第三話『……などと意味不明の供述を繰り返しており、動機は不明』






――ハンガー



俺「…………あー、ねみー」ファァ……

私「自己管理くらいキッチリしろ。お前もいい年だろ」

俺「いや、俺らくらいの年だったら夜更かしとか普通だろ、普通。つーか、もっさんに朝練にとか言って叩き起こされたんだよ」

私「ふむ、健康的で良いことじゃないか」

俺「よくねーよ。お前の曲がった性根を叩き直してやるとか、健全な精神は健全な肉体に宿るとか何とか……」

私「実に少佐らしい台詞じゃないか」フフ

俺「だからさ、不健全な肉体に健全な精神宿っちゃってる私はなんだよって言ってやった。そしたら、しどろもどろになってた」

私「………………お前」アングリ

俺「あと、マラソンで周回遅れにしてやったりしたら涙目になってた。ワロス」

私「他人への嫌がらせの為に、私を引き合いに出すな。それから、なんでお前はそんな所で全力を出すんだ!?」

俺「俺は他人への嫌がらせのためなら、自分が苦しむことも傷つくことも厭わない……!」

私「ろくでもない!」


バルクホルン「カールスラント製のこの機体は、私が履くべきだ!」

シャーリー「国なんて関係ないだろ。950キロだぞ!? 超音速の世界を知っている私が履くべきだ!」


私「やれやれ。今日も今日とて、仲良くケンカをしているな、あの二人は。…………む、いつもならここで俺のボケが、アレ?」


私の予想に反して比較的おとなしい俺に違和感を覚えるが、あの男がそんな殊勝な心がけをもっている筈もなく……。


俺「うんうん、そうだよなー。二人の言い分はよーく分かった。はー、それはそれとして、二人ともいい尻してるな」サワサワ

バルクホルン「のわああああああッ!?!?」ビクッ!?

シャーリー「うひゃぁん!?」ビクッ!?


何時の間にか移動した俺は、バルクホルンとシャーリーの尻を撫でまわしていた。


バルクホルン「な、ななな、何をしてるか、貴様!? んッ!?//」

俺「何って、尻を撫でてる? いや、セクハラ?」サワサワ

シャーリー「んん!?/// って、いつまで撫でてるんだよ!?」

俺「えっとぉ、死ぬま―――ぶはらぼッ!?」ドガッ!?

私「お前はさっさと死ねぇぇぇぇぇッ!!!」


超高速で投げつけられたスパナは俺の顔面に直撃し、もんどりをうって地面へ倒れこんだ。


坂本「……流石にやりす――でもないか」

ミーナ「本当に、この人は……!」プルプル

エーリカ「うっわぁ、鼻血どころか、鼻曲がっちゃってるよ……」


シャーリー「コイツ! コイツゥゥッ!! この間といい今日といい!」ドカッ! ゴスッ!

私「全くだ! このバカ! どれだけ! 人に迷惑をかければ! 気が済むんだ!!」ドグッ! ゴッ! ドゴッ! 

バルクホルン「き、貴様という奴は! 貴様という奴は! 貴様という奴はぁぁぁぁッッ!!」ドフッ! ヌルポ! ガッ!


俺「ログジャレソ! ゴゼボ バサダザ ドゾドゾザ!」


シャーリー「うわ!? 何語!? 何語で話してるんだ!?」ヒキッ!?

バルクホルン「そもそも人間の言語なのか!?」ヒキッ!?

私「グロンギ語で話すなぁぁぁッッッ!!」ドグシャ!!

シャーリー&バルクホルン「分かるの!?」


俺「……いってぇ。っべーよ、マジ、っべぇよ。血ィ止まらねぇ、鼻折れてる。服真っ赤っ赤なんですけど」ボタボタ

坂本「アレだけやられて、すぐに起き上ってくるな。というより、早く宮藤にでも看てもらえ」

俺「あれ? もっさんじゃないっすか! 自分から朝練に誘っておいて、自分が先に潰れちゃったもっさんじゃないっすか!!」ボタボタ

坂本「うぐぅ!? そ、その話はするな! 悪かった! 私が悪かったから!」

俺「まあ、分かってくれるならいいんですけどね。今度から誘うなら確認とってくれよな」ボタボタ

坂本「あ、ああ。でも、お前、朝練に付き合うのか」

俺「バ~~~~~~ッカじゃねぇの!? んな訳ないだろ」ボタボタ

坂本「だと思ったよ! 何より鼻血を何とかしろぉぉぉぉ!!」


俺「~~~~~~~~~ッッッ!!」ゴキッ、グギュッ

エーリカ「うわぁ! 自分で曲がった鼻戻してる!?」

ミーナ「大丈夫!? それ大丈夫なの!?」

俺「こんなんでどうだ? へちゃむくれの饅頭っ鼻になってない?」ボタボタ

エーリカ「涙目になるくらいだったら、無茶するなよ。一応、治ってるけどさ。あと、血を何とかして」

俺「あー、ほっときゃ止まる止まる。目ん玉半分飛び出した時に比べればマシだわ」ボタボタ

ミーナ「貴方、本当にどんな人生を送っているのよ!?」


俺「んで、何をそんなに怒ってるんだ」ボタボタ

シャーリー「シャー!」

バルクホルン「フーッ!」

俺「駄目だ、話になんねぇ」ボタボタ

私「誰のせいだッ?!」

俺「俺のせいだよ!!」ボタボタ

私「胸を張って言うなぁぁぁぁ!!」


俺「まあ、何だ。ごめんちゃい」ボタ…

シャーリー「全く反省してないよな、全くしてないよな!?」

俺「うん!」ニカッ!

バルクホルン「微笑むなぁぁぁぁぁッッ!!」

俺「あ、鼻血止まった」

シャーリー&バルクホルン「「人の話を聞けぇぇぇぇぇッッ!!」」


俺「まーまー。それで、仲良くケンカしてた理由は、このストライカーのせいか?」

坂本「お前、まさか、ケンカを止めるために?」

俺「いや? 触りたかったから」

坂本「だと思ったさ……!」ガク


俺「それよかシャーリー。お前なにその、ブラとパンツ――いや、こっちじゃズボンだったっけ? まあ、いっか。何その煽情的な恰好? 露出狂なの? それとも俺にすっぽんぽんにされたいの?」

シャーリー「き、着替えてくる!」タタタタッ!

俺「……チッ! ん? 似たような恰好の女がいるじゃねぇか、エーリカちゃん?」

エーリカ「俺さー、いい加減に自重しないと本気で怒られるよ? それでもいいの?」

俺「いいんですぅ。俺は俺に正直に生きるって決めたんですぅ」

エーリカ「無表情で言われてもなぁ……。ま、それはそれとして、戦略的撤退ー!」タタタタタッ!

俺「あーあ、行っちゃった。ま、羞恥心少なそうだから、やって面白くなさそうだったけど」

私「お前、本当に自分本位に生きすぎだろう……」

俺「それが俺、鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロンメル・船坂弘の常道よ」

ミーナ「…………」ハア

俺「ツッコまれるどころか、溜息をつかれた件について」


二人が着替えから帰ってくると、話が再開される。


俺「ほー、ジェットストライカーね。この俺の鼻血みたいに赤いのが」

バルクホルン「確かに赤いが、その例えは止めろ」

私「ほう、これは凄いな。スピードも出力も桁違いだな」

バルクホルン「ミーナ! こんな部外者に情報を渡すな!」

ミーナ「大尉、言葉が過ぎるわよ」

私「……いや、失礼した。私も出過ぎた真似をしたようだ。幸いスペック表しか見ていないんだ、許してくれ」

バルクホルン「ふんッ……!」


俺「でー、これを俺が履けばいいんだな?」

坂本「いや、誰もそんなこと言ってないんだが……」

バルクホルン「何故そうなる! 貴様のように信用ならない奴に、これの試験など任せられるか!」

シャーリー「そうだよ! 私だって納得した訳じゃないんだぞ!」

俺「って言ってるけどよ。実際、依怙地になってるだけじゃねーの? 相手が気に入らないから自分がやりたいって、幼稚な理由じゃないって言い切れんの?」

バルクホルン「ぐ……ッ!」

シャーリー「少なくとも私は依怙地になってるつもりも、幼稚な理由でもないけどなー」フフン

俺「テメーはテメーで駄目だ馬鹿が。お前はどう考えたってスピード重視でものを考えやがる。これから実用化されるものをお前好みに口出しされたら、それを使う奴等が可哀想だ」

シャーリー「うッ……それは、そうだけどさぁ」

俺「その点、俺は何の問題もないぜ? 国もスピードもどうでもいい、言いたいこと言やぁいいんだからな。オマケに死んでも大して損害にならないと来てる。テストにゃ持ってこいだと思うけど?」

エーリカ「軽々しく、そんなこと言わないでよ……」

俺「あれ? 心配してくれんの? やだー、俺ちゃん嬉しくて泣いちゃいそー(嘘)」


俺「ま、冗談はここまでにするとして、始めの一回だけでも身内以外にやらせた方がいいんじゃない? 実際、俺は訓練はしちゃいるが戦線に出ちゃいない」

坂本「だから、まだ戦力に数えるべきではない、と?」

俺「その通り。それによー、これを送ってきた連中はカールスラント軍人に履かせろって書いてあんの? 書いてないなら采配すんのはBBAの領分だろ」

ミーナ「俺さん、今日から一週間トイレ掃除がしたいのね?」

俺「せんせー、委員長のミーナさんが自分の権力を使って僕をイジめてきまーす。助けてくださーい」

ミーナ「イジめてるのは貴方でしょう!?」

俺「やだ、そんな風に受け取られてたなんて、俺悲しい!」

ミーナ「それ以外に受け取りようなんてないわよ!!」


バルクホルン「ふざけるのも大概にしろ!!」

俺「ふざけてるのは認めるが、間違ったことは言ったつもりはないぜ。まあ、正しいかも保障できんけど」

私「ふむ。機密保持ならバルクホルン、スピードを調べるならイェーガー、戦力を重視するなら俺と言ったところか。最終的な決定権はミーナ隊長にありますが……」

ミーナ「………………」

坂本「私は、正当に試験をしてくれるのなら誰でも構わんが……」

エーリカ「私も同じかなぁ。俺の言い分も一理あると思うし」

バルクホルン「ハルトマン! お前は……!」

エーリカ「そうやって、すぐ怒る時点で冷静じゃないでしょ? そんな人間に、真っ当な試験なんて出来るとは思えないよーっだ」

バルクホルン「ぐッ……しかしだなぁ」


俺「などと言っている間に、俺がいっちばーんっと」


シャーリー&バルクホルン「ああぁッ!!!」

坂本「なあ、私。アイツ、何やかんや言っていたが、実は一番に乗りたかっただけじゃないのか?」

私「まさか、アイツがそんな些末なことに興味を持つ訳がない。単純に、状況を引っ掻き回して自分の面白いようにしているだけだ……」アタマイタイ

エーリカ「ほんと、性質悪いよねぇ……」

私「……すまん」

ミーナ「私さんが謝ることじゃないのよ?」

私「いや、それでも家族だからな。可能な限り肩を持ってやらないと、アイツが孤立してしまう」

坂本「……そんなこと、気にするような男に見えないが」

私「だから問題なんだ……!」


ルッキーニ「うきゃー! 私がいちばーーーんッ!!」ヒューン!

俺「え? 何? ごはぁッ!?」ドガァッ!!


ハンガーの天井付近の鉄骨で寝ていたルッキーニが飛び、俺の後頭部に着地する。
突然発生した人ひとり分の重みに耐えられる訳もなく、俺は顔面から地面に激突する羽目になった。


俺「……やれやれだ。クソガキの躾ぐらいしっかりやったらどうなんだ?」ムク

シャーリー「お前、本当に不死身だよな。少しは痛がれよ」

俺「バカバカ! そんなことしたら他人を喜ばせちゃうでしょ! メイの、じゃなかった。シャーリーのバカ! もう知らない!」ツーン

シャーリー「うわぁ、うざい上に理由がしょうもない」


ルッキーニ「へっへーん! 早い者勝ちだもーん! ……うにゅ? …………うきゃあぁぁぁぁ!」ビビビビビ!


俺「おお、すげぇ! リアル黒髭危機一髪!」

私「お前、少しはルッキーニの心配をしろ!」

シャーリー「おい、ルッキーニ大丈夫か!?」


ジェットストライカーから発射されるよう飛び出たルッキーニは、落ちると同時にそのままシャーリーのストライカーユニットの固定器に身を隠してしまう。


ルッキーニ「なんか……なんかぁ、ビビビってきた!」ブルブル

シャーリー「ビビビ?」

ルッキーニ「アレ嫌い。シャーリー、履かないで……」

シャーリー「………………よし、分かったよ」


怯えるルッキーニの頭を一撫ですると、シャーリーは母性溢れる笑みを浮かべる。


シャーリー「やっぱ私はパスするよ」

俺「およよ、スピードジャンキーにしちゃ珍しいな?」

シャーリー「はは、確かにそうかもね。でもまあ、レシプロでもやり残したことがあるしさ。ジェットを履くのはそれからでも遅くはないさ」

バルクホルン「ふん、怖気づいたな! まあ見ていろ」

私「待て、バルクホルン」


今度こそは、とジェットストライカーを履こうとするバルクホルンの腕を私が掴み止める。


私「ルッキーニが拒絶反応を示した理由が分かっていない。一度整備班の方に回して不備や不具合がないか調べるべきだ!」

バルクホルン「黙れ! お前のようなぽっとでにストライカーの何が分かる!」

私「だが、彼女が何らかの危機感を覚えたのは事実だ!」

バルクホルン「そんなものは少尉の気まぐれに過ぎん! そもそも試作機にトラブルは付き物だ!」

私「だからこそ万全の態勢で臨めと言っている!」


エーリカ「あーあ、今度は私とトゥルーデが喧嘩始めちゃった」

俺「どうだ、シャーリー。アレがさっきまでのお前等の姿だ。みっともなくて見ちゃいられないだろ?」

シャーリー「…………あんな幼稚なつもりはなかったんだけどなー。客観的に見ると凄い馬鹿らしいな」

俺「きゃんきゃんきゃんきゃん、駄犬かっつーの。耳障りこの上ないってもんですよ」

シャーリー「うん。お前の気持ちは分からないでもない。でも、セクハラを認めるつもりは一切ないぞ! 絶対に許さない!」

俺「もう許してくれよ。しかし、残念だったな。認められようが認められまいが、そんなん俺が知るか。倒れるとしても、前のめりだ。そうだろ、私ぃ!」

ミーナ「私さんは聞いてないし、亡くなってもいないわよ。本当にろくでもないわね。分かっていたけど……」

俺「流石はBBA、亀の甲より年の功だな。俺のことを少しは分かってきてるじゃないか」

ミーナ「私はまだ19です! 貴方、私のこと一体何歳だと思っているのよ!?」

俺「ミーナさんじゅうきゅうさい」

ミーナ「句読点、さんのあとに句読点を打って!」

俺「……などと意味不明の供述を繰り返しており、動機は不明」

ミーナ「人を取り調べ中の犯罪者みたいに言わないで……!」モウ、モウイヤァ









――夕方 ハンガー



俺「結局、私の言葉なんて聞き入れられねーのであった、まる」

私「固い固いと思っていたが、まさかここまでとはな……」


最終的に、私の言葉はバルクホルンに聞き入られることはなく、試作機の実験は開始された。それもバルクホルンがシャーリーを挑発し、二人の勝負という形で。
午前は上昇力、午後は搭載量を競い、いずれもジェットストライカーを履いたバルクホルンの勝利となった。


シャーリー「しかし、本当に凄いな。ジェットストライカーって」

俺「ありゃ、負けたのは悔しくねーの?」

シャーリー「んー、悔しくないって言ったら嘘になるけど、性能差は元々分かってたしなぁ」

俺「やだー、シャーリーったらおっとなー。惚れちゃいそー。………………チッ、つまんねー」

シャーリー「聞こえてるから、最後の一言。つーか、お前はどんだけ他人を苛めたいんだよ!?」

俺「泣くまでだよ!」

シャーリー「胸張って言うな!」


宮藤「ま、まーまー、二人とも肉じゃがでも食べて落ち着きましょうよ」

俺「いやいや、俺は落ち着いてボケてるから。ツッコミで熱くなってるのはシャーリーだから」

シャーリー「もう最近じゃ慣れてきたからな、コイツのボケも。何というか、ノリだよノリ」


シャーリーとバルクホルンに付き合ってか、今日の夕食はハンガーで催されていた。
そんな中、自分の前に置かれた夕飯に一切手を付けず、私はジェットストライカーとその傍らに座るバルクホルンを黙ってみている。


俺「もう私も黙ってねーで食べようぜ。ほら、あーん」ズイ

私「あっつぁッ!? 熱い! 何故口も開いてない人間にお前は食べ物を押し付けるんだ!?」

俺「おいおい、俺がせっかく老人介護の如く甲斐甲斐しく食べさせてやろうってのに、なんて言い草だ」グリグリ

私「お前がまともに食べさせる気があったらな! そこは口じゃない、目だ!」

俺「やっべ、間違えた」

エイラ「どう考えたって、間違えようねんてネーヨ」


全くと憤りながら、私は顔に着いた汁を拭いながら、俺の手にあったスプーンを引っ手繰る。


私「それで、お前はどう見る?」

俺「どう見るってなにがー?」

私「…………いい加減にしないと殴るぞ」ス

俺「待て待て落ち着け。それからスプーンで殴るってそれ抉るじゃね?」


サーニャ「……あの、私達にも分かるように教えて欲しいんですけど」

俺「そうだなー。バルクホルンの体調が可笑しいってことだよ」

ペリーヌ「でも、ストライカーで操縦もしましたし、疲労と思えばそれほど可笑しくもないでしょう?」

俺「いんにゃ、それを差っ引いても可笑しいな。顔色も血行も悪いし、呼吸も浅い。食欲はあったか?」

宮藤「いえ、あとで食べるから置いといてくれ、って」

俺「食欲なーし。完全に疲労状態だな、ありゃ。まるでデスマーチ明けの会社員を見ているようですよ。魔法力でも消耗しすぎたのかねぇ」

私「…………」ガタ

俺「飯も食べずにどこ行くんだ?」

私「ミーナ中佐のところに言って、実験の中止を進言してくる」


それ以上何も言わず、私がハンガーを後にした。


ルッキーニ「ねぇねぇ。やっぱりアレ、変だよぉ」

俺「つってもなぁー。整備班の話じゃ構造自体に問題があった訳じゃないみたいだし」

リーネ「じゃあ、どうして……」

俺「仮にあげるとしたら、ジェットストライカーの根幹を成す魔法理論それ自体に問題があるとしか思えねーな。ま、俺も私も触らして貰った訳でも、魔法理論を理解している訳でもねーから分からないけど」

宮藤「だったら、早く止めないと!」

俺「こっちの話を聞くような相手だったら良かったんだけどねー」

シャーリー「いくら整備班でも魔法理論にまで手を出せるのは稀だし、何より新しい理論。致命的な欠陥があっても、何処が悪いのか明確に出来ないってことか」

俺「そう、その通り! そして明確に出来ないことを聞き入れる程、あの堅物の頭が柔らかくなーい!」

エイラ「……まあ、あたし等は少なからず、そういうところがあるしナァ。ツンツン眼鏡とか、特ニ」

ペリーヌ「誰がツンツン眼鏡ですの!?」

俺「誰もお前なんて言ってない。よって、自分でも認めているんじゃありませんか?」

ペリーヌ「……ぐ、ぐぬぬ///」カァァァ


俺「まー、どうしようもねーですよ。BBAもカールスラント出身だろ? 国を取り返すために必死だからな。致命的な原因が明確にならなけりゃ、実験の中止にはならねーさ」

宮藤「…………でも」

俺「それに女は何かと体調が変化しやすいだろー? ほら、生理とか。そういう類の奴かもしんねーよ?」

サーニャ「……///」

シャーリー「お前、本当に最低だな。普通、女の前でそういうこというか?」

俺「ハ、舐めんな。中学時代、俺は機嫌の悪い女に常にそう言ってきたからな。しかも教師、生徒問わずにな」

エイラ「うわぁ……デリカシーがないってレベルじゃねーゾ」

俺「そして付いたあだ名が“生理痛”」

リーネ「イジメじゃないですか!?」ガビーン!

俺「意味はそういう期間でもないのに、俺と話してるだけで生理の時と同じような状態になるから。笑えるな」

ペリーヌ「それを笑って済ませるなんて、どれだけ鋼のメンタルですの!? そんなもの、女でも自殺級のイジメですわよ!?」

俺「イジメはな、泣くと相手をツケ上がらせるんだよ。だから、俺は“生理痛”と呼んだ奴全てにそれ以上のあだ名を考えて呼んでやったよ」

シャーリー「凄ェ! パっと思いつかないよ!? それ以上にヒドイあだ名!!」

俺「そして、泣いて俺に許しを請うまで呼び続けてやった」

ペリーヌ「悪魔! ここに悪魔がいますわ!!」












――翌朝 滑走路



俺「結局、実験の中止にはならず、か」ンー

私「どうでもよさそうに身体を伸ばすな。事が起きれば一大事だぞ」

俺「知らねーっつの。大体よ、バルクホルンがやりたいってんだから、好きにやらせりゃいいじゃねーか」

私「………………」


俺「で? 今日は何だっけ? スピード勝負?」

私「……………………そうだ、そろそろ始まるぞ」


言いたいことを全て飲み込み、私は空を仰ぎ見る。
目も眩みそうな青空に、三つの黒点が存在した。バルクホルンとシャーリー、そしてスタートの合図を送るルッキーニの三人だ。
私の視線を追った俺が見上げると、勝負が始まった。


俺「おーおー、流石はスピードクイーン。いいスタートダッシュだねぇ。――――ありゃ? 何で動かねーんだ、バルクホルンの奴?」

私「トラブル、ではないようだが……」

俺「あ、動いた。うお、速い速い。アレだけの遅れを一瞬で取り戻して、更にシャーリーを抜かしやがった」

私「当然だ。純粋な性能競争であるならばレシプロ機に勝てる道理はない。当然の結果――――何だ!?」


一直線の軌道を描いていたバルクホルンは、突如コントロールを失ったように無秩序な軌道を描き、海面へと向かって落下していく。
何らかのトラブルか。エンジンが停止し、自由落下を始めていた。


俺「気ィ失ってるねぇ、ありゃ」アララ

私「言ってる場合か!」

俺「んなこと言ったって、ここじゃ何もできねぇよ、俺ぁ」

私「――――ぐッ!!」


私が落ちるバルクホルンに手を伸ばす。
発動させた固有魔法は数キロ離れたジェットストライカーに作用し、急速に落下の速度を落としていった


俺「すげぇな。こんなに離れてても使えるのか、それ」

私「…………ッ! ―――ッ―ッ……!」

俺「答える余裕もねぇか。おい、シャーリー、聞こえるか!」

シャーリー『俺か!? いつものボケなら後にしろ!!』

俺「分かってんよ。それよか速くあのバカ女を回収しろ。今は私が固有魔法を使ってるが、心臓が持たねぇ」

シャーリー『分かったッ!』


不測の事態を考慮していたのか、俺は懐から取り出したインカムでシャーリーに指示を出す。

見れば、既に私の顔は青を通り越して土色であった。
魔法の行使は運動と変わらない。使えば使うほどに体力と精神力を消耗し、心拍数が上がっていく。

健全な心臓ならばそれで何の問題にもならない。だが、私の心臓はポンコツを自称するほどに脆弱だ。現時点で、心停止に近い状態ですらある。


シャーリー『掴んだぞ!』

俺「おい、もういいぞ」

私「ガ、……ハッ……!!!」ガク

俺「やれやれだ。人助けで自分が死んでちゃ世話ねーぞ」グ


俺は倒れる私の身体を見ることもせずに片手で抱き留めた。


俺「おい、気絶すんなよ。お前の心臓は、AEDも薬も魔法も、あらゆる負荷に耐えられねーんだ。気を失ったら死ぬぞ」

私「…………ッ……ッ」ヒュー、ヒュー

俺「ほんと、クソ迷惑な女だ。他人の忠告聞かずにこれじゃ、笑えないね」

私「この、程度の行使、にも、耐えられんのか、私は……!」

俺「こっちもこっちで、重傷だな……」









――その夜



俺「あー、大変なことになっちゃったぞぅ」

ミーナ「貴方はこの状況でもそれなのね……」


俺「で、そっちはどうよ」

ミーナ「トゥルーデには当分の間、飛行停止と自室待機。ジェットストライカーの使用を禁止したわ」

俺「当然だわな。貴重なエースを戦闘中でもないのに失う訳にはいかんし」

ミーナ「私さんの方は?」

俺「アイツは心臓の弱さに反して回復力は高い。どれだけ苦しかろうが、そう易々とは死ねねーのよ。今は自室で寝てる」

ミーナ「そう、想像していた以上に難儀な身体ね。………………それで、本当によかったの?」

俺「なにがー?」

ミーナ「私さんがトゥルーデを助けたのを伝えないこと。そして、そのせいで私さんが死にかけたことよ」


その事実を伝えないように言い含めたのは他ならぬ俺である。
ミーナとしては事実を伝え、自身の行為がどのような結果を招いたのかを理解させるべきだと考えていた。


俺「いいじゃないの。他人を使って釘を刺すなんざ、発想としては最低ですよ?」

ミーナ「分かっています。でも、……それでも、戦力としてトゥルーデを失う訳にはいかないの」

俺「別にさー、肩肘張んなくていいんだぜ? どーせ俺以外には聞いてる奴なんていないんだから。素直に自分が失いたくないって言えばー?」

ミーナ「はあ、どうでもいいような顔をしていて、何でもお見通しね」

俺「見りゃ分かる。アレで隠しているつもりなら、それはそれで問題だと思うけどな。ま、こっちも私のことを思ってのことだから気にするな」

ミーナ「………………?」

俺「誰だって、腫物扱いは嫌だろうよ」

ミーナ「そういうことね。私さんは、そこまで気にするようには見えないけれど」

俺「表向きはな。アレは他人に弱みなんざそうそう見せない。それはマミーや俺にだって変わらない。が、そこは付き合いの長さだ。お互いのイヤンなことくらい分かってる」

ミーナ「もう少し、真面目にやってくれると思っていたのだけど……」

俺「むりー、シリアスなんて飽食気味でな。ボケてねーとやってらんねーよ。じゃ、俺は部屋に返ってオナニーして寝るわ」

ミーナ「貴方、そういうことを言うなんて、頭おかしいんじゃないかしら」ニコニコ

俺「そんな俺に普通に嫌味を返しちゃう! 悔しい! でも……!」

ミーナ「はいはい。じゃあ、おやすみなさい」


おやすみー、と返す俺を見送り、夜空を見上げる。
問題は山積みだ。ジェットストライカーの問題点を技術省に伝えなければならないし、何よりもバルクホルンのあの態度。
彼女は規律規範に厳しい性格であるのは自他ともに認めるものではあるが、その分視野狭窄に陥り易い。暴走する可能性も否定できない。

様々な考えを巡らせるが答えは一向に出てこない。一体どれだけの時間が過ぎただろうか。月が随分と高くまで昇っていた。
最終更新:2013年03月30日 01:17