時は1945年――――

私「転属命令――――ですか?」

渡された辞令書にざっと目を通した私は、改めて目の前に座る自らの上官に訪ねた

「ああ、先日ヴェネツィア上空に出現した巨大怪異の巣は君も知っているだろう?」

上官の言葉で、私は先日起きた一大事件を思い出した

先日504統合戦闘航空団が『怪異とのコンタクト』を目的とした一大作戦――通称、トラヤヌス作戦を決行

――そしてその際、突如としてヴェネツィア上空に既存の巣を飲み込み、巨大怪異の巣が出現したのだ

当然、作戦は失敗に終わった

504部隊は壊滅的な被害を受け、現在ロマーニャ防衛はガリア開放を成し遂げた501統合戦闘航空団が執り行っている

……504壊滅の報せを聞いた時、私はひどく憤慨したものだ

今回の転属命令はそのことが大きな一因となっていることは容易に予想できる

「――そこで、君に転属命令だ」

私「………………」

確かに、渡された書類には私の名と辞令が書かれていた

その転属先はかの伝説の部隊、第501統合戦闘航空団・ストライクウィッチーズ……『ではなく』

「リベリオン海兵隊、私大尉……第506統合戦闘航空団・ノーブルウィッチーズへの転属を命令する」

ガリア防衛を主とする第506統合戦闘航空団……であったのだ

「はっ!私大尉、506統合戦闘航空団への転属命令、了解致しました!」

ビシッ!とリベリオン式の敬礼を行う

『リベリオン海兵隊私大尉』

……それが、私の誇るべき職だった

……………………

さて、ひと段落ついたところで私が向かうノーブルウィッチーズの説明を行っておこう

第506統合戦闘航空団、通称ノーブルウィッチーズはガリア防衛を主とする六番目の統合戦闘航空団だ

そのノーブルウィッチーズ……その名が示す通り所属する魔女の半数が貴族の家系と言う非常に珍しい部隊――なのだが

設立時のいざこざでA部隊とB部隊、二つの部隊に別れてしまっているのだ

A部隊はブリタニア、カールスラント、ガリア、ロマーニャの貴族魔女で構成された正真正銘の貴族部隊

B部隊は私と同じリベリオンの魔女で構成された部隊

……聞いたところによると、この二つの部隊、全く交流が無いらしい

憎きネウロイ共を破壊すると言うのに両陣営の連携が取れていないのは非常にまずい事態なのだがまぁそのことについてはおいおい考えるとしよう

そして、今回私が着任するのは『B部隊』……まあ当然だ

幸い向こう(B部隊)には知った顔が何人かいる

確か最後に会ったのは私が魔法力を発現した直後の2年前
……彼女はどれほど成長しているのだろうか

それが楽しみでならない

………………

……ああ、そう言えば自己紹介をしていなかったな

私の名前は『私』
まぁ、リベリオンではよくある名前だ

階級は大尉、所属する軍はリベリオン海兵隊

そして私の相棒の飛行脚はグラマン社の『F6Fヘルキャット』

グラマン社の戦闘脚及び戦闘機は私がまだ只の一パイロットだった頃からの愛機だ

彼女達―ああ、グラマン機の事だ―とはかれこれ十数年の付き合いとなる

私と始めて空を翔んだのは数世代前のF3F戦闘機

空飛ぶ樽と呼ばれるほどずんぐりとした機体だが――私はこれ以上ないほど気に入っている

航空パイロット時代は彼女と共に私は小型怪異達を30ほど堕としたものだ

元来、戦闘機による怪異の破壊は魔女達と比べて難度の高い事なのだが――私の航空戦闘機術にかかれば空に舞う蠅達を叩き落す事など造作もない

流石に中型大型クラスのネウロイに対してはほとんど無力なので、あまり自慢は出来ないのだがな

……さて、その戦闘機乗りだった私が何故エースウィッチが揃う統合戦闘航空団に配属されたのかというと――

――早い話、私に魔力が発現したからだ

1942年末、F3Fの実践配備がいよいよ終了しようとしていた頃、私は彼女――F3F――との最後のフライトを行った

その頃はネウロイ達との戦闘も激化し、与えられた任務も小型数十、大型二機という、私達二人、最後のアバンチュールにはちょうどいい舞台だった

そして

グラマン編隊と機械化航空魔女隊が織り成す円舞曲は怪異達をことごとく破壊し、私と彼女との恋路は華々しい終焉を迎えた――が

ネウロイを倒し、私がほっと一息をついた直後

なんと彼女は最後の最後にエンジントラブルを起こしてくれた

当然機体は海に真っ逆さま、派手な水しぶきと共に澄み渡る蒼色の海面へと突っ込んだのだ

やれやれ

どうやら私がほっと一息を付き、彼女との別れ――そして、新たな私の愛機となるF4Fへ想いを馳せたのがいけなかったのだろう

それで彼女は拗ねてしまった様だ……それにしたって海面に落ちるのはいささかやりすぎな気がする

女難の相でもあるのだろうか?私は

その後生死の境を三日間ほど彷徨い……如何いう訳か私に魔法力が確認された

おそらくそれが彼女の最後の贈り物なのだろう

男性の魔女などと言う稀有な例は流石の大国リベリオンと言えど前例が無かった
散々検査に検査された嫌な記憶がある……全く、忌々しい



…………

………………さて

そう言う訳で、だ

私「……今日からこの部隊の副長を務める事となった、リベリオン海兵隊所属私大尉だ」

ガリア中部ディジョン基地、ブリーフィングルーム――

なかなかの広さのその一室には私の他に4人の人間がいた

手早くテンプレート化された自己紹介を行うと共に、彼女らを観察する――――うむ、皆いい目をしている

私「……私の自己紹介は以上だ」

「有難うございました、私大尉」

「……大尉への質問等は解散後にする様に」

「それでは解散!」

凛とした、ブリタニア訛りの入った声でこの部隊の隊長、ジーナ・プレディ中佐が号令を行う
中佐は全員を見回すとすぐにブリーフィングルームから退出していった

私「………………」

……リベリオン陸軍第352戦闘航空群第328戦闘飛行隊『ブルーレッグス』隊長、ジーナプレディ中佐

訓練中の事故や機銃の暴発などの『不運』に見舞われることが多いため、アンラッキー・プレディなどと呼ばれているが――その実力は素晴らしいものだ
先日の501統合戦闘航空団によるガリア開放の後、残存する小型ネウロイを6機連続撃墜したのは有名な話でもある

……一度、彼女と手合わせをしたいものだな

だがまぁ、これから私はこの部隊に務めるのだ、機会なら幾らでも――――

「大尉!!」

――声の方へ視線を向けると、そこには美しいブロンドヘアーの少女が立っていた

彼女は私と同じ青色のリベリオン海兵隊尉官服を着て、キラキラとした瞳でこちらを見ている

街中で10人が見れば11人が振り返る程の美貌を持つ彼女を私は――知っていた

私「マリアン!久しぶりだな!」

「お、お久しぶりです!」

……マリアン・E・カール
リベリオン海兵隊大尉を務める航空魔女だ

私「確か最後に会ったのは……三年前の扶桑か!……いや、元気そうで安心した」

「はいっ!大尉もお変わりのないようで嬉しく存じ上げます!」

私「…………」

私「……マリアン……私と君は同じ階級ではないか、敬語は必要ない」

マリアン「で、ですが……その……自分はこの方が慣れていますのでっ!!」

私「…………」

私「……もういい、好きにするといい」

マリアン「はっ!」

ビシッと敬礼をするマリアン

部下に慕われるのは良いことだと思うが、同じ階級なのだし、そう固くなる必要はないのではないかと思うが……まぁいい

私「む?」

私はふと、こちらをニヤけながら見ている少女に気がついた

私「……君は?」

「私?私は『カーラ・J・ルクシック』、ウチの隊長と同じブルーレッグス隊の中尉さ」

私「カーラ・J・ルクシック……か……よし、覚えた」

カーラ「まぁ、よろしく頼むよ」スッ

私「ああ、こちらこそ」スッ

私達は熱い握手を交わした

彼女、カーラもいい目つきをしている……結構な数の修羅場をくぐっていると見た

カーラ「いやぁそれにしても驚いた!」

私「?」

カーラ「そこに突っ立ってるマリアン大尉のことだよ」

マリアン「はぁ?私がどうしたんだ?」

カーラ「いやなに、『あの』マリアン大尉がここまで信頼しているんだ。驚きもするさ」

マリアン「なっ!?」

カーラの言葉を受けて、マリアンの頬が朱に染まった……熱でもあるのだろうか

私「信頼……か。ふふ、仲間として冥利に尽きるものだな」

マリアン「大尉……わ、私もその、大尉殿がいてくれて本当にうれ――――」

私「ところでマリアン、一つ聞きたいことがあるっ!」

マリアン「へっ!?」

ボソボソと蚊のような声でマリアンが何かを呟いていた気がするが、私は自身にとっての最重要事項を聞くために声を大にした

私「この基地に――――風呂はあるか?」

マリアン「風呂……ですか?」

私「ああ!風呂だ!」

がしっ!と彼女の両肩を掴み、ぐぐいっと顔を近づける

マリアン「ふへっ!?」

我ながらいささかはしたない行動だとは思うが、用件が用件なのだ!熱くならずにはいられない!

マリアン「あのあのあのの、た、大尉殿!」

私「む!どうしたんだマリアン!?」

そういえばまたマリアンの顔が赤く染まっている、やはり熱があるのか!?
いかん、ここはまずマリアンを病室に運んだ方が――

マリアン「ち、近いです!顔が近いです!」

私「?……ああ、それもそうだな、済まない」

気づけば私とマリアンとの距離はお互いの吐息が顔に当たる程近づいていた

「はぁ……私さん、お風呂ならちゃんとありますから、落ち着いてください」

私「なにっ!?それは本当なのかジェニファーッ!?」

私は声を荒げ、先程からじっと私達を見ていた少女……ジェニファー・J・D・ブランク大尉に尋ねる

ジェニファー「ええ、本当ですよ、だから落ち着いてください、本当に」

私「そうか……風呂があるのか……よかった!」

喜びに打ち震える私、ジェニファーはそんな私をどこか冷めた目で見つめている
そんな目で見てくれるな、嬉しいものは仕方なかろう?

ジェニファー「まったく、本当に貴方は扶桑文化が好きなんですね……」

私「ああ!扶桑文化は素晴らしいッ!」

確かに我々のリベリオン文化も世界に誇れるものだ……だかしかしっ!
扶桑文化のWA!KABUKI!NINJYA!エトセトラ、エトセトラ!それらは皆!私の心を虜にしたのだっ!!

……ふむ、少々興奮しすぎたようだ。ステイステイ

ジェニファー「はぁ…………」

ジェニファーが大きな―非常に大きな―ため息を付く

私「む、どうしたジェニファー?そんなため息をついて?……よし、ならば私が一興として 扶桑文化のいろはを教えて――」

ジェニファー「結構ですっ!!」

……つれない奴だ

ジェニファー「それと大尉殿、どうか魔女達に先程の様に至近距離で接さないでください……」

私「?……何故だ?」

ジェニファー「あなたの甘いマスクで何人も魔女達が撃墜されてるって言ってるんですよッ!!」

私「いや、一体何を訳の解らぬ事を言って――」

私がそう呟くと、ジェニファーはキッ!と私を睨んだ

マリアン「……もういいですッ!」

そう吐き捨てて、ジェニファーは部屋の外へと出て行った

私「……ん?」

違和感を感じた私が、後ろを振り向くと、カーラが腹を抱えてけらけらと笑っていた

私「……何かな?」

カーラ「くっくっ……いや、随分と君は罪な男だな、と思ってね」

カーラ「まったくこれから楽しくなりそうだよ」

楽しくなりそう……か
ふふ、同感だな

私「私も、ここなら退屈せずに済みそうだ」

カーラ「それはよかった……ところでマリアン大尉!」

マリアン「……なんだ?」

カーラ「私大尉に基地の案内をしてくれないか?」

マリアン「あ、ああ。わかった」

カーラ「……それじゃ、あとは頼んだよ」

ひらひらと片手を挙げて振りながら、カーラ中尉が部屋から出てゆく

その途中で中尉はマリアンの肩を叩いて何かを呟いた様だが、小声だったので私には聞き取ることができなかった

マリアンの反応―先程の様に顔が頬が朱に染まった―を見る限り、どうやら彼女にとってよからぬことを言われたのは想像に難しくない

私「マリアン?中尉に何か言われたのか?」

マリアン「な、何でもありませんッ!ええ!本当に!」

私「………………」

十中八九、何でもあるだろうと思ったが、その言葉はそっと心の中に閉まっておく事にした

マリアン「そ、それでは行きましょう!」

私「ああ、マリアン大尉、君に私のエスコートをお願いしよ――」

う、と私が言った時――――

まるで示し合わせたかの様にそれは鳴り響いた

ウウウウウウウゥゥゥゥゥ――――――

マリアン「!!!!!!」

私「…………」

……やれやれ

私「……どうやら彼女達も、私を歓迎してくれている様だな」
最終更新:2013年03月30日 01:27