第一話『やーい、お前の母ちゃんマーグーロー!』





――1945年 第501統合戦闘航空団ロマーニャ基地 



ミーナ率いるストライクウィッチーズに救出された一家は、基地内の一室へと通された。
立派な調度品が揃った部屋には、既に11人の少女とが集っている。

しかし、一家はその輪から外れ、何やら話し合っており、彼女達はその話し合いが終わるのを待っているようでいた。


私「聞いた話から察するに、私達はパラレルワールドの、それも過去に来てしまったらしい」

俺「えー、俺は時間の流れは一方通行で逆行できないという解釈を押したいと思います」

母「私は好きだぞ。パラレルワールドの設定」

私「少しは真面目に聞いてくれ。というより、事実として目の前で起こっていることを受け入れてくれ」

俺「ふざくんな。日朝のスーパーヒーロータイムを楽しめない現実なんて受け入れられる筈がない」

私「もうちょっとマシな理由はないのか!?」


母「しっかし、ネウロイっつー化物ねぇ。日本は扶桑、アメリカもリベリオン? ああ、キリストもいないんだっけ?」

俺「あと中東諸国と中国もねぇなぁ。ま、いいんじゃない? しょっちゅう聖戦とか言ってあっちこっちに戦争と弾圧とテロしてるウォーモンガー共がいなくなっただけだ」

私「おい、危ない言い方は止めろ」

俺「いいんですぅ。だって、俺は関係ないし」


俺「それよか、どうやってこんなとこに来たかだ」

私「一番可能性が高いのは、ネウロイだろうな。コイツ等、訳の分からん技術を多数有しているらしい」

母「空間転移か瞬間移動みたいなもんもあるみたいだな。あのお嬢ちゃん達が話してるの聞こえたぜ」

私「その内の一つが時空間にまで作用したのか……。だが、私達である理由がない。あるとしても……」


言葉を区切ると母と私は黙って俺に視線を向けた。
そこにどんな理由が込められていたかを知る者は、彼等家族にしか分からない。


俺「はいはい、俺のせい俺のせい。ポストが赤いのも、カルト国家の核実験も、核施設の相次ぐ不始末も」

母「誰もそこまで言ってない言ってない」


私「…………ともあれ、私達は過去に来た。身の振り方を考えねばならない」

俺「はー? どーせパラレルワールドだぜ? 仮に世界が滅びたって、滅びた世界と滅びなかった世界に分岐するだけだろ?」

私「かも、しれん……」

俺「んで、そうでなかったとして世界が滅びてもよくないか? どうせその時にゃ俺等も一緒に死んでるだろうし」

私「かもな。……だが、私達が原因で人死にを増やす訳には、いかないだろう……?」

俺「そうかー? どうでもいい誰かが死んだって、関係ないだろ。俺は痛くも痒くもない」

私「お前は、どうでもいいことはホントどうでもいいって性格を直せ!」

俺「むりー」


俺は相も変わらず気の抜けたまま、胸の前で腕を交差させ、×マークを作って見せた。


俺「大体よ、良かれと思ってやったことが必ずしも良い方向へ向かうとは限んねーだろ」

母「ま、そりゃそうだわな」

私「………………」

俺「俺等が来た時点で、どうあがいても歴史は改変されてんだ。人が大勢死ぬか、助かるかは別にしてよ」

私「だとしても、良い方向へ転ぶように努力するべきだ。そうしないのなら、せめて極力歴史に干渉するべきじゃない」

俺「お人好しだねぇ」

私「いやか? だったら見捨てればいいだろう?」

俺「アホか。お前はどうでもよくねぇよ」


私「ともかく、この世界へ来た原因を探り、帰る方法を見つけよう。それが不可能なら……」

俺「そっちはおいおい決めようぜ。先のことは分からんねーしさ。だが、俺達について知っておいて貰った方がいいだろ」

私「だが、それでは……」

俺「仮にそれで歴史が変わったとしても、外部に漏らした奴が悪い。更には俺達を利用しようとする奴が悪い。つーか、心配し過ぎだ。歴史を変える大仰な力、俺等にはねーよ」

私「そうはいうがな……というより、お前がいうな」

俺「まあ、それは置いておくとして、俺等の世界に戻るには何かと後ろ盾はあった方がいいのは事実だ。違うか?」

母「確かにな。0から始めるのは面倒だからなぁ」

私「一番確実かは別として、情報源やコネにはなるか……」



母「ところで、お前達……」

私「母さん、何か……?」

母「こんなシリアスで大丈夫か?」

俺「大丈夫じゃない。問題だ。一番いいボケを頼む」

私「少しは真面目にやってくれていると思った私が馬鹿だった……!」ガクッ



俺「つーか、さっきから後頭部にすげー殺気を感じるんだが」


ミーナ「<●> <●>」ジーッ


私「お前の責任だ。自分で何とかしろ」

母「ヒューッ! 流石は俺、あんな美少女に熱視線を送られるなんて、世界で一番可愛くて馬鹿な息子だぜ!」

私「母さん、お静かに」

母「あ、いや、お前も男前だからな。だから機嫌直せよぉ!」

私「そういう意味で言ってるんじゃない!」

俺「しゃーねー。ちょっとおちょく、もといご機嫌取りするか。俺の」

私「言い換えた意味がない!? 少しは人の気持ちを慮ったらどうだ!」


俺「………………」プッ

ミーナ「………………」イラ

俺「………………」プギャー!

ミーナ(落ち着きなさい、ミーナ。ちょっとからかわれたくらいで! こんなもの、上層部の嫌味に比べれば……!)

俺「………………………………………BBA」ボソ

ミーナ「…………ッ!」ガタッ!

坂本「落ち着けミーナ。あの手合いに何を言っても無駄だ。」


私「お前も、からかうのは止めろ!」

俺「いやー、生真面目な奴をからかうのはこれだから止めらねぇや」

母「そういう割に、相変わらずの無表情な俺であった」

俺「それが俺……鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロンメル・船坂弘の人生よ」

私「そのネタ、何時まで引っ張るつもりだ」

俺「無論、死ぬまで」

私「無駄にカッコいい返事だな!?」


坂本「その様子を見ると落ち着いたと思ってもいいか?」

母「ああ。まあ、ちょっとした家族会議だよ。時間を設けてもらって悪いね、お嬢ちゃん?」

坂本「お嬢ちゃんは止めてください。私は坂本 美緒。階級は少佐です」

母「あー、はいはい、美緒ちゃんね。ま、肩肘張らずにやろうぜ」


坂本(この年で、名前にちゃん付けで呼ばれるのは、少々きついものがあるな……)


母「まあ、詳しいことは自慢のバカ息子二人に聞いてくれ。あたしは待ってるよ」

坂本「いえ、しかし……」

母「いいのいいの。親の助けが必要な年でもないしよ。あたしの仕事は尻拭いだけさ」


後のことは俺と私に任せるのようで、母はソファから動く様子はなかった。

そんな母の様子と態度はいつものことなのか、二人は何も言わずにミーナの座る対面のソファに腰を下ろす。


ミーナ「それで、貴方たちが何者なのか、どうしてあのような場所に居たのか。教えて頂けますね?」

俺「県境のトンネルを抜けると、そこは空の上でした、以上!」

私「お前は黙ってろ。……どこまで信じて貰えるかは分からないが、出来る限りは話しておこう」


私は大きな溜息を吐き、明朗な語り口で自身の境遇を語っていく。考察や心当たりを一切語らず、真実のみを伝えていった。


バルクホルン「何を馬鹿な! 未来だの平行世界だのと信じられる訳がないだろう!」

私「では、一つ聞きたい。あの空域、あの時間に輸送機は飛んでいたか? 恐らくはないだろう。人類の敵が出現する空域を悠々と飛んで車と人間を投下する馬鹿はいないと思うが?」

ミーナ「確かにそうね。貴方達は突然、あそこに現れた。そうとしか思えなかった」

バルクホルン「ミーナッ! こんな正体も目的も分からん連中の戯言を信じるのか!?」

ミーナ「バルクホルン大尉、落ち着きなさい。彼等の言い分を全て鵜呑みにする訳ではないけれど、あの空域に航空機が居なかったのは事実よ。私の固有魔法は知っているでしょう?」


ミーナの固有魔法は三次元空間把握。
その感覚が及ぶ空間であるのならば、目標の数や種類、位置を知ることができる感知系に分類される魔法である。

彼女ならば、一家の出現が如何に不自然であったかは理解できている。


坂本「……そうだな。では、仮に未来から来たと言うのなら、それを証明できるものはあるか?」

私「証明、ね。ウチの車の破片やら我々の荷物をサルベージしてくれるのがいいかもしれんが、この時代に海の底を浚うのは無理か」

俺「うわぁぁぁぁぁぁ! オレの機種変したばっかのスマホががががッ!!」ガーン!

私「お前な、いい加減にふざけるのは止めたらどうだ。それに携帯なんて……ああ、その手があったか」

俺「ふざけてねぇよ。おい、どうすんだクソが。最新型だぞ、ファック!」

私「そんな声を荒げるのは勝手だがな、せめて表情を変えろ。口調と表情が一致していないのは地味に怖いぞ」

俺「残念だが、これが鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロン――」

私「もうテンドンはうんざりだ」

俺「いや、このネタには利用価値が……! まだだ、まだ終わらんよ!」

私「勝手にやってろ。まあ、これを見てくれ。一応、証明にはなるんじゃないか?」


学ランの内側から取り出したのは、折り畳み式の携帯電話。尤も、この世界の人間にはそれが何かは理解できないだろう。
耐水性らしく、携帯が問題なく動くことを確認すると、成れた手つきでカメラを起動させる。

ピロリン、と携帯から音が洩れると、怪訝な表情をする一同であったが、私の差し出した画面を見て驚愕した。


宮藤「これって、ミーナさん!?」

エーリカ「うわー……」

サーニャ「すごい……」

坂本「驚いたな。これは、写真……なのか?」

私「原理は全く異なるがね。少なくとも、この時代の技術力で作り出すのは不可能だ」

ペリーヌ「確かに通常のカメラでは不可能、ですわね。暗室や薬液が必要ですし……」

ミーナ「………………」


俺「ねぇねぇ、今どんな気持ち? 俺達が未来から来たって確定しちゃいそうだけど、今どんな気持ち?」

バルクホルン「…………こ……のぉ」プルプル

俺「何を馬鹿な! 未来だの平行世界だのと信じられる訳がないだろう!(キリリッ だってよ」ブフォッ!

バルクホルン「ウガァァァァァァ!!!」ドッカーン!

エーリカ「うわあ! トゥルーデが! トゥルーデが本気で怒ったーー!」ヒィッ!

俺「うわ、煽り耐性0かよコイツ。こわいわー、現代っ子じゃないけどキレやすい若者こわいわー」ヤレヤレ

バルクホルン「誰のせいだ貴様ぁぁぁぁッ!!」

俺「あん? 俺のせいだけど、なにか?」

私「………………………」プツン

俺「あ、ヤッベ。こっちもキレた」


私「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉ」グオッ!

俺「兄弟からのまさかのエルボッ!!」ドサァ……


私「ぐッ!? クソ……これだけの運動と怒りで……」ガク

バルクホルン「お、おい! どうした、大丈夫か!?」

私「問題がない訳ではないが、まあいつものことでね。しかし、悪かったな。ウチの馬鹿が……」

バルクホルン「あ、ああ。怪我でもしているのか……?」

私「いや、心臓に欠陥があってね。ちょっとした後遺症だよ」

バルクホルン「それなら宮藤の治癒魔法が……」

私「どういう原理の魔法かは知らんが、恐らく無理だろう。俺の心臓はあらゆる負荷に耐えられん。治療であっても負荷は負荷だからな」

バルクホルン「………………」

私「同情なんてするな。私の身体だ、上手く付き合っていくさ」


俺「何やら堅物同士の空気が良い件について」ムク

シャーリー「うぉッ、もう起きた! 大丈夫なのか……?」

坂本「いや、どう見ても完全にクリーンヒットだったんだが……」

俺「あー、これくらい俺等にゃ日常日常。垂直落下式ブレーンバスターに比べればどうってことないや。あ、いや、やっぱアレだ。奥歯折れた」ペッ

ミーナ「ま、まあ、無事ならそれでいいわ。それから折れた歯をそこらへんに吐くのは止めてちょうだい」ハア

俺「へーへー、すんませーん」


私「おい、お前が居ると話が進まん。母さんとでも話していろ」

俺「ちッ、俺はいらない子だってよ。私がいじめるー、マミー慰めてくれ、女だろ?」

エイラ「……どう考えても、実の母親に向かっていう台詞じゃないゾ」ドンビキ

俺「実の母親でもなんでもねーけどな、俺と私は単なる養子だし。因みに俺と私も血の繋がりはありません」

リーネ「えぇッ!? そんな大事なこと話ちゃっていいんですか!?」

俺「いんじゃね? 別に隠してもないし」ケロッ

母「だな。あたしの知り合いにも周知の事実だ」ケロッ

私「二人ともそんな重大な話を軽い調子で流さないでくれ。普通の人は引くから」イガイタクナッテキタ……


母「んだよー、確かに腹を痛めて、股をおっぴろげて生んだ子じゃないけど愛してるんだぜ!」

俺「俺もだよ、マミーと私のためなら世界を敵に回すわ。つーか、俺の家族の為に世界が生贄になれ」

私「愛が重い! あと女が股とか言わないでくれ母さん!」

俺「何言ってんだ、マミーくらいの年なら男の一人にでも股開いてんだろ」

ミーナ「そ、そういうことを人前で言わないで……////」

バルクホルン「貴様は、少しは恥というものがないのか! ////」

俺「ねぇよ、そんなもん。そもそもそんな恥ずかしいことでもなくね? 有史以来の当然の営みだろ。父ちゃんと母ちゃんがベッドの上でギシギシアンアンやっておめー等が生まれてきたんだよぉ」

エーリカ「流石に、あけすけすぎるんじゃないかなー。サーニャんも関係ないのに真っ赤になっちゃって……」

サーニャ「…………/////////」

エイラ「お、お前等、サーニャをイジメんナー!!////」

俺「そういうお前も、顔が赤いのであった。若いねー」

母「………………おい、俺。一つだけ訂正しろ」

俺「あれ? マミーなんで怒ってんの? 訂正するとこ何もなくね?」


母「私はマグロだ! よってギシギシアンアンじゃない! ギシギシだけだ!」ドヤァァァァッッ!


全員「」



私「…………oh」

俺「マミーがドヤ顔で自分をマグロとカミングアウトするような女だった。死にたい」

私「おい、他の連中が硬直してるぞ。どうするんだ、これ。私も反応に困るんだが……」

俺「知るか。………………やーい! お前の母ちゃんマーグーロー!」

私「お前の母親でもあるだろうが!?」

俺「……………………ハッ!?」

私「気付いてなかったのか!?」
最終更新:2013年03月30日 01:16