キ84 第三話「一緒に出来ること」後編
~501JFW基地北方上空~
アルミ合金の翼が大気を切り裂き、ハ45-42エンジンが吸気、圧縮、燃焼、排気を
繰り返し、哮ける。
エンジンが耐えうる限りの限界巡航速度で四式戦闘機を飛ばす。
ミーナ《ザザッ・・・こちらスペードのエース。
俺少尉、応答してください》
俺《・・・こちら俺です。
なんでしょうか、中佐?》
ミーナ《あなた、何をしているのか分かってるの?》
俺《上官命令無視、無断出撃、無許可離隊、軍の備品を強奪・・・
上官に対する不敬も付けますか?》
ミーナ《それがどういう意味か、知っているわね》
俺《良くてDS(不名誉除隊)、悪くてお空の上に配置換え、ってとこですか》
ミーナ《それでも戻る気は無いのかしら?》
俺《ありません、中佐。
あんだけ啖呵切っといて今更引けるほど人間が出来てなんですよ》
坂本《・・・ったく、仕方のない奴だ》
俺《坂本少佐?》
坂本《構わん、行け》
ミーナ《美緒!》
俺《いいんですか?》
坂本《いいからひと暴れしてこい!
ただし、絶対に無謀な事はするな》
俺《・・・了解!》
ミーナ《本当に無茶はしないでね、俺さん。
以上、交信終わり・・・ブッ》
俺も交信機を切ると、酸素吸入器を直してスロットルを握りしめた。
数m先に位置するエンジンの鼓動を確かめるように計器盤に手をやると、呟いた。
俺「頼むぜ・・・ハチヨン・・・」
そして疾風もそれに呼応するかのように過給器の低い唸りを上げた。
2200馬力の心臓がその合金の躰を震わせ、一人と一機はネウロイを目指して進む。
◇ ◇ ◇
~同時刻、ピエトロ・ラ・クローチェ付近フェラーラ邸~
バタンッ
ドアが弾かれたように開いて、箒を携えた三人の少女が戸口に見えた。
宮藤「アンナさん、大変です!
ネウロイがこっちに来ます!」
アンナ「今、あんた達の基地から連絡があったよ」
リーネ「誰か、出撃してくれたんですか?」
アンナ「・・・一人だけ、間に合うかもしれない奴が出撃したそうだ」
ペリーヌ「ひ、一人だけ・・・それじゃ・・・」
アンナ「このままじゃ、この家は諦めたほうがいいかもしれない、ね」
宮藤「ええっ、そんな・・・」
◇ ◇ ◇
ペリーヌ、リーネ、宮藤の三人がフェラーラ邸の裏手からネウロイの様子を伺っている。
キュシャァァァア
ネウロイから放たれたビームが海面を引き裂いた。
宮藤「まっすぐこっちに向かってきてる」
リーネ「このままじゃ島も橋も・・・」
ペリーヌ「―――確実にやられますわね」
アンナ「あんた達、なにしてるんだい
さっさと逃げるんだよ!」
宮藤「ここを見捨てるなんて出来ません!」
リーネ「家族が帰ってくるお家なんですよね」
アンナ「・・・・・・」
ペリーヌ「それに、この橋が無くなってしまったら、お孫さんたちが帰ってきたときの目印が無くなってしまいわすわ」
宮藤「私たちの仲間も今向ってるんです。
信じられる仲間が!」
アンナ「あ、あんた達・・・」
◇ ◇ ◇
宮藤「発進!」
宮藤の号令とともに、三人の魔女が納屋から飛び出すようにして空に舞い上がった。
ペリーヌ「私とリーネさんが編隊で攻撃、宮藤さんは援護して」
宮藤・リーネ「了解!」
ペリーヌは愛用のブレンMk.I軽機関銃のグリップをアサルトポジションに移動させるとネウロイに向かって突撃した。
ペリーヌ「攻撃開始!」
ギュァァァ
ネウロイが迎撃しようと三人にビームを撃つ。
だが身を捻ってかわすペリーヌ。
と、即座にブレンを構えて単連射を送り込むが殆ど効いていない。
バウッ!
すかさずリーネの対装甲ライフルから放たれた.55口径弾がネウロイの装甲を削った。
しかしこれも直ぐに再生を始めてしまう。
ペリーヌ「―――硬い!」
リーネ「もっと火力を上げないと破壊できないよ!」
《ザザッ―――火力ですか?十分ありますよ、曹長》
リーネ「―――え?」
急にインカムに宮藤のものでもペリーヌのものでもない声が飛び込んで来た。
そして同時に後方から雷鳴のような轟音が届く。
ゴァァァッ!
深緑の四式戦がペリーヌ達三人の魔女を追い越した。
俺《間に合ったー!
遅れてすみません、中尉》
ペリーヌ《増援って・・・貴方でしたの!》
俺《そうです。
ここは俺が抑えますから、中尉達は下がってください》
リーネ《そ、そんなの無茶ですよ、俺さん!》
宮藤《そうですよ、危険です!》
俺《大丈夫、何とかします。
それより早く民間人を!》
それだけ言い捨てると返事も待たずにネウロイ目がけて吶喊を掛けた。
ペリーヌ《ちょ、ちょっと!》
改めて眼前のネウロイを見つめる俺。
俺「で、でけぇ・・・」
そう、それは全幅で裕に50m近い巨大な黒禍の塊だった。
今まで仮想敵として想定して訓練してきた飛行盃などの小型のネウロイとは比べ物にならない巨大さを誇る。
初めて見る「規格外」のネウロイ。
そしてそれこそが「ストライクウィッチーズ」本来の敵。
俺「・・・でも今更引くわけにはいかねぇよな」
ギリと奥歯を噛みあわせると、左手のスロットルレバーを押し込んで出力を上げた。
過給器の回る甲高い音が耳に届き、一瞬遅れて機体を前に押し出す。
キュァァァァァ!
ネウロイが件の金切り声を上げてビームを発射すべく、体を赤く光らせた。
俺「んっ!」
下腹部に力を入れ、操縦桿を倒しつつラダーペダルを踏み込む。
機体のロールと横滑りが相まって、螺旋状の機動を取る。
キュンッ!
ネウロイの放ったビームを中心に、巻きこむように機体を回してかわした。
俺「今度はこっちの番だ」
視界の半分も塞ごうかという巨大な黒い影に光像式照準器の十字を重ねた。
じっくりと機体を安定させて、操縦桿に付いた引き金にかかった親指と人差し指を絞る。
ドドドドドドドドド!
機関砲弾がネウロイの表面装甲に着弾し、穴を穿った。
さっきリーネが撃ち込んだ.55弾よりも大きく装甲を削れている。
俺「・・・いける!」
その火力の有効性を確かめると、今度は二度目の攻撃を加えるべく機をひねってコースから離脱した。
宮藤《俺さん!援護します!》
後ろから宮藤達が援護射撃をネウロイに加え始めた。
俺「っ、下がってろって言っただろ・・・」
《中尉、宮藤軍曹達を下がらせて下さい》
ペリーヌ《ど、どうしてですの?》
俺《こいつは俺が落としますから!》
ペリーヌ《一人でなんて無茶ですわ!》
俺「んな事言ったって俺ぁウィッチを戦わせたくねぇんだよ・・・」
《とにかく大丈夫ですから、クロステルマン中尉達は下がっててください!》
そう無線機にがなり込むと、二度目の攻撃を掛けようと操縦桿を捻った。
同時に視線をもう一度ネウロイに向ける。
―――気を散らしすぎた。
既に赤く発光し、ビームの発射体制にに入った砲台が見える。
こっちを狙ってやがる。
そう気がついたときにはもう遅く、幾条かの光線が俺目がけて大気中を駆けてきた。
ほんの僅かなビームが到達するまでの一瞬、叩きつけるようにスロットルを前方に押しこんで機体を加速させた。
ヒュバッ!
ビームが僅かに尾翼をそれて空を捉える。
ついで、次々にネウロイの体表からさらなる追撃が襲い来る。
俺「ちくしょう!」
振り回されないようにしっかりと操縦桿を足で挟みこみ、上下左右へと機体を揺する。
強烈なGに首が振り回され、視界が振られた。
キュァァァァァ!
ネウロイが吠え、次々にビームを撃ち出す。
そしてそれをなんとか、ギリギリにかわしていく。
いや、ギリギリにしかかわせない、一切の余裕が無い。
ロールした側をビームがかすめ、キャノピーを通して禍々しい赤い光が操縦席を照らした。
俺「ぐ・・・」
その間にも宮藤達が援護射撃を掛けるが、ネウロイは俺を集中的に狙う。
まるでシールドが張れないことを分かっているかのように。
俺「まだ・・・ハァハァ・・・まだ、いける・・・」
度重なる苛烈な戦闘機動を繰り返したせいで、ろくに呼吸が出来ていない。
ぜいぜいと肺になんとか酸素を送り込んで意識を保とうとする。
だがネウロイは待ってはくれない。
キュシャァァァア
俺を責め立てるような金切り声を上げ、さらに追い打ちを掛けてきた。
辛うじて操縦桿を引き寄せ、機体を射線からずらした。
俺「ハァハァ・・・・・・・くっ・・・」
遠心力が体を座席に押し付け、肺を潰しにかかる。
体中の体液が足に下がり、視界が歪む。
体が言うことを聞かない。
視界が暗くなりかけ、手から力が抜けて操縦桿が滑り抜ける。
リーネ「俺さん、危ない!」
旋回が緩んで危険なほどネウロイの射線に近づいていた俺の機体の前にリーネが飛び込んできた。
そしてそのままシールドを展開してビームを受け止めた。
もしリーネが割り込んでいなかったら確実に俺を捉えていただろう。
リーネ「早く逃げてください!」
俺「うっ・・・ゼイゼイ・・・ああ・・・・・」
朦朧とする意識を掻き集めて操縦桿をなんとか引き寄せようとする。
だが、腕に力が入らずうまく出来なかった。
リーネ「俺・・・さん!早く・・・!」
獲物をいたぶっている時に邪魔されたのがえらく気に触ったのか、ネウロイが今度はリーネを執拗に狙う。
一、二、三・・・次々にビームがリーネのシールドに集約されていく。
宮藤「リーネちゃん!」
宮藤が援護射撃を行いながら前進する。
一方でペリーヌも敵の攻撃を引きつけようとネウロイに向かって幾度も突撃を仕掛けるも、効果は薄い。
俺「くぅ・・・ふんっ!」
辛うじて繋がっている意識の糸を手繰り寄せ、力いっぱい操縦桿を引いた。
機体がネウロイのキルゾーンから離れ始めた。
だが、時既に遅し。
キュァァ!
多数の攻撃に対処して飽和状態に陥ったリーネのシールドが間に合わず、ネウロイのビームがユニットを掠めた。
ドウッ!
リーネ「きゃぁ―――!」
スピットファイアがエーテル攪拌護符発生部にダメージを受け、それより下部が切断された。
断面から出血するようにオイルを撒き散らし、リーネもろとも海面に目がけて自由落下を始めた。
宮藤「リーネちゃぁぁぁん!」
リーネ「芳佳ちゃん!」
宮藤が必死に急降下してリーネに追いすがる。
俺「・・・畜生!」
ガンッ!
なんとか酸欠から回復した俺は悪態をついて操縦席のジュラルミン板を殴った。
俺「なんだこの様はっ!!」
少しでもウィッチを助けたい、少しでも少女たちを戦場から遠ざけたい、少しでも魔女の犠牲を少なくしたい。
そう志して俺はウィッチに代わることの出来るよう航空兵に志願したはずだった。
なのに、今や俺の事を庇ってウィッチが撃墜されようとしている。
本末転倒じゃないか。
だが、俺の力ではあのネウロイに太刀打ち出来ない。
例え鋼鉄の天馬に跨り、20mm口径の鉛の剣を振り回し、アルミ合金の鎧を纏おうとも所詮は人の子。
魔力の加護の無いただの男にはシールドは張れず、肉体強化の恩恵もなく、ネウロイの瘴気にも抵抗できず、ただただ己の無力さを思い知らせるのみである。
圧倒的な怪異の力の前にはまるで赤子のようにねじ伏せられるの関の山だ。
たかが飛行盃程度を撃墜して喜んでいた自分が浅ましく思える。
俺「頼む、彼女を助けてくれ・・・」
ただ操縦席で祈るしか無かった。
ドォン!
急降下していた宮藤が派手な水柱を立てた。
飛沫が晴れると、リーネを抱えて水面から上昇してくる宮藤が確認できた。
俺「・・・助かった・・・・・・」
宮藤の活躍でリーネは救助された。
だが依然敵は健在であり、こちらの戦力は減少した。
しかも攻撃の要であるリーネが飛行不能、俺も激しく体力を消耗しこれ以上の激しい戦闘機動は難しい。
総戦力四名中一名OOC(戦闘不能)。
単純に計算すれば25%の戦闘力を喪失したことになる。
もしも師団規模なら全滅と判断される数字だ。
みすみす眼前の敵を残して指を咥えて逃げ帰るしか無いのか―――
自分の力ではどうしようもないのか―――
「民間人の家一軒守れない」のか―――
自分が言い放った言葉が今更のように返ってくる。
出来ることいっそならここに残って死ぬまで戦いたい。
だがそれでウィッチに危険が及ぶなら、それは避けねばならない。
どうすればいいのか、どうしたらいいのか。
逡巡してる俺の脳内にある声が響いた。
『あたしたちはあたしたちに出来る最善のことをしてるだけさ』
以前、頑なにネウロイの撃墜に拘る俺に
シャーリーが掛けた一言。
それこそが必要な光明だった。
今ならシャーリーの言っていたことがよく分かる。
俺はウィッチ達を甘く見ていた。
確かに能力はあっても中身は少女に過ぎない、と。
だから俺が守ってやらないといけない、と。
だがそれは違った。
―――ただ『守りたい』。
その気持があるだけだ。
リーネは無茶をした俺を守ってくれた。
そして宮藤はそのリーネを守った。
自分が、今できる最善を尽くすだけ。
そこにはウィッチもパイロットも関係ない。
魔力があろうが無かろうが、それは最早問題ではない。
俺「・・・そういう事か」
すぅ、と胸いっぱいに息を吸った。
俺「俺達に出来ること、か」
《宮藤軍曹、ビショップ曹長は大丈夫ですか?》
宮藤《は、はい!ストライカーは壊れちゃいましたけど、怪我はありません》
リーネ《ごめんなさい、俺さん・・・》
俺《いいえ、謝るのは自分の方です。
申し訳ない》
ペリーヌ《あら・・・》
(最初に出撃した時とは随分と違いますのね・・・)
初出撃で長機を勤め、俺の無茶な行動を目の当たりにしていたペリーヌは変化を感じ取ったようだ。
ペリーヌ《・・・謝っても残念ながら状況はよくはなりませんわ》
リーネ《このままだとアンナさんのお家が!》
リーネの言うとおり、最早ネウロイは小島の眼前まで迫ろうかとしていた。
到達するまでにもう一度攻撃を掛けるのが限界だろうか。
宮藤《どうしよう・・・》
俺《中尉、よろしいですか?》
ペリーヌ《どうかしましたの、俺少尉?》
俺《自分に策があります》
ペリーヌ《策?》
俺《ええ、あのネウロイを倒す作戦です》
ペリーヌ《一体どうやって?》
俺《こいつの20mmを腹いっぱいご馳走して、デザートにビショップ曹長の狙撃でお引き取り願いましょう》
ペリーヌ《確かにそれなら装甲も破れてコアも攻撃出来ますわね。
でもシールドの無い貴方じゃ近づくこともできませんわ。
それに肝心のリーネさんも・・・
一体どうするつもりですの?》
俺《そこで中尉と宮藤軍曹の出番です。
宮藤軍曹には自分の正面に出てシールドを展開、防御に専念してもらいます。
これで俺も近づける、
中尉は宮藤軍曹の負担を軽減するために陽動攻撃を仕掛けてください》
ペリーヌ《なるほど、わかりましたわ。
でもリーネさんは?》
俺《ええ、それなら・・・宮藤軍曹、こっちに来て下さい》
呼ばれた宮藤がリーネを抱えて近づいてきた。
宮藤《はい?》
俺《ビショップ曹長を操縦席の後ろに下ろしてください》
宮藤《ええっ?!》
俺《大丈夫、機を安定させますからそっとお願いします》
宮藤《は、はい!》
リーネを脇の下から支える宮藤が少しずつ降下して、そろりとリーネを機体の上に乗せた。
丁度馬に跨る様に機体に座った。
宮藤「大丈夫、リーネちゃん?」
リーネ「う、うん、平気だよ芳佳ちゃん」
俺《これで二人とも接近できます》
ペリーヌ《また無茶なことを・・・
でも、確かにこれなら二人とも同時に宮藤さんが守れますわね。
いいですわ、やりましょう。
宮藤さん、リーネさん、よろしくて?》
宮藤・リーネ《はい!》
俺《それじゃぁお願いします中尉、曹長、軍曹》
ヴォォォォォ!
先ずペリーヌが先陣を切ってネウロイの懐に飛び込んだ。
やや非力ながらも優れた操舵性を誇るVG.39bisを華麗に操り、ネウロイの注意を引きつける。
続いて宮藤が前進する。
13mm機関銃を背に回し、両手でシールドを張って防御の体制を取る
ペリーヌ《今ですわ、俺少尉、リーネさん!》
俺《了解!》
リーネ《はい!》
スロットルを握った左手を徐々に奥に押し込む。
俺《大丈夫ですか、曹長?》
リーネ《平気ですよ、俺さん》
太さと曲面がちょうどいいのか、うまく機体に跨がれているようだ。
だが、この状態では急激な回避運動は取れない。
つまりたった一発のビームが命取りになる。
俺(大丈夫・・・宮藤を信じるんだ・・・)
自分に言い聞かせて、ネウロイとの距離を詰めていく。
その間にもペリーヌが果敢に敵に銃撃を加える。
ペリーヌ「あなたの相手はこちらでしてよ!」
バババ、バババババ!
銃撃が確実に命中するが、効果は薄い。
それでもネウロイは気になるのか数条の光線をペリーヌに向けて放つ。
だがペリーヌはロールを多用した滑らかな機動でそれを避ける。
一方宮藤も両の手でしっかりをシールドを張り、ビームを受け止める。
元来の魔力の高さからかなり大きなシールドだが、それでも油断は出来ない。
俺は少しずつ機を進めて宮藤の後ろやや上に付けた。
俺《ビショップ曹長、準備は?》
リーネ《いつでもいけます!》
ボーイズ対装甲ライフルを四式戦の厚さ70mmの防弾ガラス製キャノピーに預け、リーネが返答した。
俺《宮藤軍曹、合図をしたら避けてください!》
宮藤《はい!》
宮藤のシールドを通してネウロイの隙を窺う。
赤い光線が透き通る薄浅葱の魔道陣に屈折させられる様は、まじまじとウィッチの力を実感させる光景だ。
機銃トリガーに掛けた指が小刻みに揺れ動く。
リーネの持つボーイズの銃身が頭上に見える。
ことさら激しい攻撃の後、一瞬ピタリとビームが途絶えた。
俺《今だ!》
合図を聞き取った宮藤が体を下げた。
十分開いたスペースに狙いを付け、人差し指と親指を握りこんで機銃を発射する。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
さっきと同じように20mm機関砲弾は確実にネウロイの装甲を削り取っていく。
広範囲に弾がバラけてコア自体を射ぬくことは困難だが。
十分な連射の後、白い破片の中から一瞬禍々しい赤が覗いた。
俺《曹長!コアだ!》
リーネ《はい!》
バウッ!
リーネが引き金を引いたことにより、撃針が前進し薬室内の13.9×99mm弾を叩いた。
撃発された装薬は薬莢内部で急激なガスの膨張を引き起こし、その力が60gの弾頭を910mmある銃身内部へと進める。
ガス圧に後押しされた銃弾は銃身内部のライフリングに沿って回転することにより飛翔時の安定性を確保。
最終的に徹甲弾頭は747m/sという初速を獲得し、銃身を離れコアへ向けて一直線に突き進んだ。
狙い違わず見事コアに命中した銃弾は、その赤い18面体に軌跡の空洞を残し突き抜けた先の装甲に突き刺さって止まった。
徹甲弾により大きく質量を失ったコアは、最早その形を保つことは出来ず四散した。
コアを失ったネウロイはあっという間に白い破片へとその姿を変えた。
俺とウィッチ達はついにネウロイの撃破に成功した。
リーネ《やった!やったよ芳佳ちゃん!》
宮藤《リーネちゃん、スゴイよ!》
ペリーヌ《終わりましたわ・・・》
無事に役目を終えた宮藤がリーネを抱え上げて、互いに抱きしめあう。
ペリーヌも安堵したように銃を降ろした。
俺《戦果、超大型ネウロイ一機撃墜。こちらに損害はほぼありません。
任務完了、これより帰投します》
坂本《よくやったな、俺!》
俺《中尉、自分は一足先に帰投します》
ペリーヌ《ええ、わかりましたわ。
・・・それと、ありがとう》
俺《いえ、お礼を言うのは自分の方です。
今日は何か大事なことに気がついた気がします》
ペリーヌ《あら、何かしら?》
俺《ハハ、さてなんでしょうね?》
手を振りしばしの別れを告げるペリーヌに俺も疾風の翼を振って答えた。
その日は基地までの空がいやに青く感じた。
全く、こんなに気持ちがいい勝利は初めてだ。
◇ ◇ ◇
~501基地、夜~
坂本《坂本です、この度はお世話になりました》
アンナ《いやぁ、ぜーんぜん大変じゃなかったよ。
誰かさんと違って、ベッドで泣いてたりしなかったしねぇ、エッヘッヘッヘッヘ》
坂本(クソババア・・・)
《私は泣いてませんよ!アハハハハ!》
アンナ《ま、とにかくアレだね。
なかなか見込みがあるよ、あの子たちは》
坂本《フッ、私もそう思います》
アンナ《それから、もう一つ。あれはあんたんとこのパイロットかい?》
坂本《ええ、まぁ。もしかしてなにかやらかしましたか?》
アンナ《いいや。ただ昔の知り合いにそっくりな飛び方でね。
あいつはこの先化けるよ、断言してもいい》
坂本《はぁ・・・》
最終更新:2013年01月28日 12:53