒江「え、エレガン……ぶふっ!」
ヘルマ「あ、あの……」
黒江「エレガント……エレガ……あははははは、あーはははははは!!」バンバン
俺「え、えー……話が進まないので本日の1本に……」
黒江「いつもの特攻服はどうしたんだ?」
俺「なっ……あ、綾香ァッ!!」///
ヘルマ(あ、名前で……どういう関係なんでしょう……)
黒江「あーおかしい、穴拭や竹井がこんな俺を見たら何て言うかねぇ、はー、あの俺がねぇ」
俺「む、昔の事はいいじゃないですか!」
黒江「ヒガシあたりは笑いすぎて胃痙攣起こすんじゃないか?フジなんて腰抜かすぞきっと」
俺「ぐ、ぐぬぬ……」
ヘルマ(あの冷静な俺さんが焦ってるであります……一体過去になにが……)
黒江「あははっ、悪い悪い。で、なに?何か飲ませてくれるんだろ?」
俺「え、ええ、この流れはいささか不本意ではありますが、本日の1本に移りたいと思います」
黒江「うんうん、いいぞ持って来ーい」ニコニコ
ヘルマ(特攻服ってなんだろう……あ、グラス出さなきゃ!)カチャカチャ
俺「これだから扶桑の魔女は……」ブツブツ カチャカチャ
黒江「聞こえてるぞ、というか俺も扶桑の生まれだろうに」
俺「お 待 た せ 致 し ま し た !」トン
黒江「うん、待ったぞ」
ヘルマ(あ、あれはこの間買ってきた可愛いラベルのやつだ)
黒江「キングフィッシャーか……釣りの王様、うん私にぴったりだな!」
俺「いえ、キングフィッシャーというのは「カワセミ」の事です」
黒江「カワセミ?」
ヘルマ「あ、もしかしてこのラベルの鳥さんでありますか?」ヒョイ
俺「はい、カワセミとは水辺に生息する、小魚や水生昆虫を主食とする鮮やかな色味が特徴の小型の鳥類です」
黒江「……あ、ああ!し、知ってたよ、知ってたとも!」
ヘルマ「鳥さんなのに水中の魚と虫を食べるんですか?」
黒江「知ってたんだからな、私だってリベリオン語位わかるからな」
俺「ええ、小石等を水面に投げて獲物を引きつけ、寄ってきた所を一閃
まさに電光石火の勢いで獲物を狩る姿には勇猛さと美しささえ感じられます」
黒江「俺が突っ込むのを待っていたんだ、その位わかるだろう?子供じゃないんだから、な?」
俺「その姿は黒江少佐。貴女がネウロイと戦う姿によく似ています」
黒江「え?なに?」
俺「貴女が扶桑刀一振でネウロイを両断する勇猛果敢な姿、扶桑剣術の芸術ともいえる「雲耀」を自在に操る類希なる才」
黒江「んん?」
俺「天空に燦然と輝く陽の光を受け、艶やかに煌めく濡れ羽を彷彿とさせる黒髪
それはカワセミの虹色の翼にも勝るとも劣らない、強さと美しさ込めた魅力に溢れています」
黒江「お、おぉ?」
俺「そしてこのキングフィッシャー、中身はリベリオンタイプの非常にキレのある飲み口が特徴です
扶桑刀の切れ味にも通じるこの味わいも、また一つ貴女に近しいものを感じられずにはいられません」
黒江(あんまり聞いてなかったけどなんか誉められてるのはわかるぞ)
俺「今宵にふさわしい1本かと存じます、どうぞ御賞味下さい」
黒江「あ、ああ、とりあえずいただこうかな!」
ゴクゴク
ヘルマ(うわっ一気だ……でも、なんかかっこいい……)///
黒江「ぷはーっ、うまい!やっぱ仕事終えた後のビールは何者にも代え難い旨さだな!なあ!」バンバン
ヘルマ「あうあう、背中を叩かないで下さい」
俺「ははは、ではご一緒にこちらもいかがですか?」スッ
ヘルマ(あ、あれ俺さんが今日釣ってきたお魚だ)
俺「ロマーニャ風スズキのカルパッチョです
白身魚の淡泊な風味とロマーニャの味付けがこちらのビールにはよく合いますよ」
黒江「お、いただこうかな……こういう所は昔から気が利くよな」モグモグ
黒江「む、こりゃ身が締まってる良いスズキだ。大味さもないし、いい年頃だ」モグモグ ゴクゴク
俺「光栄の極み」ズパッ
黒江「ぷふぅ……いやぁ美味い。なあ、さっきのビールもっとくれないか?」トン
俺「かしこまりました。ヘルマさん、お願いします」カチャカチャ
ヘルマ「はいっ!」タッタッタ
黒江「ああ、ちょっといい気分になってきた」///
俺「相変わらず男らしい飲み方しますねえ……」
黒江「私は海の女だからな」
俺「すいませんちょっと何を仰っているのかわかりません」
………………
…………
……
黒江「」ゴクゴク
黒江「っかー!美味い!」
ヘルマ(あの、俺さん、黒江少佐だいぶ飲んでますけど大丈夫ですか?)
俺(思った以上にお気に召していただいたようで光栄ですよ)
ヘルマ(いえ、そうじゃなくて……)
黒江「ああ、暑っつい……ちょっと脱いでいい?」ヌギヌギ
ヘルマ「っちょ!黒江少佐!」///
俺「お預かりしますね」スッ
ヘルマ「俺さ……えええええええええええええええええ!!!」
黒江「あー、気持ちいー」ダラー
ヘルマ(うわ、でも綺麗……)
俺「サラシは取らないで下さいね」
黒江「わかってるよー、竹井にも言われてるから」ゴクゴク
ヘルマ「すごい……モデルさんみたいであります」ポー
俺「ええ、黒江少佐は手足も長くて身長も高いですからね
スレンダーで色白の身体はまるで陶器で出来た扶桑人形のようです。気を抜くと俺も見とれてしまいそうですよ」
黒江「」ゴクゴク
ヘルマ「黙々と飲んでるであります」
俺「以前はこの隣に坂本少佐がいたんです、それはもう大変な……いえ、やめましょう」
ヘルマ「??」
黒江「俺!」
俺「はい」
黒江「坂本を呼んでこい」
俺「無理ですよ」
黒江「客の要望に応えるのが店の役目じゃないのかー!」バンバン
俺「これはまずい酔い方ですね……こんな風になる方ではなかったはずなのですが……」
黒江「おい、はやくしろ。あいつには言いたいことが沢山あるんだ」
俺「無理ですって、ああ座って下さい、やめてくださいズボンに手をかけないで下さい」
黒江「はやくしろー!間に合わなくなってもしらんぞー!」
俺「やめてくださいサラシが緩くなってます、ズボンがずれてます」
黒江「坂本がいないなら竹井を連れてこい、私に何かと連絡してくれるのは竹井だけなんだ」
俺「竹井大尉でも無理ですよ、無茶仰らないで下さい」
黒江「じゃあ俺が代わりにカレーを作れ」
俺「もう意味がわかりません……」
ギャーギャー ワーワー
ヘルマ「……お片づけでもしよっと」
ヘルマ(あのお酒の飲み方と、俺さんとお話してる時の黒江少佐……)
ヘルマ(久しぶりに俺さんと会って嬉しかったのかもしれないでありますね、ふふ)
ヘルマ(俺さんもちょっと嬉しそうです。黒江少佐のあられもない姿に喜んでる訳ではない……と思います)
黒江「ところでなんだよその格好は、ぷぷっ」
俺「もうそれはさっきやりましたから……」
黒江「まあ丸くなっちゃってさぁ、俺がタキシード……ぷぷっ、くくくっ」
俺「ああもう!」
――――Ore's Bar セラー内
ヘルマ「あ、黒江少佐に渡すお土産も用意しなきゃ」ゴソゴソ
ヘルマ「釣り好きな黒江少佐の為に俺さんが用意した、海に浮かぶブイの形をした瓶のブランデーであります」
ヘルマ「網型のロープも巻いてあって本格的でありますね、素敵であります」キラキラ
ヘルマ「確か中身はVSOPクラスのコニャックだとか……」
ヘルマ「コニャック……
ガリアのコニャック地方で作られたブランデーですね」
ヘルマ「VSOPは……ブランデーのランクですね。確か上からXO、VSOP、VSO、VOでしたっけ」
ヘルマ「上から2番目ってことはこれも結構いい物でありますね!」
ヘルマ「ナポレオンとかスリースターというのもありますけど……それはまた俺さんに聞いてみましょう」
<サカモトォォォォ
<アバレナイデクダサイ!!
ヘルマ「なんか大変な事になってる気がするであります、そろそろお店に戻るであります!」タッタッタ
………………
…………
……
ナレーション:諏訪天姫
ここはとある空間、とある場所にある秘密の隠れ家
どこから行くのかも、どこからたどり着くのかも、誰も知らない気まぐれに現れる謎の扉
今宵はずいぶんと騒がしい声が中から聞こえます
騒がしいけどどこか懐かしくて楽しそうな、そんな雰囲気が感じられますね、うふふ
<あっ、サラシが
<それは私のだ!返せ!
<自分で取っておいて何を仰りますか……
……えっと、私は何も聞こえていません、はい
あっ、そろそろお時間のようです!
今宵の営業はここまで、次回があればまた是非ご来店をお待ちしております
ではナレーションは私、諏訪天姫がお送り致し……
<カレーまだ?
<知りません!
私もお夕飯カレーにしようかな……では、おやすみなさい
最終更新:2013年03月30日 01:13