キ84 第三話「一緒に出来ること」前編



~1945年、夏 ロマーニャ上空~

シャーリー「んー、いい天気だー!!」

青い空にシャーリーが手を広げてくるりとロールする。

俺「大尉、哨戒任務中ですよ。

  もう少し周囲に注意を・・・」

そう言いながら俺は周囲に視線を向けて見慣れない影が無いか探す。

シャーリー「分かってるってぇ~

      でもこんなにいい天気なんだから、さ。

      少しぐらい俺もリラックスしろよー」

俺「はぁ・・・そう言われても・・・」

こんな格好じゃリラックスも出来ないな、と独りごちて再び周囲を見回す。

シャーリー「大体俺はちょっと気張り過ぎじゃないのかー?」

俺「いえ、そんなことは・・・

  ・・・ん?大尉、11時方向の高度3500」

シャーリー「・・・ああ、あたしにも見えるよ」

     《こちらシャーリー。ミーナ中佐、タリホー。

      フォックス・エイブル、グリッドはイージー04。

      数は・・・飛行盃が6機だ。

      どうする?》

ミーナ《了解よ、シャーリーさん。

    今からルッキーニさんとエイラさんを応援に送るわ。

    それまで離されないように―――》

俺「―――大尉、俺が墜とします」

シャーリー「え・・・お、おい!」

そう言うと俺はスロットルを開けてシャーリーを追い越し、十分先行するとそのまま姿勢をひねって背面降下に転じた。
眼下のフライングゴブレット目がけてまっすぐに降下する。

ミーナ《シャーリーさん?!》

シャーリー《中佐!俺が―――》

ミーナ《ああ、また・・・

    二人が到着するまでなんとかしてね。

    頼んだわ、シャーリーさん》

シャーリー《了解!》

そう返答するとシャーリーも俺の後を追ってダイブした。

シャーリー「おい、待てよ、俺!」

俺「大尉、大丈夫ですよ」

手を伸ばして武装の装填コックを引いて初弾を薬室に装填する。
光像式照準器に敵機の姿を重ね、トリガーを引く。

ドドドドドドドドドド

20mm機関砲弾が一斉に飛行盃に襲いかかり、コアと言わず本体と言わずに粉砕した。

俺「一機撃墜!」

撃破された飛行盃の白煙を翼端に引き、そのまま飛行盃の編隊の隙間を駆け抜けた。
やや高度を下げると姿勢を上げて敵襲に反応し始めた飛行盃達に牽制射撃を浴びせながら、再び高度を上げて速度を落として後ろに付く。

ドドドッ、ドドドッ、ドドドッ

今度は小刻みに単連射を加えると、慌てた飛行盃が散開し始める。
俺もロールを加えてその一団を追う。

俺「ふんっ!」

襲いかかる重力の暴力に耐えてギリギリの旋回半径で飛行盃に追いすがった。
スロットルをゆるめ、じりじりと旋回してクロスヘアに不恰好な敵影を近づけた。
が―――

キュンッ

ネウロイ特有のでたらめな機動で真横に折れてかわされた。

俺「ちっ、ムチャクチャな機動しやがって!」

もう一度射撃位置に着こうと旋回して敵の軌道を辿る。
しかし、またもや軽々とネウロイは俺が追随出来ない様な機動で逃げた。

俺「くっ!」

俺も追随せんと、姿勢を傾けピッチを加えてスライスバック機動で旋回する。
強烈なGが内蔵をかき回して意識を乱したが、なんとか鋭く回りこんだ。
が、その高度が下がった隙に先ほどブレイクしたネウロイの別編隊が後方に現れた。

俺「くそっ、どっから沸いて出やがった!!」

今まで追っていた二機が視界から外れて、今度は自分が三機の飛行盃に負われる形に逆転した。
捕捉されまいと、左右に蛇行するシザーズ機動を行って飛行盃を振り切ろうとする。
だがネウロイの機動力は俺のそれを遥かに上回っていた。
ぴったりと張り付いて少しも離せない。

ヒュゥゥゥン―――

飛行盃のビーム発生器官が赤く発光し始めた。

俺(マズい・・・当たる・・・!)

半ばパニックになりつつ左右上下にジンキングを加えてなんとか逃げようとした。
だが、努力もむなしくネウロイから無数の光線が放たれ俺に襲いかかった。

キュゥン

襲いかかった―――のだが、その歯牙は俺に届くことは無かった。

キィィィン

放たれた幾条ものビームは、俺に達する前に瓶覗の光の壁に阻まれた。

シャーリー「チェック・シックス(後方警戒)がお留守だぞ、俺!」

俺と飛行盃の間にシャーリーが割って入ってシールドを展開したのだ。
ネウロイの攻撃を防ぐと、今度は反撃に転じた。

M1918A3BARを構えて、フリップアップサイトで左端の飛行盃を捉える。
トリガーを引いて.30-06スプリングフィールド弾が飛行盃を引き裂くのを見据えると、そのままトリガーを離して銃口を右にスライドさせる。
二機目の機影がフロントサイト、リアサイトと重なるときにトリガーを引いて直ぐに離した。
続けて最後の飛行盃に照準、短連射。
一マガジン、計40発に余裕を残して軽く三機を撃墜した。

シャーリー「大丈夫か?」

俺「平気です、大尉」

シャーリー「まだ後二機残ってる、気を抜くなよ」

俺「・・・了解」

シャーリーが片手で自分の頭を軽く叩いて「我二続ケ」のハンドサインを出した。
俺も親指を立て了解の意を伝えてシャーリーの背後に並んだ。
長機の肩越しに見えるは残り二機の飛行盃。

シャーリーが右にバンクを掛けて旋回に入った。
俺もそれに続いて右に回る。
それを見とったネウロイが同じく右旋回に入りつつ高度を下げ始めた。

シャーリー「ここから上がって一気に叩くよ、俺」

俺「了解、大尉」

上を向いたシャーリーはマーリンエンジンの1,490呪力(公称)を開放して一気に高度と位置エネルギーを稼いだ。
ある程度上がると、今度は緩降下に転じて飛行盃に邁進する。
俺は後ろからそれを援護すべきなのだが、編隊を維持するのがやっとだ。

シャーリー「いくよっ!」

ダダダダダダ、ダダダダダダダダダ

十分に速度を稼いだシャーリーはそのまま飛行盃の間に滑りこみ、すれ違い様に銃撃を浴びせた。
後続の俺はまともにネウロイの白い破片を被ったが、それがシャーリーが撃破したことを物語っていた。

俺「撃墜確認、戦果飛行盃六」

シャーリー「もう敵はいないな・・・っと。

      相変わらず危なっかしいな、俺はー」

俺「そういう性分なだけです、大尉」

シャーリー「ふーん・・・」

ミーナ《ザッ・・・シャーリーさん?》

シャーリー《あ、中佐、片付いたよ》

ミーナ《そう・・・俺さんは?》

シャーリー《なんとも無いよ》

ミーナ《それは良かったわ。

    言いたいことはあるけども、とりあえずは二人とも帰投してください》

シャーリー《了解、ミーナ中佐》

俺「大尉?」

シャーリー「俺、RTBだ。帰るよ」

俺「了解です」

そう短く交わすと二人はヘディングを基地方角に合わせて巡航に入った。


◇ ◇ ◇


~ロマーニャ、501JFW基地滑走路~

シャーリーのノースリベリオンP-51Dマスタングが高度を下げながら滑走路に滑りこみ、続いて一機の戦闘機が同様に着陸した。
深緑の単色塗装にコックピット前が黒の防眩加工、胴と翼に扶桑の三日月という極スタンダードな扶桑軍機のカラーリングだ。
長島飛行機 キ84 四式戦闘機 疾風―――扶桑皇国が対ネウロイ戦闘の切り札として開発した重戦闘機。
そしてその風防を開いて一人のパイロットが降りてきた。
機体を整備班に引き渡すと、そのまま飛行眼鏡を飛行帽の上に引っ掛けてハンガーに向かって歩き出した。

ミーナ「俺少尉!」

ハンガーの奥から鋭い咎立が飛んできた。
ふと視線をやると、ミーナと坂本が呆れた表情を浮かべて立っていた。

俺「は、ヴィルケ中佐、お呼びでしょうか?」

ミーナ「ま・た・ですか、俺さん?」

俺「なんのことでありましょうか(棒)」

坂本「まったく何のこともへったくれもあるか。

   先日の一件に続いてまたも独断先行で・・・」

俺「自分はそれが最良だと判断したから先行したまでであります(さらに棒)」

ミーナ「もう、俺さんの今回の任務はウィッチとの戦闘連携の研修だったでしょう?

    それなのにこれじゃぁ・・・」

確かに今回俺が第501統合戦闘航空団に派遣されてきたのは、飽くまでウィッチとの戦闘時における通常航空機搭乗員の連携作戦の確立が目的だったのだ。
だが既に数週間経つというのに、連携どころかウィッチとの協調すら出来ないでいる。むしろ自らそれを拒んでいるようだ。
しかも日常では問題がないのに戦闘となると箍が外れた様にネウロイ相手に巴戦を挑む始末だ。

坂本「もう研修期間も残り少ない。

   なのに一向に成果が出ていないではないか」

俺「そう仰られましても、自分は自分なりにネウロイと戦う最良の方法を考えているだけです」

坂本「ううむ・・・」

ミーナ「ハァ・・・それにしてもこのままじゃダメよ、俺さん。

    残り二週間、有効に使ってもらわないと困るわ。

    この試験研修プランは上層部の肝いりなのよ。

    成果が挙がらなければ・・・」

俺「努力します、中佐」

ミーナ「頼んだわよ、俺さん」

俺「はっ」


◇ ◇ ◇


~食堂~

午前の哨戒任務も終了し、今は丁度昼時だ。
食堂にもウィッチ達が集まってそれぞれに昼食を取っている。
今日の給仕係であるバルクホルンとハルトマンがなにやら大鍋から振舞っている。

エーリカ「あ、俺ー。おかえりー」

俺「お疲れ様です、ハルトマン中尉」

ゲルト「昼食が出来ているぞ、俺少尉」

俺「いただきます。

  今日はなんですか?」

ゲルト「デブレツィーナーグーラシュだ」

俺「・・・なんですか、それは?」

エーリカ「カールスラントのシチュー見たいなスープだよ」

ゲルト「いや、正確にはオストマルクに起源を持つ料理だ。

    そもそも本当はグーラシュではなくグヤーシュといい元々農民の昼食に作られていたスープを(ry」

シャーリー「誰もそんなこと聞いてないって・・・

      で、俺。ミーナ中佐は何だって?」

俺「いえ・・・ちょっとしたお説教ってことでした」

シャーリー「ふーん、そっか」

ルッキーニ「どったの、シャーリー?」

シャーリー「んー、さっきのパトロール中にまた俺がちょっと無茶したんだよ」

俺「別に無茶じゃありませんよ、大尉」

シャーリー「まぁあたしはとやかく言うつもりはないけどねー」

エーリカ「お待たせー!」

どん、と俺の前にスープボウルとパン皿が置かれた。

俺「あ、どうも中尉。いただきます」モグモグ

エーリカ「どう、おいしい?」

俺「モグモグ・・・パンに良く合いますね。

  特に具がいっぱい入ってるんでスープに深みが出てます。

  あと・・・このソーセージも美味しいです」

ゲルト「そうか、それはなりよりだ」

俺「そういえば今日はクロステルマン中尉達がいませんね」

ゲルト「ああ、あの三人なら修行に出かけた」

俺「修行?」

ゲルト「魔法力のコントロールの修行に箒での飛行を習いに出たらしい」

俺「箒、ですか・・・」

ゲルト「・・・どうした?」

俺「いえ、別に。

  ごちそうさまでした。

  それじゃ自分は戦闘報告書仕上げてきます」

シャーリー「あー、あたしも書かないとー」

バタン

俺(箒で飛べる魔女、か・・・)

俺は呆れたように反芻すると、先ほどとは反対側に廊下歩いて自室を目指すことにした。


◇ ◇ ◇


~深夜、ハンガー~

もう時計の針が頂上を回ろうかという時間なのに、作業灯が煌々と格納庫を照らし出している。
連日の任務で酷使されたユニット達が整備班によるメンテナンスを受けていた。
その傍らで、俺も自ら四式戦闘機の点検を行っていた。
高いGの掛かる戦闘機動を行った直後は特に念入りに各部を点検しなければならない。
所定に従いまずは機体各部を点検、次に発動機、そして操縦席内部を点検する。

俺「・・・各部異状なし」

ネウロイの破片で多少傷が付いたが何も問題はないだろう、そう結論づけて最後に酸素吸入装置の作動を確認し終えた。

俺「これで終わりか・・・イタタタ・・・」

数時間に及ぶ作業で腰が痛む。
操縦席から飛び降りて工具を片付け、チェック済みの帳面を所定位置に戻した。

俺「さてと・・・」

まだ他の整備員達がウィッチ達のストライカーを整備してるのを尻目に、ハンガーの外に出た。
ハンガーの前にある滑走路前の広場の端にある、崩れかけた遺跡へと足を向けた。
そこは整備員達が煙缶を据えており、簡易喫煙所となっているのだ。
崩れた石柱に腰を下ろすと、ポケットからタバコを取り出す。
扶桑から持ってきた誉はとっくに無くなっているので、今はもっぱらロマーニャで手に入れたリベリオンの官給品だ。
白地に赤い的で景気のいいようなデザインにも見えるが、名前からして縁起が悪いという奴もいるらしい。
マッチで点火して紫煙をゆっくりと吸い込み、溜息と共に吐き出した。

俺「はぁ・・・」

昼間ミーナに告げられた言葉が頭を過ぎった。

『残り二週間、有効に使ってもらわないと困るわ』

(有効、ねぇ・・・

 もう二度とウィッチを危険な目に合わせたくない、そう思って志願したはずなのに

 俺は何やってるんだろう・・・)

7年前―――扶桑海事変で戦死したあいつの顔を思い出した。
二度とあんな事を繰り返したくない。
だからこうして航空兵に志願したというのに、まるで無力だ。
がむしゃらにネウロイに挑んだところで、その戦力はウィッチに遠く及ばない。

(くそっ・・・

 これじゃだめなのか・・・)

暗澹たる気分を抱えたまま自室に戻ることにして煙草を煙缶に放り込んだ。


◇ ◇ ◇


~翌日、501JFW基地司令室~

机に広げられたロマーニャ地図を前にミーナと坂本が話し込んでいる。

ミーナ「観測班から報告では、出現場所のヴェネツィアからアドリア海沿岸をバーリ方向に真っ直ぐに移動してるわ」

坂本「直線的にしか、移動しないタイプのネウロイだな」

坂本「迎撃地点は・・・海上か」

二地点を繋いだ線を地図に書き込む坂本。

ミーナ「それまでは陸地を少しかするだけ。上陸はしなさそうね」

坂本「これなら、緊急出動の必要は無いか。・・・いやっ」

地図上の線が掠める一点の陸地が二人の目を引きつけた。

ミーナ「ここは・・・」

坂本「まずい!」

ガチャ

俺「失礼しま―――」

いきなりドアを開けて入ってきた俺が異様な空気にたじろいだ。

俺「えと・・・昨日の戦闘報告書をお持ちしました、中佐」

ミーナ「あ、ありがとう、俺さん・・・

    そこに置いておいてくれるかしら?」

俺「はい。・・・何かあったんですか?」

坂本「実はな、斯く斯く云々・・・」

俺「―――ネウロイが!

  早く迎撃に上がりましょう、中佐。

  出撃許可を!」

ミーナ「ダメよ、俺少尉。

    許可できません」

俺「・・・何故です」

ミーナ「今から出撃しても間に合わないわ」

俺は坂本から竹尺をひったくると地図と向かい合った。

俺「・・・ここから出現地のラベンナまで約230km。

  ネウロイの速度は?」

ミーナ「約400km/hね」

俺「400・・・

  ここから三人の位置までは150kmちょい。

  俺のハチヨンなら飛ばせば500は出る。

  十分間に合います、中佐」

ミーナ「いいえ、許可できません、俺少尉」

俺「―――手の届く敵を見過ごせ、と?」

ミーナ「いいえ、そうじゃないわ。

    ただ、今は戦う時じゃない、そう言ってるだけよ」

俺「目の前に見える敵を見過ごして何がウィッチーズですかっ!

  民間人の家一軒守れなくて何が人類の希望だっ!!」

坂本「―――ふざけるのも大概にしろ、俺少尉。

   我々は軍隊だぞ、命令には従え」

俺「だったらこんな腑抜けな軍隊はこっちから願い下げですよ!

  俺は出撃します」

そう言い捨てると後ろ手にドアを閉めて駆け出していた。

坂本「バカか、あいつは・・・」

ミーナ「困った事になりそうね」

坂本「・・・だが、根性は悪くないじゃないか」

ミーナ「ちょっと、美緒!」

坂本「なんだか宮藤に似ている気がしないか、ミーナ」

ミーナ「・・・そうかしらね」

坂本「そんな気がしただけだ」

ミーナ「ハァ・・・(これだから扶桑の人って・・・)」


◇ ◇ ◇


~ハンガー~

俺「出るぞっ!回せ!」

そのままの勢いでハンガーに突入すると、整備員達に怒鳴りつけた。
慌ただしく発進準備に入る整備員達。
俺も最低限の装備を身につけ、操縦席に飛び込んだ。

整備員「回します!」

ガルンッ

俺「回転数よし!」

整備員「チョーク良し!車輪止め外せ!」

俺「出るぞ!」

手早く離陸準備を済ませて、滑走路に躍り出た。
順調にエンジン回転数を上げて、重力の地縛から脱出する。

俺「行くぞ!」

目標、ピエトロ・ラ・クローチェ―――

距離、約150km―――

四式戦、今ぞ邁進す―――

―――後編に続く
最終更新:2013年01月28日 12:53